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ニコラス刑事 さんのレビュー一覧
ニコラス刑事さんのページへ書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点7.65pt |
レビュー数324件
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ミステリー度は低いです。それよりも完成された物語の面白さに引き込まれて読み耽りました。
時代背景、人間関係の背景がしっかりと描かれているので物語のデティールが際立っている。 それぞれの心情が上手く描かれ無理のない事態の流れ、時の流れが物語を紡ぐ。 刑事の来訪で捨てた故郷に帰る主人公の回顧を通して物語は展開する。 閉鎖社会の中での暮らし。時を経て継がれていく因習。逃げられない運命。こういった 一つ一つのピースは目新しさはないけれど、物語の中に引き込む筆力がそれらを忘れさせる。 主人公の必要とされない寂しさが良く分かる描き方は上手い。 最後の真琴の言葉が救われる思いだ。 一気読みに近い形で読み終えた。満足の一冊。 |
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少女が消えたとはいえ初動捜査が難しい。事件か事故かそれとも単なる家出なのか。
大量に人員を投入しても全方位の捜査では情報が錯そうする。そんな難しい捜査の中で一人の警部補を主人公に した物語が始まる。少女が消えて24時間、そして二日たち三日たっても見つからず何の手掛かりも無い。 捜査と家族の苦悩が描かれるが中々読ませる。主人公の警部補のサイドストーリーも良い。 離婚し親権を争っていた両親、警部補の家族の問題。守るべき家族の絆とは?そんな問題にスポットを当てて少女の行方を追う 展開が読ませる。中々楽しめた一冊。 |
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あの杉村三郎を主人公とした短編集。
東京北区の北東部に私立探偵事務所を構えた彼のもとにやって来る依頼人たち。 四つの短編が収められた本書はどれも宮部みゆきらしい物語が展開する。やって来る依頼者の相談事は 日常の謎的なアプローチだけれど、調べ始めるとこれがけっこう重かったりするのがどうも違和感を感じてしまう。 これはどうしてかというと、彼の周りにいる人たちは皆人情味たっぷりで落語の世界の住人のような善人ばかりであり、 杉村三郎という人間と彼らとの関わり合いが微笑ましく描かれているから。 だけど持ち込まれる相談事の奥には殺人という凶悪な事実があり、その陰と陽の落差が大きくて読んでいるこちらは ちょっと気分が沈んだりするのだ。杉村三郎というキャラクターから言えば殺人などのないコージーミステリーでいいのではないかと思う。 彼のキャラクターとしては、人が人を殺すという出来事などのない、普通の暮らしの中で起きるちょっとした謎めいた現象を解き明かすという 探偵の方が向いていると思うのだが。 とはいっても相談事を調べていくと意外な真実に行き当たるというパターンではあるがそこは宮部みゆき。 物語を作る才能がしっかりと発揮され、どれも展開の妙と意外性が楽しめる。 つまりはいつ読んでも宮部みゆきは安心して読めるということ。 |
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後妻業を読んでからこの作家にハマった。
つまりはこの人の文章が自分にはぴったりくると言うこと。大げさでなく地味でもなくどちらかというと簡潔ともいえる 書き方で物語が進むのだけれど日常が上手く書かれていて読み進むのが楽しい。 どの作品でもそうだけれど登場人物が酒や食い物に金を使うことには頓着しないところがあって、ある意味こちらには そこが小気味よくてストレスの解消になるところもある。女に関してもそうで自分には出来ない生き方が読んでいて痛快と 感じるのがこの人の作品の本筋だろうと思う。一課ではなく薬対課の二人の刑事の遠張りという何気ない日常から始まる この物語はある意味淡々と進む。しかし、オマケのような拳銃発見という事態から思わぬ方向に二人の刑事も振り回される 事になる。