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マリオネットK さんのレビュー一覧

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レビュー数347

全347件 41~60 3/18ページ

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No.307: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)
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警察小説というよりほとんどヤクザ小説

昭和から平成に移り変わろうとしている時代の広島を舞台に、暴力団同士の抗争と、全面戦争を阻止すべく奔走する警察の姿を描いた作品。

警察小説というよりはヤクザ小説です。
それは警察の話よりもヤクザ絡みの話の方が多いから……ではなく、物語の中心となる刑事の大上がほとんどヤクザだからです(笑)
それも単に口調や態度がヤクザ顔負けというだけでなく、実際に懇意にしているヤクザが多数いて情報はもちろん上前まで貰っていたり、目的のためには手段を選ばず違法捜査のオンパレード、彼の行為が公になったら懲戒免職どころか実刑を食らうレベルです。そんな大上は比喩や誇張抜きに、警察組織に籍を置いているという形の一種のヤクザと言うべきでしょう。

ただそんな大上の型破りの行動やキャラクターが非常に魅力的な作品でした。
大上はヤクザはヤクザでも、筋が通って情の深い「いいヤクザ」です。
(もちろん現実のヤクザにはいいも悪いもありませんが、極道映画と同じくこれはあくまでフィクションですので。
現実世界にそれこそ、大上のように筋が通っていない警察に籍を置いているヤクザも多数いるかもしれないですね……)


▼以下、ネタバレ感想
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孤狼の血 (角川文庫)
柚月裕子孤狼の血 についてのレビュー
No.306:
(8pt)

シンプルながら完成度の高い一作

幻想的な童話と血塗られた犯罪……一見相反するこの2つがどう関わるのか。
まさに題名通りの一作です。

作中冒頭で発生した殺人事件を主人公の刑事が捜査し、解決までが描かれるという内容の、物語の構成はいたってシンプルであり、結末も特別大きなどんでん返しがあるわけでもない作品ですが、それだけにごまかしの利かないものを見事にまとめた完成度の高い一作と感じました。
もう古典の域に入るかと思いますが、本格推理小説のお手本となる、本格ファンを名乗るなら必読の作品の一つと言って良いと思います。

余談ですが私の手に入れた新装版は表紙が大人しいのが残念です。
怖い女の子が表紙のやつが欲しかった(笑)

▼以下、ネタバレ感想
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危険な童話 (角川文庫 緑 406-3)
土屋隆夫危険な童話 についてのレビュー
No.305: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

禁忌を孕むものに今も昔も人は惹かれてしまう

戦後の推理小説の大家・高木彬光のデビュー作にして、日本三大名探偵の一人・神津恭介の初登場作。
背中に妖艶な刺青を背負った美女が密室でバラバラ死体となり発見され、しかしその死体は刺青の彫られた胴体部分が消失していた。
そしてそれに触発されるかのように、第二、第三の殺人が……
という、エログロ要素や怪奇趣味を織り交ぜながらも多くのトリックが用いられたバリバリの本格推理小説。

発表当時はまさに日本は終戦直後であり、作中でもその時代の日本の空気を感じさせられる一冊ですが、70年前の作品でありながら文章に古臭さは感じず、非常に読みやすいです。
また”刺青”という禁忌の中に美しさを持つ、当時から今日に至るまで日本人にとっては拒絶を覚えながらも一方でどこか惹かれてしまう、そんな題材が魅力的なストーリーを生んでいました。
そしてそれは”殺人”という最大の禁忌を題材にした本格ミステリというジャンルを今日まで愛好する人間が多くいることにも共通する点かもしれません。

本格ミステリ部分に関しては、現在の複雑化・洗練された作品を多く読んでしまっている読者からすると粗や物足りなさを感じる面が多々あるかもしれませんが、戦後の日本の本格ミステリをリードし後世に多くの影響を与えた作品なのは間違いないでしょう。
何より、個人的には謎解きよりも世界観と題材に惹かれ、評価したいと感じた作品です。


