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猿島館の殺人



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猿島館の殺人の評価: 2.50/10点 レビュー 2件。 Eランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点2.50pt

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No.2:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(3pt)

古典ミステリを躊躇なくネタバレする要注意ミステリ!

折原一氏のデビュー作『七つの棺』(デビュー時は『五つの棺』)のシリーズキャラ黒星警部の『鬼面村の殺人』に続く長編第2弾が本書。但し次作の『丹波家殺人事件』を先に読んでいるので私にとっては長編3作目に当たる。
本格ミステリ好きが高じて密室好きになり、どんな事件も密室に結びつけてしまう変わり者の警部が主人公とあってやはり今回も密室殺人事件がテーマになっている。しかも横須賀の沖に浮かぶ猿島に唯一ある西洋風住居、猿島館で起きた密室殺人事件だ。

まず第1の密室殺人は館の主人猿谷藤吉郎が自身の書斎で額を割られて絶命する事件。部屋は内側から鍵が掛かっており、唯一部屋から行き来できるのは部屋にある暖炉の煙突のみで、それも小柄な人間しかできない。そして死に際に主人は「猿が殺した」と云い遺して絶命する。

第2の殺人は密室では無いが、第3の殺人は密室状態の同じ書斎で2人の男、藤吉郎の息子誠一と不動産屋の水野がショック死する事件。藤吉郎の遺言状を探すため、書斎に鍵を掛けて籠っていた2人。目立った外傷もない死体だったが、暖炉にはとぐろを巻いたマムシが2匹いた。どうやら2人はマムシに咬まれて絶命したようだった。

これらの内容から連想するのはある有名なミステリ作品だ。これについては後ほど述べることにしよう。

この黒星警部シリーズはカッパノベルスから刊行されたシリーズであり、当時のカッパノベルスが駅のキオスクにも置かれ、出張もしくは長時間通勤のサラリーマンや普段ミステリを読まない大人の旅行のお供という色合いが濃いことから、折原氏も自覚的に書いているように感じる。
ただ他の本格ミステリ作家に比べて年輩の折原氏は自身サラリーマン生活を送っているだけに、それらの読み物に多生のお色気があった方がいいと思っている節があり、本書でも遠慮なくヒロインの葉山虹子のヌードが何度となくお披露目される。さらに本書では虹子がお世話になる猿島館の主人猿谷藤吉郎が美女好きの好色家として描かれており、自身の書いたポルノ小説が登場したり、また酔っ払った虹子があわや藤吉郎に襲われそうになったりと、色物の要素が以前にも増して導入されている。前作比1.5倍程度にはあるのではないだろうか。
まあ、『鬼面村の殺人』を読んだ時は学生であったが既に私も40代になっているので読者のターゲットに入っているので、1作目を読んだ時よりは寛容に受け止めることが出来たのだが、果たしてこのサーヴィスは必要かなとこの歳になっても違和感は多少覚えたことを正直に云っておこう。

また折原一氏と云えば叙述トリックの雄として知られているが、翻ってこの黒星警部シリーズは密室物ミステリを扱う、本格ミステリど真ん中の設定である。上に書いたように本書もまた密室ミステリであるが、以前より作者は新しい密室ミステリは生まれず、これからは過去のトリックをアレンジした物でしかないと公言しており、密室物を売りにしたこのシリーズではいわゆる過去の名作ミステリの本歌取りが大きな特徴となっている。

先にちらっと触れたが、本書ではまずポオの「モルグ街の殺人」がメインモチーフになっているが、その後もドイルの「まだらの紐」をモチーフにした密室殺人が起きるなど、複合的に過去のミステリのトリックがアレンジされて導入されている。

しかしさすがに3作目ともなると作者もこの設定自体にミスディレクションを仕掛けており、上に掲げたミステリをモチーフにしながら、実はもう1つクイーンの名作の本歌取りでもあったことが最終章で明かされる。1作目はクイーンの中編「神の灯」であったことを考えるとやはりこの作者は根っからのクイーン好きらしい。

しかしこの過去の名作ミステリから本歌取りすることを明言し、そこから新たなミステリを生み出すことに対しては異論はないのだが、黒星警部シリーズの一番困ったところは本歌取りした原典のトリックや犯人を明らさまにばらしていることだ。

本書でもいきなり「モルグ街の殺人」の犯人を明かし、更に「まだらの紐」のトリックも躊躇いもなく明かしているし、更には上に書いたクイーンの原典についても伏字ではあるが、伏字の意味がないほど明確に書かれている。また前作『鬼面村の殺人』でも「神の灯」のトリックを図解で説明している。

