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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1393件
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本作がミステリー・デビューというイギリスの新進作家の警察ミステリー。猟奇的な連続殺人に挑む黒人女性警部補の奮闘を公私両面から描いた、意欲的な作品である。
テムズ川の川岸で相次いで発見された、切断された人体の一部は、異なる複数の人物のものだった。しかも遺体には、7人を殺害して切り刻み、ばらばらにまき散らした殺人鬼「ジグソー・キラー」が残したのと同じシンボルが刻み込まれていることが判明した。現在服役中のジグソー・キラーことオリヴィエとの関連を探るために、事件を担当するSCU(連続犯罪捜査班)のヘンリー警部補は刑務所でオリヴィエと面会することになった。二年半前、オリヴィエ逮捕時に瀕死の重傷を負ったヘンリーはいまだにPTSDに悩まされており、捜査とともに自身の心の傷の克服にも立ち向かうことになる……。 人心操作に長けた凶悪なシリアルキラーと捜査官の複雑な関係というのは、サイコ・サスペンスではよくあるパターンだし、捜査チームの人間関係を複雑にするのも、最近ではよく目にする構成だが、本作はヒロインが有色人種というところが新しい。女性・人種という二重のハンディを背負いながら果敢に立ち向かうのが共感を呼んだのか、英国をはじめヨーロッパで高く評価され、すでに第二作が刊行されるという。 警察ミステリーのファン、サイコ・サスペンスのファンにオススメする。 |
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今や大ベストセラー作家となった浅田次郎の初期長編。終戦を前に日本再興のために隠された財宝を巡る話で、M資金などの詐欺話か徳川埋蔵金などの宝探しかと見せかけながら、実は日本とは何か、日本人の本質とは何かを問いかける司馬遼太郎的な物語である。
平成の初めごろ、破産寸前の不動産屋・丹羽は競馬場で出会った爺さんから一冊の手帳を渡される。一緒に酒を飲んでる途中で爺さんが死んでしまったため、仕方なく関係者になってしまった丹羽だったが手帳には「終戦直前に900億円(時価では200兆円以上)の金塊、宝石を隠した」という記載に驚き、にわかに宝探しを始めようとする…。 現在と終戦直前を行き来しながら進む物語は一見、歴史ミステリー、埋蔵金探しの様相を見せながら、なぜ巨額の資金が隠されたのか、作戦を実行するには誰が、どんな思いで携わったのか、そしてその巨額の資金は誰が継承すべきなのかを問いかける作品へと変貌する。つまり、日本とは、日本人とは何なのかを追求した魂をめぐる物語として結末する。同時に、冒険小説であり、謎解き物であり、大胆な歴史ミステリーであり、つまり一級品のエンターテイメント作品である。 現代史ミステリーというより日本人論の一冊としてオススメする。 |
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ダルグリッシュ警視シリーズの第7作で、三度目の英国推理作家協会賞シルバー・ダガー賞を受賞した作品である。
小さな教会で大臣を辞職したばかりの下院議員・ベロウン卿が死体で発見されたのだが、そこには浮浪者の男も死んでおり、二人ともベロウン卿のカミソリでのどを切られていた。ベロウン卿は自殺したではないかと思われたが、ベロウン卿のスキャンダルを示唆する怪文書を見せられて、相談を受けていたダルグリッシュが調べを進めると、死の数週間前からの卿の周りで不可解なことが数々起きていた。貴族の一員として広大な屋敷に暮らす名門ベロウン卿一家には複雑な家族関係があり、家族それぞれが殻にこもった暮らしを営み、誰もが容疑者になりうるようだった。