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ニコラス刑事 さんのレビュー一覧

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レビュー数324

全324件 161~180 9/17ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.164:
(7pt)

一千兆円の身代金の感想

現実的なテーマを扱った誘拐事件のお話。リアルな問題に絡めて起きる誘拐事件を追う警視庁特殊班の刑事や各人の視点で進む展開だけれど、そのリアルな内容に囚われすぎて人物が少し掘り下げ方が弱いと云うか通り一遍の
描写に感じられて共感度は低い。圧倒的なボリュームで今の日本の現実を書き表しているが、こういったテーマのものには必ず参考資料が偏っているとか、一面しか見ずに取り上げているとかの批判が出てくるが
それは違うと思う。その問題だけを論じるのならともかくフィクションの物語のバックボーンであり人物を動かす材料なわけで、有る程度の部分を取り上げて背景として書いているだけだからそう神経質になる必要はないと思う。
個人的に興味があるのは、今は選挙権のない十代の人がこれを読んだらどの様な感想を持つだろうかと云う事。肝心のミステリとしての部分はそう謎解きもサスペンスも感じられず経済小説のような雰囲気だけれど警察内部の
動きや捜査のあり方はキッチリ書き込まれていて読ませる。ラストにどれだけの共感を得られるかが少し心配。女刑事も初めだけであまり目立たずに脇役どまりの感じで、どうもこういった点からも登場人物の配置とか動かし方が
中途半端に感じる。経済問題の資料にエネルギーを使い過ぎたのかな。個人的におススメは三好徹の「コンピューターの身代金」「モナ・リザの身代金」「オリンピックの身代金」と本田靖春「誘拐」天藤 真「大誘拐」ってところです。
一千兆円の身代金 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
八木圭一一千兆円の身代金 についてのレビュー
No.163: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

黒龍荘の惨劇の感想

金田一の世界のような本格的ミステリです。舞台は明治の時代です。北村 薫の「鷺と雪」も昭和初期の時代のお話でしたが、あれは単に物語の舞台として背景としての設定でした。これは明治時代という設定自体が内容の根幹に係わってくる
お話です。理由は、そうです現代では昔懐かしい本格ミステリは書き様がないからです。今の世の中では余りにも制約が多すぎます。交通が遮断した山荘で起きる連続殺人。警察の介入はなく助けを呼べない孤立した状況。このシチュエーション
だけでもサスペンスが盛り上がります。しかし、ケータイやパソコンで情報が直ぐにも外部に流れます。ミステリは成立しません。ならば時代を遡るしかありません。伊藤博文公の書生だった二人が探偵とワトソン役になって連続殺人の謎に
迫る物語です。政界をうまく泳ぎまわり利権を手にしていた男に脅迫状が届き、やがて屋敷内で首を切断された死体で発見されます。捜査に乗り出した二人ですが、次々と殺人が続きます。広大な屋敷にいる妾四人と座敷牢に閉じ込められている男。シチュエーションはこれ以上ないミステリ色満載です。死体を発見し隣の部屋に全員を集めて探偵が警官を呼びに行く。ワトソン役が全員を見守っているとやがて警官が来る。隣の部屋の死体を確認しに行くと首が切断されていた。いつの間に・・・。何故? 最後に六人の犠牲者がでても探偵はこれまでの出来事に16の謎が有るといいます。確かに不可解な謎が16もありますがこれをどう説明するのか最後のページまで興味は付きません。前作は読んでいませんが探偵とワトソン役のこの二人の様子や雰囲気も懐かしいミステリの世界で、続編を用意しているのでしたらこのままこの世界感で書き続けて欲しいものです。これはこれで成功と感じる内容でした。

黒龍荘の惨劇 (光文社文庫)
岡田秀文黒龍荘の惨劇 についてのレビュー
No.162:
(8pt)

