ユートロニカのこちら側

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評判

ユートロニカのこちら側の評価:

3.82/5点 レビュー 22件。 B ランク

Amazon書評・レビュー点数毎のグラフです

平均点3.82pt

Amazonレビュー一覧

Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全35件 1〜20 1/2ページ
No.35
(5pt)

ディストピア好きは読むべき

荒い部分もあるかもしれない。だが、ディストピア好きは必ず読むべき。
ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA) Amazon書評・レビュー: ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA)より
4150312990
No.34
(4pt)

自由という名の不自由に気づかない人々の話

誰も悪くないのにどうしようもなく苦しい状況が、作者特有のユーモアと客観的な視点でわかりやすく描かれていて、哲学的な内容なのにとても読みやすい。
また淡々と書いているようでありながら、父親の本当の姿を知る喜びと切なさだの、宗教みたいに他人を信奉する人々のおかしさだの、人間ドラマも起伏があって面白かった。

中盤から後半にかけては作者の造語である『ユートロニカ』が頻出して少し論文めいてくるのが読みにくかった。好きな人もいるんだろうけど自分はこっちじゃない方が好き。

見えてない奴らに限って自分が見ていないことに気づかない『バカの壁論』みたいな話になっていく。人間は自分の理解できる範囲の中でしか物事を受け取れず、それを越えるものは無意識に排除してしまうというやつ。
『全て自分の思い通りになる世界では、人間は次第に一切の欲を失い、意識のない世界になる=ユートロニカ』
当たり前が当たり前になりすぎて、もうかつてなにが当たり前ではなかったのか思い出せない、みたいな。
『自由を感じるのは、檻から出た瞬間である』檻がなければ自由とはなにか意識すらしない…。
最終章ではそういう話が主人公の牧師と絡めて綴られている。宗教の思想も入ってくるからなんかもうすごく重い。
これをデビュー作で書ける作者は凄まじいし、全ての人に知って欲しい視点だし、絶賛したいところだけど(中盤までは自分も絶賛してた)……前半と後半のノリが違いすぎて少し重かった。
ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA) Amazon書評・レビュー: ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA)より
4150312990
No.33
(4pt)

哲学的な物語

小説というよりは、哲学的な問題を提示され続けた著作という印象がある。SFとしてはAIが実用化された今、そう的外れにはなってない。
自由とは何かとか、多様な問題を出される。そして、解答はない。
ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA) Amazon書評・レビュー: ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA)より
4150312990
No.32
(1pt)

現代の私たちが感じる「既視感」

タイトルにもある「こちら側」という視点は、
オーウェルが描いたディストピアを現代的にアップデートした結果と言えます。
『1984』のウィンストンは、システムの「あちら側」へ抗おうとして失敗します。

『ユートロニカ』の登場人物たちは、自分がシステムの「どちら側」にいるのか、
その境界線すら曖昧なまま、便利さという名の管理に溶けていきます。

小川哲さんは、オーウェルが描いた「恐ろしい独裁」を、
現代の私たちが直面している「データによる最適化という名の幸福」に
置き換えて描き直したと言えるでしょう。

スマホのレコメンドに従い、効率を求め、
SNSで自分を切り売りする現代の延長線上に、
あの「静かな管理社会」が地続きで存在している。
その「地続き感」こそが、血の流れない物語の中で最も恐ろしい部分なのだと思います。

「自由」という重荷を、私たちは「幸福」という報酬と引き換えに、
案外あっさりと手放してしまうのではないか。
どちらも「人間から人間らしさを奪うものは何か」を突きつけてくる作品です。

『1984』の世界では、党を憎むという「心の自由」がまだ残されています。
しかし『ユートロニカ』の世界は、あまりにも合理的で、快適で、正しいのです。

恐怖の所在: 自分が受けているサービスが、
自分のプライバシーを切り売りした代償だと分かっていても、
それによって生活が最適化され、不幸が取り除かれてしまう。

絶望感: 「こんなのおかしい」と言おうとしても、
システム側から「でも、あなたはこのおかげで今、幸せでしょう?」
とデータで証明されてしまう。
反論する正当性すら奪われてしまうことへの恐怖です。
ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA) Amazon書評・レビュー: ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA)より
4150312990
No.31
(4pt)

