■スポンサードリンク
虐殺器官
新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!
虐殺器官の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.03pt |
■スポンサードリンク
Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全273件 221~240 12/14ページ
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
噂通りの作品。月並みだが、その世界観、「虐殺器官」をめぐる謎解き、戦闘や情報ガジェットのディテール描写に恐れ入った。 主人公のモノローグで語られるところが魅力的だ。たとえそれが薬物による抑制の結果であるにせよ、冷静な戦況分析や戦闘行動の記述は、現代のゲリラ戦のやりきれなさをリアルに感じた。宿敵と対峙したときの饒舌なやりとりは、アメリカ人の特殊部隊隊員らしからぬインテリジェンスではあるが、物語の特性上、解説は避けられないのであまり気にならない。舞台も複数の戦地以外はプラハという異質な古都を持ってきたところがクールだ。これがニューヨークやロサンゼルスや東京という都会では陳腐だったろう。 結びの場面は、皮肉な展開と既出のシーンとの対比で鮮やかな幕切れだ。もし映像化されるなら、このシーンは落とさないで欲しいところだ。 この作品を十日程度でかき上げるなんて、命を燃やすようなことをする必要を感じていたのか、逆に創作が命を縮めたのか。いずれにしてもこの作品を知った時点ですでに著者はいない。新作に会えないのはあまりにも残念だ。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
文庫版の帯に、宮部みゆきが「私には、3回生まれ変わってもこんなにすごいものは書けない」と感想を寄せていた。宣伝のためのおべっかと思ってたけど、読むとその意味がよく分かった。全編緻密で、いろんな要素がぎっしりつまっていて、語彙も豊富でセンテンスも洒落てて巧い。どこを読んでも隙がない。筆力とか文章力とか知識量とか、どう表現したらいいのか、SF的ではない部分まで、いや、私にとってはそうでない部分のほうが綿密で、精巧で、圧倒された。翻訳調の小気味いいリズムに、何度か出てくる”抹香”がそこだけ妙に日本人臭かったり、とか、重箱の隅をつつけば違和感もあったけど、ごくごく些細なことだ。オマージュが多いせいもあって、いちいちこれはオリジナルなのか?と疑ってしまうくらい完成されている。もちろんオリジナルとはなにか? という根源的なことを考えるとキリがないし、作家は誰しも、膨大な過去の名作に触発されるのだろうけど、それだけ細部までぎっちり意味がつまっている。多くの人が絶賛するのが分かる。伊藤計劃という作家にしか書けなかったと思う。 文句なく楽しかった。興奮のあまり徹夜したあげく、いろんなレビューに「分かる分かる!」と票を投じてしまった。反対にがっかりした人がいるのも理解出来る。他の人が書いていたけど、後書きにあった小松左京の批評はもっともだ。でも虐殺の分法を具体的に書くのは不可能だろう。その部分はファンタジーと割り切れる。 ただ常人では書けない”すごいもの”であることは確かでも、自問自答したとき、圧倒的な技巧に対する感動ではないのか、と悩む。巧すぎて無邪気に感動できない自分は、飛び抜けた異能に嫉妬しているのかもしれない、とさらに悩んでしまう。この作品にダメ出しするのは勇気がいる。脳内のモジュールがずれ、小説のテーマである良心のバランスが狂っていると宣言するようで。 もっともっとこの才能を味わいたかった。いったい次回作はどうするのだろうと、追いかけたくなるタイプの作家であることは自信を持って断言できる。早すぎた死が残念でならない。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
