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共喰い



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【この小説が収録されている参考書籍】
共喰い
共喰い (集英社文庫)

共喰いの評価: 3.19/5点 レビュー 192件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点3.19pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全92件 1~20 1/5ページ
No.92:
(5pt)

第三紀層の魚のレビューです

この本に収録されている『第三紀層の魚』がとても好きで、何度も読んで、何度も思い出し泣きしています。文庫本は安価なので、この第三紀層の魚だけを目当てに購入しても後悔しないと思います。共喰いみたいな小説も書くことができて、また受賞インタビューでも見せたあのような振る舞いをしながら、このようなお話も書けるなんてやはり芥川賞作家はすごいなと思いました。
共喰い (集英社文庫)Amazon書評・レビュー:共喰い (集英社文庫)より
4087450236
No.91:
(4pt)

これぞ文学の王道

最近の芥川賞作品は訳のわからない変な内容が多いが、この作品は文学の王道といった感じである。
作中に義手が出てくるが、私は元理学療法士なので文学作品に義手が出てくるのは親しみが持てる。また、主人公の父親のような男は、昔の田舎には割と良くいたのではないか。ただ一点残念なのは、書き出しがまるで歴史小説のようで、凡庸な書き出しでもう少し工夫して欲しかった。
一緒に収められている「第三紀層の魚」であるが、曾祖父の介護や次第に呆けていく様子などがリアルであった。ただし、題名と内容はそれほどリンクしていないので、何か別の題名でも良かったのではないか、とも思う。
この作家の小説を読むのは初めてだが、伝統的な純文学という感じで面白かった。別の作品も読んでみたいと思った。
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4087450236
No.90:
(4pt)

着想種

着想種とでも言ったらいいのか、この小説で小説を書こうとする人の何らかのヒントになるという確率は、他の人の小説よりも高いのではないかと、ふと妙な事を思った。尚評価ポイントは3.6といった所で、四捨五入して4とさせてもらいました。
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No.89:
(4pt)

結構強め

この尋常ならぬ粘り気。
ストーリーはありきたりなのに、芥川賞審査員の首を縦に降らせたのは空気感か。
また、方言が強く昭和生まれの私にはそこも良かったのか。

一度も生業にも就かず、ただひたすら小説だけに向き合う、ある意味社会不適合者である著者の並々ならぬ思念を感じる作品でした。

これを2度3度読む人ってどのくらいいるのでしょうか。
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4087450236
No.88:
(4pt)

何と何の、誰と誰の『共喰い』? 実父と実母の共喰い、のような気がする

息子(男子高校生)の恋人(女子高校生)を、土砂降りの雨のため行われなかった祭りの社で、犯したため実父を殺した実母や、

 女との交わりのとき、暴力をふるい、それが、性の交わりの放出欲を冪乗するという実父、

 同性愛的に息子には弱々しいようにやさしい、息子が男なら女のように、息子に対するときは、なまめかしいように描かれている実父、

 性の交わりのときは暴力をふるわれたのだが、実母の腕がないことを気持ち悪がる訳でもなく、頓着しなかった実父、

 しかし、実母に殺され死んだからか、暴力的で俗物的というか即物的な男として描かれているのに影の薄い──ように感じてしまうのだが──実父、

 そんな周りの実母や実父の大人に囲まれて、硬い殻に囲まれた、まだ柔らかい果実のような、未熟な初々しさをもって、男子高校生の心の弱さとか孤独の不安とかが(特に後半)描かれてる感じがする。

 また、男子高校生の、この実父に犯されることになる女子高校生の恋人も、犯されながらも、犯した者への焼きごてのように凝固した憎しみを体の中に透明に流しながらも、その他の点では犯される前と変わらぬふるまいが感じられ、そこが男子高校生との対比で、強さというか、振れなさというか、日常という中性性というか、が描かれており、それが、細々の辛苦を細胞のなかに溶かし込んで、皮膚が厚くなった大人たちのなかの、初々しい果実のように、男子高校生のひ弱さと対比しながら、描かれているように思える。

 もちろん、男子高校生には、猫の比喩やその観察の実感によって、時間だけが存在し、空間が存在しない、実母による実父の殺害前の感覚から、時間が空間に溶け込んで、位置づけられて時間が過ぎていくようになる感覚への変化や、赤犬や鰻や蝸牛やの動物の観察を通した、また恋人とのセックス(をしたいこと)や自慰や実父の妾への欲情などを通した心模様の変化や機微や凹凸が描かれるのだが、その印象は変わらない。