自由とはと考えさせられる小説

AIが面倒を回避してくれるようになる世界線で、人間が悩むことがなくなっていく。(無意識的に生きるようになる。)それに対して、抗うことで自由を見出す人々の姿を書いています。自由って何だろうと考えさせられる本でした。
ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA) Amazon書評・レビュー: ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA)より
4150312990
No.30
(4pt)

自由とはと考えさせられる小説

AIが面倒を回避してくれるようになる世界線で、人間が悩むことがなくなっていく。(無意識的に生きるようになる。)それに対して、抗うことで自由を見出す人々の姿を書いています。自由って何だろうと考えさせられる本でした。
ユートロニカのこちら側 (ハヤカワSFシリーズJコレクション) Amazon書評・レビュー: ユートロニカのこちら側 (ハヤカワSFシリーズJコレクション)より
4152095776
No.29
(5pt)

著者のデビュー作にして総集編とも言える作品。

最近、個人的に大注目の作家、小川哲のデビュー作。個人情報をほぼ全て提供する代わりに働かなくても一定水準の生活が保障される「ユートピア」世界を描いたSF小説。映画「マイノリティレポート」のように犯罪は事前に予防されるので安全だが、「1984」のように寝室とバスルームを除いて行動や思考を監視される社会に身を置くとどうなるのか。複数の登場人物たちが交差しながら進む連作短編集です。

著者のその他の作品を先に読み、遡る形で本作を読んだのですが、デビュー作にして(デビュー作だからこそ?)やりたいことをこれでもかというほど詰め込んだ本となっている印象です。AI管理社会、自由、戦争など、著者がその後の作品で提示しているテーマや論点が多く網羅されていると感じました。著者の作品を全て読んだわけではありませんが、最初に総集編を出して、その後、個別詳細編を出していっているのではと思うほどです。

だから、近未来の仮想都市を舞台にした連作短編という形式を取ったのではないか、というのは穿った見方でしょうか。文章や構成など荒削りな部分がありながらも、底知れないパワーと瑞々しさを感じました。荒削りだと感じたのは、登場人物たちの描写。舞台はサンフランシスコ郊外の特別区、登場人物たちは外国人だらけなので、ユキを除いてあまり共感できる人物がおらず、人物描写も不十分だなと。一方で、登場人物たちを通じて体現される批評性は非常にパワフルです。

読後感は決して良いとは言えませんが、GAFAMをはじめとする巨大企業の戦略を見据える上でも、読む意味のある小説でしょう。
ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA) Amazon書評・レビュー: ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA)より
4150312990
No.28
(4pt)

そもそも自由を自ら放棄する自由が人間にはあるのか?

小川哲は読んでみたい作家であるが、小川哲の作品『地図と拳』『ゲームの王国』『君のクイズ』が長編なので、まず手ごろの太さの本から読み始める。小川哲の問題意識を知りたい。

 近未来の監視社会の人々の暮らしの6篇の短編集。
 巨大情報企業マイン社による実験都市アガスティアリゾート。そこでは個人情報ー視覚、聴覚、位置情報全てが情報銀行に集められ、把握されている。そして、個人はその情報開示で、社会的信用のランクが決まり、そのリゾートにランクが高くないと入居できない。そして、平均以上の生活が保証されている。誰もがのぞむ理想郷である。自分の情報が全て把握されているということ以外は。個人情報を売ることで、生活上の便益と安心が保障されている。監視されていない場所は、トイレ、ベッドルームの一部だけである。管理技術が進歩し、テクノロジーによって統治するリゾートだ。

 また、その個人情報は全てが記録され、過去の記憶もVRで再現できるサービスもある。情報銀行は、その個人情報を企業に販売することで、収益をあげる。そして、そこには中央集権的な独裁者はいない。特定の悪意の存在しない理想郷なのだ。

 少なくとも、今の時代、ネット社会の発達によって、個人情報はまるごと掌握され、AIによって、あなたの関心のあるのは、これでしょ。とびつきなさいと飼い慣らされている。個人の関心のあるもの、便利だと思って使っているネットの購買行動などを、お金をお払いながら個人情報を提供し続けている。情報を提供して、監視社会の一員となっている。その方が、サービスが充実していて、便利なのだ。Lineの個人情報は、個人の秘匿ではなく、会社が掌握している。賄賂の催促や裏金の話、そして不倫関係など、全部把握されている。だからと言って、やめられない状況に置かれている。情報銀行に個人情報を売って、全裸で生活する覚悟のあるものは裕福になり、衣類を着込んで秘密を持つものは貧乏になるのだった。

