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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1360件
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大傑作「模倣犯」から9年後、事件で主要人物だったライター・前畑滋子が再び難事件の謎を解く、真相解明ミステリーである。
事件から9年を経てライターとして再起し始めた前畑滋子のもとに、12歳の息子を交通事故で亡くした母親が訪ねて来て「息子には超能力があったのではないか。真実を知りたい」と依頼された。子を思う母の真摯さにほだされた滋子が、超能力の現れだという遺された絵を手がかりに調査を進めると、16年前に殺害され自宅の床下に埋められていたという少女殺害事件に遭遇した。娘の殺害を自供した土井崎夫妻は、なぜ娘を殺したのか、なぜそれを16年間に渡って隠し続けてきたのか? 二人の子供の死を巡り、物語は家族の愛憎、死の受容、そして再起への苦闘という壮大なテーマのドラマへ広がって行く。 事件の真相解明のプロセス、事件の背景となる状況の説得力は力強く、謎解きミステリーとして極めてハイレベルである。しかしいかんせん、事件発覚のポイントが12歳の子供の超能力(サイコメトラー)というのが、何とも残念。さらに、滋子が事件の真相を確信したのも超能力の存在を信じたからというのも、ファンタジー的で納得できなかった。それでも、最後まで引きつける物語としての魅力を失っていないのはさすがである。 「模倣犯」を読んでいてもいなくても楽しめる。超能力、サイコメトラーなどに関心がある人にはオススメだ。 |
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2004〜5年に雑誌掲載された8本の連作短編集。8年後に小惑星が衝突し地球は滅亡すると予告されてから5年後、仙台市のとある団地に住む(逃げないで残った)人びとが織り成す、8つのドラマ。突拍子もない前提の世界だが、人間らしさとは何かをゆっくりと分からせてくれるヒューマン・ドラマである。
予告が発せられた当初は人びとは混乱し、パニックによる暴動や事件が頻発したのだが、5年も経つと多少は慣れてきて、世の中は不安をはらみながらの小康状態が続いていた。団地に住んでいるのは、それぞれの事情があって逃げなかった人たちで、常にあと3年の期限を意識しながら、それぞれの日々を過ごしている。8つの物語、それぞれの主人公は死と隣り合わせの世界で、家族について、生きる意味について、将来(!)について、地球滅亡の予告など無い世界の人びとと同じように悩み、考え、行動して行く。その、皮肉な見方をすれば無駄な努力が、とても尊いものに見えてくる。設定自体はSF的なのだが、物語はまさに現在の社会を反映したヒューマン・ドラマである。 死を目前にした終末の物語だが、内容はとても明るく、ユーモラスで、良質なエンターテイメント作品である。ミステリー・ファンに限らず、幅広い読書ファンにオススメしたい。 |
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本国スウェーデンを始め北欧では大人気の「エリカ&パトリック事件簿」シリーズの第10作(表4解説)。30年前と同じ状況で発生した幼女殺害事件を巡る警察ミステリーであり、異端の者、弱者に対する暴力、恐怖を嫌悪に変換せずにはいられない人間の醜さと悲しさを描いた社会派ミステリーでもある。
