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紙の動物園
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紙の動物園の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点3.97pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全86件 61~80 4/5ページ
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単行本が発売されたときの評判から、文庫化したら是非読みたいと覚えていた作者でやっと読むことができました 漢字を紐解いて事象を占ったり、五行を食事に取り込み自然と共存する思想など、古くからある叡智の一端が織り込まれて物話の中で調和しながら展開します 各話の組み立て方、ものごとの見せ方や描写などがうまく、言い回しや比喩やテンポなど読みやすくて好印象です 少し不思議な話、心の奥に秘めておきたい話、理不尽な哀しみの話など色々ありますが、収録されている作品はどれも楽しめました 「これを読んだ人は次も手に取りたくなるだろう」と、分冊になったのも頷けます 他の話もどんどん読みたくなる作家です | ||||
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別に文章が読みにくいとか(むしろ文章は平易で上手い)、SFではないとかそんな事ではなく、どれも内容から漂ってくる雰囲気にあまり愉快でない気持ちになります。 表題作から何作か読み進めてまだ最後までは読んでいないのですが、一つずつ読む度ちょっとだけ嫌なものが心のなかにもやもやと溜まっていくような話が多くあまり好きになれません。 元々SFやこういった作風に求めることではないのも分かっていますが、お話の流れや結末が突拍子もないものでないからこそ、かなり今の現実に即していてエグいので(ここがSFなのか?という疑問点が生まれる原因でもあるのかもと個人的に思います)よい結末を望んで読むにはふさわしくない作品です。 こういったジャンルを読む作法を心得ている方にとってはとてもよい作品なのも理解できます。ですが普段SFやファンタジーをうまく現代に沿わせた作品を読まない方にとってはあまりおすすめできません。 ただし表題作に登場する動物たちはとても魅力的で、主人公の母のかわいらしさ、発想力が美しくきらめきます。まさにタイトル通り本という紙から想像力が羽ばたくような、そんな内容です。だからこそ個人的に全体的な雰囲気が薄暗いことにつらくなってしまうのですが。 表題作以外でも幻想的な中国らしいおとぎ話が巧みに混ぜられていく所は脱帽します。 | ||||
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久しぶりに読んだショートショート。ショートショートお約束のSFだけではなく、あちこちに中国、香港、台湾、そして日本などアジアの文化がうまく練り込まれており、中国生まれアメリカ育ちのケン・リュウの個性が光る。アジアものにありがちなこれみよがしな感じはなく、すんなり読める。 | ||||
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ファンタジー色ある短編集だなと思います。 どうして「紙の動物園」がSFを冠する賞に輝けるんだと頭を捻っている人も見受けられますが、そもそもの話でSFって良くも悪くも境界線が曖昧なジャンルだと私自身は認識していますし、そこを良しとしているからこそ在り得ない世界を描くことが許されるんだと考えます。 それは科学的考察ありきの話だと指摘されそうですが、こと「ケン・リュウ」が書くとなると、それがどんなものであっても一つのSF作品として確立されるのではないでしょうか。それが、日本含めて世界の「ケン・リュウ」の見方になっているのだと思いますし。 表題作はやっぱり良いですね。凄く好きです。初読では涙腺が緩みそうになったのを覚えていたのですが、今回はセーフ! 次点で、「結縄」、「文字占い師」が好みです。 一つだけ不満を述べるなら分冊にしてほしくなかったなと。分冊にした理由として価格や厚みの上昇を嫌ってのこともあるのかもしれませんが、まとめて読みたかったし、手許に残しておきたかったです。 でも、より多くの人の手に渡りやすくするには価格を抑えた分冊のほうが効果的だよなと思ったりもするので仕方ないことですね。 | ||||