 ユートロニカとは、著者が作ったユートピアとエレクトロニカの造語。それは『永遠の静寂』ヲイミスル。不安定で、ノイズが多い人間世界ではなく、機械に管理され調整され調律された静かな世界である。人間の欲望や業によって振り回されない世界に生きる人々。

 そんな中で、自由で気兼ねなく生きたいという人が存在し、その人にスポットライトをあてる。ユートのニカに適応できない人間くさい人間の物語だ。「足し算のできるゴリラは朝食の後にブラックコーヒーを飲むのか?」「ヘップバーンの人差し指とリンカーンの鼻毛はどちらが長いか?」という質問もされる。

 第1章 ジェシカとジョン夫妻の物語。ジェシカはアガスティリゾートに憧れ、個人のランキングを上げるために苦労して、入居志望して、やっと8年目に入居できた。ジェシカは、すぐにその環境に慣れたが、ジョンはどんどん落ち込んでいく。夜の営みもできないし、食欲も湧かない。トイレだけがくつろげる場所だった。そして、高校時代からの球友に出会うが、その球友は、飛び降り自殺をする。
 ジョンは、ジェシカにクマにあったらどうするか?という質問をする。ジェシカは走って逃げるという。ジョンは、クマは人間より足がはやい、じっとその場で止まって待つ方がいいこともあるという。

 第2章 カルフォルニア州の警察官リードは、マイン社に呼び出され、休暇をとって研究所に行った。両親は、ハリケーンの土砂崩れで、家ごと埋められ、亡くなった。そして両親の記憶の権利が、息子のリードにあり、その相続のことで呼ばれたのだった。そして、両親の記憶を見ることで、自分の幼い時の記憶が蘇り、そして父親が何を記憶に残していたかを知り、父親との不仲だったことを反省する。

 第3章 殺人課の刑事スティーブンソン。殺人事件で夜中に呼び出された。リゾートでは、住人の視覚情報、購買履歴、移動経歴などあらゆる情報を取得しているので、犯罪を起こす可能性のある人物は、情報管理AIによってリストアップされている。殺人が起こったら、犯人候補者はすぐにリストアップされる。逮捕するだけが刑事の仕事。スティーブンソンは、殺人が起こらないようにすることがさらに大切だと思っていた。結局、スティーブンソンは、妻のリサの重要な日にも、事件で振り回され、伊sっよに食事ができなかった。そのことで離縁されるのだった。情報AIの進展している中でも、ワークホリックは無くなっていなかった。

 第4章 犯罪予測システムBAP(行動ポリグラフ:Behavioral Autography Program)を開発したドーフマン博士。ドーフマンは、一日二回の大便タイムをとっている。とにかくそこで、紙とペンをもって、創作行為をする。それが唯一の仕事だった。
 ジェンキンスは、ABM(アガスティア・ビューロー・オブ・マイニング :Agastya Bureau of Mining))で、Aクラスの犯罪者リストのトップだった。
 しかし、それは本当に正しいのだろうか。そのBAP,ABMが間違っていたらどうするのか?もしくはそれを悪意を持って操作できるとしたら何が起こるのか?そのため、犯罪を起こしていないのに、起こすという可能性で拘束できるのだろうか?未然に隔離して更生させることは、可能か?

 第5章 アメリカの大学に留学する日本人 ユキは、日本人の青年ララと知り合い、アガスティリゾートに向かった。ユキの祖父は、「メガネをかけろ、自由を探せ」が口癖だった。そして、なぜかユキは入場を拒否された。情報管理AIのサーヴァントが、入場者を判別していた。どんな基準なのかが公表はされていない。そんなサーヴァントに対して、ララとユキは反抗する計画を立てる。自由を取り戻す戦いではなく、自由の解釈をめぐる戦いだった。

 第6章 アガスティリゾートのアーベントロート牧師の息子、ピーターは、アガスティリゾートの住民たちの論文を発表する。「人から不満や不自由を取り払っていくと、ほとんどの行動が無意識になっていく。それが、進化として正常で、いずれはそれは永遠の静寂:ユートロニカになる」という内容だった。そのことで反感を買い、妻が殺された。息子ティム、そしてアガスティリゾートで祖父と三人の生活が始まるが、ピーターはアガスティリゾートに入居できなかった。そもそも自由を自ら放棄する自由が人間にはあるのか?
 「イエス様は、自分が自由だということを知っていたからこそ、自分の行いが理解されず、周囲の人に蔑まれ、罵られても、その十字架をその身に背負ったのです。これこそが自由です」