七人の敵がいるの感想

始めにお断りしておきますがこれはミステリではありません。よってここで読後のレビューを書くのはサイトの趣旨からは逸脱していますが大変面白い本でありますので敢えて書きます。「ささらさや」を読んで
この作家の作品に惹かれたのでこの本も手にしました。超リアルな題材を扱っているのですがこれが痛快で楽しく笑いありホロリとさせたりとエンターティメントとして上々の作品です。編集者としてバリバリ働く女性が
主人公で担当の作家からブルドーザーとあだ名されるほどですが、その生き方にはある種爽快感があります。のほほんと苦労知らずに生きている人がいたらこの本を読むように意見したい気分です。缶コーヒーのCMじゃないですが、
世界は誰かの仕事で出来ている。そう、そのとうりです。お笑い芸人の言葉にあるように小さなことからコツコツとです。リアルな話ですが真正面から取り組んでいます。専業主婦もフルタイムで働く主婦も子供がいれば避けられない
問題です。七つのお話で構成されていますが男は一歩家から外に出ると七人の敵がいる、という有名な言葉に引っ掛けて主人公の山田陽子が遭遇する、あるいは自ら招くトラブルを真摯にそして面白おかしく描いています。群れない、井戸端会議に夢中の女たちを軽蔑する、そんな真っ直ぐで独自のポリシーを持った陽子ですが簡単に敵を作ります。ケンカ上等の精神ですが陽子も云っているように多くの無駄話のなかにたった一つ重要な情報が入っている。それを逃しているのは自らの生き方の所為とはいえやはり悔やまれるとそんなプチ教訓などもあります。女性の住む世界は男社会とは別に厳しいものですがその処世術なども学べるような気がします。視点を変えればサラリーマンの立身出世物語にも通じるような爽快感があります。群れないといっていた陽子ですが最後には知り合った愉快な人たちとしっかりネットワークを作っているところも笑いを誘います。ラスト七人目の敵から言われます七人の敵がいる・・・その後の言葉を知っている?されど八人の
仲間がいる。ラスボスとの気持ちの良い会話で七つ目のお話が幕を閉じますが、この作者のますますのファンになった自分を自覚しました。おススメです。(特にこれから結婚する若い女性に、子育てとは何か?それをこの本で学んで下さい)。
七人の敵がいる (集英社文庫)
加納朋子七人の敵がいる についてのレビュー
No.161: 5人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

人格転移の殺人の感想

ややこしいことこの上ない。次々と人格が移るので誰が誰だか把握するのに大変だ。芯のネタと云うかトリックは単純だが舞台装置がとにかく派手だ。こんなネタ良く思いついたと思ったが後記でその辺のところを書かれている。だろうね、まるでゼロからこんな発想早々できるものじゃない。しかし、上手く世界を作っているのがステキだ。ラストのオチも良いので読後感は上々だ。良く考えれば最初に犯人が薄々読めるところだけれど、目くらましが巧みなせいで意識がそこから
離れてしまう。この辺は筆者の腕の確かさが現れている。展開がテンポ良く書かれているのもその辺のテクニック。先へ先へと読者の目を向けさせるようにして真犯人へ辿り着かせないようにしている訳だ。こういうSFチックな舞台設定のものは
あまり好きじゃないけれどこれは楽しめた。西澤マジックの所以だろう。森 博嗣の解説も脱力ぎみで楽しめる。二人に交友があるようだけれどこんな解説ありか?
人格転移の殺人 (講談社文庫)
西澤保彦人格転移の殺人 についてのレビュー
No.160: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

白ゆき姫殺人事件の感想

格好はちゃんとしたミステリではあるが、かなり冒険的なレイアウトで書かれている。この作品に合った手法なのでこの場合は良いと思うが、このスタイルはこれだけにして欲しい。人が人を評価するのはその人の主観でしかない。
だから色々な人物像が語られる。しかし、その人の本質を的確に表現することは非常に難しい。そしてしょせん他人事という無責任さがオーバーな表現になったり、見当違いな見方になったりする。肉親であってもこの点は避けられない。
マスコミに追いつめられる一人の女性。ネット社会の弊害こそが問題であると作者は思っているのかな。すぐ実名を晒す無責任な掲示板好きの輩。この物語の中に出てくる人間はみんな歪だ。ルポライターという職業の人間でさえ
許しがたい軽薄さで動く。救いの無い物語であるが主人公のモノローグがこの本のすべて。身も心もキレイな美人女性はこの世にはいない、独身男性はこの教訓を忘れずに。
白ゆき姫殺人事件
湊かなえ白ゆき姫殺人事件 についてのレビュー
No.159: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人の感想