和歌山の刑事もキャラ的には面白く三人での特捜捜査も和歌山の刑事の云う通り捨てられた三人であるのは 間違いないだろう。そんな三人がじわじわと足を踏み外していく様が読んでいてとても分かり易い。 下っ端刑事の心情と思惑がストレートにこちらに響く。書き方の妙とセリフの面白さ。やくざ社会や企業の裏の顔と言ったところは この人の独壇場ともいえるほど的確で物語に馴染む描き方だ。何冊か読んだけれど例の刑事コンビとは違う二人の刑事の物語だが 好き嫌いでいえばこっちの方が自分は好きだと言える。ラストもまぁそんなところだろうと納得して読み終えた。 この人の作品をもっともっと読みたいと思うが意外と高齢の方なので新作が出るのか分からないが期待はしたいと思う。 |
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話題になっている本ではあるけれど、ネットのレビューとか一切見ないで予備知識なしで読みました。
文庫本上・下の二冊になっていて、読み始めると上巻は面白かったんです。階段の上から掃除機のコードを足に絡ませて 転落したように見える家政婦の死体。館に入るには窓を割って入るしかない状態。その家政婦は詮索好きでいろいろと人の秘密を知っていた様子。 出てくる人物は誰もが思わせぶりなモノローグで怪しさに満ちている。そして館の主の殺人事件が起きる。雰囲気といいバラエティに富んだ登場人物たちといい 読みながらのワクワク感はどんどん膨らんでいく。しかし、下巻になるとそのカササギ殺人事件を書いた作者が死亡する。自殺か事故かそれとも・・・・・・。 といった展開で作者の死と作品の中の犯人捜しの双方を読者は追っていくことになるという趣向。 ミステリのネタはいろいろとバラ撒かれており手が込んでいる。しかし、ネタそのものが本国ならともかく日本の読者ではちょっと付いていけないと思う。 人名のことやらなんやら英語に詳しくないこっちにはそんなことはピンと来なかった。ミステリとしてのお遊びが言語の違うこちらにはダイレクトに響かないのがもどかしいとなるんですよね。 作者の人となりも周りの人物が云うように好人物とはいいがたい人間のように作られているのもどうなのかと思う。 そんな人物では自殺なのか事件なのか熱を持って調べるのもおっくうになる感じで、下巻では一言一句目を凝らして読み進むということがしんどくなってきた。 つまりは上巻のまま物語が進みミステリとしての醍醐味を味わいたかった。 仕掛けそのものはミステリファンには受ける趣向だろうけれど、個人的にはちょっと違っていて残念な感じが大きい。 |
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建設コンサルタントを仕事とする二宮にはサバキを依頼する相手として極道の桑原は顔見知りだった。
シリーズ一作目はこのような二人の関係だけれど二作目、三作目、となると二宮が桑原に引っ張り廻されるようになる。 この一作目でもその下地が出ていてなんだかんだと引きずり回される二宮の様子がオカシイ。 だが二宮も堅気とはいえ博打は好きだし酒や上手い食い物には目が無い。そして金にも執着する。 一作目として人物の造形がキチンとし、二人が動き回る行動原理もハッキリしている。 後はどんなドラマを描くのかとなるが、そこに産廃という現代にとって無視できないゴミ問題を絡ませてきた作者。 関西弁のノリの良さ。二人のセリフのバカバカしいやり取り。大阪を舞台にしたドタバタ劇だけれど内容はリアルで、世間に名の通った企業でも ひとつ裏側から見れば、というありきたりの設定もこの作者にかかればずいぶんと納得させられる話になる。 絡まる人間の欲が物語の面白さにつながるのだけれど、この物語に善も悪も無くただ金を巡る駆け引きで最後に誰が勝つのかというハリウッド映画的な 面白さがこの本のすべて。大阪中を走り周り殴り殴られ金の匂いを追っていく二人の行動が痛快なエンターテインメントだ。 二人のコンビの絶妙さがこの物語を面白くし、読んでいて飽きさせないポイントになっている。 |
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二宮が疫病神と嫌う桑原にいつものパターンで引き込まれて北朝鮮まで行くことになる話の導入部も無理が無く
