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egut さんのレビュー一覧

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レビュー数738

全738件 101~120 6/37ページ

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No.638: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

クローズドサスペンスヘブンの感想

良い意味で個性的な作品でした。
あまり味わった事がない雰囲気で楽しかったです。表紙の雰囲気も新鮮。

まず特徴的な要素は全員既に死んでいる事。
何らかの事件に巻き込まれた者達が記憶を失った状態で天国屋敷に集ったシチュエーションです。
自分は誰なのか。何故殺されたのか。集まった人々の中に犯人はいるのか。というミステリーなのですが、本書は事件の殺伐さを描くのではなく、集まった者同士の交流をコミカルに描かれているのが印象的でした。既に死んでしまっているからか死の恐怖はありません。一緒に捜査して悩んだり、食事したり、息抜きに遊んだり、という和やかな雰囲気なので気軽に楽しめる読書でした。

新潮ミステリー大賞の候補作品ですが、この賞の候補作品が出版される事は珍しいです。そのまま埋もれさせてしまうのは勿体ないという気持ちを感じた次第でした。
ミステリーではありますが謎解きに期待するものではなく、ミステリー要素を用いた1つの映画やドラマ作品を体験するぐらいの気持ちで手に取ると楽しめると思います。読後感も良い作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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クローズドサスペンスヘブン
五条紀夫クローズドサスペンスヘブン についてのレビュー
No.637:
(6pt)

仕掛島の感想

タイトルと表紙の雰囲気に釣られて手に取りました。
『仕掛け』『島』というミステリ好きが好む直球タイトルです。既刊本に『館島』がありますが関連性は特にないので本書から楽しめます。

奇妙な館。孤島。プロローグで描かれる非現実な不思議な現象。新本格時代の要素がたっぷりのミステリは好感でした。
そこに著者の持ち味となるユーモアが加えられた作品です。ただこのユーモアについては好みに合いませんでした。

好みのお話ですが、ミステリはある程度のドキドキ・ハラハラや恐怖というか不安な雰囲気があってこそ解決時において開放感が得られ、読後スッキリとした味付けになると思うのです。本書の場合は雰囲気を和ませるボケやギャグが多く事件の緊張感がないので、なんというか場を眺めているような読書感覚でした。タイトルに掲げる通り仕掛けある物語ですが、その仕掛けが明かされた時も驚きではなくそうなんだ程度の感触しか得られなかった次第。完全に好みのお話で恐縮です。
いや、ちゃんと補足すると仕掛けは壮大かつ奇想なもので良かったのです。ギャグやユーモアも単体で見るとキャラが笑えて面白いのです。ただこの2つを組み合わせた本書のユーモアとミステリにおいてはそれぞれの良さが打ち消してしまい、ごちゃごちゃになってしまっているような印象でした。

▼以下、ネタバレ感想
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仕掛島
東川篤哉仕掛島 についてのレビュー
No.636: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

世界でいちばん透きとおった物語の感想

SNSやメディアで話題の本書。ネタバレを被弾しないように早速手に取りました。

物語は大御所のミステリ作家の遺稿『世界でいちばん透きとおった物語』とはどんな作品だったのか。という遺稿探しの物語。
仕掛けも然ることながら、美しく終わる物語と作品作りへの想いが良かったです。

本書は予備知識がない方が良い作品なので調べずに読書推奨です。
という事で、情報はあまり載せずに詳しい感想はネタバレで。

▼以下、ネタバレ感想
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世界でいちばん透きとおった物語
杉井光世界でいちばん透きとおった物語 についてのレビュー
No.635:
(4pt)

はるかの感想

前作の『ルビンの壺が割れた』が面白く、帯にはそれに続く『大どんでん返し』というPRに釣られて手に取りました。

過度な期待が出てしまったのもありますが、本書の後半で感じた印象は「どんでん返し」ではなく「打ち切り」の表現が正しい部類です。著者が飽きてしまったのか版元とトラブルがあったのかわかりませんが、膨らませていた内容を突然切り上げて話を終わらせてしまったと感じる結末でした。

内容はあらすじにある通り、恋愛小説+人工知能を用いた作品です。
ディープラーニングや学習モデルなど、近年の人工知能の事がよく描かれており、人工知能HAL-CAがどのように生まれるのか物語中のスタッフと同様に期待を膨らませた読書でした。
海岸のエピソード、AI開発にかける想い、序盤の少女の出会いから人工知能の開発までの物語は本当に面白かったです。
それだけに、こんな締め方で終わらせてしまうのかと残念な気持ちでいっぱいでした。

