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梁山泊 さんのレビュー一覧
梁山泊さんのページへレビュー数681件
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相変わらず複雑なプロットだが、他の作品のような「こねくり回しすぎだろ」という印象はないです。
この作品の主人公は、探偵法月綸太郎というよりも、被害者の父親である山倉史朗という人物であると言っていいでしょう。 タイトルにある「一」は、一人称叙述形式の「一」であり、山倉史朗の一人称視点で語られます。 単なる誘拐事件ではなく、その裏には山倉史朗を中心とした複雑な人間模様が背景としてあります。 その複雑な人間関係、少なくとも山倉史朗本人には初めっから全て分かっています。 読者には物語の進行に従い徐々に明らかになっていきますが、それにより何故山倉史朗がこれ程までに必死なのかも分かってきます。 登場人物は多くはないのですが、その殆どの人物を一度は容疑者へと浮かび上がらせるプロット、そして殆どの登場人物が不幸になるという悲劇、そして最終的に山倉史朗にとっては最も悲惨であろうと思われる結末が待ち構えてちます。これぞ「悲劇」 その山倉史朗の視点で語られる物語は全編緊迫感に満ちています。引き込まれます。 いつものような、綸太郎の悶々とした苦悩、二転三転の推理に付き合わされイライラする事がありません。テンポもいいです。 山倉史朗以外の視点で語られたなら、こんな緊迫感は絶対に生まれていませんからね。 というか、この作品は法月綸太郎シリーズですが、倫太郎がいなくても十分良質の誘拐モノとして成り立っています。寧ろ邪魔かも。 でも皮肉な事に、個人的にこの作者の作品では一番かな。 |
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重松清の流星ワゴンを思い出してしまった。
こういうタイムスリップものは、タイムパラドックスの矛盾、即ち歴史が書き換わる事による危機を打開する事に躍起になる作品が多いですが、この作品の場合は、こういうまどろっこしい事を一切排除して、一部の登場人物の未来を劇的に変えています。 若かりし頃の父拓実とタイムスリップしてきた拓実の子供であるトキオの不思議な生活の描写が作品全体の9割以上を占めます。 正直若かりし頃の父拓実のダメっぷりに終始イライラさせられっぱなしでした。 トキオの父となった現在の拓実に間しては、短いながらも冒頭からの話で読者にもその変貌ぶりがわかるよう記述されていますが、余りにもダメ男時代の描写が長く、読中は「イマイチかも」と思いながら読んでいました。 それを見事に覆してくれたのが最後の一行で、その最後の1行に星2つプラスです。 読み手に「ループ」を連想させるその一言は、感動的というだけでなく、物語にスケールを加えてくれたように感じます。 劇的なほどに効果的。 拓実は今後あそこに通う事になるのだろうか。 そう考えるだけでどこかほっこりします。読み手にそう考えさせる事を演出した作者に拍手です。 |
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ラストでも犯人を明かさず終了するという作品で、ある意味読者への挑戦の趣向を取っています。
主に謎を解明していくのが、警察官とはいえ交通課勤務の被害者の兄です。 彼の推理ではなかなか核心を突くには至りません。そして読者に与えられる情報は断片的です。 そこに肉付け、関連付けする役目を担っているのが、今作ではお助けマンに徹している感のあるあの加賀です。 本来の加賀であれば「瞬殺」だろうなと思いつつ、「私には全てお見通し」視線で主人公をそして読者をゲームに誘っているように思えます。 予めこの趣向を念頭に練られたプロットのはずで、やはり回りくどく真相に対して遠回りしている印象は拭えません。 なので、物語本体の部分はイマイチです。 この作品の評価は「犯人当て」を委ねられた読者が、その趣向を面白いと思えるかどうかでしょう。 私は個人的に余り感心しません。 犯行に至るまでの犯人の心情など、本来必要であるはずの描写が欠落しているからです。 加害者の犯行へ至るまでの経緯が読後感に大きな影響を及ぼす事って多々ある訳ですから・・・ |
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ミステリではないかもしれない。最後どんでん返しがある訳でもない。
