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梁山泊 さんのレビュー一覧

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レビュー数681

全681件 121~140 7/35ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.561:
(9pt)

プラチナタウンの感想

商社で出世ルートを外された主人公が故郷の町長として、借金まみれの東北の田舎町の財政再建のため一大ビジネスに乗り出すという物語です。
前町長の時代に「ハコモノ」を造りまくったおかげでインフラだけは十分にあるけれども、観光客は来ないどころか地元民すら利用しない、また企業も工場を建てたがらない。
こういう町って日本中に山のようにあるのだろうな、って思いながら読みました。
地方再生もあるのですが、それに加えて、来るべき高齢化社会への1つの解決策としての作者の提案なんでしょうね。
田舎ならでわのしがらみなんかもあったりして面白かったですね。
伊吹元衆院議長が当時の地方創生相・石破茂に「地方創生相なら読んどけ」と薦めた本らしいですよ。
惜しむらくは、後半端折りすぎだったって事でしょうかね。でもお薦めします。

プラチナタウン (祥伝社文庫)
楡周平プラチナタウン についてのレビュー
No.560:
(7pt)

ナオミとカナコの感想

女性が共謀して人間的にクズな男性を殺害、その隠蔽を図るという物語で、桐野夏生「OUT」からグロテスクさを取り除き軽さを足したような作品です。
そして何故か加害者側に肩入れしたくなるという最早エンターテインメントな仕上がり。
その分読みやすい訳ですが、そもそも穴と綻びだらけの犯行手口でハラハラドキドキ感は少ないかな。

ナオミとカナコ
奥田英朗ナオミとカナコ についてのレビュー
No.559: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

金雀枝荘の殺人の感想

館ミステリと言えば、綾辻の館シリーズでしょうが、この作品はちょっとした掘り出し物ですよ。
密室、見立て殺人と本格要素満載、雰囲気もあります。
で、トリックはというと、凄くシンプルで盲点をつかれた感じですね。
登場人物が多いのですが、主要人物以外の描き込みが浅く、何となく犯人が分かってしまうのが難点ですかね。
探偵役の中里が「島田潔」と重なって仕方なかったです。

金雀枝荘の殺人 (中公文庫)
今邑彩金雀枝荘の殺人 についてのレビュー
No.558:
(4pt)

アイの物語の感想

元々の短編作品に新たに幕間を設けて1つのまとまった物語にしてるんですね。
それを違和感なく読ませたって事は「上手い」って事でしょう。
ただ読み手を選ぶというか、好き嫌いが分かれる作品な気がしますね。
SF好きをも満足させる作品、っていうレビューが何処かにありました。
確かにそうなのかなと思いました。
それ即ち、SFが得意ではない人にはちょっとしんどいっていうのと同意かと。
SFどうこう以前に私にはラノベにしか思えませんでした。
SF好きでラノベも読めるって人にはお薦めできると思います。

アイの物語 (角川文庫)
山本弘アイの物語 についてのレビュー
No.557:
(6pt)

BT’63の感想

SFサスペンス。こんな作品も描いてたんだなぁと驚き。
というのも、企業倒産が絡んでくるのですが、そこに作者らしい一切の深掘りがないのだ。
銀行側の視点ではなく企業側視点の物語ということなのだろうが、作者の他の作品を読んでからこの作品を読むと、どこか違和感を感じざるを得ないのである。
現代の主人公が、亡き父の遺品である作業着に袖を通すと、過去の父親に憑依できるという設定。
物語前半では、憑依した主人公により父のいた過去に影響を与え好転させるだけでなく、そんな父の姿を見て、現代で苦悩する主人公も救われるといった展開が予想されたのですが、後半はそういった描写が薄れ予想外の展開、着地を見せます。
自分が想像していた展開のほうが面白いと思いましたし、これでは中途半端感が否めないですね。
まぁ夢オチじゃなかっただけ良しとしましょう。

猫虎が怖いってレビューが多いようですが、ボンネットトラックとその容姿を合わせて、トトロしかイメージできなかった。

新装版 BT’63(上) (講談社文庫)
池井戸潤BT’63 についてのレビュー
No.556:
(9pt)