フィエルバッカ郊外の農場で、その家の4歳の少女・ネーアが行方不明になり、警察、地元住民の捜索により死体で発見されたのだが、そこは30年前に同じ農場の4歳の娘・ステラが惨殺死体で発見された場所だった。ステラ事件では、ステラのベビーシッターを頼まれていた当時13歳の少女二人が取り調べられ、当初は犯行を自白したのだが後に否認、未成年だったこともあり逮捕されることはなかった。二人の少女のうちマリーはハリウッド女優として成功し、新たな映画撮影のためにフィエルバッカに戻って来たばかりだった。もう一人の少女・ヘレンは父親の友人だった年上の軍人と結婚し、地元で園芸店を営んでいた。ネーアとステラ、二つの事件の類似性に悩まされながらパトリックたちは30年前の事件も掘り起こして捜査を進めたのだが真相解明は遅々として進まなかった。そんな中、シリア難民の犯行だと断言するものたちが現われ、難民収容所が放火される事件が発生し、捜査はさらに混迷した。 幼女殺害事件の犯人探しが本筋だが、現在の事件だけでなく、30年前の事件の解明まで必要になりストーリーはどんどん複雑になる。それに加えて、外国人排斥、親子の断絶、学校でのいじめ、17世紀の魔女狩りも重要なテーマになっており、上下巻1000ページを超える大作なのだが、登場人物のキャラクターが立っていることと「人物関係図」が添付されていることで、さほど苦労することなくストーリーを追うことが出来る。 格差や差別化が激しくなり分断が広がる一方の社会に対する著者の怒りの熱量がひしひしと伝わる熱い物語だが、ミステリーとして、エンターテイメントとしての完成度が高く、読書の楽しみが損なわれることはない。 シリーズファンはもちろん、北欧ミステリーに限らない幅広いジャンルの現代ミステリーファンにオススメしたい。 |
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2004〜5年に雑誌連載された11作品を収めた短編集。平成の時代を漂う若い男たちが個性的な女たちと出会い、別れる、ちょっとおかしくて悲しげなラブストーリーたちである。
文庫200ページ余りに11作品が収録されており、1作品は20ページ弱。しかも、登場人物たちがキャラ立ちしていて話の展開が分かりやすいのでスイスイ読める。だが、作品に込められた女性たちの強さが印象的でリアリティがある。 ジャンルを問わず、面白さを求める読者にオススメしたい。 |
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2018年に発表された書き下ろし長編。双子のテレポーテーションという、ちょっと微妙な裏技をメインにした勧善懲悪ミステリーである。
すぐに暴力を振るうクズの父親と自分の身を守るのに精一杯の母親の家で虐待されている双子の兄弟。兄の優我は勉強ができる論理派、弟の風我は運動が得意な直情派という性格の違いはあるが外見はそっくりで、本人たちも二人で一つと考えていたのだが、ある年の誕生日に二人が瞬間移動して入れ替わることに気が付いた。しかも、年に一回、誕生日の日に二時間おきに入れ替わるのだ。虐待される日々の苦しさを乗り越えるために、二人はこの特殊な出来事を利用することを考えた。そして青年となった時、因縁の父親と対決することになる。 親子間の虐待がメインで、さらに学校でのいじめや嗜虐的なサイコなど、暗くて陰惨なエピソードが多く、いつもの伊坂作品のようなふわっとしたストーリー展開が無い。読み通すのが辛くなる作品である。それでも、邪悪なものを許さない基本姿勢と人のトランスポーテーションというファンタジーで、最後まで飽きさせない。 積極的にオススメする要素は少ないが、伊坂幸太郎ファンなら読んで損は無いと言える。 |
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1987年から91年にかけて雑誌掲載された6作品を収めた短編集。著者初の短編集だが、それぞれに工夫や才気を感じさせる秀逸な作品揃いである。
バブル真っ盛りの大阪で小狡く立ち回る小悪人たちと大阪府警の刑事たちが繰り広げる、ちょっとユーモラスで人間味を感じさせる犯罪小説は、関西の喜劇を見るようで肩肘張らずに楽しめる。 ミステリーファンのみならず、人情もののファンにも安心してオススメできる佳作である。 |
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2004年文芸誌に掲載された恋愛小説。ものを思うことが生きる力になることを、若い女性の恋心で表現した文芸ロマンである。