相変わらず物語の展開が上手い人だと思う。最後に次の資料を参考にしましたと北朝鮮関係の本がズラリと示されているように この作家は徹底した掘り下げ方をする。しかし、物語そのものは金の奪い合いでありシノギのためには相手を出し抜くことしか 方法がない。云ってみればそんなドタバタ話しだけれどこれが面白い。北朝鮮での二人の行動もデティールがしっかりしているから 否が応でも緊迫感が増す。主人公の二人も調子よく無傷でスイスイ危機をかいくぐって行くというような都合の良い軽さはない。 二宮などはヤクザに捕まりボコボコにされることは何度もある。しかし、機転を利かせてそこを抜け出すのがつまりは金だ。 金を武器に人を動かし情報を集める、そんなシンプルな方法で裏側に潜む奴らに迫る二人。刑事の中川や死んだ親父の昔の彼女などが 重要な話を聞かせたりと、少し都合が良いがその辺は誰かが話さないと物語が先に進まないのでやむを得ない。 北朝鮮であったり産廃であったり詐欺師や乗っ取りの話しで出てくる金融や整理屋などの裏社会の話しもこの作家は詳しく調べて書いているので より物語に深みが出る。そんな中イケイケヤクザの桑原と引っ張り回される二宮の笑える生き方と金への執着心。 舞台となるのはいろんな業界の裏の部分だけれど、この作家の筆の確かさはどれもスカッとしたエンターテインメントにしてしまう。 さて次はどれを読もうかとニヤニヤしている。 |
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直木賞受賞作ということで手にしたが大阪を舞台にしたハードボイルド小説といった感じ。
つまりフィリップ・マーロウのお話を大阪を舞台にしたらこうなるって意味。 セリフは当然大阪弁なので何となくユーモラスで読んでいて面白い。桑原と二宮のやり取りなどはニヤニヤしてしまう。 文章も簡潔というかくどい描写はなく展開がスピーディで面白い。展開と言えば先が読めないのも特徴で話が進むほどもつれてくる。 いろいろな出来事と人物が入り乱れるのだが、二人の行動がそれを一本の線にしていくところがミステリの謎解きの部分に当たり 読みだしたら止まらない。先に『後妻業』を読んでテーマになるところを詳しく調べてあったり、話の展開が上手く面白いなという印象の作家だった。 出てくるいろいろなエピソードも上っ面だけの知識だけで書いてはいないので物語世界をガッチリとしたものにしている。 『悪名』の八尾の朝吉と清次のコンビに似た二人の行動を追っていく物語だが、二人が動くのは金のためであり生き様はとてもシンブルだ。 酒と上手い食い物、それらに金を使うのには金額など頓着しない。こういったところも読み手のストレスを発散させるところがあって面白い。 どうもこの作家にハマったようなのでこのシリーズを読んでみようと思った。 |
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『そしてミランダを殺す』のあのワクワク、ドキドキ、ハラハラが染みついている私はどうしても期待してしまう。
まぁ、悪くはないんです。著者らしさは十分に出ています。物語の組み立て方などミステリファンの心をガッチリと 掴んだお膳立てで書かれています。出てくる人物も誰を信用してその視線で読んでよいのか迷います。 文章も『そしてミランダを殺す』のように物語に入り込みやすく、それでいて下品でなく洗練された胸に沁み込む文章です。 余談ですが、フランスでもっとも人気のあるミステリ作家と言われているギヨーム・ミュッソの『ブルックリンの少女』をいま 読んでいますが、物語は面白そうですがどうも文章がつまらないというか、浅い感じであまり楽しみながら読み進むという感じじゃないんです。 この人に比べればピーター・スワンソンの文章は段違いに素敵です。良く情景が分かるし人物の息遣いまで感じ取れます。 ただ、迷わせて結局それか、と感じさせる内容のお話では『そしてミランダを殺す』以上にはなり得なかったと言えます。 コチラが大きくハードルを上げているので、そうなるのでしょうが残念です。 でも、楽しめるのは間違いありません。過去の出来事で心に傷を負っている女性とシリアルキラーのような男との対決。 ありがちな構図にちょっと捻りを加えた物語ですが、ミステリファンを飽きさせることなく最後まで引っ張り読ませるのは流石です。 |
