■スポンサードリンク


ニコラス刑事 さんのレビュー一覧

ニコラス刑事さんのページへ

レビュー数324

全324件 201~220 11/17ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
 閲覧する時は、『このレビューを表示する場合はここをクリック』を押してください。
No.124: 5人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

電脳山荘殺人事件の感想

ジッチャンの名にかけて、の金田一一のノベルス版ですが、ミステリのガジェットをいくつも使った本格ものでけっこう楽しめました。雪で閉ざされた山荘を舞台にしたクローズド・サークルものですが、集まった七人はチャットでミステリ談義に盛り上がる仲間のオフライン・パーティという設定です。この設定で思い起こすのは歌野晶午の「密室殺人ゲーム王手飛車取り」でしょう。しかし、こちらは1996年4月。歌野晶午のは2007年1月でアイデアとしてはこちらが先といえます。ハンドル・ネームを使い、本名も素性も明かさない七人。何者かに次々と犠牲になる七人。動機は読む者に入り込みやすい良く考えた設定で、被害者となる人物を上手く動かす犯人のアリバイ・トリック。ハンドル・ネームだけの事実誤認などが読者を迷わせるトリックとして有効に使われています。一の邪な計画で美雪と二人が偶然辿り着いた吹雪の山荘で遭遇する連続殺人事件。ミステリの王道ですがプロットがしっかりしているので犯人が簡単には読めません。そこを金田一一が推理で追い込んでいくところは楽しめます。

▼以下、ネタバレ感想
※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[] ログインはこちら
小説 金田一少年の事件簿(3) (講談社漫画文庫)
天樹征丸電脳山荘殺人事件 についてのレビュー
No.123:
(7pt)

僧正の積木唄の感想

始めに山田正紀氏の作品を読むのはこれが最初です。これまで読んだことがありません。個人的にミステリ作家と認識していなかったせいですが。ヴァン・ダインの「僧正殺人事件」をリスペクトした作品として気になっていました。
ようやく読む機会を得ました。ファイロ・ヴァンスが解決したあの「僧正殺人事件」が実は未解決だった。真犯人は別にいた。その辺のところを氏は上手く突っ込みながら物語を再構築しています。そして、僧正殺人事件2を解決するのが当事
サンフランシスコに滞在していた若き金田一耕助とくれば、もうわくわくのシチュエーションです。しかし、どうも物語世界に馴染みません。第一部から第四部まであります。しかし、物語が動き出すのが第三部からです。それまでは当事の
世相背景やら社会情勢などが繰り返し語られ、僧正殺人事件のあの雰囲気がまるで感じられません。その金田一耕助にしても違った印象で人懐っこさはそうでも、観察力洞察力の凄さが欠片も見せず単なる好青年のように写ります。
もっと、もっともらしく描いて欲しかったと思います。犯人もその背景も物語世界での辻褄はあっていますがさほど感銘は受けません。もっと金田一耕助を活躍させて、めくるめく謎の解明に挑む、そんなストーリーにして欲しかったと思います。
少しあっさり感が強い印象でした。ただ単にこちらが期待していた内容と違っただけかも知れませんが・・・。
僧正の積木唄 (文春文庫)
山田正紀僧正の積木唄 についてのレビュー

No.122:

冷血(上)

冷血

高村薫

No.122: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

冷血の感想

下巻を読み終えました。少し時間を置いて読んだせいか興奮も醒めフラットな気分で読みました。思うのは上巻が「動」なら下巻は「静」と云った印象です。逮捕された二人の取調べでの供述の裏付け捜査の様子や、地検とのあれこれ。そして調書を読む合田を通して、二人の生い立ちやこれまでの人生が浮き彫りになるが、何故一家四人を殺害したのかがハッキリしない。二人の行動の元になったものとはいったいなんだったのか。金が目的だった訳でもなく、ケータイサイトで知り合った二人が郵便局のATMを襲い失敗したあとも、別れるでもなくずるずると16号線を流れて赤羽まで行き四人を殺害した。混迷する合田雄一郎。そういった様子が長々と続きます。二人の行動を描写するところはその確かな筆力で読み応えがあります。生まれも育った環境もまるで違う二人。その二人の内面は調書を読む合田にはどれほど理解できたのかと思います。でも、こういった系統のものは久しぶりに読んだので面白かったです。佐木隆三の「復讐するは我にあり」や西村望の「丑三つの村」、宮部みゆきの「火車」などを読んで面白いと感じた人にはおススメできます。
冷血(上)
高村薫冷血 についてのレビュー
No.121: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

