夜の国のクーパー
- 特殊設定ミステリー (5)
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書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点7.40pt |
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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
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伊坂幸太郎の10冊目の長編小説。猫が喋り、鼠が交渉する世界で起きた戦争と国家支配と住民の不思議な物語である。 | ||||
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戦争に敗れた国の話を描いた本作は、あらすじからは全くストーリーが想像できず、読み進めていけばあまり伊坂幸太郎の作品とは思えないようなファンタジー感が新鮮だった。猫が主人公で、話し声が人には聞こえないというところは「ガソリン生活」に似通ってはいるか。 | ||||
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人間の根底にある醜さと優しさをテーマに、日常と非現実的な世界が錯綜しながら話が進む。 | ||||
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妻に浮気された男が会った1匹の猫。 | ||||
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いやあ、面白かったよ | ||||
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※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
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伊坂氏の作品をこれまで大分読み進めてきました。初期のものから22作読み進め、これで23作目。 本作は2012年の作品。2000年の「オーデュボンの祈り」はじめ初期の疾走感に満ちた雰囲気から考えると、大分落ち着いた筆致かなと感じました。 とはいえ、洒脱さや奇想天外感は今回も健在で、十分堪能させていただきました。 ・・・ 本作、いい意味で切れ目がありません。 目次も章立てもなく、途中途中で猫のマークで節のストップがあるだけ。トム君がメインキャストですからね。 ・・・ また構成も、三つの場面を行き来します。 一つは猫のトムが語る、彼がいた国が鉄国に占領される状況。一つは猫のトムと、仙台の公務員の「僕」とが会話する場面。そしてもう一つはクーパーの兵士が遠征に行く場面。 状況がかなり異なる上、断片的な情報のみが与えられるため、欠けた部分を埋めるべく初めは読み進めました。そして、その埋まる部分が増えていくにつれ、今度は三つの場面の繋がりが分かってくると、物語の全体像が見えてきて、これまた気持ちよくて止まらなくなる。ミッシング・パーツをもっと埋めたくて、展開を知りたくて、更にページを手繰る手を止められなくなる。 この読ませるテクニックも伊坂マジックと言えましょう。 ・・・ もう一つ。 伊坂作品では、何というか、人間の良き部分に信念のある性善説的なキャラづくりが物語を方向づけている部分があると思います。 今回でいうと、猫のトム。 本能から鼠に飛びかかってしまうのですが、おのが国を占領される最中に<中心の鼠>から、今後鼠を狩ることをやめてほしい旨、団交を申し出される。 鼠たちは狩られるリスクを冒して猫のトムに賭けたわけですが、その態度はトムをして 「疑うのをやめて、信じてみるのも一つのやり方だ」(P.300) と語らしめます。 この信じることの可能性は、パッとしない仙台の公務員「僕」が、浮気した妻を今後信じてゆくかどうかという事で一つの道を示しているように思います。 難しいことではあるのでしょうが、そこを敢えて信じてみるのは、文字通り一つのやり方であり、そういう生き方もあっていいんだと思います。 また猫のトムが、本能から鼠にとびかかりたいのを少しづつ押さえていく様。これもまた理性の可能性を寓意的に示しているようにも思えました。 ああ、うまく表現できないのですが、伊坂氏はこういう「人の力」みたいなのを本当に上手にストーリーに練りこんでくるのですよ。で、私はこういうのが好きなんです。 ちなみにトムは猫ですが、まあ喋って考えることができるという時点で既に人と同等ですよね。 ・・・ ということで伊坂作品を堪能しました。 未知なるクーパーと戦う+国中を塀で巡らす、という当初の描写で、すわ進撃の巨人か、と思わせましたが、全きツイストに私の予想は見事外れ、思っても見ない結末となりました。あっぱれな結末。 戦争敗北・政治(王族)腐敗というひんやりした設定は、「魔王」や「モダンタイムス」などにみられるファシズム的ネガティブエッセンスと通底しますが、本作はそうしたひんやり風味を残しつつ、どこか明るいユーモラスさが漂うエンターテイメント小説に仕上がっていると感じました。 | ||||
