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マリオネットK さんのレビュー一覧

マリオネットKさんのページへ

レビュー数144

全144件 1~20 1/8ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.144: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ミステリ版『鬼滅の刃』

本格ミステリでは近年稀に見る大ヒットとなった本作を遅ればせながらようやく読みました。
感想としては「読みやすいしそこそこ面白いし割と綺麗にまとまってる、一般大衆から支持を受けたのもまぁわかる。だけど別に滅茶苦茶面白いわけでも斬新なわけでも完成度高いわけでもないし、ここまで大ヒットしたのはなんかタイミングとかいろいろ運よくハマって分不相応に流行った感あるな」と言った所。

まさにミステリ版『鬼滅の刃』(私は鬼滅好きですよ、いくらなんでもあんなにヒットしたのは分不相応すぎると思うだけで)

▼以下、ネタバレ感想
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屍人荘の殺人
今村昌弘屍人荘の殺人 についてのレビュー
No.143:
(7pt)

シートン動物記を久々に読みたくなりました

この作者おなじみの、実在人物や有名文学作品を二次創作(?)的に本格ミステリ作品として生まれ変わらせるシリーズの一作。
今回の探偵役は日本でも『動物記』で有名なアーネスト・トンプトン・シートン氏と、彼に関わった動物たちで、短編七作で構成されています。

今作でのシートンは、動物の生態調査で養った観察眼をもって、かのシャーロック・ホームズよろしく、人間の行動に関しても抜群の観察眼と推理力を発揮して数々の事件を解決するという役回りですが、もちろん彼が主役なのですから全ての事件に動物も登場して重要な役割を果たし、またその動物は『狼王ロボ』を始め全て元のシートン動物記にも登場したものとなります。
なので子供の頃などにシートン動物記を読んだ人の方が当然楽しむことができ、また動物記を読み返したくなるような一冊でしょう。

文章は、誰の翻訳版を意識しているのかはわかりませんが、いかにもな海外翻訳物っぽい淡白な文章な一方で、どこか大げさで芝居がかった登場人物の言動などが表現されており見事だと思いました



▼以下、ネタバレ感想
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シートン(探偵)動物記
柳広司シートン(探偵)動物記 についてのレビュー
No.142: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

個人が老いなくなった時、国家や人類は老いる

一言で説明すると不老不死の技術が実現した時に日本はどうなるのか、という設定の元描かれたSF小説。ミステリ、推理小説の枠組みには入らないと思います。
上下巻でそこそこの分量があり、作中で50年以上の時間が経過する壮大なストーリーですが基本はエンターテイメント小説なので読みやすいです。

ほぼ全ての日本人が成人年齢を超えるとHAVIと呼ばれる、不老不死になる処置を受けるという世界。ただし法律で100年後には強制的に安楽死させられる。
本当に永遠に個人が生き続けたら人口はパンクしてしまいますので少し考えれば子供でもわかる当然の処置です。
どのみち普通に人生を送って120歳まで生きることはほぼ不可能ですし、仮にその年齢まで生きたとしてもその間の老いの悩み・問題からは逃れられません。
だから当然100年後に死ななければいけないと判っていても作中の人間はほぼ全員がこの処置を受けますし、この作品を読んだ読者もほぼみんな「自分も受けたい」と思ったのではないでしょうか。

そんなまさに全人類の夢が実現したような世界なのですが、正直個人レベルで見ても全体レベルで見ても、人々は全く幸せそうには見えず、どちらかと言えば夢のない世の中が広がっています。
そして「まぁ実際この技術が実現したら、こんな感じになるだろうね」と思わされてしまうものでした。
それはひとえにこの作品が個人レベルでも全体レベルでも「人間とはこういうもの」という描写が上手く、説得力があったからだと思います。

個人的にこの作品を見て感じたのは、本来生物というものは全体がまた一つの生き物のようなもので、種全体の存続、繁栄のためには個は細胞が新陳代謝を活発にするように適度に入れ替わらないと、全体として停滞、それどころか逆に「老化」してしまうものなのだなということです。
人は有限だからこそ、老いるからこそ今を大切に生きられるなどという言葉は、普段はなんか説教臭くて嫌いなのですが、この作品を読むと理屈と感情双方で納得が出来るような気がしました。