 読みながら、不思議な感覚になってきた。監視社会、管理社会において理想な街をつくること。全く静寂で静かな世界。自分で気ままに生きる世界。しかし、雑音ノイズがないと人間らしく生きられない。本書の中に、人間であるための必要なもの3Cが出てくる。偶然性contingency、好奇心curiosity、複雑さcomplicationだという。偶然性があり、人間が好奇心を持って生きることこそ、人間らしくなれるのかもしれない。
ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA) Amazon書評・レビュー: ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA)より
4150312990
No.27
(5pt)

非常面白い

興味深く、一気に読み終えていました。
ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA) Amazon書評・レビュー: ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA)より
4150312990
No.26
(3pt)

ここから楽しみます

小川哲氏のデビュー作なんですよね
ここから楽しみます
ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA) Amazon書評・レビュー: ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA)より
4150312990
No.25
(2pt)

なんとか読み切りました

設定は面白いけど、文体が苦手です。何かの翻訳なのかな、と思いました。主人公が外国人だからなのか。
小川さんの他の小説はどうなのか気になりました。
自分と歳の近いSF作家なので期待してます。
ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA) Amazon書評・レビュー: ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA)より
4150312990
No.24
(4pt)

GAFAMと共存する。。。

近未来のデストピアSFです。

個人情報を放棄するかわりに、安定した生活を送る人々の物語です。

徐々にそんな社会が近づいてくるような、予言的な一冊です。
ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA) Amazon書評・レビュー: ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA)より
4150312990
No.23
(4pt)

GAFAMと共存する。。。

近未来のデストピアSFです。

個人情報を放棄するかわりに、安定した生活を送る人々の物語です。

徐々にそんな社会が近づいてくるような、予言的な一冊です。
ユートロニカのこちら側 (ハヤカワSFシリーズJコレクション) Amazon書評・レビュー: ユートロニカのこちら側 (ハヤカワSFシリーズJコレクション)より
4152095776
No.22
(1pt)

この小説の良さが見つからない

本書が刊行されたのは2015年(単行本)。現時点(2023年初頭)で、すでに7年
ほど過ぎている。SFという形式の小説は、時代を経ても「古びないもの」と、すぐ
に時代に追いつかれ「古びてしまうもの」に、きれいに分かれるように思う。
 たとえば、ポーの作品「メロンタ・タウタ」は、何とほぼ170年前に西暦2850年
頃を舞台とした作品。内容はアフリカでの内乱や、「磁力線」で移動するエネルギ
ーを持つ宇宙船が登場する(と覚えている)。この作品は今でも読み継がれている。

 ひるがえってこの作品はどうだろうか。情報が全ての価値の源泉となるという
近未来のあり方が、すでに何度も繰り返し幾多の作家が書き続けてる。その中で
本書の魅力はどこにあるのか。かなり疑問に思う。
 情報収集の技術的側面は、なぜか詳しくは記していない。身につけるブレスレ
ットや目にはめ込むカメラなどのアイデアはもう出尽くしている。また、人間の
情報を集めるのに、生身の人間から直接データをとる方法も古びている。

 人間総体のモデリングが可能であるような未来なのに、あえて「情報を与えるだ
けで労働することもなく報酬を得て生活できる」という設定もいかにも奇異。
 しきりにAI、AIと言いつつ、そのAIが普通に動いているのかと、変な想像
までしてしまう。それほど情報収集の対象となった人間の行動がまともに描けて
いない。未熟なAIと対象となった人間の行動の薄っぺらさ。

 話が変わるが、本書を読んでいる時に将棋を思った。将棋の世界でのコンピュ
ータソフトが人間よりも優ったのは2012年あるいは2013年。この時にすでに、
将棋というかなり限られた局面しか持たないゲームではあっても、AIは人間をし
のいだ。大量のデータ処理のみならず、データそのものもモデリングが可能にな
る日も近いだろう。このことを考えると、2015年の発刊時点で本書はもう「古い」。

 小説としても未熟としか言えない。登場人物が(TVの推理ものの犯人のモノロ
ーグ)のように、厚みのない必然性のない説明口調で、砂を噛むような味わいのな
い会話をしている。まるで紙人形のように個性がない。現実でこのような、自分
を一々説明する人がいたらさぞ嫌だろう。