小さな港町でOL生活を送る小百合は、自分の町をリスボンだと夢想することで、非日常の世界を楽しんでいた。地味で目立たず、無理をしない、臆病な小百合を支えているのは弟が、女子なら誰もが憧れる超イケメンであることだった。それが、高校の同窓会に無理やり誘われて参加したことから、現実世界でも過去と現在が入り交じる非日常な展開に巻き込まれることになった。さらには、弟が恋した相手が、自分以上に地味で臆病そうな女だったことにも動揺し、アイデンティティの危機に陥った。そんなさなか、恋の予感を感じさせる出会いがあったのだが・・・。 全体構成が抜群に上手い。田舎の港町をリスボンだとして生きる地味なOLという設定が物語が上滑りするのを防いでいて、しみじみと面白さが沸いて来る佳作である。 性別、年齢を問わず、人生の迷い道に差し掛かっている人にオススメしたい。 |
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ジョージア州捜査局特別捜査官ウィル・トレント・シリーズの第9作(巻末解説による)。女性が主役となる暴力事件を描き続けているカリン・スローターが本領を発揮した、全編凄まじい暴力のアクションサスペンスである。
アトランタのショッピングモールで疾病予防管理センターに勤務する女性疫学者が拉致・誘拐されてから一ヶ月後、市の中心部で大規模な爆発事件が発生した。被害者救助のため現場に駆けつけたウィルとサラは、車の衝突事故に遭遇し、けが人を助けようとしたのだが、被害者のはずの車に乗っていて負傷した男たちから銃を突きつけられ、ウィルは負傷、サラは誘拐されてしまった。車に乗っていたのは逃走中の爆破犯たちで、しかも一緒にいたのは拉致されている疫学者だった。爆破犯である白人至上主義者のキャンプに監禁されたサラを救うために、ウィルと相棒のフェイス、上司のアマンダはFBIとの確執もありながらも連携し、犯人たちの目的、組織、キャンプを解明しようと必死に駆け回るのだった・・・。 全編700ページ弱、いたるところに凄まじい暴力が横溢し、読み続けるのにかなりの精神力が要求されるハードな作品である。当たり前のように身の周りに銃があり、当たり前のように市中で銃撃戦が発生する病んだアメリカ社会は、絶望的といわざるを得ない。そして、アメリカのみならず世界が同じような崩壊への道を歩んでいるとしたら、法や秩序はどこに存在するのだろうか? シリーズ最新作だが、これまでシリーズ未読でも十分に楽しめる。サイコ・サスペンス、現代社会に材をとったサスペンスのファンにオススメする。 |
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イギリスの女性作家のデビュー作。ひき逃げ殺人事件の捜査から始まった警察小説が、いつのまにかサイコ・サスペンスに変化している、不思議な構成のミステリーである。
ブリストル市の住宅街の雨の夕刻、5歳の息子を学校に迎えに行った母親が自宅を目前にしてちょっと手を離したすきに子供が駆け出し、猛スピードで走ってきた車にはねられた。道路に倒れた息子に駆け寄り半狂乱で助けを求める母親を無視して、車はその場で方向転換し、街路樹に車体をこすりながら猛スピードで逃げて行った。事件を捜査することになったブリストル警察犯罪捜査課のスティーブンス警部補たちは、犯行の悪質さに怒りを募らせ必死んで捜査を進めたが、一向に手がかりをつかむことが出来なかった。それから半年後、警察上層部は捜査を打ち切るようにスティーブンスたちに命じたのだが、納得がいかない若手女性刑事・ケイトはこっそり捜査を継続し、スティーブンスもそれを黙認した。 一方、忌まわしい事故の記憶から逃れるためにウェールズの鄙びた寒村に来た、謎の女性・ジェナは親切な地元民に助けられ、徐々に海辺の村での生活を築き上げていたのだが、常に何かに怯えながら暮らしていた。 物語の前半は捜査の進行とジェナの動向が交互に語られ、事件の全体像が見えてきたと思われたのだが、スティーブンスたちとジェナが交差したとき、物語は急展開し、さらに複雑に、ミステリアスになって行く。 ひき逃げ犯を追いかける警察小説に、捜査陣内部の人間ドラマを加味したものだと思っていると、途中から一気にサイコ・サスペンスの恐怖に引きずり込まれている。新人のデビュー作とは思えない、なかなかに歯ごたえがあるミステリーである。 警察ミステリー、サイコもののファンにオススメする。 |