また読んでいて面白いと思ったのは他の人の感想にもありますが、この作品は自分の意思でHAVIを受けていないケン以外の人間はみな外見的には20代のはずなのですが、思い浮かぶイメージが実年齢通りのヨボヨボのおじいさんおばあさんまでは行かないまでも、いい意味では大人の貫禄のある、悪い意味では疲れの見えた40代・50代ぐらいの見た目なってしまうことです。(ある意味歌野氏の例の作品の逆バージョン的なものを感じますw)
これは実際作者も意図している所で、この作品の実写版をケン役意外は全員20代の若手役者で作ったら面白そうと思う反面、叙述トリック作品並に映像化せずあくまで文字で想像する作品だからいいのではないのかとも思いました。



▼以下、ネタバレ感想
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百年法 上
山田宗樹百年法 についてのレビュー
No.141: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

本格推理小説は面白すぎる

『学生アリスシリーズ』や『作家アリスシリーズ』のようにシリーズ化はされていない、有栖川有栖氏の初期作品。
ロジック重視で、大掛かりなトリックを弄した作品はあまり書かない印象の作家ですが、今作は鉄道ダイヤトリック、双子入れ替わりトリックなど本格ミステリの王道とも言える複数のトリックが仕掛けられた一冊です。

時刻ダイヤトリックを扱った作品は正直「なんとかしてなんとかしたんでしょ」って感じで、真剣に考える気もおきないしあまり好きではないのですが、この作品はそれ以外の部分にも仕掛けられたトリックが面白く、出来も良いと感じました。
作中のアリバイ講義も面白かったです(私は基本はこういう単に作者が自分の趣味を語りたいだけのパートは嫌いなんですけどね)

極めて王道な本格推理小説であると同時に、この作品そのものが「本格推理小説」というものをそのままテーマにした作品というか、「本格推理小説」というもののテーゼであるかのように感じました。
作中に出てきた「トリックというもの自体が面白すぎる」「本格推理小説というジャンルが面白すぎる」という言葉。
私のような人間にとってはまさにその通りだと思います

▼以下、ネタバレ感想
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マジックミラー (講談社文庫)
有栖川有栖マジックミラー についてのレビュー
No.140: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

金田一耕助ではなく2人の女性が主役の物語

金田一耕助シリーズの中で所謂代表作と呼ばれるような作品よりは評価・知名度ともに一段劣る作品でしょうが、古い小説ながら読みやすく、終始ダレない展開で面白かったです。

今作の時代設定は昭和26年。
終戦後何十年も経ってから産まれた身からすると、まだまだ戦争の爪跡の濃い時代……というイメージがあるのですが、『獄門島』や『犬神家』などまさに終戦直後で戦争の爪跡が事件にも影響している作品に比べると、そういった影響はなく日本がようやく「戦前」の生活水準を取り戻した様子が感じられる作品でした。
(なのでむしろもっと古い、戦前の江戸川乱歩の作品などをどこか連想してしまう雰囲気・描写がありました)

▼以下、ネタバレ感想
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女王蜂 (角川文庫―金田一耕助ファイル)
横溝正史女王蜂 についてのレビュー
No.139: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

それほど出来が良いとは言えないけれど、私は好き

県有数の富豪の家で一人の婦人が不審な死を遂げ、それからも一回忌、三回忌、七回忌……と法事の日の度に家の少女たちが無残に殺されていく……といういかにもな舞台で起こるいかにもな殺人事件というまさにコテコテの本格推理小説。
清清しいほど本格推理以外の要素を持たない作品で、本格推理小説である以上の意味もドラマもテーマもメッセージもそこにない小説。
なのでまず本格推理小説ファン以外にはオススメはできませんし、本格推理小説としても、名作・傑作とはお世辞にも言えないですが私はこういうの好きです。

どっかで見たようなのの流用感はあるものの、各殺人ごとにそれぞれトリックを用意しているのも個人的に好きですね。
特に第一の串刺し殺人は、島田氏の秘蔵っ子だけあり、島田氏に通じるような馬鹿……もとい大胆なトリックが見れます。
(細かいところはともかく、なんとなく予想がつくとこも含め)

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十三回忌 (双葉文庫)
小島正樹十三回忌 についてのレビュー
No.138: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

作品の完成度で評価すればもっと高得点でもいい

全く無駄のない構成の、非常に完成度が高い作品だと思いました。
テンポの良さ、読みやすさ、人物描写、ドラマ性、テーマ性、そして結末。
全てにおいてほとんど非の打ちようのない素晴らしい一冊だったと思います。

