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原始の骨



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【この小説が収録されている参考書籍】
原始の骨(ハヤカワ・ミステリ文庫)

原始の骨の評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
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全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

知識がリニューアルされる

今回は考古学の世界によくある事件(捏造)をテーマにした構成になっている。これは作中でも語られている実際の事件―ピルトダウン人事件―がモチーフになっているのだろう。

毎回新たな知識を提供してくれるこのシリーズだが、本書でもビックリするような話が続出する。その中でも最たるものはネアンデルタール人が90年代のDNA鑑定によって今の人類の祖先ではなかったということだろう。
私が高校生の時はクロマニョン人から一連の進化のプロセスに盛り込まれていた既成事実が最近の科学では全くひっくり返されてきている。特に恐竜に関しては私たちが子供の頃図鑑で見たそれと現代のそれらは全く趣きが異なっている。つまり考古学は今なお発展途上にあるということだ。
そして我々も子供の頃の知識のままでいるといつの間にか狂言回しのように見られてしまう。知識はやはりこのような書物を読むことでリニューアルされていかなければならないのだ。

さらにギデオンがこの講演会で開陳する知識とは人が二足歩行をするという進化のために出た弊害というもの。四足歩行よりも心臓の位置が高くなったため、静脈瘤が起きやすくなった、十分に足が進化しないうちに二足歩行に移った為、扁平足が生まれた、云々。
中でも最も蒙が啓かれる思いがしたのは直立する事で骨盤が狭まり、逆に頭蓋が発達した事で出産が困難になったということだ。21世紀になってもまだこのような人間の進化に歴史を探る事で新たな知見が得られる。確かに考古学は刺激的だ。

また旅行ガイド的な側面もこのシリーズの特徴で、例えばジブラルタルの空港の滑走路は町の幹線道路と交差しており、時たま車がエンストして飛行機が降りられなくなるなんていう珍事も本書を読まなければ知りえぬエピソードであっただろう。

しかし他方で本来ミステリとして添え物であるべきこれらの情報がシリーズを重ねる事で際立ち、逆に主題である殺人事件の発生が遅くなっているのもこのシリーズの悪い特徴であると云われ、それは間違いではない。
本書ではギデオンの殺人未遂的な事件は早めに起きるものの、殺人事件は174ページでようやく起きる。404ページに物語の最後が書かれているから、おおよそ約半分のあたりである。これはやはり遅すぎるといわざるを得ないだろう。

しかし今回は薄れつつあったミステリ的趣向が改めて見直されるような緻密な伏線に満ちた構成になっている。
前回の『密林の骨』でもアマゾン河という特異な場所を活かしたあるトリックが使われていたが、これはクイズの類いに過ぎず、児戯に等しい物であったから、本書における物語に散りばめられた風景描写と観光ガイド的土地情報が最後のある1つの単語に収斂していくことを考えると実に味わい深いものがある。

今回は実は事件自体が曖昧でミステリ興味が湧かなかったが、最後になってみると、この何かはっきりとはしないが確実に事件は起きている空気の中で見事もやもやとしていた雰囲気が一気に晴れていく妙味はセイヤーズの作品に通じる物があると感じた。

しかし今回はレギュラーメンバーのFBI捜査官ジョン・ロウが出なかったのが物語としての面白みを半減させていると思う。声を出して笑ってしまうほどのウィットがなかったし、ジョンの存在こそがエルキンズのウィットを最大限に引き出すファクターだから、やはり彼の欠場は痛い。
2009年の9月に本国で発表された次作にはジョンが出ていることを大いに期待したい。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S

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