▼以下、ネタバレ感想
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刺青殺人事件 新装版 (光文社文庫)
高木彬光刺青殺人事件 についてのレビュー
No.304:
(3pt)

途中までは良くも悪くも優等生的な作品と思いましたが……

微かな手がかりを辿って刑事が執念の個人捜査で殺人事件の真相を追っていく……というミステリの定番パターンを扱った作品。
もう約60年前の作品となりますが文章は綺麗で読みやすいです。
途中までこの作品を読んでいた時の感想は、良くも悪くも優等生的な教科書に載るような話と感じていました。
なので「完成度は高いと思うけれど、単純にあまり面白くない」とでもコメントすることになりそうだなぁ、と思いながら読んでいたのですが、終盤で悪い意味でいろいろツッコみたくなるような展開、真相の連続で、終わって見れば完成度も高いと思わなければ、無駄に長くて退屈な作品としか思えませんでした。

ミステリとしては個人的には駄作と言いたいですが、それ以外の部分で面白いと感じたのが、作中に登場する既存の芸術の形態・格式に真っ向から対立する若い芸術家団体”ヌーボー・グループ”のメンバーが今生きていればもう80代のおじいさんたちにあたる年代だということ。
結局何時の時代も、若者たちは上の世代に反発し新しい風を吹かせようとして、そして自分たちが軽蔑していたような年寄りになっていくんだなぁ、と思ってしまいました。
その対比なのかはわかりませんが、ベテラン刑事の今西と若い刑事の吉村のコンビは大きく世代が離れていながら、常にお互いに対する敬意を持った二人であり、本当に器の大きい優れた人間とは、自分と異なる世代に対するリスペクトを持てるものなのだと感じる所がありました。


▼以下、ネタバレ感想
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砂の器〈上〉 (新潮文庫)
松本清張砂の器 についてのレビュー
No.303: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

10年は時代を先取りしていたIT犯罪小説の名作

作中で時代を分けて発生する2つの誘拐事件が、物語の主軸となるミステリです。
そして2つ目の誘拐事件の犯人は、他ならぬ最初の誘拐事件でさらわれた子供であり、今度はかつて自分が誘拐された事件の犯人たちへの復讐の意味を込め、完璧な計画の元、犯罪を実行するという内容です。
最初の誘拐事件では被害者の視点、二つ目の誘拐事件では犯人の視点で物語が進行する形になりますが、個人的に誘拐ミステリは犯人視点の倒叙形式の方がずっと好みですね。

そしてこの作品のもう一つの大きな特徴として、犯人は優れたIT技術者であり、その知識と技術を最大限活かして、当時の最先端と言うべきIT犯罪を行います。
この作品が発表されたのは30年前になり、作中で「パソコンっていうとデパートで売っているような奴ですか?」なんて台詞が出てくるほど、一般にITの知識は浸透していない時代背景です。今では当たり前に使われている用語にもいちいち説明を入れなければいけないような有様で、流石に「古臭さを感じさせない」とは言えないです。今読むとバリバリに時代を感じてしまいます。
しかしそれは実際30年前の作品で、この30年でIT分野は目覚しい発展を遂げたのだからそれは責めることはできないでしょう。
むしろ当時としては間違いなく10年は時代を先取りしていた小説であり、リアルタイムで読んでいた人はさぞ驚き、感心した内容だと思います。
(もし私がリアルタイムでこの作品を読むような世代だったら、もっと高得点をつけていたのではないかと思います)

▼以下、ネタバレ感想
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99%の誘拐 (講談社文庫)
岡嶋二人99%の誘拐 についてのレビュー
No.302: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

動物が酷い目にあう話は嫌いだって言ったじゃないですか!

