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egut さんのレビュー一覧
egutさんのページへレビュー数745件
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SNSを用いた現代的なミステリ。傑作でした。
誰かが自分になりすましたTwitterで殺人を投稿。特定班により実名、勤務先、自宅住所まで拡散されて冤罪被害を受けるという始まり。 本書は現代的な要素の使い方が大変巧い。社会要素としてはSNS被害。人間的な要素として世代間ギャップを巧く扱っています。20代、30代半ば、50代のセグメントを用いた、物事の考え方、仕事の取組み、ITリテラシー。それぞれの感性の繋ぎ方が物語を面白くさせていました。 インターネットを普段から使い、フェイクニュースもなんとなく嗅ぎ分けられると感じられる方は多いと思います。私も何となく直ぐには騙されないぞと裏取りをする手順がありますが、本書ではそういう方こそ騙されてしまうパターンの物語が存在する。という内容を題材にしているのが見事です。著者の物語の作り方に唸らされました。 身に覚えのない冤罪により、自宅が狙われたり犯人扱いされて襲撃される可能性など、世の中が敵となる不安と逃亡劇の物語が抜群に面白い。 そしてネットを用いた仕掛けと驚きの結末が見事。今の時代を表したミステリとして大変オススメです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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シリーズ1作目『ナキメサマ』がホラーとミステリの見事な融合だったので続けて読書。ただ2作目の本書は少し期待し過ぎてしまった気持ちです。
全身骨が砕かれる死体の発見という怪異を扱う物語。 前作同様に地方の村を舞台としたホラーは雰囲気抜群で大変好み。前作から共通キャラクターとして参加の怪異譚蒐集家の那々木悠志郎は良い味を出しています。「作家の私を知らないのか?」という登場シーンが最高に好みです。 物語の中盤まではワクワクで楽しかったです。ただ今回好みに合わなかったのは、前作のようなミステリ仕掛けを施そうとした為か謎に関する要素は都合の良い展開が多かった事。そして怪異の現象が非現実的過ぎてしまい、ホラー&ファンタジーに感じてしまった事でした。 ホラーの要素が前作のように必然ではなく、過剰な演出なだけに感じられて好みに合わなかったのが正直な気持ちです。特に主人公以外はちょっとね。。。という感覚。 3作目も購入済みなので次に期待です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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ホラーとミステリの見事な融合。かなり好みの作品でした。
『横溝正史ミステリ&ホラー大賞・読者賞』の名にピッタリの作品です。 舞台は音信不通となってしまった知人の状況を探る為に訪れた村。 知人は23年に一度行われる『ナキメサマ』の儀式の巫女に選ばれた為、儀式開催の日までは誰とも会えないという事で、暫く村に滞在する事に。 滞在して間もなく異様な人影に遭遇したり、さらには無残な死体が発見されて……この村で何が起きているのか?という流れ。 田舎・集落を舞台にしたホラー作品ですが、よくあるホラーと違うのは怪異というものの存在の解釈です。 他作家を例に説明すると、三津田信三や京極夏彦の作品群ではそれが存在しているかどうかを曖昧にしたり、科学的、現実的に解明を試みたりします。本書の場合は現実には存在しない怪異というものが実在すると前提条件として決めており、その怪異はどんな特性なのか理論的に考えている様が新鮮でした。その為ホラー小説としての雰囲気や恐怖感を楽しみつつ、ミステリとしてのロジックや驚きまでも味わえる為、2度美味しく飽きさせない面白さでした。 賞の応募作なので出し惜しみせずやり切っている表現も好感。後半なんて正にそうで、ホラーとしての演出、後味、そしてそれがミステリとして機能させた着地など、物語の内容としては好みが分かれそうですが個人的には大好物でした。今後のシリーズ展開に期待です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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特殊な設定をきちんと活用した、斬新な本格ミステリを堪能できました。
