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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数1359

全1359件 1321~1340 67/68ページ

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No.39: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

時代には勝てないか・・・

大ヒットシリーズ「新宿鮫」の第1作。1990年の作品だけに、いま読むと古くささを感じざるを得なかった。時代の風俗とともにあるタイプのハードボイルドには避けがたい弱点といえようか。
それを除けば、この作品が傑作であることは間違いない。日本の警察小説では避けられない制約を上手くくぐり抜ける設定で(このあたりは、文庫本巻末の北上次郎氏の解説が秀逸)、派手なアクション映画的な盛り上がりを見せる。
劇画的なポリスアクション好きにはおすすめだ。
新宿鮫 (光文社文庫)
大沢在昌新宿鮫 についてのレビュー
No.38: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

結末が分かっていても面白い!

真珠湾攻撃をめぐる米国スパイの活躍を描いたスパイアクション小説。当然のことながら読者はみんな、真珠湾攻撃の奇襲が成功したことを知っている訳だが、それでも読ませる傑作だ。
第二次世界大戦のスパイアクションといえば、先ず第一が「針の眼」だが、本作は和製「針の眼」といっても過言ではない。
エトロフ発緊急電 (新潮文庫)
佐々木譲エトロフ発緊急電 についてのレビュー
No.37:
(6pt)

ポリティカルではあるが

ストーリー紹介には「傑作ポリティカル・サスペンス」とあるが、ポリティカル小説としてはよくできているものの、サスペンスはちょっと物足りなかった。
父親の急死による弔い合戦の選挙に当選した社会党代議士が、政界の波に揉まれながら成長し(成長ではなく、変節かも知れないが・・・)、リクルート事件を契機とする政権交替で重要な役割を果たすようになる。いわゆる55年体制の崩壊過程をていねいに追いかけていて、現代政治史の一面を面白く知ることが出来る。その点では、非常に読み応えがある。
しかし、党本部から押し付けられた第一秘書との運命的な絡み合いという、サスペンスを高めるはずのサブストーリーが、いまひとつ盛り上がらない。代議士、秘書、代議士の妻、人気女性キャスターという主要人物の人間性がもう少し掘り下げられていたら・・と残念だ。
愚か者の盟約 (ハヤカワ文庫JA)
佐々木譲愚か者の盟約 についてのレビュー
No.36: 6人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

犯罪小説であり、青春小説でもあり

8歳のときに遭遇した凄惨な事件のトラウマでしゃべれなくなった(耳は聞こえる)少年・マイクル。しかし、彼には特異な才能があった。記憶を元に絵を描くことと錠を開けること。その才能に導かれるまま、彼の人生は通常の世界から逸れて行く・・・。
物語は、現在服役中のマイクルが、逮捕されるまでの解錠師としての日々と解錠師になるきっかけとなった高校生の日々を交互に回想して語られていく。ふたつの時間を行き来する構成だが、それぞれのストーリーは時間軸に沿って展開されるので混乱することはない。というか、非常に読みやすい構成といえる。
本作の成功の秘訣は、なんといっても主人公の設定のユニークさにある。最初から最後までひと言も発しないこと、解錠(金庫破り)のプロであること、しかも17、18歳であることが融合して、犯罪小説でありながら純粋な恋愛小説、青春小説としても成立している。一人語りの物語ながら、ストーリー展開がスピーディーで、しかも多彩なエピソードが取り入れられているため、最後まで物語がだれることがない。金庫破り小説のスリリングさ、マイノリティーの視点からの皮肉なユーモア、一目ぼれした恋人に捧げる純情のほろ苦さなど、さまざまな味わいを楽しむことが出来る。MWA最優秀長編賞、CWAスティールダガー賞を受賞したというのもうなずける快作だ。
余談だが、本作はヤングアダルト世代に読ませたい本として全米図書館協会が選ぶアレックス賞を受賞しているという。しゃべれないことによる疎外感、個性を伸ばすことで得られる達成感、恋人との純愛など、多くの若者に共感されるテーマを持っているという評価であろうが、こういう犯罪小説にも賞を与えるアメリカ社会の懐の深さを物語るエピソードだと感じた。
スティーブ・ハミルトンは今回、初めて出会った作家であるが、これまでに翻訳されている3作品もぜひ読んでみたい。

解錠師〔ハヤカワ・ミステリ1854〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
スティーヴ・ハミルトン解錠師 についてのレビュー
No.35: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