サイレント・ブレスの感想

大学病院から「訪問クリニック」への左遷を命じられた女医が主人公。
新しい勤務地は、在宅で「死」を迎える患者への訪問診療専門。
そこで主人公は、もう二度と治る事なく言わば死を待つだけの患者と向き合い、無力感を味わいますが、終末医療の大切さを知ります。
患者の立場から、最期にどういう医療を受けたいのか、見送る立場から、どういう医療を受けさせたいのか。
この作品は、「生きたい」と「救いたい」の間にある微妙なギャップを教えてくれます。
作者が現役のお医者様だということもあり、余計に身につまされる思いで読むことが出来ました。
特に、印象に残ったのは、死にゆく人よりも寧ろ家族の立場というか立ち位置と言うか・・・その描き方にリアリティを感じました。
出産、命の誕生によって生命への考え方に変化が生じるなんて事はよくフューチャされていますが、じゃあ消滅するする時、失う時はどうなのよ。
今後のことを色々考えさせてくれる良著だと思いました、

サイレント・ブレス
南杏子サイレント・ブレス についてのレビュー
No.555:
(7pt)

消滅世界の感想

面白いか面白くないかとか好きか嫌いかなんてのは置いといて、着眼点とか世界観とか発想は凄いと思いました。
性行為を行うことはタブー視、夫婦であっても性行為をすれば近親相姦、子供は人工受精で授かり、男でも子供を産むことが出来、産んだ子供は皆で共有するという世界。
そういう世界において、本来の人間としての生き方を娘に教えんとする主人公の母親。
実際まともな人間は彼女だけなのだが、読んでいるとそんな母親が狂っているように思えてしまう。
私もその特殊な世界観にどっぷり誘われてしまっていた、という事だろう。
ただ、描写が生々しく「プチグロ」で読み進めるのが若干辛かった事、そして何より大風呂敷な設定の割に着地点がアレで結局何を言いたかったのかよく分かりませんでしたね。

消滅世界
村田沙耶香消滅世界 についてのレビュー
No.554:
(9pt)

タックスへイヴン Tax Havenの感想

タイトルからも想像できる通り金融小説です。
作者の作品を読むのは初めてですが、Wikiで調べてみると「投資や経済に関するフィクション・ノンフィクションの両方を手がける」とある。
確かに、現実の出来事であるあの原発事故に絡めていたり、某国のあの人が実名で記載されていたりと、ノンフィクションではないかと錯覚してしまう程、リアリティを感じますね。
まぁ近いことは実際起こってるんでしょうね。
主人公が思いっきりハードボイルドしているのですが、相手はヤクザの比ではないわけで、そんな気取っていられるわけ無いですよね。
そこが少し現実離れしているかなと思いました。
読んでいて違和感感じたのはそれくらいで、金融に対する知識がなくとも十分楽しめますよ。
タックスへイヴン Tax Haven (幻冬舎文庫)
橘玲タックスへイヴン Tax Haven についてのレビュー
No.553:
(5pt)

サクラ咲くの感想

中高生向けの3編のジュブナイルな作品ですが、学校生活において目立たないように身を潜めているタイプに光を当てている辺りがこの作者さんらしいところですね。
3編を少しずつリンクさせているあたりもこの作者さんらしいですかね。
ただ「身を潜める」種の中でも質の良い子達なので「いつもと違って」この作品は読後感もいいです。
ただやはり、辻村作品を読んだ、って感じにはならないですね。

サクラ咲く (光文社文庫)
辻村深月サクラ咲く についてのレビュー
No.552: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

満願の感想

タイトル作である「満願」を含む6作品の短編集です。
米穂さんの短編集は「追想五断章」といい「儚い羊たちの祝宴」といい、強烈なインパクトがありました。
この作品も、この2作同様に凄いです。この作者さんの短編集は凄い、ホントに凄い。
タイトルからも想像がつくと思いますが、人間の「願い」をテーマにしているおり、これが何れも第三者を巻き込む「願い」なんですね。
こうなってくると、人間ってやっぱり利己的なんだと思いました。
で、騙される側というか、勘違いしている側というか、知らぬは◯◯ばかりなり、の◯◯にあたる人物の一人称描写なんですよね。
◯◯さんと一緒に騙されて、最後に相手の本性が見えてラストでビックリ、っていうパターンです。
「後味の悪さ」ってやつは健在で、後からジワジワくる系ですね。
で、大技じゃないんですよね。
ちょとした「誤認」を大きなインパクトにして読者に叩きつける感じです。
「古典部シリーズ」と同じ作者の作品とは思えない、なんて思ってたんですけど、普通なら見逃してしまいそうな小事に着目して、そこからひっくり返すっていう点では、つながってるっていうか同じなのかな、って考えを改めさせられました。

