■スポンサードリンク


マリオネットK さんのレビュー一覧

マリオネットKさんのページへ

レビュー数147

全147件 41~60 3/8ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
 閲覧する時は、『このレビューを表示する場合はここをクリック』を押してください。
No.107: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

真相は関心したけれどもっと面白くもできたのではと思ってしまいます

クリスティの『ABC殺人事件』、クイーンの『九尾の猫』などに代表されるミッシングリンクものの有名作の一つ。
当時は古き良き本格推理小説が戻ってきたような扱いで話題になったようですが、もう現在ではこれも古典の一つとなるでしょうか?

雪深いとある街を舞台に、下は8歳子供、上は老人まで、一見事故と思われていた死が、豚を意味する「HOG」を名乗る殺人犯の手によるものと、犯人自身より送られてきた手紙で判明する。
果たして犯人の正体と被害者を繋ぐものとは?殺人動機は?そして「HOG」とは何を意味するのか……?

真相は面白かったし、「HOG」の意味もなるほどと思いましたが、例にあげたクリスティやクイーンの有名作に比べると正直途中経過が退屈に感じた作品で、真相部分しか残らなかった感想です。
雪に閉ざされたそう広くない街で子供から老人まで無差別に殺害していく殺人鬼の恐怖みたいなのがもう少し煽られてもいいんじゃないかと思いましたね。

▼以下、ネタバレ感想
※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[] ログインはこちら
ホッグ連続殺人 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
No.106:
(5pt)

世界初のクローズドサークル作品……じゃないじゃん!

長らく、世界初のクローズドサークル作品はクリスティの『オリエント急行殺人事件』だと思っていたのですが、クイーンの『シャム双生児の謎』の発表の方がその一年前であることを知りました。
さらに調べたところ、やはりクリスティのこの作品が、それよりさらに前の”世界初のクローズドサークル作品”であるとの情報を得て、クローズドサークルファンとしてはぜひ読まねばと購読したのですが……

まず第一の感想として「クローズドサークルじゃないじゃん!」でした。

雪に閉ざされた小さな山奥の村"シタフォード”を舞台にした物語ということで、なるほどそこで殺人が起こるのかと思いきや、実際の殺人はそのシタフォードのふもとにある町で起こります。
そこは全く閉ざされた空間ではないので普通に警官が来て捜査はするし、容疑者は厳密に言えば無数にいるし、裁判まで作中で起こります。
その殺人に対する容疑をかけられた男の婚約者の女性が本作の探偵役となり、恋人の無実を晴らすためにシタフォードに情報収集に向かうという展開になるので
「なるほど、ここで第二の殺人が起きて、さらに吹雪か何かでシタフォードが完全に外部と隔離されて、今度こそクローズドサークルになるんだな!」
などと期待したのですが、中々次の殺人も起きなければ、村から出られなくなるような事態も起きてくれません。
もう真犯人は誰なのかという本来の謎やストーリーそっちのけで「クローズドサークルになれ……クローズドサークルになれ……」と祈りながら読み続けていたのですが、結局最後までクローズドサークルにはなってくれませんでした。

というわけで勝手に”世界初のクローズドサークル作品”と期待した私が悪く、作品に罪はないのですが、ガッカリさせられた気分になりました。

ただ、この作品は読者目線での容疑者となる人たちが閉ざされた空間にいるために、その外で起きた殺人に一見不可能状況が起きているという、”逆”クローズドサークルとでも言いますか、クローズドサークルというジャンルが確立する前の作品でありながら、ある意味クローズドサークルの変則系とも言える形と言えるかもしれません。
”開かれた空間”と”閉じた空間”二つの舞台で進行する物語と言う形式は、ひょっとしたら『十角館の殺人』や『殺しの双曲線』などといった日本のクローズドサークル作品の有名作に『そして誰もいなくなった』と同じぐらい影響を与えているかもしれないなどと思いました。

なので考えようによってはこれもクローズドサークルの亜種の一つとみなしてクローズドサークルタグを付けようか……とも思いましたが、やはり私のように騙された気分になり、作品を先入観なく見れなくなる人がいるといけないのでつけないことにします。


