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氷
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氷の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点3.95pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全20件 1~20 1/1ページ
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ページをめくるや最終ページまで、不安と恐怖の緊張感が走る。ジェットコースターのように、読み始めるや、途中で降車することはできない。いつ終着駅がくるのか。『出口』がまったくみえない、その圧迫感。著者は、ドラッグユーザーであったそうだ。「なるほど」とうなずける、まさにパニックホラーの傑作。至高の作品という世評もまた”うなずける”、そんな作品です :D | ||||
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"世界はすでに終わりの時を迎えてしまったように思われた。それももうどうでもいいことだった。この車が私たちの世界になっていた。小さく明るく暖かい部屋。静かに凍りついていく無辺の宇宙の中の私たちの家"1967年発刊の本書は"夜の世界を探索する作家"による唯一無二の美しい終末物語。 個人的には"文学のカテゴライズを越えた幻想小説"スリップストリーム文学とも、思弁的SFとも評価される本書を【一体どんな本なのだろうか?】と興味をもって手にとりました。 さて、そんな本書はもし誰かに説明するなら物語自体は割とシンプルで。全世界が詳しくは説明されない突然の『氷』により次第に破滅していく中【さておき"私"はひたすらアルビノの"少女"を追いかける】だけの個人主義的物語ともいえるのですが。 まず異論もあるようですが、私はやはり、この迫りくる『氷』追い続ける『私』(邪魔する『長官』)拒み続ける『少女』の構図がなんども繰り返される本書は【カフカ的な読み心地で】例えば"城"のようないつまで経っても辿りつけない不条理存在として『少女』が存在しているように読みながら感じていました。 一方で『私は道に迷ってしまった』と唐突に始まり、フラッシュバックの様に現実と幻想が不連続に挟まれる文章は物語として【頭で理解しようと目で追うと読みづらく混乱する】ものの【イメージの奔流が先にあって、文章が散発的に表出している】と受け止めると、やはり描写の圧倒的な美しさには独特の魅力があって。読み終えた後になんとも言葉にできない余韻を覚えました。 カテゴライズしきれない美しい文章に没入したい方や、雪に囲まれる中で読書する際の一冊としてオススメ。 | ||||
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カフカが引き合いに出されることが多い作家なので気になっていましたが、 この作品を読んだ限りでは、似ているとは思いませんでした。 既存の型に当てはまるようなものではなく、著者独特の世界が精緻に描かれていました。 肝心の内容は、文体には品があり、技巧を凝らしていて、描写もすごいと思えるのに どうにも展開が退屈で、おもしろいと思えませんでした。 設定や表現には鋭いえぐさがあるものの、端々にメルヘンチックな雰囲気を感じてしまいます。 残酷さや暴力も混在する少女漫画でも読んでいるみたいな、むず痒い気分になってしまいました。 すごいと思うんだけど、おもしろかったとは言えないような、不思議な感覚でした。 | ||||
