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egut さんのレビュー一覧

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レビュー数745

全745件 101~120 6/38ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.645:
(8pt)

消えた女の感想

元凄腕の岡っ引。現在は版木彫りの主人公。恩師から行方不明となった娘を探すという物語。

普段馴染みのない時代小説だった為、序盤は慣れない用語や雰囲気や言葉遣いで読むのが大変かなと心配しましたが、30ページ程読み進めているとすぐに慣れて夢中になりました。
"消えた女を探す"という分かりやすい目的があり、それを調べて行く中で遭遇する事件や怪しい人々で先が気になる面白さでした。主人公の姿、おまさという女性との男女関係、人情模様など魅力ある要素が豊富。

本書は設定も然ることながら時代小説を感じる文章がよかったです。ここが面白いとポイントで説明するのが難しいのですが、名場面が多くてあのシーンやこのシーンがよかったなと感じる所が豊富でした。あとお蕎麦を食べたくなりました。面白かったです。

▼以下、ネタバレ感想
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消えた女―彫師伊之助捕物覚え (新潮文庫)
藤沢周平消えた女 についてのレビュー
No.644: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

倒産続きの彼女の感想

剣持麗子シリーズ2作目。
本書からでも問題ないですが、面白さは前作同様なので1作目から読書推奨です。

主人公は新キャラの美馬玉子。前作の主人公の剣持麗子は同じ事務所の先輩の立ち位置でした。
タイトルにある倒産をテーマとした事件。
転職の度に元いた会社が倒産する経理の女性が存在しており、何か不正行為が行われているのではないかという始まり。倒産の連続から『連続殺(法人)事件』と表現したり、リストラを『首切り事件』と表したりと経営話の中で表現するセンスが面白い。ミステリーを装っていますが、本書から受ける印象は弁護士のお仕事小説。キャラクターも魅力的であり、ドラマを見ているような面白さでした。

新キャラ美馬玉子の視点にする事で弁護士の依頼の調査を何も分からない読者に近づけているのが巧いなと思いました。前作の剣持麗子は完璧で最強過ぎて読者が置いてけぼりになっていましたが今回はそんなことありません。さらに剣持麗子が本当に困った時の頼れる先輩として描かれており、異なる表現で魅力を伝えているのが凄いと感じます。

弁護士事務所の人々や世の中の背後に存在する悪意など、シリーズものとしての魅力が増やされた一冊でした。今後も楽しみです。
倒産続きの彼女 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
新川帆立倒産続きの彼女 についてのレビュー
No.643: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

レモンと殺人鬼の感想

SNSや書店で話題になっていたので手に取りました。
表紙の絵柄とコロナ禍も相まって口元を隠す帯の作りは巧いな思います。ブックデザインが印象的。
帯やポップなどで、どんでん返しものとしてPRされているのですが、読後の感覚ではそれを期待するものではないと思いました。過剰な宣伝により読者が期待するものと違った読後感になり、不当な評価に繋がってしまいそうです。

本書はイヤミス系統。通り魔により家族を失い不幸になった者の視点で描かれる異常者の物語です。
ミステリーというより文学的な要素の組み合わせが面白い作品でした。タイトル『レモンと殺人鬼』からして何故にレモン?と興味を引く要素のセンスが巧いです。
家族経営の洋食屋。レモン。父と娘のエピソード。その他もろもろ、個々のエピソードが良く考えられており面白い。ただそれを仕掛けあるミステリーにするべく捏ね繰り回した後半は過剰な展開に思えた次第です。

あとがきにて著者が本書で描いたのは「ヤバい人」とあったので納得。ヤバい人の物語を期待して読むとその通りな作品。ただ異常犯罪ものだとしても個人的には何か突き抜けたものが無くてあまり印象に残らなかったのが正直な気持ちです。最後のシーンは好みでした。

▼以下、ネタバレ感想
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レモンと殺人鬼 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
くわがきあゆレモンと殺人鬼 についてのレビュー
No.642:
(6pt)

ゴリラ裁判の日の感想

とても個性的な作品でした。
メフィスト賞受賞作である本書。ミステリーとしてではなく個性的な物語としての受賞であると感じます。

あらすじにある通り、アメリカで実在したハランベ事件をモチーフにした物語です。タイトル『ゴリラ裁判』が示す通り、読書前の印象は裁判ものだと思っていたのですが、読み終わった現在では違う印象を持ちました。