▼以下、ネタバレ感想
※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[] ログインはこちら
シタフォードの秘密 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
アガサ・クリスティシタフォードの秘密 についてのレビュー
No.105:
(6pt)

超有名作の原作を今更読んでみた

誰でもおおまかにどんな話かは知っている超有名作の原作を今更読んでみました(正確には小学生時代にも児童書版は読みましたが)

まず中編と言うべき意外な短さなのに驚き。
それゆえに逆にいろいろ膨らます余地が多く、さまざまな媒体で独自解釈などされたリメイクが数多く存在するのかもしれないと思う作品です。

もう現代では「ジキルとハイド」という言葉が同一人物の二面性の代名詞になってしまっているわけですが、当時0から読んだ読者には「ハイド氏は何者なのか」という謎がまず話の主題となる。ある意味「一人二役トリック」のミステリー作品でもありますね(発表年を考えると当時はまずこれ自体が斬新なアイディアだったのでしょうね)

ハイド氏の正体が判明してからはジキル博士の苦悩が描かれますが、元々自分から悪事への快感を目的にハイドとなっていた博士は、ある意味「自業自得」なのですが、それでも彼に共感と同情が沸いてしまうのは、人間誰しも悪の快楽に身を任せたいという欲求があることを、それこそなまじ普段は善人な人間であるほど理解できてしまうからでしょうね。
仮に元々悪事に全く抵抗のないハイドのような人間がこの話を読んでも何も感じないのではないかと思います。








ジキル博士とハイド氏 (創元推理文庫)
No.104: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

超有名作の原作を今更読んでみた

説明不要の超有名作の原作小説を今更読みました。
1989年発表の作品ということで、ミステリ史全体から見ればまだそこまで古い作品ということにはならないのかもしれませんが、まぁもう「古典」の領域ですね。

危険極まりない天才犯罪者に、獄中に逢いに行き犯罪捜査の助言を請うという現在では定番となった一つのパターンの草分け的存在として偉大な作品だと思いますが、今改めて読んで見ると、すでにあらすじを大体知っていたこともありますが、特に大きなどんでん返しがあるわけでもなく、正直冗長さが気になって退屈でした。
映画版をすでに見ている人がわざわざ読む必要はないかなという感想です。
羊たちの沈黙 (新潮文庫)
トマス・ハリス羊たちの沈黙 についてのレビュー
No.103: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

後半になると、主人公ともどもボロが出た感じ?

主人公は表向きは生徒に大人気で、同僚からも信望の厚い、有能な高校教師。
しかし彼の裏の顔は、自分にとって邪魔な者は躊躇なく、殺害して排除してしまうというサイコパスであった。
そんなこれ以上悪い奴はいないだろうというぐらいの「悪」が主人公なのですが
学校の問題をテキパキと解決する彼の手腕や、その傍ら読者目線でもうっとうしい存在を次々排除していく様には惹かれるとともに、共感が沸いてしまいます。
主人公「ハスミン」はまさに人間誰しもが多かれ少なかれ持っている黒い部分を代わりに開放してくれるようなダークヒーロー的存在と言えると思います。

そんなハスミンに感情移入しながら読める、前半は楽しかったのですが、後半からはまさにハスミンともどもいろいろ作品にボロが出たという感想です。

不用意な殺人の隠蔽のためにいきなりクラス全員皆殺しにしよう、という発想になるのは、展開としてはぶっ飛んでいて面白いですが、あまりの杜撰さにつっこまずにはいられません。
これまでの人生、常に入念な計画の元に事を運んできて、小学生の頃から決して尻尾を掴ませずに人を殺してきたハスミンはどこへ行っちゃったんですか。
何より、それまでは紛れもない悪であることは変わりないけれど、人間誰もが抱えている「邪魔な人間を殺せてしまえばいいのに」という葛藤を平然とやってのけるハスミンにシビれてあこがれていたのに「生徒を皆殺しにしよう!」と突然発想が飛躍されると、作中の言葉で言えばサイコパスがただのサイコになってしまいもはや共感も好感も沸かなかったです。

