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死への祈り



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死への祈りの評価: 7.00/10点 レビュー 2件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全2件 1~2 1/1ページ
No.2:
(7pt)

原点回帰であるが昔のようではないマットがいる

今回マットが対処する事件は強盗による弁護士夫婦殺害事件。強盗が入っている間に家主が帰って来て強盗によって殺される。
これはもう1つのブロックのシリーズ、泥棒探偵バーニイ・ローデンバーがしばしば巻き込まれるシチュエーションだが、その場合は軽妙なトーンで物語が進むのに対し、マット・スカダーシリーズでは実に陰惨な様子が淡々と語られ、恐怖が深々と心に下りてくるような寒気を覚える思いがする。この書き分けこそがブロックの作家としての技の冴えだ。

今回はマットとTJの機転で警察組織を巻き込んで大規模捜査網が敷かれる。かつて個人が巨大な悪に立ち向かうためにミック・バルーと云う悪の力を借りて対峙したマットだったが、前作でミックの組織は瓦解し、彼を残すのみとなった。
今回総勢12人も殺害したシリアル・キラーと立ち向かうために組んだ相手が警察組織だったことは元警官であったマットにとって自分の立ち位置が原点に戻ったように思える。

原点回帰と云えばシリーズも15作目になって、マットは更なる過去へ対峙する。それはシリーズが既に始まった時から離縁関係にあった元妻アニタと彼の息子マイケルとアンドリューとの再会である。

既に2人の息子は成人となって働いている。齢62となったマットの元妻アニタが心臓発作で亡くなったことを息子の電話で知らされる。
決してシリーズに大きな影響を与えていたわけではない、元家族との意外な形での再会はしかしスカダーにとってもはや遠い日の追憶でしかないことを悟る。
2人の息子の内、次男のアンディは危うい橋を渡るような生活を送っている。長男のマイケルにたびたび無心をしては職を転々とし、そして今回もまた会社の金を横領した廉で警察に突き出されそうになっている。それはかつて警官と云う職に就きながら、心に傷を負うミスを犯して身持ちを崩してしまったマット自身の姿とどこか重なる部分がある。彼も元父親としてアンディに横領金の肩代わりを半分担い、その金でアンディは事を免れるが、マット自身も云っているようにそれが最後になるとは思えない。アンディの厄介事はこれからも続きそうだ。

敢えて証拠を残して警察や探偵に誤った方向へ捜査を導く。証拠から導かれるロジックが完璧であればあるほどそれを信じて疑わなくなる。
これはエラリイ・クイーンが抱えた“後期クイーン問題”から連綿と続くテーマである。現代のシャーロック・ホームズと云われているジェフリー・ディーヴァーのリンカーン・ライムシリーズでも既にこの問題に直面し、ますます捜査の難度と物語の構造の複雑さは増してきている。
まさかこのシリーズでこのようなテーマに出くわすとは思わなかったが、長らくミステリを書いていると作家はこの問題に直面する運命にあるのだろうか?

さて私がこのシリーズを読み始めて足掛け2年4ヶ月の付き合いになる。既に本書までは既刊だったため、シリーズを1作目から本書に至るまで通して読むことが出来たが、この2年4ヶ月という凝縮された期間であっても本書を読むにここまで来たかと感慨深いものを感じるのだから、シリーズを1作目から、もしくは有名な“倒錯三部作”からリアルタイムで読み始めた人々のその思いはひとしおではないだろうか。

本書で語られているように、マットが断酒してから18年の歳月が流れ、作中での年齢は62歳と既に還暦を超えてしまっている。

しかしマットは登場当初の、人生に打ちひしがれた元警官の無免許探偵という社会的には底辺に位置する人々の一員であったが、15作目の本書では元娼婦の妻エレインが蓄財した不動産収入でニューヨークでマンション暮らしをし、安定した生活に加え、エレインが趣味で始めた画廊からの収入もあり、マットは探偵業を気が向いた時に営むといった、人が羨むような生活を送っている。
もはやホテルの仮住まいで定職に就かず、毎日アームストロングの店に入り浸ってアルコールを飲み、時折訪れる人のために便宜を図るように幾許かの金で人捜しや警察が扱わない事件の掘り返しを請け負い、依頼金の1割を教会に寄付して過去の疵を癒す慰みにしている、人生の負け犬のような彼の姿はもはやそこにはない。陰の暮らしから日の当たる世界へ出たマットの姿をどう捉えるかは読者次第なのだろう。

ただマットの生活も変われば彼の捜査方法も変わったのも確かだ。TJにパソコンを与えてから人捜しも市井の人々の間を逍遥することで不意に得られる奇妙な縁から全てが繋がっていく、そんなマットならではの方法ではなく、インターネットによってアーデン・ブリルという本名か偽名かも解らぬ名前を手掛かりに犯人を特定していくようになる。

そして犯人もまた闇サイトでの評判を愉しみにするサイコパスと、現代的な犯人像なのも特徴的だ。いや“倒錯三部作”から既に時代に添った犯人像をこのシリーズは描いていたと云えるので、これは本書での変換点ではない。

ともあれマットが裕福になり、エレインとの夫婦生活が充実していくにつれて、このシリーズ特有の大切なペシミズムやムードが失われていくような気がするのは私だけだろうか。

相変わらず読ませる物語であることは認めよう。
しかし上に書いたようにかつて読んでいたようには私の中に下りてくる叙情性といったような物が薄れているのは確かだ。
しかしそれでも私はいいと思う。エレイン、TJ、ミックと彼を慕う人々の中でマットが事件と対面していくのもやはりこのシリーズの特徴であるからだ。

さて次の『すべては死にゆく』は未だ文庫化されていない。このシリーズ全作読破のために一刻も早い文庫化を望む。
しかしブロックの新作は文庫で出ているのになぜこの作品だけ文庫化されないのだろうか?気になって仕方がない。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

「処刑宣告」は難しかったですが

こちらの方が読みやすかったですね。
ミステリーとしても、分かりやすいし、人さまにも勧めやすい?かもしれません。
ローレンスブロック氏の小説は二作目ですが、これからも続けて読んでいきたいですね。


ももか
3UKDKR1P

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