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炎の眠り



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【この小説が収録されている参考書籍】
炎の眠り (創元推理文庫 (547‐3))

炎の眠りの評価: 4.40/5点 レビュー 5件。 Dランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.40pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全5件 1~5 1/1ページ
No.5:
(5pt)

主人公の前世をたどる夢が印象的、魅力的な悪夢のような作品です

「死者の書」「我らが影の声」「月の骨」に続くキャロルの4作目です。「月の骨」から「天使の牙から」までの6作が一応シリーズとされていますが、続き物ではなくそれぞれ独立した作品なので関連作とでも言うべきでしょうか。この「炎の眠り」では「月の骨」に登場した映画監督ウェーバーや彼の思い人カレンがちらりと登場しますが、重要な役ではありません。

現在まで翻訳されているキャロルの作品を読んだのはもう何十年も前で、最近また最初から再読しています。話の整合性や読みやすさなど娯楽作品としてみると、個人的にはいまだに処女作「死者の書」が一番です。インパクトが強烈でストーリーをまともにおぼえていたのはこの作品だけでした。
2作目はわりとストレートなホラーですが、「月の骨」以降はだんだん複雑になっている気がして、夢と現実が入り混じったり、ありえないことが普通に起こるので、時に話の進行が散漫になる印象で、キャロル作品は人を選ぶというかかなり好き嫌いが分かれると思います。
実際、日本ではあまり売れないそうで、翻訳も途中で止まってしまったのはとても残念です。

この「炎の眠り」の主人公アメリカ人のウォーカーはゴミ箱に捨てられていたところをホームレスに拾われた捨て子で、出生のことは何もわかっていません。現在はウィーン在住で映画脚本家として食べていけるようになりました。話の3分の1くらいまではどうして主人公がバツイチになってしまったか、そしてマリスという女性と出会って熱烈な恋に落ちる様子が描かれています。
変異が起きてくるのはそれからで、ウォーカーに瓜二つの肖像が描かれた墓石をマリスがみつけたところからです。見に行ってみると不気味な老婆に「レドナクセラ、ここにたどりつくまで長かったね」と声をかけられて戸惑います。自分はいったい何者なのかと調べ始める主人公。ある日ユダヤ人の老人ヴェナスクを紹介され、彼に導かれて眠っていた不思議な力をよみがえらせます。

キャロルの作品にいつも描かれるのは父親と子の関係です。キャロルの父親は有名なハリウッド映画の脚本家で、”偉大な”父親との間に軋轢でもあったのでしょうか。特にこの作品では毒親のような父が強烈な印象を残します。またユダヤ人がよく登場するのは、彼の母親がユダヤ系だったからかもしれません。
また、今回はキャロルにしてはめずらしく古い時代のことが主人公の前世として描かれていて、その描写がとても風情があって好きです。1900年代初頭のロシア、ナチス時代のオーストリアと南仏、そしてグリム童話の中の世界。
話のオチもグリム童話が関わってきますが、そのあたりはスリリングで読んでいてどきどきしました。キャロルの中では特に好きな作品です。
炎の眠り (創元推理文庫 (547‐3))Amazon書評・レビュー:炎の眠り (創元推理文庫 (547‐3))より
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No.4:
(3pt)

ストーリーと描写のマッチングを評価しよう

『月の骨』に続くシリーズ第二弾とのこと。

読み終えて、さて、この物語を自分の中で消化できたかと自問すると、何かしら底に沈んだ澱のようなものがあることに気づく。

巻末の解説のようなもので尾之上浩司が書いている。

 では、<ダーク・ファンタジー>とは何でしょうか。
 一言で表現するならば、「人間の内面、特に人間心理の深淵の暗部に焦点を絞った幻想小説」となるでしょう。
 (中略)
 要約すれば、<ダーク・ファンタジー>とは二律背反しているもの―それは《現実》と《非現実》であったり、《善》と《悪》であったりするわけです―を対峙させることによって、「人間」というものをより深く描いていこうとする作家たちの表現手段、あるいはムーブメントといっていいと思うのです。

この少し前に、<新しい文学>をその作家たちが説明しているとして

 「従来の<文学>が現実を描いているのに対して、ぼくらの<新しい文学>は非現実を描いている」
 「現実だけを素材にしただけでは描けない何かを表現したいがゆえに、僕らは<非現実>をとりあげるのだ」

 とも書いている。

後の二つの引用内容の当否はともかく、<非現実>によって「人間心理の深淵の暗部に焦点を絞って」いることに成功したかどうかの検討は必要だろうと思われる。

物語は主人公ウォーカーが魅力的なマリスと出会い恋に落ちるところから始まる。物語の五分の一を過ぎたあたりから<非現実>が<現実>に浸食を始める。謎の自転車の男。三十年前に死んだ男の墓石にある自分にそっくりの肖像。
初めは<現実>の側にいる主人公が<非現実>に浸食されていくにつれ、本当の自分を探しだし、その自分と深く関わっている人物と出会い最終的に対決する。

物語の骨格は<不滅の生>であり、また本当の<愛>を求めた人物と主人公の闘いの中で、最初は暗闇の中で右往左往するしかなかったのが、やがて圧倒的だった相手とわたりあうところまで成長する。最後の意外な設定は意表を突く。

