■スポンサードリンク


仕組まれた死の罠



新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!
【この小説が収録されている参考書籍】
仕組まれた死の罠 (角川文庫―ウェクスフォード警部シリーズ)

仕組まれた死の罠の評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

■スポンサードリンク


サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

事件の真相は我々の日常にも起こりうるものだった

再びのウェクスフォード主任警部シリーズ。縁あって神保町の古本屋で購入した3冊のレンデル作品のうち、2作がこのシリーズの作品となった。
しかし本書はこの前読んだ6作目『もはや死は存在しない』からずいぶん経った作品で11作目となる。この両作品との間には10年の隔たりがあり(『もはや死は存在しない』が1971年発表で本書は1981年の作品)、そのため作中時間の経過が見られる。

『もはや死は存在しない』のラストで亡き妻の妹グレースと結婚を匂わせる幕引きを見せたバーデンだったが本書で判明する再婚相手はジェニーという女性。
『もはや~』から本書に至るまでシリーズ作のうち『ひとたび人を殺さば』と『指に傷のある女』は既読なのだが、全く覚えてなく、どこで彼が再婚したか判らない。グレースとの関係がどうなったのか、『もはや~』の次作である『ひとたび~』で確認する必要があるな。

またウェクスフォードの娘シーラが女優として活躍しており、本書では彼女の結婚式のシーンが盛り込まれている。この娘が有名人という設定が前面に出されているせいか、本書に登場する主要人物はやたらと有名人が多い。

まず被害者のマニュエル・カマルグは有名なフルート奏者であり、莫大な遺産の持主。彼の友人フィリップ・コーリーもまた有名な作曲家であり、さらにその息子ブレーズは人気番組の司会者でもある。
イギリスの片田舎の町キングスマーカムに斯くも芸能人やら文化人が住んでいるというのも実に面白い話ではある。

さて本書のテーマは相続人の前に突如現れた音信不通だった近親者は果たして本人か否かという物。この手の話は古くからあり、例えばカーの『曲がった蝶番』とかがそうだろう。また財産目当ての悪女物となればカトリーヌ・アルレーの『わらの女』が有名だ。
あれが当事者の側から描いたものとすれば、これは捜査側から描いた悪女物と云えるだろう。

そして物語の展開として意外なのは高名なフルート奏者の遺した莫大な遺産をせしめようと周囲を騙し通そうとしたナタリーの素性からどんな手を使ってでも遺産を手中に入れるという悪女ぶりととっかえひっかえ男を換えては誑し込み、恐らく自分の望みを適える手伝いをすらさせていた当の本人が第2の被害者として見つかるところだ。
この辺のストーリーの切返し方は実に上手い。

そして本物か偽者かという二者択一でしか有り得ないシンプルな謎の真相が実に意外で、また実に納得の出来る物であることに驚きを感じた。

こういう状況って確かにあるよなぁと思わせ、それを謎に結びつけるレンデルの上手さ。恐らく作者は友人や知人らと交わす会話の中に同種のエピソードを聞くに及んでこのプロットを生んだのではないだろうか。
単に笑い話に終始しそうな話を膨らませて1冊のミステリを作ってしまうレンデル。さすが英国女流ミステリの女王だ。

今回はある種の先入観を持って聞き込みをすることの危うさを説いている。それは刑事の聞き込みだけではなく、我々日常生活においても同様だということだ。
あの人はあんな感じだからああではないかと思うと自分の見込みに都合のいい情報ばかりを選び、齟齬を感じる情報は例外や何かの間違いだと思いがちだ。実に腑に落ちる形で我々読者に投げかけてくれる。

レンデルの作品は必ずしもページを繰る手が止まらないほどのエンタテインメント性・サスペンス性を備えているとは云えない。寧ろ単純な謎に対するアプローチが長く、やきもきする方もあるだろう。

しかしやはり最後の真相を聞くとそれまでのモヤモヤが雲散霧消する爽快感が得られる。だからレンデルは止められない。

絶版した作品や未文庫化の作品が多いのはなんとも残念なこと。さらに未訳作品も多いのはなんとも嘆かわしい。海外ミステリの出版状況が厳しいのは判るが、版元は最後まで責任を持って出版してほしいものだ。


▼以下、ネタバレ感想

※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[]ログインはこちら

Tetchy
WHOKS60S

スポンサードリンク

  



新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!