最初に”この映画の製作において動物への危害は加えられていません”という注意書きがありますが、実際には犬猫を遊びで殺すクズどもが登場する作品です。
この作品で一番重要な部分は本来そこじゃないんでしょうが、自分のような、作り話の中で人間は何人死のうとかまわないけど、犬や猫が殺されるのは作り話の中でも嫌だという人は要注意です。
私は途中から話の本筋よりも、「この遊びで犬猫を殺している奴らが出来るだけ酷い死に方で死にますように」と祈りながら読んでしまいました。
その点抜きにしても最初はユーモラスな雰囲気の話かと思いきやどんどん重い結末に向かっていき、あんまり読んでいて楽しい作品ではありませんでしたね。

途中までは「これはミステリなのか?」と思いながら読んでいましたが、真相部分に触れると、それまで多くの伏線が張られていたことがわかり、その点は関心しました。



▼以下、ネタバレ感想
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アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)
伊坂幸太郎アヒルと鴨のコインロッカー についてのレビュー
No.301: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

御手洗潔という男がよくわかる一冊

『御手洗潔シリーズ』の短編シリーズ第一弾。
四作いずれも短編でありながらそれぞれにトリックとドラマ、そして御手洗潔の魅力的な活躍が用意されており、実際のページ数以上のボリュームを感じる内容の濃い短編集です。

これを読めばとりあえず御手洗潔という男が如何に個性的で魅力的かということがわかる、まさに御手洗潔からの”挨拶”と言える一冊ですね。


以下個別ネタバレ感想です。

▼以下、ネタバレ感想
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御手洗潔の挨拶 (講談社文庫)
島田荘司御手洗潔の挨拶 についてのレビュー
No.300: 6人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

『十角館』と双璧をなす、『館シリーズ』の代表作

世間一般の評価でも私個人の評価でも、『十角館の殺人』と並ぶ、シリーズの最高傑作でしょうか。
単純なインパクトや新本格ブームへの貢献度などといった面では十角館より落ちるものの、作品の完成度やドラマ性という面ではこちらが遥かに優れていると言っていいでしょう。

この度10年ぶり、3度目ぐらいの読み直しをしましたが、細部の伏線や説明がしっかりしている作品ということを再認識し、メイントリックそのものはトンデモですが非常に整合性が取れてかつ、フェアな作品に仕上がっていると感じました。

また、108個の時計が時を刻む”時計館”を舞台に、仮面の殺人鬼が出没し、中に閉じ込められたメンバーを次々と殺害していく描写・展開に非常に緊迫感があり、本格ミステリ作品だけでなく、ホラー・サスペンス作品も数多く手がける綾辻氏でありますが、彼の作品の中でホラー・サスペンス作品という観点で見てもこれが№1なのではと思ってしまいます。

あまり魅力がない探偵と言われがちな島田も、この作品あたりから段々キャラクターの一人歩きが見られるように感じますね。

新装改訂版では上下巻に分かれるなど少しボリュームのある作品ですが、読みやすく展開も終始ダレることがないので初心者にもおススメできる一作だと思います。
(最低、先に『十角館』『迷路館』は読んでから読むべきでしょうが)

▼以下、ネタバレ感想
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時計館の殺人<新装改訂版>(上) (講談社文庫)
綾辻行人時計館の殺人 についてのレビュー
No.299: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

B級スプラッタホラー映画の小説版かと思いきや……?

とあるホラー作家が私費をもって作り上げた迷路のような巨大な庭園。最初からあえて荒廃的な雰囲気を持って作られたその”廃墟庭園”は製作者であるホラー作家の失踪により、正真正銘の”廃園”となるが、その後もそこに興味本位で入り込んだものが死体となって発見される事件が起こり、そこには謎の”怪人”が巣食っているなどと不穏な噂が流れるようになった……
その”廃園”をこれ以上ないホラー作品の撮影舞台とし、乗り込んだ映画会社のスタッフ一同は、”廃園”へと足を踏み入れるが、そこに出現した怪人物の手にかかり、一人、また一人と惨殺されていく……

そんなありふれたスプラッタB級ホラー映画のような内容を小説化したかのような作品ですが、そこは本格ミステリ作家でもある三津田氏の作品だけあり、それだけで終わらず、真相はしっかり本格ミステリしている作品です。
綾辻氏の『殺人鬼』と同系等の作品と言えるかもしれません。