問題は、後半にかけて雪崩をうったように展開する物語の流れが、物語固有の属性による「必然」であるかという一点にかかっている。このストーリーはこの設定であればこれが「必然」の流れか? 勿論、物語り方により「必然」は何通りも可能であり、作者の企図により「始末のつけ方」は無限のバリエーションを許す。しかし、少なくとも意外性と意匠の新しさは評価できても、最後の最後にご都合主義的に意味が分散するかありえないことが起こって主人公が勝利するアメリカ映画のように、主人公とある人物の因縁のあれこれかつ最終的な闘いが、<原物語>の言葉によって決着をつけられるのは、唐突でありご都合主義が過ぎるのではないかと思う。

特にキーとなるものが<魔法>であればなおのこと。魔法は物語に於いては正に諸刃の剣となる。最も危険な毒なのだ。それを安易に使ったのでは、設定による必然がもたらす結末に読者が納得できるかどうかが大いに関わってくる。この観点からいえば、つまり魔法を都合よく使ったりすると、作者は好きな時に好きなように物語を終わらせることが可能になる。しかし、それは<禁じ手>だ、と思う。ダークに限らずファンタジーの怖い点は、<非現実>と<現実>の接点のリアリティーを感じさせる語り口が説得力を持たないと、仕掛けの大きな寝言になってしまうことだ。そこでは、置いてけ堀にされて進めなくなるか不安を抱えつつやっとの思いでついていった読者が最後に作者に突き放されて脱落し、最後は信者だけが閉じた本を抱えて踊っているだけという事態になる。

だから『月の骨』を読んだあとで『炎の眠り』を読むと、設定の荒唐無稽さが少し洗練されエピソードの積み重ねもより納得できる形で展開していたのに、最後の最後に「またですか」と聊か肩透かしされた不満がやや残る感想となった。次の『空に浮かぶ子供』に期待しよう。

さて標記の件。『月の骨』よりも格段に才気を感じさせる表現が数多く鏤められて、読後よりも読んでいるさ中に感心されられること頻りであった。まだ新鮮さを感じていたころの村上春樹を思い出させた(今は陳腐さにげんなりするけど)。ウィーンの描写も美しいと思う。技巧が安定してきたように感じた。

最後に蛇足を。151ページ10行目冒頭
 青鯨なら、開いたパラシュートぐらいの大きい頭のやつ・・・

青鯨? ブルー・ホエール(blue whale)のこと? でもブルー・ホエールはシロナガスクジラだよな。訳者はプロだし、間違う筈ないよなぁ・・・謎である。
炎の眠り (創元推理文庫 (547‐3))Amazon書評・レビュー:炎の眠り (創元推理文庫 (547‐3))より
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No.3:
(4pt)

ダークファンタジーというものを堪能できる作品

戦慄のデビュー作『死者の書』で、読者を驚愕させたダーク・ファンタジーの名手 ジョナサン・キャロルの長編。ハイファンタジーではないのだけれど、普通小説の中に、幻想小説を混入させたような作品。

本書の前半は、主人公である脚本家兼俳優ウォーカーの日常。親友のニコラスや、2番目の妻となるマリスとの日々が綴られていく。ちょっとオシャレな映画を見ているような感覚だ。しばらくは、ウィーンの風物の中で繰り広げられるウォーカーと、チャーミングなマリスの恋物語を堪能する。

ストーリーが転換するのは、マリスがウォーカーにそっくりな肖像を墓場でみつけてから。その人物は30年前に父親に殺害されていたのだ。ウォーカーとマリスに不吉な影がしのびよる。ニコラスの突然の死や、ウォーカーの夢にあらわれる別の人生。白日夢のように現れる海龍。

後半からは、(剣はないけど)魔法の世界。ウォーカーのメンターとなるシャーマンの登場。その死。ウォーカーの生と死にまつわる謎とは何か ・・・

とつづく。

本書は、グリム童話ルンペルシュティルツヘンをモチーフにしている。個人的には、童話に題材をとる作品にはいささか食傷気味だったりするのだが、本書は別格。ハッピーエンドに一撃をくらわす最後の一文が秀逸だったりする。

全体としてとっちらかった感があるのだが、ダークファンタジーというものを堪能できる作品。
炎の眠り (創元推理文庫 (547‐3))Amazon書評・レビュー:炎の眠り (創元推理文庫 (547‐3))より
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No.2:
(5pt)

これこそ悪夢

「自分って何者?」

孤児だった主人公ウォーカーは、自分探しを始め、グリム童話の中の不思議な世界に入り込んでいってしまいます。

魔法、本当の名前、本当の父親。

ピースは少しづつ真実に近づいて、「それがなんなのか知りたい!」

読めば読むほど、作者の術にのめり込んでいきます。

ラストのラストまで、美味しいくらいの恐怖と悪夢を見せてくれます。
炎の眠り (創元推理文庫 (547‐3))Amazon書評・レビュー:炎の眠り (創元推理文庫 (547‐3))より
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No.1:
(5pt)

右手に天国、左手に地獄

墓石に刻まれた自分の顔、いったい僕は何者なんだろう?ダークファンタジーの担い手キャロルが送る、私のベストワンミステリー。導入部から読者をぐいぐい引き込む→ロマンスでうっとりさせる→どんどん謎が解きほぐされ・・・そしてあっと息を呑む結末!名セリフ多数!(もちろんこれは訳者の浅羽莢子さんによるところが大きいですが)傑作は「ウィーンで馬車に乗っているのがほとんど日本人なのはなぜだろう?」「パリでハンバーガーを食ってるアメリカ人よりはましさ」というところ!マリスは私の憧れの女性・・・何度読み返しても本当に大好きな作品です。不気味な結末には心底ゾッとさせられますが、キャロルファンにはたまらない!
炎の眠り (創元推理文庫 (547‐3))Amazon書評・レビュー:炎の眠り (創元推理文庫 (547‐3))より
4488547036

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