あと、続編を意識しているからでしょうか、放置されてるキャラとか伏線が多すぎだと思います。
非常にたくさんのキャラが出てくるんですが、良くも悪くもいろんな意味でハスミンが強すぎて一人勝ち状態でしたね。

以下ネタバレというか個々のキャラについての感想です

▼以下、ネタバレ感想
※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[] ログインはこちら
悪の教典 上
貴志祐介悪の教典 についてのレビュー
No.102: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(4pt)

いろいろと期待はずれでした

作者自身がベスト3に挙げ、ファンからの評価も高い作品のため期待した読んだのですが、私にはいまいち良さがわからず完全に期待はずれでした。

まず、クイーンがしばし滞在することになった架空の街「ライツヴィル」を舞台にした物語と言うことで、本の冒頭に街の地図が載っているのが、箱庭ゲーム感があって、「すごく面白そう!」と期待したのですが、結局この地図は推理にも物語にも最後まで全く関わることなく、肩透かしでした。

また『災厄の町』などとタイトルにあるからには、町全体を恐怖に包むような恐ろしい連続殺人!みたいなのを期待していたのですが、最初の事件からして中々起こらないし、その後も淡々とした展開で内容の割りに冗長に感じ、正直「いつになったら面白くなるんだ?」と思いながら読んでいました。
ほとんど法廷ミステリと言ってもいいぐらい法廷パートが長いのですが、その後の展開と結末から考えるとこの形式にした意味もよくわからなかったです。

そして何より肝心の謎解き部分が物足りないです。
事件が起こった瞬間に犯人がわかってしまい、あまりにわかりやすいのでむしろフェイクか?と深読みしてしまったぐらいですが結局そのまんまの結末でガッカリでした。
こんなの『国名シリーズ』のクイーンだったら一瞬で気づいたはずだと思うんですけどね。

今までのとにかくロジック重視だった作品から、人物描写中心の物語ということで、作者にとっての「新境地」であった作品なのでしょうが、私の求めている彼(ら)の作品ではなかったということでしょう。
若い女性とラブロマンスめいたことをしたり、時には暴力も辞さないこれまでになくハードボイルドなクイーンもなんだかしっくり来ませんでした。



▼以下、ネタバレ感想
※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[] ログインはこちら
災厄の町〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
エラリー・クイーン災厄の町 についてのレビュー
No.101:
(6pt)

典型的な孤島のクロオズドサアクル作品……と思いきや意外な変化球?

孤島に避暑に向かった8人の男女。
しかし二日目の朝、一人の女性が心臓を持ちさられて惨殺された死体となって見つかり、それを口切りに一人、また一人と殺されていく……
という定番の孤島の連続殺人ものですが、それだけにとどまらず中々に個性を持った作品でした。

まず物語全体の雰囲気が、夏に島にバカンスに来ているとは思えないほど、タイトルの通り陰鬱で寒々しい印象を受けます。(それこそ殺人が起きる前の楽しく遊んでいるはずの所から)しかしどこか詩的で美しい、独特の世界が拡がっています。

また文章そのものも独特です。テーブルを「テエブル」とかコーヒーを「コオヒイ」などなぜか「ー」を使わずに表記するのにかなり違和感を覚えます。
かといって絶対に使わないわけではなくカレーは普通に「カレー」と表記していたりして作者の中でのルウルがよくわかりません。

そして女性作者ならでは……と言っていいのかわかりませんが島を訪れた表面上は和気藹々としていた8人の男女の奥に潜む三角関係や愛憎が事件に大きく関わり、恋愛要素が単なるミステリーのスパイスや動機付けにとどまらず、推理小説であると同時に恋愛小説でもある作品と感じました。

真相に関してはかなり無理がある&少しアンフェア感はありましたが、斬新ではあったと思います。
凍える島 (創元推理文庫)
近藤史恵凍える島 についてのレビュー
No.100: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(4pt)