安吾探偵控の感想

あの坂口安吾が探偵となって、造り酒屋で起きた密室殺人事件を解決する物語。昭和の始めを舞台に京都伏見の下宿屋に居候する安吾が、ワトソン役の鉄管小僧と碁仲間の刑事からの問わず語りの情報と、関係者に会い証言を取っていく様子が読んでいるこちらにそのまま情報として示される。しかし、一筋縄ではいかない謎に包まれた家族。雪が止んだ後の現場では行ったきりの足跡。線盤時計や蝋燭時計が示す犯行時間。誰かがウソを吐いている。時代にあった人物などがさりげなく登場して物語に花を添える。造り酒屋としての、日本酒を造るという作業の難しさや理にかなった作法などもウンチクめいて描かれていて、本格的なミステリのスタイルに則ったストーリーは楽しめる。時間トリック、毒殺トリック、そして帰りの足跡がない密室トリック。さあ安吾とともに探偵をしよう。
安吾探偵控 (創元クライム・クラブ)
野崎六助安吾探偵控 についてのレビュー
No.120: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

眼球堂の殺人 ~The Book~の感想

眼球堂と呼ばれる館に招待された六人と一人。二日目の朝、死体が発見される。館の主人驫木煬が無残な姿で。その後次々に四人が。天才数学者、十和田只人が一連の事件の真実を証明する。そんなストーリーです。この手の館物は以前に読んだことがありますが、そっちはまぁ良いでしょう。しかし、天才と呼ばれる人間の思慮と云え凡人にはとても理解出来ない行動原理です。犯意がまるでわからず、そこはちょっと付いて行けません。フーとホワイとハウがそろう殺人現場。その胡散臭さはミステリの彩りとして有効です。ただ、やはり一人の登場人物が最後まで現れませんでした。そのために最後のドンデン返しが読まれてしまいます。ここはもう少し考えて欲しかったと思います。しかし、放浪の天才数学者というキャラクターは面白くこの後の活躍に期待したいです。

▼以下、ネタバレ感想
※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[] ログインはこちら
眼球堂の殺人 ~The Book~ (講談社文庫)
周木律眼球堂の殺人 ~The Book~ についてのレビュー

No.119:

冷血(上)

冷血

高村薫

No.119: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

冷血の感想

始めに、まだ上巻しか読んでいません。でもこの上巻もほぼ一日で読み終えました。久しぶりに興奮しながら本を読み進むという時間を堪能しました。文章が凄いなぁというのが素直な感想です。言葉がひとつひとつうごめき波となってこちらの意識の中に入ってきます。形容する言葉、表わす言葉、表現することを生業とする人が持つ資質が炸裂している文です。云っちゃあ悪いですが凡庸なミステリしか書けない作家には逆立ちしたって書けない文章でしよう。
高梨あゆみの目を通して描かれる高梨家の日常と家族の様子とその小宇宙。そしてケータイの求人サイトで繋がったトダヨシオとイノウエカツミ。ふたりの行き当たりばったりの行動。16号線を行きつ戻りつ郵便局のATMを襲い、コンビニを襲い
6、7万の金を奪ってクルマを代え16号線を流れて北区赤羽にやってくる。マンモス団地の先に一戸建ての並ぶなかにある歯医者の家に目をつける二人。ここまでの第一章だけでも読み応えがありページを捲る手が止まらなかった。
そして、第二章は一転して警察側からの描写になる。事件の発見から警察組織の人的内容とその動きが綿密に描かれている。縦社会の人事的な動き、実際の捜査のあり方の様子が緻密に書き込まれているかのようにリアルで目を見張る描写です。どれほどの資料を用意したのかと思うほど警察内部の動きがとてもリアルに描かれていて驚嘆します。カポーティの冷血と同じタイトルをもってきた作者の意気込みとかエネルギーとかがストレートに読んでいるこちらに伝わります。
ノンフィクション的な小説と云うのでしょうか。早く下巻も読まなければ、と思うのが正直な感想です。
冷血(上)
高村薫冷血 についてのレビュー
No.118: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