満願 (新潮文庫)
米澤穂信満願 についてのレビュー
No.551: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

龍臥亭事件の感想

島田荘司版「八つ墓村」といったところでしょうか。モチーフとした事件が同じですからね。
ノンフィクションタッチに描かれているものの、壮大なトリックあり、失笑しそうなトリックもあり、御大らしさ満開といったところですかね。
御大の作品で、かなりの長編というと、事件に直接関係ない、いつもの「冗長の二文字」が頭を過ったのですが、この作品にはそういう点はありませんでした。
これ高評価ポイントです。

で、御手洗シリーズなんですが、御手洗は登場せず主役は石岡です。
登場せずというより「直接は」登場せず、と言った方がいいかも知れません。何れにせよ殆ど登場しません。
その割に、事件の真相は複雑この上なく、本来こんなもの石岡くんに解けるわけないじゃないか、というレベルである。
過去の事件をモチーフとした単なる連続猟奇殺人事件に見せかけておいて真相は相当に込み入ってます。
なので面白いです。御手洗シリーズではかなり上位にランクされる作品になると思います。

ただやっぱ「密室」って、読み手を引きつける1つの要素なんですよね。ワクワクしますから。
そこをどれだけ上手く処理するかが、その作品の評価に大きく影響すると思うんですけどね。そこを蔑ろにはしてほしくないですね。
この作品に限らず、最近、ほぼほぼ諦めながら読んでること多いんですけどね。
それと、事件の真相に大きく関わっている人物をラスト近くまで隠しているのもどうかと。
「誰?」ってなるじゃん、普通。

まぁ色々不平不満言いましたが、面白かったのは間違いなしです。

龍臥亭事件〈上〉 (光文社文庫)
島田荘司龍臥亭事件 についてのレビュー
No.550:
(6pt)

あしたの君への感想

家裁調査官補として少年事件や夫婦間の問題に向き合う主人公を描いた連作短編集。
シリーズ化されそうですね。まだまだ序章って感じの終わり方でした。
続きが読みたくなる話ではありますが、作者の検事シリーズと比べてしまうと、やはり扱われるテーマが地味ですし、特に夫婦間の問題なんて、これまで何度も描かれてきた題材ですので・・・新しい驚きを提供してもらえるのか不安でもあります。
骨太作品を世に送り出している作者が、どう展開させていくか楽しみでもありますね。

あしたの君へ
柚月裕子あしたの君へ についてのレビュー
No.549:
(5pt)

朽ちないサクラの感想

この作品は、秘密警察とも言われるサクラ、つまりは「公安」を描いた物語です。
慰安旅行を理由に被害届受理を先延ばしにした事で発生したストーカー殺人。
数年前に某県で起こった事件を下敷きにしているのかなと思います。
毎度骨太作品を世に送り出さいているこの作者ですが、この作品は全体的に少し浅い気がしました。

主人公は県警広報課の女性。
こういう一線から離れた部署にいる人物を主人公にするのは横山秀夫さんの警察小説によくあるパターンですが、この作品の場合、まずこのテーマでありながら、主人公が広報課の人間である必然性を感じないですね。「公安VS刑事」っていう図式はよく目にしますが、主人公が刑事ですらない、しかも女性なわけですからね。
一歩踏み込んだ描写も期待できずって感じでした。
ラストの主人公の決意に繋げるためなのかなと思ったのですが、ここは感動するところなんでしょうか?
そもそもそんな決意叶うはずもないし、「死にたいの?バカなの?殺されなかっただけでもらっきーだとおもわないと。世間知らずも程々にしてよ」で個人的には「はぁ?」だったのですが・・・軽さにダメ押しでしたよ。
しかも、描かれる公安側の人間が主要登場人物に一人もいないってのは、どういう狙いだったのでしょうか。
これが、書き込みが浅いって感じる一番の理由なのではないかと。
また、途中でカルト教団が絡んでくるのですが、某事件が発生した頃、オウムと公安の関わりみたいなものが話題になっていた記憶があります。
公安を語るには欠かせないという事なんですかね。
蛇足というか、これで物語が発散しかかってラスト力技で筋だけは通したって感じましたが。

