木でできた海
- クレインズ・ビュー・三部作 (3)
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ニューヨーク近郊の小さな町クレインズ・ビューを舞台にした3部作の3作目です。これまでは脇役だった町の警察署長フラニー・マケイブが主人公となりフルに活躍します。 それでなくても複雑怪奇なキャロルの作風ですが、この作品が今までで一番ブッ飛んでるんじゃないでしょうか。いかにもキャロルらしいマジック・リアリズム的雰囲気で、死んだ犬が何度も生き返ってくるとか、ご近所の夫婦がある日突然蒸発、誰もいなくなったその家が真夜中に投光機で煌々と照らされ家が囲まれていくとか、おかしなことが起きる現場にはいつもカラフルな鳥の羽根が落ちている、そしてどこからともなく漂ってくるいい香り・・。 そんな時、優秀でおとなしい女生徒が学校のトイレでヘロインの過剰摂取で死亡します。なぜか彼女のノートにはその死んだ犬の絵が描かれていた、そのまったく同じ犬の絵は存在しているはずのない1750年頃の絵画集にもあって・・・。 2度目の妻を愛し、義理の娘を愛し幸せに暮らしているマケイブの前に、若い頃の凶暴な悪ガキだった自分が現れます。そうかと思えば突然自分はよぼよぼに年老いて別の妻と一緒にウィーンにいる・・こうして要約をピックアップするだけでもいかにメタメタな話かわかると思います(笑)。 時空が交差し、タイムワープもののお約束など完全無視で、違う年齢の自分が同時代に存在している、これはパラレルワールドものなのか?それともいつもキャロル作品のバックに感じられるキリスト教的絶対的な何か=神が存在しているのか?ネタばれするのであまり書けませんが、今回は神ではありませんでした。 作品全体を通じてハイ・テンションが持続、それに飲まれて引っ張られ一気読みしてしまいました。非常に荒唐無稽な話でありながら読ませるパワーはすごいです。 ファンタジーでありながらというとおかしいですが、キャロルの小説はとてもアメリカ的です。大味で量ばかり多い軽食を出す安食堂、ハンバーガーにコーク、スラングで乱暴な口ばかりきいているラフな登場人物たち、アメ車、冗談がきついティーンエージャー。今回もそんなものがフルに出てきます。 それでいてさりげなく、深遠な言葉がさらっと読み流してしまいそうな合間合間にはさまれます。 「17歳の頃、死は何光年も離れた星にすぎず、強力な望遠鏡でもなかなか見ることはできない。その後、年を食うにつれて死が遠のく星ではなく、自分の頭めがけてまっすぐ落ちてくるいまいましい小惑星だと気がつく」 「おれは毎日が、つれあいが、仕事が、環境が気に入っている。自分を好きになろうと努力している最中だが、そんなのは先が見えないままいつまでも続いて行く作業だ」 「恐怖は自分が生み出してるんだ。伝染病みたいに外にあるものじゃない。たいていは愛から生まれる。失うことに耐えられないほど何かを愛してる時、恐怖はいつも近いところにある。」などなど。 怒涛の展開のままラストとなり、いったい問題が解決したと言えるのか、それともまったくしていないのかよくわかりませんでした。この終わり方には賛否両論あると思います。自分も正直ここで星1つマイナスでした。それでもこの筆力、迫力には負けました。 また、ずっとキャロルの翻訳を担当してこられた浅羽莢子さんがお亡くなりになり、その後の翻訳はどうかなと思っていましたが、市川泉さんの訳も、今までよりは生真面目な感じですが、これまでの独特のリズムをそのまま継承してとてもよかったと思います。 ただ、翻訳がこの2001年作品で途切れているのが残念です。熱狂的なファンがいるキャロル作品ですが、マニアックなため実はあまり売れないとか・・。2002年から2019年にかけて本国ではすでに5作が出版されているのに。どうかこれらも次々と翻訳してくださるようお願いしたいです。 | ||||
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ニューヨーク州の小都市クレインズ・ヴューで警察署長を勤めるフランシス・マケイブは、ある日奇妙な犬と出会う。 ホテルの駐車場で寝ているところを保護され、署に持ち込まれたその犬は、脚が三本半しなく、片目も失われ、頭には大きな古傷もあり、呼吸すら浅い。 首輪のタグに記された「オールド・ヴァーチュー」が名前らしい。 予想に違わず保護から2日後に、犬はフランシスの執務室で息を引き取るのだが、妙な親しさを感じていた彼は、郊外の森の中に自ら墓穴を掘って埋葬した。 しかし、自宅に帰ったマケイブは、ガレージの中の故障しているはずの車のトランクの中に、再びオールド・ヴァーチューの亡きがらを見出すのだった・・・ 「蜂の巣にキス」、「薪の結婚」に続きクレインズ・ヴューを舞台にした作品で、これまで脇役を務めていたフランシス・マケイブが主人公。 埋葬場所から舞い戻る犬の死体、夫婦喧嘩の最中に忽然と姿を消してしまった住民と、後に残されたあり得ないほど色彩に富んだ鳥の羽根。 奇妙な事件に頭を悩ませるフランシスの前に、更に奇妙な人物が現れる。 30年前の、つまりは17歳の自分自身。悪ガキを絵に描いたような奴で、本人だけに間違いようがない。 と、このあたりまでは従来のキャロル調であり、読者の予想を裏切る仕掛けもあるのだが、今回は悪い意味で裏切られた。 「薪の結婚」は一風変わった「ヴァンパイアもの」だったが、本作は一言で言うと「エイリアンもの」だ。 ヴァンパイアについては「奪うことによって生きる者」という特徴に関しての独自解釈が現実世界とクロスしてリアルな話になっていたが、荒唐無稽な話のタネがエイリアンというのは全くもってキャロルらしくない。 「7日目以降、ずっとお休み中の宇宙創造者を起こす」という着想は面白いが、被創造物が進化の過程の中で自然にそのような行為に至るという話はSFの巨匠アーサー・C.クラークが「90億の神の御名」で描いており、目新しいものでもない。 | ||||