あらすじにて予め提示されている通り、"異形の存在"による無慈悲な殺戮が発生する舞台での本格ミステリです。 読者の期待するシリーズの特性をちゃんと踏まえているのは好感。特殊な状況の面白さと、剣崎比留子と葉村譲の関係など期待する要素がちゃんと楽しめました。 ミステリとしてはとても面白かったのですが、難点としては内容の把握が困難でした。 1作目と反して人物が分り辛い。そして館が複雑な構造をしているので、誰が何処にいて今どんな状況なのかが分り辛い読書でした。登場人物一覧と館の見取り図を何度も見直しました。その為、没入感がとても薄れたのが残念でした。事件の状況やミステリ要素もかなり込み入っています。正直な気持ちとして、本書は推理したり登場人物と一緒に悩んだりドキドキしたりという感覚が生まれ辛く、監視カメラで話を傍観しているような読書感でした。何か複雑で大変な事をしているなという感覚で終わってしまった気分です。 誤解なく言うと、ちゃんと特殊な設定を用いたミステリとして素晴らしいです。ただ把握しながら読書できる人は多くはないだろうと感じた次第です。 映像で補完できる要素が多い為、もしかしたら映像化を狙った構成とも感じました。時期的に『ネメシスI』がドラマ化向けの描き方だったので、そのような文章になったのかもしれないかなと勝手に感じました。 ちょっと小言が多くなってしまいましたが、それだけ期待して楽しみなシリーズである事は変わらず。次回作も楽しみです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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これは凄く面白かった。☆8(+1好み補正)
純愛小説を用いたミステリとしてかなり巧妙な作品でした。 本書は下調べせず、予備知識は無い方がよいです。なので中身とは違う視点で感想を。 純愛小説を用いたミステリについて。 大きく2つに区分するなら、長期間における想いを描くもの(例:『秘密』『容疑者Xの献身』)と、まだ初々しい恋愛初心者を用いる作品(例:『イニシエーション・ラブ』)の想いや経験の長さで区分できます。 本書は後者寄り。 初々しさによる盲目がミステリとして活用されています。 この系統の作品はライトノベルで多く、ミステリ要素も弱めで印象に残り辛いのですが、本書はかなり刺激的でグサッと心に突き刺さるミステリでした。 『イニシエーション・ラブ』とは違う方向性なのですが、好きな方はこの作品も刺さるかと思います。負けず劣らず違うやり方で個人的に名作扱い。 後味の良し悪し含めて心に残る作品でした。 2017年の本ですが、もっと知名度があっても良さそうだし、ミステリのランキングに入っていないのは勿体ない。 内容については好みが分かれると思われるので万人向けではないのですが、恋愛ミステリが好きな方へはオススメです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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見立て殺人がメインの本格ミステリもの。クローズド・サークル、館もの、次々に殺される招待客、絵画に見立てられた殺人。といった具合で設定は抜群に面白い。ですが好みにそぐわない理由として、雰囲気や情景が浮かび辛く読んでいて面白くなかったからです。
