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捜索者



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【この小説が収録されている参考書籍】
捜索者 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

捜索者の評価: 3.14/5点 レビュー 14件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点3.14pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全6件 1~6 1/1ページ
No.6:
(4pt)

アイルランドの村に潜む秘密が暴かれる!

思うところあって退職したシカゴ市警刑事のカルは、ネットで調べ、風景が美しくて気に入ったアイルランドの片田舎の村に移住する。長い間住む人もなかった緑の中の廃屋を購入し、ひとつひとつDIYで快適に作り替えていこうとしている。隣人のマートや食料品店の女主人ノリーンなどは、なにくれとカルの世話を焼きたがり、カルは田舎特有の人間関係の鬱陶しさに直面し、なかば当惑もする。
そんな中、林の中から山の上に住むトレイという子どもが現れる。トレイは、カルのDIYを手伝ってもくれるが、行方不明になっている兄の行方を捜してほしいと頼んでくる。カルはトレイの頼みを断ろうとしたのだが、気にかかるものもあり、逡巡しながらも次第に行動に移していく。
マートから誘われて訪れた酒場では地元の人たちがはしゃいでいたり、ノリーンからは夫と死に別れた妹のレナを引き合わされたりと、多少は動きもあるのだが、カルとトレイとの関係以外には概ね何事も起こらず、自然の中で静かに物語は進行する。
それが破られるのは、14章に入った400ページからだ(文庫本で、全674ページ)。静かな田舎の平穏な人間関係の中に、何が潜んでいるのか?実は、それまでの400ページの中には様々な形で巧妙に伏線が張り巡らされていたのだ。
本作は、英米各紙の年間ベスト・ミステリに選出されているとのことだ。
捜索者 (ハヤカワ・ミステリ文庫)Amazon書評・レビュー:捜索者 (ハヤカワ・ミステリ文庫)より
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No.5:
(5pt)

深い感動

まず今回の翻訳者になって、格段に読みやすくなっており、ストレスフリーで読めます。

ミステリーなので人間の愚かさ、弱さ、醜さが描かれていますが、それは主ではありません。
また決して殺人や暴力を肯定もしてはいません。
主人公カルとトレイという子供が、出会い、成長してゆく物語です。

人物の表情や心情、アイルランドの寒く暗く美しい風景の描き方、メタファーに品性があるタナフレンチワールドはさすが。

主たる登場人物の3人(カル、子供、レナ)がかっこよく、特にカルの美学と行動力に深い感動をおぼえました。
捜索者 (ハヤカワ・ミステリ文庫)Amazon書評・レビュー:捜索者 (ハヤカワ・ミステリ文庫)より
4151850015
No.4:
(4pt)

重厚な

アイルランドの荒野が目の前にあるような気がしてきた
捜索者 (ハヤカワ・ミステリ文庫)Amazon書評・レビュー:捜索者 (ハヤカワ・ミステリ文庫)より
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No.3:
(5pt)

驚くほどの文学性と気品を示しつつぼくらの想像力を刺激してくるタナ・フレンチの傑作!

タナ・フレンチを初読。アメリカ生まれのアイルランド在住の女流作家。ダブリン警察殺人課のシリーズ作品が主流なのだそうだが、未訳も多く、ぼくは読んでいない。本作は捜査小説というよりも、ヒューマンな色合いと、文明論、人生の深みといった本質部分を突いた完全独立作品である。

 シカゴ警察を退職し、家族と別れ、人生を取り戻すためにアイルランドの片田舎に独り移住したカル。古い建物を修復しつつ、生活を再建させようとしていた彼は、頭を剃り上げた子どもトレイと出会い、その行方不明となった兄の捜索を出来る範囲でとの条件で引き受ける。

 大都会シカゴから、大自然の真っただ中にある閑散とした小村への移住。広漠たる農地。泥炭地や森に囲まれた原野。ページを開くと、大河のようにゆったりとした時間が流れる。空気の静謐。哲学的孤独。そしてミヤマガラスたちの賑やかな営み等々が、読者の眼に飛び込んでくる。何という生活。