裁判ものというより、SF作品の宇宙人と地球人との違いみたいな人種問題を扱った作品の印象です。「人間とは何か?」を問いかける物語を宇宙人でなく親しみやすいゴリラを用いて行われています。
読書中の気分はハヤカワの海外SFを読んでいるようでした。文章が海外翻訳の本を読んでいるような感覚であり、登場人物もゴリラ含めてカタカナ名かつ舞台も海外なのでより強く感じた次第です。良し悪しや好みの意味ではなく、単純に文章が海外作品っぽいと思っただけです。物語はイメージしやすく読み易かったので好感。

本書のテーマとなっている所は社会派模様なのと後半の裁判の説得の仕方があまり共感できなくて好みと合わなかったのが正直な気持ち。ただ序盤のカメルーンでのゴリラの生活物語はワクワクして楽しみました。個性的な物語を描くのでデビュー後の作品にも期待。
ゴリラ裁判の日 (講談社文庫)
須藤古都離ゴリラ裁判の日 についてのレビュー
No.641: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

最後の鑑定人の感想

科学捜査もの。推協賞にノミネートされていたので手に取りました。
元科学捜査研究所にいた風変わりな鑑定人が探偵役。確かな技術力をもって弁護士や判事から依頼を受けて事件の真相を暴くというもの。作風はリアルで硬派なので扱う事件も重苦しい部類です。ただ読み辛いという事はないです。
でてくる単語が専門用語寄りなので、理系や科学捜査ものが好きな方向けの作品です。

1話目『遺された痕』
読者を掴む1話目で扱う事件は性犯罪です。最初にこの事件を配置しているあたりで本書は軽いミステリではなくて硬派な作品なのだなと気を引き締めた次第。本書は楽しく読む作品ではなく事件を真摯に科学を通して見つめる作品だと雰囲気を感じ取りました。
2話目『愚者の炎』
ベトナム人技能実習生による放火事件。これは社会派ミステリ模様でした。1話目2話目と読み進めるとフィクションの小説というより現実の事件の捜査模様を体験するような感覚を得た次第。
3話目『死人に訊け』
少し気を抜いたエピソードがあり緊張感が解れるラストが面白い。鑑定人土門誠の技術ではなく人としてどういう人なのかちょっとだけ感じられた内容。
4話目『風化した夜』
それまで匂わせていた過去のエピソードが繋がる物語となっています。

作品の雰囲気は重苦しく真面目な内容。全体を通して感じる事は、真実は人間のアナログ的な感情で左右される事無く科学的な証拠に基づいてきちんと導きだす事。そして隠さず暴く事という正義を感じました。数年前のミステリで真実を暴く事で不幸になる場合があるという探偵の悩み問題がありましたが、それに対する真摯の想いを感じた作品でした。
最後の鑑定人 (角川文庫)
岩井圭也最後の鑑定人 についてのレビュー
No.640: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

あなたに会えて困ったの感想

個人的に好みの結末で締めくくられていた作品で大満足でした。(☆7+1好み)

まず本書を楽しめる可能性があるのは90年代が小中高大学生として青春時代を過ごした人が効果抜群で、30代以上が読者ターゲットとなります。逆に現在25歳以下の方が読んでも面白さが分り辛いかと思いました。何故なら本書のネタは90年代の音楽や芸能ネタの時事ネタが多く、その当時の思い出を感じる作品だからです。過ごしていないと何が面白いのか分からない物語です。タイトルが小泉今日子の『あなたに会えてよかった』のもじりであると頭の中によぎるような方が対象に感じました。

物語は前科二犯として服役していた主人公が出所早々に空き巣として忍び込んだ先がかつての初恋の相手の家だったという始まり。現在の状況と初恋の相手に出会った当時の思い出を回想しながら物語は進みます。
冒頭にて懸念した内容はこの回想の所でして、90年代のあの頃はこんな音楽が流行ったよねとか、こんな事件があったよね、お笑いはこれが流行ったよねという、当時の誰かの日記を読んでいるような物語です。著者の藤崎翔さんは1985年生まれなので内容はまさに著者の世代にそったエピソードを感じました。著者は芸人でもあるので著者らしさが発揮された作品であるとも感じます。
正直な所としてミステリーとはあまり関係ない脱線話が多い為、この点は好みが分かれると思います。個人的には当時を懐かしく感じられてエンタメとしてとても面白い読書となった次第。