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大阪府警シリーズの第3作。ベテラン刑事部長・総田と平刑事・文田の新コンビが主役の警察ミステリーである。
名神高速道路を走行中の乗用車がダイナマイトで爆破されるという派手な事件が起き、乗っていた男女二人が死亡した。捜査を担当することになった府警捜査一課の深町班では、ベテランの総長こと総田とブンこと文田のコンビは、年下の上司である東大卒のキャリア・萩原警部補と一緒に行動することになった。何かにつけ東京を持ち出して大阪を見下すような萩原に対し反感を覚えるブンだったが、総長は案外寛容な態度で接していた。死亡した二人の身元が分からず苦戦していた捜査陣だったが、ほどなくしてマンションで爆発があり死体が発見されたことから、二つの事件の関連性を見つけ、被害者の身元を特定することが出来た。さらに、高速上で死亡した女性の背景を調べるために出身地の高知に赴いたブンと総長は、事件の背景に保険金目当ての偽装海難事故があるのではないかと疑った。足を棒にして聞き込みを続ける二人を尻目に、時々行方をくらませていた萩原だったが、ある日、周囲をビックリさせる捜査見立てを持ち出した・・・。 本筋は偽装海難事故の真相解明の警察ミステリーだが、サブストーリーとしてブンと総長の新コンビの掛け合い、大阪人と東京人の文化摩擦がちりばめられている。作者本人もあとがきに「東京と大阪の文化の比較を試みた」と書いている通り、すれ違いの面白みが加わっているところが、本シリーズでの中では特色的である。もちろん、大阪の刑事ならでは緩いユーモアは健在で、謎解きミステリーとしてもきちんと納得できる起承転結である。 黒川博行ファン、大阪府警シリーズのファンには安心してオススメする。 |
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ワイオミング州猟区管理官ジョー・ピケット・シリーズの邦訳第12弾(シリーズとしては13作目)。今回から版元が代わったが訳者は同じなので安心して楽しめる、冒険サスペンス・アクションの傑作である。
ジョーの知人である地元の建設業者・ブッチが所有する住宅建設予定地で、武装した政府の環境保護局の職員2人が射殺されているのが発見された。2人はブッチに住宅建設を禁止する環境保護局からの通達を渡す目的で派遣されており、ブッチは姿を消していた。ブッチを逮捕するために、環境保護局は特別捜査官チームを送り込み、地元保安官事務所を押しのけて強引に捜査を進めようとする。パトロール中に偶然、逃亡中のブッチと会っていたジョーは、新任の上司の命令で捜査班を案内することになる。ブッチの人柄を知るジョーは事件のストーリーに納得がいかず、メアリーベスの助けを借りて背景を探ってみると、過去の因縁を引きずった暗い陰謀が見えてきた・・・。 殺人の動機の解明と、険しい大自然の中で繰り広げられる逃亡と追跡のアクションが主題のサスペンス作品である。ジョーが自分の生活圏とするワイオミング州の山の中でのアクションは、まさに本シリーズの真骨頂、いつもながら読み応えがある。さらに、事件の真相解明のプロセスもミステリーとして合格点で、家族の愛情を素直に歌い上げるところと合わせ、ジョー・ピケット・シリーズの真価を発揮した作品と言える。 シリーズ愛読者には必読。シリーズ未読のアクション小説、ミステリー小説のファンにも自信を持ってオススメする。 |
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ジョー・ピケット・シリーズの第9作(邦訳は8作目)。今回は、ジョーが猟区管理官としてより法執行機関の一員として派手な追跡アクションを繰り広げるアクション小説である。