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作者は中国系アメリカ人だ。 子供のころ移民した人なので、二世のテッド・チャンと違って中国文化が教養のコアとなっており、濃厚に作風に反映している。 十五篇の短編は、きわめて質が高い。特に印象の強い作は、 表題作は、折り紙の動物が命を持つ幻想譚だ。もの悲しく切ない話だが、美しい詩情に打たれる。 『もののあはれ』東洋的諦念と宇宙船という合いそうもない二つの要素が、不思議な感動を呼ぶ。 『月へ』『文字占い師』は、ファンタスティックな冒頭が政治の絡む生臭いドラマに変貌する。 前者は現代の移民問題、後者は台湾の白色テロがテーマだ。後味が悪いが、これもまた中国系作家として避けられない題材だったのだろう。 『結縄』意表を突かれるアイデアに感嘆した。分子構造をこんなとらえ方するとは。 『選抜宇宙種族の本づくり習性』個人が登場しない。さまざまなエイリアンの製本を紹介するだけだ。 知識の蓄積と伝承に書物は不可欠だから、どんな文化であっても本は存在する。なるほど。 ユニークな異星人たちが楽しい。「コスミック・エンカウンター」を思い出した。 『心智五行』解説にあるように、往年のブラウンまたはシェクリイ+東洋文化という感じの掌編。SFらしい懐かしい楽しさに満ちた佳作だ。 『円弧』老いないことは幸福だろうか。 不老不死を(ラザルス・ロングのような)個人ではなく、家庭と家系の問題としてとらえたところが斬新だ。 『波』は宇宙時代の不死者を描く。申請しない限り死なないという状況は天国のようだが、よく考えると怖い気もする。 『良い狩りを』最も好きな作品。失業寸前の妖怪ハンターと追い詰められた最後の妖怪という救いのないカップル?の話だが、 ストーリーが二転三転して予想もつかない結末を迎える。80年代黄金期の香港映画を思わせる。痛快にして爽やかだ。 SFと東洋文化の合体というのは、日本では豊田有恒が試みたことがあるが、さほど成功したとは思えない。 本書は初めてではないにせよ、アジアンSFの極めて珍しい成功作と呼べるだろう。 | ||||
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収録されている作品が素晴らしすぎて一気読みがもったいなく、1日1作品と決めてちびちび読んだ。 宇宙開発、人類の進化、歴史改変、バイオテクノロジー、異文化交流、サイバーパンク、スチームパンク、ほとんどのジャンルのSFを読むことができる。どれもが1級のSFで、素晴らしい。 しかし、実はSFから一番遠い「言葉占い師」の物語こそ、今のアメリカが、いや今の世界が必要としている物語なのだ。自分と異なるものへの恐怖が差別と排除の根底にあるのだと知ることが。素晴らしい作品集でした。またこんな作品に出会えるだろうか。早く第二短編集を! | ||||
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SF短編集なのだが、表題作は、貧しい頃の中国から、 豊かだった頃の米国の田舎町に、米国人に妻として買われてきた母親と その一人息子の話。 主人公が子供の頃は、大人の事情を解らずに母親に遊んでもらったり、 世話をしてもらっていたが、 年齢が上がるにつれ、母親が貧しい国から売られて来た事が解るようになり、 その事へのコンプレックスから距離を置くようになり、他の子どもの持っている アメリカのプラスチックのおもちゃと、自分が母親に作ってもらった、 折り紙の動物達を見比べると、紙の動物達はチャチで貧相に見えるので、 それで遊ぶことも止めて、子供の頃に母親と会話していた 中国語も話さなくなり、両親から離れ、大学に行く。 癌になった母親が亡くなってから、母親が病床で書いた手紙を中国人観光客に 読んでもらい、それとともに小さな頃に作ってもらった、折り紙の動物を見つけ、 子供時代の母親と近かった頃の事を思い出す、というストーリー。 日本にもロシアや東欧、中国、フィリピンなどから来て、日本人と結婚して出来た 子どもたちがかなりの数居るのだろうが、母親の国の貧しさなどに コンプレックスを感じて、距離を置くようになる事は多いのだろう。 その一部分として、大量生産の工業製品でしかない、表面的にピカピカした プラスチックのおもちゃなども影響を与えているのだろう。 表面的にキラキラして安い刺激を子どもに与える大量生産のおもちゃなどがいかに 意味のない、さらには有害な影響を与えるかを考えさせる。 | ||||