何れにせよ、これまで読んだ作者の作品の中では群を抜いてダメダメじゃなかったかな。

朽ちないサクラ (徳間文庫)
柚月裕子朽ちないサクラ についてのレビュー
No.548:
(6pt)

オルファクトグラムの感想

殺人事件現場で凶悪犯から襲撃を受け、意識を取り戻すと犬並みの嗅覚を得ていた主人公。
その嗅覚を利用して、友人更に姉を殺害した犯人を探すという物語。
嗅覚を幾何学的なイメージで視覚的に捉えるという発想がユニークであり、設定の時点で大きなアドバンテージを得ている作品だと思う。
しかし、手放しで面白かったと評価できるわけでないのは、指摘されている方もいるが、まさにその通り。
かなりの長編であり、しかも犯人は相当に異常で凶悪にも関わらず、ラストに向けての、さぁ事件が解決する、犯人を追い詰めたという緊張感がなかったからだと思う。
物語が進むにつれ、主人公はいろいろな人物と出逢う。
友人、TV局の人間、大学教授、そして警察官。
その度に、主人公の特殊能力の説明があるのだ。これはさすがに冗長過ぎると言わざるをえない。
その分、異常な犯行を繰り返す犯人の動機すら端折られているように、主人公の能力以外への描写が浅いと感じました。

オルファクトグラム〈上〉 (講談社文庫)
井上夢人オルファクトグラム についてのレビュー
No.547: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

夜想曲(ノクターン)の感想

ロジックに酔ってください!!

この作者の作品は初読でしたが、あの泡坂氏の弟子なんですね。
「読者への挑戦」付きの本格推理小説。凄い奇術を見せてくれました。
ある意味、「多重解決」と言っていいでしょうか。
読み終えてみて、ありそうでなかった、って気がしています。少なくとも私は知らないです。
それにしても見事ですね。
読中、違和感は感じていたんですよね。「昨日の今日なのに何故ザワザワしない」とか。
でも、このトリックには気付きませんでした。
途中で何となく気づいた、なんてレビューを多く見かけますが、いえいえ、この作品は「騙された者勝ち」じゃないでしゅか。

「犯人は誰か」の他に、もう1つ「主人公に作中作となる作品を読ませた理由」という謎があります。
こちらについては、正直このパターンは好きではないのですが、この作品に限っては、あの大技を見た後って事で、それ程不快感は感じなかったですね。
でも、そこで1点減点。

夜想曲(ノクターン) (角川文庫)
依井貴裕夜想曲(ノクターン) についてのレビュー
No.546: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

怒りの感想

この作者の作品は「悪人」に次いで2作目。
「悪人」もそうだったのですが、この作品もどこか淡々と物語が進みます。
表面に露見する事こそないのですが、登場人物の内面にグツグツと煮えたぎっているような感情をすごく上手く表現できる方だなと思いました。
ですから読後しばらくかなりその余韻に浸れますし、印象にもずーっと残っているって感じの作品です。
こういう作品を読ませてくれる作家さんってそういないように思いますね。

凶悪殺人犯が逃亡中で日々報道される中、異なる3地点に全く無関係で前歴不詳の3人の男を登場させ、そんな彼らと関わる人々を描いた物語です。
それぞれの場所で、ただ人に言えない過去を持つというだけで、周りの人間達とも何の問題もなく過ごせている3人。
「もしかしたらこの人・・・」という思いから破綻していく人間関係。
「人を疑う」事に対する覚悟やその重さ責任、そういうものを表現したかったのでしょうね。
私には犯人の「怒り」の理由が結局分からなかったのですが、簡単じゃないというか難しいというか、こういうのも読後の余韻に浸れていいですね。

怒り(上) (中公文庫)
吉田修一怒り についてのレビュー
No.545:
(7pt)

パレートの誤算の感想

タイトルは、経済学でよく言うところのパレートの法則、いわゆる「働き蜂の法則」そしてその亜種である「2:8の法則」からきています。
働いているのは全体の8割、その中でも2割の優秀な人が,全体の8割へ貢献をしている、そして残りの2割の人は全く働かない、ってやつです。

