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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1359件
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弁護士として25年間働いた後に引退しミステリー作家となったという年齢不詳の作家のデビュー作。各種新人賞を受賞するなど高評価を得た、正統派の青春ミステリーである。
自堕落な母親と自閉症の弟を実家に残して家を出て、一人暮らししながら大学に通っていたジョーは、授業の課題で年長者にインタビューし半生記を書く必要に迫られ、苦し紛れに訪れた老人介護施設でカールに紹介された。末期がんで余命幾ばくも無いカールは、三十数年前に14歳の少女を強姦殺害した罪で収容されていた元受刑者だった。カールの話を聞き、ヴェトナム戦争時のカールの戦友と話したりするうちに、ジョーはカールは無罪ではないかと疑問を持つようになった。カールが命あるうちに真実を探り出し、無罪を証明したいと思ったジョーは、隣に住む美人女子大生ライラとともに事件の真相解明に乗り出したのだったが・・・。 基本は犯人探しミステリーであり、フーダニットの本筋をキチンを抑えたストーリーである。それに加えて、主人公のキャラが、思わず応援したくなる鮮烈で爽やかでストレートなところが青春ミステリーとして際立っている。事件を解明する手法は不器用そのもの、ライラに対する恋心の表現も不器用だが、弟に対する一途な愛情は感動的である。さらに、ジョーやカールの秘めてきた過去の悲しみ、それぞれの正義感などがハートウォーミングで、読後感がとても清々しい。ストーリー展開もスピーディで、エンターテイメント作品としての完成度も極めて高い。 ミステリーファンならジャンルを問わず、どなたにも安心してオススメできる佳作である。 |
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2001年のCWA賞にノミネートされた、カリン・スローターのデビュー作。ジョージア州の田舎町の検死官サラ・リントンシリーズの第一作である。
街のダイナーのトイレで発見された盲目の女性教授シビルの惨殺死体には腹部に大きく斬りつけられた十字の傷があった。発見した小児科医で検死官のサラ・リントンは検屍解剖のとき、さらにおぞましい現実に直面する。サラの別れた夫である警察署長ジェフリーを中心に事件に取り組む捜査チームには、シビルの双子の姉で署の最年少女性刑事であるリナも加わった。犯行の様態や使用された薬物、凶器などは判明したものの犯行の動機や背景が全く分からず、捜査が難航しているうちに、さらに第二の被害者が出てしまった。静かな田舎町を恐怖に陥れた連続殺人犯は、隣人の中にいる・・・。 残虐な殺害シーンが印象的なサイコ・サスペンスで、犯人の異常性は同種の作品と比べてもかなり際立っており、犯人探しのストーリーだけでも十分に楽しめる作品である。それに加えて、本作の主要登場人物たちが織り成す人間ドラマが複雑で面白い。分かれた夫婦であるサラとジェフリーの関係、サラの秘められた過去、被害者シビルと刑事リナの家族の関係性などが微妙に重なり、絡み合い、単なるサイコ・サスペンスでは終わらない深みがある。 異常な犯罪と犯人探しのサイコもののファンはもちろん、残虐シーンが嫌いでなければ、幅広いジャンルのミステリーファンにオススメできる。 |
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2017年のカンヌ映画祭で高評価を得た同名映画の原作。文庫本110ページのすべてに緊迫感がある、中身の濃いノワール小説である。
元海兵隊員、FBI捜査官で、現在は売春を強要されている少女たちの救出を生業としているジョーのもとに、誘拐された13歳の上院議員の娘を助け出すという依頼があった。救出を妨害するものは躊躇無く金槌をふるって排除する凄腕のジョーは無事に少女を取り戻し、上院議員の待つホテルへ連れて行ったのだが、なぜかそこに上院議員はおらず、待ち構えていた悪徳警官たちに襲撃された。自らは傷を負わされ、助けた少女を再びさらわれてしまったジョーは、猛烈な反撃を開始した・・・。 あっという間に読みきれる中編小説だが、最初から最後まで、いかにも映画の原作らしい映像的で徹底的にハードボイルドな作品である。あらゆる周辺エピソードを削った、まさにノワールの極致のすごみがある。普通にエンターテイメント作品として楽しむには短か過ぎるし、息苦しさを覚えるだろうが、独特の味わいを持った作品である。 アンドリュー・ヴァクスのファンならオススメだ。 |