タイトルから「ソウ」のような拷問ポルノかと思ったら、全然違った。 非常に真っ当なSF小説だった。 作者が若くして亡くなったのが悔やまれる。 主人公は米軍の暗殺チームの一員である。 世界中で紛争が起こっている時代、プロの暗殺集団である彼らは第一レイヤーと呼ぶ紛争の首謀者を暗殺する。 紛争地域に出没するあるアメリカ人が、暗殺チームのターゲットとなるが、決して捕まることがない。 そのアメリカ人の目的は、紛争を引き起こすことだと判明する。 彼の言うところの「虐殺の文法」を使って。 始めに惹かれるのは暗殺部隊の装備である。 地上へ降下するポットは、表面が人工筋肉で出来ており、凹凸を微妙に変化させることで空気抵抗をコントロールし、着地後は腐って土に還る。 なかなかサイバーで、カッコいいアイテムだと思う。 しかし、これがトラップで中盤から人工筋肉が大きな意味を持つことになる。 頭脳がモジュール毎に機能が特定された世界において、どのモジュールが機能していれば意識があることになるのか? 現在の脳死より難しい問題である。 薬品で脳の一部の機能を止めて、セラピーによって倫理観を抑制されて状態での殺人は、罪になるのか? 科学の進歩を見据えた社会的、倫理的問題を扱った、正当なSF小説である。 こんな小説を日本人が書いたとは驚きである。 作者名を見なければ、翻訳だと思うに違いない。 この物語のテーマは贖罪である。 謎のアメリカ人は、死んだ家族のために、どんな手段を使ってでもアメリカを守る選択をした。 「虐殺の文法」の謎を解いた後、主人公は別の選択をする。 救いはないが、気の利いた終わり方だと思う。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
これがデビュー作とは思えないほど精密で繊細な文章。海外作品のようなクールでハードボイルドな語り口.よく勉強されたバックボーンによって、リアリティ十分な世界観。SFという体裁を取ることでマイルドな味付けになっているが、平和な国で富を享受し、貧しい国から多くの物資を巻き上げて生きているG9の国々の罪をあからさまに指摘した硬派社会派小説である。また「死」というものにこれほど真摯に向き合った作品を読んだことがない。海外の作家の作品と比べても見劣りしないすばらしい作品である.平和ボケした多くの日本人は本作を読み、世界の現状に目を向けなければならない. | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
読了してここまでもどかしい気分になった小説も久しぶりだった。今更ながら日本のSF史に残る傑作であることは言うまでもないし、それだけにもうほんの少しだけのリアリティと小説上の工夫があればと、処女作にこれを描き切った作者の夭折と合わせて残念でならない。小説内で用いられているエピソード、ガジェットやモチーフの引き出しの多さが世界観の構築に寄与しているのは認めるものの、それらの使い方の詰めの甘さ(もう一捻り欲しいというか)を感じるのだ。 なぜピザハットとFOXじゃなくて、ドミノ・ピザとCNNなのか。なぜもう一回NYでもなくテルアビブでもなくマーレーアドミームでもなくドバイでもモスクワでもなく、サラエボなのか。そもそも最初の引き金がなぜムスリム原理主義なのか。なぜジョン・ポール(ヨハネ・パウロ)という命名なのか。だったらなぜLTI、ルワンダの煽動ラジオなど近現代の文献だけが対象なのか。有史以来宗教の名のもとに行われてきた虐殺行為の数々は?等々の疑問がどうしても現在の延長線上にあるこの小説世界のリアリティを私的には損なってしまっていた。それがもどかしかったのだ。 多分、ものすごく贅沢な注文で、凡百の日本の国際謀略小説の多くが全共闘くずれの妄想かリアリティのないゲーム的小説に終始してることを考えれば、これ以上ないくらい贅沢な注文であることもわかっているので、とても星5つ以下にはできない。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
SF作品としての世界観・設定の細かさは当然の評価対象として、 単純な反応で片付けることのできない、 人間の複雑な感情・感覚の描き方が秀逸な一冊。 ホラー、戦争小説などのジャンルにおいては ゾンビ→怖い、弾に当たる→痛い、戦友が死亡→哀しい と人間の感情・感覚の反応が、単純な図式で定式化されていた方が 読者は感情移入しやすいし、第一、話を進めやすいだろう。 しかし本書では敢えてそこを切り離し、目の前の凄惨な現実と、 それにビビットに反応しないよう統御された感情感覚を並列し 外部環境と人間内部、また現実とデジタル虚構、 平和な先進国と内戦の続く混乱地域という テレビやネットの中の報道だけで理解している気になっている 二項対立の拠って立つ基盤に鋭い疑問を投げかけている。 そういう意味で押井守作品との親和性や、 佐藤亜紀が評価するのも肯ける意欲作だろう。 この難易度は高いが、すばらしい探索の進化を もうこれ以上見られないのは、まこと哀しい現実である。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