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2010/2/1現在キャロル最新作まで読了してしまったのが寂しい。クレインズ・ビュー三部作三作目、他二作で名脇役だったこの町の警察所長マケイブが主人公、彼の人間性とジョーク満載の小気味よい語りが、ダークな物語に温かさを添えている。主人公に同化できない、とよく言われるキャロル作品だが、同化しきれなくなってゆく仕掛けはこの作品にも仕込まれているものの、人と生を愛するマケイブは読者に共感を呼び愛さずにはいられないだろう。キャロル作品では、生と死、現実と非現実の境界の破壊と修復(成功しきれない修復だが)、不完全な神?に操られる全体と個人の生…といった大きなテーマと共に、細部に散りばめられたの卑小とも言える日常的事象が輝きを放っているのも、通底した魅力だ。この作品でもそれは変わりなく、私は、フラニー・マケイブが張り込んだガジアで淹れるエスプレッソの香りを、珈琲にマクスウェルしか思い浮かばないもう一人の登場人物と共に堪能しつつ、アラジンのストーブが元気に燃える部屋でじゃがりこをつまみネスカフェを飲みながら読書に浸る自分の時に幸福を覚えた。作者の細部へのこだわり…というか愛着は徹底しており、多少目を引く位置に車が出てくれば、ボンドが乗りそうな銀のカエルみたいな姿のいすずBX250馬力で後部に死角がある故時に危険…とまで語らずにはおかない。しばしばキャロルならではの奇妙さに溢れた他の登場人物達も、その装いや性癖など細かな描写から個性が魅力的に引き出されている。大きな仕掛けについては口をつぐむしかないが、本作もまた魔法に満ちた創世の修正物語。SFでもあるところが他作品にないカラーか。SF味は残念ながら私の好みではないが、緻密に入り組んだ抜かりない構成と、この作者らしい謎を残すラストの毒と救い、そして他作品より親しみが感じられる主人公に満足した。 | ||||
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2010/2/1現在キャロル最新作まで読了してしまったのが寂しい。 クレインズ・ビュー三部作三作目、他二作で名脇役だったこの町の警察所長マケイブが主人公、彼の人間性とジョーク満載の小気味よい語りが、ダークな物語に温かさを添えている。 主人公に同化できない、とよく言われるキャロル作品だが、同化しきれなくなってゆく仕掛けはこの作品にも仕込まれているものの、人と生を愛するマケイブは読者に共感を呼び愛さずにはいられないだろう。 キャロル作品では、生と死、現実と非現実の境界の破壊と修復(成功しきれない修復だが)、不完全な神?に操られる全体と個人の生…といった大きなテーマと共に、細部に散りばめられたの卑小とも言える日常的事象が輝きを放っているのも、通底した魅力だ。 この作品でもそれは変わりなく、私は、フラニー・マケイブが張り込んだガジアで淹れるエスプレッソの香りを、珈琲にマクスウェルしか思い浮かばないもう一人の登場人物と共に堪能しつつ、アラジンのストーブが元気に燃える部屋でじゃがりこをつまみネスカフェを飲みながら読書に浸る自分の時に幸福を覚えた。 作者の細部へのこだわり…というか愛着は徹底しており、多少目を引く位置に車が出てくれば、ボンドが乗りそうな銀のカエルみたいな姿のいすずBX250馬力で後部に死角がある故時に危険…とまで語らずにはおかない。しばしばキャロルならではの奇妙さに溢れた他の登場人物達も、その装いや性癖など細かな描写から個性が魅力的に引き出されている。 大きな仕掛けについては口をつぐむしかないが、本作もまた魔法に満ちた創世の修正物語。SFでもあるところが他作品にないカラーか。SF味は残念ながら私の好みではないが、緻密に入り組んだ抜かりない構成と、この作者らしい謎を残すラストの毒と救い、そして他作品より親しみが感じられる主人公に満足した。 | ||||
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いつものキャロルと違った。 ちなみに処女作が日本邦訳で出てからずっとのお付き合い。一部の作品はほんとに好きだし、結局好きな作家になるんだと思う。 出来としては凄く良かったとは思えない。多分一番出来が悪い『我らが影の声』のちょい上くらい。だけどやっぱり愛すべき犬は出てきて、ウィーンは出てくるんだな、と思った。 「一人一人の小さな過ちとか無知とかが世界の乱れ」ってテーマはやっぱ共通。ただもう一つのキャロル執心のテーマ「父と息子(キリスト教的意味ではなく、多分キャロルのファザコンが関係してるだけ)も顔を出すんだけど、これが強すぎると処女作以外はいつもバランスを崩しちゃう傾向にあると思う。あと、今回のアプローチはあんまりキャロル向きじゃない。これはディック的アプローチだと思うし、この話に必ずしも必要な要素じゃないって思った。 あと、老いについてかなり書いてるのは、キャロルが老いを感じてるからなのかなー、とか漠然と思った。 だけど「木でできた海で、どうやってボートを漕ぐのか?」 って問いはすごくよかった。 こういう奇跡みたいな言葉と出会えるから、キャロルとの付き合いはやめられないんだ。 | ||||
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