 ハードSFでも幻想的SFでもなく、「情報」という名を付けただけの「ディストピ
ア小説」。著者の専門であったのか、陳腐な精神分析もどき(いやそのまんまか)の
術語が時折出てくるが、残念ながら著者は臨床経験もほとんどない様子。
典型的な文献頼りの文章で、理論づけようとあがいているが、見事に失敗。虚仮
威しの文章は書かぬがいい。

 「人類の叡智の結晶のように映った」だの、いったいつの時代の表現か。
勃起不全、サナトリウム、超自我、解離性同一性障害、全てがこの作品の添え
物でしかない。著者の経歴からは、どうやら心理学から精神分析的分野に足を踏
み入れたらしい。これが医学からだともう少しリアリティのあるものになるだろ
う。

 意味深な題名を付けているが、その意味も分からない。第1章の「リップ・ヴァ
ン・ウィンクル」は、1820年頃のアメリカの小説の題名及び主人公の名前。アメ
リカ版ミニ浦島太郎の物語だが、その名付けの意味さえ分からない。
 繰り返しになるが、全体として登場人物が喋りすぎる。自分のプライベートな
ことを初対面でもペラペラ、まるで行間の説明文のように話す。また、汚い言葉
や汚いシーンを描いたりするが、これも不快なだけ。

 未熟すぎる表現も数多い。
 アメリカ人の会話で「ご飯がさめる」と登場人物が言う。いくらなんでも「スープ
やシチューがさめる」とでも書けなかったのか。お味噌汁じゃあるまいし。
 「母がおよそ二分の一の確率でハンバーグにレーズンを入れる」ともある。こん
な表現は日本語にはない。
 「楽しそうに何かを喋ったり、楽しそうに何かに対して黙ったり」。これまた奇
異な表現。こんな表現をする作家に初めて出会った。
 「今のあなたには、煙突みたいに煙を吐いているだけの時間が必要なの」。気取
ったつもりで意味不明。
 文章自体に締まりがなく、スカスカの内容を水増しした小説。情景描写もほと
んどなく、薄ぼんやりした光景が続く描写だけだった。
 章ごとに主人公を別にしているが、最後にまとめる手法が悪く、小説構成も失
敗だろう。

 解説も酷い。「お仲間の褒め言葉」のみ。
 「比喩的に言い換えれば、小川-入江の関係が、阿部-東の関係と相似でありさ
えすればよく、合同であることまでは求められているわけではない」。何を例えて
いるのか、洒落たつもりで空振りになっている。大学院での指導教官が同じであ
ったことを自慢したいのか。

 最初の三分の一ほどでうんざりして、あとは斜め読み。
 Amazonではなく町の本屋さんに行って、面白そうと思ったが見事に失敗。
 暇つぶしにもならなかった。1000円近くする値段でこの内容。
 本書は5年間で2刷。これで重刷しているのが不思議なくらいにレベルが
 低い。
 全くお勧めしない。日本のSF界も素晴らしい人がいるだろうに、賞を取っ
 たのが信じられない。
ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA) Amazon書評・レビュー: ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA)より
4150312990
No.21
(1pt)

この小説の良さが見つからない

本書が刊行されたのは2015年(単行本)。現時点(2023年初頭)で、すでに7年
ほど過ぎている。SFという形式の小説は、時代を経ても「古びないもの」と、すぐ
に時代に追いつかれ「古びてしまうもの」に、きれいに分かれるように思う。
 たとえば、ポーの作品「メロンタ・タウタ」は、何とほぼ170年前に西暦2850年
頃を舞台とした作品。内容はアフリカでの内乱や、「磁力線」で移動するエネルギ
ーを持つ宇宙船が登場する(と覚えている)。この作品は今でも読み継がれている。

 ひるがえってこの作品はどうだろうか。情報が全ての価値の源泉となるという
近未来のあり方が、すでに何度も繰り返し幾多の作家が書き続けてる。その中で
本書の魅力はどこにあるのか。かなり疑問に思う。
 情報収集の技術的側面は、なぜか詳しくは記していない。身につけるブレスレ
ットや目にはめ込むカメラなどのアイデアはもう出尽くしている。また、人間の
情報を集めるのに、生身の人間から直接データをとる方法も古びている。