軍事SF小説というのか、戦争スペクタクルというのか、なんといったらよいかわかりませんが「すごかった」の一言に尽きる。 「未来の恐ろしい世界の仕組み(伊坂幸太郎)」と紹介がりましたが、すぐそこにある未来です。 個人的には狂気の殺戮者ジョンポールの生い立ちが気になります。なぜ学者からPRマンになり虐殺に目覚めたのか?単に妻子がテロで死んだだけではないはず・・ いつか翻訳され、世界に飛び立っていくことでしょう。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
圧倒的な筆力と、秀逸なアイデア、今日的なモチーフと、自己と世界をめぐる根源的なテーマ、そして、これでもかと盛られている、さまざまな先行作品へのオマージュとパロディ、それでいて、唯一無二の大傑作。これぞゼロ年代の「全部入りラーメン」だ。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
この小説を評するのに「リアル」という言葉を使うのはそもそも変。 想像上の未来の話なのですから。 それにSFチックなモノたちは全て単なる小道具に過ぎない。 そっち系のものに惑わされなければ本書の凄さが見えてくる。 強引に「こうなるかも知れないよ〜」と極端な方向に想像の羽根を伸ばしたのではなく、 現在の世界で実際に起きている様々な問題をまっすぐ伸ばし、悪い方向にちょっと曲げた感じ。 SF的ガジェットが「実現するか」はおいといて、この社会の状況、雰囲気は充分あり得る。 ーーーーーーーーーーーーーーー以下微ネタバレーーーーーーーーーーー 「彼ら(搾取される途上国)の憎しみがこちら(搾取する先進国)に向けられる前に 彼ら同士で憎み合って(中略)殺し合ってもらおう」 「自分と関係ない場所で悲惨な戦争が起こっていること」は必要なこと。 ドキッとしました。 自分の良心や本音といったものの裏の、さらに一番奥底にある何かが反応。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー まさか今頃になって「近未来SF」にこんなに感銘を受けるとは。 過去の作品はほとんど陳腐化、なにせ「宇宙の旅」をしているはずの2001年は9年も前。 かつてSF作品が描いた未来は暗い予想も明るい予想もことごとく的外れ、 逆に宗教がこれほど大きな問題になるとか、小さなコンピューターがネットワークで繋がった世界、 などというものはほとんど予想されていなかったのではないかと。 だからSF、特に「近未来SF」などというジャンルは死に絶えたと思っていました。 でもSF的ガジェットをもっと少なくすれば、もっと幅広く評価されただろうなあ。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
9.11後、先進国ではトレーサビリティと絶え間ない認証によるセキュリティレベルの上昇をもってテロと戦い、発展途上国ではもっと盛んな内戦やテロリズム(核も、もちろん)が横行する近未来。米軍の諜報機関でもあり、暗殺機関でもある部隊、情報軍の特殊検索群i分遣隊の一員であるシェパード大尉の目線で繰る広げられる【世界】の残滓。残虐な描写を含みながら、現実と向き合うことで生まれる様々な葛藤、生と死、アメリカンウェイオブライフ、神、肉親から残されること、言語学、文学・・・どの問題にもそれぞれの答えを出しながら進むことで、シェパード大尉の物語が、あなたの物語になる不思議な作品です。 構成的には、きっとどこかで読んだ物語と違いはないのですが、そのディティールや死生観に、独特の強さがあり、様々な事柄を扱いながらも、その到達点はいままで読んだどのSFよりも現実的で突き抜けている稀有な作品でした。 言語学者ジョン・ポールの思惑とシェパード大尉の物語なのですが、読ませるチカラ溢れるリーダビリティを少しも犠牲にしないで、これだけの描写やディティールにこだわれるその技術の高さ、そして結末とエピローグの突き抜け方は、経験の無いレベルでした。 