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続けて、アンナ・カヴァンの最期の作品で、代表作と言われる「氷」を1日で読了。 期待を裏切るか、「草地は緑に輝いて」が特別だったのか、と、ドキドキしたが、良かった! 二人の男性(一人が語り手)が、氷に浸食される末期の世界の中、儚げだというのに夢のような圧倒的存在感の美少女をただひたすら追い求める話。この話は時代によっては、SFに分類されたこともあったが、スリップストリームというのに今は位置づけられるとのこと。不条理を描く純文学。思い当たるのは村上春樹。アンナ・カヴァンの「氷」は、(村上春樹からユーモアと性描写を抜き取り)あり得ないことが延々続くのに、非常に上質な小説として成り立ってしまう凄い作品だった。 幼い頃に、サディスティックな母に虐待を受け、心に傷を負い、神経症のようなイメージさえ受ける華奢な美少女は、その純度の極まった雪の結晶を思わせる美しさからか、語り手と社会的権力のある「長官」から執拗なまでに求められるが、現れたかと思えば消え、囚われとなったかと思えば夢のように抜けだす。男たちは迫り来る氷の浸食を背に彼女を追い求めるが、人間性を覗わせる理由や心根が一切分からない。純度の高い、美しさを極めた「孤独」に心酔しているかのように、少女を手中に納めようとする。世界が終わるというのに、こんなに少女に執着するのは一体。。。 最後、語り手は少女と共に迫り来る氷から逃げるため車を走らせる。みちゆき。車は疾走するふたりを包む暖かい小部屋。少女と寄り添い、懐の拳銃の存在を感じ、物語は終焉する。 私には、少女が魅惑的な死の願望の象徴に思えてならない。 因みに、アンナ・カヴァンは、「氷」の発表の翌年亡くなる。40年常用したヘロインが直接的な死因でないらしい。自殺未遂を繰り返した経歴もあるが、それが死因でないらしい。 次は、精神病院に入院した経験が影響した短編集「アサイラム・ピース」を読む予定。 | ||||
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幻想的なのに機械的な香りもする、近未来SFのようでいて幻惑的である 村上春樹作品によく出てくる謎の女のようなヒロイン、それに訳もなく振り回される男 説明がほしいという人には不向きであるが嵌る人には心地よい | ||||
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短編集「アサイラム・ピース」を読んでから本書を読みました。 結論めいたことを先に言うと、アンナ・カヴァン未経験の方であれば、先にこの「氷」を読むのが良いと思います。 アサイラム・ピースを先に読んでしまうと、カヴァン作品経験何作目かに当たる本書の導入部に既視感が生じるというか、同工異曲のように感じてしまいかねないのです。 私の場合はそれで一気読みできず、1/3くらいを読んだところで何日か中断してしまったのですが、これはちょっともったいないことをしたと読後に思ったのです。 残り1/4くらいになってからの展開--語り手である「私」の少女への執着(としか呼べないでしょう)と、少女の受動的ながらも現状から逃避しようとする意志--これらは冒頭からコンスタントに読んだほうがより緊迫感を持って読めたかなあ、と… それでも最終部分に至る展開は十分スリリングで、全体がシルバーグレイの靄のように感じられた世界が急にオーロラのように鮮やかに、少しばかりおどろおどろしく見えてくるような描写は見事でした。また、中盤のすべての登場人物が自由意志というより状況に流されてファナティックな行動に走っているかのような印象は、J.G.バラードを思わせるようで、こちらも個人的に非常に好みでした。 この、取り憑かれたように破滅的な行動をとる愚かしい人々の存在する冷たい世界を、それでもこんなに美しく描けること自体が奇跡的なのかもしれません。 繰り返しますが、アンナ・カヴァン未経験ならば、ぜひこの作品からどうぞ。 | ||||
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1968年11月に享年67歳で謎の死を遂げて後に評価され始めた女流SF作家カヴァンが死の前年に発表して絶賛された伝説的名作が23年振りに改訳の上で復刊されました。本書は人類の終焉テーマに少女を追い続ける男の姿を絡ませた歴史的なSF長編小説です。地球全土を襲った異常気象による寒波の中、男は少女を追い続ける。何故か男を毛嫌いして逃げる少女。やがて某独裁国家を支配する強大な権力を持つ〈長官〉に捕えられ庇護を受ける少女を追って行く男だったが・・・。 本書の読み所は、男が追跡の途上で立ち寄る町や村の人々が危機的状況が進むにつれて人間性を喪失して行き躁鬱状態を繰り返す姿の描写、男がスパイ小説さながらに方々で危機を乗り越えて生き延び続ける強靭な生命力、そして男が妄念のように唯少女を救う事のみを生きる目的にして彷徨う姿にあるでしょう。