人物の殺戮描写が入念でグロいですが、それはまぁあらゆる面で事前に予想できる作品なので、苦手な人は最初から避けるべきで、読んでから文句を言うようなものではないでしょう。
三津田氏の作品はもはや衒学趣味とすら言えない、作者の好きなホラー映画の知識の羅列に辟易されることが多く、この作品もその例に漏れないのですが、まぁこの話の場合、内容が内容なので許容範囲でしょうか。

総括するとB級ホラーにB級ミステリが組み合わさった作品という感想で、特別優れた作品とは思いませんが、単純に娯楽作品としてはそこそこ面白く、真相もひとひねりしてあって良かったと感じました。

▼以下、ネタバレ感想
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スラッシャー 廃園の殺人 (角川ホラー文庫)
三津田信三スラッシャー 廃園の殺人 についてのレビュー
No.298: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

これ以上ないぐらい「普通」の本格推理小説


雪の山荘で殺人事件が発生し、”足跡問題”が生じるという定番のパターンを扱った作品。
この作品は良くも悪くも(個人的にはどちらかと言えばいい意味で)これ以上ないぐらい「普通」の本格推理小説だなぁ、と感じた一冊です。

何一つとして目新しい要素がなく、特に驚くような展開が待っているわけでもなく、定番の舞台で定番の事件が発生し、事件の謎を探偵が解き、真犯人の名前を挙げて事件を解決するという極めて王道な展開の作品です。
特別秀でた部分はないものの、トリックは小粒ながらよく出来ているし、プロット、キャラクター、ドラマ全ての面において、一定水準以上に纏まっている作品ではあります。
ここまでいい意味でも悪い意味でも個性のない作品も逆に凄いというか、個性がないことが個性と感じるレベルです。
(作中に出てきた川の水を汲んで火を消すパズルは面白かったです。これも作者の有栖川氏のオリジナルなら作中のトリックよりこっちに関心しますね)

本格ミステリが好きな人にはおススメできるかなという作品ですし、そうでもない普通の本好きの人にはわざわざ薦めるほどではないかなという作品でしょうか。


▼以下、ネタバレ感想
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スウェ-デン館の謎 (講談社文庫)
有栖川有栖スウェーデン館の謎 についてのレビュー
No.297:
(7pt)

当時の読者はどういう感想を持ったかに想像が膨らむ、最初期の推理小説

推理小説の父、エドガー・アラン・ポーの描いた本格短編推理小説の一作です。
『モルグ街の殺人』などで有名な世界初の名探偵オーギュスト・デュパンとは別の探偵役が登場します。

殺人事件が発生し、あらゆる状況が一人の人間を犯人と示しており、そのまま無実の罪を着せられそうになるが、探偵が謎を解き真犯人を挙げる……
という今日に至るまでの推理小説の定番パターンの始祖となった作品でしょう。

今の読者ならば真犯人は見え見えなのですが、当時の人間としてはこれまでに前例がなかったであろうこの物語をどのように読んでいたのかが気になった作品です。
そしてあまりに直球なタイトルですが、読み終えればこれ以外の上手いタイトルが思いつかないですね。

▼以下、ネタバレ感想
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No.296:
(4pt)

”日常の謎”というジャンルそのものがあまり好きでないと言ってしまえばそれまでなのですが

女子大生の「私」が日常で遭遇する他愛ない謎を、落語家の円紫師匠が見事に解決していく、所謂”日常の謎”ジャンルの先駆け的存在の連作短編シリーズの第一弾。
女子大生の私小説的な形式で話が進み、ミステリというよりも純文学のような雰囲気が漂います。
また直接物語の本筋とは絡まない、落語や文学の薀蓄や衒学的記述が目立つ作品です。

いろんな理由で人を選ぶ作品だと思いますが、私は合わなかった人間です。
まさに上で挙げたようなこの作品の特徴であり、好きな人はそこが好きであろう魅力の部分が私にとっては好みではなかったからです。

女子大生の他愛ない日常も、落語や文学の薀蓄も正直興味が沸きません。
その点でまず、私のような読む本がミステリに偏りすぎているような人間には、面白くないミステリでした。