トレーサビリティと安全の関係の盲点(と書きましたけれど、トレーサビリティを操作するのは人なわけで、偽の情報を入れてしまえば偽装表示と全く同じで、ただ今まで以上にコストがかかるだけですよね)、先進国と発展途上国との欺瞞、良心という機能について、脳死判定を受け入れるということ、自由と平和の対価、ジョージ・オーウェル、カウンセラーと倫理的ノイズ、愛国心の浅い歴史、見たいものしか見ない人々、そしてある地平(それはたくさんの死や苦痛によって支えられている!!)を越えてしまったところにある決断が最後に待っています。 あくまで1人称で語られるシェパード大尉の物語が、ジョン・ポールの物語が、知らぬ間にあなたの物語になるチカラを持った作品です。エピローグ後の【世界】の萌芽を、実はすでに日本に生きている私には感じられます。 作者の伊藤さんは既に亡くなられてしまっているので、これが本当に残念。とてもお若かったのに、残念。 戦争、テロリズム、愛国心、言語学、良心、トレーサビリティ、そんな単語が気になる方にオススメ致します。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
タイトルの形容が正しいかは、わかりませんが、とてつもない衝撃的な小説だと思います。 いちおう軍事SFというジャンルに収まっていますが、伊坂幸太郎や宮部みゆき、小島秀夫など、あらゆるエンターテイメントを発信する方々から絶賛されていることが、この小説が今まで、あらゆるメディアから一線を画していることの証明となっています。 虐殺を引き起こすジョン・ポール、それに連なる民族紛争。ドミノ・ピザの普遍性とバドワイザーに象徴される、資本主義社会。テクノロジーの進歩と主人公のナイーブさ。そして、情報管理と自由。 これらすべてが丁寧に、繊細に、切実に描かれたひとつの世界。これが「虐殺器官」という小説であり、僕たちの世界そのものなのかもしれません。 知ろうと思えば、すべてを知れる。靴紐について、編まれている糸について。でも鯨や、イルカから作った人口筋肉については誰も知らない。目を瞑っているから。知りたくないから。 それでも世界は回っているし、成り立っている。目を開いてみればわかりますよね? 結末はとてつもないです。でも、彼はそれを自分で選択したのでしょうか。虐殺器官は誰にでも備わっています。もし、彼の虐殺の器官が作動していたら。そう考えると、また違った印象を持てるかもしれません。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
お話としてのオチは皮肉がきいていて良いと思うんですけれど、正直複線を回収された時に頭の中に起こる「!」という反応は起こりませんでした。長々続いたのにこれで終わりなのか…という感じでした。と言っても大変な事が起こってるのですけど! ですがそんなものを軽く凌駕するくらいに、世界設定、作中の人々が語る思想・哲学には光るものがあるかと思います。本来ならば小難しい理屈であるはずのものも、表現がうまいのですんなりと入ってきます。 この小説は必ずしも最後に「なるほど!」と納得するするものでなく、途中途中で「なるほど!」「なるほど!」の連続があるものであると感じました。 この小説を読み、作者の他の作品にも興味がわいてきました。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
文庫になったことだしAmazonでも評判よさげだから読んでみっか、てな感じで気軽に読み始めたら、 これは凄いです。 ドストエフスキーに挫折した人も是非読むべき。実存主義はここにある。 フィクションの力を思い知らされた。 良心を科学的にマスキングされた兵士が、良心を抑制し他者への残虐性を高める"文法"を発見した学者の暗殺を請け負うという皮肉。 ジャン・ポールがなぜ世界を転々とし虐殺を起こし続けるのか、この理由に私は打ちのめされた。 利己的であることと、利他的であること。 人はその両方を共存させている。この恐ろしさから目をそらせない。 この作品は2007年の小松左京賞の満場一致で最有力候補作として残ったが、当の小松氏の一言でその受賞を逃したと聞く。「虐殺の言葉」の描写がいまひとつであるという、全く的外れとしかいいようのない一言で。 本書を読んだ者はあとがきにあるこのエピソードに、怒りさえおぼえるだろう。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