男が望むのは性的な物では全くありませんし、恋愛対象ではなく大人と子供のような関係で、ひたすら守ってあげたいという渇望である事が純粋な感動を呼びます。個人の力では最早如何ともし難い運命を受け入れて、守るべき存在と共にいられる幸福を味わいながら、残されたいくばくかの生を引き伸ばす男の姿が胸を打ちます。唯、難を言えば男が少女に対して異常な程の思い入れを抱くに至った背景が最後まで明かされない所、物語の展開が大きな変化に乏しく面白味に欠ける点、人類の叡智や底力の頑張りが見られない所です(これは作品の性格上、止むを得ませんが)。細かい部分で物足りなさもありますが、構成がシンプルで理解し易く執筆された時代の息吹が感じられ、時を超えて読み継がれる普遍的な作品である事に疑いはありません。尚、巻末に著者の真価を認めたSF作家ブライアン・オールディス氏の懇切丁寧な解説文がついていて感動的です。最後に著者の作風の全貌を知る為に、他の傾向の作品群も多く読んで見たいと思いました。 | ||||
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スリップストリーム (=slipstream、元々、乱流に係わる航空用語だが、文学のジャンルを越えた一種の幻想小説を指す様に転じられた由)文学の傑作という事で手に採ったが、確かに、読者は作者の奔流に置き去りにされてしまう感がある。「氷」という表題が示す通り、ある「氷河期」を描いているのだが、「氷河期」に際しての終末論などを描いたSFとは程遠い。時代や舞台の説明は皆無、「氷河期」に際しての人間模様を描こうとした訳ではない事は、主な登場人物が主人公(?)の男(恐らく諜報部員)、その男が探す少女及び長官の3人に限られている事から明白(名前は一切出て来ない)。また、通常の文章の中に、男の記憶のフラッシュ・バックが"境目なく"挿入される(私は初め戸惑った)など、時系列も作者の思いのまま。 物語としての起承転結も全くなく、通常の小説としてはプロットが破綻している(例えば、男が少女を探している本当の理由さえ説明されない、男が数々の危険を殆ど偶然で乗り越えるetc.)様に見えるが、ここがスリップストリーム文学と称される所以なのだろう。作者が感じる<現実>の"不確実性"、それに対する"不安"・"孤立感"、<現実>による自身の世界の"浸食"などの作者の思惟(畏れ)をそのまま読者に投げ出しているという印象を受けた。確かに凄みのある作品である。また、上で「起承転結がない」、と書いたが、本作は男が迷いながら少女を探し続ける"迷宮"の物語であって、カフカ「城」に似た読後感を持った。このように、全体としては茫洋とした幻想小説・不条理小説の体裁でありながら、渡航手続き等の細かいエピソードはかなり具体的に書き込んでいる辺りの妙なアンバランス感が凄みを増しているという印象を受けた。 スリップストリーム文学という言葉は本作の序文で初めて知ったが、今まで読んだ事のない作風で、その真価を知るには実際に読んで頂くしかない。作者は唯一無二のスリップストリーム文学作家の由なので、興味のある方には是非手に採って頂きたい。 | ||||
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作品の出来不出来に関わらず、期待していたものとあまりに違っているので、どうしても「気に入った」と言う☆四つ以上の評価はできないものがあって、この作品はその一つになりそうだ。 だって、「気に入って」ないもの! そもそも、私はこの作品に終末の世界の侘しさや切なさを期待していたのだが、そんなものは欠片も感じなかった。 と言うのもここで描かれる世界は既に終わっているからだ。 守られるべき人間的な温かさと言うものが、この世界、と言うか物語に完全に欠落しているので、「終わっちゃえばいいんじゃないの。」と言う投げやりな感想が出てしまう。 この世界の何処を見ても略奪と凌辱ばかりで、愛など一つも見当たらない。 唯一主人公は、愛によって突き動かされているが、その愛があまりに偏執的で身勝手であるため全く感情移入できない。 主人公とアルビノの「少女」の間に何があったかは他のレビューでも意見が分かれる所らしいが、これ単に「僕が守ってあげるよ」とか言って近づいて性的暴行加えたんだろう。最後まで至ったかは知らないが。 