死のカルテット



    ※タグの編集はログイン後行えます

    ※以下のグループに登録されています。


    【この小説が収録されている参考書籍】
    オスダメ平均点

    9.00pt (10max) / 1件

    9.00pt (10max) / 1件

    Amazon平均点

    4.33pt ( 5max) / 3件

    みんなの オススメpt
      自由に投票してください!!
    1pt
    サイト内ランク []B総合:525位
    ミステリ成分 []
      この作品はミステリ?
      自由に投票してください!!

    5.00pt

    79.50pt

    40.00pt

    10.00pt

    ←非ミステリ

    ミステリ→

    ↑現実的

    ↓幻想的

    初公開日(参考)1985年10月
    分類

    長編小説

    閲覧回数1,976回
    お気に入りにされた回数0
    読書済みに登録された回数1

    ■このページのURL

    ■報告関係
    ※気になる点がありましたらお知らせください。

    死のカルテット (角川文庫 (6256))

    1985年10月31日 死のカルテット (角川文庫 (6256))

    ※あらすじは登録されていません



    書評・レビュー点数毎のグラフです平均点9.00pt

    死のカルテットの総合評価:8.75/10点レビュー 4件。Bランク


    ■スポンサードリンク


    サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

    新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!
    全1件 1~1 1/1ページ
    No.1:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
    (9pt)

    “もし”の選択肢の行く末は…

    いつものように出社し、その日もいつもように仕事を終え、家に帰って家族といつものように変わらぬ会話と小言を繰り返し、寝床に就いてまた同じような朝を迎える。
    そんな日常が繰り広げられるはずだったところに突然転機となる事件が起こったら、貴方はどうするだろうか?

    レンデルのノンシリーズ作品となる本書はそんな日常から突如切り離された4人の男女の話だ。銀行強盗がきっかけで人生が変わりゆく男女4人の人生の転機の物語だ。

    イギリスで一番小さい銀行支店で働く、1人の妻とその義父、そして自分と同じくらい所得のある不動産会社に勤める息子と15歳なのに夜な夜な出歩いては、しかしきちんと門限の10時半に戻ってくる娘をもつ38歳の男アラン・グルームブリッジ。アングリア・ヴィクトリア銀行のチルトン支店に勤める銀行員。

    もう一人の銀行員は20歳のジョイス・M・カルヴァという女性。どちらかと云えば自由気ままな毎日だが、それは退屈の裏返しでもある。

    アラン・グルームブリッジは人生が決められたことを成すためだけに存在しているかのような平凡な男だ。

    18歳の若さで結婚したのは妻パムと一夜の過ちで子供が出来たために結婚し、愛情を感じる前に一緒になった間柄。しかも妻以外の女性とそれまでに性交渉をしたことがない。お客が来たらいつでも振る舞う酒を飾っているが、そうしたことはなく、その酒を飲みたいのだが、寸でのところでいつも留まる。

    庭に植えた花を愛で、詩を読むのを好み、その後は男は宵に新聞を読むものだから新聞を読み、結婚したら子供を産むものだとしたからそうした、そんな風に思っている男だ―実際は子供が結婚の動機なのだが―。

    その銀行の話をあるきっかけで知り、銀行強盗を企てるのはマーティ・フォスターとナイジル・サクスビイの2人。

    マーティは農業労働者の子供で母親の駆け落ちがきっかけで家を出て色んな職を転々とし、ロンドンに出てナイジルと知り合う。

    ナイジルは医者の一人息子であり、長身でハンサムで見た目は教養ある青年に見えるが、将来に陰りが見えるとロンドンに出て、コミューンのようなところに潜り込み、その日暮らしをしているところをマーティと知り合った。いわば2人は人生の落伍者である。

    この2人の行き当たりばったりの銀行強盗が4人の人生を変える。

    ごくごく平凡な男だったアラン・グルームブリッジは灰色だった人生が一転してバラ色に変わる。

    ジーパンすら履いたこともなかった彼は手に入れた金を元手に若さを取り戻すかのように今まで銀行員ゆえの常にスーツを着ていたアランはカジュアルな服装に着替え、「変身」する。

    そして美術館や劇場に入り、豪華な食事を採り、行ったことのないパブで酒を愉しみ、偶然出会った女性に声を掛け、生まれて初めてタクシーに乗り、下宿人を募集していた家を訪れ、新たな生活を始める。それまでの借りを返すかのように人生を謳歌するのだ。