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はるか (新潮文庫)
宿野かほるはるか についてのレビュー
No.634: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

君のクイズの感想

2023年度の日本推理作家協会賞受賞作。
昨年からSNSやメディアで目にしていて気になっていた中、推協の受賞に後押しされて手に取りました。

物語はクイズ番組決勝の最終問題にて、問題を読み上げる前に解答し優勝を果たすという出来事が発生。これは事前に解答を知らされていたなどのヤラセではないのか?ヤラセではないとしたら何が起きたのか?というもの。

まず読者の興味が沸く掴みが素晴らしい。
ミステリ好きのみならず一般読者にも分かりやすい不可能状況である。
何が起きたのか?に始まり、どのような可能性があるのか。水平思考で脳を刺激する読書が面白く結末が気になる読書でした。

ただ本書に興味がある方への懸念点を補足すると、本書はミステリの楽しさを求める物語ではなく、『クイズ』にまつわるプレイヤーの思考や物語を体験するエンタメです。推理作家協会賞作品だからと言ってミステリを期待し過ぎると思っていたのと違うという評価になってしまうのでその点は注意です。

読書中はクイズプレイヤーの思考の探索が面白かったです。クイズに答えられるという事は人生においてその事象に触れている事や肯定になる考え方にも感銘を受けました。映画『スラムドッグ$ミリオネア』という作品を思い出しましたが、クイズは知識だけでなく人生の積み重ねをも感じます。

実の所、結末に関しては好みではありませんでした。
恐らく同じような感想の方が多く出そうな内容です。ただこれがクイズに対する考え方の多様性を表している面を感じます。後味が好みではないのですが、なるほどなという後味でした。
タイトル『君のクイズ』が巧い言葉で、読後にクイズとはあなたにとって何になるのか考えさせる事でしょう。おすすめです。

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君のクイズ (朝日文庫)
小川哲君のクイズ についてのレビュー
No.633:
(7pt)

僕が答える君の謎解き 明神凛音は間違えないの感想

学園ラブコメ×本格ミステリ。
2巻目が2022年度の本格ミステリベスト10で紹介されていたのがきっかけで興味が沸きました。まずは1巻目の本書を読書。
見た目や雰囲気から読書前はライトノベル特有のキャラものかなと感じていたのですが、本書はしっかりと推理と謎解きのミステリでした。

本書の特徴は事件の犯人が先にわかってしまう事。ただし何故そうなのか過程がわからないという系統のミステリです。
この系統のジャンル名がわからないので他作品で補足しますと、麻耶雄嵩『神様ゲーム』や森川智喜『スノーホワイト』を感じる内容でした。決定事項となる解答が先にあり、何故そうなのかを推理する構造です。
表紙の女の子、明神凛音は学園内のトラブルの犯人が解ってしまう能力者。人に説明ができず理解してもらえない彼女。そこに弁護士志望の男子生徒が彼女を理解し学園内のトラブルを解決していくという流れ。

まずミステリとして面白い所は答えを見つける流れではなく、彼女が無意識化でどのように推理したのかを推測する構造。神様の啓示のように突然答えを知るのではなく、彼女が無意識化で拾っている情報を元に推理が行われている為、彼女がどんな行動をしていたのか、そしてそこで何を見たのかが推理の手がかりとなるわけです。一風変わった推理模様が楽しめました。
学園ものとしては読書していて気持ちが良い雰囲気が良かったです。陰鬱な事件模様はありません。読んでいて学園青春模様が楽しめました。男子生徒のまっすぐな志が好感。弁護士は依頼人を信じ代弁するという想いがよく描かれており、ヒロインとの関り方がミステリとしてもラブコメとしてもよい距離感で好みでした。表紙絵や挿絵もラブコメとしてのヒロインが印象的に引き立ってて好みです。

まずは1巻目という事でこの先の物語に期待です。
僕が答える君の謎解き 明神凛音は間違えない (星海社FICTIONS)
No.632:
(7pt)

