■スポンサードリンク


砕かれた街



新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!

砕かれた街の評価: 7.50/10点 レビュー 2件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.50pt

■スポンサードリンク


サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全2件 1~2 1/1ページ
No.2:
(7pt)

9・11を経たNYでの事件をブロック流に描くとこうなる

ニューヨークに生まれ、マット・スカダーシリーズを中心にニューヨークを描いてきたブロックが9・11後のニューヨークを描いたのが本書。そこにはスカダーは描かれず、ニューヨークに住む人々を描いた群像劇の様相を呈している。

ニューヨークで知り合いや友人の掃除代行をして生計を立てているジェリー・パンコーが出くわす殺人事件を軸にニューヨークに住む人々の生活が語られる。

画廊を経営するスーザン・ポメランスは殺人事件の被害者マリリン・フェアチャイルドに不動産を紹介してもらった縁があった。彼女は彼女の専属の初老弁護士モーリー・ウィンタースを筆頭に男と女区別なくセックスに溺れていた。

殺人事件の容疑者にされた小説家のジョン・ブレア・クレイトンは自分の無罪を晴らすためにモーリー・ウィンタースを弁護士として雇い、保釈金を払って釈放される。事件の話題がホットなうちに次作を物にして、ベストセラーを狙っている。

元ニューヨーク警察本部長のフランシス・バックラムは次期市長選に乗り出そうと画策している。

そして9・11の事件で家族を喪った男は殺人を重ねていた。
ニューヨークの歴史の中で起こった数々の悲劇。南北戦争時に起きた徴兵暴動。ドイツ系移民をぎゅうぎゅう詰めにした遊覧船が全焼して沈没したジェネラル・スローカム号事件。150人もの針子が工場火災で亡くなった<トライアングル・シャツ>社火災事件。ニューヨーク・ギャング、マフィアの抗争。
それらの事件はこのニューヨークという市が甦る為に捧げられた犠牲だと彼は考えた。従って彼が殺人を重ねるのはもまた9・11で破壊された市を甦らせるための人身御供を捧げるためであり、建物に放火していくは再建するためだった。

そんな彼の正体は案に反して早々に判明する。下巻の76ページで彼の素性が警察の捜査で明らかになるのだ。
広告会社の元調査課長である彼はしかし隠れ家を転々としながらニューヨークを離れない。寧ろ自分の痕跡を残すことで彼の名前と偶々犯罪でハンマーと鑿を使用したことから付いた綽名“ハービンジャー・ザ・カーペンター”の存在をニューヨーカーたちに知らせ、畏怖させようとする。

一方でもう1つの物語の軸となるのは美人の画廊主スーザン・ポメランスのエスカレートするセックス・ライフだ。専属の弁護士とたまに情事を愉しむだけだったのが、ボディ・ピアスを開けたことで潜んでいた性に対する飽くなき探求心が高まり、性欲の赴くままに街を徘徊しては男たちを誘い、アブノーマルなセックスに興じる。その相手が当初殺人事件の容疑者とされていたクレイトンへと繋がっていく。

それぞれ関係のないと思われた登場人物が次第に事件とスーザンの夜の活動によって繋がりを形成し出す。

そう、この800万もの人間が巣食うニューヨークで起きる、9・11のある犠牲者によって引き起こされる狂信的な連続殺人はなんと1人の奔放な性活動を多種多様な人物と繰り広げる女性によって解決の糸口が見出されていくのだ。

これはブロックなりのジョークなのだろうか?
アラブ人のテロリストによって破壊されたニューヨークで悲劇のどん底に突き落とされた人々。どうにか傷が癒え、再興に向けて歩き出している人々が再び出くわした悪夢に対して、セックスによってそれまでの価値観を崩され、新たな自分に目覚めていく男たちを生み出す一人の女性がそれぞれの事件を繋げていく。
つまりスーザン・ポメランスのセックスこそは再生の象徴と云っているのだろうか?

率直に云ってスーザンが繰り広げるセックスの開拓はほとんどポルノ小説のようである。いやそのものと云っていいほど詳細に、且つ濃密に描かれている。
これが1人の哀しきテロリストによる狂信的なニューヨークの再生を謳った暗い色調の物語を一変させているのだ。しかもこの2つは物語に上手く溶け合っているとは正直云い難い。このスーザンの物語は本当に必要だったのか、甚だ疑問である。

さてニューヨークを舞台にしていながら探偵は出てくるものの、それはスカダーではなく、全く別の人物である。しかしそれでも本書とスカダーシリーズは同じ世界で書かれていることが明かされる。

それは『死者の長い列』で登場した三十一人の会に所属する不動産会社を経営するエイヴァリー・デイヴィスが登場した事だ。また事件発見者のジェリー・パンコーがAAの会にも出ているなど、随所にスカダーシリーズを想起させる世界観が内包されている。

そう考えるとニューヨークのハイソサエティの世界で奔放な性活動を繰り広げるスーザン・ポメランスはエレイン・マーデルの代役とも考えられる。つまり本書はエレインの側から事件を描いた作品なのだと。

いやこれはやはり穿ちすぎだろう。

ニューヨーカーであるブロックにとって9・11は途轍もないショックをもたらしたことだろう。しかしブロックが紡いだ9・11後のニューヨークは悲劇を乗り越え、それでも強かに生きている人々の姿だった。
9・11は終わりではなく、また始まりでもない。確かに以前と以後では変わった物も事もあったが、それはニューヨークの歴史の中での通過点の1つであった。
それが証拠に我々はまだ生きているではないか。生活を営んでいるではないか。ブロックが人生讃歌の物語を書くとこんな風になる、いい見本だと思った。


▼以下、ネタバレ感想

※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[]ログインはこちら

Tetchy
WHOKS60S
No.1:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

9.11後のニューヨーク

ローレンス・ブロックの14年ぶりのノンシリーズ作品。ストーリーとしては、連続殺人事件とそれにかかわりを持った人々の生き方を描いているのだが、真の主役は9.11の悲劇を経験したあとのニューヨークの街と人だろうか。登場人物がみんな、相当にエキセントリックであることが、あの悲惨な出来事が与えた絶望感の大きさと再生の難しさを物語っていると感じた。

iisan
927253Y1

スポンサードリンク

  



新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!