よろずのことに気をつけよの感想

呪術は心理戦という文化人類学者の主人公仲澤大輔と砂倉真由のコンビが、文献にも出ない隠れた呪術師たちを追って四国や東北を旅し、その土地の念仏を探っていく物語である。何者かに祖父を殺された真由が家の軒下から見つけた呪術符。それは50年も前のもので、強力な呪いを込められた本物の札であった。殺された祖父の過去と影の陰陽師たちとの係わり合いはどの様なものだったのか。謎を追ってわずかな手がかりから真相に迫っていく二人の行動が、犠牲祭祀や陰陽道に関するウンチクを絡ませながら描かれていて興味深く読み進む。かなりマイナーな事柄であると思う呪術についても、昔の人々の暮らしの中で根付いていた理由とかその役割なども解かりやすく主人公の口から語られていて新鮮であった。クライマックスの緊迫した事態も中々迫力ある描写で読ませる力があり、刑事コンビや関係者の動きなども無駄が無く展開を変えていくホンの小さな発見などが上手く描かれ、始めから最後までテンポ良く進むストーリーは読みやすく楽しめる。
この後もどんな作品を見せてくれるのか興味ある人である。同時受賞の完盗オンサイトとはまったく違った毛色の物語だけれど個人的にはこちらの方が断然面白いと言える。
よろずのことに気をつけよ
川瀬七緒よろずのことに気をつけよ についてのレビュー
No.117: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)
【ネタバレかも!?】 (1件の連絡あり)[]   ネタバレを表示する

鸚鵡楼の惨劇の感想

ひとつのトリックと云うか仕掛けで固められたミステリと言えます。作者の徹底したミスリードにより読者は真相に気付くことなくラストに至ります。四つの時間軸でストーリーが語られます。それぞれのエピソードの中で沙保里の話しに重点が置かれていますが、この女性の生活観と言うか生き様に余り共感出来ず、子供を怖がる理由もイマイチ不明で意味が良く解かりません。駿のエピソードはどうも読んでいて不快で気分のよいものではないのが難点です。と云うか全体的にどんよりとした暗いイメージで彩られているストーリー構成です。殺人事件の真犯人に迫る役割の人物にしてもあまり好感の持てる人物ではなく、本当のラストの様子もどうも違和感を覚えます。両者の気持ちのすれ違いといったところなんでしょうが、だからといってあのラストはどうなんでしょうか、まるでホラー小説的なオチに感じます。でも時代背景に合ったエピソードを使っているところは面白く感じました。ビデオ屋で借りるツイン・ピークスの話とか、灰とダイアモンドとかローズマリーの赤ちゃんや羊たちの沈黙の話などが出てくるところはニヤリとしました。まぁ、さらりと読める内容ですのでボンヤリ読み進み最後の意外さを楽しむのも良いでしょう。
鸚鵡楼の惨劇
真梨幸子鸚鵡楼の惨劇 についてのレビュー
No.116: 5人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