 人間総体のモデリングが可能であるような未来なのに、あえて「情報を与えるだ
けで労働することもなく報酬を得て生活できる」という設定もいかにも奇異。
 しきりにAI、AIと言いつつ、そのAIが普通に動いているのかと、変な想像
までしてしまう。それほど情報収集の対象となった人間の行動がまともに描けて
いない。未熟なAIと対象となった人間の行動の薄っぺらさ。

 話が変わるが、本書を読んでいる時に将棋を思った。将棋の世界でのコンピュ
ータソフトが人間よりも優ったのは2012年あるいは2013年。この時にすでに、
将棋というかなり限られた局面しか持たないゲームではあっても、AIは人間をし
のいだ。大量のデータ処理のみならず、データそのものもモデリングが可能にな
る日も近いだろう。このことを考えると、2015年の発刊時点で本書はもう「古い」。

 小説としても未熟としか言えない。登場人物が(TVの推理ものの犯人のモノロ
ーグ)のように、厚みのない必然性のない説明口調で、砂を噛むような味わいのな
い会話をしている。まるで紙人形のように個性がない。現実でこのような、自分
を一々説明する人がいたらさぞ嫌だろう。

 ハードSFでも幻想的SFでもなく、「情報」という名を付けただけの「ディストピ
ア小説」。著者の専門であったのか、陳腐な精神分析もどき(いやそのまんまか)の
術語が時折出てくるが、残念ながら著者は臨床経験もほとんどない様子。
典型的な文献頼りの文章で、理論づけようとあがいているが、見事に失敗。虚仮
威しの文章は書かぬがいい。

 「人類の叡智の結晶のように映った」だの、いったいつの時代の表現か。
勃起不全、サナトリウム、超自我、解離性同一性障害、全てがこの作品の添え
物でしかない。著者の経歴からは、どうやら心理学から精神分析的分野に足を踏
み入れたらしい。これが医学からだともう少しリアリティのあるものになるだろ
う。

 意味深な題名を付けているが、その意味も分からない。第1章の「リップ・ヴァ
ン・ウィンクル」は、1820年頃のアメリカの小説の題名及び主人公の名前。アメ
リカ版ミニ浦島太郎の物語だが、その名付けの意味さえ分からない。
 繰り返しになるが、全体として登場人物が喋りすぎる。自分のプライベートな
ことを初対面でもペラペラ、まるで行間の説明文のように話す。また、汚い言葉
や汚いシーンを描いたりするが、これも不快なだけ。

 未熟すぎる表現も数多い。
 アメリカ人の会話で「ご飯がさめる」と登場人物が言う。いくらなんでも「スープ
やシチューがさめる」とでも書けなかったのか。お味噌汁じゃあるまいし。
 「母がおよそ二分の一の確率でハンバーグにレーズンを入れる」ともある。こん
な表現は日本語にはない。
 「楽しそうに何かを喋ったり、楽しそうに何かに対して黙ったり」。これまた奇
異な表現。こんな表現をする作家に初めて出会った。
 「今のあなたには、煙突みたいに煙を吐いているだけの時間が必要なの」。気取
ったつもりで意味不明。
 文章自体に締まりがなく、スカスカの内容を水増しした小説。情景描写もほと
んどなく、薄ぼんやりした光景が続く描写だけだった。
 章ごとに主人公を別にしているが、最後にまとめる手法が悪く、小説構成も失
敗だろう。

 解説も酷い。「お仲間の褒め言葉」のみ。
 「比喩的に言い換えれば、小川-入江の関係が、阿部-東の関係と相似でありさ
えすればよく、合同であることまでは求められているわけではない」。何を例えて
いるのか、洒落たつもりで空振りになっている。大学院での指導教官が同じであ
ったことを自慢したいのか。

 最初の三分の一ほどでうんざりして、あとは斜め読み。
 Amazonではなく町の本屋さんに行って、面白そうと思ったが見事に失敗。
 暇つぶしにもならなかった。1000円近くする値段でこの内容。
 本書は5年間で2刷。これで重刷しているのが不思議なくらいにレベルが
 低い。
 全くお勧めしない。日本のSF界も素晴らしい人がいるだろうに、賞を取っ
 たのが信じられない。
ユートロニカのこちら側 (ハヤカワSFシリーズJコレクション) Amazon書評・レビュー: ユートロニカのこちら側 (ハヤカワSFシリーズJコレクション)より
4152095776
No.20
(3pt)