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新宿をホームとする女性探偵の活躍を描いた「村野ミロ・シリーズ」の4作品を集めた短編集。シリーズの始まり頃の作品から書き下ろしまで、村野ミロという複雑な性格の女性探偵を理解するのに役立つ周辺エピソードが綴られている。
表題作「ローズガーデン」は、ミロの夫である河合博夫の視点から高校生時代のミロを描き、衝撃的な過去が明らかにされる。残り3作はミロが引受けた仕事を通して、欲望の街・新宿に生きる人々のしたたかさと人間くささが描かれ、同時に、長編ではハードボイルドに徹しているミロの意外な人間くささが滲み出している。 シリーズ読者にはオススメ。それ以外の方には、さほど刺激的な作品ではない。 |
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1992年のアンソニー賞最優秀長編賞を受賞した、警察ミステリー。英国の古都バースを舞台にしたダイヤモンド警視シリーズの第一作である。
バース近郊の湖で全裸の女性遺体が発見された。捜査を担当するのは、コンピュータや科学捜査が嫌いな、昔かたぎの頑固刑事ピーター・ダイヤモンド。聞き込みや推理を重視した捜査は難航し、身元の割り出しにも苦労していたのだが、地元の大学教授ジャックマンが妻の失踪を届け出たことから身元が判明。当初は夫であるジャックマン教授が最重要容疑者として取り調べられたのだが、確かなアリバイがあった。さらに、元テレビ女優だった妻の奔放な私生活、教授が川で溺れた少年を助けた出来事などが重なり、事件の真相解明は混迷を深めてゆくばかりだった・・・。 デブで頑固者の老刑事(ダイヤモンドは41歳だが、雰囲気は老刑事である)という、欧州の警察小説では王道のパターンで目新しさは無いが、舞台となったバースの情景、登場人物の性格描写などが丁寧で、じっくりと面白さが伝わって来る。著者が得意としてきた時代ミステリーとは異なり、もっと幅広い読者に受け入れられる作品である。 警察ミステリーファンには文句無しにオススメだ。 |
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無声映画時代のハリウッドを舞台にした、コメディタッチのミステリー。1983年(邦訳は1958年)の作品で、全体的に古臭さがあるのは仕方ないところ。
イギリス人のヴォードヴィリアン・イーストンは、コメディ作品が主力のハリウッドの映画会社キーストン撮影所に、間抜けな警官隊「キーストン・コップ」の一員として雇われた。そこで出会った新人女優アンバーと仲良くなり、楽しく仕事をしていたのだが、ローラーコースターを使ったスタント撮影中にコップ仲間が死亡する事故に遭遇。さらに、アンバーの母親が殺害される事件が起き、アンバーが容疑者とされたことから事件捜査に巻き込まれ、一筋縄ではいかない撮影所長、監督、女優や喜劇俳優たちを相手に、ドタバタ劇を繰り広げることになる。 犯人探しが中心になった構成だが、謎解き・犯人探しミステリーというより、軽快なアクション小説であり、青年の成長物語でもある。 無声映画時代のコメディに興味がある方にはオススメだ。 |
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ちょっと幻想的な7本のお話を集めた短編集。
それぞれに特徴的な仕掛けがある話ばかりで、どれも長編になればきちんとしたホラー、ファンタジー、サスペンス作品になるのだろうが、短編のため、そこまでの完成度は無い。表4の解説にある「ストーリーテリングの才に酔う」というのが、この本の楽しみ方である。宮部みゆきのミステリーを期待すると、肩透かしされた気分になるだろう。 |
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ピーター・ラヴゼイの代表作である「ダイヤモンド警視」シリーズの第4作。密室ミステリーの面白さをテーマにした、軽めの警察ミステリーである。