火の粉の感想

ストーリーは展開も上手く読ませる。特に後半はページを捲る手が止まらない。サイコ・サスペンス的な要素のあるストーリーだが、梶間勲の人生の皮肉さもひとつの問題提起を表わしており多様な見方の出来る物語といえる。雪見の活躍が手に汗握るところで、作者の人物の動かし方の上手さが良く観れるところでもある。俊郎のノー天気さは読んでいてイライラするが、大半の人はこの様な反応と見方で隣近所との付き合いを考えているんだろうなと思ってしまった。というか一歩離れたところで実情を知らないものにはこの様な反応しか出来ないものだと納得する。そういった気持ちのすれ違いがいろいろな問題を生み出していく訳で、人の世はすべからずそう出来ているのだと今さらながら気付いた。武内真伍はかなりデフォルメされた異常さを持った人間に描かれているが、程度の差こそあれこういった人物は居る。実社会に確実にいる。それが世間の荒波のひとつであるわけだ。自分ならどうするか、深く考えさせる物語だった。エンターティメントとしても面白い読み物だった。
火の粉 (幻冬舎文庫)
雫井脩介火の粉 についてのレビュー
No.115: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

愚者のエンドロールの感想

始めに、9ポイントとしたのは純粋に私の好み故の評価です。他の作品を読んでいるかどうか、と云った部分を抜きにしても面白いと思います。あとがきにもあるように、バークリーの「毒入りチョコレート事件」の本歌取りとして書かれたところもあるようですが、これはこれで成功しているように思います。入須先輩とホータローとの静かな対決といったシーンなどは面白く感じました。ホータローの覚醒か、内なる自分の解放といったニュアンスで自己に目覚める様子が名探偵誕生のシーンに見えました。結果ひとつの答えを出すわけですが、それにはホロ苦さが付いており一時気を落とす場面もあります。しかし、ホータローです。少しのきっかけで真相に気付きました。十人十色の見方で推理が生まれ、たった一つの真実に到達できるのは、やはり技術=能力ということなんでしよう。こういった芯の部分を抜きにしても登場人物の多様さ面白さは群を抜いており、初野晴のハルチカシリーズとこの二つがこういった青春ミステリのジャンルでは依り高いところに位置する作品と思います。読んでいると高校一年にしては老成した言葉や思考だなと苦笑します。他の登場人物にしても熟成した大人のようなもの言いと態度をみせますがまぁ良いでしょう。里志、ホータロー、伊原摩耶花、千反田える。この四人がこのままの関係で何年かが過ぎ、大人になったホータローが不思議な事件に「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に」と解決に手を染める、そんな物語を読んで見たいと思うのは私だけでしょうか。
愚者のエンドロール (角川スニーカー文庫)
米澤穂信愚者のエンドロール についてのレビュー
No.114: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

Killer Xの感想

カッパノベルス版で読んだので、著者名はクィーン兄弟となっており、真の著者を当てるクイズになっていた。文体だけで著者を当てるのは至難の業と思うけれど、解る人っているのだろうか。
さて、ミステリのガジェットをふんだんに使ったこの作品。猛吹雪に閉ざされた山荘が舞台で、このシチュエーションにチャレンジする精神にとりあえず敬意を表したい。おかしな招待状で集められた六人。山荘の主は高校の恩師で事故に会い車いすに乗っている。導入部分は興味津々で、並行して謎の突き落とし魔の事件を調べる刑事の様子が描かれている。新進推理作家の本郷の視点で語られ、彼が山荘の出来事を記録した日記を読む形になっている。つまり倒叙形式になっているのだが微妙な部分もありそう簡単には真相に近づけない。捻りのきいたストーリーだが、唯一地下二階はいただけない。最後に山荘に現れる人物との本郷との対決は読ませるところで、伏線の回収もここで行われるが本当のラストはさらに読み手の想像を裏切る形になっている。クローズド・サークルものとしては及第点の出来栄えではないかと思う。自分としてはこういったものは好きで楽しく読めた。こういった閉ざされた館ものは現代ではある一点が問題になる。それは携帯電話。外部と連絡が取れない状況が、より緊迫感を生むわけだが携帯電話というツールがある現代に於いてこれをどう処理するかがネックであるわけです。でもこの作品はそこの部分も上手く処理しているので、従来の閉じ込められた山荘ものとしての面白さが充分楽しめる内容でした。
Killer X キラー・エックス (光文社文庫)
クイーン兄弟KillerX キラー・エックス についてのレビュー
No.113: 6人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

