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カクレカラクリ An Automaton in Long Sleep



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カクレカラクリ An Automaton in Long Sleepの評価: 7.50/10点 レビュー 2件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.50pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全2件 1~2 1/1ページ
No.2:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

子供の頃のワクワク感が想起させられる隠れた傑作

いやあ、なんとも気持ちの良い小説だ。久々に童心に帰り、ワクワクしながら読み進めることができた。

廃工場マニアの大学生コンビが訪れた鈴鳴という田舎町で絡繰りの天才が仕掛けた120年後に動き出すと云い伝えられている隠れ絡繰りの謎を追うミステリだ。

まず導入部が面白い。
大学の同じ講義で気になる美人学生の気を引くためにその子の素性を調べて出身地にある廃工場を特集した専門雑誌を2人で見ながらこれ見よがしに話して興味を引く。そして女子学生に話しかけられるよう仕向け、仲良くなろうという企みだったが、夏休みを利用して廃工場見学に行くのにその子の提案で一緒に行って、しかもその子の実家に泊まらせてくれると云う予想以上の収穫を得るのである。

美人学生の名は真知花梨。そして見事彼女の気を惹くことに成功した学生2人は郡司朋成と栗城洋輔という。

そして彼らが訪れる田舎村鈴鳴は昔は絡繰り職人の村として知られており、かつて磯貝機九朗という天才絡繰り師がいた。そして真知家と山添家というお互いに啀み合う2大地主によって二分されている村で真知家は林業で財を成し、鉱山と工場を、山添家は宿屋と川を使った運送業で財を成し、温泉旅館と観光業を営んでいたが、工場は既に閉鎖され、旅館も細々と経営している有様で、今は資産を売り払いながら生活している。しかし彼らが村の名士であることは変わりなく、皆彼ら一族には会釈をし、尊敬の念を抱く。そして真知花梨はその真知家のお嬢様なのだ。

そして彼女にはさらに女子高生の玲奈がおり、彼女は家ではおしとやかな名家のお嬢様ぶるが実は隠れてバイクに乗り、そして宿敵の山添家の息子太一といつも一緒にいる仲だ。

そして鈴鳴にはお戌様の祭りが行われ、この年は丙戌で60年に一度の本祭りの時期に該当した。そして村には機九朗が仕掛けた隠れ絡繰りがあり、それが120年後に動き出すと云い伝えられ、この年がそれに当たることからお戌様の本祭りに絡繰りが作動すると云われていた。

郡司と栗城に真知姉妹と山添太一、そしてもう1人、理科の高校教師で玲奈が所属する物象部の顧問であり、尚且つ機九朗の子孫である磯貝春雄が加わり、この隠れ絡繰りの謎に挑むというのが本書の大筋だ。

この鈴鳴と云う村が実に特徴的で絡繰り師の村であったからか、村の看板や標識にはやたらと凝った、いわゆる「判じ物」がところどころにあるのが特徴的だ。
「判じ物」で有名なのは「春夏冬 二升五合」と書いて「商い 益々繁盛(あきない ますますはんじょう)」と読ませる、とんち文のようなものだが、本書では道路の行先標識に「呼吸困難」と書いてあり、これを「行き止まり(いきどまり)」と読ませたり、「貴方ボトル」と書いて「郵便(You瓶)」と読んだりする。

そんな頭の体操めいた謎かけから物語はやがて天才絡繰り師磯貝機九朗の仕組んだ隠れ絡繰りの謎解きへと移り変わっていく。

やがて調べていくうちに機九朗が仕掛けた隠れ絡繰りが鈴鳴村全体を使った壮大な仕掛けであったことが判明していく。

しかし決してスリリングに、また陰湿に描かれるのではなく、どことなくのんびりとした感じで語られる。
これもお金持ちだからこその心の豊かさゆえだろうか、彼らと悲壮感は全くの無縁なのだ。

やがてそれらのエピソードを基に隠れ絡繰りの在処を突き止めるのは郡司朋成だ。

天才はあらゆることを想定しているからこそ天才なのだというのを我々読者は思い知る。

隠されたお宝を探し出すその過程でそれにまつわる人々の秘密もまた炙り出され、意外な真相へと辿り着く。
実はそれは本来ミステリとはこうあるべきだという理想形なのかもしれない。人が死なず、町に伝わる隠れ絡繰りの謎を探ると云うのは暗号で描かれた宝地図を読み解き、真相に一歩一歩近づいていく冒険小説の面白みがあり、胸が躍らされた。

本書は私にとって森作品のベストとなった。解りやすさもあるが、なにしろ登場人物全てに好感が持て、鈴鳴という架空の田舎村を舞台に広げられる物語の結末が実にほっこりとさせられたからだ。

確か本書はドラマ化されたが、私は観ていない。いや寧ろアニメ化、2時間枠のアニメ映画として観てみたい。細田守氏あたりがしてくれないだろうか。

森氏は常々人はたいてい人生にとって無駄なことに時間と労力を費やす非効率的な生き物だと述べる。しかし無駄なことが実は一番面白く、それが出来るのもまた人間だと説く。

天才絡繰り師磯貝機九朗が遺した120年後に作動する絡繰りは動いてしまえば何ともないことだが、それを動かす機構を観て感動を覚える。

しかし相変わらず森氏の描くキャラクタには魅力があるなあ。
本書に登場した郡司朋成、栗城洋輔、真知花梨と玲奈姉妹、磯貝春雄に山添太一はノンシリーズにしておくには実に勿体ない魅力を持っている。
そして実は最も存在感があったのは一度もその姿を見せない天才絡繰り師磯貝機九朗だ。彼は自分の仕事で天才性と先見性を示すことで誰よりも存在感を放った特異なキャラクタである。
森作品で天才と云えば真賀田四季を想起させるが、機九朗は彼女とは全く正反対の、無駄と思われることに全知全能を傾けて行う天才だ。それは彼の培った技術の粋を後世までに遺し、そして伝えたかったのかもしれない。
しかし一方で未来の日本人に対して「どうだ、これほどのことができるか」と自身の仕事を誇示するために作ったのかもしれない。彼が隠した真知家と山添家の秘密も含め、実に人間らしい天才ではないか。

本書は隠れた森氏の傑作としてぜひとも読んでほしい。そこにはこれまでのシリーズ作品には一切出てこない愛すべき隠れキャラの冒険が存分に盛り込まれているから。



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Tetchy
WHOKS60S
No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

カクレカラクリの感想

森博嗣初映像化もされた本作は大学生たちが村に伝わる「カクレカラクリ」に挑むというもの!冒険的要素と謎解き要素が絡まって、なかなか面白かった。

ジャム
RXFFIEA1

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