ミステリの仕掛けや見立て殺人をテーマとした中で、犯人が見立て殺人ができないように環境を破壊してしまいましょうといった偏屈した展開は楽しめました。探偵役のシズカの発言や行動は、連続殺人は100%起きるという前提の元に行われており、物語の中の人物というより外側のメタ視点で本書を眺めていると感じます。本書の面白かった所はこの探偵役の思考と行動でして、他のミステリでは味わえない新鮮さを感じました。 読み終えてから、以前シリーズ2作目にあたる『首無館の殺人』を読んでいる事を思い出しました。 2作目は切断される首がテーマで、犯人が首を切ろうとするなら切れないように対策しましょうと言った展開がなされるので、本シリーズの探偵の特徴が1作目から構築されていると感じます。ロジカルに推理するのではなく、連続殺人が前提の中で犯人の行動を抑制していくスタイルです。 シリーズ他本も気になる所ですが、評判の理由が同じ傾向なので少し様子見かな。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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虚実混交による怪談ミステリ。
著者が小説新潮から怪談小説の執筆依頼を受けた所から物語が始まります。 新潮社がある神楽坂。そこから始まる怪談物語。 短編集の構造で、それぞれの短編は実際に2016年から『小説新潮』に掲載された短編たち。時系列や各人達の関り方が活用されており、現実と虚構を曖昧にしているのが面白い。 いつから企画構成が練られていたのかはわからないですが、実際の日常と共に怪奇に遭遇していく話の展開は面白く、巧い企画の作品だと思いました。 当時、著者のTwitterにて怪奇に悩む投稿があるなど演出が凝っています。 それぞれの物語は非現実的な怪談を扱ってはいるものの、起きている事象を論理的に解釈すると、怪奇とはいえどういった部類の怪奇現象なのかが導かれる為、その展開はミステリを感じました。謎と結末が怪談要素というのも良かったです。 これって本当の話?あの人やこの現象はどうなるの?といった一昔前のオカルト体験が楽しめます。ホラーにしてはサクサク読めるのも好感でした。 |
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書店で沢山並んでおり、表紙と帯に惹き付けられて購入。装丁のワクワク感が凄い。これだけ装丁に力を入れているということはそれだけ自信があるのだろうと思った次第。
読んだ結果、ミステリ要素が豊富な作品で面白かったです。 表紙の雰囲気から館もののコテコテ堅物の本格ミステリかと思いきや、中身はライト寄りのミステリ。本格物を期待すると中身はアニメ調の名前やセリフ運びなので合わない人が出てくるかもと思いました。それが気にならなければPRに偽りなく作中作を用いた多重解決ものの作品が楽しめます。作中作を用いた多重解決ものの構造や"最後の事件"にちゃんと意味があり、真相および読後感が良い作品でした。近年のミステリで再流行なのか、名探偵の存在理由も扱われています。本書における名探偵や"名探偵"を生み出すために必要な怪盗王の役割など、扱うテーマをいろいろ感じた読書でした。 著者は城平京作品がとても好きなのだろうと感じる内容になっており、随所にオマージュを感じました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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普段読まない時代小説。明治時代×デスゲームの宣伝に釣られて購入。
結果はとても面白い作品でした。 ただ、本書全3巻のシリーズものでした。本作だけでは完結しません。 そういうのは分かりやすく明記してほしかった。上中下巻なら手に取っていたか判断が悩む所なので版元としてはそれも戦略なのかもしれません。 物語は明治11年。廃刀令により帯刀しなくなった時期。 争いは銃や砲弾になり、武士だった者達の生き方が変革される時代。そこに「武技に優れるものは大金を得られる機会がある」という文書が出回り、身に覚えのあるものが集まった所、デスゲームに巻き込まれるという流れ。 突然のゲーム参加により逃げ出す者、追う者、共闘する者といったパニック感はとてもよかったです。主人公が強キャラなのですが、過去がどんな人物だったのか徐々に明かになっていく展開も面白い。その時代の武士たちや藩や警察の背景なども合わさり、エンタメの読み物としてとても楽しい読書でした。 本書は1巻にあたるという事で、舞台説明や巻き込まれ系のパニック感、登場人物の紹介を主に感じました。デスゲームものとして頭脳戦に行くのか、各キャラの武技(能力)バトルものになるのかは未定な状況。今後も楽しみな作品ですが完結してから続きを読みたいと思います。 余談ですが『無限の住人』『るろうに剣心』『甲賀忍法帖』ここらへんも好きなので、そのイメージを含めて読んでました。最後のくるくる回す強敵表現好き。キャラクター性もあるので漫画やアニメにもなりそうです。オススメですがまだ未完結なのでご注意。 |