プレーグ・コートの殺人(黒死荘の殺人)の感想

先に読んだ「火刑法廷」は多分にオカルト趣味的なホラー要素のあるストーリーで、あまり面白さは感じなかったが、この「黒死荘の殺人」は純粋な謎解きを楽しむミステリとして面白く読み終えた。H・Mの登場する第一作であるが、勝手気ままな性格でマイクロフトとあだ名で呼ばれるのを大いに憤慨していた、とある。マイクロフトとは例のシャーロック・ホームズの兄の名前からとられたもので、そんなエピソードがあるがこのヘンリ・メリヴェール卿の推理力は並ではない。
事件解決の後の推理を披露するところは読み応えがある。この犯人の隠し方は良く出来ていてなかなか見破るのは難しいと思う。トリック、意外な犯人、その隠し方、これはカーター・ディクスン名義のなかでも上位に選ばれる作品と納得する。カーの密室ものとしても楽しむことができる一冊で、ミステリ小説の面白さを満喫できた。
黒死荘の殺人 (創元推理文庫)
No.112: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

密室殺人ゲーム王手飛車取りの感想

ミステリーとは?に作者が示した答えがこの本であると思います。これはミステリ作家とミステリ愛読者との「楽しい遊びの場」であると言えます。究極の世界を設定しその世界でミステリのアイテム、ミステリのスタイル、トリックのパターンを惜しげもなく使用した「高等問題」を読者に示し、回答を読者がどの様にして導き出すか作者はニヤニヤと見ています。そう、あの綾辻行人の「どんどん橋、落ちた」とは究極の対比として見られます。もちろんその世界の住人が大前提でしよう。
仮に「ハーレクイン・ロマンス」の愛読者がこの本を手にしたとしたら、ありえない設定。非常識。キモい。バカバカしい。非人道的。などの意見が多く寄せられるでしょう。それがつまり他の世界の住人である証です。非常に高度な「問い=答え」あなたはいくつ答えを出すことが出来ましたか?ハンドル・ネームひとつにしても凝っています。作者の徹底した遊び心とミステリを愛するハートに触れてこの本を楽しむべきであると言えます。言わずもがなですが物語の最後にはキチンと登場人物にはケジメをつけたフィナーレが用意してあります。それが世に言う良識というもので、作者はキチンと配慮しています。凝りに凝ったスタイルのこの本。作者に拍手で応えるべきでしょう。
密室殺人ゲーム王手飛車取り (講談社文庫)
歌野晶午密室殺人ゲーム王手飛車取り についてのレビュー
No.111: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

二流小説家の感想

売れない作家に、収監されている死刑囚から告白本の執筆を依頼される。もし実現すればベストセラー間違いなし。ハリーは現在の生活から脱却できると死刑囚ダリアン・クレイがいるシンシン刑務所に向かう。しかし、このあとハリーはアクション映画の主人公さながらの災難と活躍をみせることになる。次々と若い女性を殺害し、バラバラに切り刻んだ後にゴミ箱等に捨てた殺人鬼。しかし、頭部だけは見つからない。そんな猟奇的な事件の犯人ダリアン・クレイ。彼の執筆依頼の条件はファンレターを寄越した女たちに会ってポルノ小説を書けというもの。彼に手紙を寄越した女たち三人に会っていくと、その女たちが次々に殺されていく。前の事件そっくりの殺害方法で。FBIのダリアン事件担当のタウンズ特別捜査官はハリーを疑い彼にまとわりつく。こういった流れでストーリーは進むが、間に彼ハリーがペンネームを使用して書いた、ヴァンパイア小説やらSFものなどが挿入されている趣向で作者の遊び心が見える。ただ、こういったサイドストーリーも本筋のストーリーにも、とてもオープンに書かれている部分が目に付き、かなり大人向きの内容ではないかと思う。少なくても高校生諸君には読ませられない内容と思う。ダリアンが犯人とされる事件とこの三人を殺害した犯人はどう繋がるのか。ダリアンは真犯人なのか。興味を引っ張りながらドンデン返しの結末に至る。さらにその後の真実に気付かされる訳だが、個人的にはそうワクワクしながら読み進んだとは言えないのが実情で、それは何故か考えるとミステリーとして、プロットは面白いが謎解きの要素が少し甘いということだと思う。しかし、翻訳の文の良さもあり物語世界にはすんなりと入りストーリーは楽しめたと思う。ハリーのモノローグや登場人物の造形も上手く文章はこなれている印象だった。
二流小説家 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕
デイヴィッド・ゴードン二流小説家 についてのレビュー
No.110: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

