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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1359件
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雑誌連載された長編小説。ミステリーではないが、一種の犯罪小説、ノンフィクションに近いスキャンダル小説である。
京都の日本画画壇の実力者で芸術院会員の座を巡って争う二人の猛烈な選挙活動を、リアルに、執拗に、傷口に塩を擦り込むようにして描いている。ある関係者が「これはノンフィクションです」と言ったそうだが、おそらくその通りだろう。とにかく、登場人物がみな一癖も二癖もある老人ばかりで、驚くべき執念深さで猟官活動に邁進する。そのエネルギーは驚異的で、芸術家と呼ばれる人種が長生きする理由はここにあるのかと納得させられる。 キャラクターの立て方、それぞれの言動などが、厄病神シリーズに通じるような切れ味とテンポの良さがあり、ページを捲るごとにどんどん物語の世界に引き込まれていく。 社会派のモデル小説がお好きな方には特にオススメ。厄病神シリーズのファンも十分に満足できるだろう。 |
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雑誌連載を元に単行本化された長編小説。道東の町に育ち、恋をし、生き抜こうとする女の生き方を描いた、ちょっとハードボイルドなエンターテイメント作品である。
戦後の匂いが強く残る昭和35年の根室。地元の老舗水産会社の三姉妹の次女に生まれながら、親に反抗して芸者になった珠生は、常連客の運転手を務める相羽に心を惹かれ、相羽が主人の罪をかぶって服役し、娑婆に戻ったところで一緒になる。主人から独立した相羽は、地元の裏社会を仕切る大物へと成り上がり、珠生の姉が嫁いだ運輸会社の長男と組んで、彼を代議士にするために裏の仕事を引受けていた。男たちの世界には口を出せない珠生は、口数が少なく、感情の動きを見せない相羽に心を乱しながら、ヤクザの姐さんの役割りを果たしていた。運輸会社の男は選挙で当選するのだが、選挙資金として汚い金を集めていた相羽には、密かに危険が迫っていた・・・。 お嬢様育ちながら芸者になった珠生が悩み、傷付きながら自分の生き方を貫いてゆく物語という、従来の作者のテーマの範囲内の作品である。ただ、住む場所が花街やヤクザの世界というのが新鮮で、従来の作品のようなひたすら重いだけのテイストではない。本作のセールストークにあるように、「極道の妻」的な面白さがあって、本格的なミステリーではないが、ミステリー要素を含んだエンターテイメントとして十分に楽しめる。 桜木紫乃ファンはもちろん、これまでの桜木作品が重苦しくて苦手だったファンにもオススメだ。 |
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2007年から10年に雑誌連載された長編小説。東日本大震災の前に崩壊しつつあった日本の地方の閉塞感をじっくり描いた、社会派エンターテイメント作品である。
大正時代に農業中心の理想郷を求めて建設され、現在では日本の繁栄から取り残されている東北地方の寒村を舞台に、不器用な生き方しかできない愚かな男と女の破滅的な戦いが展開される。その背景として、平成時代になって高齢化、過疎化、農業の衰退などで疲弊しきった農村社会の息苦しさが見事に喝破されている。この救いの無さは桐野夏生ワールドであるとともに、日本の社会の閉塞感の表れでもある。 ミステリーではなく、社会派作品としてオススメする。 |
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雑誌掲載の7作品を集めた短編集。
どれも、桐野夏生らしいといえば言えるダークな世界を描いた作品であるが、次の長編作品のための習作のような物足りなさがある。 桐野夏生作品はすべて読破したいという方以外にはオススメしない。 |
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2017年に発表された書き下ろし長編小説。連続殺人から物語は始まるのだが、ストーリーの中心は、13歳から14歳へ、子どもから大人に変わりゆく3人の中学生たちの喜びと悩みの物語である。だからといって、分かりやすい成長物語という訳ではない。
