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陰気な私は地球を回さない さんのレビュー一覧

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レビュー数33

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No.33: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

双頭の悪魔とは

学生アリスシリーズを読むのは何年ぶりだろうか、登場人物の特徴等は全く覚えていないが、このシリーズがとても楽しいものだったことだけは記憶している。本作も例に漏れずあっという間に読めてしまった。非常にボリュームのある大作であるが、分量は一切気にならない。読者への挑戦状は3つも用意されており、3度も事件の解決を楽しませてもらえる、非常に贅沢な1冊だった。

「双頭の悪魔」とは見事なタイトルに思う。川を隔てて存在する2つの村、そこにはかつて川の氾濫をおさめるためにそれぞれの村から生贄を用意させていたという言い伝えがある。そんな村にやってきた主人公一行は大雨により橋が壊れてしまい、互いの村を行き来できなくなるどころか2手に分断されてしまう。そしてそれぞれの村で殺人事件が起き互いにどのように絡み合うのか非常に興味をそそられ、最終着地も見事だった。
そんな本作の良かったポイントはこれだけ多くの登場人物が出てくるのに、一人ひとりをしっかり描き切ったことだろう。それぞれの人物が個性的で、この手の作品によくある、誰が誰だかわからないといった事象は一切無かった。本格ミステリではストーリーは非常に退屈だといったことが珍しくないが、このシリーズでそのようなことは未だ経験していない。
双頭の悪魔 (創元推理文庫)
有栖川有栖双頭の悪魔 についてのレビュー
No.32: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

久しぶりの犬飼隼人

犬飼隼人の作品は本作で2作目だが、前作を読んだのはもう4年も前のこと。正直に言うと犬飼隼人がどんなキャラクターであったか全く覚えていなかった。それでもしっかりと物語を楽しむことができた。1作品が非常に短い短編集なので、多くを描き切っているわけではない。そこを物足りなく感じる人がいるのもわからなくもない。

一方でミステリーとしては「7つの毒」のいずれも一級品だと思う。1作品毎が長編として読みたいと思わされるほどの完成度ではないだろうか。

最後に7色の毒といったタイトルからも読後感は苦々しい内容でもあるのだが、最後の最後で晴れやかな気持ちで読了できた。短編1つをとっても本作を通しで見ても、最後の着地が上手い作家だとつくづく思わされる。
七色の毒 刑事犬養隼人 (角川文庫)
中山七里七色の毒 刑事犬養隼人 についてのレビュー
No.31:
(8pt)

正義なのは誰?

すごく面白いのだが、序盤は読んでいて平和警察の横暴っぷりにイライラさせられた。正義を語る平和警察であるが、実際はただの尋問と処刑を趣味にした鬼畜といった感じだ。彼らは何のために危険人物を取り締まっているのだろう?と思わされるほど、全くの無実な人々を痛めつけるために遊んでいるようにしか見えない。
だがそんな彼らも自らが正義だと盲信し、仕事をしているのだと分かってくる。多くの人が自分の仕事は正しいと思っているかもしれないが、実際には自分もしくは会社の都合を押し付けているだけということは少なくないように思う。正義とは一体何なのかといったことを問いかけているような側面も本作にはあった。とはいえ目に見えて平和警察は悪役であり、いかに平和警察をやっつけるかに主眼は置かれる。
そこで登場するのが警察内部の真壁鴻一郎だ。彼が非常に格好良く、実際的な主人公のように映った
火星に住むつもりかい?
伊坂幸太郎火星に住むつもりかい? についてのレビュー
No.30: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

大作の第1部

外国の小説を読む場合、アメリカやイギリス等といった我々にとって馴染みの深い大国を除いてその国に関する多少の下調べは有意義だ。主要な都市や人口、経済規模、その国特有の文化や特徴程度は抑えておいたほうが楽しく読書できると思う。
本作の舞台スウェーデンに関する世間一般のイメージはどのようなものか。日本人からすると、経済水準が高く高税率高福祉の社会民主体制や、世界でもいち早く女性の参政権を認めた点等から男女平等の意識が比較的強い国、といった印象の人が多いのではないだろうか。よく北欧諸国の政治は模範のように扱われ、日本も彼らの年金制度を模倣しようとしていると言った話を耳にする。そんなスウェーデン(少なくとも私はスウェーデンについて良い点しか耳にしたことがなかった)にも様々な問題があり陰となる面も当然ある。そんな部分を浮き彫りさせる社会派といった印象を本作から受け取った。