悲惨な事件で死んだはずのエイプリルからシェリダンにメールが届いた。危険の状況にいるので電話は出来ない、メールだけで連絡するというエイプリルだったが、何とか見つけ出したいと願うジョー家族が調べてみると、エイプリルの行く先々で謎めいた殺人事件が起きており、エイプリルは犯人たちと行動をともにしているのではないかと思われた。無事にエイプリルを助け出すために、ジョーはシェリダンを伴ってエイプリルを探しに出かけ、さらには逃亡中のネイトの助けを借り、犯人たちを追跡する・・・。 エイプリルと犯人たちのパートとジョーたちのパートが交互に展開されるので、犯行の動機、社会的背景の深掘りではなく、犯人を追いつめるアクションが物語の中心になっている。さらには、死んだ少女が甦ってくるというあざとい技も使ってあり、犯人たちの犯行動機も粗雑だし、猟区管理官という特殊性を生かしたエピソードも少なく、いつものシリーズ作品とはテイストが異なっている。 ジョー一家の家族関係に大きな変化が訪れるという意味では、シリーズ読者には必読。それ以上でも以下でもない。 |
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政治家の孫が誘拐され、政権のスキャンダルが明かされる危機に陥るという、書き下ろし長編ミステリー。タイムリミットものであり、また犯人探しミステリーでもある。
総理の関与が疑われるスキャンダルの渦中にあった与党政治家・宇田の孫が誘拐されたのだが、誘拐犯からの要求は「記者会見を開き、自分の罪をすべて自白しろ」という前代未聞のものだった。孫娘を救い出すために要求に応えるしかないと決心した宇田は、それでも自身の立場や政治家である息子たちの将来を守るための術策を尽くそうとする。それに対し、総理を守る官邸側は圧倒的な権力差を武器に宇田を追いつめる。一方、誘拐事件を捜査する警察は見えて来ない犯行動機に戸惑い、一向に犯人に迫ることが出来ないでいた・・・。 記者会見までのタイムリミットが迫る中、被害者一族、所属する政党や派閥の思惑、権力闘争が絡んで事態が進展せず、じりじりとサスペンスが盛り上がる。最終的には宇田の記者会見によって孫娘は無事に解放されるのだが、事件の背景には意外な真相が隠されていた。また、宇田の次男で父親の議員秘書を務めている宇田晄司は権力争いの実相に触れ、自分の生き方を変えるようになる。本作は、誘拐犯追跡の警察小説であり、さらに政治スキャンダル小説でもあるという、二つの側面があるのだが、どちらかといえば政治小説の色が濃い構成である。事件の深層が解明されたとき、その陳腐さにちょっとガッカリした。 誘拐もののサスペンスを期待すると不満が残る。政治スキャンダルを楽しむ作品として読むことをオススメする。 |
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ジョー・ピケット・シリーズの第8作。舞台はいつも通りのワイオミングの山岳地帯だが、州知事直属の捜査官という立場になったジョーがハンター連続殺害事件を捜査するという、犯人探しミステリーである。
殺害されたハンターは、まるで捕獲した獲物を処理したように頭部が無く、木に吊るされていた。さらに、現場に残されていたポーカーチップから、他にも同じように狩猟中に殺されたハンターがいたことが分かった。犯人は狩猟に反対する狂信者なのか? 州の重要産業である狩猟を守るために、ルーロン知事は緊急対策チームを立ち上げ、ジョーに参加するように命令する。事件をきっかけに、全国的な反狩猟運動のリーダーもワイオミングに駆けつけ、落ち着かない状況の中でジョーは思い通りに進まない捜査に手こずり、自分の責任の元にFBIに拘束されている盟友ネイトの釈放を願い出て、背水の陣で難問に挑むことになった。 毎回、社会性のあるテーマを設定するシリーズだが、今回は飽食の時代における狩猟の意味が事件の背景に設定されている。ジョーは職業柄、マナーを守った狩猟を守る立場で行動する。ただ、反狩猟運動側が中途半端なため問題追及が甘く、議論が深まっていない。さらに、事件の動機との関連が薄く、やや肩透かしをくらったように感じた。 シリーズ作品としては十分に及第点で、ファンには安心してオススメできる。 |
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限られた相手だけから仕事を受ける美貌の私立探偵・上水流涼子を主人公にした連作短編集。ヒロインの美貌と助手の知力で、訳ありの依頼人からの難題を次々に解決して行く、エンターテイメント作品である。