でも、道尾さんらしい作品です。 作品全体を通して、道尾作品らしい窒息しそうな重苦しい雰囲気があります。 テーマは「嘘」ですかね。 正直この作品、何が嘘で何が本当かわからないです。 そして、それを象徴するのが作品タイトルにも関連する「ゾウを飲み込んだウワバミ」のくだり。読中頭から離れません。 悪意のある嘘、相手を思いやっての嘘、嘘にも色々あります。 何気に発した言葉が、思い込みや迷い、誤解を生み予想外に相手に重くのしかかる事があります。 それが思わぬ事態を生み、取り返しの付かない最悪の局面を迎えてしまう。 皆が自分のせいではと恐怖する。窒息しそうな苦しみを皆抱え込み、吐き出す事ができずに、じっと光が射すのを待つ。 登場人物中、光が射し込んだのは彼女だけか。 とすると、あれも嘘、これも嘘だった事になるけど・・・ 「龍神の雨」もそうだったけど、恐ろしいようで普通に有り得る話。 こういうの描かせたら上手いなぁ。 |
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うわぁぁぁ出たぁ!!、辻村深月の真骨頂か。
いつかこういう作品に出会えるのではないかとは思っていましたが・・・出たなついに。 ついに男性読者を完全に置いてけぼりにしてしまった。 女性はこの作品を読んで共感できるのだろうか?女性なら誰しもが身に覚えがあるのだろうか? 個人的には、全ての女性がこうでないと思いたい。一部の女性が持つ女の嫌な部分という解釈をしたい。友達に対してこんなんじゃ、やってけないでしょうよ。 これを男には理解できない女の複雑な人間関係というのか?男は単純なのか? 「男に生まれてよかった」 ミステリーの部分のレビュー? 「知らん!」 |
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正直「あれっ!?」って思えます。
高野和明さんって事で手にしたこの本でしたが、もしかして新境地??って思える程、美しい物語でした。 坂上仁志さんという方との共著だったんですね。ストーリーは坂上さんの方? ミステリ色は薄くて、寧ろ恋愛小説って言ってしまってもよいでしょう。 主人公は、他人の夢の中に入る事ができる女性心理カウンセラー、ファンタジーな世界観です。 相手の(夢の中を覗かれる)男性が刑事さんってのも理にかなってるのかもしれません。 私の夢なんて覗き見された日にゃ、嫁なんか発狂しそうですもんね。「離婚よ~」ってな感じに・・・ 冗談はさておき、この作品にいたく感動したのは、こういう超能力的な力を扱っていながら、リアリティの枠を外さずに描き切っている点です。 たまには、こんな作品もいいなぁって心から思えるあったかい作品。 |
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折原一さんといえば叙述トリック。
勿論筋は通っています。よくもまぁこんなプロットを思いついたものだと感心させられます。 なのに、さほど驚け無いのは何故だろう。 上手く説明できないのですが「立体的じゃない」気がするんですよね。 隠蔽されている事実は複数あるのですが、どれも同列で絡み合っていない。 隠蔽された事実を補強するための隠蔽とか、そういう構成になっていない。 また伏線とおぼしき記述もなかったような気がしています。 「複雑なのに不親切」って事だと思うんですが、例えば「十角館」なんかだと、その時点で「あっ!やられた」て気付くじゃないですか。 この作品にはそれがないんですよ。 全てを出し惜しみし過ぎているが故に、種明かしに読者が追従していけない。 読み終えて、何だったんだろうって色々調べて整理して初めて「あ~凄いじゃん」っていう。 個人的に、こういうのってどうなのって思います。 凄い作品だとは思いますが、「十角館」「ハサミ」「殺戮」「慟哭」辺りとは、同列の評価はできないって感じです。 |
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一番肝心な謎は最後まで明かされませんが、その他の部分は、裏表紙もしくは読み始めて序盤の内にはっきりします。