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つぶぞろいの短編集。どれも一定の水準を超えている。SF的な理知と奇想のアクチュアルな 融合が、頬っぺたの落ちるようなごちそうに仕上がっている。 折り紙というオリエンタリズムと、紙の動物が命を吹きこまれるマジック・リアリズムの組み あわせが絶妙な表題作。 タンパク質の組成と、古代の結縄文字をからませた現代と過去のめぐりあう物語「結縄」。 異星に降りたった女宇宙飛行士と、現地人の恋愛をバクテリアがつなぐ「心智五行」。 スチームパンク妖怪譚(←こんな世界観は初めて!)の「良い狩りを」。 このあたりは、センス・オブ・ワンダーを感じさせる短編が好きなかたなら必読の、完成度の高い 逸品です。 | ||||
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鳴り物入りの評で読んだけど、これをSFの賞に押すのは無理があるのでは。表題作もちっといい話的な感じでSFに入れるほどSF?、ましてこれだけの賞に値する?。他の作品にはSFネタも見られるけど、こちらはこちらでSFとしての完成度が足りなくて物足りない。このレベルで長編書いても大丈夫か心配になる。 | ||||
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中国系SF作家。15編の短編を収録。不死について書いた「円弧」と「波」が強烈。「もののあはれ」は日本人が主人公。やはり自己犠牲ということになると、中国人は似合わないのかしら。中国文化が全面に出た傑作としては冒頭の「紙の動物園」と末尾の「良い狩りを」。その他、「結縄」「太平洋横断海底トンネル小史」などが記憶に残る。「良い狩りを」は中国製スチーム・パンクで、怖いのと格好いいのが入り交じっていて、なんとも複雑な味わい。 | ||||
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「怜悧な知性と優しい眼差しが交差する全15篇を収録した、テッド・チャンに続く現代アメリカSFの新鋭がおくる短篇集」 星新一のショートショートをさらに磨き上げたようなリアリティ。 1976年中国生まれのアメリカ人作家、ケン・リュウ。さまざまな書評での絶賛も掛け値なし。 個人的には、 「地球へと小惑星が迫り来る日々を宇宙船の日本人乗組員が穏やかに回顧するヒューゴー賞受賞作」 『もののあはれ』が好きだ。 中国と、アメリカと、日本の良いところをすべて知っている作者の「人間」への信頼が素晴らしい。 父親が、日本人乗組員の息子に言う。(P49) 「日本人であることを忘れるな。」 こんなセリフを中国系アメリカ人作家に書いてもらえる光栄。かっけー! もう一篇。『太平洋横断海底トンネル小史』 「この手があったか!」と思わせる架空戦記というか(WWIIが起こらないので違うな) 「ありえたかもしれない世界を舞台にしたオルタネート・ワールドSF」(訳者解説) 今ごろ、村上龍が地団太踏んでると思う(笑) 久しぶりに文庫ではない早川書房の新刊を買った。装丁も見事。買って蔵書に値する2052円! | ||||
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話題のSF作家ケン・リュウの短編集。彼の70に及ぶ短編の中から訳者が15編を選んで翻訳している。ヒューゴ賞、ネピュラ賞、世界幻想文学大賞を獲った表題作に胸震わせるほどの感銘を受け、その完成度の高さに感嘆した。これは電車の中で読んではいけない作品である。 幼い頃、僕が泣き止まないと母さんは紙で動物を折ってくれた。母さんが息を吹きこむと動物たちは「ウォー」と咆哮し、勢いよく動き回った。僕は大きくなると英語が話せない母さんを恥ずかしく思い、だんだん距離を置くようになった。40歳にもならないうちに母さんは癌に侵され、あっけなく死んでしまった。後に紙の虎が残った。