ダルグリッシュを中心にしたチームは人間心理に関する鋭い知性と感性で、こじれた人間関係の闇に分け入り、様々な嘘を暴き、ついにアリバイ崩しに成功する。 殺人事件の謎解きとしても一級品、それに加えて警察チーム、被害者一族の人間ドラマとしても一級品。さすがにCWA受賞作である。特に、ダルグリッシュのみならず、同僚であるマシンガム、ミスキンの人間的な悩みにかなりのボリュームがさかれていて、単なる英国本格派ミステリーだけに終わらない、現在の警察ミステリーにつながるテイストが印象的である。 ダルグリッシュ・シリーズ、P. D. ジェイムズのファンはもちろん、重厚長大なミステリーのファンにはぜひおススメしたい。 |
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ドラマの原作となった本邦初登場のイギリス女性作家の長編ミステリー。シングルマザーとエリート夫婦の微妙な三角関係をベースにした心理サスペンスと見せかけて、実は大胆不敵な結末でショックを与える意欲的なエンターテイメント作品である。
ロンドンの精神科クリニックで秘書をしているルイーズは、バーで意気投合した男性とキスをした翌日、新しくボスになった精神科医・デヴィッドを見て仰天する。なんとデヴィッドは前夜、キスをした相手だったのだ。落ち着かない気分にやきもきするルイーズだったが、二人の仲は深まっていった。さらに、デヴィッドの魅力的な妻・アデルとも偶然に友達になった。浮気相手として妻には隠しておきたいデヴィッドの思いは当然だが、アデルの方でもルイーズとの関係を異常に拘束欲が強い夫から隠しておきたいという。この奇妙な三角関係を続けるうちにルイーズは、デヴィッドとアデルの夫婦関係には隠された一面があるのではないかと疑問を抱いた。そして、ルイーズの疑惑が頂点に達した時、想像を絶する展開が待っていた! イヤミス系を読みなれた読者でも驚かずにはいられない、衝撃的なエンディングで、「結末は、決して誰にも明かさないでください」との惹句は嘘ではない。というか、この結末のために書かれた作品と言うべきだろう。登場人物、エピソード、ストーリーはどれも、既視感があるのだが、最後の最後で作品価値を見せる。 ドメスティックな心理サスペンス、イヤミス系のファンにオススメする。 |
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アメリカでは大ベストセラー作家と言われるコーベンの2020年の作品。70歳を超える女性刑事弁護士が、謎多き天才調査員とともに失踪した女子高校生を探すうちに予想外の秘密を暴いてしまう、サスペンス・ミステリーである。
冠番組を持つ売れっ子刑事弁護士のヘスターは孫息子のマシュウから「同級生でいじめられっ子のナオミが姿を消したので探して欲しい」と頼まれる。ヘスターは亡き息子の親友で調査員のワイルドに協力を依頼する。ワイルドは34年前に森の中で一人で暮らしていたところを発見されたという特異な過去を持っており、いまだに社会になじまず、森の中で孤立した生活を続けていた。個性が強すぎる二人だが、力を合わせることで誰もが想像もしなかった真相にたどり着くのだった。 主要な二人をはじめ、登場する人物がそれぞれかなりなキャラクターの持ち主で、人数が多く関係が錯綜する割には読みやすい。ただ物語の肝になるのが何なのか? いじめ、SNSの闇、性差別、DNA検査、親子・家族の在り方などなど、背景になる要素、エピソードが多すぎてストーリーの骨格がぼやけてしまっている。最後の問題解決方法も、イマイチ納得しずらい。一言でいえば、まとまりの悪さが残念というしかない。 |
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新聞記者からウェブ・ジャーナリストに転身したジャック・マカヴォイが主役を務める、マカヴォイ・シリーズの第3作。殺人の容疑者にされたマカヴォイが、元恋人で元FBI捜査官のレイチェルとタッグを組んで真相を探り出す、サスペンス・ミステリーである。