B級スプラッタホラーにオマケのようにミステリ要素を加えた作品

『13日の金曜日』のパロディ?という感じに、斧をメインウェポンとした大男の殺人鬼がキャンプに来た男女を殺しまくるというストーリー。
セックスしている男女がその最中に襲われたり、次に殺される人間が前に殺された人間の生首を発見するとかB級ホラー映画のお約束な展開がちりばめられています。
入念な殺害描写などが「文章だから表現できるグロさ」みたいなのに挑戦している感がありましたが、単にグロいだけで怖くはないです。

綾辻氏なので、これだけでは終わらないだろうとオチのどんでん返しに期待して最後まで読みましたけど、まぁなんとなく途中で予想がついたオチで、全体的にビミョーに感じた作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[] ログインはこちら
殺人鬼  ‐‐覚醒篇 (角川文庫)
綾辻行人殺人鬼 についてのレビュー
No.99:
(6pt)

タイトルから期待してたのとはちょっと違いましたね

タイトルを見た時点で「こんなの絶対面白いやん!」と期待してしまったのですが、迷路のような屋敷見取り図などが挿入されるわけでもなく、
そもそも屋敷そのものがそこまで迷路、迷路していたわけではないので、少し拍子抜けでした(中村青司の建てた「迷路館」ほどとは最初から期待していませんでしたけど)
迷路荘というよりは「隠し通路荘」とでも呼んだ方がイメージどおりですね。

屋敷に隠された抜け穴から通じる、天然洞窟を改造したような地下通路で展開される謎と冒険は『八つ墓村』を髣髴とさせます。

前半部分の聞き込み部分が冗長な割りには結局あんまり意味が無く、間延びしてしまっただけだな、と感じました。
全体的に凡作かなぁという感想でしたが、ラストの真相にはちょっと驚きました。


▼以下、ネタバレ感想
※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[] ログインはこちら
迷路荘の惨劇 (角川文庫―金田一耕助ファイル)
横溝正史迷路荘の惨劇 についてのレビュー
No.98:
(5pt)

ゴシックホラーの超有名作

主人公は旧友であるロデリック・アッシャーに手紙を貰い、彼の屋敷を訪れる。
そこには荒涼としたアッシャー家と、病んだロデリックとその妹がいて……という所から始まり、とにかく全編通して陰鬱ではっきり言って「何一つ楽しくない」話なのですが、その幻想的な独特の雰囲気に何故か惹きつけられる作品でした。

物語の起承転結などなく、ただ淡々と鬱々とした展開が続くな……と思った所に、ラストにドカンと衝撃的なオチが来たという感想です。

▼以下、ネタバレ感想
※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[] ログインはこちら
アッシャー家の崩壊/黄金虫 (古典新訳文庫)
No.97: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

数学者には解けなくてもミステリファンにはすぐ解ける問題

『S&Mシリーズ』の三作目。
前作の『冷たい密室と博士たち』が第一作の『すべてがFになる』に比べて、ストーリー、キャラクター、舞台、トリックの「すべてがショボくなる」で正直ガッカリさせられたのですが、今回は奇人が住まう、奇妙な館で、奇怪な殺人事件が起こるという私好みのストーリーで、天才数学者のキャラクターやそれに伴う禅問答的な会話(数学的な定義で持って話す本人的にはむしろ禅問答や哲学的なものとは対極的なつもりなのでしょうが)も面白い作品でした。

ただ他の方のレビューにもあるとおり、肝心のトリックがミステリを多く読んでいる人ならすぐにわかってしまうようなもので、私も館の見取り図と冒頭のやり取りを見た時点で殺人すら起こる前にすぐ見当がついてしまったため、さも超難問のように煽られているのに滑稽さがぬぐえませんでした。

まぁ今回は犀川や萌絵より自分の方が頭が良かったぞ!と優越感に浸れたのでよしとしましょう。
(ちなみに作中に出てくる数学の問題は一つも解けませんでした)