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あらすじ通り2度読み系の恋愛小説でした。
"宝石病"という体内に結晶を溜め込んでしまう難病を患った女の子の、残された時間の青春物語です。 恋がしたい女の子の恋愛小説を起点としますが、読んだ印象としては自己犠牲や相手を想う気持ちを表した作品だと感じました。 難病ものなので何となく結末は予感させつつも、あらすじには"ハッピーエンド"と書かれているので、どのような結末になるか楽しみでした。読者の期待する結末と沿うかどうかが好みの別れ所になるかと思われます。 個人的には期待するものとは違った作品でした。ただもう一度読む楽しみがある本ではあるので、ライトミステリとしての面白さは備わっています。そこに惹かれる人もいると思いました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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出版禁止シリーズ3作目。シリーズではありますが、それぞれ単独の本なのでどれから読んでも大丈夫。
取材記事となる ルポルタージュを用いたミステリとして、前作同様に仕掛けを堪能できました。 本シリーズの特色としては、深読み・考察を楽しむミステリです。 全ての謎の解答が明らかになっておらず、最後まで読んだ手がかりを元に何度か読んで真実を自分で見つけるのが好きな人向けの作品となります。 個人的な完成度の好みとしては2作目が素晴らしい出来だったので本作はちょっと霞んでしまいますが、それでも一定の水準を超えた作品ではあるので、終盤読者は唖然とするでしょう。 呪いや民俗学を取り扱い、非現実的な恐怖、ホラーの雰囲気は抜群。 終盤にはプチ解説がある事により、本作で何が起きているかは何となく分かりやすくなっています。ただ個人的にはその解説なしで謎のまま終わった方がSNSなどで真相当ての考察で盛り上がっただろうなと思う次第。 前作との比較になってしまいますが、前作は隠された真実を読者自身が気づく事により、偏向報道など社会的なメッセージや注意喚起の意味付けに気づかされるテーマを感じましたが、本作の隠された真実には特にメッセージ性があるわけではなく、単に真相を書いていない謎解き本に感じてしまった所が個人的に物足りなかったです。 実はもっと気づいていない謎があるのかもしれませんが。。。と思わせる作品になっているのが良いです。なんだかんだで楽しんだ読書でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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早川書房の第11回アガサ・クリスティー賞受賞作品。
今までの受賞作品はこの賞の名前から連想するイメージとは違い、メフィスト賞のような広義のミステリを感じていました。ただ今回は納得の素晴らしい作品。"早川"の"アガサ・クリスティー賞"という名前の印象に相応しく、本書の存在によってこの賞の格を上げたと言っても過言はない出来だと感じます。傑作でした。 内容は第二次世界大戦の独ソ戦を描く戦争小説もの。村が襲われ村人や母親が惨殺され焼かれる中、救助されて生き残った少女セラフィマ。復讐心を宿し女性狙撃兵となり戦争に踏み込んでいくという流れ。 まず本書はとても読み易いのが好感。 戦争ものなのと海外小説の雰囲気から苦手意識で敬遠する読者が一定数いるかと思いますが、そのような悪い印象や分り辛さはありません。登場人物は少人数でかつ特徴的であり、場面転換も少なく状況が分かりやすいです。 読者の視点は戦争とは無縁の村の少女から始まる為、その視点から戦争の悲劇を体験していく流れは掴みやすくかつ物語に没入しやすくなっています。 戦争小説としての両国の思想、戦争犯罪、悲劇や復讐の連鎖など描く所は描きつつも、表現は嫌悪されないように大分気を使ってマイルドに描かれているので、多くの人に薦められる作品となっております。 なにか仕掛けや謎解きなどの驚きがある話ではありません。 史実として存在した女性狙撃兵。狙撃兵の主人公というアクション・エンタメ性を備えつつ、"戦争"と"女性"という面から今の世に適した差別やジェンダーなども取り入れられており、物語の展開、結末に至るまで惹きこまれた読書でした。傑作です。 |