かつて一度だけ関係を持ったことがある女性が殺害され、マカヴォイはロス市警の刑事から事情聴取された。犯人扱いされたマカヴォイは潔白を証明するために自らDNA採取に応じるとともに、事件に興味を覚えて調査を始めると、同じような手口の女性殺害事件が複数発生しているのが判明した。極めて優秀なプロファイラーでもあるレイチェルに協力を依頼し、被害女性たちが同じ会社に自分のDNA分析を依頼していたという共通点を発見し、さらに追及しようとした所でマカヴォイは逮捕されてしまう。幸い、勤務するニュースサイトの社主や弁護士によって不起訴で釈放されたマカヴォイはあらゆる手段を使って、ロス市警より先に真相にたどり着こうと奮闘する……。 自身の誤認逮捕をきっかけに真犯人を探すフーダニット、ワイダニット、ハウダニットがメインで、背景としてDNA分析の商業化、無秩序への警告がある。本作の犯人の残酷さ、異常さは最近のコナリー作品の中でもかなりのインパクトがあり、さらにストーリー展開の緊迫感もなかなかのもの。クライマックスまで息を抜けないサスペンスが持続する。ボッシュ・シリーズ、リンカーン弁護士シリーズとは多少テイストが異なるものの、コナリー作品らしい真直ぐな骨格を持った作品である。 コナリーのファンはもちろん、社会派ミステリー、サスペンスのファンにオススメする。 |
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オーストラリアの人気作家・ロボサムが「生か、死か」に続く二度目のゴールド・ダガー賞を受賞した作品。異常な経歴から心に深い傷を持つ少女と凄絶な過去を抱える臨床心理士が殺人事件の謎を解く長編ミステリーである。
子供の時、両親と妹たちが実の兄に殺されるという過去を持つ臨床心理士のサイラスは、男の腐乱死体が発見された家の隠れ部屋に潜んでいるのを発見された少女・イーヴィの診断を依頼された。児童養護施設に保護されており、攻撃的で誰とも心を通わせないイーヴィだが、実は高い知性を持ち「人がついた嘘を見破る」という能力を備えていた。サイラスは、一筋縄ではいかない狡猾なイーヴィを里親として自宅に引き取り、試行錯誤しながら心を通わせようとする。同じころ、イギリスフィギュアスケート界の新星と呼ばれた15歳の少女・ジョディが行方不明になり、暴行殺害される事件が発生。サイラスは心理学の専門家として警察から捜査への助力を依頼される。捜査が進むにつれ、優等生と思われていたジョディの隠された一面が明らかになり、犯行の動機も犯人像も謎が深まるばかりだった…。 「天使と嘘」のタイトルが示すように「よい少女」と「悪い少女」が主役になるのだが、イーヴィとジョディのどちらがどっちなのか? 二転三転するストーリー展開はスリリング。さらに極めて特異な過去を引きずるサイラスとイーヴィの二人の鏡の裏表のような心理戦もサスペンスがある。ただ、物語の構成としては「生か、死か」には及ばない。本作は新シリーズの第一作ということで、今後の展開に期待したい。 心理ミステリーのファンにオススメする。 |
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「グラント郡」シリーズの第三作。地元の大学で起きた複数の殺人事件を巡る警察ミステリーだが、真相解明と同じかそれ以上に主要な登場人物たちの人間模様が印象的な作品である。
大学の敷地内で橋から飛び降りたように見える男子学生の遺体が発見された。遺書らしき書置きが見つかり、しかも以前に自殺未遂を図っていたことから自殺と思われたのだが、現場に臨場した検死官サラに付いてきた妹のテッサが襲われて重傷を負ったこともあり、警察署長ジェフリーとサラは他殺も視野に入れた捜査を開始した。さらに、遺体の第一発見者である女子学生が自室で銃を使って頭を吹き飛ばしているのが発見された。連鎖自殺なのか、連続殺人なのか? 死亡した二人の関連が見つからない捜査は混迷するばかりだったが、自分の元部下で大学の警備員であるレナの態度に不審を抱いたジェフリーは隠されている関係性を探し出そうとする…。 フーダニット、ワイダニットの警察ミステリーの本筋を押さえながら、不幸な過去を引きずらざるを得ない人間の複雑さ、悲しさを追求したヒューマンドラマとしても成功している。また、サラとジェフリーの元夫婦を中心にした人間関係の変化もシリーズ読者には見逃せない。真相が解明されたとき、やや違和感が残るのがちょっと残念。 スローターのファンには絶対のオススメ。サイコ・サスペンス、警察ミステリーのファンにもオススメする。 |