どんでん返しではあるけれど

誰が犯人かではなく、動機を追求する心理サスペンス。犯人と刑事の独白、記録が交互に示され、そのたびに真実が覆されていき、最後に驚愕の真実、本当の動機が明らかにされる。大どんでん返しが楽しめる作品といえる。
Amazonではかなり高い評価を受けているが、個人的にはいまいち、しっくりこなかった。嫉妬、虚栄心、いじめなど、人間性の奥底に隠されている「悪意」を追求しながら、犯人も、被害者も、刑事も、もうひとつキャラクターが魅力的ではない。仕掛けに懲り過ぎて、人物像の深堀りまで手が回らなかったのか?
刑事・加賀恭一郎シリーズの第4作ということ(前3作は未読)だが、「新参者」以降の加賀に比べると、主人公の魅力が乏しい。逆に言うと、「新参者」以降の加賀恭一郎シリーズが素晴らし過ぎるのかも知れない。
悪意 (講談社文庫)
東野圭吾悪意 についてのレビュー
No.34: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

密売人は、何を売ったのか?

北海道警察、大通警察署のはみだし?警官、佐伯、新宮、小島、津久井など、いつもの面々が警察の正義のために奮闘する、おなじみのシリーズの最新作。本作でも、犯罪捜査の過程で警察内部が絡む疑惑が判明し・・・・。
発端は、釧路、函館、小樽での死体発見。何の関係もないように見えた3つの事件が、ある一家の失踪とともにリンクされて、警察のS(エス、スパイ)が鍵の連続殺人という疑惑が発生し、佐伯たちの捜査の中で、ある密売人の存在が浮き上がってくる。ストーリーとしては、かなり面白いものだと思うが、エピソードの積み重ね、悪役のキャラクター設定の深さなどの点で、やや物足りない。いつもの佐々木譲の“コク”がない、あっさりし過ぎという印象だった。
その点で、シリーズものとして読めば7点、単独作品として読めば6点、と評価した。
密売人 (ハルキ文庫 さ 9-6)
佐々木譲密売人 についてのレビュー
No.33: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ますます快調!

デンマークの警察小説「特捜部Q」シリーズの第二作。カール・マーク警部補とアシスタント・アサドのコンビに女性アシスタント・ローセが加わって、特捜部Qがさらにパワーアップした大活躍を繰り広げる。
このローセの、「警察学校を最優秀で修業しながら運転免許試験に落ちて警察官になれなかったため、秘書として警察に入った」という設定が笑える。そのキャラクターも、アサドに負けず劣らずユニークで、シリーズとしての面白さに一味も二味も新味が加わったといえる。
今回の主題は、二十年前の殺人事件、それも犯人が服役中の事件の再捜査である。犯人がひとりではなく、共犯者として同じ寄宿制学校の複数の同級生、しかも、いずれも社会的な成功をおさめている人物がいることを確信した特捜部のメンバーが、警察上層部をはじめとする様々な圧力を受けながらも真相にたどり着いて行く。事件の背景は、社会的エリートの秘められた暴力性という、まあ、ありがちな設定だが、メンバーのひとりが女性で、しかもわざと路上生活者として生きているというのがユニークで、ストーリーに変化をもたらしてくれる。
ところどころで、犯人達の精神構造を表現する重要な道具として「時計じかけのオレンジ」が使われているのが、あの映画をリアルタイムで観た世代として非常に興味深かった。
次回以降の作品への期待は高い。
特捜部Q ―キジ殺し― 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕

No.32:

涙 上巻   新潮文庫 の 9-15

乃南アサ

No.32: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

追いかけて、追いかけて、2年間

結婚式の一ヵ月半前に突然、「ごめん。もう、会えない」と電話して姿を消した婚約者・刑事を捜して日本中を駆け巡るヒロインの純愛(?)物語。最後の最後に婚約者が失踪した理由が明かされるのだが、その真実がやや説得力が弱いため、ミステリーとしては満点を付けられなかった。しかし、読みごたえのある作品であることは間違いない。
山の手のお嬢様であるヒロインが、婚約者を捜してドヤ街や私娼窟を訪ね歩いたり、捜査関係者との触れ合いで徐々に人間性、社会性を深めて行くところは好感がもてた。また、娘を殺害された老刑事・韮山の怒り、苦悩、再生の物語は、これだけでも一作品になるのではないかと思うほど読みごたえがあった。「涙」ということでは、ヒロインが流す涙より、韮山が流す涙の方が共感する部分が多かった。
時代設定が、東京オリンピックに沸く1964年からの2年間で、しかも時代の出来事や風俗が重要な要素として頻繁に登場するので、もろに同時代を生きた者としては、そのときどきの自分を思い出すことが多く、懐かしさを感じる楽しいタイムトリップだった。
涙 上巻   新潮文庫 の 9-15
乃南アサ についてのレビュー
No.31: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