 シカゴからやってきた刑事がすべてを捨てて、やってきた土地。古びた農家や古い家具を修繕する日々。近隣の孤独な農夫との僅かなつきあい。夜の星。近づく冬。

 670ページの長大な作品である。行方不明の若者捜査は、公的なものではなく、警察の力は借りられない。村の者たちのつきあいもスタートしたばかりで心もとない。普通小説のような日々の狭間で作る真実探しの時間。家や家具の修繕。狩り、釣り、食事。

 村に下りてゆくと食料品店や酒場がある。食料品店の母娘らとのふれあい。酒場では、村の者たちが酔いつぶれている。女性がマイクをとって「クレイジー」を歌う。かつてリンダ・ロンシュタットが歌っていた同じオールディーズ・ナンバーだろうとはぼくが想像。場のカオスな雰囲気にフィットする曲である。

 主人公カルの車は、赤い三菱パジェロ。10年前までぼくが長年乗っていたマニュアル車と同じ奴であるかもしれない。パリ・ダカで篠塚が何度か優勝を決めていた時代の名車だが古い。今も残る幻のようなステアリングの手触り。

 カルの捜索のお礼としてトレイが家具の補修やペンキ塗りを手伝う。その中でのやりとりは、きっと誰にも思い出させる。ロバート・B・パーカーの『初秋』だ。もしかしたらこの作品で一番美しく、一番心ときめくシーンはこの部分かもしれない。無口な子どもが次第に心を開いてゆく素敵なシーン。ミステリー部分よりも、このシーンこそが本書を最も気高くしているものなのかもしれない。

 また主人公は、村と言う名の生き物の総体であるのかもしれない。村を構成する広大な農地、羊の放牧地。そして泥炭地を抱き込んだ未開の山脈。その中に呑み込まれた人々の生活とは、人生とは、季節とはなんであるのか? 消えた若者はどこに飲み込まれたのだろうか? 

 驚くほどの文学性と気品を示しつつ。タナ・フレンチのペンはぼくらの想像力を刺激してくる。終盤に至って思いがけぬ真実がいくつも、しかも徐々に明らかになってゆく。静かなる辺境であるからこそのドラマが見えてくる。そして人間たちの喜怒哀楽を飲み込む大自然という協奏曲が聴こえてくる。

 美しいミステリー作品。『ザリガニの鳴くところ』が胸に突き刺さった読者に是非お勧めしたいネイチャー派の傑作である。
捜索者 (ハヤカワ・ミステリ文庫)Amazon書評・レビュー:捜索者 (ハヤカワ・ミステリ文庫)より
4151850015
No.2:
(4pt)

泥炭地。「でも、あんたの規範は?」

取り掛かるのが少し遅れましたが、「捜索者 "The Searcher"」(タナ・フレンチ 早川書房)を読み終えました。丁寧に記述されていますので、かなり読み応えがあります(笑)。
 舞台は、アイルランド。アードケナルティ村。泥炭地の土の匂いがします。シカゴでの警察官としての職務を辞め、この地へ移り住んだカル・フーパーが主人公。彼は、娘・アリッサに起きた事件をきっかけに妻・ドナと離婚、アイルランド西部の村に廃屋を買って、四ヶ月がたとうとしています。家の改修作業以外特に何もない生活を満喫していますが、彼の前に貧しい環境にいると思われる十代前半の子供、トレイが現れることにより、その生活が一変することになります。
 そして、トレイはカルに対し、失踪した十九歳の兄・ブレンダンを捜して欲しいと訴えます。ブレンダンに一体何があったのだろうか?
 警察小説のように推移するかと想像しましたが、味わいは「私立探偵小説」と言っていい。むしろカルは警察の捜査手法が利用できるわけではなく、地道に徒手空拳で関係者を尋ね歩き、その失踪の真相にアプローチしていきます。閉鎖的な村。詮索好きな近隣の人たち。トレイに付きまとうレッディ家の子供という謂われなき差別。繰り広げられる美しい自然描写。<訳者あとがき>でも言及されていますが、カルとトレイのまるで「初秋」(ロバート・B・パーカー)のような友情。
 倫理(モラル)とマナーとエチケットの境界線はどこにあるのか?
 そして、規範は?
 「でも、あんたの規範は?」
 「人のために正しいことをするよう努める。それだけだ」(p.319)

