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野獣死すべし
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野獣死すべしの評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.00pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全6件 1~6 1/1ページ
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男手ひとつで育てていた幼いひとり息子を交通事故で失った探偵小説作家ケアンズは、深い悲しみのなか復讐を誓い立ちあがる。遅々として進まない警察の捜査に業を煮やしたケアンズは、個人でひき逃げ犯の分析と捜索に着手する。偶然も手伝って加害者の目星を付けることに成功し、目標達成のために作家としてのコネも利用しながら犯人への接触を試みるケアンズは、同時に復讐を果たすための構想を練りつつあった。 作品の舞台はイギリス、時代設定は、会話においてナチスドイツの名前が挙がることや、ラジオ放送を通して日本が中国を攻撃するニュースを伝える箇所が存在することから、発表当時の1938年頃と思われます。冒頭で記載した内容が第一部となっており、ひとり息子の復讐を誓ったケアンズが犯行にいたるまでの日々が描かれるのですが、これが日記形式で綴られていることがポイントです。ここまでのストーリーだけであれば犯罪小説として読むこともできるのですが、事件当日を描く第二部で趣きが変わり、第三部のおしどり夫婦である探偵夫妻の登場にともなって、完全に本来の探偵小説としての形式に転調し、この探偵パートと呼ぶべき第三部に続く解決編で完結する全四部の構成となっています。 事前に情報を調べず、犯罪小説を予期していたこともあって、大きくは第一部にあるケアンズの日記形式による記述と、典型的な探偵ものとして描かれる第三部以降という、異なった形式と視点が同居する特徴的な構成には驚かされました。ただし、構成だけの作品というわけではなく、作者の描写からはそれぞれの人物像や情景が自然に伝わり、全体を通して楽しく読むことができました。探偵であるナイジェルが天才型ではないことも、本作については有効に機能していると思えます。また、真相を知ったあとになって、ある有名なミステリ作品を思い出すことになりました。 最後に書名に関して。本来探していた大藪春彦の同名ハードボイルド小説が書店になく、本作が検索機の在庫情報にヒットしたのが読書のきっかけでした。刊行の順序から、大藪氏の小説タイトルは本作から取られたものなのでしょう。激しい印象を受けるタイトルですが、作品のイメージとは違っていました。 | ||||
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自分の息子を轢き殺された推理小説作家ケアンズが主人公。轢き逃げ犯のジョージに接近し、ボートから突き落として殺す計画を立てるが、知られてしまい失敗する。その夜に、ジョージが何者かに毒殺され、嫌疑を掛けられたケアンズが私立探偵ナイジェルに助けを求める話。 登場人物は限られていて、殺人も毒殺の一件だけで平凡な内容であり、犯人の意外性や奇抜なトリックはないので、真相を明かされても大きな衝撃はないが、真相説明では一つひとつの行動や表現の意味することが事細かく説明されていて、説得力のある真相が示されている点は高く評価できる。 ただし、作者なのか、訳者なのかわからないが、文章の相性が悪く、読みにくかった。 | ||||
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お、ハードボイルドのヤツね、と思われた方、残念ながら違います。それは大藪春彦です。 題名と表紙の雰囲気から、ハードボイルドと勘違いしてもおかしくないけどね、内容もハードボイルドになるし。 こちらは、ニコラス・ブレイク、本名はイギリスの桂冠詩人セシル・デイ・ルイス。 探偵小説家フィリクス・レインは息子を轢き逃げされ失ってしまった。 警察の必死の捜査にも関わらず半年も過ぎ、自分で復讐することを誓う。 最初はこのフィリクス・レインの日記から始まり、なんか倒叙ものみたいだなと読んでいってしまいました。 が、当然ながら倒叙ものではありません。途中、これってエラリー・クイーンのあの作品みたいになるの!? などと思い、年表を調べてしまいました。クイーンのアノ作品は1933年、で、この作品は1938年。 あ〜、ひょっとしたら、と思ったら、さすが名作、見事に私の考えを(いい意味で)裏切ってくれました。 | ||||