女性の登場人物の話し方が、

すべて同じ印象でした。
話し方の論理が同じというか、みんな同じ知的レベルで個性がないというか。
内容はすごくおもしろかったです。
ありがとうございました。
ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA) Amazon書評・レビュー: ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA)より
4150312990
No.19
(3pt)

女性の登場人物の話し方が、

すべて同じ印象でした。
話し方の論理が同じというか、みんな同じ知的レベルで個性がないというか。
内容はすごくおもしろかったです。
ありがとうございました。
ユートロニカのこちら側 (ハヤカワSFシリーズJコレクション) Amazon書評・レビュー: ユートロニカのこちら側 (ハヤカワSFシリーズJコレクション)より
4152095776
No.18
(4pt)

人間は不自由からの解放という形でしか自由を認識できない。

アガスティアリゾート。
 そこは、自身のプライバシーを無条件に提供する者のみが居住を許される特別地区だ。
 感受性の強い人間は、必要以上にストレスを感じることになってしまうことから、その街では、鈍感さが最も尊い美徳のひとつとなっている。
 各人の目が見る情報はすべて提供されるため、街を管理するサーバントは、この街の人間関係と欲望、欲求のほとんどを知っている。
 したがって、その街では犯罪を未然に防ぐことが可能であり、危険の排除から、危険の予測と回避への転換が、アガスティアリゾートの基盤となっている。
 では、果たしてプライバシーを犠牲にして獲得した平和に価値はあるのか。
 犯罪者を行為ではなく目的で裁くことは許されるのか。
 理想の街に暮らす多くの人々は、自分が利用している側だと思い込んでいるが、実は、体よく利用されているだけなのではないか。
 本書ではそこから更に踏み込み、そもそも「自由」とは何なのか、自由の解釈や意識についても問題提起がなされている。
 アガスティアリゾートで暮らす多くの人々は、それぞれが自由を謳歌しており、監視されていることを不自由とは感じていない。彼らは彼らの基準において自由を謳歌している。
 しかし、人間は不自由からの解放という形でしか自由を認識できない。不自由がなくなれば自由もなくなる。完全に欲求が満たされれば欲求は存在しなくなる。
 人間は嫌なことや難しいことがあれば、意識を呼び出して、うんと考えてそれを解決しなければならない。つまりストレスが意識を発生させる。しかし、人間は、考えなければならないことがあれば、なるだけ考えなくてもすむように技術を進化させていく。そうやって人々の希望どおりストレスを無くしていくと、最後は意識が消滅するのではないか。人間はストレスを感じず、ずっと無意識のまま生活することになる。
 いくらかの割合の人間がほぼ完全に無意識になったとき、永遠の静寂(ユートロニカ)が訪れる。
 
 以上のとおり、本書のテーマはなかなかにして深く考えさせられる。
 小川哲の作品は、超傑作「ゲームの王国」もしかり、エンタメでありながら作者が伝えたい情報に深みがあり、小川哲ならではのオリジナリティーを感じる。
 また、彼の文体には好感を持つし、彼の文学的技巧にも魅力を感じる。
 例えば次のような比喩がある。
「バスタブがお湯でいっぱいになるように、自分に足りていなかった何かが満たされていくのを感じた」
「灰色に濁った、何かに八つ当たりするような雨だった。湿った床がねっとりと靴底に粘ついた」
 こんなのもある。
「個人情報が直接的に金銭と結びついた社会においては、自分をどれだけ箇条書きにできるかが人間の価値になっている。」
「機械にまかせて事件を解決するようになったら人間として終わりだ。責任を取ることは人間に残された美点の最後の砦だからな」
 今後の作品がとても楽しみな作家のひとりとなりました。
ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA) Amazon書評・レビュー: ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA)より
4150312990
No.17
(4pt)