蝉かえるの感想

昆虫に絡めたミステリの連作短編集。
個人的に昆虫に馴染みがなかったので食指が動かなかったのですが、推理作家協会賞と本格ミステリ大賞を受賞した作品である事から興味を持って手に取りました。
シリーズ2作目である事を読後に知りましたが、本書から読んで問題ありません。

それぞれの短編はどれもハズレがなく面白い物語。派手なミステリではなく、昆虫の生態や特性と人間模様が巧く絡められた内容であり、驚きではなく巧いなぁと染み渡るような上質なミステリの作りを感じた次第。
さらに短編の配置が巧く、物語を読み進むにつれて探偵役の魞沢泉の人間味が感じられるのがよかったです。最初はとぼけている弱弱しいというか印象に残らないようなキャラだったのが、徐々に最終話に行くにつれて内面に宿している想いを感じられるようになりました。

昆虫に興味がなくても楽しめる、非常に質の高い文学的なミステリでした。
蝉かえる (創元推理文庫)
櫻田智也蝉かえる についてのレビュー
No.631: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

希望が死んだ夜にの感想

世の中に問題を投げかける社会派小説として素晴らしい作品でした。

著者はミステリ作家ゆえミステリを用いた作品となっていますが、本書の内容はミステリよりも世に投げかける社会問題のテーマに比重が多いです。言い換えるとミステリ的な仕掛けを期待する作品ではありません。その為、読者が何を期待して本書を手に取ったかで好みが分かれてしまう事でしょう。社会に投げかけるテーマを持った作品として手に取ると良いです。

扱う社会派のテーマは貧困問題。
構成として優れているのは、事件を基点に2つの視点で物語が描かれている点だと感じました。
1つ目の視点は事件の当事者である少女の視点。中学生の少女を取り巻く環境。家庭や学校や友人関係といった中学生から見える世界。貧困のアラートが分からない。中学生で考えられる情報の範囲。この状況での青春小説が描かれます。
2つ目の視点は事件を捜査する大人の視点。生活安全課少年係の警察視点。少女の身に何が起きたのか。何が起きているのか。動機探しの警察小説が描かれます。
子供と大人。事件関係者と捜査側。この対比となる2つの視点で物語が伝えられます。本書を読み進めて得られるものはミステリ的な驚きの真相ではなく、テーマとなる貧困問題を感じさせるというものです。タイトルが事前に示している通り内容的に読後感が晴れるものではありません。なので人によっては手に取るのは注意。ただ巧く言えませんが心に残る物語であるのは確かです。社会派の小説を求める方にはオススメ。

著者の作品はデビュー作からいくつか読んでおりますが、今までライトな作風の著者の印象でした。こういう真摯な社会派の作品が描けかつ面白いという著者の新たな一面を感じた次第でした。
希望が死んだ夜に (文春文庫)
天祢涼希望が死んだ夜に についてのレビュー
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(9pt)

炎の塔の感想

素晴らしい作品でした。傑作です。

著者が明言している通り映画『タワーリング・インフェルノ』のオマージュ作品。
映画を知っていても知らなくても十分に楽しめます。私は大分昔に映画を見ていた為内容を忘れていました。読後に映画と照らし合わせると所々の設定をオマージュとして残していた事に気づく楽しさがあります。では真似事の作品かというと全くそんな事はなく、優れた要素を継承した著者オリジナルの作品に仕上がっています。

500ページ台の本書。正直色々と重そうで読むのを躊躇していました。
同じような気持ちの方がいたらお伝えしたいのが、本当に読み始めたら止まらずあっという間に読めてしまう作品である事。内容が薄いという意味ではありません。ハラハラドキドキの緊迫感、先が気になる展開がずっと続いており夢中になるからです。

災害パニック小説の方向として混乱や醜態を描く作品がありますが、本書はそうではなく災害を解決するべく消防士の活躍が描かれる方向性の作品です。火災現場の緊迫感、チームとしての活動、救助模様、、、次々と起きる多くのトラブルに遭遇する展開は本当にやめ時が見つからない読書でした。

そして構成が素晴らしい。無駄がなかったエピソード。登場人物達の配役。様々な要素が考えられていて驚かされました。結末の切り方も好みです。この主人公の現場の物語のラストの安堵感としてはここでしょう。その後のエピローグを描かないのも好み。最初から最後まで大満足の作品でした。オススメです。
炎の塔 (祥伝社文庫)
五十嵐貴久炎の塔 についてのレビュー
No.629: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