▼以下、ネタバレ感想
※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[] ログインはこちら
笑わない数学者―MATHEMATICAL GOODBYE (講談社文庫)
森博嗣笑わない数学者 についてのレビュー
No.96:
(6pt)

1~2時間程度で読める手頃な「館ミステリ」

殺人事件が起きるためにあるような奇妙な館に住む、という夢を叶えた男が、学生時代のミステリ研究会の旧友たちをそこに招き、推理ゲームを行う……という推理小説ファン、特に所謂「館もの」が好きな人の気持ちを代弁するような作品です。

早い人なら1時間、ある程度じっくり読んでも2時間程度で読める手軽な分量なので、「館もの」が好きな人ならとりあえず読んでみて損はないのではないでしょうか。

▼以下、ネタバレ感想
※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[] ログインはこちら
館という名の楽園で (祥伝社文庫)
歌野晶午館という名の楽園で についてのレビュー
No.95:
(6pt)

『少年探偵団シリーズ』は卒業、ぐらいのタイミングで読みたかった作品

乱歩御大の長編の中でも評価が高い一作。

この小説に登場する犯罪者『蜘蛛男』は
・大胆不敵にも犯罪予告を出し、警察や探偵に挑戦的な態度を取る
・犯罪行為に自身のポリシーや芸術性を求めている
・変装の名人であり、神出鬼没な存在である
・財力にも富んでおり、アジトを持ち手下なども従えている
などとあの怪人二十面相との共通点の多い犯人です。

二十面相との最大の違いは、二十面相の目的はあくまで「盗み」であり、殺人は犯さない、血を見るのさえ極力嫌うある種紳士的でさえある犯罪者なのに対し、蜘蛛男は、自分の狙った美しい女性を猟奇的な手段で殺してみせることが目的の、残酷な殺人鬼である所です。
作品発表はこの作品が先なので、むしろ二十面相の方がこの蜘蛛男から猟奇性や変態性を取り除き、ジュブナイル小説向きに焼きなおした存在であると言えるのかもしれません。

『孤島の鬼』同様、二部構成のようなストーリーで、蜘蛛男の正体と不可能犯罪の謎を暴く本格ミステリ要素が強めの前半と
さらなる大犯罪計画を企てたまま逃亡する蜘蛛男を追うサスペンス要素が強めの後半といった形の作品です。

蜘蛛男の正体は、推理小説を読みなれていない人ならば驚けるかもしれませんが、ある程度以上読んでいる人間にはバレバレです。
私も大人になってから読んだので、犯人の正体(それに伴う諸々のトリック)などは容易にわかってしまったので、『少年探偵団シリーズ』は卒業して次のステップに移行するぐらいの年齢の時に読めれば良かったな、と思う作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[] ログインはこちら
蜘蛛男 (江戸川乱歩文庫)
江戸川乱歩蜘蛛男 についてのレビュー
No.94: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

登場人物がお婆さんだらけの、クリスティ60歳の時の作品

『ミス・マープルシリーズ』では最高傑作との声が多く、ひいては戦後のクリスティ作品では最高傑作扱いかもしれない本作ですが、個人的にはあんまり面白くありませんでした。
新聞広告に殺人が予告され、その日時と場所に、野次馬気分や探偵ごっこのつもりで村人たちが集まったはいいが本当にそこで殺人が起こって……という導入部分は期待したのですが、てっきりその後も『ABC殺人事件』のように次々と第二、第三の殺人予告みたいな、緊迫感溢れる展開を予想していたのに、予告殺人は冒頭のそれ一件だけで、あとは淡々とした展開だったのが残念です。物語も終盤になって第二、第三の殺人が起き、話そのものに緊迫感は出るのですが、犯罪計画全体を見るとお粗末感が出てしまうものでした。
何より個人的にはもう作中序盤の最初の事件が起きた時点で犯人におおよそ見当がついてしまったのが最大の難点ですかね(動機は最後の最後までわかりませんでしたが……)