1980年代の台北市、義兄弟の契りを立てた3人組は、それぞれの家庭に問題を抱えながらも自由奔放に、けなげに、猥雑な町の悪ガキとして育っていた。ある日、いつも仲間の一人を痛め付ける継父を殺す計画を立て、密かに準備を進めていたのだが、その計画は想いもよらない結果を招き、14歳の少年たちは厳しい現実に向き合わざるを得なくなる。その30年後、アメリカで少年6人を殺害して逮捕されたサックマンと呼ばれる男は、三人のうちの一人だった。もう一人の仲間から頼まれてサックマンの弁護士となった「わたし」は、サックマンとともに自分たちの過去も振り返り、サックマンの犯行の動機を探ろうとする。30年後の悲惨な結果が、なぜ生まれたのか? その芽は14歳のときにすでに芽生えていたのだろうか? 永遠に解明できそうにない謎に挑んだミステリーである。 作者が得意な80年代の台湾が舞台になるだけに、登場人物たちがみな生き生きと行動し、ダイナミックなストリー展開が楽しい。連続殺人事件ものというより青春アクション小説である。ただ、サックマンがサックマンになる背景には非常に重いものがあり、軽く読み流せる作品ではない。 硬派というか、社会性が強い青春小説が好きな方にオススメだ。 |
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2017年に発表された書き下ろし長編小説。あとがきにあるように「人質立てこもりものの決定版のはずが、硬派な犯罪小説には近づくことができなかった」という、どちらかと言えばユーモラスなミステリー作品である。
誘拐をビジネスとする組織の末端にいる兎田が人質立てこもり事件を起こしたのは、愛する妻を人質に取られ、組織の金を持ち逃げしたコンサルタントの折尾を探し出すように命令されたのがきっかけだった。様々な行き違いから、関係のない一家三人を人質に取ってろう城することになった兎田は、組織に設定された時刻が刻々と迫り、焦りの色を濃くしていた。そこに、現場を取り巻く警察、何やら曰くありげな人質の奇妙な言動が重なって、事態は収拾がつかなくなってきた。犯人・兎田は愛する妻を取り戻せるのか? 緊張と笑いに包まれて、事件は想定外の様相を呈するのだった・・・。 話の展開には、かなりの無理があり、スリルやサスペンスとは無縁のどんでん返しがあって、あとがきが言うように、正統派の犯罪ミステリーではない。ちょっとおしゃれなユーモアミステリーである。犯行の動機や犯罪の様相、解決までのストーリーを追うより、場面ごとの著者の技巧を楽しむ作品と言える。 伊坂幸太郎ワールドになじめる人にはオススメだ。 |
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ミレニアム・シリーズの第5作。作者が代わってからの第2作である。
前作の事件での行動が原因で刑務所に入れられたリスベットは、囚人を牛耳るギャング・ベニートに虐待されていたバングラデシュ人の女性・ファリアを助けるためにベニートと対立し、ベニートに瀕死のケガを負わせたが、看守の証言などもあって刑務所から釈放された。収容中に面会に訪れた元後見人のホルゲルから、自分の子ども時代の秘密につながるヒントを聞いたリスベットは、ミカエルにも協力を求めて、その謎を解き明かそうとする。一方、リスベットの要請で調査を始めたミカエルは、調査対象である証券アナリストを調べるうちに、何か大きな秘密が隠されていることに気がついた。さらに、ホルゲルが何者かに殺害され、しかも瀕死のベニートが病院から脱走し、リスベットを殺すべく動き始めたのだった・・・。 「ドラゴン・タトゥーの秘密が、ついに明かされる」というのが本作のキャッチフレーズで、リスベットの過去を解き明かして行くのがメインストーリーであるが、サブストーリーとしてイスラム原理主義の女性差別、優生学的な研究の忌まわしさ、サイバーテロなどが取り上げられており、社会性の強いシリーズの特徴がきちんと受け継がれている。ストーリー展開もテンポよく、スリルやサスペンスもたっぷりで、ミステリーとしてのレベルは高い。ただ、これまでの4作品に比べると、物語としての密度がやや薄まっている気がした。 シリーズファンには必読の作品である。シリーズ未読の方は、ぜひ第1作から読むことをオススメする。 |
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「沢崎イズバック!」と興奮し、狂喜乱舞する読者も多いだろう。14年ぶりになる、探偵・沢崎シリーズの新作長編小説である。