「高校時代の初恋の女性と心ならずも別れなければならなかった男は、苦闘の青春を過ごした後、警察官となった。男の前に十年ぶりに現れたのは学生時代ライバルだった男で、奇しくも初恋の女の夫となっていた。刑事と容疑者、幼なじみの二人が宿命の対決を果す」 この設定だけでドキドキさせられます。 そして、事件が解決したにも関わらず残るページ数。それを考えても、事件の推理よりも人間ドラマを重視した作品と言えます。 ラストの数十ページは、かなり読み応えがあります。 最大の謎については想像するのは容易、そしてその内容についても予想通りだったのですが、その表現方法が予想を遥かに超えていでグッときてしまった。 読後には白夜行を彷彿させるようなせつなさが残ります。 |
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シリーズ前作「さよならドビュッシー」と比べるとミステリ色はほぼ皆無で音楽色を前面に打ち出しています。
というか、最早音楽青春小説と言ってしまっていいかもしれません。 主人公のヴァイオリンへの情熱と成長を楽しむ作品だと言えますが、何せ音大生という事で価値観やらが世間一般とは少し乖離している危険性をはらんでいます。 しかし、主人公は才能こそあれ金欠という現実的な苦悩を抱えており一般にも非常に感情移入しやすい設定になっています。 そんな彼に、音楽の素晴らしさ、そして演奏する事の喜び、高見を目指して奮闘する音大生が抱える苦悩とその実情を代弁させています。 「このミス」のための「さよなら~」であり、作者が本当に描きたかったのはこれだったのかなという印象です。 ミステリーの部分に関しては、殺人事件が起こる訳でもなく、楽器消失の謎を明らかにするという程度のものなので、フーダニットというよりホワイダニット。 犯人が施したトリックも最早トリックと呼べるものでもなく「何故」の部分で読者を驚かせるしくみになっていますね。 このシリーズには、探偵役として岬さんが登場しますが、この作品に関しては、主人公である晶にその大部分を委ねた方が美しかったような気がします。 わたしは「さよなら~」より、こちらの方が好きですね。 |
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ロシア革命やロマノフ王朝の事を全く知らなくても読めます。
しかし、ロシア・ロマノフ王朝崩壊にまつわる謎という歴史ミステリーであり、大半の読者には馴染みの薄いテーマではないかと思われます。 ウィキペディアなどで「アナスタシア」に関して少しでも前知識を入れた状態で読まれたら面白味は倍増するのではないかと思います。 私は、読書前半でこれは史実に基づいて描かれた作品では・・・と色々検索しました。正解でした。 御手洗・石岡コンビが登場しますが、ある地味な歴史的史実に対する考察本ですので、従来の御手洗シリーズを期待した読者には期待外れになってしまうかもしれませんね。 確かに御手洗シリーズ異端作と言えますが、違和感を感じたまま読み終えたとしたら、何か勿体無い気がしますね。 史実と空想を、作者らしい豪腕で見事に融合させていますよ。 エピローグが、読後感を一気に引き上げています。 そのエピローグ、特筆できる内容って訳ではないのですが、そこまでの話がかなり暗く、悲しい話ですので・・・ |
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防災コンサルタント榎本、弁護士青砥コンビの密室犯罪を題材にした中・短篇集です。
気楽に読める作品ですので、読者にとっていい暇潰しになるとは思うのですが、作者にとってもこのシリーズは暇潰しなのでは・・・と感じてしまう、そんなシリーズです。 「黒い家」や「青い炎」と同じ作者の作品にはとても思えません。 完全に密室トリックが主眼となっており人間ドラマが描かれていないのです。 犯人は物語の前半で早々に明らかにされます。フーダニット要素は完全にゼロです。 それどころか、犯人が密室を作るに至った経緯や心理状態などもしっかり描けておらず、トリック解明に躍起な印象です。 そのトリックに関してもマニアック過ぎて、「凄い」ではなく「へぇ、そんな事が出来るんだ・・・で?」止まりです。 密室トリックモノが好きな読者にとっても面白い内容ではないのではないでしょうか。 青砥さんの存在意義もイマイチ不明で、完全にお笑いキャラになっています。 ギャグ作品と割り切る事ができれば楽しく読めるのかもしれませんが、やはりこの作者には「黒い家」や「青い炎」のような作品を期待してしまうので・・・ |
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作者の作品は3作目。