北緯43度のコールドケースの感想

2021年度の江戸川乱歩賞受賞作。
表紙が吹雪で険しい雰囲気を醸し出しており北海道警察が舞台。読書前の印象はかなり堅物で難しい本なのかなと思っていましたが、読んでみるとそれらは杞憂に終わり大変読み易く魅力的な作品でした。

派手な仕掛けや一発ネタがあるわけではないのですが読んでいて面白かったです。
まず登場人物達が魅力的で印象に残りました。登場人物はめちゃめちゃ多いのですが、読んでいて苦にならず、誰がどういう人か把握できるのが純粋に凄いと思いました。特徴的な名前があるわけでもありません。主人公や警察や事件に関わる一人ひとりの特徴や背景がしっかりしているのです。一方あえて悪く捉えるとページの半分は事件の物語よりも人を描いている印象でした。中盤まではなかなか捜査が進まない印象でしたが、ある所からは一気に物語が進みさらに面白くなりました。事前に読んでいた各人物達の背景も合わさり物語に深みがでて大変良かったです。

読み終わってみれば事件の顛末も乱歩賞らしい構成と展開で見事でした。先程派手な仕掛けはないといいましたが、派手でないだけで多くの地道な伏線といいますか読者への情報の浸透のさせ方が見事な構成。キャラについては申し分なく今後のシリーズ作品として読みたくなる人や警察組織が魅力的でした。事件を扱いますが読んでいて嫌な気分になる事はなく、むしろ組織や主人公の前向きな成長を感じるよい雰囲気。役者が多くでるドラマ向けとも感じました。2作目もあるので追っ掛けてみようと思います。

▼以下、ネタバレ感想
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北緯43度のコールドケース
伏尾美紀北緯43度のコールドケース についてのレビュー
No.628: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

あの日、君は何をしたの感想

内容は好みとは違いますが作品として凄く面白かったです。

無関係に見える2つの事件の物語。先の展開が気になって止め時が見つからない読書でした。あらすじにある通りなのでネタバレではないと補足しつつ説明しますが、ミステリー小説のお約束の展開として終盤に2つの物語が繋がるのは明らかなわけです。ただどう繋がるのかが小説の見せ所なわけですが、本書はかなり高水準で複雑で絡まった物語を綺麗に回収して繋がる作品でした。
ミステリーの構成としてはとても素晴らしく、トリックやどんでん返し等の一発ネタの作品ではなく、コツコツ小さい情報が積み重なった先に見える真相を体験できる作品。感触としては警察小説で捜査を進めてやっと事件が解決した(話が見えた)。という安堵感を得るような構成です。

2つの物語で感じた印象は、毒親や狂気の家族模様。フィクションとはいえ、ちょっと思考回路が合わず嫌悪感を抱くようなあまり関わりたくないと感じる人たちの物語でイヤミス傾向です。読んでいて嫌な気分になる事が多かったのですが、そう思わせる文章は凄いなという視点で楽しみました。そういう意味で内容は好みとは違うのですが、事件がどういう結末を迎えるのか?先が気になる読書として面白かった次第です。
あの日、君は何をした (小学館文庫)
まさきとしかあの日、君は何をした についてのレビュー
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(7pt)

監禁探偵の感想

"監禁"というストレートなワードがタイトルに入っているので、著者のダーク寄り作品かと思いながら手に取りました。実は『監禁探偵』という作品は漫画版⇒映画版⇒小説版という過程を得ており、2013年初という事で10年も前の作品なのですね。2022年10月の文庫化で認識した次第でした。

序盤は犯罪者が別の犯罪に巻き込まれるというシチュエーション。
扱う内容がゲスいので合わない人が多く感じると思う展開でした。正直な気持ちとして第一話の中盤までは監禁や少女を扱い下品な事を書いているだけの浅い作品かなと疑っていた次第。が、事件の真相が見えてくる頃にはそれらを活用したミステリである事が分りました。第一話、第二話と進む毎に本書の印象が変わりました。

読後の本書のイメージはミステリにおけるパズル小説。扱われる犯罪やシチュエーションがパズルのピースのように散らばっており、話を読み進めて行く事で物語の構造が見えてくるという作品。
内容主点で見ると現実的には違和感があったりで好き嫌い分かれそうです。ただ話の作り方に着目すると巧く考えられておりその視点が好きな方には好まれると思います。作品を魅力的に引き立てるアカネというキャラクターも謎めいていて良かったです。
尺的に映画向けかなと思っていたら読後に既に映画化している事を知った次第で納得。面白い物語でした。