また、当時は「殺人事件だけがミステリではない、それどころか犯罪ですらない他愛ない日常に潜んだ謎の解決もミステリになる」という、日本のミステリにおける所謂”日常の謎”ジャンルの先駆けでもあることが名作と評価されている一因だと思いますが、それだけに逆に言えば今読んでそこまで特別の斬新さ、出来の良さは感じませんでした。

さらに身も蓋もないことを言ってしまえば、私はこの作品に限らずそもそも”日常の謎”というミステリジャンル自体があまり好きではありません。
やはりミステリは人がぶっ殺されて、いろんな人間のまさに”人生”がかかった物語だからこそ、登場人物も読者も真剣になれて面白いと感じ、”日常の謎”作品に出てくるような他愛ない謎はどうしても「どうでもいい」と感じてしまいます。
”日常の謎”というジャンルはまさにその、誰かの人生がかかっているわけでもない「どうでもいい」謎に純粋な知的好奇心で挑むことが魅力なのだろうと思うので、魅力そのものを否定してしまう私のような人間とはそもそもの感性が合わないのでしょう。

空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)
北村薫空飛ぶ馬 についてのレビュー
No.295: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

人情ドラマが折り重なりが、事件を解決へと導いていく

日本橋の江戸情緒の残る町で発生した殺人事件。
新たに着任した刑事・加賀恭一郎は老舗商店街を舞台に聞き込み調査を行うが、そこに住む下町気質溢れる人々の「人情」が捜査を一筋縄ではいかなくさせる。
そしてそこには、事件とはまた異なる一人一人の物語があった……

殺人事件の捜査のために主人公である加賀刑事が「煎餅屋の娘」「料亭の小僧」「瀬戸物屋の嫁」……各章ごとに町に住むさまざまな人々の話を聞いていくという流れですが、章ごとに見てもそれぞれ独立した短編として成立しているという形式が面白く、またそれらが繋がっていくことで一つの事件の解決に向かうという構成が秀逸でした。

通常のミステリだったら、あるいは現実の警察にとっても、事件解決の上で情報提供者とは情報提供者以上の意味や価値はなく、その個々人の人格や事情は無視されがちなのですが、一人の人間である以上、事件とは別に彼らの感情や人生がそこにあるということを思い出させてくれるような作品でした。
そして加賀刑事が目先の事件解決にのみとらわれ、それをないがしろにしなかったからこそ、解決した事件と言えるでしょう。

本格ミステリ、推理小説としては少し物足りなさを感じるかもしれませんが、各章のそれぞれ見ても完成度の高い人情物語や、作品通してのテーマなどの面を評価すべき作品と感じました。
しかし、人々の心を懐柔する一方で、論理的にもスルスルと謎を解いていく加賀がちょっと完璧超人すぎて逆に人間味を感じない気がしてしまったので、もう少し「人情」の壁に悩まされる彼の様子などが見たかった気もします。



▼以下、ネタバレ感想
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新参者 (講談社文庫)
東野圭吾新参者 についてのレビュー
No.294: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

クイーン作品はデビュー作から「らしさ」全開

説明不要の大御所作家、エラリー・クイーンの処女作であり、作者と同名の名探偵クイーンの初登場作品であり、『国名シリーズ』の第一作目でもある記念すべき作品。

デビュー作である今作から「犯人が特別に策を弄したトリックなどを仕掛けるわけではなく、探偵側も物証などを必死に探して証拠として提示するわけでもなく、判明している事実から導き出されるロジックに基づき犯人にたどり着く」というクイーン作品の黄金パターンはこの時点で確立されている極めて「らしい」作品です。
しかし、後に発表される名作に比べればまだ作品として洗練されていない部分や物足りなさを感じる部分が多々あり、名作・傑作と呼べるほどのものではないですね。