その紙にはぼくが気づかなかった母さんの思いが綴られていたのだった。 異文化の中での親子を描いて、切なくも力強い傑作である。続く「もののあわれ」(原題もMono no Aware)は、3.11に着想を得たと思われる、日本人を主人公にした作品である。両親は、滅亡する地球から脱出する宇宙船に息子を乗り込ませることに成功するが、息子は事故を起こした宇宙船の修理のために船外に出て行く…。海外から日本人はこう観られているのかと思うと少々面はゆい。 他にも感銘を受けた作品は多い。たとえば、1930年代に日本とアメリカが海底トンネルを共同で掘るという歴史改変ものの「太平洋横断海底トンネル小史」、不老不死の処置を受ける母と処置を拒否する息子を描く「円弧」、失った娘の代わりに人間と見まがう少女ロボットを作り続ける女性エンジニアの「アルゴリズム」、縄の結び目で記録された古代の技術から新薬を開発する話「結縄」、人間をデータ化する技術が発達し、肉体を捨てることが可能になった世界での家族のありかた「どこかまったく別な場所でトナカイの大群が」、妖狐がメタリックに変身する哀しいファンタジー「良い狩りを」、等々。 どれも⒛~30ページの短編ながら状況設定の理解に手間取ったために、読むのに時間を要する作品が多かった。そして、読み終わると内容を反芻し、考え込んでしまうのであった。どの作品も扱われる主題が深く、繊細で、たまらなく切ないのだ。人が人を思う気持ちや、厳しい境遇の中でひたむきに生きる悲しみや苦しみが描かれているのである。そのためにオリジナルなSF的設定が効果を発揮している。 作者の作風の多彩さに驚かされた。幻想的なもの、伝奇的なもの、歴史的なもの、政治的色彩の強いものが並んでいる。多方面にわたる問題意識と豊かな想像力を併せもった作家であることがわかる。その底に流れるのは、アジアへのノスタルジックな愛情である。中国の甘粛省で育ち、11歳の時に家族とアメリカに渡った作者の出自が色濃く反映している。幾つもの世界を飛行したような、とてもエキサイティングな読書体験であった。ケン・リュウの新しい長編小説の翻訳出版を楽しみに待ちたい。 | ||||
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ちょっと読みにくい感じ。人それぞれの好みですが.....。。 | ||||
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あまり短編は読まない。でも、表題作が、ヒューゴー賞/ネビュラ賞/世界幻想文学大賞の三冠の作品ということで、手に取ってしまった。確かに、紙の動物が動き出すところが眼に浮かぶような、情緒あふれる作品だ。 これ以外の作品も、一気に読ませるというよりは、ゆっくりと読むことが似合う作品が多い。久しぶりに、短編らしい短編を読んだ、という感想である。 | ||||
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この小説は大衆には理解されることはないだろう。 なぜならこの作品には「情緒」がないからだ。 作者の博識ぶりはうかがえる。科学や神話といった知識が豊富だ。 随所に専門用語があらわれるこからそれがわかる。 だが、専門用語を並べて知識自慢をしているだけだと感じてしまった。 娯楽としてのおもしろさはほとんど見受けられなかったのだ。 ただただ説明的な文章だ。世界観の描写ばかりで、人と人とのドラマがほとんどない。 まるでSFの設定資料集を読んでいるようだった。 ユーモアに関しては、まったくと言っていいほどない。笑えるシーンは皆無だ。 心にじんとくるような情緒的なシーンももちろんない。 つまりこの作品は知識を披露しているだけの無味乾燥な小説であると言うことができる。 設定資料集を読むのが好きな方はいいかもしれない。 だが、「娯楽小説」を期待している人にはおすすめしない。 | ||||