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女探偵葉村晶シリーズの短編集。
謎解きミステリというより、主人公のキャラクターの魅力と、全体を通してのハードボイルドな文芸を楽しむ作品。葉村晶の境遇は今でいうイヤミスのようで読んでいて辛い心境になりました。ここは好みの別れどころでした。見様によってはブラックコメディ。 6編ある短編はどれも曲者ぞろいであり、ストレートな進行ではなく新たな事実により二転三転する。飽きさせない面白さはあるのですが、短編では場面転換が速すぎて好みに合わなかったのが正直な気持ちでした。全ての結末が描かれていない物語もあり、スッキリしない事が多かったです。そういうのが好きな時もあるのですが、今回は読むタイミングが悪かったかもしれません。 |
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青春ミステリ模様が現代的で面白かったです。
まず、主人公である女子高生のピップは性格も行動力もよく読者の視点となる探偵役として読んでいて気持ちがよかったです。犯罪にぐいぐい足を突っ込む行動力は危なさで不安になりますが、物語の主人公としてはアリかと思う。携帯の履歴、SNSのフォロワー、パソコンの操作など、時代に合わせた捜査力は中々ナイス。コツコツ地道に自身の考えを読者に提示していくので謎解き小説として楽しめる構造になっていました。 ただ、個人的な心境として期待し過ぎてしまったのと、内容が好みではなかったのが正直な気持ち。読書が長く感じました。 驚きの真相や派手な仕掛けがあるタイプではなく、ティーンエイジャー視点での犯罪と捜査模様が展開される作品です。2022年度のミステリ各誌にランクインしていたのもあり余計な期待を抱いてしまっていました。 謎解きミステリとして街で起きた過去の事件が明かされる様子はスッキリするのですが、一方、明かされた事により人間関係の闇や若者の社会的犯罪を見せられるのはあまり気持ちよくないもの。 学生を読者ターゲットとしてその年代の犯罪と解決が描かれているので、そういう意図の作品としてはアリ。そんな感想でした。 |
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女性の秘めたる思いを描くのが巧い著者。そしてライトなミステリの手法で物事の繋がりが見えてくるのも良い。
本書はタイトルが示す通り、幸せがテーマ。 主人公の女性は夫の転勤に合わせて、仕事を辞め、知り合いのいない新しい土地で家事に勤しむ毎日。子供もいない為、夫の帰りが遅ければ誰とも話さない日がある。何もない日常。でも平和な日常。 幸せを表現する為には逆の表現となる不幸や悩みを描くパターンがある。本書に登場するキャラクター達は各々の心の隙間を抱えており、それに対しての自身の考え方、他者からの見え方が巧く表現されている。他人に対して『羨ましい』や『かわいそう』という要素は、本人にとっては実は違う見え方が存在するかもしれない。そういう心情が描かれた作品でした。 読者の好みとして、登場するキャラクターの闇の部分に対して共感するか嫌悪するかは人それぞれだと思し、それがこの本に対する好みに直結するかもしれない。実際、個人的には主人公の女性の思考回路の波長に合わない事が多かったです。ただ後半につれて何故そういう考えになっているのか理解できる一面も出てくる為、他人に対しての印象と実際との違いを考えさせられた次第。自身が考える『幸せ』と『不幸』は、他人から見たら『不幸』と『幸せ』に映っているかもしれない。結局はそれらをどう受け止めて考えるかは自分次第の問題だったりする。 青い鳥のように身近にあるかもしれない幸せの探し方を現代的な女性視点で描かれた作品。 各々の考えや理解が深まり、幸せに向けて帰結する展開はよく、読後感も良かったです。 |
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とても素晴らしい作品でした。