今作は後のシリーズでは完全に息子の引き立て役で、お世辞にも有能な警察官とは言いがたいクイーン警視が、息子の推理力に全幅の信頼を置き、彼が能力を十分に発揮できるように自分の役割を果たしている、有能で大物感溢れる人物に描かれていたのが意外でした。
今作に見られる父子それぞれ役割・能力が異なる二人のクイーンが犯人を追い詰める姿は、卓越したプロット構成力と、秀逸な文章構成力をそれぞれ持つ二人の男が合作することで数多くの名作を世に残したクイーンという作家を象徴するスタイルだったのではないかと思うのですが、やはり名探偵の相方は少し抜けていて頼りないワトソン君の方が向いているということなのでしょうか。




▼以下、ネタバレ感想
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ローマ帽子の謎【新訳版】 (創元推理文庫)
エラリー・クイーンローマ帽子の謎 についてのレビュー
No.293:
(7pt)

「顔のない死体」というテーマをシンプルにつきつめた一作

100ページ強の中編作品。
おどろおどろしさや、複雑な人間ドラマといった金田一耕助シリーズらしさからは少し離れ、「顔のない死体」という本格ミステリの定番の題材に的を絞った作品です。


▼以下、ネタバレ感想
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横溝正史〈2 犬神家の一族・黒猫亭事件〉 (1977年) (別冊幻影城・保存版〈no.8〉)
横溝正史黒猫亭事件 についてのレビュー
No.292: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

”原作者”と”盗作者”との駆け引きのロンド

精魂込めて書き上げた作品を盗まれた男と盗んだ男の、殺人事件にまで発展する緊迫した狂気に満ちた駆け引きの物語。

終始テンポが良く読みやすく、常に続きが気になる構成で一気読みしました。
割と賛否分かれそうな作品かと思いますが、私は楽しませてもらいました。
主人公に感情移入して、作品を盗まれ悔しく感じたり、逆に反撃に転じた時はスッキリしたり出来たのがその理由ですかね。
……しかし読み返してみると一回目とは全く違う世界が広がりそうな作品です。

いくらなんでもこんな偶然が重なるわけないだろうっていうご都合主義は多々感じましたが、この作品は素直に、現実ではありえないようなことを書くのが創作です、と割り切れるタイプの話でした。

気になった点は”『倒錯のロンド』っていうタイトルがセンスがいい”とか作中で自画自賛しちゃうのは正直どうかと思いました。
他にもあとがき部分含めちょっと作者の自己主張が強い面が多々見え、それが面白い所の一つとも言えるのですが、人によっては拒否反応が出るかもしれません。


▼以下、ネタバレ感想
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倒錯のロンド 完成版 (講談社文庫)
折原一倒錯のロンド についてのレビュー
No.291: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

天才・真賀田四季の幼少期の物語

『S&Mシリーズ』のスピンオフ的作品で、主人公のSMコンビを食ってしまう魅力を持つ、真賀田四季博士の過去を書いた四部作の一作目。

年齢一桁の幼女の頃から別格の天才性を発揮する彼女の姿が見られます。
作中で密室殺人事件も発生しますが、正直本格ミステリ要素を無理矢理絡ませたようで、物語上の必要性をあまり感じません。

四季の徹底して「天才」として描かれるキャラ造詣は人によっては陳腐と評するかもしれませんが、私のような厨二趣味の凡人はこのような天才キャラにやはり惹かれてしまうのです。


四季 春 (講談社文庫)
森博嗣四季 春 についてのレビュー
No.290: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

『三大奇書』あるいは『館シリーズ』を全部合わせたような、アンチミステリ作品の究極系?

梵貝荘と呼ばれる法螺貝のように螺旋構造に作られた奇妙な館で起こった殺人事件。
その事件は名探偵によりすでに解決され、『梵貝荘事件』として小説にもまとめられたが、十五年の時を経て現代の名探偵により事件の再検証が行われる……

本格ミステリというジャンルや名探偵という存在に対する皮肉や問題提示、過去の有名作を思い起こさせるパロディやメタネタ、作中作という特殊形式。
まさにこれでもかというアンチミステリ的な要素が詰め込まれており、所謂『三大奇書』の要素を全部合わせながらも、短く読みやすくまとめたような作品という印象です。
また参考・引用文献に、当時までに発表されていた綾辻氏の『館シリーズ』が全部並んでいるなど、同シリーズを連想させるネタも随所に仕込まれており、まさに「新本格」を象徴するような作品です。
しかし個人的にこの作品そのものは本格ミステリではなく「本格ミステリ」というジャンルを題材とした、サスペンス、あるいは独自ジャンルの作品だと思いました。

