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取引



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【この小説が収録されている参考書籍】
取引
取引 (講談社文庫)

取引の評価: 8.00/10点 レビュー 2件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点8.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全2件 1~2 1/1ページ
No.2:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

物凄い取材力に感服

とにかく、こんな専門的な事をよく調べたものだと取材力に圧倒された。
この内容の充実さを考えると年に一作ペースで執筆するという作者のこだわりも、よく理解できる。
これを、他の人気作家の様に年に3作、4作と書いたら、間違いなく廃人になってしまうことだろう
前編と後編で、まったく別の内容の小説が(それも秀逸な)簡単に出来上がってしまうような内容で、しかも、この二つの話をコネクトする手法も無理なく自然に導入されている
最後は私が好きになった登場人物を最後はいい形で終わらせて欲しかったのだが、残念ながらアンハッピーエンドということになってしまった。
最も魅力的な登場人物:遠山順司(主人公の高校時代の同級生であり今回の捜査対象)

mustang
PCGQIQ4X
No.1:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)
【ネタバレかも!?】 (1件の連絡あり)[]  ネタバレを表示する

愚行は今も変わらず

2作目のジンクスという言葉がある。
本作は真保氏にとって江戸川乱歩賞受賞後の第1作、つまり第2作となるのだが、そのジンクスを跳ね返すべく、彼が並々ならぬ精力を本作に注いだのが冒頭から滲み出ている。

まず本作のメインであるマニラでのODA大規模プロジェクトの内偵に主人公伊田が関わる経緯からして非常にミステリアスであり、読ませる。100ページ以上費やして語られる導入部はぐいぐいと興味を引っ張り、ページを繰る手が止められない面白さだ。
そこから展開するマニラでの日本建設業界への潜入捜査、マニラを含め、フィリピン各所で繰り広げられる追跡行を読むに当たって、よくもまあ、これほど詳細に書けるものだと感心することしきりだ。真保氏の取材力の緻密さには定評があるが、確かにこれはすごい!

まず、空港を降り立ってホテルにチェックインするまでの流れは私が今まで何度も経験したその動きをそのまま投影しているかのようだ。しかも建設業界の内幕の様子もさることながら、フィリピンでのビジネスについても作者は熟知しており、終始ニヤリとするとともに、感嘆を禁じえなかった。
そして主人公やその他登場人物が縦横無尽に行動するフィリピンのマニラの街並みの描写も詳細を極めているが、スールーとかバギオなどの通常日本人が行かないようなところにまで踏み込んで舞台にしているところが、単純に小説に使うという名目で作者がフィリピンへ観光旅行したのではなく、明らかに明確な意図を持って入念に取材した事が窺え、この作者の作品に向かう誠実さを感じさせられた。
これがまだ2作めだというのだから恐ろしい。

そしてこの本を読むタイミングというのもまた良かった。建設業界の談合話に加え、小説の舞台がマニラ。これは今現在フィリピンに滞在する私に対し、今読め!と云っているようなものである。
しかし、それでも本作は星10を手放しで与えようとするとどうしても抵抗があるのだ。
それはテーマと中で扱われている内容にどうしようもない乖離を感じたからだ。

私は冒頭のプロローグから第一部の展開までの物語の流れを読んで、愚直なまでに自らの仕事に対して正直な男の復活劇だと期待した。それは一度閑職に追いやられた男が公正取引委員会という仕事が世に蔓延る不正を正し、悪の芽を詰む物だということを自らの信条とする伊田和彦なる男が密命を帯びてフィリピンで行われているODAの大型プロジェクトの不正を暴く、そういう物語だと思っていたからだ。
しかし、蓋を開けてみれば、それは単なる物語の意匠に過ぎなくて、この物語の核心はフィリピンで起きた誘拐事件の探索行、そしてその事件の真相を巡る物語だったのだ。

確かにフィリピンという国を縦横無尽に駆け巡る誘拐事件の解決劇は面白い。2つ起きる誘拐事件のうち、核となる第1の事件は660ページ強の本書の中で300ページ弱と、半分を費やして語られ、それ自体1編の長編に相応しい内容になっている。しかし、そこから私が期待した展開は、そこから伊田の当初の目的である談合の証拠を掴む調査の話だった。しかし、上にも述べたように実はそうでなく、この誘拐事件に隠された真相を巡る物語が展開する。
これがどうしても私には納得が行かなかった。それは本作の主人公伊田と調査の対象となる相手の1人に彼の高校時代の友人遠山順司という人物が設定されていることも一因だ。

この遠山順司というサブキャラクターが非常に魅力的に描かれている。この好男児に対し、伊田が自分の使命と友情の維持という葛藤に対し、どのような決断を下して乗越えるのかに私は非常に興味があった。多くのページを費やして繰り広げられる追跡行も、伊田と遠山の結びつきを強めるガジェットとして受け取っていたのだ。
しかし作者の思惑と読者である私との思惑が一致しなかった。これは非常に残念だと思った。

しかし、これは単純に作者が悪いというわけではない。私が勝手に展開を予想した事による齟齬なのだ。もし私が何の先入観もこしらえずに白紙状態で向き合っていたら、読書の悦楽にどっぷり浸かることができただろう。
真保氏の小役人シリーズはまだ2作しか読んでいない物の、非常に好きなシリーズである。だから私は良い読者でありたい。彼は小役人を主人公にする事でミステリを描く作家だという事を念頭に変な先入観を持たず、次から読む事にしよう。

1992年発表の本書で語られる建設会社の談合事件が26年後の今なお続いているのを見ると、この世の中というのは何も変っていなく、日本という国が根っからの土木国家という事をまざまざと知らされる。
それは本書で述べられるフィリピンもまた同様だ。100ペソ札(現在のレートで220円前後)1枚で賄賂が成り立つ貧困状況、幼児売買、臓器売買が成されている現状(しかも臓器売買は合法化されているとまで云われている)など全く変っていない(本書で述べられる気分の悪くなるような事実に対して、何ら驚かない、既に麻痺した自分がいることにも気付かされた)。故にこの作品が未だに古びれない輝きを放っているのだから実に皮肉なものである。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S

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