多くの読者の期待を裏切らない、まさに沢崎シリーズの作品である。ただ、それ以上のものではない。決して出来が悪い訳ではないが、想像を超えるような興奮は得られない。とてもいい意味でのマンネリというか、古典落語の名人芸を聞いているような良質な満足感が得られることは間違いない。今どき、これほどチャンドラーの世界を受け継いでいる作品は珍しい。 ストーリー展開の意外性、スリルやサスペンス、アクションなどは関係ない。ただひたすら、沢崎のセリフの滋味を味わってもらいたい。 沢崎シリーズのファン、古典的ハードボイルドのファンにはオススメしたい。 |
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1995年から98年までに雑誌連載された、700ページを越える長編作品。スペイン現代史という逢坂剛の得意の舞台で繰り広げられる、豪華な政治アクション小説である。
1966年、スペイン上空で米軍機同士が衝突し、爆撃機に搭載されていた核爆弾4基が放出された。うち3基は地上で回収されたのだったが、残りの核爆弾1基は海中に没したらしく、米軍の必死の捜索でも見つけることができなかった。事実を隠しながら核爆弾を探す米国、その事実を暴露し、あわよくば核爆弾を入手しようとするソ連側のスパイが、スペインの田舎町で激しい神経戦を繰り広げ、この町に住むギター製作者・ディエゴのもとを訪れてギター製作を依頼し、出来上がるのを待っていた日本人・古城も否応無く、その争いに巻き込まれて行った。 1995年、新宿ゴールデン街でバーを営む・織部は、イギリス人ギタリスト・ファラオナのコンサートで彼女のギターに心を奪われ、彼女を店に招待する。店を訪れたファラオナは、古城と自分のギターが同じディエゴの作品であることに驚き、ディエゴに会うために一緒にスペインへ行こうと古城を誘ってきた。そして翌年、核爆弾墜落から30年が経ったスペインの田舎町で、二人は幻のギター製作者・ディエゴを探し始めたのだったが・・・。 スペイン現代史、情報戦、ギター、史実をベースにした現在と過去の並行した話の展開など、これぞ逢坂剛の世界という要素がびっちり詰まった超重量級の作品である。最終盤で、極めて重要な仕掛け(トリック?)が明かされるのだが、「それは無いだろう」とはならない。気持ちよくダマされた快感が味わえる。 逢坂剛ファンには文句なしのオススメ。スパイミステリー、軽いアクション小説のファンにもオススメだ。 |
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タイトルと表紙写真からある程度想像できて、強いインパクトは無いが、それなりに楽しめる長編エンターテイメント作品である。
獣医の手島伯朗は、突然、父親違いの弟・矢神明人の妻を名乗る女性・楓から「明人が行方不明になった」と知らされた。明人が結婚したことも知らなかった伯朗だったが、楓に頼まれて明人の行方を探すのに協力することになった。矢神一族は没落寸前の資産家で、周りはうるさい親族だらけ。突然姿を現した明人の妻を名乗る女が真相を究明するのは並大抵ではなく、協力する伯朗も自分の母親と義理の父親との関係で問題を抱えており、二人の調査は遅々として進まなかった・・・。 謎の女・楓のキャラクターが強烈で、行方不明探しはオマケで、楓と伯朗の関係の方がメインの物語である。スリルやサスペンスは皆無で、伏線の張り方やオチの付け方も、ラブコメミステリーだと思えば納得できるレベルであるが、さすがに東野作品だけあって読んで損は無い。 旅行中の待ち時間や乗り物の中で、肩が凝らないミステリーで楽しく時間を過ごしたい方にオススメだ。 |
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雑誌連載を下敷きにした書き下ろし長編作品。タイトルから想像できるように、花の幻覚作用をテーマにした、軽快なミステリー小説である。
水泳のオリンピック候補に挙げられていながら挫折した大学生・秋山梨乃の従兄弟・鳥井尚人が自殺した。プロ目前のミュージシャンとして夢を持っていたはずの尚人は、何故自殺したのか? さらに、梨乃の祖父・秋山周治が殺害される事件が起きた。単純な強盗殺人のように見えた事件だったが、周治が気にかけていた黄色い花の鉢植えが無くなっていることを不思議に思った梨乃が調査を始めてみると、その花には何かが隠されているような疑問が次々に出て来るのだった。謎の黄色い花の正体は何か? 祖父の殺害犯人は誰か? 動機は? プロローグが1と2の2つあることから、両方の事件の関係者の間に因縁があるだろうという想像はつくのだが、その因縁は最後の最後まで明かされることが無く、物語のテーマとして読者を引っ張って行く。最後の種明かしはやや強引ではあるが、ストンと収まって行く巧みな構成で読後の満足感は高い。登場人物の設定が上手いし、話の展開もテンポがよく、相変わらずのストリーテラーである。 東野圭吾ファンはもちろん、重苦しくないミステリーを読みたいというファンにはオススメだ。 |