まず著者名が伏せられていたら米澤穂信と気づかないぐらい、文体まで時代小説に変えているのに驚きます。文章作りにまで拘る、これぞ作家の作品という意気込みを感じました。 物語は、史実に基づき"黒田官兵衛"が幽閉されていた期間、有岡城での出来事をミステリ仕立てで描かれた作品です。 第一章『雪夜灯籠』では、捕らえていた人質が雪に囲まれた納戸で殺されたという雪密室。何故どのように行われたのか不明。このままでは城内で混乱が起きる。有岡城の当主、荒木村重が苦肉の策として幽閉した黒田官兵衛に助言を仰ぐという流れは安楽椅子探偵もの。牢獄の中の名探偵役いう構造は『羊たちの沈黙』のレクター博士を想起させました。 その後も短編作品のように各章ミステリ物語が展開します。 どれもこの時代ならではの武士や民の心情を活かした構造に驚かされた作品集でした。 そして最終章は、史実上謎とされる『そもそも何故、荒木村重が織田信長を裏切ったのか』、そして『黒田官兵衛が殺されず幽閉されていた時に何が起きていたのか』。それらの1つの解法として物語が見えてくるのが見事。ミステリ的な演出や戦国時代の背景など複雑に絡まった物語は本当に圧巻でした。そして一言では説明できない重く深みある物語なのが凄い。 読み終えて絶賛ではありますが、実は初読30ページ程で挫折しそうになったのも本音です。 私は歴史や時代ものが超苦手。人物や当時の土地勘がさっぱりで、最初のページから頭に入らずでした。 同じような人への参考です。 なのでひとまず"黒田官兵衛"で検索して出てくるページをざっと下調べ。 史実となる有岡城での幽閉とその後を先に把握しました。 再び本書を開くと史実通りの展開から始まるのですんなり世界に入り込めました。そのうち文体にも慣れて没入です。本当に序盤は苦手な人は苦手だと思うので、歴史が苦手な方はちょっとだけで十分なので下調べ推奨です。 読後はこの時代の歴史に興味が沸き、wikiを巡回。 苦手な歴史もこういう作品に出合えると興味が沸きます。素晴らしい作品でした。 |
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西洋童話をモチーフとして、著者が再構築したオリジナルの物語です。
前作の時も感じましたが、昔話の内容について新解釈を述べるものではなく、キャラクターや世界観を活用した創作となっており、題材となる昔話の設定に必然性がないミステリなのが好みと違いました。 『ヘンゼルとグレーテル』に関してはお菓子の家ならではの仕掛けがあり、この短編はミステリとして楽しめました。 それ以外は人物や世界観の設定を用いたファンタジーを読んだ程度の印象で特に何か印象に残るものはなく、普通に楽しめた読書でした。 物語やミステリの仕掛けに対して、童話の世界観にする必然性が弱いのが物足りないです。逆にそこが補完されて、だから赤ずきんなのか!だからシンデレラを採用したのか!という驚きと納得の気持ちになれれば今以上に良い作品に化けると思いました。 幅広い層に読ませる商業的な商品戦略としては巧い商品という印象です。 |
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著者の作品は好みに合わないのだけど、今度は面白くなっているかも?と期待して手に取る。他にはない個性が好みではある次第。
エログロ系+ミステリの作風なのですが、んー……正直な気持ちとしては今回も好みに合わず。 "そして誰も〇〇〇"という名作タイトルをもじり、表紙もとても良いのですが、それに対する内容が期待にそわず名前負けかなと。 エロも艶やかなエロではなくただの下品。グロも感情を掻き立てるグロではなく文字の羅列。前半は☆3ぐらいな感想。 ただ、後半からミステリへちゃんと変容しているのは見事。 舞台設定やグロを用いて特殊な世界観でちゃんと新しいミステリを作っている。この雰囲気もそうだし本書ならではの仕掛けは個性があるのでそこは好感でした。 後半のミステリ模様は☆8ぐらい。なので、半分で☆5かなという感覚。 2017年の某特殊設定ミステリを著者風にしたらどうなるか。本書の企画アイディアはそんな基点から生まれたのだろうと感じる読書でした。貴志祐介の某作の影響を受けてそうだと感じます。新しいミステリを生み出そうという気持ちは〇。注目はし続ける作家さんです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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著者の着眼点とそれを投げかけるメッセージ性に驚かされた作品でした。