5作品それぞれにテーマは異なるものの、意表をつくアイデアと行動力ですいすいと問題を解決して行く様は痛快である。ただ、ストーリー展開の面白さだけの作品で、背景や動機などに対する深みはないため、全体に印象が軽い。 旅のお供として、空港や駅、車中で読むのには最適である。 |
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イタリアではすでに8作が刊行され、テレビドラマとしてもシリーズ化されているという大人気の警察小説シリーズの第一作。「イタリア発 21世紀の87分署シリーズ」という帯の惹句通り、シリーズとしての邦訳を期待したい傑作警察ミステリーである。
ナポリでもとりわけ治安が悪い地域を担当するピッツォファルコーネ分署は、捜査班の4人の刑事が押収したコカインを横領したことで逮捕され、分署は存続の危機を迎えていた。そこに送り込まれてきたのが、切れ者ながら上司との折り合いが悪くて放出されたロヤコーノ警部、捜査中に暴力事件を起こしたロマーノ巡査長、署内で発砲したアレックス巡査長補、アメリカ刑事ドラマかぶれのスピード狂のアラゴーナ巡査という、いずれも癖があり過ぎて、前任署で持て余しものになっていた刑事たちだった。それを統括するのは人格者で新任のパルマ署長、さらに従来から分署にいた二人のベテランを加え、7人の捜査班が結成された。彼らが着任そうそうに直面したのが、スノードーム収集が唯一の趣味という資産家の中年女性の殺害事件だった。ロヤコーノたちが事件を伝えるために被害者の夫の事務所に行くと夫は不在で、連絡が取れなかった。後で夫に会うと、最初に伝えた出張という不在の理由は嘘で、愛人と泊っていたことを告白する。にわかに重要参考人となった夫だったのだが、犯行を裏付ける証拠は何も見つからなかった・・・。 本書冒頭の「謝辞」で筆頭にエド・マクベインの名を挙げていることからも明らかなように、87分署シリーズを意識して書かれた作品である。87分署をリスペクトするシリーズは世界中で書かれているが、本作はその中でも傑作に挙げられる完成度を達成している。本筋の事件解明プロセス、事件の背景となる社会状況、警察内部の事情など、警察ミステリーに必要な要素はきちんと押さえられている。さらに、7人の捜査班メンバーの個性、それぞれの生活、個人的な悩みなどが彩り豊かに描かれ、現代イタリアのヒューマン・ドラマとしても楽しめる。 すべての警察ミステリーファンに今後の展開が楽しみなシリーズが登場したと、自信を持ってオススメする。 |
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「虎狼の血」シリーズ三部作の完結編。ヤクザ以上にヤクザな暴対刑事を描いた前二作とはやや異なり、自分の腕力一つでのし上がって行く野良犬を主人公にしたノワール色の濃い警察サスペンスである。
組織暴力がそれなりの態勢を整えた昭和後期の広島で、無類の喧嘩度胸で愚連隊「呉寅会」を引っ張る沖虎彦。ヤクザをも恐れぬ無鉄砲さと人を引きつけずに置かないカリスマ性で仲間を集め、ついには地元の暴力団と全面対決するハメになった。沖の破壊力を、ヤクザの排除に利用したいと考えていた大上刑事は、愚連隊がヤクザと全面対決して勝てる訳がないと判断し、呉寅会が行動を起こす直前に沖たちを逮捕する。その18年後、服役を終えた沖は広島に戻り、昔の仲間を集めて「広島で天下を取る」ために再び行動を起こそうとする。しかし、時代は変わり、暴対法でがんじがらめにされているヤクザの行動様式は沖の想像とは異なっており、沖は満たされない思いに苛まれながら、自分が信じる唯一の手段「暴力」で野望を遂げようとする・・・。 警察小説シリーズの形式は踏襲しているものの、本作は時代に乗り、時代に取り残された男の悲哀を描いたノワール小説である。暴対デカ・大上刑事の破天荒な捜査、大上の薫陶を受けた日岡刑事の剛直さなど、前二作の面白さを継承した部分以上に、沖という男の無頼な生き方が強い訴求力を持っている。暴力が主役のエンターテイメントとして一級品である。 シリーズ読者は必読。警察小説ファン、ノワール小説ファンにも自信を持ってオススメする。 |