火刑法廷の感想

カーの作品の中ではこれが一番とされているのが通説です。当事にはこういったオカルト的な要素は違和感なく、また新鮮でもあったのでしょう。埋められた死体が消えた謎。覗き見た部屋のなかには古めかしい洋服を着た女がいて埋められた壁のドアから出て行き部屋から消えた。このふたつの謎がメインのストーリーです。そしてこれだけではなく、マークの友人エドワードの妻マリーにそっくりな女性の写真が預かった原稿の中にあったが、写真の女性マリー・ドブレーは1861年殺人罪によりギロチン刑に処されている。しかし、その写真はどうみても妻マリーに見える。こういった不思議な話を織り交ぜて死んだ当主マーク・マイルズの甥マーク・デスパードが、その友人エドワード、トムたちと事件解決に動き回る様子が描かれている。しかし、話を膨らませているのは登場人物たちの多彩な個性とその役割です。謎解きの部分を忘れるほど個性的な人たちの様子が上手く描かれています。けっこうストーリーテラーとしての一面もカーには感じます。読んでいて気付いたのは島田荘司です。彼の原点はこれだなと思いました。さて、肝心のメイン・トリックふたつですが、いまどきのミステリを数多く読んでいる身としては「フーン」としか云えません。これは残念なことですが古典の宿命でしょう。当事の人たちはどうだったのでしょうか、アッと驚くトリックだったのでしょうか。それにしても解決後のエピローグはどうなのでしょう。「火刑法廷」という本のタイトルはその意味だったのでしょうか。自分的にはオカルト的な要素が入った内容のものは余り好みではないので、残念ながらとても面白かったとはいえない気分です。
火刑法廷[新訳版] (ハヤカワ・ミステリ文庫 カ 2-20)
ジョン・ディクスン・カー火刑法廷 についてのレビュー
No.109: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

黒猫の遊歩あるいは美学講義の感想

初めて読む作家の本で、たまたま手にしたものです。云ってみればコージー・ミステリーですが、ちょっと異質で変わった視点から捉えた物語となっています。六つの連作短編集ですが、主人公の語るウンチクが小難しくて硬い文章ばかりが目につきます。その辺で多分に損をする作品と云えるのではないかと思います。ポォの作品を下敷きにした物語を見せますが、ポォ自体を読んでいない人には楽しめるのか否かちょっと疑問に感じます。謎解きの部分も多少読者にとってアンフェアなところがあり、主人公の推理にも素直に感心できません。「主人公」と語り手の「私」のコンビはいろいろ意見があるでしょうが、書く側から見れば他とは差別化を図る意味で苦心の設定ともいえます。そう云った点で良しとしましょう。ポォから離れたらこのコンビはどのような事件と遭遇し、どのように謎を解き明かすのか興味があります。これ一冊しか読んでいないので機会があれば他の作品も読んでみます。 文章に多少キザっぽさを感じますが情景や心情などは上手く表現されていると思います。この後もあっと言わせる作品をぜひ見せてもらいたいものです。

黒猫の遊歩あるいは美学講義
森晶麿黒猫の遊歩あるいは美学講義 についてのレビュー
No.108: 6人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