純粋な思いで少女を追いかけてる人が「彼女を殺して良いのは私だけ」なんて言う訳ないし。 正直終末の世界そのものよりも主人公の方がよほどおぞましい。 そんな主人公から少女が逃げるのは当たり前だし、彼女を追いかける主人公に対して「会えると良いね!」などと思う人はまあ、おるまい。 作者はカフカの不条理文学に強く影響を受けたらしい。 確かにまあそんな感じだが、カフカは理解できた私も、これは駄目だった。 異常性愛者が世界の終末そっちのけで自分がかつて暴行した少女を追い求める話など、共感しろと言う方が無茶だ。 この世界を覆って行く氷に関して、科学的な説明が一切なされてないが、それは恐らく氷が我々の未来の先にある、確実な破滅を意味しているからなのだろう。温暖化問題とかあまり一般的な時代ではなかったそうだし、文字通りの科学的な意味での氷ではない、と言うのはあまりに露骨なのでメタファーと呼ぶのも躊躇われる。 ただ、文句ばかり書き連ねたが、終盤の壮絶なる終末のヴィジョンは、大変美しく見事であった。凍えるような寒さと切なさと絶望が伝わって来て、こればっかりは小説と言う媒体でしか体験できないものだ。 その点決して駄作ではないと言う事は分かるのだが、如何せん主人公がな・・。ちょっと怖すぎ。 もっと純粋な意味で少女を助けようとしていたら、あるいはそう私が解釈出来ていたら、作品の評価は180度変わっていたかもしれない。しかし、「愛情をこめて腕を折るのはこの私でなければならない」なんておぞましい台詞吐く主人公を好意的には解釈できない。 | ||||
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なんていうか、変な本でした。 唐突におかしなものが入り込んできて、真剣に書いているのかウケを狙っているのかわからない。 けれど、なにもかもが氷に覆われて崩壊していく様子は美しく、切実で、 主人公もヒロインもライバルのような人物も、誰も彼もが決して良い人ではなくて、むしろダメな人物なのですが、 善人ではない分だけどこか安心感のうちに読めました。 余談かもしれませんが、読んでいて何度も、自分は今もしかしてカフカの小説を読んでいるのではないだろうか、と思いました。 スリップ・ストリーム小説、おかしな小説が好きな人におすすめです。 | ||||
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一番初めに読んだカヴァンが「氷」で最近読み終わった本が「氷」。初体験は情報もなく、こちらも若いためか、余り惹かれない。その後、幾つかを読んで、面白さは感じるものの理解……というか、腑に落ちるところまで行けずに終わる。失敗したセックスのようだ。そして年月が流れる。今思えば、「愛の渇き」に明らかなように「氷」の少女はカヴァン自身だ。だから視点中心人物に惑わされずに少女の物語として読めばすっきりするし、見通しも良い。けれども、この終わり方から直線的に連想される未来は暗い。氷の侵食の話ではなく、少女の自立だ。「私」=ヘロインに取り込まれて終わってしまう。それはまたカヴァンの意志でもないだろう。だからわたしは願う。「私」が手に入れた拳銃により「私」が「少女」に撃たれることを……。そんな「私」の死こそ、物語の救いに違いない。 | ||||
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短い節で、ドンドン場面が変わっていく。 主となる登場人物は「私」「少女」「長官」だけ。 名前も無い、時代設定も無い、国の名前も無い。 少女をひたすら追い求め流離う私が、さらに「氷」に追いつめられていきます。 ヤクに侵された作者がイメージする世界に、「小説」のプロットは有りません。 起承転結が有りません。イメージだけです。 だから読んだ人は面食らう。これは一体全体何なんだと。 それは読了後も変わりません。 でもね、「皆勤の徒」ような脳髄を抉られるような衝撃的な「なんなんだ!これ!」 とはまったく違います。ただただ、不思議で終わります。 後書まで入れて274頁で900円はチト高すぎますぜ。 | ||||