 他の方のレビューをぱらぱらといくつか読んだが、この印象の差を感じざるを得なかった。爽やかな青春小説と言っても言い過ぎではないと思う。

 因みに、このタイトルの感想は違うかも知れない。
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No.87:
(4pt)

小説として読ませる力がある

性行為中に暴力衝動にとらわれる父。「共喰い」は、そんな父の血をひく高校生が主役の、陰々滅々とした作品である。

父と愛人、父に愛想を尽かし家を出た母、主人公の彼女と、登場人物たちの間に、取り返しのつかない暴力への引火装置が見え隠れする。はっとするような残酷さが潜んでいるのだ。クライマックスからラストにかけての出来事には不快な気分にさせるが、小説として読ませる力強さがある。

「共喰い」より、関門海峡のとある町が舞台の家族ドラマ「第三紀層の魚」の方が好み。本作品の細やかな描写から、著者は意外(?)に心優しい方なのかも、思ったりして。

【芥川賞】
共喰い (集英社文庫)Amazon書評・レビュー:共喰い (集英社文庫)より
4087450236
No.86:
(4pt)

不快はちゃんとわるくない。

主人公や周りの人が、
釣りをする描写がおおいです。

表題作にも、もう一本にも、
ストーリーに深く、
釣りが関わってきます。

でも釣りをしないひとには、
あまりピンときません。

そこが、まぁ、
知らないのがわるいのか、
知っていろとするのがわるいのか、
どちらとも言えませんが、
個人的にはマイナスポイントでした。

物語はとても入り込みやすく、
ミクロな視点ですが、
そこに確かにあるはずの、
時間を描いています。

時間に翻弄され、
時間を持て余し、
時間に置いていかれる。

そこがとても現実的で、
ずっと柱時計の音が、
読んでいる間中、
聴こえてきました。

それは不穏で、不快で、
辛く、直視に耐えない。
でも、だからこそ、
そこにストーリーを置く、
必然性があるわけで。

表題作は、
性をテーマにもしていますが、
これも人によっては、
不快に感じるかもしれません。
でも、
性は人に共通のテーマでもあります。

暴力が、強きから弱きへ流れるのも、
自然なことです。

暴力描写はほぼありませんが、
その点で暴力を、
キチンと描いているとも言えます。

カッコつけないで描けば、
抉るように描けば、
追い込んで追い込んで、
とことんまで人を描けば、
不快はカタルシスになります。

悲劇を楽しむには、
文字表現が最適です。

絵や映像があると、
楽しめない可能性もあります。

『共食い』は、
映画化もされているのかな?
アマゾンのオススメに、
さっき表示されました。

そちらは観るかわかりませんが、
この作品は、
ストーリーを忘れたとしても、
読んだ経験により、
何かがのこると思います。

何かをのこせる人を、
文豪と呼ぶのだと思います。

好き嫌いはあるでしょうが、
そしてぼくは、
決してこの作品も、
作風も好きではないですが、
この著者様は文豪だと思いました。

剥がれやすい、
文豪の皮を被った、
仕事で文を書く人ではなく、
ちゃんとした文豪だと思います。

あとがきの、
瀬戸内寂聴さんとの対談が、
とても穏やかで、
敬意と温和と知性に満ちていて、
相手を認める会話をされていて、
とても素敵なお二人だなと、
人間的にファンになれました。

いいおまけですね。これ。
共喰い (集英社文庫)Amazon書評・レビュー:共喰い (集英社文庫)より
4087450236
No.85:
(5pt)

水、暴力、セックス

海辺の街で男と女が暴力的なセックスをすると、それはもう文学になる。
私も海辺の街を見て育ってきたのでわかる。
人は海辺の話を書きたくなってしまうし、海はあまりにも巨大なので暴力を助長させるし、粗野な水の香りはセックスと相性が良い。
まあこの作品の場合は海というよりも川だが、水辺には違いない。
恐らく人間の思考回路、共感回路というのは大体似通っていて、{海,暴力,性}というイメージの集合はひとつの定型になっている。
本作の場合はそれに加えて、プロレタリア文学的な「下賤の者の美」に溢れ、そこに父と子、血縁が絡む。
むしろそちらが本作の芯ではないかとも考えられるが、私にとってはやはり{海,暴力,性}が先にあり、それ以外は全部後から付け加えられた副次的なものに見える。
祭と神社という要素が物語を彩り、中国地方の強い訛が何とも言えない汚らしさと力強さを作品に与える。と言っては怒られるかな。もちろん褒めている。
短いながらも力強い作品になっていて、芥川賞を取ったのも納得した。