純粋に物語の出来の良さを評価すればもっと高得点でも良かったのですが、この点数どまりなのは、やはり私は何も悪くない子供が死んで、その親の苦悩が描かれるような話は読んでて辛くて、楽しくは読めなかったからです。(なのでおススメは押したけど、お気に入りは押していません)
いずれ再読したい、その価値はあると思う作品ですが、何時になるでしょうかね……

▼以下、ネタバレ感想
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最後の証人 (角川文庫)
柚月裕子最後の証人 についてのレビュー
No.137:
(8pt)

初期乱歩の集大成的作品

一年以上の断筆期間を経て発表された本作は乱歩御大の代表作の一つであると同時に、これまでの乱歩の集大成的作品でもあります。
この作品の後にも『孤島の鬼』や『少年探偵団シリーズ』など数々の有名作は生み出されており、彼の創作史全体を通せばむしろまだ初期の部類の作品にはなるのですが、それでもここで乱歩はこれまでの作家としての自分の総決算的な意味を込めてこの作品を書いた、一つの区切りとなっている作品なのは間違いないと思います。

まずこの作品は乱歩本人がモデルと思われる二人の作家が話の主役となります。
この二人の作家は表面的な性格や作風は対照的なのですが、どこかお互いに意識しあう、まさに乱歩の二面性が表現されている気がします。
なお、話の主軸となる作家二人が乱歩がモデルというのは読者が抱く印象であり、乱歩本人はあくまで自身がモデルなのは奇妙な作風で人間嫌いの春泥の方のみで、本人も作風も常識的な語り手である寒川は甲賀三郎氏がモデルとしているようですが、私はどちらかと言うと、作品の世界から離れた乱歩は社交的な常識人であり、春泥のような異常性に惹かれている(あくまで本人は正常)のが彼だったのではないかと思います。

さらにこの作品は『屋根裏の散歩者』『パノラマ島奇談』『二銭銅貨』などの乱歩のこれまでの代表作のセルフオマージュなどがふんだんに用いられているので、これらの作品を先に読んでいた方が楽しめることは請け合いでしょう。

こうした乱歩のこれまでの集大成となった作品は、さすが数ある彼の作品の中でも代表作の一つに選ばれているだけあり高いクオリティを持っており、終始飽きさせない展開と今日までの日本の推理小説に大きな影響を与えただろう衝撃的な結末が用意されています。

▼以下、ネタバレ感想
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陰獣 (江戸川乱歩文庫)
江戸川乱歩陰獣 についてのレビュー
No.136: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

『暗闇坂』や『水晶のピラミッド』が面白かった人なら間違いなく面白い

もう御手洗潔シリーズに『占星術』や『斜め屋敷』のような作品を期待してはいけないと最初から思いながら読んだ作品。
そしてもう明らかに『暗闇坂』『水晶のピラミッド』の系譜を継ぐ作品だということが読み始めてすぐにわかったので、期待するべきところは期待し、期待できない所は期待せずに読んだ結果。見事に良くも悪くも期待を裏切らなかった作品でした。

まさに『暗闇坂』『水晶のピラミッド』同様、あるいはそれ以上に、実際のページ数でも、世界規模の舞台設定も、作品に設けられたさまざまな仕掛けという意味でも非常にスケールの大きな作品であり、エンターテイメントとしては一級品、本格ミステリとしては「ちょっと待て」と言いたくなる、壮大なるバカミス作品でした。

まず序章となる、吸血鬼と呼ばれた実在する女性エリザベート・バートリーの物語だけで約200ページとこれだけでも長編小説と言えるだけの分量があり、正直「別にここ読み飛ばしてもあんま本筋に問題ないんだろうな~」と思いつつも、滅茶苦茶面白かったので(正直ここが本編より面白かったかも)不満なく読むことが出来ました。

全体としてはツッコミ所満載なのですが、1000ページ近い長さが苦にならず一気に読めてしまう面白さはやはり認めざるを得ないです。





▼以下、ネタバレ感想
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アトポス (講談社文庫)
島田荘司アトポス についてのレビュー
No.135: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

平成にまで残された、昭和最後の一週間

わずか一週間で終わった昭和64年に発生した未解決誘拐殺人事件、通称「64(ロクヨン)」は、遺族や警察をはじめ多くの事件関係者たちに新しい時代、平成にも深い遺恨を残していた。そして時効まで残り一年を迎えた平成14年、様々な人々の思いが交錯する中、再び事件は動き出す……