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単行本上・下巻に別れた圧倒的ボリーュムの本。
ある場所で出会った少年二人と一人の少女。 そして17年後ふたたび出会う三人。一人は刑事、もう一人は弁護士、そして少女は看護師になっていた。 そんなところから物語は始まる。17年前と現在を交互に見せながら展開する物語はしかし暗い。この三人はどうしようもなくネガティブだ。 そこが読んでいてイライラする。ハッキリ言ってこんな話は読みたくない。親が子供への虐待や育児放棄は今やすっかりおなじみだ。 子どもの心に深く傷をつける。それは分かる。理解できる。父親に殴られたことから窃盗症となり万引きが止められないという人物のニュースも見た。 他人には到底踏み込めない心の深い奥底にはどんな感情が渦巻いているのか分からない。 でも17年も経っている。刑事や弁護士に看護師になっているだろう。その間に過去はどうあれ社会の中でいろんなことを見て経験して身に付けて来たものがあるはずだ。 心の奥底にあるものに蓋をして生きて来たというけれど、ちょっと違うのじゃないかと思う。孤児同然の暮らしで虐げられた子供はみんな他人を寄せ付けない性格となりチンピラや 半グレからヤクザになるとでも言うのだろうか。まったくこの三人の思考や行動にはついていけない。そういう物語だと思っていても読んでいてイライラが募る。 奈緒子の死には憤りを感じる。梁平、お前は刑事だろう。最低な奴だ。過去なんでどうだっていい! 現代で起きる二件の殺人事件。そして17年前の山での秘密。すべてが明らかになるまでの暗くウジウジした話。大勢の登場人物をキメ細かく描き丁寧に描写するその筆力で物語世界に取り込まれる。 だが疲れる物語だ。こんなうっとおしい物語は勘弁して欲しい。土橋という医師にもイラつく。優希が私には構わないでオーラ全開でバリアーを張っていることに対して 何の手立ても講じない。学識と経験を積んだ医師だろう。山に行くことに関して普段とは違う様子で議論を吹きかけている姿にも何も感じないぼんくら医師だ。 これはつまり作者の考える方向に沿った喋りや行動をするように動かされている人物だからだ。作者が動かす操り人形感がスケスケなのがイライラを募るわけだ。 仔への虐待やネグレクトへの啓蒙の書として書きたかったのだろうか。しかしウンザリする内容のこの物語は個人的には読みたくない。精神衛生上良くない。ストレスが溜まるだけだ。 |
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結婚相談所に登録している資産がある老人、その老人をターゲットとして婚姻または内縁の妻として公正証書遺言を書かせたのち殺害する恐ろしい女。
その女がメインの物語かと思ったが違った。出てくる人物が金の亡者のように悪事に手を染めることを厭わないアウトローの世界。 その人間の陰の部分を描き、読みだしたら止まらないその筆力。始まりから最後まで話の展開が良いため自然に引き込まれる。 ただ、ラストはちょっとどうかな。 もと刑事に上手い汁を吸わせて消えていく最後で良かったのじゃあないかと思うんだけれど。 それだと平凡だからあのラストにしたのかも。でも初めて読んだ人だけれど他はともかくこれは面白かった。おすすめの一冊です。 世の中きれいごとばかりじゃないということ。24時間テレビは甘いおとぎ話に過ぎないと気付かされる物語です。 |
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世界名作推理に入るミステリです。再読ですが内容をまったく覚えていませんでした。
つまり初めて読むのと同じということでした。密室ものです。不可能犯罪に挑む名探偵の物語ですが、密室と言えば大きな目くらましが必要です。 物理的なモノか心理的なモノか。それともその他のモノか。これは当時としては斬新な手だったことでしょう。それゆえ今も古典として残っているのでしょう。 大きなトリック。そして付随するトリック。二重三重の仕掛けが不可能犯罪を構成します。物語の中盤の出来事はビックリします。 追いつめた犯人が煙のごとく消え失せるというとんでもない事態を見せます。これは物語の中盤のだらだらとした雰囲気を避けるのと同時に探偵と読者両方に推理の 手掛かりを与えるという側面を持っています。しかし、これはやり過ぎです。