私が田中慎弥の作品を手に取ったのはこれが初めてで、たまたまだった。
読み終わったあと初めて、「例の」会見の人だと知った。
もう十年前にニュースでちらりと見ただけだったはずなのに、ウィキペディアの顔写真をひと目見ただけではっきりと「あの人だ」と思い出したのですごい。
当時の都知事は石原慎太郎で、石原慎太郎といえば歯に衣着せぬ辛口批評で有名だが、芥川賞選考委員辞任の際に「最近の候補作は自分の人生を反映したリアリティーに欠ける。心身性、心と身体といったものが感じられない」というようなことを述べていた。
一方で田中の作品(本作)については「俺はむしろ彼の作品を評価した」とのこと。
石原が言う「心身性」というのがどういうことなのか、本作を読むとわかるような気がする。

以上、文学評論っぽくちょっと気取って感想を書いてみました。
田中さんの他の作品も読んでみようと思います。
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4087450236
No.84:
(4pt)

親族家族との心のつながり

「共喰い」では異常性の中の親子のつながりや葛藤を描き、「第三紀層〜」では心の拠り所となっていた曽祖父の死を通じて主人公が悩み成長する姿を感じた。芥川賞ではあるが、機微や心情の変化・描写含め非常に読みやすかった
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4087450236
No.83:
(5pt)

読むのが病みつきになる本

人の内面にあるどす黒いものを、美しい文体にのせて浮かび上がらせていると感じました。読んでて楽しくなるようなことはないのですが、読むのが病みつきになり止まらない。
主人公の母親の振る舞いは、最初から最後まで切ないものがあった。
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4087450236
No.82:
(5pt)

セックスだけが生きがいというような人生は楽しいのだろうか

『共喰い』(田中慎弥著、集英社文庫)」の主人公、17歳の高校生・遠馬の50歳近い父親・円は、10歳年上の妻で遠馬の母親である仁子とは別居し、35歳の琴子と遠馬と暮らしています。近くのアパートの角の所で地面に腰を下ろし、声をかける男を待ち続けている40歳くらいの女とも関係を持っています。さらに、欲情を抑えられずに、遠馬の1つ年上の恋人・千種をも犯してしまうという大変な男です。その上、セックス時には、相手を殴りつけたり首を絞めたりすることで自らの快感を高めるという尋常ならざる性癖を有しています。そして、遠馬にも同じ性癖が受け継がれているのです。

「(朝の五時)階段の上から目だけで、豆電球のともっている座敷を覗く。見るのは初めてではない。大きくて厚みのある琴子さんに小柄な父が埋め込まれ、その肉の塊が、不自由を味わっているように、苛立たしげに、止まることなく動いている。・・・父が腰を振動させながら上半身を反らせると、琴子さんの髪を掴み、反対の手で頬を張った。肉の音から少し遅れて琴子さんの吐息が出、それに反応したように父の動きが速くなり、両手を首にかけて絞め上げる」。

彼らには、劇的な結末が待ち構えています。

小説を読むのは、別の人生を経験することだと誰かが言っていたが、その意味で、臨場感溢れる本作品はその役割を律儀に果たしています。ところが、私は決して聖人君子ではないが、登場人物たちのようにセックスだけが生きがいという人生は楽しいのだろうかと考え込んでしまいました。
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No.81:
(4pt)

まあ、面白いが、ちょっと汚らしい雰囲気なのが

日頃、あまり小説は読まない者ですが、数年前、あの記者会見に影響を受け、本書を購入し全て読みました。

 さすがに著名な賞を受賞するだけあって、まぁ、面白くはありましたが、ちょっと何とも言えない暗さというのか、不衛生さというのか、それはある意味、人間的というのかも知れませんが、どうも私には心地よくはありませんでした。

 本書を読む直前期に読んでいた小説が、村上春樹の1984であったため、なおさらそう感じました。村上春樹の小説の世界は、おしゃれな非現実的な綺麗な世界というのか、都市的というのか、「そんな人間いないよ」というような人間が登場するというのか、ある意味前向きというのか、そういう印象を受けますが、本書はその真逆な印象を受けました。
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4087450236
No.80:
(5pt)

さすがの面白さと貧困描写

文章は文句なしにうまく、ぐいぐい引き込まれます。個人的に一番好きなのは、貧困や汚さの表現。
あまりに巧みで、文章をそのまま想像してしまうと不潔さで気持ち悪くなってしまうので、
途中から背景描写を読むときは意識的に連想をやめていたほどでした。
ラストがやや王道すぎはしますが、ああしないと終わらなかった話なのはわかります。