読み終わって一息後「お疲れ」と作者に云いたい。その執念には敬意を表するしかない。これこそがバカミスだと思った。でもなぁ三崎はともかく連続密室殺人て・・・ウソつけ。妙な記述が多いなと思っていたら・・・。
泡坂妻夫の「喜劇悲喜劇」を思い出した。知ってる?★きげきひきげき★上から読んでもきげきひきげき、下から読んでもきげきひきげき。これも労作だと思うけれど、この三崎~も凝りに凝った労作だと思う。
ま、空前絶後の一冊としてその存在価値を保ち続ける作品でしょう。二度読む気はしないけれど・・・。
三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人 (講談社ノベルス)
No.158:
(6pt)

『ギロチン城』殺人事件の感想

大仕掛けのトリックもの。遊園地のような家が実際にあるのか、とツッコミを入れたくなるような類の物はそれ自体の是非はともかくどう読ませるかが肝心だと思う。要は物語が面白ければそっちはまぁいいだろうとなる訳だ。
周木 律の「眼球堂の殺人」シリーズなどもそうだけれど建物に大仕掛けのトリックを施したものは物語がつまらなければ興醒めでしかない。どこまで許容できるかは物語次第だ。物理の北山と云うフレーズは自称か他称か知らないけれど
「アリスミラー城殺人事件」はbravo!だけれど(動機は苦しい)、これは個人的にはイマイチな印象だ。どうも殺人の動機が良く解からない。そんなことで大勢の人間を殺すか?無理が多いな。シチュエーションも変だしバランスが悪いのが
目立つ。やはり私は心理トリックのものが好みだ。
『ギロチン城』殺人事件 (講談社文庫)
北山猛邦『ギロチン城』殺人事件 についてのレビュー
No.157: 5人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

九マイルは遠すぎるの感想

有名な作品。短編の名手と謳われる作家の輝かしい歴史的な作品である。アームチェア・ディテクティブのジャンルだろうが、バロネス・オルツィ「隅の老人」シリーズやアシモフの「黒後家蜘蛛の会」シリーズと並ぶファンの多い作品だ。
日本で云えば都筑道夫の「退職刑事」シリーズが定番だろう。会話で片方が謎を提示し話を聞いた片方が鋭い洞察力をみせ真相を解明する・・・。このパターンは数多くあるがミステリの王道のひとつと云える。北村薫の「六の宮の姫君」の
円紫師匠と女子大生の「私」シリーズなどが質の高い作品だ。私個人もこのようなスタイルのものがとても好きでこの『九マイルは遠すぎる』は楽しめた。些細な出来事に着目し見過ごしがちな点を捉えて推理の幅を広げていくと始めには考えられなかった事実に行き当たる・・・。こんな楽しい話は無い。ホームズの『赤毛組合』からこういったロジックのものに夢中になった。ミステリファンなら読んでおくべき作品と云える。
九マイルは遠すぎる (ハヤカワ・ミステリ文庫 19-2)
ハリー・ケメルマン九マイルは遠すぎる についてのレビュー
No.156: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

武家屋敷の殺人の感想

初めて読む作家の本って、ある意味ギャンブル気分。当たりかハズレかどっちだろうと不安を抱えながら手にする。これは読んで正解の本だった。まぁ冒頭から謎全開で始まり家探しも説得力ある話で、フゥーンなるほどとしか云えない。
この辺の読者を納得させる筆力はたいしたもので物語への期待が膨らむばかり。ひとつの作品に散りばめられた謎も贅沢でこれは着地はどうするんだろうと心配になるほどいろいろの謎が提示される。収束も破綻無くまとめられていて緻密な
プロットを構築しているのがすごいと感じる。ちょっと島田荘司に似た文章でしっかり読めるのには安心した。これほどのネタを使ったミステリを書く人とは思わなかったので万馬券とは云わないまでも高配当を手にした気分。
他の作品も読もうと思った。未読の人にはおススメ。難を云えば冒頭に出てくる弁護士の川路が妙な言葉使いをして戸惑ったがこの点に作者は何の説明も無い。これはシリーズもので川路弁護士はシリーズキャラクターなんだろうか?
その辺が少し違和感があり最初はちょっと読みづらかった。しかし、ミステリとしは上出来で最後まで楽しめた。こんな作家が居たんだというのが素直な感想。
武家屋敷の殺人 (講談社文庫)
小島正樹武家屋敷の殺人 についてのレビュー
No.155:
(7pt)