今のミステリ読者ならここで『疑う』という方向に気が回ります。 根本的な仕掛けに気付く危険が大です。何故このような展開にしたのでしょうか?見破られないという自信があったのでしょうか。ルルーに聞いてみたいところです。 細部にはツッコミどころがあると思いますが、最後の法廷での謎解きを披露するところは面白いです。しかし、あの解決は首を捻らざるを得ません。 6時半にならないと犯人の名前を言えないとする彼のやり方。相手は殺人犯です。何故あの解決の仕方になるのか納得がいきません。 しかし、ミステリにおける一つのパターンを創造したルルーは後世に名を残す栄誉に恵まれました。幸運なことです。 |
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『砂の器』が頭に浮かんだのは読み始めてすぐの事。
プロットとしてはそれだろうと思った。そんなところが評価できない。 刑事二人もキャラクターづけがいかにもって感じでため息が出る。 ただ、読ませどころはある。それは真剣師と呼ばれる賭け将棋で生きる男たちの世界を見せること。 このあたりの描写は見事だと思う。 母親父親との関係性が芯になっているのだけれど最後のサプライズ的な事実の暴露は どうなんだろう。幼いころからのエピソードと合わないのじゃないだろうか。ちょっと疑問に思った。 起業家として成功するプロセスも曖昧で良く分からない。実際そんな立場なら守ろうとすると思う。 関わり合っていく心情が読んでいて理解できない。そうすると話が続かないというご都合主義にみえる。 全体に底の浅い物語で賭け将棋の世界をもっと掘り下げて見せてくれた方が面白かったりしたのではと思う。 |
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血と暴力とsexが描かれた内容。陽の当たる真っ当な社会で生きる人物は一人もいない。チャイニーズマフィア、香港マフィア、日本のヤクザ、悪徳警官、それらのごった煮の世界。
誰も信用できない世界で情報を金で買い隠された思惑を探る。この事態はいったい誰が仕掛けた? 殺し屋と元刑事の二人が黒幕を探しながら破滅への道を進む様子がハードに語られる。 毒にも薬にもならないお子様ランチ的なミステリに飽きた時は、この本のような毒がたっぷり入った味の濃いこだわりの一品も食欲をそそる。 この他に新堂冬樹の『ろくでなし』もおすすめ。いつもの日常からまったく別の世界を安全な場所から覗き見るのは楽しいものだ。 破滅願望は誰にもあると言うが、それを叶えてくれるのはこういったノワール小説を読むこと。一時の清涼剤にもなりうるこういった本を毛嫌いするのは勿体ない。 暑い夏の夜エアコンの効いた涼しい部屋で違った世界にトリップしよう。 |
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史実の青函連絡船海難事故や戦後の荒廃した世相と風俗をもとに事件を起こした男と函館、札幌、舞鶴の刑事たちが必死に男の追跡を行い真犯人に迫っていく過程が描かれた物語。
札幌、函館の刑事たちの追跡から消えた男が10年の歳月を置いて再び事件を起こす。そのきっかけとなったのは一人の女。大罪を犯した男が10年前に人間らしい行いをその女に施したばかりに 自身に疑惑の目が向けられる結果となる皮肉。実際にあった海難事故。台風により転覆した青函連絡船。wikipediaによると死者・行方不明者1155人となっている日本の海難史上最大の惨事である。 浜に打ち上げられた何百という死体。乗船名簿と遺体を引き取りに来た遺族の照合のあとに残った遺体が二つ。誰も引き取りに来ない遺体が二つ残った。頭に傷のある二つの死体。 ひとりの刑事が不審を覚える。しかし、大惨事の中で体に傷を負った死体はおかしくはない。それが大方の意見であった。出航間際に乗り込む人間もいてそんな場合は名簿に記載しないこともあったという事実。 大勢に押し切られる形で一人の刑事の思惑は消えていく。そして函館から130キロほど離れた町で火災が起きる。台風の風に煽られた炎は町の三分の二が焼失する大火事となった。 火元の質店では一家四人が殺害されていた。地道な聞き込みだけで調べを進める刑事たち。昭和22年という時代では今の科学捜査など夢物語だ。 丹念に世相を切り取りながらそれぞれの人生が描かれる物語。敗戦国の貧しさが生んだともいえる事件。単行本上下巻に収められたこの物語は読まずには死ねない。 |