テーマの内容から中高生に刺さる話であり、大人が読んでも学生の頃を回想し何かを感じてしまう事でしょう。雰囲気の部類としては気分が晴れるものではないので、イヤミスに近しい内容でずっしりとさせます。 前情報は少ない方がよい為、あらすじの範囲内で簡単に紹介しますと、本書の分類としては今でいう所の特殊設定ミステリ。 “他人を自殺させる力”の存在を感じさせる事で、非現実的な舞台とした新たなルール設定の場において、誰がどのような方法で、何故行われているのかの謎をミステリとしての求心力としています。 ただ個人的には本書はミステリとして読むよりも、ミステリを活用した暗黒面の青春小説という印象の方が強い。主人公や犯人の動機に共感はしたくないんだけど、なんか分かってしまう。そのバランスの描き方やテーマの選出が著者の凄い所だと感じます。 著者の作品を読むのは本書で2冊目なのですが、どちらも伏線や仕掛けは楽しむもの以上に伝えたいテーマを印象付ける作用で使われており強く心に響いた作品でした。他の本も読んでみたくなりました。 |
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ミステリ愛に溢れた作品でした。
まず世界の設定が発明もので良かった。 それは『密室の不解証明は、現場の不在証明と同等の価値がある』という判例が起きた世界。どんなに怪しい犯人でもアリバイがあれば無罪になるのと同様に、密室の謎が解けなければその人には犯行が不可能であるとし無罪となる世界線。この設定が発明ものです。この設定のおかげで密室を作る理由を考えなくてよく、密室殺人が多発する理由にもなります。 ミステリ小説において密室ネタは出し尽くされ古臭いものと扱われますが、あえてそこに脚光を浴びせた意欲作だと感じます。 舞台は雪の山荘、クローズドサークル内での連続殺人。現場にはトランプや見立てやらで古き良きミステリの雰囲気を味わえます。登場人物達の雰囲気は個人的に好きなゲーム『かまいたちの夜』の印象でして、怪しい面々と砕けた会話は良い意味でライト。陰鬱さはなく連続殺人でもサクサク進行します。 そんな好みの雰囲気であるコテコテのミステリだったのですが、好みにそぐわなかった点として、あえての悪い言い方で恐縮ですが、トリックの問題集になってしまっている事。それぞれの事件に関連性もなくバラバラな印象だった点もよりそう感じてしまった次第。 他本と比較するのもアレですが、トリックを連撃しながらも問題集にならず名を残しているミステリは、それ+αの要素があります。ホラーやエログロなどで感情への刺激を加算するものや、キャラクター性を強めるもの、社会派と組み合わせて考えさせたりなどなど。本書は密室トリックを主体としながらそれだけで勝負しているのは好感でもあるのですが、最後の最後まで出し惜しみした仕掛けのインパクトが非常に弱いものだったので(演出力なのかもしれませんが)、肩透かしを食らってしまった気分でした。なので物語になっているような印象はなくトリックの問題集に感じた次第でした。 終盤より途中のドミノに囲まれた密室は面白かったです。トリックがというよりその状況のシチュエーションが新鮮でした。ミステリ読者程その他で使われた内容を考察する作品は読み慣れてしまっているので、こういう内容の方が面白く映るのではないかな。 というわけで、密室トリックというミステリ要素についてはあまり印象的ではなかったのですが、ミステリに対する著者の想いやミステリ好きだと感じさせる要素要素の数々は好きなので、デビュー作後の2作目でどうなるか期待です。 あとタイトルと表紙がとてもミステリ好きに刺さるので、これは編集者がナイスだなと思いました。特徴的なので書店も売りやすそう。商品として巧いと思った。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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