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梁石日の代表作とも言える、実父を主人公にした自伝的長編小説。戦前に済州島から渡ってきた少年が暴力だけを頼りに戦前、戦中、戦後の大阪の朝鮮人社会を生き抜いていくバイオレンスとノワールの物語である。
主人公(作者の父親)の暴力にしかアデンティティを持てない生き方がすさまじく、その一点だけで強烈なインパクトを残す。同調圧力の強い日本人社会に安住する現代人は、想像を絶する物語に息をのむこと間違いなし。極端に好悪が分かれる作品と言える。 |
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堀内と伊達のヤメ刑事コンビ・シリーズの第4作。金塊強奪事件で消えた5億円の金塊を追って大阪から淡路島、福岡、湯布院、名古屋まで二人が走り回る痛快なバディ・ノワールである。
競売で落札した物件の占有者排除に向かった伊達は、現場にいたチンピラが金塊密輸と金塊強奪事件に関係していたこと知る。しかも、白昼堂々と実行された犯行が狂言強盗らしいと読んだ伊達は相棒・堀内を誘い、消えた金塊を横取りしようと計画した。しかし、事件に関係するのは半グレグループ、ヤクザ、怪しげなブローカーなど一筋縄ではいかない奴らばかり。はったりと暴力・知力では決して引けを取らない堀内・伊達コンビも苦戦を強いられ、二人とも負傷する羽目に陥った。それでも目には目を、歯には歯をで警察や暴力団の伝手を頼り、金塊を手に入れるのだった…。 実際に起きた事件を想起させるストーリー、いつもながらの強烈なキャラクター、テンポのいい会話とユーモアなど、読み進めるのが実に楽しい一級品のエンターテイメントである。さらに本作では、一人で暮らす堀内の自由さの影の一抹の不安も垣間見え、しみじみした味わいも加わっている。 シリーズのファン、黒川ファンには絶対のオススメ。バディもの、ハードボイルドのファンにもオススメする。 |
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中国で大ヒットし、ドラマ化もされて社会現象になったという長編サスペンス。中学生たちが企んだ完全犯罪が成功するかどうか、最後までハラハラドキドキさせる傑作ミステリーである。
成績抜群の優等生の中学二年生・朱朝陽の家に、幼馴染の丁浩と妹分だという女の子・普普が突然現れた。孤児院から脱走してきた二人は行く当てもなく、朝陽は仕方なく匿うことになった。三人でハイキングに出かけた山で撮ったビデオを見た彼らは、殺人の動かぬ証拠となる衝撃的なシーンを目撃することになった。事件は、義父母の財産を狙う入り婿・張東昇が事故に見せかけて殺害したもので、警察は張の目論見通り事故として処理したのだった。警察に通報すべきなのだが、通報すると丁浩と普普が孤児院に戻される懸念があるため三人は躊躇する。さらに、丁浩と普普が安全に暮らすための資金を、殺人犯を恐喝して得ようと三人は考えた。こうして、殺人犯と中学生の虚々実々の駆け引きが始まり、家族や警察も巻き込んで事態は泥沼化していくのだった。 張と三人の完全犯罪の企みは成功するのか否か? 一筋縄ではいかない展開で、最後まで引き付ける。さらに事件の背景となる中国現代社会のひずみがリアリティたっぷりで、「東野圭吾作品にインスパイアされた」というのがよく分かる社会派エンターテイメント・ミステリーに仕上がっている。面倒な中国人名もルビ付きで読みやすく、本文のリーダビリティがよいのも好感度が高い。華文ミステリー、侮るなかれである。 東野圭吾ファンなら高評価間違いなし。国内海外を問わず現代社会派ミステリーのファンにオススメする。 |