この作品は主役のマープルが老婆なのをはじめ、多くの年老いた女性が登場し、それまでの彼女たちの歩んできた人生というものがキャラクターに現れ、物語に影響を及ぼしていた作品でした。そして同時にジュリア、フィリッパ、ミッチーという3人の若い娘も登場し、彼女たちに対しては各々その後の人生をいろいろ想像したくなるような女性たちでした。
この作品の発表年にクリスティ女史は60歳を迎え、老境に差し掛かって自身の人生を振り返っていろいろ思うところがあった時期だから書けた作品かもしれないですね。
(もっともこの作品が決して彼女の晩年の作品と言うわけではなく、この後もクリスティはかなりの数の作品を発表していますが)
予告殺人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
アガサ・クリスティ予告殺人 についてのレビュー
No.93:
(6pt)

先見性は素晴らしいんですが、ストーリーそのものに魅力が無いのが惜しまれますね

トリックは現代の日本の推理小説をある程度読み漁ってる人ならなんとなく想像はつくかもしれません。
しかし発表が1972年ということを考えると、この発想、先見性は賞賛されるべきで、おそらく近年に至るまでの多くの類型トリックを用いている作品の先駆けとなった話だと思います。
(それだけにさらにその半世紀前に活躍してるクリスティとかの作品があらためてどれだけ凄いかと再認識するんですが)

ただ正直に言ってこの作品はストーリーそのものが全然面白くなかったです。登場人物も魅力や感情移入以前にどんな人間か伝わってこないですし。

もしこのトリック、プロットでドラマや人物にも魅力があったら、日本ミステリ史に残る作品として、『点と線』とか『虚無への供物』とかと並んでオールタイムベストの上位常連になっててもおかしくなかった作品だと思います。

そういった意味で非常に「惜しい」作品だと思いました。
模倣の殺意 (創元推理文庫)
中町信模倣の殺意(新人賞殺人事件) についてのレビュー
No.92:
(5pt)

「猫」視点ミステリ第二弾

『猫探偵正太郎シリーズ』の二作目です。
前作に引き続き、猫視点で進行する物語ですが、今作は前作以上にたくさんの猫が登場し、「猫社会」というものが描かれています。

そんな人間社会と猫社会、それぞれが存在する世界観の中で密室の中で人間と猫が一緒に殺されるという事件が発生します。
人間側は猫の死はついでで「殺人犯を探す」、猫側は人間の死はついでで「殺猫犯を探す」、といった価値観でそれぞれが事件の謎に迫るという形式が面白いです。

ただ密室トリックは期待するとガッカリするレベルでした。

▼以下、ネタバレ感想
※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[] ログインはこちら
消える密室の殺人: 猫探偵 正太郎上京 (光文社文庫)
No.91: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

とにかく暗いが希望はある……のか?

同作者の『向日葵の咲かない夏』と『ラットマン』を足したような作風だと感じました。
小学五年生の少年と少女、2つの家庭の崩壊と再生の物語です。

主人公の少年もですが、とにかくヒロイン(?)の少女が全編通して可哀想です。
まだ小学生の女の子が酷い目に遭うような話は読みたくないという人は注意です。

とにかく全体に作風が暗くて、人間の嫌な面がいろいろ出てくる話ですが、一応ラストは救われる……と言っていいのでしょうか?

▼以下、ネタバレ感想
※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[] ログインはこちら
シャドウ (創元推理文庫)
道尾秀介シャドウ についてのレビュー
No.90: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

全体的にB級感溢れる作品だけれど、結構面白かったです

とりあえずクローズドサークル物は手当たり次第読んでいる私ですが、これはあまり芳しい評価は得ていない様子の作品なので、あまり期待はせず読みました。
予想通りのB級ミステリといった感じの作品で、特別驚くような結末や、何か心に残るような内容があるわけではありませんが、手頃な分量で気軽に楽しめる話でした。
名作、傑作とはお世辞にも言えないですけれどクローズドサークル系、脱出物の作品が好きな人ならそこそこ面白いんじゃないかと思います。