    銀行で目にした男の名前ポール・ブラウニングと名乗り、そこで家主のユーナ・イングストランドと同じく間借り人のシーザー・ロックスリーとの共同生活を始める。

    やがてアランは家主のユーナを愛するようになり、アラン・グルームブリッジの人生を捨て、2人で暮らすことを決意する。

    一方ジョイスの方はアランに比べるといささか不幸だ。

    人生の落伍者2人に監禁された状態が続く。
    一方は最下級の出身で学もなく、その日暮らしをしているマーティ・フォスターともう一方は医者の息子と上流階級の出身でありながら社会のシステムに則って生きることを良しとせず、大学を飛び出し、コミューンでの暮らしを続けているうちにマーティと出逢ったナイジル・サクスビイ。彼は見た目もハンサムで知的に見えることから相棒のマーティを、いや周囲を常に見下して生きている。

    こんな倫理観の欠けた2人にジョイスは小汚いアパートの一室に閉じ込められたままの生活を強いられる。最初は持ち前の明るさと気の強さでこの2人を手玉に取り、虎視眈々と脱出の機会を窺う大胆さを見せていたが、ナイジルが持っていた銃が本物であることが解ると急に心が萎え、彼ら、特にナイジルに従うようになる。

    銃。
    それは即ち圧倒的な暴力の象徴だ。
    ジョイスにとって最初この2人は自分に手出しの出来ない臆病者だと見下していたことが、ナイジルの隙を見て弄んでいた銃から弾丸が出てしまったことから、ジョイスはこの暴力の象徴に圧倒されてしまうのだ。彼女の気の強さはそれまでそんな野蛮な物とはかけ離れた生活をしていた環境によって築かれたものであり、銃という生命与奪の権利を有する、それまでの人生にはなかった暴力が介入することでジョイスは初めて犯罪の恐ろしさを知るのである。

    この2人の対照的な境遇は王子と乞食、天と地の開きを感じ、人生の皮肉を感じざるを得ない。これこそレンデル節たる所以なのだが。

    そしてこの2人の人生の転機はしかし急展開を迎える。

    それは天国を手に入れかけた男アラン・グルームブリッジその人によってだ。彼が自分の上向きの人生を変えたのは彼自身が持っていた真面目さゆえの罪悪感だった。


    そして忘れてならないのはアランが惚れたユーナ・イングストランド。
    ハンサムで女性遊びに奔放な夫スチュアートに半ば捨てられるような生活で、そんな夫に赤ん坊を不注意で亡くされ、失意のどん底にいたところを夫の父親に拾われ、自宅を間借りして生計を立てている、まだ32歳の女性。彼女はアランことポール・ブラウニングの求愛に応え、新たな人生に踏み出そうとするが…。

    私はこのユーナ・イングストランドという女性のことを思うとどうしても切なくなってくる。
    けなげに生きながらもなぜか幸福に恵まれない女性がいる。ユーナ・イングストランドはそんな女性だ。

    ハンサムすぎるがために女性たちが次から次へと寄ってき、そしてまたそれに応えるがために家を離れて他の女性と暮らす夫。そんなだらしのない夫の女性遊びのせいでかけがえのない1人娘を火事で亡くし、絶望に苛まれ、義父の助けによって立ち直った彼女は一旦は人生を諦めたのだろう。だから彼女はまだ32という女の盛りなのに化粧もせず、余所行きの服にも着替えず、擦り切れ、くたびれた服装で出かけても何も思わなくなっていた。

    しかし彼女は人を嫌いになったわけではなかった。だから部屋を貸して生計を立てることにしたのだ。人と関わることを捨てなかった彼女の前に現れたアランは最初ただの、身なりの正しい男に過ぎなかったのだろう。しかし彼から求愛された時に彼女は女を取り戻したのだ。

    しかしそれもまたアラン・グルームブリッジという男によって作り出された幻に過ぎなかった。
    恐らく彼女は再び殻に籠って生きていくのだろう。今度こそ何も期待せずに生きることを誓いながら。

    原題“Make Death Love Me”、「死神が私に惚れるほどに」という題名は実は主要人物4人を指すのではなく、このユーナの心情を指すのではないか。彼女が辿り着いた心の叫びのように聞こえてならない。

