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オッド・トーマスの救済



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オッド・トーマスの救済の評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

意外と本格ミステリ?

オッド・トーマスシリーズ3作目。
前回の事件の後、オッドは元恋人ストーミーの伯父が司祭を務めるシエラネヴァダ山脈にあるセント・バーソロミュー大修道院に住み込むようになる。本書はそこでオッドが遭遇した怪事件について書かれている。

前回はダチュラという悪役がオッドの敵であったが、今回は骨の化け物と修道院の学校の生徒の1人ジェイコブに“いなかった”と呼称される顔の無い修道士の出現と、クーンツお得意のモンスターパニック小説の趣が強い。特に人間に寄生して生まれる骨の化け物はエイリアンを想起させた。

前2作での舞台ピコ・ムンドを出たオッド。従って彼の良き理解者だったピコ・ムンド警察署長ワイアット・ポーターもいなければその妻カーラもいない。さらに彼の心の支えでもあったベストセラー作家のリトル・オジーもいない。つまりお馴染みのメンバーがいないわけだが、それでも今回登場する修道士たちも個性豊かな者たちばかりである。

世界でもっとも優秀な物理学者とタイム誌に賞賛されながら、セント・バーソロミュー大修道院で隠遁生活を送るブラザー・ジョン。
ブラザー・ナックルズは元マフィアの用心棒で、修道院の中でオッドの理解者であり、一番親しい人物でもある。
そして今回の惨事の第一犠牲者となるのはキットカット中毒と揶揄されているブラザー・ティモシー。
LAでソーシャルワーカーとして働き、幾人もの若い少年少女を構成させたシスター・ミリアムは、一部の心無い者たちからその遣り方を非難され、否応無く解雇された過去を持つ。

しかし今回の影の主役は得体の知れないロシア人ロジオン・ロマーノヴィッチになるだろう。眼光鋭い眼差しを持ったクマのような男で決して他者と交わろうとはしないが美味いケーキを焼くことに長けている、となんだか訳が解らないとにかく怪しいロシア人なのだが、物語の終盤で彼の役割が明らかにされるに至り、キャラが非常に立ってくる。

このオッド・トーマスシリーズは死者が見えるというスーパーナチュラルな要素を盛り込みながらも物語の語り口にミステリ的手法を取り入れているのが興味深い。

つまりファンタジー的な約束事を前提にした物語を紡ぎながら、ミステリ的サプライズも用意しているという非常に贅沢な作品なのである。
よくよく考えると舞台設定も本格ミステリでは王道とされる「嵐の山荘」である。

そしてこの手法はこの前に読んだ『一年でいちばん暗い夕暮れに』でも見られた複数の事象が一転に収束する鮮やかさを髣髴させる。どうやらクーンツは特殊な能力・状況・現象を前面に押し出したスーパーナチュラル作品にミステリ技巧を施すジャンルミックス的創作法が非常に効果的であることに気づいたのかもしれない。
個人的にはこの試みは成功していると素直に認めたい。

しかし一点苦言を呈するならば、この広大な修道院を舞台にするならば、やはり見取り図が欲しかった。
聖堂に図書館に学校に寮と広大な敷地を東奔西走するオッドの様子がなかなか頭に入ってこない。位置関係が解らないため、オッドが今どこにいるのかが非常に把握しにくい。
本格ミステリ作家でないデミルでさえ、『ニューヨーク大聖堂』では大聖堂の見取り図が付けられていたのだから、これはやはり出版社の怠慢だろう。次作の舞台設定が解らないが、この辺の配慮はお願いしたい。ミステリを専門に出版する会社としたら当然の配慮だと思うからだ。

ところでクーンツの犬好き、レトリーヴァー好きは最近になってますます拍車が掛かったようだ。
本書でもブーという名の雑種ながらもラブラドル・レトリーヴァーの血を引く犬が登場する。そして最後に意外な正体が判明するのだが、彼のトリクシーという愛犬を喪ったバックグラウンドを知っているものの、昨今の犬好き露出振りにはちょっと辟易してしまう。

そんな理由もあり、本書は裏表紙の紹介文にあるほどには傑作とは感じなかった。バカミスと賞される可能性大だが標準作だといえる。やはり1作目のインパクトが大きすぎた。

今回で1作目から連れ添ってきたエルヴィスも成仏し、オッドの許を去り、シリーズとして一段落着いたような趣がある。しかしエルヴィスに変わり、最後にサプライズ・ゲストが現れ、物語は次作への続きがほのめかされて終わる。このサプライズ・ゲストがどういう風にオッドと絡み合うのか、興味が非常にある。
それを期待して次作を待つことにしよう。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S

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