トレーラーハウスという少し変った舞台設定であり、せいぜいワンルームマンション+α程度の狭い空間に9人も閉じ込められてしまうので、人口密度、閉塞感という点では、クローズドサークル作品の中でもトップクラスでしょうか。
しかもそんな狭い中で死人が出たばかりか、タイトル通りそこらじゅうに針やら壊れる椅子などいろんなトラップが仕掛けられており、さらに水やガスなどのインフラまで止められるので、主人公たちはかなりたまったものではない状況に陥ります。
仕掛けられたトラップの脅威や、閉じ込めた犯人側からの脅迫・挑戦的なメッセージなど、少しデスゲームっぽい雰囲気もある作風であり、その辺がエンタメ性を高めると同時にチープさにも拍車をかけています。

犯人が閉じ込めた人間たちに、過去の事件の検証を行わせる目的があったというのは、岡島二人氏の有名作『そして扉は閉ざされた』を彷彿させられましたが、この作者の代表作である『扉は閉ざされたまま』とちょっと紛らわしい、とかどうでもいい感想が沸きました。





▼以下、ネタバレ感想
※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[] ログインはこちら
トラップ・ハウス (光文社文庫)
石持浅海トラップ・ハウス についてのレビュー
No.89: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

トリックは見事なのかもしれないけど読みにくいです

『点と線』とともに鉄道ダイヤトリックの先駆け的作品であり、さらに鉄道ダイヤ関連はあくまでトリックの一部に過ぎず、メインは死体を入れた二つのトランクを利用した綿密なアリバイトリックであり、当時としては非常に練りこまれた作品だと思います。
しかし、正直読みにくくて状況を理解するのに精一杯。ストーリーや推理を楽しむ余裕がほとんどありませんでした。
それに加えてよく判らない衒学要素まで加わってくるのでますますもって読みにくいです。
注釈も無駄に多くて、いちいち読んでいたらかえって話の筋がよくわからなくなるし、国内作品なのに、悪い意味で海外翻訳物を読んでいるみたいな気分になりました。
実際当時にしてもこの辺の読みにくさのせいで一般層の支持は『点と線』に差を開けられてしまったのではないかと思いました。
同作者でも『りら荘事件』などは凄く読みやすかったのですが、この時はまだ書きかれていなかったんですかね。

そんなわけでせっかくのトリックの謎解きも「なんとかしてなんとかしたんだね」というような感想を抱いてしまいました。
これはよく理解して、考えて読もうとしなかった私が悪いと言えばそれまでですが。
しっかり再読すればまた評価は変るかもしれません。


黒いトランク (創元推理文庫)
鮎川哲也黒いトランク についてのレビュー
No.88: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

オカルトめいた事件を科学的に解き明かす短編集

『探偵ガリレオシリーズ』第二弾。
前作に引き続き個々の話が独立した五つの事件で構成される短編集ですが、題名の「予知夢」の通り、殺人が第三者によって予知されていたなどという超常現象、オカルトめいた謎が事件に絡み、それを探偵役である「ガリレオ」こと天才物理学者湯川が論理的・科学的に解き明かしていくという一貫したテーマが設けられている作品です。

前作が文字通り「物理トリック」と言うべき、物理的専門知識を活かした科学実験のようなトリックを用いた作品が中心だったのに対して、今回はそういった科学実験的トリックの要素は薄めで、オカルトめいた現象を論理的に解釈する推理に焦点が当てられ、前作との差別化がなされている印象です。
個人的には音楽CDのアルバム同様、ただ単にいろんな話を詰め込んだだけの短編集より、統一されたカラーの作品を揃えている短編集の方が好感は持てますが、それゆえにワンパターン化して後半は飽きてくるような所もありました。

話個々の出来としては、全体的に安定しているとは思いますが、所詮短編向きの小ネタの集まりという印象で、特別面白いとは感じない作品でした。
しかし、非常に読みやすいので電車の移動などの「ちょっと空いた時間」などに読むにはもってこいの一冊だと思います。

以下、個別ネタバレ感想です。


▼以下、ネタバレ感想
※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[] ログインはこちら
予知夢 (文春文庫)
東野圭吾予知夢 についてのレビュー