水族館の殺人の感想

前作の「体育館の殺人」に続く裏染天馬が推理の冴えを見せるシリーズ二作目。読んでいて思ったのがこの作品の世界は完全に出来上がっていること。登場人物たちのそれぞれの役割とかキャラクター設定が出来上がっているので、彼らが物語を動かしていくのにうまく機能している。刑事が高校生に捜査に詰まったからといって協力を仰ぐなんてそんなバカな、なんてつまらない野暮な突っ込みは止めましょう。そんなところにも利害関係をちゃんと用意して天馬の隠された素性が少しずつ明かされていく計算を作者はしています。平成のエラリー・クイーンと評する裏表紙のとうり、論理の積み重ねにより表面には見えない事実を読み取っていく彼天馬の推理は圧倒的に凄く、物事の真理を突き詰めた人の心理面までをも鋭く見抜く天馬の推理力。何故それがそこにあるのか?黄色いモップと青いバケツ。事件を解決するのは結局その黄色いモップと青いバケツでした。論理的展開の圧倒的な面白さ。ミステリーの醍醐味がここにあります。この作者、只者ではない。
水族館の殺人 (創元推理文庫)
青崎有吾水族館の殺人 についてのレビュー
No.107:
(8pt)

伯母殺人事件の感想

乱歩が評した無邪気な悪人が、伯母を殺害し父母の遺産を手にして彼の云うぞっとする土地を離れるため、あれこれと書き留めている彼の日記を読むという形式の倒叙ミステリーである。エドワードとミルドレッド伯母さん
の確執の部分は彼の日記に書かれているところは多分に彼の主観によるもので鵜呑みにするのはどんなものか、と少し身構えながら読み進めたがそれでも彼エドワードの言い分は面白くもあり、その対立の構図がユーモラスなところもあって
彼の意図する完全犯罪がはたして成功するのか先を読み進むのが楽しみであった。クルマの事故と発火装置による殺害が失敗に終わるが、その後の毒殺を考えるあたりからエドワードとミルドレッド伯母さんの対立が緊張を増していく様子を見せ始め最後の意外な結末へと結ぶわけである。全体にやんわりとした感じの文章と言葉で表わされているのでユーモア感さえ伺える。ミステリーらしからぬミステリーとして面白い内容で忘れ去られるのはもったいない本といえるのではないのかな。

伯母殺人事件・疑惑 (嶋中文庫―グレート・ミステリーズ)
リチャード・ハル伯母殺人事件 についてのレビュー
No.106: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

衣更月家の一族の感想

三つの事件が起きるが、その裏には悪意を持った人間の巧妙な犯行が隠されていた。そんなストーリーである。廣田家の殺人が発端で殺意は否認したが犯行は認めた男の逮捕で一件落着の簡単な事件と思われた。小さな齟齬があるが刑事も
読んでいるこちらも気づかずスルーしてしまった。そこから第二、第三の事件が起きるがタイトルとは無縁の事件のように見える。何故か?それは事件を調べていた興信所の探偵によって明らかにされる。一本の線によってつながりをみせる時
タイトルの意味が解かってくる。まぁ手の込んだ構成とは云えるが話そのものに余り面白みがないようにも感じる。女性らしからぬ男性的な筆致で書かれているが、発端がジャンボ宝くじの3億円というのもなんだかなぁと云う感じで、物語に
ロマンがないって気がしてしまう。弁護士から齢60歳を過ぎてからの執筆とのことですが、刑事コンビのやり取りとか証拠調べや事件を追う様子の描写は経験の裏打ちなのかリアルさがあり読ませる部分ですが、肝心の『物語』がいまひとつと云った印象でした。
衣更月家の一族 (講談社文庫)
深木章子衣更月家の一族 についてのレビュー
No.105: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

天外消失の感想

電話ボックスに入った人物が忽然と消えた。これを理路整然と解明し説明する奇術師探偵マニーリー。素直に感心し納得するだけの私。この一篇だけでも読む意義がある。その他にも今読んでも充分楽しめる作品が収められたこのアンソロジー。
珠玉の一冊として大事に残したい本である。ミステリの醍醐味が凝縮された短編ばかりが集められている。ゆっくりとした時間の時に珈琲を片手に味わってみるのも良いでしょう。
天外消失 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1819)
クレイトン・ロースン天外消失 についてのレビュー