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短い節で、ドンドン場面が変わっていく。 主となる登場人物は「私」「少女」「長官」だけ。 名前も無い、時代設定も無い、国の名前も無い。 少女をひたすら追い求め流離う「私」が、さらに「氷」に追いつめられていきます。 薬に侵された作者がイメージする世界に、「小説」のプロットは有りません。 起承転結が有りません。イメージだけです。だから読んだ人は面食らう。 これは一体全体何なんだと。それは読了後も変わりません。 それは「皆勤の徒」ような脳髄を抉られるような衝撃的な「なんなんだ!これ!」 とはまったく違います。ただただ、不思議で終わります。 後書まで入れて274頁で900円はチト高すぎるねぇ。 | ||||
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面白い小説は無いかと近くの書店を探しまわっていた。 本を探すときは感性がフルに働く。自分の全てを出し切る。 それで見つけた本がこれだった。はっきりとして、単純な情景描写、速い展開、 しっかりとした順序と後味、わからなくても大丈夫という安心感。 ただ読めば面白い、頭を使わず感覚的に読める小説。 | ||||
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原題 Ice (原著刊行1967年) 2008年にバジリコから刊行された単行本の文庫化復刊。版権の問題によりサンリオSF文庫版と単行本版に付されていたブライアン・オールディスの序文がクリストファー・プリーストによるものに差し替えられている。 世界を侵食し覆い尽くす禍々しくも美しい氷のイメージに圧倒される。それはまるで我々が決して逃れることの出来ない人生における不安と絶望の結晶の様だ。そして偏執的なまでに語り手の男に追い求められ、長官と呼ばれる独裁者に幽閉される少女の宿命に、蹂躙され汚される絶対的な無垢の存在を見る。勿論これは評者個人の一面的な見方に過ぎないが、本書の透徹された幻想の純度の高さと力強さは全ての読者が様々な感情を仮託する事を許す揺るぎなさを持っている。男と少女の逃避行の果てに訪れる美しくも悲痛で冷酷な結末はその象徴だ。 スリップストリーム文学の流れに本書を位置付けた卓抜した序文、実作者らしい示唆に富む川上弘美氏の解説を含め、素晴らしい復刊であり、スリリングで稀有な読書体験を約束してくれる一冊だ。 | ||||
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正直なところ、これほど優れた小説に対しレビューを書くのは難しい。この本を、少なくともカフカやバラードなどと比較して読むべきではない。また登場人物たちに名前がないことも、さしたる問題とは思えない。この小説は、他の小説にはないものをもっているのだが、それを上手く説明するのは難しい。とにかくこの作品の中では、どの主人公たちも極めて孤独で、精神状態が安定していない。しかも深刻なのは、この孤独感は読者を遠ざける類のものだ。誰もその孤独をつかむことなどできない。世界はすっかり氷に閉ざされている。そして、少女はどんな理解をも拒む。なぜ、少女は理解を拒むのか、ということは示されない。後半に薄っすらとその答えらしいものが見え隠れするが、それさえも主人公の幻想かもしれない。人々の理解を拒むほど徹底されたこの孤独には、かえって吸い寄せられそうなほどだ。 孤独感を癒したい人ではなく、その孤独を超越するさらなる孤独の物語を読むことで、やっと自分の孤独が楽なものに思えてくる、それほどの孤独感を抱えた人間こそが読むべき本だと、私は思う。ただのディストピア小説と読むのは違う、そうした読み方はこの小説の価値を下げるものでしかない。いるならば、カフカ以上の孤独を求めるものへこの小説を送りたい。 ところどころ破綻しているようにさえ見えるが、そのスタイルは強烈に魅力的である。いや、むしろ破綻しながらもどこまでも突っ走るこの書きっぷりが真の魅力なのかもしれない。 | ||||
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サンリオSF文庫の復刊。当時は読んだことがなかったカヴァンだが、ものすごく面白かった。アルビノの少女をめぐる主人公の執着。彼女との関係もよくわからないが、奇妙にエロチックな小説だ。 氷に象徴される世界の破滅と少女を追う主人公の狂気ともいうべき愛。翻訳がいいのか、とても美しい小説だ。 他の作品も読んでみたいが残念ながら入手困難らしい。探してみよう。 | ||||