構成は複雑、話は平明


▼以下、ネタバレ感想
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花の鎖 (文春文庫)
湊かなえ花の鎖 についてのレビュー
No.30: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

組織人の再出発物語

事件捜査が主役ではない警察小説を確立した横山秀夫の連作短編集。今回は、県庁所在地から遠く離れ、警察署と官舎、寮が同じ敷地に建つという三ツ鐘署を舞台に、交通課、鑑識係、少年係、会計課などの7人の職員の物語が収録されている。
元来が徹底した階級社会、ムラ社会の警察組織、しかも職場と住居が一体化されているとあって、三ツ鐘署の職員の人間関係はきわめて微妙なバランスの上に成り立っており、いつ、どこで破たんするか知れない危険性をはらんで展開されることになる。そんな中で生きる職員たちの組織人としての建前と個人としての本音の葛藤が、これでもかというほど繰り返され、かなり息苦しいエピソードが続くことになり。
しかし、一度落ち込んだり壊れたりした人間性、人間関係を立て直そうという姿勢がうかがえるエンディングが多いこともあり、読後感は「真相」などに比べて明るいものが多い。
7作品の中では、警官と泥棒、それぞれの老いと技術の継承を通して人間の業を描いた「引き継ぎ」が一番面白く、印象に残った。
深追い (新潮文庫)
横山秀夫深追い についてのレビュー

No.29:

鎖〈上〉 (新潮文庫)

乃南アサ

No.29: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

カッコよすぎるんじゃない、ペンギン滝沢?

女刑事・音道貴子シリーズの長編第2作は、デビュー作以上に読み応えがある作品だった。
音道が大量殺人犯グループに拉致・監禁されるという、とんでもないお話だが、監禁物ミステリーとしても、警察の捜査小説としても、はたまた音道の成長物語としても、一級品の読み物に仕上がっている。デビュー作の「凍える牙」は、犬を重要登場人物に据えたこともあって(個人的には)非常にファンタジー色が強い作品と評価したが、本作は、犯行動機や犯行手段、犯人の背景などの面で社会派ミステリーとしての完成度が高く、個人的にはこちらの方が高く評価できる。
デビュー作でコンビを組み、さんざん音道を悩ませた皇帝ペンギン・滝沢刑事が、こんどは警察の救出チームのメンバーとして登場し、大活躍を見せるのが面白い。相変わらず、女性刑事と組むことには難色を示しながらも、音道が刑事として優れた資質を持ち仲間として信頼できることを断言し、そんな仲間の救出のために全身全霊をかけて奮闘する。その言動の端々には、父親の娘に対するような愛情が見え隠れし、なかなかにハードボイルドでカッコいい! いやいや、カッコよ過ぎる。
シリーズとしてはもちろん、単発作品としても十分に楽しめる警察ミステリーだと思う。
鎖〈上〉 (新潮文庫)
乃南アサ についてのレビュー
No.28: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

名人芸を堪能できる

文庫本60ページ余りの作品で展開される各話のメリハリの効いた起承転結、絶妙の心理描写、人間心理を鋭く射抜く視点の確かさなどなど、短編の名手と称される横山秀夫の名人芸を堪能できる作品集だ。
いずれの作品も、過去の事件、事故にとらわれた人物が、その事件や事故に隠されていた真相に触れ、人間性、生き方を見つめるというテーマ性が共通している。事件捜査だけではない警察小説を確立した著者の得意なジャンルと言えるだけに、作品の完成度はどれもきわめて高い。
5作品の中では、親とはどういう存在であるかを苦渋とともに描いた「真相」が一番読みごたえがあったが、中年男性にとって生きがいとは何かを哀切に描いた「不眠」も忘れ難い印象を残した。
真相 (双葉文庫)
横山秀夫真相 についてのレビュー
No.27: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

ミステリーなのか?