紙魚家崩壊 九つの謎の感想

ポイントを7にしたのは、この作者がお気に入りの人でないとちょっととっつき難いと言うか少し理解が得られにくいと感じるからです。元高校の国語教師という著者の経歴を示す文章はとてもキレイで美しい。
日常のなんでもない風景からチラッと覗く小さな謎。最後に明かされるその意味。円紫師匠と女子大生の「私」シリーズで充分満足させられたあの時間。九つの謎が収められているが「白い朝」がもうどうしたって
一番の好みとなるのは、これはもう誰もがそうだろうと。憎い物語とオチ・・・堪らないなぁ。楽しめる人は楽しめる、そんな九つの謎を収めた一冊。貴重なミステリ作家である。
紙魚家崩壊 九つの謎 (講談社文庫)
北村薫紙魚家崩壊 九つの謎 についてのレビュー
No.154: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

上石神井さよならレボリューションの感想

樋口真由消失シリーズよりは間口を広くしたというか、読者層を下げたような感じだけれど、少し笑いの要素を多くした青春ミステリとしてこれはこれでより多くの人に受け入れられる作品じゃないかと。五編が収められているが
それぞれ工夫を凝らした謎を見せて、あっさり答えを出す探偵役の眉目秀麗成績優秀の変態がオモシロイ。細かな点まで計算された書き様で安心して読める作者の力量が心地よい。ビギナー向けのようでもあるが、そこそこ毒もあり
それほどノー天気なお気楽ミステリじゃないと。この作者のファンなら手にとって読んでみるべし。
上石神井さよならレボリューション
No.153: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

アトロシティーの感想

まず、訪問販売についてのいろいろな問題部分が書かれている。これは主人公が事件に入り込んでいくきっかけになるところなので、相手の手口とかずる賢さがしっかり丁寧に描かれている。要するにオレオレ詐欺的な犯罪を構成する
訳で、一般的な市民はキチンとした対処をしないと相手の思う壺にはまることになる。そうならないためにどうすべきか、そんな教えになる良い書き方だと思う。そして隣室のトラブルに係わった主人公は仕事としてアパートで餓死した親子の様子をリポートしているうちに、悪質な訪問販売を繰り返すグループが凶悪な殺人事件を起こしている事実に行き当たる。現実社会でもオレオレ詐欺や振り込め詐欺の犯罪をシンジケートを組んでやっている犯罪集団が居る。小説の中では騙され何もかも失った人が、復讐のため知恵を絞り用意周到に計画して相手を騙し失った物を取り返す、そんな内容が共感を呼び爽快感に繋がる訳だ。しかし、彼らは何の罪もない人たちをターゲットに大切なお金を騙し取っていく。ある意味とても許しがたい犯罪である。こういった犯罪に加わっているのが同じ人間であるという事実にやりきれなさ以外に何もない。ただ楽して人より金を手に入れたい。金を手に入れるためなら何も考えない。そんな人間の心の内は何がどうなっているのか非常に興味深い。脱線したがこの訪問販売のグループも主犯格は居るがメンバーがその度入れ替わり痕跡を残さないようにして捜査の手が及ばないようにしている。この連中も無機質な自分勝手な行動原理を見せ現実の詐欺集団と同じ描き方をしているので、読んでいると非常に腹立たしく、我知らず物語り世界に入り込んでいて苦笑する。けっこう展開の上手さ人物の動かし方の上手さがあり読みふける。ラストはともかく目の付け所が上手いなと感じる著者の姿勢で、ミステリとしてもこれはこれで面白い一冊と評価できる内容だ。
アトロシティー
前川裕アトロシティー についてのレビュー
No.152: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

冬空トランスの感想

長編だと思っていたが短編三作を収めたものだった。でも、「モザイクとフェリスウィール」は第二作目の「夏服パースぺクティヴ」の前日譚に当たる内容で、遊佐 渉と樋口真由が出会うエピソードからストーリーが展開していくので
物語としてはちゃんと繋がっている。「冬空トランス」は密室に絡むハウダニットがテーマで、樋口真由がここでも探偵としての属性をみせて活躍するストーリーだ。
そして「夏風邪とキス以上のこと」は渉と樋口真由の関係が一歩進んでいく様子が描かれている。その様子も第一作の「消失グラデーション」に出てきた謎の男「ヒカル君」が登場し、樋口真由との頭脳戦を繰り広げる中で
描かれている。いずれにしたも一作目、二作目と読んだ人はコレを読まなければ損だ。他にも愉快なキャラクターがいろいろ登場する。渉の父親など傑作だし、会話も楽しく面白い。
個人的にはおススメの一冊。
冬空トランス (角川文庫)
長沢樹冬空トランス についてのレビュー
No.151: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