結末もこれどうするんだろうと不安になっていた所で、巧い締めくくられ方をしており読後感も満足な作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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逆転泥棒 (双葉文庫)
藤崎翔逆転泥棒(あなたに会えて困った) についてのレビュー
No.639:
(6pt)

ミリは猫の瞳のなかに住んでいるの感想

要素盛り沢山な所が面白くもあり、複雑に感じる所でもありというのが率直な感想でした。
情報量が多いというか詰め込み過ぎというか、読書が夢中になり辛かった為かもしれません。とはいえ面白い作品でした。

作品傾向は青春SFミステリー。
主人公は過去視。ヒロインは未来視。猫の瞳を通じてその二人が出会い、主人公が遭遇した銃殺事件を調査していくという流れ。事件はミステリパート。
2人の恋愛模様はパソコン画面でのリモート会話のような過去と未来で猫の瞳を通して接続される設定であり、今風の遠距離恋愛の物語を感じました。時間軸と猫の組み合わせなどSFの小ネタを感じる所が豊富。ミステリの小ネタも盛り沢山です。キャラクターの良さを描いた演劇部の活動内容も面白く読めました。

ただもどかしいのはどれも話のメインになるような設定のエピソードを300P台の本書に詰め込んでいる為か把握し辛い。密度が凄いとポジティブに捉える事もできますが読書のリズムと情報量が合わないと感じました。話が急展開になったり、感情移入する前に結果がでてきてしまったりと、凄い面白い事をしているのに味わい辛かったです。これは著者が好きな設定や展開をとにかく盛り込んだようにも感じて必然性が感じられなかったのも要因です。特に第四幕からは大事な魅せ所なのに驚きや感動を味わう間もなく次々と進めているような駆け足を感じます。間や演出があればもっと読者の心を掴めそうなのにと勿体なさを感じました。

一方、序盤の学園エピソードは惹きこまれます。キャラの濃い阿望先輩登場や演劇のエチュードは惹きこまれました。序盤は丁寧に描かれている為か学園箇所面白かったです。
表紙やヒロインも可愛くて絵柄や意味深なタイトルも好み。あと文章中で登場人物にすべてルビがふってあるのは読み易くて良かったです。この人なんて読むんだっけ?という煩わしさがありません。最初の登場シーンだけルビを振るのではなく、全ページで人物名のルビがあるので物凄く読み易い作りは好感です。最近の電撃文庫はこういうフォーマットにしたのかな。

と、良い所もそうではない所もいっぱい感じた作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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ミリは猫の瞳のなかに住んでいる (電撃文庫)
No.638: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

クローズドサスペンスヘブンの感想

良い意味で個性的な作品でした。
あまり味わった事がない雰囲気で楽しかったです。表紙の雰囲気も新鮮。

まず特徴的な要素は全員既に死んでいる事。
何らかの事件に巻き込まれた者達が記憶を失った状態で天国屋敷に集ったシチュエーションです。
自分は誰なのか。何故殺されたのか。集まった人々の中に犯人はいるのか。というミステリーなのですが、本書は事件の殺伐さを描くのではなく、集まった者同士の交流をコミカルに描かれているのが印象的でした。既に死んでしまっているからか死の恐怖はありません。一緒に捜査して悩んだり、食事したり、息抜きに遊んだり、という和やかな雰囲気なので気軽に楽しめる読書でした。

新潮ミステリー大賞の候補作品ですが、この賞の候補作品が出版される事は珍しいです。そのまま埋もれさせてしまうのは勿体ないという気持ちを感じた次第でした。
ミステリーではありますが謎解きに期待するものではなく、ミステリー要素を用いた1つの映画やドラマ作品を体験するぐらいの気持ちで手に取ると楽しめると思います。読後感も良い作品でした。

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クローズドサスペンスヘブン
五条紀夫クローズドサスペンスヘブン についてのレビュー
No.637:
(6pt)

仕掛島の感想

タイトルと表紙の雰囲気に釣られて手に取りました。
『仕掛け』『島』というミステリ好きが好む直球タイトルです。既刊本に『館島』がありますが関連性は特にないので本書から楽しめます。