世界最古と言われる切手「ペニー・ブラック」が、バースの郵便博物館から盗まれた。数日後、ミステリー愛好者の集まり「猟犬クラブ」の会合で会員のマイロが読み上げようとしたディクスン・カー「三つの棺」の中に、「ペニー・ブラック」がはさまれていた。さらに、運河に浮かぶボートで暮らしているマイロが帰宅してみると、船内では猟犬クラブの会員であるシドの死体が横たわっていた。死体があった船室は施錠されており、1本しかない鍵はマイロが所持しており、しかもマイロには完璧なアリバイがあった。どうやって密室での犯行が可能だったのか? ダイヤモンド警視たちと猟犬クラブ会員たちは、知識と推理を総動員して密室トリックの解明に挑戦し、犯人との知恵比べに乗り出した・・・。 犯行の動機や背景は二次的で、もっぱらミステリーの歴史と密室トリックにまつわるあれこれを楽しむ物語である。今どきはそれほど人気があるとは言えない密室ものだが、ミステリーファンならだれもが通過儀礼として一度ははまる面白さを持っていることが再確認できた。さらに、バースという街の情景、登場人物たちの個性が見事に描かれており、シンプルな物語ながら読み応えがある。 シリーズ読者であるか否かを問わず、多くのミステリーファンにオススメできる傑作エンターテイメント作品である。 |
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ドイツでは警察ミステリーのシリーズで人気が高い作家の日本初登場。凄腕の女性刑事弁護士が主役という、これまでにない設定のエンターテイメント・ミステリーである。
20人の職員を抱える弁護士事務所の代表で刑事事件が専門のラヘル・アイゼンベルクのもとを、ホームレスの少女が助けを求めて訪れた。ホームレス仲間の男が若い女性を殺害した容疑で逮捕されたので弁護して欲しいという。金にはならないだろうがマスコミの注目を集めるのではないかという思惑で弁護を引受けたラヘルが拘置所で出会った容疑者は、彼女の元恋人で優秀な物理学教授だった。彼は何故ホームレスになり、容疑者になったのか? 検察側が持ち出した証拠は万全に見え、これを覆すのは至難のわざと思えたのだが、ラヘルは違法スレスレの調査も辞さず、あらゆる手段で元恋人を救い出そうとする・・・。 元恋人を救出する裁判劇がメインストーリーで、それに絡んで来るのがコソボから脱出しドイツに避難しようとした女性が襲撃された事件。二つの事件は、意外なカタチでつながり、二転三転しながら衝撃的なクライマックスを迎えることになる。どんでん返しというより、一筋縄では行かない話のねじれが面白いのだが、逆転を重視するあまり逆転の背景や理由がややおろそかになっている。ヒロインのラヘルを始め、主要登場人物のキャラクターは上手く造形されているのだが、その言動に深みが無いのが惜しい。 これまでのドイツ・ミステリーにはないスピーディーで波乱に富んだストーリー展開で読ませる作品であり、英米系の弁護士もののファンにも十分に楽しめるエンターテイメント作である。法廷ものファンというより、サイコ・ミステリーファンにオススメだ。 |
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各作品の周辺登場人物が別の作品の主人公になっていくという構成の短編集。全作品すべて下ねたで笑わせる、古い言葉で言えば艶笑作品ばかりである。
登場人物がみんな下流というか、しょぼくれた人物ばかりで、そこに面白みを感じれば楽しめる作品である。 個人的には面白かったが、オススメ作品かと言われれば躊躇せざるを得ない。 |
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キャシー・マロリーシリーズの第9作。子供が被害者になるという、いつもの犯罪捜査パターンだが、舞台をルート66に設定してアメリカ大陸を横断し、マロリー自身のルーツを辿る物語でもある。
