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(短編集)

殺し屋



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【この小説が収録されている参考書籍】
殺し屋 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)

殺し屋の評価: 7.00/10点 レビュー 2件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全2件 1~2 1/1ページ
No.2:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

暇つぶしにどうぞ!

軽い小説なので、ちょっとした暇つぶしにはもってこいです。
あまり深刻に考えることもなく?それでも十分に楽しめます。
結構こういうウィットにとんでいるミステリーって、あまりないのかも?!

マットスカダーシリーズはたまに内容が重くて気が滅入るときもありますが、
このケラーシリーズは、そういうこともなく気楽に読めそうです。
あと4冊あるようなので、先の楽しみが増えました。

ももか
3UKDKR1P
No.1:
(7pt)

これほど微笑ましい殺し屋の物語がかつてあっただろうか?

今なお続く殺し屋ケラーシリーズ。本書はそのシリーズ最初の作品であり、短編集である。

まず最初の「名前はソルジャー」は『夜明けの光の中で』にも所収されており、既読なのでここでは感想を割愛するが、この作品は一度目よりも二度目の方がケラーがどうして仕事、つまり殺しを実行する気になったかが如実に解るような気がする。

「ケラー、馬に乗る」では飛行機を乗り継いでワイオミング州のマーティンゲイルへ赴く。
小さな町でケラーが出くわす奇妙な人間関係が本作では面白い。殺し屋のターゲットが浮気相手の女性の父親であり、さらに彼女は亭主を殺したがっている。そしてその亭主にも当然浮気相手がいてそちらを愛しており、結婚したがっている。
この物語に確かな答は出てこない。あるのは結果だけだ。そして些末なことに囚われないのがケラーという男なのだ。

続く「ケラーの治療法」ではケラーは精神科医のカウンセリングを受けている。
ケラーが精神科医とカウンセリングを続けるうちに読者は徐々にケラーがどういう男なのかを知ることになる。彼の本名がジョン・ポール・ケラーであること、1作目でも語られた子供のころに飼っていた犬ソルジャーの話に父親の話と、彼の生い立ちや素性を知るだけでも貴重な一編と云えよう。
そしてこのどこへ向かうのか解らない物語は急転直下を遂げる。何とも云えない読後感を残す作品だ。

そしてその犬ネルソンがケラーに思わぬ効果をもたらすことを知らされるのが次の「犬の散歩と鉢植えの世話、引き受けます」だ。
ケラーの短編は時系列に並べられており、その前の短編で書かれた内容がその後の短編にも関係してくるのだが、本書ではそれが顕著に表れている。

そのアンドリアとの関係に一つの答えが出るのが続く「ケラーのカルマ」だ。
とてもヒットマンが主人公の物語とは思えないほど、人間味が溢れている。

「ケラー、光り輝く鎧を着る」と一風変わった題名の本作では依頼斡旋人のドットがホワイト・プレーンズのオフィスを飛び出し、ケラーを訪ねてくる。
しかしそれよりもケラーの依頼人であるホワイト・プレーンズの男が前作から調子を悪くしているのが気になる。こういう短編同士を貫く軸があるから次が楽しみになるのがこの殺し屋ケラーの醍醐味と云えよう。

「ケラーの選択」は実に面白いシチュエーションだ。
恐らく殺し屋稼業をテーマにした作品ではありえない間抜けな内容だ。これもケラーシリーズだからこその面白さと云えよう。
そして本作ではそれまでの展開から極端に変化が訪れる。それはまた後で述べることにしよう。

そして「ケラーの責任」ではそれまでの殺し屋物には似つかわしいほどほのぼのとしたムードから一転してケラーの苦悩と殺し屋としてのプライドが描かれる。
人を殺す生業の男があろうことか、昔取った杵柄で人命救助してしまう。それが基でケラーはターゲットである名士ギャリティに気に入れられ、さらにケラー自身も彼の事を気に入ってしまう。この殺し屋のジレンマを抱えたこの物語は意外な展開を見せる。
こんな男らしい物語を読まされると実に堪らない。

「ケラーの最後の逃げ場」ではケラーは突然愛国心に目覚める。
殺し屋ケラーも詐欺に掛かるのだということを教えられた。しかしこれはケラーをはめたバスコウムを褒めるべきか。
聡い読者ならすぐにケラーに依頼するバスコウムの胡散臭さが解るところが寧ろ本作の面白さではないだろうか?

そしてこの短編集の最後を飾るのは「ケラーの引退」だ。
ケラーの引退で幕を閉じると思われたこの短編集。新たなシリーズの幕明けを告げ、本は閉じられる。
しかし切手収集が趣味な殺し屋とは、ブロックは何ともおかしな趣味をケラーに与えたものだ。


古くは不眠のスパイ、エヴァン・タナー、そして無免許探偵マット・スカダーに泥棒探偵バーニイ・ローデンバーに短編集のみ登場する悪徳弁護士エイレングラフとブロックのシリーズキャラクターは実に個性的なのだが、そこにまた新たなメンバーが加わった。
それは殺し屋ケラー。
黒い表紙に都会の片隅を想起させる湿った路地の写真と銃痕で穴の開いた窓の意匠に「殺し屋」の文字。装丁から想起されるのは非情で孤独な男の世界なのだが、しかしこの殺し屋に纏わる話は実に奇妙なのだ。どのシリーズにもないどこか不条理感を伴っている。

しかしそれもシリーズを読み進めるうちに読者にケラーの素性が解ってくるに至り、何を考えているのか解らなかったこの男が実に人間臭い人物になってくるのだ。

これが殺し屋の物語かと見紛うほど、ほんわかする内容だ。

つまり読み進むうちにケラーの変化を同時に読者は感じるようになり、次の展開が非常に気になる作りになっている。

しかしそんな読者、いや私の期待を次の「ケラーの選択」で見事に裏切る。
これはシリーズの広がりを期待しただけに非常に残念なシチュエーションなのだが、実はこの作品から物語のトーンが変わり、実に読み応えが増している。

この後に続く「ケラーの責任」はMWA賞受賞作に相応しい傑作だ。本作のケラーは実に深みがあり、孤高の殺し屋としての流儀を重んじる人物になっている。
彼は思いまどいながら殺すのを躊躇うターゲットに対して責任を果たすことこそが餞になると決意するのだ。この心理こそが殺し屋の殺し屋たる仁義とも云えよう。個人的ベストに迷わず挙げよう。

そしてケラーが見事に詐欺に引っ掛かってしまう「ケラーの最後の逃げ場」を経て「ケラーの引退」で一旦幕を閉じる。

しかし殺し屋を主人公にしながらこのヴァラエティーの豊かさはどうしたものだろう。まさにブロックはアイデアの宝庫であり、ノンシリーズのみならず連作短編でさえもその瑞々しさは損なわれることがないことを証明した。

男臭さの宿る装丁で手に取ることを敢えて躊躇っているならばそれは実に勿体ない話だ。この物語世界の豊かさは寧ろ男性よりも女性に手に取ってほしい色合いを持っている。
ケラーの、どことなく思弁性を感じさせる彼独特の人生哲学と、仕事斡旋人のドットとの掛け合いの妙を存分に堪能してほしい。殺しを扱いながらこんなにも明るい物語に出遭えるのだから。
この二律背反を見事に調和させたブロックの職人芸、ぜひとも堪能していただきたい。


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