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フランスのディクスン・カーとして知られる(知らなかったが)アルテの1994年の作品。幽霊や怪人が登場する密室事件を名推理で解き明かす、名探偵・ツイスト博士シリーズの一作である。
ロンドン警視庁のハースト警部とツイスト博士のもとに「毎日、不審な手紙を届ける奇妙な仕事を頼まれた」という失業者と、「暗号のような言葉を残して美女が消えた」という青年が相談に来た。どちらも「しゃがれ声の男」が登場することに気づいたツイスト博士は調査に乗り出し、しゃがれ声の男からの電話でロンドン郊外の小さな村の無人の屋敷に導かれた。そこは5年前に偏屈な老人が孤独死した屋敷で、幽霊が出るとの噂があり、屋内には無数の古靴が並べられていた。しかも室内には埋葬されたはずの元住人の死体があった。ドアも窓も内側から施錠され、積み重なった5年分の埃はどこも乱れていなかった。死体は空中を飛んで来たのか? 幾重にも重なる密室の謎を、ツイスト博士は「哲学的思考」で解いていく…。 ありえないような動機と手段の犯罪で、本格謎解きミステリーのファンにはおススメできるが、現在の社会性が強いミステリーを読んできている読者には物足りないだろう。読者を選ぶ作品である。 |
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ジョー・ピケット・シリーズの第10作。山奥で遭遇した双子の兄弟に襲われ重傷を負ったジョーが自分の信念を貫くために再度、敵に立ち向かっていくアクション・サスペンスである。
家族が住む地元に帰ることになったジョーは任地での最後の仕事として単身パトロールに出て、人跡まれな奥地で不審な様相の双子の男に遭遇した。彼らが許可証を持っていないためジョーは違反切符を切るのだが、翌日、彼らに襲撃された。必死に逃げる途中で山中のキャビンに住む女性に出会い、何とか生還することができた。双子のことを調査すると不可解なことがいくつもあり、さらに2年前から行方不明の女性が関係しているのではないかと判明するに至り、ジョーは親友・ネイトの助けを借りて、再び双子と対決することになった。 事件の背景は複雑だが、メインストーリーは法と秩序と正義のためには自分のすべてをかけて戦うというジョーの生き方の物語で、まさに本シリーズの基本に立ち返った感がある。舞台となるワイオミングの山々、ジョーを取り巻く家族や友人などのエピソードも、いつも通りの読み応えである。 シリーズ読者には外せない作品であり、またシリーズ未読の人にも十分に楽しめる作品としてオススメする。 |
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スウェーデンでベストセラーになったという、54歳の遅咲き作家のデビュー作。すさまじい拷問を受けた男の発見をきっかけに判明した、猟奇的な連続殺人事件をテーマにしてサイコ・サスペンスである。
ストックホルム郊外で全裸で磔にされた上に局部を切り取られるという拷問を受けた男が発見され、その場は生き延びたものの病院で死亡した。国家犯罪捜査部のカール警部たちが捜査を始めたのだが、次々に同じような拷問を受けた死体が見つかり、連続殺人の様相を呈してきた。被害者は過去に凶悪犯罪を犯した男たちという共通点があり、犯罪組織絡みか、過去の被害者家族の報復かと疑われた。事件を知った新聞記者・アレクサンドラは独自の情報源を基に事件の背景を抉り出そうとセンセーショナルな報道を続ける。そして明らかになった事件の真相は悲惨で衝撃的なものだった…。 基本構成は犯人捜しの警察ミステリーなのだが、読みどころは事件の様相と犯行動機の方にあり、その意味ではサイコ・サスペンスである。最初にすさまじい拷問シーンで引き付け、中盤は犯人の独白で考えこませ、最後に思いもよらぬどんでん返しで驚かせるという巧みな技が光る。さらに、主要な登場人物が抱える個人的な人間ドラマも多彩で面白い。ただいかんせんオチが苦しい。大風呂敷を広げすぎて畳み切れなかったようなもどかしさを感じざるを得なかった。 北欧ミステリーのファン、「その女 アレックス」などのサイコ・サスペンスのファンにオススメする。 |