マロリーの自宅で女の死体が発見され、しかもマロリーの行方が知れない。女性は自殺したのか、マロリーが殺害したのか? 居ても立っても居られないライカーはクレジットカードの利用歴から、チャールズと一緒にマロリーの後を追いかけることにした。改造したフォルクスワーゲン・ビートルでルート66を走るマロリーの目的は、顔も知らない父親が書き残した手紙を元に父の旅路を辿ることだったのだが、ルート66上で子供たちの遺骨が発見された事件に遭遇したことから、その捜査に巻き込まれて行った。捜査現場では、無能なFBI捜査官と地元警察との軋轢があり、さらに行方不明の子供たちを探したい親たちのキャラバンは無秩序に膨張し、次第に状況は混沌として来るのだったが、氷の女・マロリーはそんな周囲とは関係なく犯人を追い詰めていく。 アメリカのマザー・ロードと言われるルート66を舞台に、新旧さまざまな家族の物語が展開されるのだが、基本はスーパー刑事・マロリーの超人的な活躍という、いつものパターンである。今回は、それに「父親探し」という、ややウェットな部分が加えられ、マロリーの人間性に多少の変化が見られるところが新しい。 マロリーのルーツを巡る物語だけに、これまでのシリーズを読んでいないとストーリーが理解しにくいし、登場人物のキャラクターも前作までの背景を前提にして描かれているので、シリーズ読者以外にはオススメできない作品である。逆に言えば、シリーズ読者には必読の作品と言える。 |
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2018年のMWAとアンソニー賞の最優秀長編賞、CWAのスティール・ダガー賞という、ミステリー三冠を獲得した話題作。テキサス州東部の田舎町を舞台に人種差別犯罪に立ち向かう黒人テキサス・レンジャーの苦闘を描いた、臨場感あふれる傑作ミステリーである。
黒人ながらテキサス・レンジャーとして働いていたダレンは、知人の黒人がヘイト犯罪に巻き込まれるのを止めようとしたことが原因で停職処分を受けていたのだが、友人であるFBI捜査官グレッグに事件調査を頼まれた。事件は、人口わずか178人の田舎町のバイユーで6日の間に、シカゴから来た35歳の黒人の男性弁護士と地元の若い白人女性の死体が相次いで発見されたというものだった。人種差別が色濃く残っている町で、当然のことながらダレンは保安官をはじめとする白人たちから歓迎されないばかりか、地元の黒人たちからもよそ者として扱われ、たった一人で難しい捜査に挑むことになった。 人々の尊敬を集めるテキサス・レンジャーでありながら、黒人ということで直面せざるを得なくなる困難、偏狭な田舎町の濃密な人間関係が作り出すさまざまな軋轢、アメリカの恥部とも言うべき人種差別犯罪の卑劣な実態など、事件を取り巻く背景が実にリアルに丁寧に描かれている。さらに、事件自体の構造も単純にヘイトクライムとだけは言えない複雑さを含んでおり、非常に読み応えがある。 警察ミステリーファンだけでなく、幅広くミステリーファンにオススメしたい傑作だ。 |
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30代の働く女性を主人公にした、2006年発売の短編集。
5作品それぞれに、職場でも人生でも踊り場に差しかかった女性たちの生きづらさと心意気が生き生きと描かれていて飽きさせない。 改めて、奥田英朗の人間観察力と物語作りの上手さに感嘆した。 |
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大阪府警シリーズの第5作。1989年の作品だが、2018年に読んでも全く古くささを感じさせない、傑作なにわノワール作品である。
殺害された入院中の暴力団幹部は右耳を切り落とされ、そこには他人の小指が差し込まれていた。次に死体が発見されたバッタ屋のオーナーは舌を切り取られ、口には暴力団幹部の耳が押し込まれていた。問題の小指が行方不明の贈答品販売業者のものと判明し、事件は暴力団がらみの連続殺人事件と判断した大阪府警捜査一課の刑事たちが関係者の周辺を洗っていくと、さらなる犯行が危惧された。捜査側が警戒を強める中を、犯人は最終目的に向かって一直線に進んでいくのだった・・・。 冒頭からラストシーンまでゆるみが無く、どんどん引き込まれていく、密度の濃い作品である。基本的には犯人探しの警察ミステリーだが、正体不明(途中で正体は判明するが)の犯人側からのストーリーが挟まれることで、一気にサスペンスが高まって来る。やっぱり、ノワール小説は犯人像次第ということを再確認した。 黒川節というのだろうか、テンポのいい大阪弁の会話も楽しく、黒川作品ファンなら大満足すること間違いない。ハードボイルド、サイコミステリーのファンにもオススメしたい。 |
