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羊の頭
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羊の頭の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.00pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全2件 1~2 1/1ページ
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2009年10月のドイツ南部。ミュンヘンよりさらに南のミースバッハ郡のリーダーシュタイン山でクメーダーという男が射殺される。たまさか発見者となったのは、登山道をジョギングしていたクロイトナー上級巡査。ヴァルナー主席警部指揮のもと捜査班が立ち上がるが、クメーダーから暴力を受けていた恋人が二年前に失踪していることがわかる。その失踪事件について情報があると、弁護士ファルキングがアプローチしてくる。この弁護士、一癖も二癖もあって、クメーダーの友人とも関係があって……。 ---------------------------- ドイツ人作家アンドレアス・フェーアの『 咆哮 』に次ぐ、警察小説《Wallner & Kreuthner》シリーズの第二弾です。前回同様、事件の第一発見者はクロイトナーですし、捜査の指揮を取るのはヴァルナー、ヴァルナーが暮らす祖父マンフレートは相変わらず扱いづらい行動を起こすものの、どうも憎みきれないところがある、といった具合です。 随所にドイツ語圏特有の文化や習俗が散りばめられていて、ドイツ贔屓の私には小説を読む楽しさが倍加しました。 書名になっている「羊の頭」はドイツ南部バイエルン地方で盛んなカードゲーム《Schafkoph》のこと。事件の関係者の間でこのゲームが行われていたということですが、事件そのものとの何か深い関係があるというようには思えないものの、そうしたゲームがあるということは初めて知りました。 ヴァルナーが、「俺はプロイセン式の謹厳実直を旨としている。部下が決めたとおりに動いていれば文句はない」と言い放つ場面があり、ドイツ南部を舞台にしたこの小説の主人公がドイツ北部の価値観を旨としているのは興味深い話に思いました。 ウィーンではトマトのことを「Paradeiser」ということや、戦時中、ナチス親衛隊員はトマトをアメリカから来た敵性野菜として1942年以降は食べなかったというエピソード、 その他、魔女話が出てきたり、マンフレートがカスラー(Kassler)のセロリピューレ添えを作る場面があったりと、ドイツ、ドイツしたところが次々と出てきて興趣が付きません。 そう思っていたところで、「木を見て森を見ないとかいって、日本人はそう(=全体像をみようと)する」なんて一節が出てきて苦笑します。 最終局面でヴァルナーとクロイトナーが、ある男を追跡する場面はいかにもテレビの世界で活躍していたフェーアらしい筋立てですが、そうこうするうち、最後の最後でクメーダー殺害事件をめぐる大どんでん返しがあって、息を呑みました。前著『咆哮』でも読者をうまく騙してくれたフェーアの作劇術は見事です。 この《Wallner & Kreuthner》シリーズは2021年現在、ドイツ本国で9作目までが発表されているとのことです。第3作の『Karwoche(受難週)』も酒寄進一氏の見事な邦訳で読める日が来ることを期待しています。 . | ||||
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2021/1月に読んだ「咆哮」に続く「ヴァルナー&クロイトナー」シリーズの第二作「羊の頭」(アンドレアス・フェーア 小学館文庫)を読み終えました。 舞台は、「ドイツの小さな町」、ミースバッハ。2009年10月、登山道を走るクロイトナー巡査が登場しますが、前作を読んだ読者には、彼が何かに遭遇するか、しでかすことになるだろうなとまずは想像できます(笑)。案の定、何者かが彼の目の前で狙撃され、殺害されてしまいます。一方、その2年前、DVに耐え切れなくなったカトリーンが一人の男から逃げ出そうと策謀する時系列の物語があって、その二つの物語が複雑に交錯しつつ語られながら、いくつかの殺人事件が撒き散らされ、結末へと至ることになります。 詳細を書き記すことはできませんが、「咆哮」同様、<Who-Done-It>と<Why-Done-It>へと辿り着くべく、手がかりが小出しに語られていくことによってサスペンスが醸成され、読者はページを捲ることが止められなくなると思います。そっと引かれた伏線が後半少しずつ巻き取られていき、今回もまた小さな<はなれわざ>が炸裂します。途中、いささかご都合主義も垣間見えますが(笑)、まあ、許容範囲だとは思います。 そして、<ミステリ的興趣>以上に、いささか壊れた、破天荒な登場人物たちによる活躍が今回もこのシリーズに鮮やかな彩りを添えていると言っていいでしょう。 何かをしでかしてもタダでは起きない巡査・クロイトナー、ヴァルナーの祖父・マンフレートのダンディズム(笑)、そして今回は警部・ヴァルナーの味わい深い「出会い」も描写されて、作者によるもう一つのシリーズ、「弁護士アイゼンベルク」よりも(時に呆れながらも)楽しく読むことができるシリーズだと思います。 ヴァルナーの相手、バイエルン州刑事局警察官・ヴェーラは、ヴァルナーのキャラクターを「コントロール・フリーク」と看破します。胸襟を開いて、コントロールをやめた時、リーダーシュタイン山の頂上へと駆け上がるクロイトナーが身に沁みて実感する「イエス・キリストの苦難の道行き」にも似て、清々しいエンディングが待っているのかもしれません。しかしながら、いつだって「希望」が長続きすることはありません(笑)。 | ||||
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