私はミステリの中でも警察小説はあまり好きではない、特に事件そっちのけで警察内の派閥だ面子だでグダグダするような話は不快になるため嫌いであり、この小説はまさにそういう話なのですが、やはり横山秀夫氏の作品だけは例外です。決して読んでいて愉快なストーリーではないのですが、楽しく読めました。

主人公が警察関係者の中でも、直接事件を捜査する刑事ではなく、マスコミとの仲介役となる広報官という設定がまず斬新です。
マスコミからも刑事部からも板ばさみになる葛藤が存分に描かれ、主人公の広報官側に感情移入すると「マスコミも刑事部も勝手な事ばかり言いやがって」という感想が沸くのですが、結局はどの人間も自分の置かれている立場で物事を言っているにすぎず、ふと離れた視点から見ると、名前を出す出さないだ、誰に抗議文を出すだ出さないだ、いい大人たちが大勢揃ってどうでもいいことにこだわり、誰も得しない非生産的な争いをしている滑稽な構図に見えてきます。
こんなことよりも重要なのは誘拐された子供の命(それはもう奪われてしまった)と犯人逮捕だろ?と途中から感じてしまいましたが、結局直接の被害者以外にとっては、目の前の自分の立場や面子こそが一番重要なのが現実なのでしょう。しかしその中に確かにあるそれぞれの人間個人の譲れない感情や矜持というものが表れ、まさに『人間』というものがこれでもかと描写されていた作品と感じました。

そのように未解決誘拐事件そのものよりも、マスコミとの駆け引きや警察内でのゴタゴタがメインの前半は少し間延びした印象でしたが、再び64(ロクヨン)が大きく話に絡むようになり、同時に次々と真相が判明していった終盤の展開は驚きの連続で目の離せないものとなりました。



▼以下、ネタバレ感想
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64(ロクヨン) 上 (文春文庫)
横山秀夫64(ロクヨン) についてのレビュー
No.134: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

決して出来が悪くないだけに漂うチープさがもったいない

吹雪に閉ざされた山荘を舞台に、多重人格の殺人鬼による連続殺人が行われる、サイコサスペンスにして倒叙にして本格推理作品でもあるミステリ。

刹那的で軽い性格の殺人鬼の性格を描写するためか、はたまた元々は「作者当てクイズ」という趣旨もあり元の文章のクセを隠すためか、文章がラノベ的というか非常にチープさやB級感が漂っている作品です。
しかし面白い趣向が複数試みられ、展開もよく練られており決して出来が悪くないだけに正直もったいないと感じてしまいました。(密室トリックとアリバイトリックはしょぼいけど)
性的描写が必要以上に多いのも、無駄なエログロナンセンス感があって人を選んでしまうなぁという感想です。

▼以下、ネタバレ感想
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白銀荘の殺人鬼 (カッパ・ノベルス)
彩胡ジュン白銀荘の殺人鬼 についてのレビュー
No.133:
(8pt)

謎解きの難易度としては非常に低いけれど、質は高いデビュー作

今邑彩女史のデビュー作。
まさにタイトルどおり「卍」の形に作られた館で発生する連続殺人事件。

謎解きの難易度としては非常に低いです。本格ミステリファンどころか、『金田一少年』や『名探偵コナン』が好きな人レベルでも察しがつきそうです。
ただし、かといって自分はこの作品の評価は落としません。むしろとことんフェアゆえの難易度の低さとも言えますし、バリバリの本格ではありますが、登場人物たちの恋愛ドラマとして見ても面白かったです。
デビュー作としては非常に完成度の高い作品だと思います。

奇妙な館での殺人事件という内容も好みですし、好みの作家さんということもあり少し甘めの点数です



▼以下、ネタバレ感想
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卍の殺人 (中公文庫)
今邑彩卍の殺人 についてのレビュー
No.132:
(7pt)

いろんな意味で70年近く前だから許される作品

1950年発表の神津恭介シリーズ第二作目(三作目とも)
過去、信仰の力を持って富と財をなした一癖も二癖もあるような人物ばかりの旧家で、血塗られた予言に見立てられながら連続殺人事件が起こるという
どちらかと言えば横溝御大のようなカラーの、それ以上にカーやヴァン・ダインからの影響が多分に感じられる作品ですね。