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巻末に(文庫版付記)として、著者がこんなことを語っています。 《どうせ小説を読むのであれば、聞いたこともないような「とんでもないホラ話」がいい。しかも、現実社会とどこか地続きのものがいい。ずっとそう思ってきたので、この『夜の国のクーパー』が書けたことは本当に達成感があります。》p.447 「とんでもないホラ話」として、話の中にぐいぐい引っぱり込まれていく面白さがありました。読み終えた後味も良かったです。 出てくるキャラクターの中では、猫の〈トム〉君が一等良かったっすね。しゃべる猫なんてのがいたらこうであろうという、実に親しみの持てるキャラでした。 話の終盤、謎がするすると明かされるくだりで二つ、びっくりサプライズがありました。 ひとつは、ある人物の正体について。もうひとつは、ここでは異邦人である人間の〈私〉と、この異世界に関わるあることについて。 詳しくは言えないけど、後者のからくりには全くびっくり。心地よく驚かされましたね。英国の諷刺(ふうし)小説の名作のこと、思い浮かべました。 文庫本巻末の解説、松浦正人さんの「敗戦と占領をめぐる緊迫の物語」も読みごたえあります。でもこれ、《本書を読み終えたかたのみを対象に書いていくことになりますので、どうかご諒承ください。》p.454 とある文章が後半を占めてますし、本作を読み終えたあとにすでて読むのが良いかもです。まっさらな白紙の状態で本作の世界の中に飛び込んだほうが、より楽しめる気がいたします。 私が本書を読んだのは、『ミステリースクール』(講談社)てガイドブックの中、【特殊設定】担当の杉江松恋さんが取り上げていらしたから。その作品紹介の文章を読みまして、「へえっ! 面白そうじゃん」てんで、手にとってみました。 | ||||
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読み終わった後に、この本をギュッと抱きしめたくなりました 現代社会を生きるために大切なことが、そこかしこに散らばる、ユーモラスで温かく、優しく、切ないお話です ギスギスしていた心を、静かな風がソッと撫でて行くような、そんな気持ちになりました Kindleで購入しましたが、書籍として手元に置いておきたくなる作品です こんな気持ち、久しぶりです | ||||
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いくつかの視点があり、文体自体もどことなく他の伊坂作品と比較して硬い印象(著者が完成までにかなり苦労して作り上げている印象)で進む本書ですが、中盤あたりから本来の伊坂幸太郎らしく、ぐいぐいと面白くなってきます。 『ガソリン生活』では自家用車の視点による自家用車一人称小説というまさかの構成でしたが、本書では猫の「トム」の語り(章の冒頭に猫の絵)と、妻の不倫から家を飛び出した「私」(章の冒頭に男性の立ち姿の絵)と、クーパーの兵士である「ぼく」(章の冒頭に歩く男性の姿の絵)の3つの視点で構成されています。 猫のトムはアニメ『トムとジェリー』同様ネズミを追いかけ壁に激突、ぺしゃんこになるといったパロディーもあったりしますが、本書の構成として猫の視点を入れることで、猫だからこそ見ることができる場面の描写が可能となり、だからこそ猫の知る真実が人間には届かない、といったもどかしさを感じさせるなど、小説を面白くする要素となっています。 この猫のトムは「きっと僕が死ぬことがあっても、それは非常に残念な時ではあるがいつかやってくる場面ではあるだろう、その時にも、鼓動を止め動かなくなった僕の体を、僕の尻尾がそっと撫でてくれるのではないか」と考えたりする、なかなか文学的思考をする憎めない存在です。 特にネズミたちとのやりとりがとても良いです。 さて、本書における最大のテーマはレビュータイトルにも書いた「自分が正しいと信じ、疑うことさえ想像しなかった事象について、疑ってみるべきではないか」ということかと思います。 このテーマは本作に限らず伊坂幸太郎作品の多くの作品でも見られるものですが、本書ではこの言葉が随所に登場します。 ネットが浸透した現代社会では、間違った情報を信じ込んだがための誤った正義感に基づく個人攻撃などが問題となっています。そういった社会に対する伊坂幸太郎らしい警鐘だと受け止めました。 | ||||
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人間以外の語り手の視点を通して人間社会を描くのは、著者がよく使う手法であるが、本作ではその語り手が猫となっている。その語りが時と場所を目まぐるしく変えて展開して読者の混乱を招くが、それが全て後半に続く主人公の物語への伏線となっている。猫の目を通した人間社会の描写は現実社会の問題点を炙り出す様に示唆に富んでおり、この難解な小説で著者が意図する現代社会の課題の指摘には共感を覚えた。 | ||||
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