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2012年〜14年に雑誌連載された長編ミステリー。平凡な主婦が陥った冷酷な犯人の甘い罠の謎を解く、警察ミステリーである。
幼い娘二人、夫とともに郊外で暮らす主婦・文絵は、趣味の懸賞応募で当選して出かけたディナーショーで中学時代の同級生だという加奈子から声をかけられた。自堕落な生活で醜く太っている自分に比べ、美しく着飾った加奈子に気後れする文絵だったが、加奈子から意外な言葉をかけられる。加奈子は実は整形したのであり、それ以来人生が好転したという。さらに、現在は高級化粧品の販売会社を立ち上げようとしており、文絵にビジネスパートナーになって欲しいと提案する。マルチ商法ではないかと疑った文絵だったが、「あなたはもっと美しくなれる」という言葉を信じ、加奈子の提案を受けることにした。 一方、鎌倉の別荘で頭を殴られて死亡した男が発見され、神奈川県警の秦刑事は地元署の女性刑事・中川と組んで被害者の身辺捜査を担当することになった。別荘は被害者・田崎が借りたもので、サングラス姿の女性が出入りしていたとの情報をつかんだのだが、女性の身元につながる情報は全く出て来なかった。それでも細い糸をたぐる地道な捜査によって、秦と中川は重要参考人として文絵にたどり着いたのだった・・・。 前半は、主婦・文絵が甘い罠に絡めとられて行くプロセスと田崎殺害事件の捜査プロセスが交互に展開され、二つのエピソードはどうつながるのか、サスペンスたっぷりのストーリー展開である。が、ある地点で重大などんでん返しがあり、後半はサングラス姿の謎の女性を追いつめる警察サスペンスになる。犯罪の構成、捜査の進め方、徐々に明らかになる犯人像など、警察ミステリーとしての読み応えは十分である。ただ、最後の犯人の独白的な解説、重要参考人となった文絵の扱いなどに若干の不満が残る。 女性が主役のミステリーファン、警察ミステリーファンにオススメする。 |
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日本初紹介のアメリカ人作家のデビュー短編集。O.ヘンリー短編賞を受賞した作品を含む全10作品である。
どれも非常に凝った構成で、文章を理解し、ストーリーを追いかけるだけで非常に疲れる。エンターテイメント要素はほとんどなく、現代アメリカ文学の一側面を知りたい人以外には向かない気がした。 |
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新たに誕生したリーガルミステリーの傑作「トム・マクマートリー」シリーズの第2弾。KKK誕生の地・テネシー州ブラスキを舞台に、人種差別犯罪に立ち向かうトム、リック、ボーの戦いを描いた熱血法廷ミステリーである。
前作でトムに協力した黒人弁護士・ボーが逮捕された。45年前、5歳のときにKKKによって自分の面前で父親をリンチ殺人されたボーが、父の命日に当時のKKKのリーダーで主犯と思われた地元の有力者・ウォルトンを殺害したという。遺体はボーの父と同じように木に吊るされ、火をつけられており、復讐犯罪なのは明白だとして死刑を前提にした裁判にかけられたボーは、恩師であるトムに弁護を依頼する。トムと相棒のリックは地元を離れ、ブラスキまで駆けつけて弁護を始めるのだが、今なお露骨な人種差別がはびこる町で、しかも相手は就任以来負け知らずの女性検事長・ヘレン、さらに目撃証言や物的証拠も不利なものばかりという逆境で、いかにして活路を見出すのか。トムとリック、ボーはわずかな可能性にかけ、不屈の粘りで戦うのだった・・・。 本作も、人間のつながり、不屈の精神、貫き通す正義など、感情を揺さぶる要素が満載のヒューマンドラマである。がしかし、前作に比べるとミステリーの側面が強くなっている。反面、主役以外の人物、特に悪役がやや類型化されている印象である。 前作の主要登場人物が揃って登場し、前作のエピソードに関連するストーリー展開もあるので、絶対に前作「ザ・プロフェッサー」から読むことをオススメする。 |
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