「扉は~」「水の迷宮」同様、限られた空間、限られた登場人物で繰り広げられる物語。 その中で、論理展開、謎の解明、そして自分達の中にいる犯人を見つけるという流れです。 しかし、この作品は前述の2作品とは少し違う。 それはハイジャック中に密室殺人が起こったという設定だという事です。 同じ事を感じられたレビュアーの方も多いようで、主要登場人物を除く本来大多数を占めるはずの人質の皆さんが人形扱い。 事件発生現場のスケールに見合わない。どこかマンガみたいです。 事件の背景にあるカルト思想の設定も、結局腑に落ちる形の説明がないので最早ファンタジーの世界です。 また、蚊帳の外にいるキーマン「師匠」に対する描写が圧倒的に足りないので、個人的に「変なおっさん」止まり。 なのでハイジャックの動機なども納得できるものではなく、知的面々の論理展開というより「変人の集い」になってしまっている印象です。 せめて犯行動機であるあの「奇跡」に対して、もう少し納得できる形での描写があれば、評価も変わっていたのですが・・・ |
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扱われる作品テーマといい、それをここまで広げて描き切ることといい、これぞ宮部みゆきという作品。
模倣犯のような疲れるような長さもない、火車と違ってそれなりに話に起伏があって退屈さを感じない。 ならこれがベストかと聞かれるとノーなのだ。やっぱ模倣犯や火車の方がいいのだ。 何故だろう?不思議だ。宮部みゆきの社会派作品は、読了時にどっぷり疲れていないと読んだ気がしないのかも知れない。 現代社会の毒を上手く描いています。 人間の持つ怒りや嫉妬、不安、不満、孤独や憎しみなどなど、そんな「暗」の部分の根深さ、恐ろしさ。 誰しもが身に覚えのあるそんな感情の爆発が産む恐怖、そんな「名もなき毒」を誰しもが持っているという事なのだろう。 原田いずみのようなモンスターは確かにいますね。特に最近の若い世代に多い気がします。(ゴメンネ、若い人) 携帯やゲーム機の普及といった時代背景も大いに影響しているようには思いますが、我々親世代にも責任の一端はあると感じています。 「普通に生きることが立派」この言葉、かなりグッと来ましたね。 |
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タイトルの意味を考えると、作中にもあった「人間誰しも平等ではない」ってな感じの事が作品テーマなのかなとも思えるのですが、
読んだ感じでは、最先端技術に頼り切りの現代社会へのアンチテーゼな気がしました。 タイトルとテーマが合っていないのではという違和感を感じずにおれません。 そして、どちらが主眼だったとしても、何れにしても主張として「弱い」気がしましたね。 題材は面白いと思います。 先見の明のある作者の事ですから、DNA登録なんてリアリティがありますし、まるでノンフィクションであるかのように読めます。 読み始めは、先が知りたくてページをめくる手が止まらないのです。 しかし読了後に読み応えは余り感じないという・・・ この作者の作品によくある傾向なのですが、外れじゃない、でも当たりじゃないっていう一冊。 導入部で読者をグッと引き付けるのですが、謎解きの部分が物足りない・・・って感じです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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ユニークなタイトルと装丁から容易に想像できるように文体は軽く、テンポもよくリーダビリティも高い。
しかし、扱っているテーマは重く、作品としての骨格は意外としっかりしています。 刑法39条を扱う作品にしては、やや軽い印象は拭えませんが・・・ また終盤のどんでん返しの連続と、ミステリーとしての構成も非常に練れているように思います。 しかし、何故か中盤以降バイオレンスになってしまっている。 正直我慢できなかった。作者の狙いが全く理解できなかった。何の効果があったのだろうかと疑問に思う。 ここでマイナス3ポイントです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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