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学校の殺人



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学校の殺人の評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全1件 1~1 1/1ページ
No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ちょっと穿った感想になっちゃいました(^^)ゞ

今までのミステリプロパー以外の作家によるミステリとは文壇に既に名を成していた作家の手遊び的な物が多かったが、本書の作者ヒルトンはちょっと違う。私は今まで彼の作品に本作以外触れたことがないので、よくは知らないのだが、ヒルトンはイギリス文学界のみならず世界的文豪と呼ばれるくらい著名らしい。が、本書はその彼がまだその名声を得る前の不遇時代に別名義で書いた唯一のミステリである。有名になった後は1つも書いていない。こういうシチュエーションだと、これほどの作家ならば若気の至りということで、その作品は抹消して「なかった事」にするものだが、死後今なおこうして残っているというのはその出来栄えに世に出しても、後世に残しても恥ずかしくないというそれなりの自負があるからだろうと思う。
今でこそ学園ミステリというのは国内外ともに多く書かれているが、私の拙いミステリの知識では黄金期に書かれた学校を舞台にしたミステリというのはセイヤーズの『学寮祭の夜』以外、ちょっと思いつかない。そのセイヤーズの『学寮祭~』(傑作!)が書かれたのは1935年のことで、本書はその3年前の1932年ということになる。

漫画の世界でも新人作家が手っ取り早く人気を得るために取るのが学園物だというのはもはや定石となっているが、それは学校という特殊な環境に対して誰もが特別な思いを抱いているからだろう。
まずどの人もすべからく学校生活を経験しているという共通性がある。したがって読者は作品世界で起こっている出来事に対して自分の想い出を重ねて追体験し、またあるいは主人公ら登場人物を介して、自分がしたくて出来なかった体験を面白く読めるところがまず大きいだろう。つまりかつてあった青春時代の追体験が出来るというのがまず最大の魅力だろう。
さらにその外部から閉鎖された独自の共同生活圏が形成されているというのも特徴的だ。学校という空間には外部社会とは別の独自のルールがあり、一種治外法権的な色合いが非常に濃い。学校に通う者同士でしか通用しない冗談や言葉が必ず存在する。そんな小社会性もこのジャンルが持っている蠱惑的な魅力である。
前置きが長くなったが、その題名が指すように学校を舞台にした本書もまた青春ミステリのような青さと甘さを持っており、それが本書の魅力の一端となっている。

学校で起きた一見、事故死とも思える事件を文学青年レヴェルが校長から調査を依頼される。過去にとある紛失事件を見事解決した手腕を買われての依頼だった。そして発見された遺言状からその事件は奇妙な様相を呈し、やがて第2の事件が起こるというもの。
ミステリとしてはオーソドックスと云えるだろう。元々ミステリプロパーでなく、また初期の作品であることからプロットそのものも入り組んでいなく、物語は実に教科書どおりに進む。が、しかし人物描写、学校生活のみずみずしい描写はやはり後に文豪の名声を獲得する萌芽を感じる。
そして確かに本書には後世に残すだけの美点が確かにあった。最後の展開はなかなかに面白い。単にとっつきやすさだけで学校という舞台を選んだのではなく、きちんと意味合いを持たせていることも解るし、また登場人物の1人の動かし方にちょっと感心した。不遇の時代だからこそ早く売れたいという意欲ゆえのこのサムシング・エルスなのかもしれない。

さて主人公の文学青年レヴェルは詩人でもあり、最初と最後に彼の詩が挿入されている。詩人で探偵というと浮かべるのはP・D・ジェイムズのアダム・ダルグリッシュ警視だ。もしかしたらその人物設定の根幹にはこのレヴェルという人物がジェイムズの頭にはあったのかもしれない。あっ、今気づいたが、この作者のファーストネームはジェームズであり、ジェイムズと一緒ではないか!やはりここにダルグリッシュの源泉はあったのだ(いや、単なる偶然でしょう)!

Tetchy
WHOKS60S

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