テーマは「生活保護」
法則に当てはめ、「働かないやつは必ずいるわけで、生活保護なんて無駄だ」と誤解している人がいる、即ち「社会に(殆ど、または全く)貢献できていない8割の人も怠けているわけではない」という事を言いたかったのかなと勝手に思っています。私の意見とは違うのですが・・・
ただ、このタイトルと物語の内容が合っていないように思えて仕方がないのです。
正規という言い方はおかしいですが、正規の不正受給者というより、弱者を利用するヤクザに付け込まれての不正。
結局、ヤクザVS公務員(警察含む)になっている。
実際そういうのもあるとは思うのですが、今年小田原の方で色々あった事ですし、その辺りの話が色々勉強できればと思っていました。
少しがっかりでしたかね。まぁ面白いですが。

パレートの誤算 (祥伝社文庫)
柚月裕子パレートの誤算 についてのレビュー
No.544: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

黒百合の感想

初読でこの作品の仕掛けに気付いた人っているのだろうか。
ここまでネタバレサイトのお世話になったのは久しぶりだわ。
っていうか、指摘されている方もいらっしゃる通り「文芸+ミステリ」って事なのでしょうが、ミステリを読みたい、ミステリだと思って読み始めた私としては、これだけ解りにくいと真実を聞かされても「騙された」って気にもならないし、実際、読中何の違和感も感じていませんでした。
だいたい「あれっ?」「絶対何か勘違いさせられてるな」とか違和感を感じるものなのですが、それすらなかったですから。
なので、逆に最後の最後でとてつもない想像もしていなかった驚きを与えてくれるのだろうという期待があったのですが・・・

いくつかの視点、時間軸から構成されていて、物語の大部分を占めるのが六甲山を舞台にした中学生の淡く儚い初恋の思い出のパート。
「文芸」の部分になるのですかね。言い方は悪いかもしれませんが、これがまさに「フェイク」だったわけでしょ。
何か仕掛けがあるにしても、そこにあると思うじゃないですか。
ポイントだったのは、幾つかの視点の中の1つ。
まぁ確かに誰が視点人物だったかの明言は避けていたようですね。
そこに違和感すら持たせなかったんですから、上手いと言えば上手いのかもしれませんが。
作者が、ミステリの部分に気づかない読者がいたとしてもそれはそれでいいやって描いているのなら、それはそれで「文芸+(小さく)ミステリ」として評価も出来ると思うのですが、だったらミスリードのためだけに登場させたと思われるあの登場人物はなんだったのか。
作者は完全に「ミステリ」として、読み手を騙そうとして描いてますよね。
私にはそう読めましたので「ミステリ」として評価させていただいた上で、「こんな解りにくいのはダメだ」という感想としました。

黒百合 (創元推理文庫)
多島斗志之黒百合 についてのレビュー
No.543:
(5pt)

セント・メリーのリボンの感想

「男の贈り物」をテーマにしたハードボイルドな短編集。
日本のハードボイルドというと、暴力とセックスって印象ですが、この作品の主人公達は、無愛想だが強く優しく人間味あふれている。
いわゆる「強くなければ生き抜けない、優しくなければ生きる資格がない」ってやつである。
作者はミリオタなのだろうか。
そういう男のロマンというか拘り的なものも色々散りばめられている作品である。
そういうのが好きな方ならハマりそうだが、私の場合個人的に趣味じゃなかった。

セント・メリーのリボン 新装版 (光文社文庫)
稲見一良セント・メリーのリボン についてのレビュー
No.542: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

狼は瞑らないの感想

山岳小説というと面白いがワンパターンだったりする。
指摘されている方もいるように、山岳アクションでありながら舞台は冬ではなく夏。
障害となるのは、そのワンパターンの根源である雪ではなく風、雨、雷となる。
山が怖いのは何も冬だけではないというところで、雪がないことが新鮮であるだけでなく迫力も十分。
あと主人公のハードボイルド風な人物造形もよかった。
こういう舞台で最後生き残るのは彼のようなタイプでしか有り得ないかな、ってくらいまで魅了されました。
最後の最後まで緊張感たっぷり楽しませて腐れます。
お薦めします。

狼は瞑らない (ハルキ文庫)
樋口明雄狼は瞑らない についてのレビュー