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Tetchy さんのレビュー一覧

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レビュー数201

全201件 161~180 9/11ページ

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No.41: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

泡坂マジック炸裂

泡坂版「奇妙な味」短編集で全く以って一筋縄ではいかない作品群である。
不能な自分の代わりに若者に自分の妻を抱かせる歪な愛をモチーフにした「雨女」を始め、「蘭の女」、「三人目の女」は何とも云えない読後感を残す二編だ。
そして次は当初青春小説かと思わせ、ファンタジックなパラレル・ワールドを展開させ、最後は見事論理的に着地する「ぼくらの太陽」、そして六篇中どちらかといえばまともな本格物に位置する最後の二編と、誠に幅広いマジックを展開させてくれた。
雨女 (光文社文庫)
泡坂妻夫雨女 についてのレビュー
No.40:
(8pt)

島田荘司のショートショートが読めるのは本書だけ!

これは珍しい!島田荘司のショートショートなんて初めて読んだ。従来書いているミステリとは違い、論理的帰結のない、SF小説というか幻想文学めいた内容であるのは興味深い。つまりいわゆる幻想的・魅惑的な謎の下地がここにある。
その他の短編も島田荘司ならではの着想がやっぱり面白い。ページを繰る手がもどかしいとはこのことで、その疾走感はたまらない。
名作名高い「糸ノコとジグザグ」もメタ御手洗物でなかなか良かった。
改訂完全版 毒を売る女 (河出文庫)
島田荘司毒を売る女 についてのレビュー
No.39:
(8pt)

解ってても心が引っ張られる。

俺は女に弱い。
特に明るい女に弱い。

事件には派手さはないが奇矯で、解決は実にアクロバティックであり、つまり島田荘司色を今回も見せてくれるが、それよりも茂野恵美の存在である。
最初の登場シーンから、このキャラが物語の情の部分を支えるキープレイヤーなのだとは承知していたが、頭が判っていてもやはり心が動くのである。これは『異邦の騎士』の石川良子に一脈通ずるものがある。
やはり島田氏はこの上もなくロマンティストなのだ。

▼以下、ネタバレ感想
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灰の迷宮 (光文社文庫)
島田荘司灰の迷宮 についてのレビュー
No.38:
(8pt)

マルタの鷹の正体とは?

エラリー・クイーンやエルキュール・ポアロ、さらにHM卿が活躍していた時代にサム・スペードのようなリアルな探偵が出てきたことは正に衝撃だったろう。事件を解決して自らの何かを失う探偵なぞ当時の本格派の探偵にいただろうか?
社会の裏側で生きる者たちに対抗するには探偵それ自身がその手を、その身を汚さなければならない。己が生きるためにはかつて愛を交わした女でさえも売らなければならない、こんな探偵は存在しなかったはずである。
生きることのつらさと厳しさ、そして卑しさをまざまざと見せ付けた本書は、自身が探偵であったハメットでなければ描き得なかった圧倒的なまでのリアリティがある。
故に本書の軸となる黄金の鷹像の存在が妙に浮いた感じを受けるのである。
マルタの鷹は何かの象徴か?マルタの鷹は存在したのか?私にはマルタの鷹が誰もが抱く富の憧れが生み出した歪んだ幻想だと思えてならない。
マルタの鷹【新訳版】 (創元推理文庫)
ダシール・ハメットマルタの鷹 についてのレビュー
No.37: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

原題が素晴らしいので邦題が陳腐に感じます。

今までミステリとは、事件が起こり、その事件に関する犯人、動機、手法といった様々な謎を主人公とともに探り当てる、その過程を愉しむものだと思っていたが、本書を読んでいる最中はそういう風には思わなかった。
ミステリとはある事件をきっかけに、それに纏わる人々を活写し、またそれによって起こる登場人物達の様々なドラマを読み解く物なのだな、そういう風に感じた。
前者は「推理」小説であり、後者は推理「小説」となるのだろう。しかし本作はその双方の魅力を兼ね備えていた事を、結末で思い知らされた。
デイジイという人物の位置付けは結末に至る前には判ってしまったが、それでも尚、本作は面白い。
原題「ガンナーの娘にキスをする」その警句が「ガンナー」=「拳銃使い」=「サム・ホガース」という暗示めいた等式に歪められ、皮肉な響きを胸に残した。
眠れる森の惨劇―ウェクスフォード警部シリーズ (角川文庫)
ルース・レンデル眠れる森の惨劇 についてのレビュー
No.36:
(8pt)

