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葬列



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【この小説が収録されている参考書籍】
葬列
葬列 (角川文庫)

葬列の評価: 6.33/10点 レビュー 3件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点6.33pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全3件 1~3 1/1ページ
No.3:
(7pt)

狂乱者たちの宴

葬列。
そのタイトル通り、死屍累々の山が築き上がる。その有様は実に壮絶。

小川勝己氏が横溝正史賞を射止め、その年の『このミス』でも第16位にランクインした鮮烈なデビュー作がこれ。現在の奥田英郎作品の『邪魔』、『無理』のような、社会の底辺で貧困にあえぐ下層社会の人々が一世一代の大勝負に出るピカレスク小説だ。

これは宴である。
狂乱の宴だ。
性格破綻者の小市民たちとやくざとの抗争と云う名の宴だ。

ただただ一攫千金と云う無謀な夢を描くだけのように見えた中年女性2人と若い女性1人の3人組が落ちこぼれやくざの史郎と邂逅するしてから俄然現実味を帯びてき、明日美の勤めるラヴホテルの経営者の街金業者への襲撃からB級ヴァイオレンスアクション小説の色合いを濃くしていく。

そして街金襲撃から史郎の復讐譚へ移る九條組襲撃計画のプロセスの段になってもはや読者の心の中には明日美、史郎、しのぶ、渚4人が生き生きとした人物として刻まれ、彼女たちがもはや無謀な素人犯罪集団ではなく、プロの武装強盗集団に見えてくるから実に面白い。心を閉ざして他者の介入を容易に赦さない謎めいた女性、藤並渚も壮絶な過去が次第に明かされていくうちに稀代の無敵な悪女強盗になってくるのだ。

そして史郎、明日美、しのぶ、渚の4人組がいよいよ九條の別荘に乗り込む420ページからの約40ページは新人の作品とは思えないほどの勢いと迫力に満ちている。息を呑んでページを繰る手が止まらない自分がいたことを正直に白状しよう。

さてやくざが絡む大金を巡る下流社会の人々の抗争と云えば馳作品を想起させるが小川作品と馳作品とではテイストが全く異なる。馳氏の物語は人間の卑しいどす黒い負の衝動を物語が進むにつれて肥大させ、それが破裂して破滅の道を辿るという、終始暗いムードが漂うが、小川作品は登場人物たちの設定ゆえにどこか滑稽でこれら頼りない社会の底辺で生きる面々をいつのまにか応援してしまうのだ。

それは馳作品での殺戮は自業自得で泥沼に嵌ってしまった主人公がキレて自暴自棄になって人を殺しまくるという、同情も共感がどこにも得られない行動理由で起きているので、全くテイストは違うのだ。

小川作品での殺戮はそのゼロ時間へ向けて着々と準備が整えられ、殺された家族への復讐と一攫千金という目的のために動くというベクトルがはっきりしているところにある。

従って惨たらしい殺戮シーンながらもどこか爽快感とカタルシスが残り、主人公と同様のひと仕事を終えた心地よい疲労感が得られる。

それはひとえに小川氏の描く登場人物造形のユニークさがあるからだろう。白いマンションに住むことを夢見て過去にマルチ商法に嵌って夫を身体障害者にしてしまった三宮明日美。
明日美をマルチ商法に誘い、一攫千金を願いながらも上手く行かない人生を儚み、全身整形を施した人造美人の葉山しのぶ。
高校の先輩に誘われて極道の世界に入ったものの、生来の気の弱さからやくざになりきれない小心者、木島史郎。
アメリカ滞在時に両親をミリタリーマニアの学生らにゲームさながらに殺され、自身も輪姦されながらも唯一生き残った心をどこかへ置き忘れた帰国子女、藤並渚。

そして彼らを筆頭に敵役の九條、堺、海渡と云った極道連中と癖のある刑事隅田ら脇を固める面々一人一人が戯画的なキャラクターでありながらドラマを形作る。
どこかマンガを読んでいるような感覚と妙に詳細な銃器の説明と小道具となるラヴホテルの従業員たちの仕事の内容と、パロディとリアルが同居した奇妙なノワールの世界がこの作品にはあり、それが一種独特な雰囲気を醸し出している。

そして最終章に訪れる驚愕の真相と荒廃感漂う仲間共の理不尽な最期。
誰もがどこか狂っている。やはりこれは狂乱者たちの宴の物語だ。

正直、馳作品を読んだ後にまた人が大勢死ぬ作品を読むのはどうにも辟易だったが、案に反して実に面白く読むことが出来た。
馳作品を深作欣二監督の映画のように例えるならば、小川作品はクエンティン・タランティーノ監督作品のようなテイストを持っている。
アクの強い人物たちが最後に華々しく銃撃の花火を放って散りゆく。それは迫真に迫りながらもどこか滑稽で爽快感が漂う。

この鮮烈なデビュー作の後、『彼岸の奴隷』、『眩暈を愛して夢を見よ』といった話題作を放ちながら、昨今ではなかなか世の中の評価が高まらない小川勝己氏だがこのような不思議な読後感が残るパルプ・フィクション小説を書ける作家は非常に貴重なので再起の花火を打ち上げる様な作品を期待したい。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.2:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

葬列の感想

横溝賞受賞作。こういうクライムノベル系をあまり読んだことがなかったので、ドキドキしながら新鮮に愉しめた。

ジャム
RXFFIEA1
No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

葬列の感想

世の中の片隅に住む、負け犬4人が出会って無茶苦茶な計画を企て実行して大金をせしめるが・・・。
簡単に書くとそんな話だ。うだつのあがらないヤクザ。妻に逃げられ小さな女の子と二人暮らし。夫が障害者で必死に働く中年女。その障害は自分が原因だった。何をやっても上手く行かず家族に見放されて、ねずみ講のマルチ商法に嵌まり更に転落していく女。自分の存在にリアルさを感じられない帰国子女の若い女。その過去には家族を惨殺され自身もレイプされた暗い出来事があった。ひとつのきっかけで動き出した計画。
だが、最後の最後で思い込みをひっくり返される別なエピソードが明らかになる。
横溝 正史賞を受賞したデビュー作だが文章は上手い。「これは戦争だ」と言い武装した4人がヤクザの幹部の別荘を襲うところは、銃の細かな説明の描写など大藪 春彦のハードボイルド小説を思い起こさせる。
選評にもあるように最後の一行がこの話の全てで結局彼女の物語だったということか。テンポのよい展開とスピーディさで一気に読み進めることが出来る面白さはある。

ニコラス刑事
25MT9OHA

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