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本国はもちろん、ヨーロッパ、日本でも人気が高まっている「刑事オリヴァー&ピア」シリーズの第6作。少女殺害遺棄事件をきっかけに、テレビや警察をも巻き込んだ凶悪犯罪を暴いていく社会派警察小説である。
フランクフルトの街中を流れる川で長期間にわたって虐待されていたと思われる少女の死体が発見された。オリヴァーのチームの懸命の捜査にも関わらず身元不明のままで二週間が過ぎた頃、テレビの女性人気キャスターが何者かに激しく暴行され、瀕死の重傷を負うという事件が発生。キャスターは独善的で敵の多いキャラクターだっただけに、犯人探しは混迷する。さらに、今度は人気キャスターの相談相手になっていた心理療法士が襲撃された。一連の事件は、同一犯によるものなのか? ピアを中心とするメンバーたちが捜査の結果行き着いたのは、想像を絶する巨悪の存在だった。 少女殺害事件の捜査から始まったストーリーは、あちらこちらに飛び火し、最後に無理やりまとめられたような落ち着かなさがある。前半でいろいろ張られていた伏線が、いつの間にやら回収されてしまっていた。全体に話を広げ過ぎた感じで、警察ミステリーとしては落ち着きが悪い作品である。 ただ、主要登場人物たちの人間関係の変化という意味では見逃せない一作であり、シリーズ読者には絶対のオススメ。北欧系の警察小説ファンにも、安心してオススメできる。 |
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ジャン・レノ主演で日本でもヒットしたフランス映画の原作。派手な事件と個性的な登場人物でどんどん突っ走っていく、サスペンス作品である
フランス東北部の山間の大学町で発生した、残酷な連続殺人事件。そこから300キロほど離れた田舎町で発生した、小学校への盗難事件と墓荒し。無関係に見えた二つの事件捜査が、それぞれに個性的な二人の刑事の執念深い捜査によって交わり、忌まわしい真実が明らかにされるという、ありがちな構成のミステリーだが、二人の刑事の個性が際立ち、しかもストーリー展開が早いのでぐんぐん引き込まれていく。そのスピードとサスペンス、アクションはまさに映画向きである。 主人公の一人、ニエマンス警視正はまさにジャン・レノをイメージしながら造形したのではないかと思うぐらいぴったり。映画を見た後に読むのでも、読んだ後に見るのでも、どちらでも楽しめるだろう。ただ、派手な事件の様相の割に、犯罪の動機や背景が粗雑で、ミステリー小説としてはやや評価を下げたくなった。 ピエール・ルメートルなど、近年人気のフレンチ・ミステリーの先駆けとして一読しておいて損は無い。 |
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北海道の田舎町(夕張市をイメージした)を舞台にした連作短編集。いつまでたっても何も起きないような、寂れる一方の町でも起きる人々の交流を暖かく描いた人情話である。
田舎ゆえの生きづらさと田舎ならではの優しさが、ちょっとしたエピソードと細やかな心情描写で丁寧に描かれており、まさに流行らない理髪店で渋茶を飲みながらの井戸端会議をしているような読後感である。 宮部みゆきの人情話などがお好きな方にはオススメだ。 |
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ハリー・ホーレシリーズの第3作。日本では2009年に刊行されていたのが、新たに集英社文庫として再登場したもの。第4作以降のシリーズへとつながっていく作品である。
暗殺に使われることが多い高性能ライフルがノルウェーに密輸されたことを知ったハリーは捜査を進め、購入したのは第二次対戦中にナチスドイツとともに闘った軍人ではないかという疑惑を抱く。さらに、銃密輸の背後には「プリンス」と名乗る男がいることもつかんだ。信頼する同僚エッレンと共に捜査を進めたハリーだったが、ひょんなことから「プリンス」の正体を知ったエッレンが悲劇に見舞われてしまった。一時は落ち込んでしまって廃人のようになったハリーだったが、密輸組織に関連すると思われる殺人事件が相次いだことから立ち直り、再び事件の解明に走りだすのだった・・・。 上巻はストーリーが現在と1940年代前半を行き来して背景説明が続くため、やや冗長だが、下巻になるとストーリー展開は一気に加速し、タイムリミットのある暗殺ものならではの緊迫感のあるサスペンスになる。ノルウェー版「ジャッカルの日」と言えば分かりやすいだろう。 「ネメシス」以降のハリーを理解する上では欠かせない作品であり、シリーズ読者には必読。シリーズ未読なら、本作から読み始めるのがオススメだ。 |
