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逃亡者は北へ向かう



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【この小説が収録されている参考書籍】
逃亡者は北へ向かう

逃亡者は北へ向かうの評価: 3.95/5点 レビュー 21件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点3.95pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全21件 21~21 2/2ページ
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No.1:
(4pt)

タイトル通り直線的なページ・ターナー。東北人として生きる<霊性>の意味

柚月裕子の作品を読むのは、「教誨」(2022/11月)以来になります。背景には、2011/3/11に発生した「東日本大震災」が横たわっています。つかみはレミントンM700を構えるスナイパー・シーン。少し昂りました。
 二十二歳の真柴亮は、町工場の上司の酒の誘いを断れず、その場で半グレとの喧嘩に巻き込まれます。その後、震災が発生、瓦礫が散乱し余震が続く中、亮は或る成り行きによって半グレの一人をナイフで殺害してしまいます。そして、彼は(或る理由から)北へ向かい、逃亡を続けることになります。いかに物語が変遷し、どのような決着を迎えるのか?ページ・ターナーとしてのスリラーですからこれ以上、そのストーリーを明かすことはできません。
 追跡する側の主役は、さつき市東警察署の警部補、陣内康介。彼は地震によって家族を失っています。また、もう一人、漁師の村木圭佑もまた津波によっていく人かの家族を失い、一人息子の直人を捜索していました。三人三様の姿がカットバックしながらストーリーは進展していく訳ですが、亮も陣内も村木もこの地震によって深い悲しみを背負いながら福島県から岩手県の山間部を経て<北>へと向かいます。
 あの地震から十四年が経過する訳ですが、私もまた実家が福島県にありますのでいくつかの被害が確認できました。そのため、まだその当時の映像などを見ると多くのことが思い出されます。とは言え、私の場合は家族を失ったわけではありませんので、大袈裟なことを言うつもりもありません。
 この物語は、スリラーとしてはタイトル通り直線的な構造を持っていて<はなれわざ>が隠されているわけではありません。しかし、家族を失った側の視点に加えて「家族が生き残った側の視点」も垣間見せ、双方の悲しみと"Guilty"を描写することで小説に或る種の深みを与えています。それはやはり、人は何があろうと今日一日を正しく生きるしかないという諦観のようなものがあって、寂しさと言う名の瓦礫の中から何かを見出していくことの意味を問われているからでしょう。
 篇中、(おそらく配慮によって)東北の町の名前が架空の名前に設定されています。福島県さつき市、会津市。岩手県、大船市。今日現在(2025/3/1)、岩手県・「大船渡市」の大規模山林火災は鎮火していないとのニュースを知りました。<東北人>として生きることを考えさせられます。幾多の災害に遭遇しながらも彼らは忍耐強く、尊い。読書中、リチャード・ロイド・パリーによる秀れたノンフィクション「津波の霊たち 3・11 死と生の物語」(2018/4月読了)を想起しながら本書を読み進めました。
 クライム・ノヴェルに於いて未だに記憶に残る「東日本大震災」を取り上げることは勇気がいることだと思います。本書は、<東北人>として生き、幼い時から耐え忍ぶことと諦観を学びながら、それでも懸命に今を生き続けようとする彼らの<霊性>を描写して絶品だと思います。
 ▫️「逃亡者は北へ向かう」(柚月裕子 新潮社) 2025/2/28。
逃亡者は北へ向かうAmazon書評・レビュー:逃亡者は北へ向かうより
4103561319

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