ジェイムズ印なれど快作。

マンディ・プライスという従来の作者の作品にはいなかった現代的な娘を要所要所に活用する事で、何か軽快なテンポのいいストーリー展開が生まれ、非常に愉しく読み進めることが出来た。
とは云え、改行の少ない文字のぎっしり詰まった文章は相変わらずだし、最後の最後に来て救済のない結末を持ってくる所などは、ああ、やはりP.D.ジェイムズか、と嘆息してしまった。
しかし、ある種吹っ切れた感があるのは確か。『策謀と欲望』、『死の味』に比べると遥かに読みやすく、しかも解りやすい。当時の自らの読書力の無さが最大の要因であろうが、原子力発電所の世界なぞ、およそP.D.ジェイムズに似つかわしくない世界を扱った点がまずかったように思える。
やはり今回のように出版業界のような勝手知ったる世界を舞台に扱う方が俄然物語に勢いがついてくる。本当に今回は面白かった。
原罪 (上) (ハヤカワ ポケット ミステリ 1629)
P・D・ジェイムズ原罪 についてのレビュー
No.35:
(8pt)

恐るべし母親

睡魔との闘い、それと5つの家族が物語を形成する設定で頭の中で始終混乱することが多かったが、終盤の残り130ページ余りでどんでん返しを繰り返しながら明確に物語が収束するその手際は、やはり巨匠の業故である。
今回は登場人物それぞれの思い込みが微妙なバランスを維持し、今日にまでに至り、アーチャーをして、もはや本来の任務は終えたのだから真相はそのままにしておいた方がよいのかと云わしめたほど。
そして恐るべしは母親の息子への記憶の刷り込み。これに尽きる。
地中の男 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 8‐11))
ロス・マクドナルド地中の男 についてのレビュー
No.34:
(8pt)

キャラクター設定に尽きます。

これはもはやミステリではなく普通小説だろう。
しかし構成は巧みである。狂える母、モブサを設定した所でこの小説は勝ったも同然である。この母の存在があったからこそ、到底起こりえない出来事がごく自然に流れとして滑り込んでくる。
そこから揺れ動く人々の心模様。そしてテレンス・ウォンドという小技が実に最後の最後で、絶妙な形で効いてくる。心情的にはこの小心者に勝利の美酒を与えたかったのだが。
しかし珍しく実に爽やかな読後感だった。
身代りの樹 (ハヤカワポケットミステリ)
ルース・レンデル身代りの樹 についてのレビュー
No.33:
(8pt)

彼が秘めたる思いは意外でした。

彼は、何者よりも強く、倣岸で不遜だった。高みから見下ろしているかの如くだった。

事件自体は派手さはなく、寧ろ凡百のそれだろうが、彼の放つ言葉一つ一つが哀切で、特に「私は死にたい」の一言が強く印象に残った。

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罪人(つみびと)のおののき (創元推理文庫)
ルース・レンデル罪人のおののき についてのレビュー
No.32:
(8pt)

いつもにも増してエピソード満載

全971ページ中753ページで漸く御手洗が登場するという、今までにも増して焦らしに焦らされ、本統に整然と解決するのだろうかと、シリーズ中最もハラハラさせられた。
膨大なるエピソードの山が全て結末に活かされているのは流石!!

相変わらず、冒頭から惹き込むエピソードの面白さは無類で、思わず童心に帰って物語に浸ってしまった。


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アトポス (講談社文庫)
島田荘司アトポス についてのレビュー
No.31: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

気付いてしまいました。

大学2年から数十年ぶりに読み返した今回は、分析的な読み方を心掛けた甲斐もあって、数々の粗、都合の良さや強引さが目立った。

しかし、数十年経っても色褪せぬ内容と、抜群のリーダビリティは確かに存在した。
読者を愉しませんがための過ちと受取ろう。

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眩暈 (講談社文庫)
島田荘司眩暈 についてのレビュー
No.30: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