主人公クラヴィス・シェパードも、物語の主軸であるジョン・ポールも 行動の源となっているものは、一貫して「赦しを請う」ためである。 トラウマや後悔などの罪に対する罰を自分自身に科し、免罪符を受け取ろうともがいている。 内戦や虐殺を行ってしまう人々も、同じ文脈に乗っているように読み取れる。 「〜のために」というスローガン的言い回し。 「愛のために」「星条旗のために」「みんなのために」「祖国のために」 と、唱えることで身勝手で迷惑な侵略も干渉も虐殺もそして自分の罪も赦される…。 物語の中で象徴的な虐殺は、イルカと鯨だ。 人間の勝手な文法で虐殺を感じさせないネーミングにて利用されている。 繰り返されるメッセージ「人々は見たいものしか見ない」 突き詰めた痛覚のマスキング技術が滑稽に描かれている。 「情報を発信するのは容易だが、注目を集めるのはより難しくなっている」 見たくないものを見せつけるために著者は、グロテスクな場面描写を多く取り入れていると思う。 「罪を背負うこと」「自分を罰すること」赦しを得ることが どれほど身勝手で迷惑で混乱を招く行為なのか、 最後の一頁、 勝手に一人で気持ちが穏やかになって満足している主人公に醜悪なおぞましさを感じさせられた。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
米軍大尉クラヴィス・シェパードはある男の暗殺を命じられていた。インドやアフリカといった内戦地域で大規模虐殺の種子を蒔いている米国人ジョン・ポールだ。当該地域の人々に憎悪と殺戮の念を植えつける上でポールが利用するのは、人間が持つ“虐殺器官”であった…。 緻密に構築した近未来の世界を舞台に著者が描くのは、人間社会を大きく突き動かしていく力を持った言語の姿です。 作者はサピア=ウォーフの法則や、チョムスキーの生成変形文法を模したかのような「脳に刻まれた言語フォーマットのなかに隠された混沌を示す文法」などの言語学風言辞を駆使しながら、人類を戦争へと駆り立てる駆動力を言語の中に見出そうとしています。 思えばオーウェルの「1984年 」もニュースピークなる綿密に操作された言語が近未来の人間の思考の筋肉を弛緩させていく様をグロテスクに描いていましたし、事実ナチスドイツがいかに言語を緊縛しながら国民を戦争に駆り立てていったかについてはヴィクトール クレムペラーが「第三帝国の言語「LTI」―ある言語学者のノート」で明らかにしています。 私は「虐殺器官」を、オーウェル的な言語と戦争の系譜を新しい形で受け継いだ小説として大変興味深く読みました。 しかしこうした戦争を生む力を孕む言語はまた一方で、だからこそ戦争を抑止する力もあわせ持つはず。そんな希望に満ちた信念が作者・伊藤計劃の脳裏にはあったと私は感じるのです。 「文明は、良心は、殺したり犯したり盗んだり裏切ったりする本能と争いながらも、それでもより他愛的に、より利他的になるよう進んでいるのだろう」(382頁)。 シェパードの胸に灯るこの希望を支えるのが言葉であり、畏敬の念をもってその言葉と対峙することが出来るとき人は真に平和を実現できるのではないか。 テロの時代に生きる私たちにとって、この小説が提示する理念に心震える思いがしたのです。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
SF初心者の私ですが、この書には震えました。圧倒的な筆力と現実感のある非現実。細部まで書き込まれた物語は。仮想現実を越えて、読者である私達に迫ってくる。その圧迫感が読者を物語の中に誘い、そして吸い込んでいく。まるで映画を観ているような読書感。名作中の名作です。 9・11以降の世界観の総括的な書である。その中では仮想現実と現実との対比(本作にはボードリャールの記載あり)や生物と感覚、言語という現代の課題が複層的に絡み合って、進んでいく。 こんな作品どうやったら書けるの?どんな思考回路なの?っていう驚愕の作品。でも作者はもうこの世にいない。この作品が作者の墓碑銘になっている。この世界にこれだけのものを残したのだから。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