奇妙な館。孤島。プロローグで描かれる非現実な不思議な現象。新本格時代の要素がたっぷりのミステリは好感でした。
そこに著者の持ち味となるユーモアが加えられた作品です。ただこのユーモアについては好みに合いませんでした。

好みのお話ですが、ミステリはある程度のドキドキ・ハラハラや恐怖というか不安な雰囲気があってこそ解決時において開放感が得られ、読後スッキリとした味付けになると思うのです。本書の場合は雰囲気を和ませるボケやギャグが多く事件の緊張感がないので、なんというか場を眺めているような読書感覚でした。タイトルに掲げる通り仕掛けある物語ですが、その仕掛けが明かされた時も驚きではなくそうなんだ程度の感触しか得られなかった次第。完全に好みのお話で恐縮です。
いや、ちゃんと補足すると仕掛けは壮大かつ奇想なもので良かったのです。ギャグやユーモアも単体で見るとキャラが笑えて面白いのです。ただこの2つを組み合わせた本書のユーモアとミステリにおいてはそれぞれの良さが打ち消してしまい、ごちゃごちゃになってしまっているような印象でした。

▼以下、ネタバレ感想
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仕掛島 (創元推理文庫)
東川篤哉仕掛島 についてのレビュー
No.636: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

世界でいちばん透きとおった物語の感想

SNSやメディアで話題の本書。ネタバレを被弾しないように早速手に取りました。

物語は大御所のミステリ作家の遺稿『世界でいちばん透きとおった物語』とはどんな作品だったのか。という遺稿探しの物語。
仕掛けも然ることながら、美しく終わる物語と作品作りへの想いが良かったです。

本書は予備知識がない方が良い作品なので調べずに読書推奨です。
という事で、情報はあまり載せずに詳しい感想はネタバレで。

▼以下、ネタバレ感想
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世界でいちばん透きとおった物語
杉井光世界でいちばん透きとおった物語 についてのレビュー
No.635:
(4pt)

はるかの感想

前作の『ルビンの壺が割れた』が面白く、帯にはそれに続く『大どんでん返し』というPRに釣られて手に取りました。

過度な期待が出てしまったのもありますが、本書の後半で感じた印象は「どんでん返し」ではなく「打ち切り」の表現が正しい部類です。著者が飽きてしまったのか版元とトラブルがあったのかわかりませんが、膨らませていた内容を突然切り上げて話を終わらせてしまったと感じる結末でした。

内容はあらすじにある通り、恋愛小説+人工知能を用いた作品です。
ディープラーニングや学習モデルなど、近年の人工知能の事がよく描かれており、人工知能HAL-CAがどのように生まれるのか物語中のスタッフと同様に期待を膨らませた読書でした。
海岸のエピソード、AI開発にかける想い、序盤の少女の出会いから人工知能の開発までの物語は本当に面白かったです。
それだけに、こんな締め方で終わらせてしまうのかと残念な気持ちでいっぱいでした。

▼以下、ネタバレ感想
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はるか (新潮文庫)
宿野かほるはるか についてのレビュー
No.634: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

君のクイズの感想

2023年度の日本推理作家協会賞受賞作。
昨年からSNSやメディアで目にしていて気になっていた中、推協の受賞に後押しされて手に取りました。

物語はクイズ番組決勝の最終問題にて、問題を読み上げる前に解答し優勝を果たすという出来事が発生。これは事前に解答を知らされていたなどのヤラセではないのか?ヤラセではないとしたら何が起きたのか?というもの。

まず読者の興味が沸く掴みが素晴らしい。
ミステリ好きのみならず一般読者にも分かりやすい不可能状況である。
何が起きたのか?に始まり、どのような可能性があるのか。水平思考で脳を刺激する読書が面白く結末が気になる読書でした。

ただ本書に興味がある方への懸念点を補足すると、本書はミステリの楽しさを求める物語ではなく、『クイズ』にまつわるプレイヤーの思考や物語を体験するエンタメです。推理作家協会賞作品だからと言ってミステリを期待し過ぎると思っていたのと違うという評価になってしまうのでその点は注意です。

読書中はクイズプレイヤーの思考の探索が面白かったです。クイズに答えられるという事は人生においてその事象に触れている事や肯定になる考え方にも感銘を受けました。映画『スラムドッグ$ミリオネア』という作品を思い出しましたが、クイズは知識だけでなく人生の積み重ねをも感じます。