    そしてまたユーナをこのような状況に招いたアラン・グルームブリッジがまた悪い人間ではなく、いい人だから困ったものだ。

    彼は最初ローズという女性に恋をする。彼にイングストランドの家を知らせることになった店を紹介した魅力ある女性。アランはそのお礼として彼女を食事に誘い、彼女はそれを快諾するが、彼女の美しさに身分不相応だと恐れをなし、なんと彼女を自分が間借りしている家に招待し、女家主のユーナを紹介がてら夕食を共にしたいと誘うのだ。
    勿論彼女はそれを断り、それによってローズとの縁は切れる。それが逆にアランの目をユーナに向けるようになり、彼はユーナと恋に落ちるのだ。

    人生に“もし”はないが、本書はその“もし”の連続の物語だ。

    “もし”アランの娘が夜遊び好きでなかったら?

    “もし”その娘の友達が悪人でなかったら?

    “もし”アランがここではないどこかへ行きたいと思わなかったら?

    “もし”アランがローズと付き合っていたら?

    “もし”ジョイスが銃を弄ばずにこっそりと脱出していたら?

    この“もし”の選択肢の中で我々は生きている。
    本書はその選択肢の1つを選び間違えたが故の歩むべきでなかった人生の道筋の物語。平凡な毎日は選択を一歩間違えばこんな悲劇が待っている。心にずっと痛みが残るような出来事はちょっとしたタイミングや心に差す魔によって起こるのだ。

    実にレンデルらしい皮肉に満ちた作品だ。最後にある有名な曲の一節を引いてこの感想を終えよう。

    「誠実さ、なんて寂しい言葉なんだろう」


    ▼以下、ネタバレ感想

    ※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[]ログインはこちら

    Tetchy
    WHOKS60S
    新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!

    ※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
    未読の方はご注意ください

    No.3:
    (4pt)

    皮肉極まりない決着の付け方

    日常生活に飽いた銀行員が、突然現れた強盗に乗じて金を盗み、逃避行をして別な人生を歩もうとする。

    突破的に大それたことをしてしまった小市民。そんなに世の中甘くないのは想像に難くはない。金を手にしたことで、苦悩の方が勝ってしまうのだ。

    強盗、銀行員のそれぞれの思惑が外れ、打開を試みればみるほど負のスパイラスに陥る過程が面白い。強盗が拉致した女性工員を上手く絡めた皮肉極まりない決着の付け方は、レンデルならではのどんより感が漂う。

    そもそもの発端となった強盗の二人組みの、近親憎悪とも言うべき、掛け合いがいい味出している。
    死のカルテット (角川文庫 (6256))Amazon書評・レビュー:死のカルテット (角川文庫 (6256))より
    4042541070
    No.2:
    (4pt)

    想定通りの商品でした。

    想定通りの商品でした。
    死のカルテット (角川文庫 (6256))Amazon書評・レビュー:死のカルテット (角川文庫 (6256))より
    4042541070
    No.1:
    (5pt)

    誰にもある願望

    主人公は中年男性で、人に言いにくい変わった趣味を持っています。というと、レンデルのファンは「わが目の悪魔」のアーサーを連想するでしょう。本作の主人公アランの趣味は、アーサーほど異常ではなく、共感を覚える読者がかなりの確率でいるのではないでしょうか。その趣味と偶然の事件のおかげで、アランは大金を手にします。その金を使って人生をやり直そうとするアランの行動を追うレンデルの描写は、とても緻密です。今の暮らしとまったく違う毎日を送ってみたいという誰もが持つ夢をアランが実現できるのか、読者はハラハラしながら見守ることになります。レンデルの作品の中でも映画化に向いている筋書きだと思いました。訳者も、映画化された場合の架空キャスティングを、あとがきでイニシャルのみで示しています(ハリウッドの大スターなのでたいていの読者がピンとくるでしょう)。アメリカに限らず、日本でも映画化できそうな普遍的なストーリーです。
    死のカルテット (角川文庫 (6256))Amazon書評・レビュー:死のカルテット (角川文庫 (6256))より
    4042541070



    その他、Amazon書評・レビューが 3件あります。
    Amazon書評・レビューを見る     


    スポンサードリンク