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スペインでベストセラーを記録した匿名女性作家のデビュー作。猟奇殺人事件の驚天動地の真相を描いた警察サスペンス・ミステリーである。
マドリードの公園で頭に穴をあけ、蛆虫を埋め込むことで若い女性を殺害するという猟奇的な事件が発生した。被害者は結婚を目前にした花嫁であるばかりでなく、姉も7年前に同じ手口で殺害されていたのだった。しかも、姉の事件の犯人は現在服役中だという。ということは、服役中の犯人は冤罪で他に真犯人がいるのか、それとも模倣犯なのか? この難事件を担当するのはスペイン警察捜査本部長直属の精鋭「特殊分析班」で、リーダーのエレナ・ブランコ警部をはじめとする個性的なメンバーが各々の特技を駆使し、二つの事件をつなぐ深い闇を暴いていく…。 まず第一に事件の様相が、これまでのサイコ・サスペンス作品と比べても際立って印象的なほどおぞましく、強烈なインパクトを残す。さらに、事件の真相が明らかになったとき、そこからさらに深い谷に突き落とされるような怖さが襲ってくる。読み終えても爽快な読後感は皆無だが次作を待ち望んでしまう、第一級のサイコ・サスペンスである。また、ブランコ警部をはじめとするメンバーのキャラクター、警察組織内部の軋轢、スペイン社会におけるロマ(いわゆるジプシー)族の立ち位置などのサブストーリーも魅力的。スペインでは大ヒットし、すでに3作目まで刊行されているというのも納得できる。 サイコ・サスペンス、警察ミステリーのファンにオススメする。 |
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アメリカの女性作家の初ミステリー長編で2018年のMWA最優秀長編賞ノミネート作品。ダラス市警麻薬捜査課の女性刑事が体を張って難事件に取り組んでいく、警察ハードボイルドである。
NY市警からダラス市警に転職したベティはテキサスでは数少ない女性刑事として、保守的な社会や男性警官と衝突を繰り返しながらも実績を上げてきた。ある日、チームリーダーとして臨んだ捜査が思わぬハプニングで失敗し、逮捕をもくろんでいた麻薬カルテルの大物ディーラーが逃亡、さらに殺害されるという事態に陥った。カルテルの口封じなのか、縄張り争いなのか、執念の捜査を続けるベティのもとにディーラーの頭部が届けられという脅迫を受けた…。 180㎝を超える長身、男性警官をしのぐ身体能力、男性社会の圧力にへこたれないタフな精神の持ち主であるヒロインは、さらに女性医師と同棲するレズビアンであり、燃えるような赤毛という目立ちすぎる存在でもある。それだけに周囲のすべてと戦うことになり、並のハードボイルド・ヒーローには思いもつかないハードなストーリーが展開される。その破壊力はランボーかアマゾネスかと思うほど。 アクション・サスペンスがメインのハードボイルドのファンにオススメする。 |
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「闇という名の娘」、「喪われた少女」に続くアイスランドの女性刑事・フルダシリーズ三部作の完結編。猛吹雪に襲われたクリスマス直前の時期にアイランド高原地帯の孤立した農場で起きた悲劇の事件を巡る、謎解きミステリーである。