主人公でありジャーナリストのミカエルは、ある富豪実業家であるブルムクヴィストに関するデマを掴まされ名誉棄損で禁固刑を言い渡される。そこからブルムクヴィストの弱点を握っているこちらも実業家のヘンリック・ヴァンゲルの依頼を引き受ける。彼の依頼は失踪した親族の行方を調べて欲しいとのこと。
そして衝撃の展開からまさかまさかの連続。上下2冊の大作であるが、正直に言って面白くなってくるのは下巻に入ってからだった。それまではただのミステリーとしか思っていなかったが、先ほど書いたような社会派の印象が強くなっていくのが下巻からだ。
私が本作の特徴に感じたのが、女性に暴力を振るう男性がたくさん出てくることだ。各部の冒頭にはスウェーデンにおける女性の○○%が〜といった挿入があるが、決して意味のない物を書いたりはしていない。経済水準が高く幸福度が高いと聞くスウェーデンでも日本と同様に、もしくはそれ以上に悲しい犯罪が起きているのかもしれない。どれだけ行政の体制が良くても、そこに暮らす人々は個々に自我を持った人間であり、社会に縛り上げられているわけではないといった印象を受けた。

作者であるスティーグ・ラーソンは人権派のジャーナリストであったようだが、ミカエルにも同様の印象を受けた。ジャーナリストがこれほどかっこよく映る作品に出会ったのは初めてかもしれない。
あとがきにはしっかりと3部作であると書かれていた。第1部だけでも十分に面白かったが、謎は残っており完結していないとのことだった。この続きを読むのもそれほど後にはならなさそうだ。
ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 上
No.29:
(8pt)

どこかへ旅立ちたくなった

この本をこのタイミングで読んだのは、もうすぐ今住んでいる街を離れ新しい場所へ移住するかもしれないからだ。これから行く先はどんなところなのか、ワクワクしているのだがそんな旅の気分を早く味わいたいと思い手に取った一冊。
旅は普段の生活から離れられ嫌なことを忘れる浄化の意味があると思っている。そういう意味では読書と同じような感覚だ。読者も普段の生活とはかけ離れた本の世界を旅しているのだから。読書ばかりではなく、時には書を捨て街に出る本当の旅もいいかもしれない。そんな気持ちにさせられた。

非常に爽やかで、少し恥ずかしくなるぐらいの素直な内容が心地良かった。おかえりのように真っ直ぐな気持ちで日本各地を回れるのは本当に幸せなことなのだろう。
旅屋おかえり
原田マハ旅屋おかえり についてのレビュー
No.28: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

臓器移植の社会派だって教えてくださいよ

臓器移植について触れる社会派ミステリーの側面もあった。毎度思うが、あらすじにその辺りのことを書いておいて欲しい。こういうのを読むつもりでは一切無かったが、良い方に転じた。同じことを「カエル男」でも感じた気がする。

古手川刑事?どっかで出てきたっけ??といった感じで、古手川刑事については全く思い出せなかったが、どうやら「カエル男」にも登場していたようだ。読書後にこのサイトを見ていたらわかったことだが。

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切り裂きジャックの告白 刑事犬養隼人 (角川文庫)
No.27:
(8pt)

もっと知りたいアイスランド

その国のことを知るのにミステリーほど適しているものはない、とあとがきだかどこかに書いてあったが、たしかに本書はアイスランドという北欧にある小さな島国を知ることに一役買った。ファミリーネームを持たない国民で構成された、わずか人口30万人強の小国は独自の文化を持つ。その魅力を存分に感じることができた。ストーリーとしてもアイスランドという日本の地方都市にも満たない人口の少ない国であるからこその話であったのではないか。
なかなか馴染みのない人や街の名前が出てくるが、それがまた新鮮で旅行に行ったような錯覚にも陥らせてくれる。