もともと重い作品が多いトマス・H・クックだが、これは今まで以上に暗うつな気分にさせられる作品だった。ミステリーというよりは日本の私小説みたいな、徹底的に内向きのお話しで、通常のミステリーを読むようなカタルシスは味わえなかった。
最初から最後までホテルのラウンジでの二人の会話に終始し、現在と過去を行き来するだけの静かな物語。しかも、過去の出来事をいろいろな側面から見直してゆく(そこに、二転三転する真実が見えてくるのではあるが)だけなので、まるで老人のモノローグを聞いているような静けさで、ストーリーが展開されて行く。過去の事件の真実が明らかにされるという意味ではミステリー作品であるが、明かされるのは殺人事件の謎ではなく、その事件を巡る人物達の心模様である。これは果たして、ミステリー作品なのか?
好き嫌いがかなり分かれる作品だろう。
ローラ・フェイとの最後の会話
No.26:
(7pt)

〈俺〉も五十代になって変わったか・・・

ススキノを駈け抜ける〈俺〉シリーズも第12作になり、長寿作品に付きもののマンネリ感と安心感が強くなったようだ。熱は感じられないが、うま味は濃くなったような。細部を味わう作品とでも言えばいいのだろうか。本作だけを読む方にはオススメ度7、シリーズの読者にはオススメ度9という評価にした。
例によって、頼まれもしないのに犯人探しに奔走するのだが、今回は舞台がほとんどススキノに限られている上に、犯人の悪らつさや残虐さが抑えられているため、他の作品に比べるとストーリー展開のスピードに欠け、アクションシーンも少なくなっている。その理由は、作品中でも数ヵ所、五十代になった自分の衰えを嘆く部分が出て来るが、〈俺〉の年齢的な変化と言えるだろう。
〈俺〉シリーズの魅力の一つに、バカや田舎者に対する罵倒の辛辣さとボキャブラリーのユニークさがあると思っているが、今作品ではバカや田舎者にずいぶんやさしくなった印象を受けた。これも、〈俺〉が年を取って丸くなったせいかもしれない。
さらに、タイトルにもなっているように、今回は猫が主要な役割を果たしているが、猫とハードボイルドの相性はあまり良くないのではないか? パートナーの華と猫の二人に押されて、〈俺〉のハードボイルドな生き方が徐々に崩されかけている・・・さて、どうする〈俺〉?
猫は忘れない (ハヤカワ・ミステリワールド)
東直己猫は忘れない についてのレビュー
No.25: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

まさに全方位的エンターテイメント

カーソン・ライダー刑事シリーズの第二作は、解説者が書いている通りの“まさに全方位的なエンタテイメント・ミステリ”だ。
蝋燭と花で異常なまでに装飾された女性の遺体が発見され、それが30年前に殺された連続殺人犯につながっており、さらに現在の連続殺人とも密接に絡まって行く・・・・。
デビュー作に続くサイコミステリーとして、前作の印象を上手に生かしながら話が展開されて行く。しかし、前作が効果をあげているのは登場人物のキャラクターにまつわる部分だけであり、本筋は本作だけで本格派のミステリーとして完成しているので、この作品からライダー刑事シリーズに触れた読者もとまどうことはなく、面白く読めるだろう。特に、謎解きの上手さ、伏線の張り方の巧みさには舌を巻くしかない。読み終ったときに初めて気づかされる伏線の多さと答えの深さには、多くの読者が感動するしかないだろう。
それでもオススメポイントを「7」にしたのは、「百番目の男」、「ブラッド・ブラザー」に比べると技巧的な部分が勝ち過ぎていて、犯行動機や犯人像にやや物足りなさを感じたせいである。とはいえ、多くの方にオススメできる作品であることは間違いない。
デス・コレクターズ (文春文庫)
ジャック・カーリイデス・コレクターズ についてのレビュー
No.24: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

主人公の設定がユニークな本格ハードボイルド

主人公は引退したFBI捜査官なので何の目新しさもないが、心臓移植手術後わずか60日余りで捜査に乗り出すという設定が極めてユニーク。しかも、捜査を依頼してきたのが心臓を提供したドナーの姉というのだから、そのユニークさは飛びぬけているというしかない。
病み上がり(というか、まだ治療中?)なので激しいアクションはできないが、それでも格闘シーンなどもあって読者をハラハラさせる主人公だが、FBI捜査官らしいち密な分析で犯人を割り出していくのが基本で、この謎解きの部分も非常によくできている。また、FBIものによく見られる地元警察との軋轢に、退職した上に私立探偵のライセンスも持っていない(つまり、なんの捜査権もない)主人公が絡んで複雑なパワーゲームを繰り広げるのも面白い。さらに、ハードボイルドには欠かせない恋人や家族との葛藤も丁寧に描かれていて、実に素直に読むことができた。
多くのハードボイルドファンを納得させる傑作だと思う。
わが心臓の痛み〈下〉 (扶桑社ミステリー)
マイクル・コナリーわが心臓の痛み についてのレビュー
No.23: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