色んな話がてんこ盛りの贅沢な作品

重厚長大という四字熟語がぴったりの、まるで辞書のような小説であったが、少しも疲労を感じさせなかった。リーダビリティに関してはもう云うことはないだろう。冒頭のエピソードから、結局事件には直接関係は無かったのだが、物語に幻想味を持たせるためのファクターとなる古代エジプトの挿話とタイタニックの挿話がそれ自体1つの短編として機能するほどの質を備えている。
よく考えてみたら、なんと贅沢な一冊なんだろう、これは!!
水晶のピラミッド (講談社文庫)
島田荘司水晶のピラミッド についてのレビュー
No.29:
(8pt)

これぞ泡坂風時代小説だ!

いやぁ、やっぱり泡坂妻夫はこういった江戸物、とりわけ職人物を書かせると上手いわ。『鬼女の鱗』の時は自分にとって初の時代物だった事、間に盆休みが入った事が期待外れの要因だったが、この『びいどろの筆』は市井の人々の生活の匂いが立ち上ってくるかのようだ。
あと、特徴的なのは夢裡庵が主人公でない所。各エピソードの主役は各々異なるが、その誰もがまた、人間臭くて実にいい。
びいどろの筆―夢裡庵先生捕物帳 (徳間文庫)
泡坂妻夫びいどろの筆 についてのレビュー
No.28: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

横溝風?

まず題名からして横溝正史へのオマージュという感じだし、ジェイムズ・ペインの地下室は明らかに乱歩のエログロ趣味を意識したもの。この作品を以ってして島田は本格の巨匠として名を残すことに挑戦したのか?
そうだとすればこの一作が未来永劫読み継がれていく名作だとは思わないが、面白かったのは事実。
しかしメインのトリックが大掛かりであればあるほど、陳腐な印象を受けるのが現代の本格である。その一点のみで10点をつけられないのがどうにも勿体無い。
暗闇坂の人喰いの木 (講談社文庫)
島田荘司暗闇坂の人喰いの木 についてのレビュー
No.27: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)
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二人称叙述ミステリの佳作

実に興味深い設定だった。作者自身が探偵役となって物語の主人公を演じるシリーズの根底を揺るがすようなお話だった。
清原奈津美は正しく法月綸太郎である。彼は自分の存在意義を一度は否定し、虚構の中で踊る道化師までに貶めし、だがそこから見事復活してみせた。
しかしそれでもなお、彼は本格探偵小説の明日を見出してはいないだろう。
そう、この中で何度も作者が云っている「物語は終わらない」ように、このジレンマもまた終わらないのだ。
二の悲劇 新装版(の3-5) (祥伝社文庫 の 3-5)
法月綸太郎二の悲劇 についてのレビュー
No.26:
(8pt)

冒頭の2編は傑作!

収録作品7作品中4作品はトリックもしくはプロットが解ってしまった。後半の沢田穂波とのコンビのビブリオ・ミステリ4作品は最初のエネルギーを持続させるには少々物足りないし(「緑の扉は危険」はこちらの期待が大きかったせいか、巷間で云われているほど、素晴らしいとは思わなかった)、「黒衣の家」はその呆気無さに唖然とした。
が、しかし「死刑囚パズル」と「カニバリズム小論」がその不備を補って余りある光彩を放ってくれた。これぞ法月綸太郎の真骨頂であろう。よって8点!
法月綸太郎の冒険 (講談社文庫)
法月綸太郎法月綸太郎の冒険 についてのレビュー
No.25:
(8pt)

なんとも愛すべきレギュラーメンバーたち!

たった350ページ強の厚さなのに各々のキャラクター性を鮮やかに造詣し、しかもストーリーを見事に着地させる。
プロットはしっかり練られていたが、軽妙さのためか、さほど驚きは感じられなかった。これは恐らく私の姿勢が悪いのだろう。
でも最終的な感想としては、実に愉しい読書だったなあ、ということ。回を重ねる毎に、ジョン・ロウ、ギデオン・オリヴァー、そしてその妻ジュリーが素晴らしくて、実際に友達になりたいな、とまで思ってしまいました。
楽園の骨 (ミステリアス・プレス文庫)
アーロン・エルキンズ楽園の骨 についてのレビュー
No.24:
(8pt)