リップステインの感想

渋谷を舞台にした青春ミステリ。不可思議な出来事と不思議な力のある少女が出てくるが、あくまでSFチックにしたままでハッキリと超能力的な書き方はしていない。そこが良いところだと思う。宮部みゆき氏の作品のようなSF全開の
ストーリーではない。出てくる人物はどれも魅力的で若い彼らの描き方はこの著者はとても上手いと思う。樋口真由シリーズもそうだけれどモノの本質が分かっている、そこがこの著者の文章に表れていて読んでいて心地よい気分に
なる。著者のスキルに合った映像制作に取り組む学生達を主人公に据えたミステリだけれど、最後の意外さとかストーリーの面白さに加えたミステリの基本形はしっかり押さえた内容で楽しく読めた。
個人的にはこの著者とは相性バッチリなのでただ面白いとしか言いようが無い。警察の捜査の動きやミスリードの巧みさもキレの有る文章で描かれ若者達の姿や会話がとても楽しい。
ストーリーも無理が無く最後の余韻もグッドだ。個人的にはおススメしたい。
リップステイン (双葉文庫)
長沢樹リップステイン についてのレビュー
No.150: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

致死量未満の殺人の感想

閉じ込められた山荘。ゼミ仲間のメンバー4人全員に殺意があった。15年の時効寸前に現れた一人の男が語る言葉。あの時の真犯人は俺だ。そんなシチュエーションで始まるストーリー。
誰がどうやって犯行を?それがこのストーリーの核。大仰な文章がいただけない。もっと宮部みゆき氏とかの文章などを見習うべきだ。でも、手垢のついたジャンルに挑む精神には敬意を表したい。
ドンデン返しの連続になる後半は楽しみながら読んだ。トータルで云えば自分はこういったものが好きなので面白かったと評したい。
このトリックに先例があるかどうか分からないが良く考えられていると思う。
この手の話が好きな人にはお勧めできる。一読の価値はある。
致死量未満の殺人 (ハヤカワ文庫JA)
三沢陽一致死量未満の殺人 についてのレビュー
No.149:
(3pt)

歪んだ創世記の感想

ゴメン。作品世界について行けなかった。ガマンして読んでいたが1章ぐらい読んでギブアップ。最後のページだけ読んでそういうことかと納得して本を閉じた。うっすらと想像していたような内容だった。
これはもう少し構成とかの問題と、あのクドクドシイ書き方の問題だと思う。そんなにくどくど書かずにもう少しスピーディに話を動かしたほうが良いのではないか。云おうとする状況は分かるが話の取っ掛かりにモタモタ
するよりも、もっと謎を読者に示したのならそのまま話の流れを早くして読者をひっぱるべきだろう。自分で自分の世界に酔っているそんな感じ。
歪んだ創世記 (講談社ノベルス)
積木鏡介歪んだ創世記 についてのレビュー
No.148:
(8pt)

激流の感想

けっこう長い。文庫で上・下巻に別れている。行方不明になった同級生と同じ班だった六人のその後の人生がメインストーリー。かなり理屈っぽい文章で様々な人生を送る六人が描かれているが、そういった点が物語りに入り込みやすい。
この人の筆致はこの物語にあっている。何故同級生は消えたのか、何故二十年後に彼女から私を覚えていますか?などとメールが届くのか?ミステリが好きな人にはこのシチュエーションには食指が動くこと間違いない。
なかなか上手い設定で物語を作るという印象だ。六人それぞれに降りかかる災難。それは自然なのか必然なのか。消えた同級生の出来事を引きずっている六人。シンプルに云うと消えた理由と送られたメールはそのつながりは破綻無く
こちらの胸に届く。誰もが秘密を守った結果であると言える。しかし、最後の章でそれが明らかになるまで少々長いと感じる。六人の人生を描きかったのだろうが、交差する事件にしても少しご都合主義的な流れが見える。
しかし、ストーリーテラーとしての印象を持ったのでこの他の作品にも興味を持った。機会が有れば読んでみたい。この作品に限って云えばミステリとしては、そう読んでいてワクワク感はないが面白い物語を読んだと言う印象でした。
激流〈上〉 (徳間文庫)
柴田よしき激流 についてのレビュー
No.147: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ボディ・メッセージの感想