犯人に翻弄されるように、舞台に居合わせながら次々と殺人を許してしまう神津が正直ふがいないです。
連続殺人を防ぐことが出来ない探偵というのは金田一耕助もそうですし、ある意味お約束ではあるのですが、神津はなまじ完璧超人の格好いいキャラクター像を与えられているだけに、かえって情けなく見えてしまうのが否めません。

また、読者への挑戦文が挟まれる作品ですが、もはや挑戦というより挑発的な文章で
「わからないって?困りますね、そんな勘が悪くちゃ」とか「ここまで書いてわからないようじゃ、頭がどうかしています」とか今の作家がやったら冗談でも許されないレベルで酷いです(笑)
あと当たり前のように『グリーン家殺人事件』の犯人の名前挙げるのも酷いです。(私は幸い向こうを先に読んでたけど)

いろんな意味で1950年という時代だから許されているような作品で、いろいろ物申したい部分はありますが、今じゃとても読めないという意味では面白い作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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呪縛の家 新装版 (光文社文庫)
高木彬光呪縛の家 についてのレビュー
No.131: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

『星を継ぐもの』の続編作品

SF作品でありながら、ミステリ作品としても非常に評価が高く、このサイトでも海外作品総合2位(私も10点満点つけました)のいわずと知れた有名作にして超傑作である『星を継ぐもの』の正当なる続編。
……にも関わらず一作目から評価・知名度はグッと下がり、実際ここでレビューを書かせていただくのは私が一番乗りというこの作品。
その理由は決してこの作品がつまらないとか、出来が悪いからではなく、前作と違い、謎の提示と解明はあっても、あくまで普通(?)のSF作品の範疇に収まってしまっているからでしょう。

単純にストーリー性、娯楽面から見れば、前作がほぼ謎の提示と解明に終始しただけの作品であるのに対し、今作は実際に地球人たちが異星人たちと接触し、その交流が描かれるなどより展開に動きがあり、物語としてはこちらの方が面白いぐらいではないかと思います。
そして今作にもしっかり大きな謎とそれに対する驚きの回答が用意されてはいるのですが、やはり前作の謎の解明の際のインパクトとカタルシスには遠く及ばないですかね。

言うまでもないことですが、今作は前作の『星を継ぐもの』の真相に関わる、超重要部分がネタバレされているので、絶対にこちらを先に読まないようにしてください。

▼以下、ネタバレ感想
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ガニメデの優しい巨人【新版】 (創元SF文庫)
No.130: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

短編集というのは少し違う……作中作を題材としたホラー&本格ミステリとでも言うべき作品?

『作家シリーズ三部作』の二作目。
前作の『忌館 ~ホラー作家の住む家~』はホラーとしてもミステリとしても中途半端な上に、全てが消化不良ではっきり言って全く面白くもなければ納得もいかないと感じた作品でしたが、今作については点数にも表れているように、結論から言うと面白かったです。
しかしなんとも説明するのも、感想を述べるも、どう評価すべきかも非常に難しい作品だと感じました。

まず紹介ページのタイトルの後ろに(短編集)とついていますが、この作品そのものを短編集と分類するのは少し語弊があります。
この本の作中に出てくる”迷宮草子”という本が短編集の形式で出来ており、その一作一作の謎を主人公達が解き明かしていくという、作中作形式の話になります。(ややこしいですが)
ただ当然ながら”迷宮草子”はただのミステリ短編集ではなく、読んだ者の身に一話ごとに怪異が襲い掛かり、そしてこの本の謎を解かない限りその怪異が消えることはなく、さらには読んだ者はやがてその姿を消すことになる……という恐ろしい曰くを持ったもので、主人公達は日々襲い来る怪異に悩まされながら、命がけの謎解きを行っていきます。
そんなオカルトな題材を扱ったホラー作品でありながら”迷宮草子”の個々の短編の謎はあくまで「本格ミステリ」の形式がとられており、導かれる回答も極めて論理的という、まさにこの作者の代名詞でもある、ホラーと本格ミステリの融合を果たしている作品と言えます。
また作中作となる個々の話もいろいろな本格ミステリのジャンルやテーマをバラエティ豊富に取り揃えながら、それ単体でも十分楽しめるクオリティを携えており、上下巻のボリュームながら飽きることなく楽しませてくれる、まさに「力作」とも言える作品だと思いました。

なお、この作品はクローズドサークルタグが付いていますが、この作品自体は全くクローズドサークルではありません。
ただ、上にある作中作の短編作品の中にクローズドサークル形式の作品が含まれるほか、謎解きの際にもクローズドサークル談義(?)が交わされるので、クローズドサークル好きにもおすすめできる作品であると言えるでしょう。



▼以下、ネタバレ感想
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作者不詳 ミステリ作家の読む本 (上) (講談社文庫)
No.129:
(7pt)

夏目漱石の『坊っちゃん』を読み返せば2倍楽しめる?