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2007年から14年までに書いた短編13本を集めた短編集。さまざまなジャンルの作品集なので形容が難しいが、合う合わない、好き嫌いが激しく分かれる、評価しづらい作品集である。
私には難し過ぎて、読み通すの苦痛でしかなかった。 |
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1990年から91年にかけて新聞連載された長編小説。文庫本で750ページというボリューム満点の冒険エンターテイメント作品である。
「スペイン内戦で反乱軍側に参加していた日本人がいる」という情報を手に入れた通信社の記者・龍門二郎は、その正体を探り記事にしようとスペインに飛び、雲をつかむような頼りない情報をもとに取材を始めたのだが、知れば知るほど謎が深まり、さらに謎の殺し屋に狙われて我が身に危険が迫ってきた・・・。 スペイン内戦で反乱軍に参加した日本人を捜すというのが、本筋。それに加えて、龍門の母方のルーツを探るというサブストーリー、さらに、バスク独立派のテロ組織と右翼の秘密暗殺部隊の対立、さらに、内戦時に隠された金塊を巡る争い、さらには龍門の苦い恋愛、という、いくつものストーリーが重なった盛りだくさんの物語である。しかも、逢坂剛ファンにはうれしい岡坂シリーズのヒロイン花形理絵が登場し、主役・岡坂もちょこっと友情出演するなど大サービス、もう満腹をとおりこしそうなボリューム感である。したがって、いたるところで話の展開を楽にするための好都合な偶然の出会いがあるのが、ちょっと難点と言える。 スペイン内戦時と現代を行き来する物語の複雑な構成の割にストーリーを追うのが楽で、アクション、サスペンス、政治的なスリルもたっぷりと詰まっていて退屈することがない。アクション小説ファンにはオススメだ。 |
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2011年から16年にかけて雑誌に掲載された作品9点を集めた短編集。それぞれ独立した話だが、舞台設定や動機などで、日本人らしさという共通点があると言えば言えなくはない微妙なつながりで作品集として成立しているエンターテイメント作品である。
一つ一つの作品ごとに、きちんとした伏線と回収があり、しかも絶妙のオチが待っているという、読んでいて楽しい作品ばかり。今さらながら、東野圭吾のストーリーテラーとしての才能に感服した。 軽いミステリー作品のファン、ミステリーの初心者はもちろん、本格的なミステリーファンでも息抜き的に楽しめる、優れた作品集である。 |
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2010年、吉川英治文学新人賞の受賞作。土木建設業界の談合の不可解さ、面白さをテーマにした企業エンターテイメント作品である。
中堅ゼネコンの若手社員の目を通して、政財界が一体となった土木事業の談合をリアリスティックに、しかも面白く描いている。企業や業界の論理で理不尽なことを矯正されたとき、いちサラリーマンは何を考え、何ができるのか。業界全体のことを考え、自分の会社のことを考え、自分の生き方を考えて苦悩する平社員の葛藤がリアルに伝わってくる。 物語のメインである談合の裏表は非常に緻密に、迫真的に描かれていて迫力がある。一方、サイドストーリーである主人公の恋愛、家族との関係などはかなり類型的でやや迫力不足。自由競争と談合という不正義を必要悪として認めてきた社会が変わる可能性はあるのか? その一点に絞った企業小説として読めば、非常に良くできた作品である。 |
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2017年の雑誌連載を単行本化した長編小説。サハラ砂漠を舞台に、墜落した飛行機の生存者たちが砂漠からの脱出をはかる冒険小説である。