人間は不自由からの解放という形でしか自由を認識できない。

アガスティアリゾート。
 そこは、自身のプライバシーを無条件に提供する者のみが居住を許される特別地区だ。
 感受性の強い人間は、必要以上にストレスを感じることになってしまうことから、その街では、鈍感さが最も尊い美徳のひとつとなっている。
 各人の目が見る情報はすべて提供されるため、街を管理するサーバントは、この街の人間関係と欲望、欲求のほとんどを知っている。
 したがって、その街では犯罪を未然に防ぐことが可能であり、危険の排除から、危険の予測と回避への転換が、アガスティアリゾートの基盤となっている。
 では、果たしてプライバシーを犠牲にして獲得した平和に価値はあるのか。
 犯罪者を行為ではなく目的で裁くことは許されるのか。
 理想の街に暮らす多くの人々は、自分が利用している側だと思い込んでいるが、実は、体よく利用されているだけなのではないか。
 本書ではそこから更に踏み込み、そもそも「自由」とは何なのか、自由の解釈や意識についても問題提起がなされている。
 アガスティアリゾートで暮らす多くの人々は、それぞれが自由を謳歌しており、監視されていることを不自由とは感じていない。彼らは彼らの基準において自由を謳歌している。
 しかし、人間は不自由からの解放という形でしか自由を認識できない。不自由がなくなれば自由もなくなる。完全に欲求が満たされれば欲求は存在しなくなる。
 人間は嫌なことや難しいことがあれば、意識を呼び出して、うんと考えてそれを解決しなければならない。つまりストレスが意識を発生させる。しかし、人間は、考えなければならないことがあれば、なるだけ考えなくてもすむように技術を進化させていく。そうやって人々の希望どおりストレスを無くしていくと、最後は意識が消滅するのではないか。人間はストレスを感じず、ずっと無意識のまま生活することになる。
 いくらかの割合の人間がほぼ完全に無意識になったとき、永遠の静寂(ユートロニカ)が訪れる。
 
 以上のとおり、本書のテーマはなかなかにして深く考えさせられる。
 小川哲の作品は、超傑作「ゲームの王国」もしかり、エンタメでありながら作者が伝えたい情報に深みがあり、小川哲ならではのオリジナリティーを感じる。
 また、彼の文体には好感を持つし、彼の文学的技巧にも魅力を感じる。
 例えば次のような比喩がある。
「バスタブがお湯でいっぱいになるように、自分に足りていなかった何かが満たされていくのを感じた」
「灰色に濁った、何かに八つ当たりするような雨だった。湿った床がねっとりと靴底に粘ついた」
 こんなのもある。
「個人情報が直接的に金銭と結びついた社会においては、自分をどれだけ箇条書きにできるかが人間の価値になっている。」
「機械にまかせて事件を解決するようになったら人間として終わりだ。責任を取ることは人間に残された美点の最後の砦だからな」
 今後の作品がとても楽しみな作家のひとりとなりました。
ユートロニカのこちら側 (ハヤカワSFシリーズJコレクション) Amazon書評・レビュー: ユートロニカのこちら側 (ハヤカワSFシリーズJコレクション)より
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No.16
(4pt)

小説として練れていない感があるが、2045年問題において楽観派が勝利した時に「人間はどう生きるか」という問題を先取りした秀作

作者の作品としては「嘘と正典」に次いで本作を読んだが、SF色が濃い。近未来の監視社会施設を舞台にしているが、通常のディストピア小説と異なるのは、"住民側"が情報を全て売る事を許諾している点である。人工知能(AI)の2045年問題において、楽観派が勝利した事を前提に、その時、「人間はどう生きるか」、という問題を先取りした感がある。施設の創立・運営はマイン社という会社が行なっており、各章毎に登場人物が異なる。

第一章、ジョンとジェシカの夫妻の内、妻のジェシカは積極的にこの施設に順応するが、夫のジョンは("背後霊"に監視されている様で)馴染めない。これに対する施設の精神科医のアドバイスが面白い。「通常の社会でも人は道徳の様な背後霊に縛られているのだから我慢しなさい」。中々、形而上学的なアドバイスである。また、ジョンにはジェシカと別れて施設を出る程の決断は出来ない。「選択肢がない時に人はどう行動すべき」かを問い掛けている様にも映る。第三章、物語とはやや離れるが、意識を含む情報を全て蓄積していれば犯罪を未然に防げるという着眼点も面白い。この他、施設の警察がナチス的であるとか、自由と束縛との関係とか作者の思索の幅は広いが、どうも物語が練れていない感があって求心力という点では今一つという印象。それで、連作短編集の様な体裁にしたのだろう。AIをハードウェアとソフトウェアとに別けている点も知識不足か。

上述した通り、色々と面白い、あるいは先見性のある鋭い着眼点が多い作品だけに、小説として練れていない点が惜しい。それでも、考えさせられる点が多い(特に、2045年問題)ので一読の価値がある秀作だと思った。
ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA) Amazon書評・レビュー: ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA)より
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