キャロル作品の個人的ベスト

今まで読んできたキャロルの小説の中では『死者の書』に次いでベスト。
つまりは、魔法とか呪いとか、非現実な要素が無かったことが一番の特徴で、故に登場人物がその個性だけで描かれていたことが良かった。挿話がふんだんに盛り込まれ、それらはそれなりに興味深いのだがあと一歩、足りないものがある。それはリーダビリティーの要因である知的好奇心の喚起ではなかろうか?
どうも読んでて、さて次はどうなるって気持ちにならないんだなぁ。
沈黙のあと (創元推理文庫)
ジョナサン・キャロル沈黙のあと についてのレビュー
No.23:
(8pt)

ラストの三行は歴史に残る名文!

なんともやるせない物語。
つつましく小さな会社を経営していた男が、己の矜持を守るために掛け違えたボタン。それが終末への序章だった。望むと望まざるとに関わらず、主人公長尾に振りかかる災厄の数々。徒手空拳で立ち向かう彼と彼を慕う女性2人の姿が痛々しい。正に昭和の男と女の物語だ。
そして空虚感漂うラストの三行は今なおシミタツ作品の中でも金字塔として残る名文とされている。復刊された新潮文庫版よりオリジナルのこっちの方が断然好きだ。
裂けて海峡 (新潮文庫)
志水辰夫裂けて海峡 についてのレビュー
No.22: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

字面さえも怖い

大学でミステリに目覚めた私が各種ガイドブックを読み漁って、手当たり次第にその道の作家の作品に手を出していたのは既に別の感想でも述べたが、その中の1人に竹本健治氏がいた。
この作家の代表作として必ず挙がるのが『匣の中の失楽』。しかしこの作品は当時絶版であった。数年後どこかの書店でノベルス版を見かけたが、文庫本で購入することを原則としているので文庫落ちをじっと待っているような感じだった。
とにかくいわゆる新本格ミステリ作家の方々が影響を受けた作品としても『匣の中の~』の名はたびたび挙がっていたので、この竹本健治という作家の作品とはいかなるものかと各社の文庫目録を調べてみたところ、ほとんど作品がなく、唯一角川文庫だけがこの作品を文庫で出版していた。現在は竹本氏の文庫は各出版社から出ており、容易に購入できるが、90年代当時は実に稀少だったのだ。

本書の舞台は元産婦人科医院を改装した「樹影荘」というアパートを舞台にした作品である。そこに住む男女はどこか歪んでおり、屈折した性格を持っている。そんな彼らに起こる奇怪な出来事。虫が這いずり回り、天井から血がしたたり、生首を思わせるマネキンの首が玄関に放り込まれる。便所には「死」の文字が殴り書きされ、廊下一面に血が流される。そんな怪異に住人たちも疑心暗鬼に捉われ、お互いを疑い出す。やがて住民の1人が首吊自殺を遂げる。それがカタストロフィの始まりだった。

この作品を読むまで私はホラー小説を読んだことがなかった。文字で人を怖がらせるなんて到底できるものではないと高を括っていたのだが、それが間違いだと気づかされたのがこの作品。とにかく怖い。書かれている内容もそうだが、並んでいる文字の字面が怖い。あとがきによればとにかく怖い文章を書こうと使う単語を吟味し、漢字からひらがなの表記、つまり文字が与える印象までを徹底的に考え抜いたのだそうだ。その成果は竹本氏の期待以上に出ている。常に湿り気を纏ったようなじとじとしたような印象と指に血が付いてこすり合わせた時に感じる、あの粘着感。特に最初の産婦人科時代に行われた中絶場面など、いきなりこれかよ!と気持ち悪さに身悶えしたものだ。
昭和の安アパートを思わせる「樹影荘」も舞台効果が抜群だ。六畳一間の日焼けした畳敷きの部屋に天井から1本ぶら下がる裸電球。部屋の隅には照明が届かず、影が常に下りている。そんな風景が終始頭に浮かんでいた。
この作品との出逢いがなければ私は竹本氏の作品を追う事はなかっただろう。数ある作品の中で当時本書のみを文庫として残していた角川書店に感謝したい。


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狂い壁 狂い窓 (講談社文庫)
竹本健治狂い壁 狂い窓 についてのレビュー