ただ、後半収録の対談…ほとんど瀬戸内寂聴が自分の経験についてしゃべっているだけでした。
田中慎弥が瀬戸内さんの接待をしてあげているようにも思えるくらい、田中慎弥の話が少ない笑。
せっかく『共喰い』についてる対談なのだから、もうちょっと作品内容について話してくれればよかったな。
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4087450236
No.79:
(5pt)

この10年の芥川賞作品の中でもベスト。

田中慎弥さんの、かつて「都知事閣下のために」発言でも話題となった芥川賞作品。とてもおもしろい小説です。

私的に、歴代芥川賞受賞作の中でも特に好きな小説なので、ときどき読み返していています。
(計3回ほど読みました)

ストーリーの方は今さらなのであえて触れませんが、石原慎太郎さんのいう「えげつない」物語以上に注目すべきは、簡潔かつ詩的な、深く澄み渡るような田中さんの紡ぎだす美しい文体だと思います。

また、ストーリーの方もドラマティックで、この〈父と子の血の物語〉作品を比較できるものといえばやはり同様のテーマと世界観を描いた中上健次の紀州サーガ(その第1弾の『岬』は芥川賞)ですが、

もし中上さんの『岬』と、田中さんの『共食い』だけを比べるなら、個人的にはこの『共食い』のほうが高い完成度を誇っているのではないでしょうか。
(シンプルな人間関係がわかりやすいし、たった80ページほどでこの密度とドラマは凄い!)

やはりプロの作家は、たとえ引きこもっていても、壮大な人間の物語が描けるんですね。そこにプロの才能というか、すごさを感じました。

ストーリは生き地獄のようでもありますが、ラストは登場人物たちの生きる強さにも充ちているので、希望もあり、はじめて読む純文学としてもいいのではないかと思います。

あと、青山真治監督(映画監督・三島由紀夫賞作家)の映画版は、原作のあともオリジナルのストーリーが展開されていて、そっちのほうがいかにも中上健次っぽくなってます。

友人で作家の阿部和重さんの代表作『シンセミア』に対抗したのかもしれませんね。

都会の日常ものではない、フィクションならではの迫力ある純文学が好きな方にオススメです。

(ちなみにこの10年の芥川賞作品だと、高橋弘希『送り火』と石川遊佳『百年泥』も詩的&非日常的でおもしろいですよ)
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4087450236
No.78:
(5pt)

ハードポルノ系純文学?

基本純文学はわからない。だが、時として芥川賞には凄味のある作品がある。
これがそうだ。
女を殴りながらセックスする癖を持つ父親。母は自分を捨ててから家を出たが、近くに住んでいる。あの男の遺伝子を持つ男はひとりだけでいいという。自宅にはスナック勤めの愛人が住んでいる。この女は殴られながらセックスするのがいいという。
『うちの身体がすごいええんで、殴ったらもっとようなると笑っていた』-このセリフが一番気に入った。凄いな。
その愛人が子を宿した。また同じ遺伝子が生まれることになる。
川辺の汚臭が臭い立つ背景描写も凄い。
圧巻はラストだ。本当に共食い。
なんとも荒涼とした物語だが、胸に迫るものはある。
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4087450236
No.77:
(4pt)

表題作『共喰い』の感想

第146回(2011年下半期)芥川賞受賞作。受賞会見時の「もらっといてやる」発言で一躍有名になった作品かと思う(候補4回、5回目で受賞)。だが読み始めると、作者のパフォーマンスはどこかへ消えてしまっていた。

人間の情念を根こそぎ絡めとるような文体と、作品の随所にあふれる詩的なイメージ等、そこには正統な文学世界が広がっていた。テーマは「性と暴力」、そして逃れようのない「血」の問題である。中上健次や村上龍を引合いに出すまでもなく、それ自体は今までさんざん純文学で取り上げられてきたテーマだ。とりわけ新しさが求められる芥川賞においては、十分マイナスになり得る主題だが、田中氏は見事にそのハードルを越えてみせた。 

作品の舞台は、昭和63年の山口県下関市。昭和の終わりそうなこの時期、地方の田舎町はまだまだ寂れていたことがよく分かる。下水処理もままならない川辺での庶民の暮らしが、執拗なほど粘り気のある文体で描かれている。
   
主人公の遠馬は17歳の高校生。父母はもう離婚しており、現在は父と、その後妻である琴子と3人で暮らしている。遠馬の実の母親である仁子は、実家近くで魚屋を営んでいる。どちらも、わずかばかりの稼ぎで糊口を凌ぐような、つましい暮らしだ。