▼以下、ネタバレ感想
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監禁探偵 (実業之日本社文庫)
我孫子武丸監禁探偵 についてのレビュー
No.626: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

星くずの殺人の感想

民間宇宙旅行が実現した近未来。
宇宙ホテルにて発見された無重力での首吊り状態の死体。
あらすじのキャッチが魅力的なので手に取りました。

まず正直な感想として、SFミステリーとして期待して手に取りましたがミステリーとしてはあまり面白くありませんでした。謎の説明不足や順序立てされた解説ではない為、おそらく突然の科学知識の紹介を読んだような気分になるのではないでしょうか。扱われている科学知識についてはそんなに難しいものではない所が選ばれているのは良いのですが、伏線なく突然出てくるような印象な為、「そうだったのか!」という驚きではなく「そうなんだ。」という感想。
登場人物表や舞台の見取り図も欲しかったです。状況がイメージし辛い読書でして、ミステリーとしては楽しめなかった次第。
ただ人情ものといいますか、登場人物の過去のエピソードを語り合う所は良かったですし、何故こんな事件を起こしたのかという思想的な話は納得できました。最後のセリフも〇。

なんとなく前作の『老虎残夢』の時も感じたのですが、謎や仕掛けのミステリより、キャラクター達の会話や物語の全体像が面白いなと感じました。
星くずの殺人
桃野雑派星くずの殺人 についてのレビュー
No.625: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ルビンの壺が割れたの感想

突然の過去の恋人からのメッセージ。2人のメールのやり取りだけで進行する書簡体小説です。

この仕組みの小説は文学的な技術以外に読者へ与える情報量を小出しにする事で生まれる面白さが狙いとなります。本書はその狙いが巧みに行われている為、出版社が本書をミステリーというジャンルではないと言いつつもミステリー小説の2度読み系の娯楽を兼ね備えた作品であると感じました。SNSで話題になっているのも納得です。
文庫版で170ページ台と短く490円という価格設定。気軽にサクッと多くの方に読まれ口コミで広がる狙いを感じるなど、娯楽小説としての作りが色々と巧いと思います。

読書中の気持ちとしては、なんか内容が気持ち悪いなという気持ち。男側の内容が粘着で女側もよく答えるなぁというやり取り。SNSメッセージで長文……など。他にも昔の恋人同士のやりとりにしては、会話内容がローカル会話ではなく第三者の読者に向けて説明調になっていると感じた次第。現実のやり取りには見え辛いのが本音ですが小説だからこういうものかと思いながら読み進めました。

最後まで読むとそういう気持ちもなるほどなと納得。個人的な読後感は、やられた!ではなく、なるほど巧いなぁという気持ち。いろいろな設定が巧く考えられている技巧的な作品。面白かったです。

▼以下、ネタバレ感想
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ルビンの壺が割れた (新潮文庫)
宿野かほるルビンの壺が割れた についてのレビュー
No.624:
(4pt)

昭和少女探偵團の感想

昭和初期を舞台とした女学校の学園ミステリ。
連作短編集のようなスタイルで各話の物語ごとに謎解きがある構成です。
レトロなお嬢様学校の雰囲気が良く殺伐さがないのが好感。挨拶も「おはよう」ではなく「ごきげんよう」というやりとりが時代を良い意味で感じさせてくれます。

設定や雰囲気はとても好感だったのですが、点数が良くないのは内容の把握のし辛さ。文章の相性が悪かった為か、事件や謎解きや学園風景や友達とのやり取りなどなど、よくわからない読書でした。物語が頭に入ってこなかった為、雰囲気は良さそうなんだけどどんな話だったのか把握できなかったのが正直な気持ち。
最終話の『満月を撃ち落とした男』については「だからこの時代でこの設定にしたんだろうな」と感じられたのは良かったです。この物語がアイディアの始まりなんだろうなと思いました。雰囲気やキャラクターは良いのでシリーズ化すると楽しそうです。ただ自分にはもう少し把握しやすい文章になるか漫画化して画が見えないと楽しめないなという感想を得た次第でした。
昭和少女探偵團 (新潮文庫)
彩藤アザミ昭和少女探偵團 についてのレビュー
No.623: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