ただ家に一晩泊まってくれ。探偵は二人で。そんな奇妙な依頼を受け向かった家では家人は何も語らず二人は酒を飲んで寝てしまう。しかし、明け方大きな音で目覚めた二人が見たものは切断された四つの死体。床は血の海で部屋に入らず
一旦引き上げ探偵事務所の所長を連れて引き返すと、死体も無く部屋の床もキレイになっていた。殺害した死体を秘密裏に処理すれば犯罪は発覚しない。何故二人の探偵に見せその後隠したのか?これが冒頭見せられる謎。
興味を引く設定ではある。創元推理文庫の大幅改稿による作品で読んだ。ネタバレになる危険が多いのでアレコレ書けないが冒頭の謎の意味も犯行の動機も一貫した流れで、最後の真犯人の指摘も意外なところに居てサプライズ感が強いし、
伏線もいろいろ張り巡らせてありキチンとしたミステリではある。細かい点はおいといてけっこう楽しめた。個人的には好みの作風である。
ボディ・メッセージ (被砥功児の事件簿) (創元推理文庫)
安萬純一ボディ・メッセージ についてのレビュー
No.146: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

儚い羊たちの祝宴の感想

どこであるとか、いつの時代であるとかハッキリとせず、昔話を語って聞かせるような文体で書かれているのがこの本の良さです。
『身内に不幸がありまして』 とてもブラックなオチが用意されている、笑いそうになるが笑えない怖いお話です。

『北の館の罪人』      イソップのような深い思惑が沈んでおり、探偵小説のスタイルを模して隠された意味が最後に強烈に胸に突き刺さる、そんな衝撃に見舞われるオチが読んでいてある意味爽快です。

『山荘秘聞』        そうだろうと、予想させておいて最後に違う手口で見せて結果は同じという離れ技が効いたシュールなお話。

『玉野五十鈴の誉れ』    個人的にはいちばん好きな物語。もの悲しく哀れさと怖さと不条理さがない交ぜになったお話で、やるせない想いが心に残るラストと心情の描写が秀逸。

『儚い羊たちの晩餐』    食は文化。その文化を逆手にとって不気味で怪しげな雰囲気の物語で最後に怖いオチを見せる作者のセンス。

              「バベルの会」がキーワードになっている連作ミステリですが、最後の一行にこだわった内容で、このような短編集はとても貴重です。作者のセンスの良さがあって初めて書かれる小説と言えるでしょう。
儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫)
米澤穂信儚い羊たちの祝宴 についてのレビュー
No.145:
(8pt)

ロンドの感想

創元推理文庫で読んだ。上・下巻に別れていてけっこう長い。幻の絵画ロンドにまつわる連続殺人事件の物語。絵画と言えば花やポートレートのような人物画とか印象的な街並みを描いた風景画を想像する。しかし、その一方で

死生観を表わした宗教的な意味合いを持つ残虐でグロテスクな画もたくさん有る。時の権力者たちに依って描かされた、あるいはおもねって描いたその様な絵も歴史的に存在する。このロンドも狂気のような絵画として知る人がホンのわずかという

幻の絵画となっている。魅せられた人たちに起こる忌まわしい事件。謎の人物からの個展の招待状。そこには有名な絵画を模した死体が用意されていた。主人公もロンドに魅せられた若い学芸員。幻の絵画ロンドとは。

抽象的な表現が多いが絵画にまつわるエピソードをいろいろ語り、事件に巻き込まれた主人公の行動を追う展開が上手く描かれていて眼が離せない。

それほどまでに画に魅せられる気持ちがいまひとつ理解出来ないのはこちらが凡庸なせいでしょうが、熱くなるその世界の人間の気持ちは正確に描写されている。初めてのミステリとしては良く書かれていると思う。

異質の作家の異質なミステリという事ですか。
ロンド (上) (創元推理文庫)
柄澤齊ロンド についてのレビュー