父親には、ある性癖があった。セックスのときになると、女を殴り、首を絞めるのだ。遠馬はそんな父親が嫌いだった。ある時、遠馬が琴子に、なぜ別れないのか訊ねたことがある。「うちの体がすごいええんて、殴ったら、もっとようなるんて」。女は笑って答えた。頭の悪そうな女。男の歪んだ愛情がなければ、生きられないような女。

遠馬には同い年の恋人、千種がいる。会うたびにセックスをする間柄だが、次第に遠馬の欲望がエスカレートしてゆく。気がつけば、愛する千種に父親と同じことをしている自分がいた。

嫌いな人に、だんだん似てきてしまう。

それが実の父親で、人が人を愛するという根源的な営みの中に、図らずも父親の影を見てしまう。残酷である。少年の無垢な心が映し出す世界の惨たらしさに、読後感はあまり良くないが、作者の書かざるを得ない切迫感はひしひしと感じられた。名作だと思う。
共喰い (集英社文庫)Amazon書評・レビュー:共喰い (集英社文庫)より
4087450236
No.76:
(4pt)

オチが予定調和の表題作の共喰いよりも

併録されています、淡々とした日常の中に、極力作為的な演出が抑えられた中で濃厚なもののあわれを描かれています第三紀層の魚こそ、芥川賞にふさわしいかと。 第三紀層の魚と表題作でプラスマイナス星4つでございます。
共喰い (集英社文庫)Amazon書評・レビュー:共喰い (集英社文庫)より
4087450236
No.75:
(5pt)

悪くない

だいぶ苦労してこの作品に至ったのだろうと、ただただその積み重ねてきた努力に脱帽です。
またそれを理解してくれるご家族(お母さんだっけ?)の存在も、きっと小さくないはず。
源氏物語ですか。なるほどですね。
原理原則は古典に求めるべきなのかもしれない。
二作目は不要でしたが。
共喰い (集英社文庫)Amazon書評・レビュー:共喰い (集英社文庫)より
4087450236
No.74:
(5pt)

圧倒的純文学

近年のエンターテインメント重視の小説とは根本から異なる。
純文学ということでとっつきにくいが、それは作家の読みやすい文体と、想像力を喚起させる内容であまりある。
純文学の入門書としてもオススメである!
共喰い (集英社文庫)Amazon書評・レビュー:共喰い (集英社文庫)より
4087450236
No.73:
(4pt)

少し迎合してるかな

この作家については「蛹」という作品が非常に好きだった。それに比べると、「共食い」は、特に後半のドラマチックな展開において、少しばかり「読み物」として意識して書かれたのだろうかという失望を感じる。確かに、あの展開にはそれなりの理由もあるのだが、ああすることしか物語の展開が紡げなかったのかという思いもある。
それでも、この作品には読んだ後、長くたってからも思い出す下りがいくつもある。
その一つは、生まれつき腕の障害を抱えた主人公の母が、主人公の父(元夫)に対して、なぜ結婚したのかという理由。彼女はもっと条件のよい男から求婚されるが、家柄のよいその男の母親に、障害を理由で結婚を拒まれ、男も母親に同調してしまう。自分の障害をそのように見る人間に対し、母は、当然のごとく自分から関係を絶つ。彼女にとって障害は恥じるべきものではない。
しかし主人公の父は、母に対して一度としてその障害を問題にしたことはない。それどころか気にしたこともない。主人公の父のメンタルとは、人間をそのように差別しない。主人公の父は、暴力を振るうが、その対象は自分の妻(恋人)だけである。息子に対しては手を上げてこなかった。父は決してよき父ではないが、暴力を振るう方向と理由において、一つの人格を持っている。
小説の干渉とは、倫理を重んじることではない。(当然だけど)この小説におけるこの父親の人物像は、とても興味深い。そしてその父親を男として嫌ったわけではないという母の存在も興味深い。彼女は暴力には耐えきれなかったが、大切な息子については、「父の子供だから」という理由で父の元に残し、そして自分は子供の世話をするために近所に住み続ける。父は離婚後は母とは友好的で暴力はない。
物語の大半に渡るこの微妙なバランス感覚は、この小説の本質のいろいろな部分に影響する。
もちろん最後にはこのバランスがどう変化するかがこの物語の本質であるわけだが、ただ耐えるとか、抜けられないとか、我慢とかそうしたネガティブな部分だけを描くのではなく、こうした人間関係を多側面からアプローチしている点が面白い。
共喰い (集英社文庫)Amazon書評・レビュー:共喰い (集英社文庫)より
4087450236

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