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例えれば近藤史恵の「シャルロットの憂鬱」などと比べれば180度違う世界のお話なので、キツイ描写のスプラッター映画などが苦手な人は手を出すのは控えた方がいいかも知れません。
警察などの動きとかその辺の無駄は一切省き、主人公の何日間の動きだけを描写したストーリー構成です。連続乳児誘拐事件とか訳の分からない連続殺人事件などの出来事や登場人物などが みんな最後にはつながっていく様はたいしたものです。ただ、内容がぷっ飛んでいてモラルもくそも無い暴力描写が痛いのですが、それでいて引き込まれる魅力はあります。 社会の陰の部分を舞台にしたものはいろいろありますが、この主人公の過去の出来事に引きずられるようにして彼を取り巻く世界が噴き上がる模様がスピード感ある書き方で描かれます。 原付に乗り深夜市内を走り回る彼の焦燥感とフラッシュバックが効果的に作用して先の読めない展開が読む者を一層闇の世界に引きずり込みます。 メフィスト賞受賞作だけれど二作目は出ていないようで単なる一発屋だったのかどうなのか気にはなる人です。 「さあ、地獄に堕ちよう」を読んでこんなのもアリだと思った人には楽しめるでしょう。 |
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映画は各ポジションの職人が結束して作り上げる総合芸術だということが今さらながら良く判るお話です。
各々のプロが主人公となって映画作りにおけるその部署の技術の凄さを知らしめると共に、そのキャラクターを生かした短編小説になったものを読み進む構成になっている。 監督、助監督、美術、照明、衣裳、録音、俳優とプロデューサーたちにスポットを当てた一話形式で、そのあとに全員が係わり一本の映画を作る様子がメインの長編小説となっているかなりのボリュームの本である。 制作部とはプロデューサーの指示のもと予算やスケジュールを管理しお茶を沸かしロケ弁を注文し撮影が終わったら清掃する。演出面以外のあらゆる雑用をこなす制作部なくして現場は回らない。 こんなプチトリビアが随所に散りばめられた映画愛につつまれたお話がいっぱいです。 一つ一つの短編もキャラクターを上手く生かしたエピソードが綴られており映画製作における苦労に理解が及ぶお話ばかりです。 内容もちょっとしたミステリ味になっていて、まぼろしの脚本を探しそれを映画として作り上げる監督その他の各セクションのプロたちの情熱が熱く伝わってきます。 単なる読み物としても面白くちょっと日常から離れてこれまで知らなかった世界で遊ぶという楽しみが味わえる本です。 かなりの資料やアドバイザーの協力が無ければ書き上げるのが難しい本で著者の熱量も半端ないと思います。 この著者は独特というかボキャブラリーが豊富でそれでいてセンテンスが短く事態がさくさく進むので物語そのものはスピーディな展開で読みやすい。 映画が好きな人にはおススメできる本です。 |
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蜘蛛にかまれてスパイダーマンになった。まあそんなようなお話です。しかし、これが凄いのです。( ´艸`)
そんな特殊な世界をキッチリ取材し文献をあさって構築した主人公の世界。これだけでも読み物として十分満足できるほどの面白さです。 空想の世界ですが全くのほころびがありません。匂いを視覚で知覚するという彼の世界が分かりやすく読みやすく書かれています。 相当なボリュームの本ですが大部分が彼の置かれた世界について学術的な面を入れて描かれています。 オイオイ、殺人犯の追跡は、と思わずにいられないところもありますが途中飽きるということはけっしてありません。 流石にセリフなどは時代を感じさせますが、今これを手にして読んでもその面白さは色あせていません。 少し気になるところを書くと、岡嶋二人のころから感じていたことですが人物造形がマンガ的だということです。 そして対する人とか組織などを描くときその捉え方が画一的というかステレオタイプに書かれているのがちょっと気に入りません。 この本でいえばテレビ局の人間とかマスコミの人間をありきたりの表現で描いていることです。