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ナヴァロンの要塞



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ナヴァロンの要塞の評価: 6.00/10点 レビュー 2件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点6.00pt

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No.1:
(7pt)

冒険小説の原点的作品ゆえか

『女王陛下のユリシーズ号』と並んでマクリーンの代表作とされる本書。私は映画でこの作品の存在を知っていたが、大方の人も同様ではないだろうか。
そしてつい最近まで入手可能なマクリーンの作品は『女王陛下のユリシーズ号』のみだったが、一昨年に27年ぶりに行われた週刊文春によるオールタイムベスト100の選出でデビュー作が再びランクインしたことの影響を受けてかは解らないが、昨年冒険小説フェアの1冊として復刊された。

ドイツ軍が誇る難攻不落の要塞にあらゆる攻撃を掛けては苦渋と辛酸を舐めらされたイギリス軍が最後の手段として取った方法がゲリラ攻略。世界的に有名な登山家キース・マロリー大尉をリーダーとして潜入不可能と云われるナヴァロン島に侵入し、要塞が誇る巨砲を撃破せよというのがストーリーの概要だ。

『女王陛下のユリシーズ号』でもそうだったが、マクリーンのキャラクター造形の深みには堪らない物がある。

世界的登山家と云う勇名を馳せたチームの指揮官キース・マロリー大尉は陸軍にいてもなお、冷静沈着かつ慎重な注意力を持ちながらも、決断の速さで電光石火の如く、目の前に立ち塞がる難題に立ち向かう。

そして彼の片腕であるギリシア人のアンドレアは無類なき怪力を誇る大男ながら、俊敏な動きで敵に対処し、容赦なく命を奪う。しかし自らの殺戮を後悔しないことはない。さらにマロリーとは長年苦楽を共にしてきた鏡のような男なのだ。

フケツのミラーと仇名されるアメリカ人はだらしない風貌ながら破壊工作のエキスパートで爆弾の扱いはピカイチの腕を誇る。

ケイシー・ブラウンはメカのプロでどんなに老朽化した装置や乗り物でも豊富なメカの知識と粘り強さでチームの後方支援を行う。

唯一マロリーと初めて仕事をするの若き大尉アンディー・スティーヴンズは一流の登山家であることで選ばれた。しかしその登山技術は有名な探検家であり登山家であった父親と運動神経抜群の2人の兄に対するコンプレックスから生まれた賜物であり、常に何らかの恐怖心を持ち、それを克服することで勝ち得たものだった。つまりチームの中での不確定要素的存在だ。
本書で私が最も印象に残ったキャラクターはこのアンディー・スティーヴンズ大尉だ。恐怖心を常に持ち、それを克服することで自らの地位を固めてきた彼が他のメンバーに自分の弱さを見せたことを悔い、さらに深手を負ってメンバーの足手まといになることを潔しと思わない男が最後に辿り着く恐怖心が雲散霧消した心理で仲間の為に楯になって戦う姿は物語で終始謝り続け、満身創痍の中で苦難していた者が最後に自分らしく生きることを見出した清々しさを感じた。『女王陛下のユリシーズ号』の水雷兵ラルストンを想起させる。

この愛すべき精鋭たちを迎え撃つのはナヴァロンの要塞のみならず、配備されたドイツ軍はもとより限られた時間と自然の猛威、そして進攻を妨げる地形だ。

航行中にドイツ軍の機帆船による臨検を乗り越え、自船の機械トラブルに、更にはドイツ軍がイギリス軍が駐屯するケロス島襲撃のリミットが一日早まるに至る。そして島に上陸するにも突如発生した暴風雨で船舶が上下左右に揺さぶられ、断崖に叩き付けられながら沈没寸前で断崖絶壁に取りつく、そしてそのために食糧や燃料を落としてしまうなど、ありきたりな表現だが、スリルとサスペンスの連続なのだ。

第1作でもそうだったが、マクリーンはとにかく主人公たちにこの上ない負荷をかける。人間の精神と肉体の限界、いやそれ以上の力を試し、もしくは骨の髄まで疲労困憊させ、最後の一滴まで搾り取るかの如く、これでもかこれでもかと危難や難題を突き付ける、いや叩き付ける。

これら主人公一行に襲いかかる敵や障害をいかに乗り越えていくかという機転や卓越した技術へのスーパーヒーローの戦いぶりにあるのではなく、困難な目標に向かって苦闘する人々が織りなす人間ドラマに読みどころがある。

何度も挫折しそうとなりながらも仲間たちを鼓舞するリーダーシップやそれに減らず口を叩きながらも応えていく部下たち、そして島を侵略された住民からの協力者たちが秘める敵への憎しみ、それらが折り重なって極限状態の主人公たちが諦めずに幾度も立上る行動原理を語っているからこそ、ハリウッドが好き好んで描くアクション映画の典型のようなシンプルな筋書を持つこの作品が今なお冒険小説の金字塔として称賛されるのだろう。

マクリーンは『女王陛下のユリシーズ号』と本書を以て冒険小説の巨匠として名を残し、70年代以降の作品は読むべきものはないと云われているが、正直この作品は私の中では面白いとは思うが歴史に残るほどの作品とは思わなかった。
シャーロック・ホームズシリーズでも『バスカヴィル家の犬』よりも『恐怖の谷』を評価する私なので今後の作品に私なりの傑作を見つけていこう。

Tetchy
WHOKS60S

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