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リンカーン・ライム・シリーズの第13作。今回はイタリアを舞台にした犯罪捜査ミステリーである。
ニューヨークで白人ビジネスマンの誘拐事件が発生。犯人は被害者が首を吊られそうになっている動画と被害者の苦痛の声をサンプリングした音楽をサイトにアップし、コンポーザーというクレジットを付けていた。ライムたちは監禁場所を突き止めて被害者を救出したのだが、コンポーザーには逃げられてしまった。その二日後、イタリアでリビア難民の男性が誘拐される事件が発生。現場には、ニューヨークの事件と同じ犯人を示唆する証拠が残されていた。イタリアの捜査当局から資料提供を求められたライムたちは、資料を送るのではなく、本人たちがイタリアに飛んで捜査に関わろうとしたのだが、担当検事に関与を拒否されてしまった。さらに、アメリカ領事館からアメリカ人の若者がレイプ容疑で逮捕された事件への協力も依頼され、コンポーザー事件に専念できなくなったライムたちだったが、困難な状況にもめげず、犯人を追跡し、事件の真相に迫っていくのだった・・・。 舞台がイタリアに移り、いつものメンバーではアメリアとトムしか登場しないこともあって、捜査状況がこれまでの作品とはかなり異なっている。証拠の徹底した科学的分析から犯罪を解明する理屈っぽさが少なく、お得意のどんでん返しも小粒で、普通の警察小説っぽいテイストになっており、あくどいまでのリンカーン・ライム節に辟易してきた読者には読みやすいだろう。また、イタリア側の捜査陣のキャラクターが秀逸で、人間ドラマとしての完成度は、いつもの作品より高いと言える。 ライム・シリーズ読者には必読。警察小説ファンには安心してオススメできるエンターテイメント作品である。 |
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「ミスター・メルセデス」で始まった「退職刑事ビル・ホッジス三部作」の第二作。前作同様、犯人は分かっていて、次の犯行を防ぐためにホッジスたちが奮闘する私立探偵もののバリエーション作品である。
物語の発端は、隠遁している老作家の家に強盗が押し入り、作家を殺害した上に現金と未発表原稿を奪ったこと。老作家の愛読者だった強盗の主犯のモリスは、仲間割れした後、現金と原稿をトランクに詰めて隠した。30数年後、トランクを偶然に見つけたのが13歳の少年ピートだった。実は、ピートの父はメルセデス事件に巻き込まれて負傷し、働けなくなっており、生活苦から夫婦仲が悪化し、離婚の危機に直面していた。トランクで見つけた現金があれば両親が仲直りでき、元の家庭が戻るのではないかと考えたピートは、現金と原稿を家の中に隠し、現金を少しずつ父親宛に郵送することにした。それから4年、現金が尽きたため、ピートは今度は原稿を売ることを考え始めるのだが、ちょうどそのころ、服役していたモリスが仮釈放で出所し、トランクを回収しようとする。隠しておいた宝物を盗まれた盗人と偶然宝物を見つけた少年の手に汗握る攻防戦が始まった。当然のことながら、ホッジス、ホリー、ジェロームの三人は少年ピートの助っ人として問題解決に乗り出していく。 ストーリーの中心はピートとモリスの原稿争奪戦で、ホッジスたちの役割りはサブの扱いである。さらに、老作家の原稿の重要性、価値を強調するためのエピソード類が多いため、全体にやや緊迫感に欠ける。特に、上巻ははっきり言って退屈な部分がある。それでも、ピートとモリスが交差する辺りからはサスペンスが盛り上がり、満足できるレベルに仕上がっている。 前作を受けたエピソードが多いので、できるだけ第一作「ミスター・メルセデス」から読むことをオススメする。 |
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