チープな表現といっても良いでしょう。 読書が好きな人は色んな本を読みます。記者(といっても新聞、週刊誌、テレビのニュース班などいろいろですが)を主人公にしたお話の場合 残酷な事件の被害者の家族とか遺族に話を聞きに行きます。より事件の悲惨さや遺族の悲しさを読者に伝えるためには欠かせない取材です。 記者が主人公の時はこの辺はキッチリと書きます。野次馬気分で取材などするわけではないと記者の使命についてやその時の心情を入れながら描きます。 ところが他の話しの中にマスコミが出てくると、悲しみに暮れる家族にマイクを突き付けてとか、ネタが欲しいだけとか番組を面白く作りたいだけだとか マスコミの人種といったものを貶めるだけのような書き方をする場合が多々あります。それは違うだろうと思うわけです。 この本でも警察やテレビ局の人間などをそんな風に表しながら書いているところがちょっと気になります。 それらを除けば非常に思いを込めた著者の熱が伝わる異色のミステリとして楽しめます。 |
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業界の打ち明け話まで披露しつつ幼女連れ去り殺害事件を追う新聞記者たちの物語。
新聞記者を主人公にした物語なんてあまり読まないが数少ない読書はあの「クライマーズ・ハイ」だ。 あれは映画でもそうだったが 出てくる人物みんなが本音をズバズバ言い合うのに驚かされた。社内でも一触即発の雰囲気でとてもじゃないが現実にはあり得ない様子が描かれていたのを覚えている。 だがこの本も新聞を作るということに関してはそれぞれの立場の人間が遠慮会釈なく意見をぶちまける。 幼女誘拐殺害事件で主人公が勤め舞台となる中央新聞は誤報を打つ。それぞれが責任を取り胸に重いしこりを残す。 七年後にまた事件が起きる。幼女を連れ去る犯人は単独犯か複数犯か? 夜討ち朝駆けで事件を追う様子がそれぞれの視点で描かれ動きを追う展開だ。 地方局に飛ばされたもの、社会部記者から離れたものが再び起きた似たような事件の取材に奔走する様子がケレン味のない文章で語られる。 記者の視点で描かれているので警察の動きはメインにはなっていない。それが取材により事件の動きが明らかになっていくところがある意味新鮮で面白い。 もと新聞記者という著者の経歴が生かされており適度に重さもある物語としてガッツリ読ませる内容だ。ミステリとしての味わいは薄いけれど事件を追う様子がそれぞれの記者の キャラクターと共に興味深く読める。 これは一読の価値ありと個人的にはおススメ。 |
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探偵としてのアイデンティティの喪失に苦しむエラリー・クイーンに、ニューヨーク市長から特別捜査官に任命されたのは、今ニューーヨークを震撼させている連続絞殺魔の事件を解決するため。
同じ手口で何人もの人が殺されるのはどう見ても同一犯の仕業。しかし、被害者にはなんのつながりも見いだせないためクイーン警視は苦慮していた。 ミッシングリンクを埋めるものは何か? 犯人にとって一見無関係に見える人たちを連続して殺害するのには何かしらの法則があるはず。そこをこれまでの事件のデータを精査し推理を加えて犯人像に迫るエラリー。 というのが今回のお話。雲を掴むような作業をクイーン警視と共に調べを進める探偵エラリー・クイーン。そこを読ませていくにはどうするか、いろいろと趣向を凝らせて読者を引っ張る手腕は流石です。 そして犯人像を掴めたときこれで決まりかと思わせておいて最後にひっくり返すサプライズ。 だがこのドンデン返しはどうなんだろう。 精神医学のアレコレなどを持ち出して補強しているように見えるが、個人的には真犯人の犯行動機がちょっと薄まったように感じる。 それはアリなんだろうか? それで九人も殺すか? 一人二人は理解できる。だが九人となるともっと強烈な動機があるべきじゃないのか。 個人的にはこの真犯人にはこの動機は少し弱いと思います。 ですから、ひっくり返さずにまったく犯人像が掴めない事件をコツコツと調べるエラリーの捜査の過程を楽しみたかったと思うのです。 お疲れ、エラリー。 |
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