■スポンサードリンク


(短編集)

犯罪カレンダー(1月~6月)



新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!

犯罪カレンダー(1月~6月)の評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

■スポンサードリンク


サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

四季折々の犯罪

クイーン版ミステリ歳時記ともいうべき短編集。本書は1~6月までの事件が収録されている。

まず先鋒を切るのは「双面神クラブの秘密」。
ミッシングリンク物でミステリの興趣をそそる内容。即ち秘密クラブのメンバーの各人に共通する鍵があるというものだが、これを解き明かすのは日本人には辛いものがある。しかし知的パズルゲームとして純粋に面白い作品だ。

次の「大統領の5セント貨」は収集家がエラリイの許へと集まる奇妙な幕開けから始まる。
これも非常にアクロバティックな論理展開が面白い作品だが、推理の鍵となるのがやはりアメリカの歴史とジョージ・ワシントンの性癖という日本人には解りにくい鍵だったのが残念。

3月は「マイケル・マグーンの凶月」だ。
事件の真相よりもこの作品には当時アメリカミステリシーンで台頭していたハードボイルドを揶揄する表現が多々出ているのが読みどころ。
チャンドラーしかり『マルタの鷹』しかり。
マイケル・マグーンは彼らが描く私立探偵の流れに沿う人物として書かれているが、ダサい服装に冴えない風貌と、読者の幻想を打ち砕く容貌である。そして彼がエラリイ・クイーンの許へ事件解決の依頼に来るという展開はハードボイルド探偵ではパズラーは解けないとあからさまに云っているように思えた。

次の「皇帝のダイス」は最後に至ってなるほど、4月の物語だと思わせさせられる。
これは最後の一行の為の作品。
恐らくカーが得意とするオカルト趣味的本格ミステリを目指した作者がこの頃ミステリシーンを席巻していたハードボイルド小説におけるリアリティについて最後の最後で意識が芽生え、このような結末になったのではないかと勘ぐってしまう。

5月の最終月曜日は南北戦争の戦没将兵記念日。従ってそれに関係する「ゲティスバーグのラッパ」がこの月のお話。
クリスティの『ABC殺人事件』から着想を得たのではないかと思われる作品。
アトウェル(A)、ビゲロー(B)、チェイス(C)の3人の関係は南北戦争の生き残り。そして彼らには隠した財宝があり、最後の生き残りがその全てを手に入れることが出来る。最初に死んだのはA、次に死んだのはC、最後に死んだのはBとこの順序がエラリイの推理の鍵になるのだが、ここではさらに捻りが加えられている。
作品の雰囲気、最後のロジックはなんだかチェスタトンを思い起こさせる。

6月といえば梅雨を思い浮かべるが、それは日本だけの話。西洋ではそんな陰鬱なイメージではなく、華やかなイベントがある。ジューン・ブライド。本書最後を飾る「くすり指の秘密」は結婚に纏わる悲劇が語られる。
シンプル・イズ・ベスト。
たった一言、しかも正に誰もが気付いたであろうある事実が見えない犯人の靄を晴らすロジックの冴え亘る作品。


クイーンのいるところ犯罪有り。本書は1年を通じてその月に起きた事件を綴った短編集。各編はその月の出来事に関連している。

1月の「双面神クラブの秘密」は大学の年次会が行われる1月1日(これはアメリカの大学ならば通例なのかは判らないが)。
2月の「大統領の5セント貨」はワシントンの誕生日があることからワシントンに纏わるお話が。
3月の「マイケル・マグーンの凶月」は確定申告の〆切で申告書を盗まれた探偵の依頼が。
4月の「皇帝のダイス」は最後の最後でその基となるあるイベントが明らかにされる。
そして5月の「ゲティスバーグのラッパ」は南北戦争の戦没将兵記念日、6月の「くすり指の秘密」はジューン・ブライダル、といった具合だ。

月ごとの特色が十分にプロットに活用されているかといえばそうとは云えない。寧ろ各月の記念日や祝日、そして由来をアイデアのヒントに物語と綴ったという色が濃い。プロットと有機的に組み合わさっているのは「皇帝のダイス」ぐらいか。

しかしなんといっても本書ではクイーン初期のロジック重視のパズラーの面白さが味わえるのが最大の読みどころ。それぞれ50~60ページという分量で語られるそれぞれの事件は無駄がなく、作品もロジックに特化された内容で引き締まっている。

さらにニッキイ・ポーターとエラリイのコンビが楽しめるのが一番の読みどころ。シリーズのコメディエンヌとも云えるニッキイとエラリイのやり取りは読書の絶妙なスパイスとなってクイクイ読まされてしまう。

しかしニッキイはどうやら短編のみの助手らしい。長編でも出てくれればいいのだが、後期クイーンシリーズのシリアスさには合わないのかもしれない。ニッキイのお陰で短編は実に明るい雰囲気で読める。

後期クイーンの探偵の存在意義が触れられるのは最後の「くすり指の秘密」ぐらいか。この作品はロジックの美しさといい、この結末といい、個人的ベストだ。

次点ではチェスタトン風の雰囲気とクリスティ的論理が融合した「ゲティスバーグのラッパ」を上げる。

他に緻密なエラリイのロジックを楽しめるのは「大統領の5セント貨」だが、これは数学の公式を解くような精緻さとあまり日本人に馴染みのないアメリカ初代大統領のエピソードが鍵となっているので、純粋にそのロジックの美しさを楽しめないのが玉に瑕。

ここに収められた6編にはクイーンとしか云えないロジック重視の作品もありつつ、カーを髣髴させるオカルト趣味的な作品に、隔絶された社会での事件というチェスタトン的な独特な雰囲気の物、さらにクリスティ的な論理の妙を楽しめる作品とヴァリエーションに富んでいるように感じた。

これは1945年に創立されたアメリカ探偵作家クラブがクイーンの作品に影響を与えているように思う。今までダネイとリー2人のアイデアで作られていた作品に、クラブの創設で他の作家との交流が深まり、お互い刺激しあうことでアイデアの幅が広がり、作風にも他作家の影響が出てきたのではないだろうか?
奥付を見ると収録作が発表されたのは1946年以降だからこの推察はあながち間違いではないだろう。

しかしクイーンは短編でも面白い。「くすり指の秘密」クラスの作品があと2作収録されていれば文句なし星10を進呈しただろう。
残りの7月~12月の作品が愉しみだ。


▼以下、ネタバレ感想

※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[]ログインはこちら

Tetchy
WHOKS60S

スポンサードリンク

  



新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!