正直これはびっくりするくらいおもしろかったです。 大層なネーミング。筆者の夭折。読む前からこんだけ ハードルあげといて面白いのはすごい!! すごい、すごいと印象論になってしまうけど、内容は メタルギアソリッドみたいで、藤原豆腐店の車が出てくるし、 「1984」みたいだし。世界観はネットみたい。 っとまったくまとまらないレビューですが 筆者はこれらのものを巧みにまとめあげています。 「スラムダンク」以来ある意味忘れたい作品ですw | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
このSFに☆を五つあげなかったら,他の何に今☆があげられるというのだろう。 主人公はクラヴィス・シェパード。アメリカ情報軍特殊検索群i分遣隊の大尉。 ときはおそらく2020年代。シェパードは,アメリカの特殊な上層部の命を受けて 第三世界で内戦と虐殺を起こしている男を暗殺する使命を帯びている。 その男がどうやって内戦を起こすかが、この小説の第一アイデアなのだが、 書評でその内容が少しでもわかるように触れるのは重大なルール違反である。 ただし、なぜそれで虐殺が起こせるかの書き込みは確かに足りないし,動機も弱い。 が、それを補って余りある疾走感。 まるで翻訳物のような文体,だが翻訳ではないので読みやすい。アメリカ人の作家が、 読者サービスで出すように日本の名を出すこころにくさ。 ぼくは、この作品の中で侵入鞘(イントルード・ポッド)が射出される瞬間の描写が好きである。 ぼくは、この作品の中で,母の延命装置を外す承諾をしそれを原罪のように悔いる主人公の心理描写が嫌いである。 ちなみに、ぼくが、たまたまそうなっただけだがイーグルトンの『宗教とは何か』と、ドーキンスの『神は妄想である』 を読んでから『虐殺器官』を読んだ。そうすると、と飛びます。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
SFは普段読まないのですが、最近話題の本ということで、読んでみました。 まずは、文体に引きつけられました。読みやすい文章、比喩の斬新さ、洒落た会話、非常にセンスがよい文体で、グロテスクな場面もすんなりと入っていきました。しかし、そのグロテスクな場面がきれいに滅菌されてしまっているのかというと、そうではなくて、どこか悲しみを帯びたような静かな文体で、胸に響きます。 次にディテールを支える知識の量・深さに圧倒されました。哲学・経済・政治・宗教・歴史……それら一つ一つに対する筆者の造詣の深さに驚かされます。そしてそれらが、衒学的ではなく、非常に分かりやすく語られています。 もちろん、ストーリーも素晴らしい。張り巡らされた伏線は、それぞれがドラマを持っているので、伏線伏線していません。登場人物の心理変化や他者との葛藤も、ディテールやドラマにしっかり支えられているので、非常に説得力がありました。 そして、何よりも素晴らしいのは、この作品が現代社会の矛盾に対して、するどい視線を持っているということ。SFでありながら、現代社会に対する、そして現代社会に生きる人間に対する警告の書になっていると感じました。 読んでよかったです。今までの人生の読書体験の中でも指折りの一冊でした。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
読み始め、文章の軽さとこなれなさに違和感を覚えましたが、 著者の綿密な取材と教養に裏付けられたディテールの積み重ね、 いい意味で日本人離れした厳としたストーリーテーリングの前には 些事になります。 (あとがきによると、文章の軽さは著者が意図したものだそうです。スミマセン) 詰め込まれた情報量は、ある意味、士郎正宗の欄外注の系譜を踏襲する SFへのアプローチ方法かとも思えますが、 このような先人の成果を十二分に消化し積み重ねる手法の中に、 (日本の)SFやその周辺がたどってきた行程が見え隠れし、 感慨深く感じる方も多いのではないでしょうか。 兎にも角にも、従来の日本SFのレベルを飛び越えた傑作であり、 一つの金字塔であることは間違いなく、 なおさら、このような才能の夭折に、哀悼の念を禁じえません。 | ||||
| ||||
|
■スポンサードリンク
|
|
新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!