実の所、結末に関しては好みではありませんでした。
恐らく同じような感想の方が多く出そうな内容です。ただこれがクイズに対する考え方の多様性を表している面を感じます。後味が好みではないのですが、なるほどなという後味でした。
タイトル『君のクイズ』が巧い言葉で、読後にクイズとはあなたにとって何になるのか考えさせる事でしょう。おすすめです。

▼以下、ネタバレ感想
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君のクイズ (朝日文庫)
小川哲君のクイズ についてのレビュー
No.633:
(7pt)

僕が答える君の謎解き 明神凛音は間違えないの感想

学園ラブコメ×本格ミステリ。
2巻目が2022年度の本格ミステリベスト10で紹介されていたのがきっかけで興味が沸きました。まずは1巻目の本書を読書。
見た目や雰囲気から読書前はライトノベル特有のキャラものかなと感じていたのですが、本書はしっかりと推理と謎解きのミステリでした。

本書の特徴は事件の犯人が先にわかってしまう事。ただし何故そうなのか過程がわからないという系統のミステリです。
この系統のジャンル名がわからないので他作品で補足しますと、麻耶雄嵩『神様ゲーム』や森川智喜『スノーホワイト』を感じる内容でした。決定事項となる解答が先にあり、何故そうなのかを推理する構造です。
表紙の女の子、明神凛音は学園内のトラブルの犯人が解ってしまう能力者。人に説明ができず理解してもらえない彼女。そこに弁護士志望の男子生徒が彼女を理解し学園内のトラブルを解決していくという流れ。

まずミステリとして面白い所は答えを見つける流れではなく、彼女が無意識化でどのように推理したのかを推測する構造。神様の啓示のように突然答えを知るのではなく、彼女が無意識化で拾っている情報を元に推理が行われている為、彼女がどんな行動をしていたのか、そしてそこで何を見たのかが推理の手がかりとなるわけです。一風変わった推理模様が楽しめました。
学園ものとしては読書していて気持ちが良い雰囲気が良かったです。陰鬱な事件模様はありません。読んでいて学園青春模様が楽しめました。男子生徒のまっすぐな志が好感。弁護士は依頼人を信じ代弁するという想いがよく描かれており、ヒロインとの関り方がミステリとしてもラブコメとしてもよい距離感で好みでした。表紙絵や挿絵もラブコメとしてのヒロインが印象的に引き立ってて好みです。

まずは1巻目という事でこの先の物語に期待です。
僕が答える君の謎解き 明神凛音は間違えない (星海社FICTIONS)
No.632:
(7pt)

蝉かえるの感想

昆虫に絡めたミステリの連作短編集。
個人的に昆虫に馴染みがなかったので食指が動かなかったのですが、推理作家協会賞と本格ミステリ大賞を受賞した作品である事から興味を持って手に取りました。
シリーズ2作目である事を読後に知りましたが、本書から読んで問題ありません。

それぞれの短編はどれもハズレがなく面白い物語。派手なミステリではなく、昆虫の生態や特性と人間模様が巧く絡められた内容であり、驚きではなく巧いなぁと染み渡るような上質なミステリの作りを感じた次第。
さらに短編の配置が巧く、物語を読み進むにつれて探偵役の魞沢泉の人間味が感じられるのがよかったです。最初はとぼけている弱弱しいというか印象に残らないようなキャラだったのが、徐々に最終話に行くにつれて内面に宿している想いを感じられるようになりました。

昆虫に興味がなくても楽しめる、非常に質の高い文学的なミステリでした。
蝉かえる (創元推理文庫)
櫻田智也蝉かえる についてのレビュー
No.631: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

希望が死んだ夜にの感想

世の中に問題を投げかける社会派小説として素晴らしい作品でした。

著者はミステリ作家ゆえミステリを用いた作品となっていますが、本書の内容はミステリよりも世に投げかける社会問題のテーマに比重が多いです。言い換えるとミステリ的な仕掛けを期待する作品ではありません。その為、読者が何を期待して本書を手に取ったかで好みが分かれてしまう事でしょう。社会に投げかけるテーマを持った作品として手に取ると良いです。