 ここには<アメリカン・ハードボイルド>に育てられた私のような男達に響く言葉があって、善悪の谷を超えた場所には、ミヤマガラスに導かれた心穏やかな生活が待ち受けているのかもしれません。
 また、カルの<意識の流れ>の中に我が国の(初期の)「北方謙三」の語りが見え隠れしているようにも感じました。
 ミステリとして一箇所、小さな<はなれわざ>が炸裂します。まるで、同じアイルランドを舞台にしたニール・ジョーダンの映画のようだった。
捜索者 (ハヤカワ・ミステリ文庫)Amazon書評・レビュー:捜索者 (ハヤカワ・ミステリ文庫)より
4151850015
No.1:
(4pt)

カルとトレイとレナの物語。

アメリカ生まれのアイルランド系で、アイルランド在住の女性作家タナ・フレンチの長編第8作で、邦訳としては3作目。原作は2020年刊。原題は訳題に同じ。私はkindle で読んでいる。
以下、ネタバレ防止で、失踪事件のことは書きません。
○主要登場人物
三人である。
☆カル・・48歳。元シカゴ市警の刑事。娘が独立し、妻とは離婚になって、アイルランドのアードナケルティ村の1930年代築の空き家を買って引っ越す。侵入してきた村の子どものトレイと親しくなり、トレイに強引に頼まれ、失踪した19歳の兄ブレンダンの行方の個人的捜査に乗り出す。
☆トレイ・・13歳。村のシングルマザーの6人の子どもの3番目。兄ブレンダンの行方を案じる。カルから大工仕事を教わり、射撃法を教わる。
☆レナ(ヘレナ)・・本書のマドンナ。45歳または46歳。夫の病死後農場を売って、残った家で独り暮らし。雑貨屋を営む姉のノリーンが、勝手にカルの嫁候補に選び、くっ付けようとする。二人ともその気はないが、お互いを気に入り、次第に親しくなっていく。引用する。「カルは隣にいる彼女の体勢が気に入った。・・すぐに抱きとめてくれるとばかりに不安定な姿勢で彼のほうに体を傾けてはいない。しっかりと両足に体重をかけて、パートナーのように肩を並べてしゃがんでいる」
○私的感想
☆原語のペーパーバッグのアマゾン評価は21039件で星4.3と高評価だが、レビューにはなかなか厳しいものが並んでいる。突っ込まれている点は、前半(または前半4分の3)は動きが遅い。前半はサスペンスに乏しい。田舎が多すぎる。陰謀が乏しい等々。
☆お説ごもっともだが、これは田舎の話なんだから、田舎が多いのは仕方ないだろう。無理に都会のシーンを入れるほうが不自然。動きが遅いのは、田舎での人間関係の進展をじっくり書いているからだろう。前半で殺人事件を1件か2件起こせばストーリーはもっと盛り上がるかもしれないが、レナの家の子犬の話や、カルがトレイに射撃を教える話で十分。
☆サスペンスについては、後半の3割は絶妙のサスペンスと人情話である。陰謀はこんなものでしょう。
☆というわけで、私は本書が相当気に入った。ノンシリーズのようだが、この先カルとレナとトレイがどうなるのか続編を読みたい。
捜索者 (ハヤカワ・ミステリ文庫)Amazon書評・レビュー:捜索者 (ハヤカワ・ミステリ文庫)より
4151850015

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