日本の文豪、夏目漱石の書いた超有名作である『坊っちゃん』の世界観と登場人物をそのままに、あの親譲りの無鉄砲でいつも損ばかりしている「坊っちゃん」が探偵役となり、殺人事件を解決するというユニークな作品。

まずなんと言っても感心するのは、夏目漱石の『坊っちゃん』の文体をそのまま再現していること、そして主役の坊っちゃんをはじめ、登場人物の言動も完全に再現されており、まるで『坊っちゃん』の続編のようで、まさにこれは”贋作”なのだと感じました。

また20世紀初頭という時代背景を上手く実際に『坊っちゃん』の作中で起きた事件とも絡め、作中で新たに起こる殺人事件に絡めて行く手法も見事で、社会派ミステリとしての側面も持っています。(その反面肝心の殺人事件に関するトリックや犯人当てには少し物足りなさや、強引さを感じましたが)

またこの作品を読んで改めて感じたのは、夏目漱石の作品の中でも特に『坊っちゃん』という作品が大衆受けしたのは、この「坊っちゃん」の無鉄砲で喧嘩っぱやく、しかし一本気なキャラクターが非常に主人公的な魅力に溢れ、好まれるからだと言う事です。
『坊っちゃん』が発表されてから、日本は二つの世界大戦を経て、世の中の多くの価値観が大きく変動したにも関わらず、大衆に好かれるキャラクターというのは平成も終わろうとしている今日においても変わらないというのが面白いと思いました。

こんなふうに言いながら私はこの作品を読む前に元ネタの『坊っちゃん』がどんな話だったかは殆ど忘れていたのですが、思い出しながら、あるいは完全に未読でも楽しめる。あるいはこちらを読み終えてから改めて『坊っちゃん』を読み直しても楽しめる。もちろん、事前に『坊っちゃん』をしっかり読んでいても楽しめる。いずれにせよ夏目漱石の『坊っちゃん』を読めば2倍(2回)楽しめる作品ということです。

▼以下、ネタバレ感想
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贋作『坊っちゃん』殺人事件 (集英社文庫)
柳広司贋作『坊っちゃん』殺人事件 についてのレビュー
No.128: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

本格好きの自分の好みではないけれど、東野圭吾という作家の実力を改めて感じた一冊

手軽に読めるのが一つの売りでもある東野圭吾氏の作品にしては800ページ超のかなりの分量なのに加え、本格好きである私は数ある同作者の作品の中でも評価の高い一冊でありながら読むのを大分後回しにしてしまった作品です。
真相・結末に大きなトリックやどんでん返しが用意されているわけではなく、また私のような明確な「答え」「結末」というものを求めたがる人間には少し相性が良くない作品でしたが、ミステリというより純粋にストーリー性の高い小説であり、東野圭吾という作家の引き出しの広さや深みというものを感じさせられた一冊でした。

亮司と雪穂、男女二人がストーリーの中心となり彼らの20年近い半生を、昭和から平成への時代の移り変わりを振り返るように、主役である彼らの心情は一切描写されず、周囲の人間視点で綴られていく壮大なストーリーですが、元々は連作短編として連載されていただけあり、彼らに関わっていた人間たち個々のエピソードだけ見ても質の高いものを感じました(それだけに読んでいる途中で「あれ、あの人たちもう出てこないの?」と何度も思わされましたが)


▼以下、ネタバレ感想
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白夜行 (集英社文庫)
東野圭吾白夜行 についてのレビュー
No.127: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

初級問題と中級問題に分かれていたような感じ?