扱う社会派のテーマは貧困問題。
構成として優れているのは、事件を基点に2つの視点で物語が描かれている点だと感じました。
1つ目の視点は事件の当事者である少女の視点。中学生の少女を取り巻く環境。家庭や学校や友人関係といった中学生から見える世界。貧困のアラートが分からない。中学生で考えられる情報の範囲。この状況での青春小説が描かれます。
2つ目の視点は事件を捜査する大人の視点。生活安全課少年係の警察視点。少女の身に何が起きたのか。何が起きているのか。動機探しの警察小説が描かれます。
子供と大人。事件関係者と捜査側。この対比となる2つの視点で物語が伝えられます。本書を読み進めて得られるものはミステリ的な驚きの真相ではなく、テーマとなる貧困問題を感じさせるというものです。タイトルが事前に示している通り内容的に読後感が晴れるものではありません。なので人によっては手に取るのは注意。ただ巧く言えませんが心に残る物語であるのは確かです。社会派の小説を求める方にはオススメ。

著者の作品はデビュー作からいくつか読んでおりますが、今までライトな作風の著者の印象でした。こういう真摯な社会派の作品が描けかつ面白いという著者の新たな一面を感じた次第でした。
希望が死んだ夜に (文春文庫)
天祢涼希望が死んだ夜に についてのレビュー
No.630: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

炎の塔の感想

素晴らしい作品でした。傑作です。

著者が明言している通り映画『タワーリング・インフェルノ』のオマージュ作品。
映画を知っていても知らなくても十分に楽しめます。私は大分昔に映画を見ていた為内容を忘れていました。読後に映画と照らし合わせると所々の設定をオマージュとして残していた事に気づく楽しさがあります。では真似事の作品かというと全くそんな事はなく、優れた要素を継承した著者オリジナルの作品に仕上がっています。

500ページ台の本書。正直色々と重そうで読むのを躊躇していました。
同じような気持ちの方がいたらお伝えしたいのが、本当に読み始めたら止まらずあっという間に読めてしまう作品である事。内容が薄いという意味ではありません。ハラハラドキドキの緊迫感、先が気になる展開がずっと続いており夢中になるからです。

災害パニック小説の方向として混乱や醜態を描く作品がありますが、本書はそうではなく災害を解決するべく消防士の活躍が描かれる方向性の作品です。火災現場の緊迫感、チームとしての活動、救助模様、、、次々と起きる多くのトラブルに遭遇する展開は本当にやめ時が見つからない読書でした。

そして構成が素晴らしい。無駄がなかったエピソード。登場人物達の配役。様々な要素が考えられていて驚かされました。結末の切り方も好みです。この主人公の現場の物語のラストの安堵感としてはここでしょう。その後のエピローグを描かないのも好み。最初から最後まで大満足の作品でした。オススメです。
炎の塔 (祥伝社文庫)
五十嵐貴久炎の塔 についてのレビュー
No.629: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

北緯43度のコールドケースの感想

2021年度の江戸川乱歩賞受賞作。
表紙が吹雪で険しい雰囲気を醸し出しており北海道警察が舞台。読書前の印象はかなり堅物で難しい本なのかなと思っていましたが、読んでみるとそれらは杞憂に終わり大変読み易く魅力的な作品でした。

派手な仕掛けや一発ネタがあるわけではないのですが読んでいて面白かったです。
まず登場人物達が魅力的で印象に残りました。登場人物はめちゃめちゃ多いのですが、読んでいて苦にならず、誰がどういう人か把握できるのが純粋に凄いと思いました。特徴的な名前があるわけでもありません。主人公や警察や事件に関わる一人ひとりの特徴や背景がしっかりしているのです。一方あえて悪く捉えるとページの半分は事件の物語よりも人を描いている印象でした。中盤まではなかなか捜査が進まない印象でしたが、ある所からは一気に物語が進みさらに面白くなりました。事前に読んでいた各人物達の背景も合わさり物語に深みがでて大変良かったです。

読み終わってみれば事件の顛末も乱歩賞らしい構成と展開で見事でした。先程派手な仕掛けはないといいましたが、派手でないだけで多くの地道な伏線といいますか読者への情報の浸透のさせ方が見事な構成。キャラについては申し分なく今後のシリーズ作品として読みたくなる人や警察組織が魅力的でした。事件を扱いますが読んでいて嫌な気分になる事はなく、むしろ組織や主人公の前向きな成長を感じるよい雰囲気。役者が多くでるドラマ向けとも感じました。2作目もあるので追っ掛けてみようと思います。

