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ユートロニカのこちら側



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ユートロニカのこちら側の評価: 3.92/5点 レビュー 12件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点3.92pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(1pt)

この小説の良さが見つからない

本書が刊行されたのは2015年(単行本)。現時点(2023年初頭)で、すでに7年
ほど過ぎている。SFという形式の小説は、時代を経ても「古びないもの」と、すぐ
に時代に追いつかれ「古びてしまうもの」に、きれいに分かれるように思う。
 たとえば、ポーの作品「メロンタ・タウタ」は、何とほぼ170年前に西暦2850年
頃を舞台とした作品。内容はアフリカでの内乱や、「磁力線」で移動するエネルギ
ーを持つ宇宙船が登場する(と覚えている)。この作品は今でも読み継がれている。

 ひるがえってこの作品はどうだろうか。情報が全ての価値の源泉となるという
近未来のあり方が、すでに何度も繰り返し幾多の作家が書き続けてる。その中で
本書の魅力はどこにあるのか。かなり疑問に思う。
 情報収集の技術的側面は、なぜか詳しくは記していない。身につけるブレスレ
ットや目にはめ込むカメラなどのアイデアはもう出尽くしている。また、人間の
情報を集めるのに、生身の人間から直接データをとる方法も古びている。

 人間総体のモデリングが可能であるような未来なのに、あえて「情報を与えるだ
けで労働することもなく報酬を得て生活できる」という設定もいかにも奇異。
 しきりにAI、AIと言いつつ、そのAIが普通に動いているのかと、変な想像
までしてしまう。それほど情報収集の対象となった人間の行動がまともに描けて
いない。未熟なAIと対象となった人間の行動の薄っぺらさ。

 話が変わるが、本書を読んでいる時に将棋を思った。将棋の世界でのコンピュ
ータソフトが人間よりも優ったのは2012年あるいは2013年。この時にすでに、
将棋というかなり限られた局面しか持たないゲームではあっても、AIは人間をし
のいだ。大量のデータ処理のみならず、データそのものもモデリングが可能にな
る日も近いだろう。このことを考えると、2015年の発刊時点で本書はもう「古い」。

 小説としても未熟としか言えない。登場人物が(TVの推理ものの犯人のモノロ
ーグ)のように、厚みのない必然性のない説明口調で、砂を噛むような味わいのな
い会話をしている。まるで紙人形のように個性がない。現実でこのような、自分
を一々説明する人がいたらさぞ嫌だろう。

 ハードSFでも幻想的SFでもなく、「情報」という名を付けただけの「ディストピ
ア小説」。著者の専門であったのか、陳腐な精神分析もどき(いやそのまんまか)の
術語が時折出てくるが、残念ながら著者は臨床経験もほとんどない様子。
典型的な文献頼りの文章で、理論づけようとあがいているが、見事に失敗。虚仮
威しの文章は書かぬがいい。

 「人類の叡智の結晶のように映った」だの、いったいつの時代の表現か。
勃起不全、サナトリウム、超自我、解離性同一性障害、全てがこの作品の添え
物でしかない。著者の経歴からは、どうやら心理学から精神分析的分野に足を踏
み入れたらしい。これが医学からだともう少しリアリティのあるものになるだろ
う。

 意味深な題名を付けているが、その意味も分からない。第1章の「リップ・ヴァ
ン・ウィンクル」は、1820年頃のアメリカの小説の題名及び主人公の名前。アメ
リカ版ミニ浦島太郎の物語だが、その名付けの意味さえ分からない。
 繰り返しになるが、全体として登場人物が喋りすぎる。自分のプライベートな
ことを初対面でもペラペラ、まるで行間の説明文のように話す。また、汚い言葉
や汚いシーンを描いたりするが、これも不快なだけ。

 未熟すぎる表現も数多い。
 アメリカ人の会話で「ご飯がさめる」と登場人物が言う。いくらなんでも「スープ
やシチューがさめる」とでも書けなかったのか。お味噌汁じゃあるまいし。
 「母がおよそ二分の一の確率でハンバーグにレーズンを入れる」ともある。こん
な表現は日本語にはない。
 「楽しそうに何かを喋ったり、楽しそうに何かに対して黙ったり」。これまた奇
異な表現。こんな表現をする作家に初めて出会った。
 「今のあなたには、煙突みたいに煙を吐いているだけの時間が必要なの」。気取
ったつもりで意味不明。
 文章自体に締まりがなく、スカスカの内容を水増しした小説。情景描写もほと
んどなく、薄ぼんやりした光景が続く描写だけだった。
 章ごとに主人公を別にしているが、最後にまとめる手法が悪く、小説構成も失
敗だろう。

 解説も酷い。「お仲間の褒め言葉」のみ。
 「比喩的に言い換えれば、小川-入江の関係が、阿部-東の関係と相似でありさ
えすればよく、合同であることまでは求められているわけではない」。何を例えて
いるのか、洒落たつもりで空振りになっている。大学院での指導教官が同じであ
ったことを自慢したいのか。

 最初の三分の一ほどでうんざりして、あとは斜め読み。
 Amazonではなく町の本屋さんに行って、面白そうと思ったが見事に失敗。
 暇つぶしにもならなかった。1000円近くする値段でこの内容。
 本書は5年間で2刷。これで重刷しているのが不思議なくらいにレベルが
 低い。
 全くお勧めしない。日本のSF界も素晴らしい人がいるだろうに、賞を取っ
 たのが信じられない。
ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA)より
4150312990

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