これらは恐らくあまりにも有名過ぎて本書の読むミステリ読者ならば既知の物だろうと作者自身が判断した上の記述だろうが、やはりどんな判断に基づこうがミステリのネタバレは厳禁である。特に他のミステリのネタバレを公然とすることに大いに抵抗を感じるのだ。

現代のミステリ読者は島田荘司氏の作品や新本格と呼ばれる綾辻氏の作品以降のミステリから触れることが多く、過去の名作、特に黄金期の海外ミステリを読まない傾向にあると云われて久しい。そんな背景も考慮して折原氏は今の読者が読まないであろう過去のミステリのネタバレをしているのかもしれないが、それでもやはりそれはミステリを書く者が読者に対して決して犯してはいけない不文律であると私は強く思うのである。
特にこの黒星警部シリーズは上に書いたようにカッパノベルスから刊行されたサラリーマンがキオスクで気軽に出張中に読むような類いのものであるから、そんな一般読者にさえネタバレをしているのである。

本歌取りをすることに是非はない。しかしその内容に問題がある。ネタバレをするのであれば、まずはその断りを書くべきだし、いやもしくはネタ元を明かす必要もないのではないかと思う。解る人には解ればいいのであって、別に明確にネタ元を示す必要もないと思う。

恐らく作者は無類の密室好きという黒星警部のキャラを際立たせるために、すぐに事件が起これば彼が耽溺している過去の密室ミステリに擬えることを強調するがために明らさまにネタ元を書いているのだと思うが―あとは作者自身がそうしたがっているか―、それも例えば“密室ミステリ好きな黒星警部は事件の状況からある有名な密室ミステリを思い起こしたが”とか作者の名前まで出して作品まで言及しないとか、そういった配慮をすべきであると私は考える。

そしてそんな私の不満を見越していたかのように本書の真相はこれらミステリ好きの志向が作用したものとなっている。

ただ原典ほど鮮やかであるかどうかはまた別の話なのだが。従って副題のモンキー・パズルもパズルと云うほどロジックを愉しめたかというと微妙なところだ。

ミステリのネタバレを事件の真相に組み込んでいることからも折原氏自身もネタバレに対して激しい抵抗感と嫌悪を示すミステリファンの心理が解っているはずである。であるにも関わらず、このシリーズで思い切りネタバレをするところに作者の創作姿勢に疑問を強く覚えてしまう。

あと最後にそもそも埼玉県白岡署の黒星警部が神奈川県の江の島動物園から逃げたチンパンジーを探す担当になることが実におかしい。
神奈川県警の所轄なのになぜ埼玉県の警部が担当するのか?
書中では白岡には東武動物公園があるからと理由になっていない理由で駆り出されているが。この辺の非現実的な設定も気になった。現在のミステリならば必ず突っ込まれるところだろう。

さて本書の舞台となった猿島は実は実際に存在し、刊行時は無人島で大蔵省(刊行当時)関東財務局の管理地であり、立入禁止で渡し船もないと書かれているが、実は今では猿島公園として開放されている。最近は昔の軍の要所の史跡としてよりもジブリ作品の『天空の城ラピュタ』を彷彿とさせる風景として人気のスポットとなっており、案外今回の葉山虹子の取材は時代を先駆けた現実味のある話だったようだ。
また本書に書かれている猿島の由来となった日蓮に纏わる伝説も実際に伝えられており、元宮司の一族だった猿谷家のような血筋もどこかにいるかもしれないと、案外荒唐無稽な話でないところが面白い。

本当に久々の黒星警部シリーズだったが、本格ミステリ風味はさほど感じられないものの、この密室好きの巨躯の警部とお色気担当の葉山虹子のコンビはちょっと時代遅れの感があるにせよ、改めて読むと独特の味わいがある。本書では2人がお互いに悪く思っていないような節も見受けられ、今後2人がくっつくのかというミーハー的な面白さも孕んでいるようだ。

とはいえ、本書が刊行されたのが1990年ともう30年も前であることが驚きで、自分の積読本の多さを再認識し、我ながら呆れてしまった。
しばらくはこんなペースなのだろうが、シリーズ読破は生きているうちに果たしていきたいと思わされた作品だった。

但し次回からはネタバレ無しでお願いしたいものだ。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(2pt)

イマイチ……

孤島かつ館だが本格要素は弱く、内容はユーモアで誤魔化そうとしていている。
海外の名作のネタバレが文中に書かれるけど必要性が分からない。

Voxt
2E86AIVK

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