舌を巻くデビュー作

カーソン・ライダー刑事シリーズの第一作というより、ジャック・カーリイのデビュー作。
いや、あまりの上手さに驚いた。これで本当にデビュー作なんだろうか? ジェフリー・ディーヴァーを追いかける作家という評価も買いかぶりではないと実感した。
残念なことに(?)第4作の「ブラッド・ブラザー」を先に読んでしまったので、兄・ジェレミーの存在がそれほど衝撃的ではなかったが、本作から読み始めた人にはこの兄弟関係が強いインパクトを与えただろう。ただ、このシリーズ全体を貫く重要な要素になっているカーソンにつきまとう家族、過去の重さや深さは「ブラッド・ブラザー」の方がよく描けていたと思う。
ストーリーは、サイコサスペンスの王道を行く、首無し連続殺人事件。このなぞ解きだけでも十分に楽しめるレベルだが、登場人物のキャラクターやエピソードがしっかりしているので、物語として非常に厚みがあり、たんなるサイコ物ではない面白さがある。シリーズとして成功しているのも、当然だろう。
百番目の男 (文春文庫)
ジャック・カーリイ百番目の男 についてのレビュー
No.22:
(8pt)

シリーズは続く

カーソン・ライダー刑事シリーズの最新作。シリーズものを途中から読んだので、シリーズの最初から読んでいる読者とは面白さが違うと思うが、それでも十分に満足できる傑作だ。
主人公が刑事で、その兄がシリアル・キラーのサイコパスという、かなりあざとい設定だが、しっかりした構成と緻密なストーリー展開で違和感なく作品世界に入って行けた。
連続殺人事件の犯人探しと警察内部での対立や人間関係の面白さなど、読みどころは沢山あるが、犯人判明のどんでんがえしが強烈で、これだけでも高く評価できるだろう。
さらに、今後のシリーズ展開への期待を高めるラストシーンも印象的だった。
ブラッド・ブラザー (文春文庫)
ジャック・カーリイブラッド・ブラザー についてのレビュー
No.21: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

私はハマリました

Amazonでは批判的というか、面白くなかった、評価できなかったという書評がかなりある通り、好き嫌いが分かれる作品だと思う。その要因はドキュメンタリー的手法であり、登場人物の背景をきわめて丁寧に描いてドラマを作り上げて行く構成であり、なぞ解きより時代背景を重視した社会派小説的アプローチにあるのだろう。しかし、個人的には「模倣犯」に匹敵する傑作だと評価した。
これはあくまで趣味・嗜好の問題なので作品の出来栄えとはまったく無関係だが、「魔術はささやく」、「龍は眠る」、「蒲生邸事件」などのSF的ミステリーの方は、もう読む必要がないかなと思っている。
さて、作品は「占有屋」という奇妙な存在を核に、現代社会が抱えてしまった危機、血縁や絆など家族のあり方の問題、人間の欲望や感情など、さまざまな要素が絡み合って、きわめて重層的で重厚な作品世界を作り上げて行く。読み進むにつれて、なぞ解きの面白さが深まるとともに、それ以上に、現代の家族が抱える問題の複雑さに引き込まれ、まさに社会派ミステリーの傑作だ。
最近の宮部みゆきはファンタジーや時代小説が中心で、社会派的な作品が見られないのが、本当に残念だ。社会派への再挑戦を期待したい。
理由 (新潮文庫)
宮部みゆき理由 についてのレビュー
No.20:
(7pt)

まっすぐな音道

女刑事・音道貴子シリーズの短編集第二弾。
表題作の「未練」は男同士の絆が壊れる様を描いているが、こういう話は作者は苦手なのか? いつもの切れ味の鋭さが無く、凡庸な印象。むしろ、サイドストーリーの音道の友人に紹介された男との付き合いの話の方が、音道らしさにあふれていて面白かった。
いつまでたっても大人になりきらず、不器用でまっすぐな音道の生き方は、読者をハラハラさせると同時に、こんなにぶれない人もいるんだという爽快感を与えてくれるが、本短編集では、それがいっそう強調されているように感じられた。
全体を通して、音道のファンには彼女の性格をより深く知って行く面白さがあるだろうが、初めての読者にはややストーリーの深みの無さが物足りなく感じるのではないだろうか。
未練―女刑事音道貴子 (新潮文庫)
乃南アサ未練 についてのレビュー