ミステリーとしてもかなりの完成度だ。私の1番のお気に入り作家が同じようなテーマを持つ作品を書いているが、本書の方が何年も前に世の中には出ている。意外性は決してないが、物語に引き込む力は圧巻だった。エーレンデュルという警察官はどこかフィリップ・マーロウに似ているような気もするが、作風は決してハードボイルドではない。この主人公も私の中で輝いた魅力を放っていた。シリーズ物のようなので、他の作品にも手を伸ばしてみたい。

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湿地 (創元推理文庫)
アーナルデュル・インドリダソン湿地 についてのレビュー
No.26:
(8pt)

現実と幻想の交錯のようだが

戦争に敗れた国の話を描いた本作は、あらすじからは全くストーリーが想像できず、読み進めていけばあまり伊坂幸太郎の作品とは思えないようなファンタジー感が新鮮だった。猫が主人公で、話し声が人には聞こえないというところは「ガソリン生活」に似通ってはいるか。

後進的なとある国は鉄国からの支配を受けるようになり、その中でさまざまな抵抗を見せながら、過去にあったクーパーと呼ばれる杉の木の怪物の話を混ぜてくる。そしてもう一つの軸が仙台の公務員である男がこの国の近くにさまよってしまい、猫から話を聞く場面だ。この2つがどう混ざり合うのか、いつ猫はこの男と出会ったのか、この辺りが注目してしまうポイントだろう。
正直オチとしてはイマイチでしかなかったが、それでも高評価とするのは斬新な世界観に引き込まれたことが全てだ。非常に面白く読めた。
夜の国のクーパー【新装版】 (創元推理文庫)
伊坂幸太郎夜の国のクーパー についてのレビュー

No.25:

螢 (幻冬舎文庫)

麻耶雄嵩

No.25: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

小説の枠にとらわれない新しさ

話の導入がオカルトサークルの合宿ということで、序盤はかなり退屈した。というのも、私自身オカルトには一切興味関心はないからだ。延々と続く記述に飽きかけたが、読み終わった感想としては非常に好印象だ。恐ろしい雰囲気の中でいつ殺人が起きるのかとても緊張感があり、没頭して読書することができたのが良かった。

正直あまりにも人工物めいているとも思う。本格物であるのに細かなポイントについて曖昧であることは確かに気になる。しかしそれでも、その他のインパクトでぼかされてしまったような感じだ。

ちなみにだが、登場人物が長崎県や石川県の地名であることには、意味はなかったようだ。

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螢 (幻冬舎文庫)
麻耶雄嵩 についてのレビュー
No.24:
(8pt)

面白さ全開!だけど尻すぼみ

冷静になって振り返ってみると、なかなかに振り切れたストーリーだと思う。その辺りを気にさせないのはさすが伊坂幸太郎なのか?世界観がいつものようであり彼らしい。久しぶりにかなり読書にのめり込むことができた。そこだけ切り取ると10点満点でもいいのかなと。
それでもこの点数なのは、あまり捻りを感じない終盤があったからだ。伊坂幸太郎という作家に対して異常なまでの期待があるからこそ、いい意味でもっと裏切って欲しかった。少し贅沢かもしれないが、それだけ大好きな作家であるので厳しくなってしまう。

この作品を語る上でグラスホッパーについて触れないわけにはいかないだろう。続編とは見聞きして知っていたが、ここまで直接的にリンクしているとは思ってもいなかった。グラスホッパーを読んだのは数年前だが、本作を読みながら色々と思い出すことができた。それだけで贅沢な一冊だ。

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マリアビートル (角川文庫)
伊坂幸太郎マリアビートル についてのレビュー
No.23:
(8pt)

溢れ出るスクエアエニックス感

いやあ面白かった。ストーリーがどうとかではなく、その世界観とラゴスの強靭な精神を通した描写が面白い。たった250ページ程度で、旅をしているラゴスの20歳過ぎあたりから生涯?70歳程度までを描いている。数行の間に数年たったというような日記形式であるから、あっという間に読めてしまった。
読んでいて、常にまとわりついてきたのがファイナルファンタジーのイメージだった。当然ラゴスは自分の思い通りに動かないので、ゲームをプレイしているような感じではないが、その世界にいるような感じである。ドラゴンクエストでもいいが、私のイメージでは少し違う。こういった小説ってありそうで意外とない。そんな新鮮さからぐいぐいハマっていった。
旅のラゴス (新潮文庫)
筒井康隆旅のラゴス についてのレビュー
No.22: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