汝、星のごとくの感想

『流浪の月』の読書で著者の作品に惹きこまれたので本書も手に取ってみました。
本書はミステリではなく、すれ違い系の恋愛小説。ただよくあるような軽い話ではなく、あらすじにある通り、生きることの自由さと不自由さを描き続けてきた著者が紡ぐ物語となっております。

地方と都会、親と子、仕事とお金、人生の占める割合が大きなこれらのポイントや分岐点、それに伴う男と女、不倫や浮気など、読者が感じるポイントは様々でしょう。
恋愛や不倫など男女の物語としてみる方もいると思うし、やりたい事を貫く為の自立や勇気を感じさせる側面も感じました。身近な人だったりお金だったり仕事だったり、各人の心の支えとなる柱を見つめる物語にも感じられました。

『流浪の月』でも感じましたが、心模様の描き方が本当に凄い。現実的には共感できない事が多いのですが、読書中はその人物の気持ちがわかる気分になってしまう。夢中にさせられる読書です。一つの恋愛物語としても良いラストでした。個人的には好きな事を自分で決断して動いてくという自立をテーマに感じた作品でした。
タイトルの『汝、星のごとく』についても、どこにいても想い人を感じる星の意味もあれば、自分が独りでも輝ける存在にという意味にも感じ取った次第です。心に残る名セリフも多く素晴らしい作品でした。

汝、星のごとく (講談社文庫)
凪良ゆう汝、星のごとく についてのレビュー
No.622: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

流浪の月の感想

映画化したり2020年の本屋大賞に選ばれたりで書店でよく目にしていた本書。
よくある一般文芸かと思い気に留めていなかったのですが、本書の出所がミステリ・SFでおなじみの東京創元社からであり、しかも新たに創設された"創元文芸文庫レーベルの1作目"に選ばれているという事を最近知り興味を持った次第。
結果は大満足。流石創元といいますか、ミステリではないにしても技法は入り込んでいるのを感じる事でしょう。東京創元社の今までの読者はもちろんの事、さらに一般読者を獲得する狙いをも感じるレーベル1作目でした。

著者本は初読み。今まで普通とは違った恋愛小説を描いてきた著者。本書は少女誘拐事件の当事者視点で描かれる物語。ミステリ好きな方へ本書をPRするとするなら、イヤミスや倒叙ミステリ傾向。事件の真相が先に読者に伝えられており、真相と事実の違いが扱われます。合わせて本書は様々な"違い"を多く感じました。それは常識と非常識だったり、人や環境の違い、心の中とそれを巧く言葉にできない違い、様々な違う事による苦悩、違っていても良いという救済、これらの情景や感情の描き方が素晴らしく惹きこまれた読書でした。

内容は好みが別れると思います。不幸寄りの物語なので、どんよりと重く暗く、たまに見える希望が明るい。そんな感覚でした。イライラさせられたり嫌な気持ちになる事が多いのですが、それだけ惹きこまれる文章である事は確か。内容は好みではなく登場人物達にまったく共感はできないのですが、物語としてはとても面白い読書体験でした。
流浪の月 (創元文芸文庫)
凪良ゆう流浪の月 についてのレビュー
No.621:
(6pt)

十二月、君は青いパズルだったの感想

記憶喪失ものの恋愛小説。
この手の組み合わせは昔から多くありますが、好みなのでついつい手に取ってしまう次第。

本書の特徴は“パズル病”という病。勉強や趣味で好きな事がジグソーパズルのピースのように剥がれ落ちて記憶を失っていく症状。

あらすじや帯にある通りキャッチフレーズとなる「私、先輩のことが世界で一番……嫌いです!」という妙な導入が面白い。好きなものを忘れる奇病。だから嫌いな先輩を頼るという可笑しさ。ライトノベル作品としての掴みはバッチリでした。

今風の作品として面白く、会話の砕け方やボケなどクスッとさせられましたし、イラストもオタク臭くなく丁度良くいい感じです。ラノベ好きな読者層には好感に映る要素が豊富でした。ミステリ好きの読者としては何がどういう風な結末を迎えるか予想できてしまう構成かと。気軽にサクッと読めるという意味では良かったです。