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アンナ・カヴァン、死の前年に書かれた長編。 85年にサンリオ文庫から出ていたものを、同じ訳者による 大幅な改訳が施され、今年リリースされた。 夏に出た本だと思うが、この本を本当に読むには 寒い、凍えるような季節がいい。 自身に酔いしれるような男の、身勝手とも取れる行動が 延々と綴られており、現実と幻覚が何の前置きもなく入り混じる。 この描写に読者も酔うことになる。 文章に翻弄されて、その高揚感にともに流される体験が満喫できた。 登場人物にはひとりも名前がない。彼らの行動は、 実に自分本位でありながら弱々しく、痛ましさすら感じるが、 氷と雪に覆われた世界とあいまって、 読む間、ずっと不安な印象を抱き続けた。 また、具体的な国名なども当然ないが、極寒の地に、 氷に覆われていく世界の終わりを描き出した筆致は果てしなく美しい。 夢野久作「氷の涯」のラストを髣髴とさせる。印象的だった。 カヴァンの生涯の壮絶さはともかく(解説に詳しい)、 個人的には改訳版を出すに至った経緯などを記してくださった 山田さんの訳者あとがきがとてもよかった。拍手。 | ||||
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新訳というので楽しみに待っていた…。しかし、内容はもうはるか昔の匂いではない、新たなチャレンジを微妙にアレンジしている。これを是とするか否とするかは論議の分かれる所であろうから触れるのはよそう。 しかし、そうした内容の誤差や意訳はまだ許容範囲としても、もう何も「異論」を唱えられないアンナ自身がこの表紙カバーを見たらどう思うだろう。この表紙を制作した張本人は、原作は無理としても、旧作品を読んでいないのではないか、あるいは、作品の味わいを理解する能力に欠けるのではないかとさえ思う。耽美に自己陶酔した自己満足は、ヤキの回った「手なり仕事」を思わせる。 鳴り物入りでの出版…、作者アンナの人生を思うと、彼女に代わってこの作品に施された「死に化粧」に「異論」を唱えたい。憤りすら感じる。 | ||||
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1968年11月に享年67歳で謎の死を遂げて後に評価され始めた女流SF作家カヴァンが死の前年に発表して絶賛された伝説的名作が23年振りに改訳の上で復刊されました。本書は人類の終焉テーマに少女を追い続ける男の姿を絡ませた歴史的なSF長編小説です。地球全土を襲った異常気象による寒波の中、男は少女を追い続ける。何故か男を毛嫌いして逃げる少女。やがて某独裁国家を支配する強大な権力を持つ〈長官〉に捕えられ庇護を受ける少女を追って行く男だったが・・・。 本書の読み所は、男が追跡の途上で立ち寄る町や村の人々が危機的状況が進むにつれて人間性を喪失して行き躁鬱状態を繰り返す姿の描写、男がスパイ小説さながらに方々で危機を乗り越えて生き延び続ける強靭な生命力、そして男が妄念のように唯少女を救う事のみを生きる目的にして彷徨う姿にあるでしょう。男が望むのは性的な物では全くありませんし、恋愛対象ではなく大人と子供のような関係で、ひたすら守ってあげたいという渇望である事が純粋な感動を呼びます。個人の力では最早如何ともし難い運命を受け入れて、守るべき存在と共にいられる幸福を味わいながら、残されたいくばくかの生を引き伸ばす男の姿が胸を打ちます。唯、難を言えば男が少女に対して異常な程の思い入れを抱くに至った背景が最後まで明かされない所、物語の展開が大きな変化に乏しく面白味に欠ける点、人類の叡智や底力の頑張りが見られない所です(これは作品の性格上、止むを得ませんが)。細かい部分で物足りなさもありますが、構成がシンプルで理解し易く執筆された時代の息吹が感じられ、時を超えて読み継がれる普遍的な作品である事に疑いはありません。尚、巻末に著者の真価を認めたSF作家ブライアン・オールディス氏の懇切丁寧な解説文がついていて感動的です。最後に著者の作風の全貌を知る為に、他の傾向の作品群も多く読んで見たいと思いました。 | ||||
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