エジプトで発掘作業をしていた考古学者・峰がミイラを発見したのだが、それは仲間内の争いで殺された盗賊で、考古学的価値があるものではなかった。失望し、エジプトでの作業を諦めて日本に帰ろうとして峰だが、フランスの博物館から招待を受け、フランスに行くことにした。ところが、峰が乗った飛行機が墜落し、サハラ砂漠の真ん中に数人の乗客が取り残されることになった。墜落現場にとどまって救助を待つか、オアシスを見たという情報を頼りに歩き出すかで乗客は分裂し、峰を含む6人がオアシスをめざして歩き出した・・・。 物語の中心は、灼熱の砂漠での壮絶なサバイバルゲーム。読んでいるだけで息苦しくなるような熱砂との戦い、グループ内での疑心暗鬼と殺人事件、それにゲリラの襲撃まで加わって、面白い冒険小説になっている。ただ、タイトルとも関連する、もう一つのテーマが中途半端な付け足しのようで、最後に息切れした感が否めない。冒険小説と、もう一つのテーマでの社会派ミステリーとに分けて、2つの作品にすれば、もっと満足度が高かったのではないかと思う。 サバイバルもの、冒険小説がお好きな方にはオススメだ。 |
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東野圭吾のオカルト風味のミステリー。構成や文章の巧さでかなり読めるんだけど満足感がない、ストーリーテラー東野圭吾の弱点が出た作品である。
交通事故で女性を死なせたバーテンダーが、その女性の夫に襲われるという発端から、被害女性に似た謎の女が現われてバーテンダーが虜になって行くってあたりまでは面白く読めたのだが、その女が被害女性のクーロンというか蘇りというか、人工的な存在ってあたりからしらけてきた。 東野圭吾にしては駄作、と言わざるを得ない。 |
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2017年、ニューヨークタイムズのトップを何週間か獲得し、映画化も決まったというベストセラー作品。登場人物は不気味だが、読後感はスッキリの都会派ミステリーである。
高名なミニマリストの建築家エドワードが建てた家は、最新テクノロジーを結集した美しい建物だったが、完璧主義者であるエドワードの目にかなった人物しか入居できず、しかも極めて厳格な規則があった。シングルマザーになるはずだったのが出産時に赤ちゃんを喪ってしまったジェーンは、その痛手を癒すべく引っ越しを計画し、エドワードの面接にパスして、この家に暮らし始めた。ある日、玄関に花が置かれていたことから、以前の入居者であるエマがこの家で亡くなったことを知り、その詳細に興味を持った。それと同時に、エドワードとの付き合いが始まり、ジェーンはエドワードにどんどん惹かれていくのだった。一方、過去の入居者であるエマも入居してからエドワードと付き合い始め、当時の恋人を捨ててエドワードになびいて行ったのだが、エドワードの妻と息子が事故死したことを知り、事故の真相を探ろうとする。 つまり、ジェーンはエマのことを、エマはエドワードの妻のことを通して、エドワードの秘密を知ろうとするというのが大きな流れで、さらに、エマは強盗にあって強姦されたという過去があり、ジェーンは健康な出産ができなかったことをトラウマとして抱えていて、それが二人の言動に大きく影響しているという、複雑な構成になっている。しかし、物語は、現在のジェーンの章と過去のエマの章が交互に出てきて、それぞれのエドワードに対する気持ちが揺れるのを丁寧に描写しているので、読み辛さはない。 そしてことの真相が明らかにされたとき、読者は「やられた!」という爽快なショックが味わえる。ミステリーとしての構成がしっかりしているし、サスペンスの盛り上がりもなかなかで、幅広いミステリーファンにオススメしたい。 |
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2007年刊行の雑誌連載の長編小説。題名通り、犬の習性がポイントとなったミステリーだが、ミステリーというより主人公の大学生と仲間たちの関係を描いた青春小説として読む方がしっくりくる。というか、ミステリーとしては完成度が低い。
主人公と仲間の4人の大学生はキャラクターもきちんと描かれ、心理の動きも丁寧に追いかけていて面白いのだが、ミステリーの肝である犯罪動機、犯行形態、犯行の背景などがちょっとご都合主義で弱い。4人以外の主要人物も類型的で残念。 |
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横浜市で起きた、大型トレーラーのタイヤ脱輪による親子死傷事故を題材にした、社会派経済小説。読ませる、泣かせる、感動させる、一級のエンターテイメント作品である。
実際に起きた事件を下敷きにしているので、ほぼ予想通りのストーリー展開なのだが、登場人物、セリフ、エピソードが生き生きとしていて、一瞬たりと退屈することはない。 半沢直樹シリーズファンと言わず、ミステリーファンと言わず、多くの人が納得する面白さの作品だ。 |
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