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桂冠詩人N.ブレイクのミステリとしての代表作。まず「野獣死すべし」という題名がイイじゃないですか。息子を殺された主人公の怒りがストレートに出ている。日本にもこれと同じ題名を自作に付けたハードボイルド作家がいましたねぇ。そして、題名の荒々しさとは対照的に構成が綿密に練られている所が本作の特徴。 前半は主人公の日記をベースに犯人への怒りと人物紹介がなされている。いわゆる倒述物である。後半は一転して本格風に犯人探しの展開となる。主人公が一気に犯人に復讐しないで、その周りで知人であるかのごとく振舞う理由も上手く考えられている。この倒述物と本格物の融合が作者の工夫であり、緻密な心理描写と相まって本作を代表作たらしめている。 N.ブレイクは純粋にミステリが好きなのであろう。文学関係者には意外とこのタイプが多い。ミステリの始祖ポーがそもそも詩人であるし、ヴァン・ダインも本職は美術評論家だ。日本では坂口安吾氏がその代表だ。N.ブレイクの作品に文学の香りを感じても、それは偶々だと思って、詩人N.ブレイクとミステリ作家N.ブレイクとは切り離して割り切って考えた方が良い。ミステリを書いている時のN.ブレイクはミステリに浸っているのだから、詩人N.ブレイクを引き合いに出されるのは本意ではないであろう。本作はミステリ作家N.ブレイクが斬新な構想と緻密な心理描写で読者を惹き付ける傑作。 | ||||
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これはブレイクの最高傑作だと思います。彼は江戸川乱歩の言う"新本格”の作家で、本業が英国の桂冠詩人だけあって、非常に文章が繊細で文学性も高いのが特徴です。この作品も、前半の自分の息子を殺した殺人犯に復讐を誓う探偵小説家の日記は彼の息子を失った悲しみと、犯人に対する憎悪、自分に対するやりきれない気持ちが鮮明に描写されており、ラストも独特の叙情に満ちています。 しかし、ここまではブレイクの代表作には共通する美点です。そこで終わらないのがこの作品なのです。この作品は本格ものとしてもクリスティー、クイーン、カーなどの本格ミステリの大御所の代表作にも負けません。相変わらず探偵ナイジェルの心理推理法は独創的だし、それに犯人のこれまでに類をみないトリック、驚くほど巧妙に張られた伏線など、文句のつけようもありません。 更に素晴らしいのはこの作品が上記の巨匠や現代を代表する推理作家たちには逆立ちしても書けっこない、ブレイクにしか書けないものであった点です。というのも、これはよくできた本格ミステリに文学性をとってつけたものではなく、その二つが見事に融合したものであるからです。不自然なところが全くありません。 この題名はブラームスの引用だそうですが、正にその言葉がフィリクス・レインと"野獣"の因果を表していました。 | ||||
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詩人であるC・D・ルイスがニコラス・ブレイクの名で書いたミステリ4作目で(ちなみにミステリを書いたきっかけは、天井の修理代を稼ごうとしたからだとか)、シリーズ探偵ナイジェル・ストレンジウェイズが活躍する本格ミステリ。ブレイクの代表作に挙げられています。前半は、息子を轢き殺された探偵作家が、犯人を探し出し復讐を誓う様子が日記の形でつづられています。これが迫力に満ちていて、最愛の一人息子を殺された悲しみと絶望感、復讐を夢見ることでどうにか自分を保っている不安定感、復讐に懸ける意気込みが痛いほどに伝わってきます。犯人の側から犯行を描いた倒叙ミステリのように見えたものが後半は一転、本格的な犯人探しとなります。ミステリを読み慣れた人なら、途中で犯人を当てることは難しいことではないでしょう。かく言う私も「もしかしたら・・・」と見当をつけた人物が犯人でした。が、決して底が浅いミステリというわけではありません。犯人の人物像と心の動きが丁寧に書き込まれていて、最後まで興味をそがれることなく読み通すことができました。 | ||||
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