盛りだくさんの仕掛けに何度も驚かされ、楽しませてもらえましたが、惜しいと思うのは作中作となる『梵貝荘事件』が単独の作品として見たら、駄作としか思えなそうな所です。
あれでは、作者が解決部分まで書き上げながら発表しなかった理由は「駄作すぎて世に出すのが恥ずかしくなったからだろ」とみんな判断するでしょう。
(もし『梵貝荘事件』が独立した作品として存在して私がレビューしていたら、★2つぐらいで「トリックも人物描写もショボすぎ!真相も納得できない。内容もボリュームも薄っぺらな割に衒学趣味だけは過剰で辟易」とか酷評してるでしょうね)
作中作に、それだけをそのまま出してもいいクオリティを求めるのは酷かとは思いますが、ここは「それだけを単独で読んでも面白い」と言わせてほしかったです。

余談ですが私は『樒/榁』が同時収録の文庫版を読んだため、てっきり500ページ超の作品のつもりで読んでいたら400ページほどで終わってしまい
「あれ?終わっちゃった」と最初面食らってしまいました。


▼以下、ネタバレ感想
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鏡の中は日曜日 (講談社文庫)
殊能将之鏡の中は日曜日 についてのレビュー
No.289: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

アガサ・クリスティー賞にふさわしい作品

雪に閉ざされた山荘で一人の女子大生が毒殺され、それぞれが動機を持つ、残り4人の大学生たちは犯人を探し出す「検討」を行う……といったシンプルな構成ながら、複雑に入り組んだ真相が用意されている作品です。

クローズド・サークルでありながら、これ以上の殺人の心配はなく、警察抜きで存分に事件の「検討」を行うという展開。
被害者の女が殺されてもしょうがないような糞みたいな性格ですが、容疑者たちも好きになれないような性格の登場人物たち。
なんだか岡島二人氏の『そして扉は閉ざされた』を思い出しました。

純粋にシンプルに「推理小説」としての内容、結末だけならもっと高評価でも良かったのですが、登場人物の無駄な自己主張がハナについてしまい、少し減点です。

▼以下、ネタバレ感想
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致死量未満の殺人 (ハヤカワ文庫JA)
三沢陽一致死量未満の殺人 についてのレビュー
No.288: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

無理に長編にせず、短くまとめているのが好感を持てる作品

新興宗教の信者である五人の男女が、教団の指示で大規模爆破テロを起こし、同じく教団の指示で無人島に逃亡・潜伏したものの、そのまま教団にスケープゴートとしてトカゲの尻尾切りにされ、無人島に置き去り状態に。
このままでは島で餓死を待つばかり、しかし島から脱出した所でテロで大勢の命を奪った凶悪犯として極刑は免れないという絶望的状況で、さらに連続殺人事件まで発生する……
孤島の連続殺人事件という定番のシチュエーションを扱ったミステリですが、登場人物たちが何重にも「詰んだ」ような状況が面白いミステリです。

上記の通り、登場人物が語り手の主人公含め、無差別テロで大勢の命を奪ったような連中のため、正直誰にも感情移入できず、助かってほしいとも思えないのですが、かといってあまり共感・同情できる境遇だと可哀想すぎて読んでて辛くなりそうなので、個人的にはこれでよかったかと。

終始緊迫感のある展開でテンポよく読め、結末はそこまでの驚きや意外性はありませんが、まぁ無難にまとまっているかと思いました。
これが300ページくらいの長編作品でしたら、可もなく不可もなくといったところで6点ぐらいかな、というところですが、150ページ未満の中編の範囲でまとめた所を評価し、一点オマケして7点で。

▼以下、ネタバレ感想
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生存者、一名 (祥伝社文庫)
歌野晶午生存者、一名 についてのレビュー