佐方さんを忘れていました。

「最後の証人」を読んでから1年半ほどが経過していた。いまいち佐方がどのようなキャラクターであったか思い出せなかった。さらには、佐野という刑事が佐方だと思って読み始めていた。
正直言って、この作品を読んでも佐方という人がどのような人物なのか掴めなかった、というのが本音だ。外からの視点で固めたが故に、だらしのない身だしなみしか印象が残らなかった。ストーリーもそんなに高評価なのか?と疑問もあった。しかし、「本懐を知る」でそんな評価も一変。著者はこれが書きたくて、伏線を書いたのかと思うほど。心に響かせるのが上手い作家さんだなと、前作を読んだのと同じ感想を抱いた。いや本当に気持ちがいい。人の魅力を前面に出した良作だと思う。
検事の本懐 (角川文庫)
柚月裕子検事の本懐 についてのレビュー
No.21: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

そこあるのはピクニックなんてかわいいものじゃない

何故だろう。特に何かが起こるわけでもなく淡々と進んでいくのに、これほど魅力的な作品には滅多に出会うことはない。友達が少なく、真面目な恋愛もしてこなかった私としては、全てが輝いているように見えた。こんな高校生活を送ってみたかった。
そして登場人物がみんな大人だ。高校生であるにも関わらず、私なんかより遥かに大人だ。こんな人になりたいなぁと思うような登場人物ばかりだった、と社会人になった私は思う。私ならこの学校、すなわち歩行祭のゴール地点に凱旋門を建てたい。

恩田陸氏の作品は初めて読んだ。文章がとても美しい印象を受けたので、他の作品も読んでみたくなった。

余談ではあるが私の親友が恩田陸氏と同じ高校の出身ということで、歩行祭については知っていた。彼もこのようなイベントを経験しているのかと思うと、非常に羨ましく思う。
夜のピクニック (新潮文庫)
恩田陸夜のピクニック についてのレビュー
No.20: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

池井戸潤ってこういうの書くんだ?

池井戸潤氏の作品といえばいつも展開が読めてしまうが、それでも読まされてしまう。意外性ではなく、なんとも王道のストーリーでも面白い作家だと勝手に思っていた。へぇ、こういうのも書くんだと驚かされた。
まず読んでいて短編集なのかと思わされた。違います、途中でやっとミステリらしさが出てきます。あまりミステリ作家という認識はしていなかったが、本作はミステリとしても一級品だ。

銀行に就職しなくて良かったと思うが、どんな会社もこんな感じだろうと私は思う。明日からも頑張ろうと思わされる一冊。
シャイロックの子供たち (文春文庫)
池井戸潤シャイロックの子供たち についてのレビュー
No.19:
(8pt)

America first!

来日中のアメリカ副大統領が日本人夫妻を殺害してしまう。その事実を隠蔽するために、現場をアメリカ大使館別館としアメリカ領土とする。アパートの出入りにそこを通らなければならない住民は、パスポートが必要な生活を強いられる。なんとも突拍子も無い設定が魅力的であった。

この物語を面白くしている一つの要因がリズムの良さだろう。アパートの住人やその関係者等々、複数の視点が目まぐるしく入れ替わり、スピーディな展開が繰り広げられる。また一冊を通して、文章一文ごとに改行をするといった独特な書式がそのリズムを助長していた。その奇抜な絵面とストーリー設定が見事にマッチしていたようにも思う。ストーリーの意外性も十分にあり、非常に面白く読むことができた。
唯一のマイナスポイントはディテールの弱さである。どうも雑な印象は拭えない。伏線を異様に張り巡らす割には、それをうまく活かしているようには感じられなかった。これは、アメリカの公務員の仕事っぷりが雑すぎて、結果としてストーリーを雑にしたのではないだろうか。

全体的に、序盤はユーモラスな作品かと思ったが、段々と少し重たくなってくる。良くも悪くも裏切られたかな。
国境の南 (双葉文庫)
赤川次郎国境の南 についてのレビュー
No.18: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