『国名シリーズ』の第三弾にして、シリーズ内でも名作として名高く、作家クイーンの評価を一気に高めた作品でしょうか?
もはや説明不要な徹底したロジカルさが特色のクイーン作品の中でも、とりわけその傾向が強い、まさに大作パズル問題のような一作です。

ストーリーは事件が発生した病院内での捜査にほぼ終始し、余計なドラマやサスペンス要素などは差し挟まない、非常に正統派かつストレートな推理小説となっています。
(まだヴァン・ダインの影響が強かった頃のためか、台詞まわしにやや衒学趣味が強いのは個人的にややハナにつきますが。あとクィーンと少年給仕のジェーナのBLっぽいやり取りは、今ではそういう層の人に目をつけられそうです)

第一の殺人に関する靴のロジックによる犯人の絞込みは大抵の読者が答えに到達できるでしょうが、第二の殺人の戸棚のロジックは難易度が高く、作中内で初級問題と中級問題に分かれていたような印象を受けました。ちなみに私は初級はクリアしましたが中級でつまずきました。

余談ですが、メモ用に余白が取られていた章で本当にメモ取った人なんているんでしょうか?
しかもあの部分、さして重要じゃないクイーン警視の誤った推理でほぼ埋まっていた気がするのですが、むしろどうでもいい部分だから暇つぶしに落書きでもしてろっていうジョークなんでしょうかね。


▼以下、ネタバレ感想
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オランダ靴の謎【新訳版】 (創元推理文庫)
エラリー・クイーンオランダ靴の謎 についてのレビュー
No.126: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

「文学」と「絵画」という二つのジャンルの橋渡しになっているかのような作品

今作は殺人や犯罪を扱ったミステリではなく、実在した不遇の天才画家アンリ・ルソーが描いたとされる、幻の作品を所有する大富豪に招かれた2人の男女が、それぞれの背後にさまざまな人物の事情や思惑を背負いながら、作品の真贋をめぐって論評対決するという独自ジャンルの作品です。

作者が本職のキュレーターでもあったというだけあり、絵画に対する知識と情熱がリアリティを持って伝わってきました。
かと言ってその分野に明るくない読者を置いてけぼりにするようなことはなく、キュレーターという職業やルソーと言う作家の絵画史における位置づけなどが非常にわかりやすく説明されており、物語にすんなりと入り込みついていくことができました。
ミステリ界に溢れている、作者に中途半端な知識しかないゆえに逆に単なる知識のひけらかしになっているような衒学趣味の強い作品に見習って欲しいものだと感じます。

作中ではルソーだけではなく、かの有名な天才ピカソも登場し、深く物語に関わってくるのですが、作中でも「この話はピカソが主役になってしまうんじゃないか」という台詞が出てきたとおり、どうしてもピカソが登場すると、ピカソの方が存在感が強くなってしまった気がします。
日本の大河ドラマや歴史小説で、本来の主役とされた人物より結局、織田信長や豊臣秀吉が目立ってしまうのに似たようなものを感じました。
とはいえ、この作品を読むまで恥ずかしながら名前ぐらいしか知らなかったルソーという画家の人生と作品に大きく興味を抱かされ、機会があれば彼の作品を実際に目にしてみたいと感じさせられた一作です。
作中のように画家やキュレーターや研究者がいかにルソーの評価を世間に見直させようとしても、私のような人間の耳には一切入って来なかったでしょうか、小説というジャンルを通すことで普段その分野に興味の無い人間にもルソーと言う画家の人生と作品が伝えられるというのは、素晴らしいことだと思いました。

▼以下、ネタバレ感想
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楽園のカンヴァス (新潮文庫)
原田マハ楽園のカンヴァス についてのレビュー
No.125: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

重くて暗くて読みにくそう……と思ったらいい意味で裏切られました

愛する一人娘を殺された父親が、行きずりの変質者の犯行であるという警察の見解に疑いを持ち、独自に犯人を捜しだし、そして復讐を決行するという内容の手記から始まる作品。

人が憎しみ合って殺しあう話が大好きな私ですが、こういうタイプの話は非常に苦手で、あらすじの時点で読む気があまりせず、「もし出来が良くても二度読もうとは思わないタイプの話だろうなぁ」と考えながら読んだのですが、良い意味で予想を裏切られ、楽しく読めました。
内容はたしかにあらすじの通りですが、スピーディに進み、二転三転していく物語は非常に読みやすく、最後まで先が気になり、結末にもうならされ、いずれ再読もしたいと感じた作品でした。



▼以下、ネタバレ感想
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頼子のために (講談社文庫)
法月綸太郎頼子のために についてのレビュー