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写楽 閉じた国の幻



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写楽 閉じた国の幻の評価: 7.33/10点 レビュー 6件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.33pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全2件 1~2 1/1ページ
No.2:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

江戸編の素晴らしさと現代編のちぐはぐさの落差が…

島田荘司氏が今まで数多の研究家や作家がテーマに取り上げた写楽の正体の謎に挑んだ意欲作。構想20年の悲願が結実したのが本書。
本書は島田氏の検証に基づく写楽の正体が述べられており、必ずしもそれが正解だとは云い切れないが、本書の感想は通常のミステリのように推理と物証を重ねて辿り着いた真相という形で断定的に語らせていただく。

物語は現代編と江戸編が交互に語られる。
しかしとにかく本編に行くまでが長い!冒頭の現代編で語られるのは東大卒で某会社の社長令嬢と結婚しながらも美術大学の教授から美術館の学芸員、そして塾の講師へと転落の人生を送っている在野の浮世絵研究家の話が延々と語られる。

その話には一時期社会問題となった回転ドア挟まれ事件のエピソードを絡めた浮世絵研究家の、不幸と云う負の螺旋に絡め取られた人生の構図が描かれている。

六本木ヒルズをモデルにした六本木ガーデンという複合施設の茂木タワーの回転ドアで最愛の一人息子を挟まれ事故で亡くし、それによる家庭の崩壊、延々と語られる日本の回転ドアの危険性などおよそ写楽の謎から程遠い話題に終始する(まあ、これは後の写楽考へのキーワード的役割を果たすのだが)。

更には回転ドアの危険性を研究する団体に所属するモデルのような東大の工学美人教授の登場と、果たしてこの物語の方向はいずこにあるのだろうかと考え込むことしばしばだった。

そんな回り道をしながらモデル美人風の東大工学教授と人生のどん底まで落ち込んだ在野の浮世絵研究家が問答を繰り返し、写楽の謎に迫る。
物語性を重視したのか、写楽の謎の本質に迫るまでの枝葉が長く、ぽつりぽつりと新たな見解が展開される。それは専門家が自らの知識を語っていく中で門外漢が自然に抱く疑問が新たな謎解明への扉を開くという構成になっている。

そして江戸編では現代編の論考を裏付けるような蔦屋重三郎と写楽との邂逅の話が語られる。
これが実に写実的で素晴らしい。江戸っ子のちゃきちゃきの江戸弁で繰り広げられる物語は実に映像的で、また生活臭さえ感じられ、眼前に当時の江戸が浮かび上がるようだ。まさに活写されている。
ここは物語作家島田氏のまさに独壇場。実に面白く、色鮮やかだ。

さて東洲斎写楽の正体というのはイギリスの切り裂きジャックと並んで歴史のミステリとして名高い。それはたった10ヶ月で140点もの作品を残し、一世を風靡して姿を消したこの人気絵師について詳細に語られた記録が遺されていないためだからだ。

私は写楽に纏わる作品は本書以外には泡坂妻夫氏の『写楽百面相』しか読んだことがないので、ほとんど門外漢なのだが、数多ある写楽の正体を探った作品や探究書の中でも本書が特徴的だと思われるのは、なぜこれほどまでに記録が遺されなかったのかに着眼している点だと思う。記録そのものに書かれた文章の行間を読み解くのが専らであるこのような研究に対してまずその背景からアプローチしていったのが斬新だったのではないか。

以前私は本格ミステリの巨匠と称されながらも、新本格ミステリ作者たちが求道的に本格ミステリの可能性を深く掘り下げていくのに対し、島田氏は外に目を向け、本格ミステリの可能性を広げていっていると感想に書いたことがあるが、まさに本書はそれだ。

さてミステリ作家が歴史上の謎に挑む。これには高木彬光氏や松本清張氏といった偉大な先達が試み、しかも日本ミステリ史に残る偉業として今も讃えられている。
つまり島田氏自身もミステリ作家ならば一度は自身の推理力を歴史上の謎に発揮し、一つ世に問う衝撃作として著すべきだと考えていたのだろう。
そこで島田氏が選んだ題材が東洲斎写楽の正体という云わば使い古された謎だ。しかしそんなテーマでありながら島田氏は新たな解釈を打ち出し、この平成の世に響く作品を物にした。

そして島田氏は忠実に偉大なるミステリ作家の先達の道程を辿っている。それは自分が彼らに比肩しようと切磋琢磨していることもあろうが、それよりも後続の作家たちに日本本格ミステリの伝統を継承するための創作活動のように思えてならない。

本書が写楽の正体への決定打となるとは断言できないだろう。
しかし少なくとも島田氏は偉大なる先達と肩を並べたと断言できる。

本書は2011年度版の『このミス』で2位という高評価で迎えられた。
その期待値が高かったのか、私は写楽の正体の謎へ迫る面白さがそれを小説とするための在野の研究家佐藤貞三が写楽の正体を探るまでのサイドストーリーがまだるっこしくて半減してしまった感がある。転落するばかりの人生の男の愚痴が長々と続く件は、本書は本当に『このミス』2位の作品か?と思ったりもした。
写楽の正体が斬新だっただけに勿体ない思いが強い。しかし本書はそれも含めて島田氏の特徴が色濃く表れた作品だろう。
齢60を超えてますます意気盛んな島田氏。今後の活躍が楽しみだ。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.1:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ボリュームある本書だが一気読みさせられる歴史ミステリ

写楽の正体を独自解釈で様々な資料から推理していく過程が面白い。
あまり触れた事のない浮世絵の知識も新鮮で楽しめした。

Ariroba78
5M53WTS6

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