欲をいうと終盤はもっと丁寧に描いて欲しかったです。中盤以降は話が駆け足なのが気になりました。全てが良い方向でどんどん繋がるので、話が繋がるというより、描きたいシーンだけ並べましたというブツ切り感をとても感じてしまった次第。
話や真相は面白かったので、もう少し丁寧かつ話に惹きこまれる展開や演出があればもっと感動しただろうなと思います。最終章の4章は特にそうで、大事な話や展開が30ページだけで描くのは急過ぎです。商品として300ページ以内に収めたと思われますが、これにより味わい感動する間がなく終わってしまったのが勿体なく感じました。綺麗に終わる物語としては良かったです。
十二月、君は青いパズルだった (講談社ラノベ文庫)
神鍵裕貴十二月、君は青いパズルだった についてのレビュー
No.620:
(6pt)

邪宗館の惨劇の感想

大雨の中、バス事故で避難した先の廃墟にて発生する怪死事件。
スプラッターホラー映画のように惨殺されていく乗客たち。何が起きているのか理解不能のまま恋人を助けたいと渇望する主人公の身に起きたのはバス事故前を基点としたループ現象だった。

本書は怪異が存在するという事が前提状況にあるホラーミステリーのシリーズ4作目。
今作は怪異+SFお馴染みのループ現象という事で冒頭からのワクワク感が良かったです。バッドエンドを繰り返す序盤のテンポも〇。ループ現象での絶望の先でシリーズお馴染みの那々木悠志郎が登場と、気持ちがあがる展開が良かったです。
中盤は怪異説明の伏線なのか仏像の蘊蓄が多く語られるのですが、それも楽しく読ました。仏像話はとても参考になります。

さて、中盤までは凄く楽しかったのですが後半はちょっと低迷。
怪異や物語の真相はよく考えられており、読み終わってみればシリーズの中では一番凝った造りだと思われました。

ただ、個人的な気持ちとしてもどかしいのは伏線から論理的に探偵役が真相を導くのではなくて、なんというか突然の解説のように全部説明されてしまう事。ミステリで萎える展開の一つに犯人が全部解説するというのがありますがそんな感覚。色々と面白くなるはずの終盤が残念だった印象でした。勿体ない気持ちで終わりました。

▼以下、ネタバレ感想
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邪宗館の惨劇 (角川ホラー文庫)
阿泉来堂邪宗館の惨劇 についてのレビュー
No.619: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)
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名探偵のいけにえ: 人民教会殺人事件の感想

玄人向けの濃厚なミステリ。もの凄い作品でした。

タイトルが似ている『名探偵のはらわた』とは関連はなく、本書単体で楽しめます。
ライトな読者や登場人物名がカタカナの外人なので海外ものが苦手な方には合わないかもです。
物語よりも凝りに凝ったマニアックなミステリを読みたい方にオススメです。

1978年に実在したカルト宗教の人民寺院集団自殺事件をモチーフとした作品。
本書を読んだ後に実際にあった事件である事を知ったのですが、事件を知るほど本書の本格ミステリに落とし込んだ扱われ方が見事だと感じました。本作品を読む前にちょっとでも事件の概要を調べておくと作品の雰囲気や登場人物が把握しやすくなると思います。
時系列や毒や凶器、調査団、などなど実際に起きた事はそのまま扱い、ミステリを構築しているのに驚きました。

カルトの異常性を活用した特殊設定ミステリ。そして多重解決ものの組み合わせが見事。ここ数年ミステリで話題となる名探偵のテーマや、特殊設定の流行や、著者の異常な世界観が良い形で絡み合っていると感じました。

著者の作品はいくつか読んでおりますが、過去作で好みでなかった要素が払拭されています。例えば鬼畜系のグロ表現は単語表現だけで気持ち悪くないと感じる事が多かったのですが、今作はグロい単語は軽減されていても、不気味さ、異常さ、宗教の怪しさを感じられました。『少女を殺す100の方法』では100という数が商業的なPRで意味を感じなかったのですが、そういう数字的な事に意味をちゃんと持たせた内容があり、表現の描き方や意味の持たせ方が進化していました。個人的に著者の作品の中で一番良い作品。

正直な気持ちとして物語としての面白さは弱かったのですが、ミステリの技巧作品としては一品でした。カルトの異常性と多重解決の組み合わせが本当に見事で凄く練られたミステリを堪能しました。
名探偵のいけにえ: 人民教会殺人事件