私はピエロでした。

一見重そうなあらすじに、暗い物語。しかしその中に見出せる優しさ。それらが合わさることで独特な雰囲気を醸し出していて、かつグイグイ引き込んでくれる魅力的な物語でした。正直、読み始めて中盤までは、「シャドウ」よりも後に刊行された道尾氏の某作品と面影が重なりましたが。

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シャドウ (創元推理文庫)
道尾秀介シャドウ についてのレビュー
No.17:
(8pt)

テロについて考える一冊

テロが頻繁に起こるようになった日本を描いた本作。序盤は心理描写を通して、テロに対していろんな考え方があるんだと学ばされました。弱者を見捨てている社会に反発を感じて少しだけテロリストに心を寄せながらも、関係のない人を巻き込むことに憤りも感じる。でもその弱者が存在することも仕方がないのかもしれないし、自分には何もできないといった色んな葛藤が存在しました。広い視野や他者の考え方に触れるのが読者の醍醐味だと思っているので、それが良かった点です。それが段々と中盤から終盤にかけて、エンターテイメント色が強くなって行く印象を受けました。そのおかげでまとまりが足りないようにも思いますが、話の面白さは格段と加速して行きます。パズルのピースがはまっていく感覚という表現が相応しい一冊ではないでしょうか。

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私に似た人
貫井徳郎私に似た人 についてのレビュー
No.16: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

このタイトルの意味とは

私が伊坂幸太郎の作品で1番好きなのは「チルドレン」ですが、それを連想させるような温かな連作短編でした。小説を小説で例えるなんてナンセンスですかもしれませんね。

短い話の中で語られるわずかな出来事から芋づる式に新たな話が繰り広げられていく、この作家は何でも物語にできてしまう。恐ろしいです、一語たりとも読み飛ばせません。最後の締め方も余韻があって美しく感じました。丁寧に読まないと頭に靄がかかりそうですが、書きすぎないところに「らしさ」がありました。

早く人生のバケーションに入りたい。
残り全部バケーション (集英社文庫)
伊坂幸太郎残り全部バケーション についてのレビュー
No.15:
(8pt)

村田ワールド全開

命や恋愛観に関する短編4作品、なんて言い方はできそうもなく、血なまぐさい異色な世界観のお話です。

表題作の「殺人出産」は、10人子供を産んだ「産み人」は誰か1人を自由に殺めることを認められ、この殺意のおかげで人口を維持できていると「殺人」を肯定的に捉えた世界を描いています。「産み人」でない人が殺人を犯すと「産刑」に処され、永遠に子供を産み続けなくてはなりません。奪った命を自らの命を絶つことで償うのではなく、新たな命を生み出すことで償うというのです。
この作品は意外にもSFの要素が強いです。ほとんどの女性は避妊手術を受けており、性行為は快楽のみのためであって生殖行為とは乖離して考えられています。また、男性であっても人工子宮を使って帝王切開で子供を産むことができます。
どんな発想からこの作品を作り上げられるのか、凄いなあとしか言いようがありません。著者の独壇場についていけないかと思いきや、すぐに馴染むことができこの世界観に浸っていました。

「殺人出産」のみだったら10点満点なんですが、「トリプル」という作品はどうも理解不能でツッコミどころが多く、読んでいて苦痛を感じたので評価減。気色悪さに吐き気を催されました。
若者の間で性別関係なしに3人で付き合うことが主流になったという設定の物語ですが、興味を持った方は是非。
殺人出産 (講談社文庫)
村田沙耶香殺人出産 についてのレビュー
No.14: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

見事なまとまり

物語を通して視点となるのは緑のデミオ。この独特の感性が楽しく唯一無二です。車自体は運転手の意のままに動くしかないのですが、それぞれの車が考えて車同士で会話する世界観が良かったです。具体的な車種がたくさん登場するので、車に興味のない人はイメージが湧きにくいかも。

複数の事件が絡まり合う本作は、ボリュームがありつつも無駄が一切ない、見事なまとまりを見せて綺麗に締められる素晴らしい一冊でした。
車が欲しくなる(・ω・)

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ガソリン生活
伊坂幸太郎ガソリン生活 についてのレビュー


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