▼以下、ネタバレ感想
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北緯43度のコールドケース
伏尾美紀北緯43度のコールドケース についてのレビュー
No.628: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

あの日、君は何をしたの感想

内容は好みとは違いますが作品として凄く面白かったです。

無関係に見える2つの事件の物語。先の展開が気になって止め時が見つからない読書でした。あらすじにある通りなのでネタバレではないと補足しつつ説明しますが、ミステリー小説のお約束の展開として終盤に2つの物語が繋がるのは明らかなわけです。ただどう繋がるのかが小説の見せ所なわけですが、本書はかなり高水準で複雑で絡まった物語を綺麗に回収して繋がる作品でした。
ミステリーの構成としてはとても素晴らしく、トリックやどんでん返し等の一発ネタの作品ではなく、コツコツ小さい情報が積み重なった先に見える真相を体験できる作品。感触としては警察小説で捜査を進めてやっと事件が解決した(話が見えた)。という安堵感を得るような構成です。

2つの物語で感じた印象は、毒親や狂気の家族模様。フィクションとはいえ、ちょっと思考回路が合わず嫌悪感を抱くようなあまり関わりたくないと感じる人たちの物語でイヤミス傾向です。読んでいて嫌な気分になる事が多かったのですが、そう思わせる文章は凄いなという視点で楽しみました。そういう意味で内容は好みとは違うのですが、事件がどういう結末を迎えるのか?先が気になる読書として面白かった次第です。
あの日、君は何をした (小学館文庫)
まさきとしかあの日、君は何をした についてのレビュー
No.627: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

監禁探偵の感想

"監禁"というストレートなワードがタイトルに入っているので、著者のダーク寄り作品かと思いながら手に取りました。実は『監禁探偵』という作品は漫画版⇒映画版⇒小説版という過程を得ており、2013年初という事で10年も前の作品なのですね。2022年10月の文庫化で認識した次第でした。

序盤は犯罪者が別の犯罪に巻き込まれるというシチュエーション。
扱う内容がゲスいので合わない人が多く感じると思う展開でした。正直な気持ちとして第一話の中盤までは監禁や少女を扱い下品な事を書いているだけの浅い作品かなと疑っていた次第。が、事件の真相が見えてくる頃にはそれらを活用したミステリである事が分りました。第一話、第二話と進む毎に本書の印象が変わりました。

読後の本書のイメージはミステリにおけるパズル小説。扱われる犯罪やシチュエーションがパズルのピースのように散らばっており、話を読み進めて行く事で物語の構造が見えてくるという作品。
内容主点で見ると現実的には違和感があったりで好き嫌い分かれそうです。ただ話の作り方に着目すると巧く考えられておりその視点が好きな方には好まれると思います。作品を魅力的に引き立てるアカネというキャラクターも謎めいていて良かったです。
尺的に映画向けかなと思っていたら読後に既に映画化している事を知った次第で納得。面白い物語でした。

▼以下、ネタバレ感想
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監禁探偵 (実業之日本社文庫)
我孫子武丸監禁探偵 についてのレビュー
No.626: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

星くずの殺人の感想

民間宇宙旅行が実現した近未来。
宇宙ホテルにて発見された無重力での首吊り状態の死体。
あらすじのキャッチが魅力的なので手に取りました。

まず正直な感想として、SFミステリーとして期待して手に取りましたがミステリーとしてはあまり面白くありませんでした。謎の説明不足や順序立てされた解説ではない為、おそらく突然の科学知識の紹介を読んだような気分になるのではないでしょうか。扱われている科学知識についてはそんなに難しいものではない所が選ばれているのは良いのですが、伏線なく突然出てくるような印象な為、「そうだったのか!」という驚きではなく「そうなんだ。」という感想。
登場人物表や舞台の見取り図も欲しかったです。状況がイメージし辛い読書でして、ミステリーとしては楽しめなかった次第。
ただ人情ものといいますか、登場人物の過去のエピソードを語り合う所は良かったですし、何故こんな事件を起こしたのかという思想的な話は納得できました。最後のセリフも〇。

なんとなく前作の『老虎残夢』の時も感じたのですが、謎や仕掛けのミステリより、キャラクター達の会話や物語の全体像が面白いなと感じました。
星くずの殺人
桃野雑派星くずの殺人 についてのレビュー