1987年のクリスマスを目前にした猛吹雪の日に、集落から遠く離れた農場で暮らすエイーナルとエルラ夫婦の家に一人の男が現れた。こんな天候の日に人が訪れることなどありえないと思ったのだが、狩猟中に迷ったという男の言い分を信じて招き入れ、泊まらせることにした。すると、男の話はあいまいで、夜中に家の中を探っているようだった。不安を感じた夫妻は男を問い詰めようとして、逆に殺されてしまう。同じころ、フルダは若い女性の失踪事件を追っていたのだが成果を上げられず、しかも反抗的な娘・ディンマのために家庭内でも深刻な悩みを抱えていた。ここまでが、第一部。第二部は、その二か月後、エイーナルとエルラの死体が発見され、捜査のためにフルダが派遣される。そこでフルダが見つけた事件の真相は…。 第一部で思い込まされていた事件の構図が第二部で大逆転されるのが、本作の成功の要因。ワイダニットのだいご味が味わえる。本シリーズは第一作から三作へ年代をさかのぼっていくという特異な構成の三部作であり、読む前から本作で悲劇が起こることは分かっているのだが、それでもサスペンスを感じながら読み進められる。 逆年代記のシリーズなので、第三作の本書から読み始めても問題ないが、やはり第一作から読む方が断然面白い。北欧ミステリーのファンなら絶対に大満足できるだろう。 |
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2011年から12年にかけて「オール読物」掲載6作品の短編集。黒川ファンにはおなじみの書画・骨董の世界を舞台にした狐とタヌキの化かし合い話である。
常識人なら絶対に近づかないであろう「だまされた方が悪い」という世界での真剣勝負の知恵比べ。魑魅魍魎同士の金とプライドを賭けた駆け引きが面白い。騙したはずが騙されていた欲望まみれの人間の愚かしさと可笑しさが極上の大阪弁と相まって、痛快なエンターテイメント作品に仕上がっている。 疫病神、大阪府警の2大シリーズとは異なる、気楽な読み物として、今後も新作を期待したいシリーズである。 |
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ジョー・ピケット・シリーズで知られるボックスのノンシリーズ作品。コロラド州デンヴァーに暮らす平凡な男が妻と養女を守るために、西部劇の主人公のように奮闘するハードボイルド・アクションである。
デンヴァー市の観光協会に勤めるジャックは愛する妻・メリッサと8か月になる養女と幸せな日々を送っていた。しかし、養女の実父である18歳の少年・ギャレットが突然親権を主張し、養女を引き渡せと言ってきた。しかも、ギャレットの父親は地域の有力者で法曹界に影響力がある連邦判事で、三週間以内に引き渡さないと法的な実力手段を実行すると言う。法的には勝ち目がなく、何とか穏便に親権を放棄してもらいたいと願うジャックとメリッサだったが、生まれつきのワルであるギャレットは仲間を引き連れて二人に様々な嫌がらせを仕掛けてきた。ジャックとメリッサに味方する友人たちが助けてくれていたのだがギャレットの嫌がらせは止まず、ついには友人の命まで奪うに至り、ジャックは法に従うことを拒否し、銃で家族を守ろうとする…。 法と秩序より銃と情理を優先する典型的なアメリカン・ヒーロー物語である。そのために、悪はあくまでも残酷で卑劣に描かれている。自分が信じる正義のためには殺人も辞さない、まさに西部劇、日本の仁侠映画の世界である。 基本的なテイストはジョー・ピケットものと同じで、シリーズ・ファンなら安心して楽しめることを保証する。 |
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1993年~97年に雑誌掲載された7作品を収めた短編集。同じタイトルで3冊あるようだが、今回読んだのはポプラ文庫版(2016年)。
扱われているのは麻雀から手ホンビキ、ブラックジャック、バカラなど様々だが、いずれもギャンブラー心理をつかんだストーリー、心理描写で面白い。特に麻雀の読み、カジノでの必勝法などは実践的かもしれないが、ギャンブルをしない読者でも軽い読み物として十分に楽しめる。 |
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