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ヒューゴー賞、ネビュラ賞、世界幻想文学大賞受賞の三冠という煽りにつられて読んでみた。 三冠を獲ったのは表題作で、この短編集自体は日本独自の企画であるようだ。 また、本作に収録の「もののあはれ」もヒューゴー賞受賞作とのこと。 読んでみて一番感銘を受けたのは、作風の幅の広さだ。 作者は中国出身で少年のころ米国に移住したとのことで、このバックグラウンドからアジアの歴史と文化がフィーチャーされていることは全作品で共通している。(特に中国と日本へのレファレンスが多い。) しかし、各作品の作風はバラエティに富んでいる。 心あたたまるファンタジーの表題作をはじめとし、歴史改変ものの「太平洋横断海底トンネル小史」、レムを彷彿とさせる「選抜宇宙種族の本づくり習性」、P.K.ディックを思い出させる「1ビットのエラー」。「良い狩りを」など諸星大二郎が「諸怪志異」の一編で描きそうである。 また「もののあはれ」は「ヨコハマ買い出し紀行」にインスパイアされて書かれた作品だそうだ。(内容は「プラテネス」っぽいが。) この作者は、本当にSFが好きで過去の作品にも通暁しているのだと思う。 そしてSFの伝統に則りつつ、新しいものを生み出している。 それぞれの作品の完成度は高く、SF好きの人は隅から隅まで楽しめるし、SFの入門者も自分の好みの作品を見つけ出すことができるだろう。前述のように日本の文化が多く触れられているので、特にわれわれ日本人には取っつきやすい。 作者は本国アメリカでも第一短編集が準備中、長編処女作が最近出版されたばかりという、新進気鋭の作家のようだ。 SFは追い続ける作家が最近少なくなってしまっていたところに、一人有望な作家が増えて、非常に嬉しい。 | ||||
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どこかで読んだ手垢のついたアイデア。そこから紡ぎだされる陳腐で押しつけがましいストーリー。 中華製劣化コピー短編集をどうぞ。 普段、本など読まない方にお勧め。 | ||||
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ケン・リュウのデビュー以来の短篇、2002年~13年発表の70数篇から訳者が15篇を選んでいる。アイディア豊富で多作のせいか、彫琢不足が目について熟成が足りない気がした。説明し過ぎだし、中国・日本の文化や歴史認識の理解が浅いとも感じる。その不足をアジア・中国・日本の(英語圏で流通している)通俗的な理解で補おうとする姿勢が透けて見える作品もある。 SF文学賞の三冠を獲得した出世作「紙の動物園」。 感動的な母の愛情物語であり、異文化理解のテーマであり(カタログで買われて来た中国人の母とアメリカ人として育った主人公)、よくできた話なのだが、胆となる母の手紙が長すぎる。説明し過ぎで興趣を著しく落としている。また“折り紙の動物が生きているという魔法”はとてもいいのだが、折り紙は日本の伝統ではないか。中国に重ねるのはルール違反という気がする。 アイディア豊富ゆえにテーマを詰め込み過ぎ、展開をひねり過ぎている作品もあるが(「波」「文字占い師」)、テーマが明確で展開がストレートな短篇はとてもいいし面白い。 その意味では、4頁しかない掌篇「潮汐」が気に入った。月が膨張し続け干満が異常になったという設定の中で、父と娘の間の愛情がシンプルに表現され、父親が月に復讐するという展開も納得できる。 現代中国の政治に翻弄され、家を強制的に立ち退かされ、アメリカへ難民としてたどり着いた男の寓話的な回想「月へ」は、中国絡みながらようやく作者と物語がフィットしたと感じる。 中核となるアイディアがさえている「結縄」、戦前の政治状況を延長した歴史改変SF「太平洋横断海底トンネル小史」とノスタルジックな歴史改変ファンタジー「良い狩りを」も楽しめる作品。 特に哲学的なテーマのSF、不死の人生は意味があるかと問う「円弧(アーク)」、人間の心と人工知能の働きに区別がつかないと女性主人公が悩む「愛のアルゴリズム」(ベスト作と思う)、エネルギー効率を求めて三次元世界を離脱した未来社会に疑問を呈する「どこかまったく別な場所でトナカイの大群が」は良い出来と思った。 著者はテッド・チャンの影響が濃いようだ。しかし、テーマをシンプルに掘り下げ、無駄をそぎ落とし彫琢するチャンとは比べられない。資質としては短篇より長篇に向いているのではないだろうか。この春に出たという長篇ファンタジー(未訳)に期待。 | ||||
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装丁はいわゆるペーパーバッグ。しかし深くて渋い臙脂色の表紙にあわせ、本頁の端部も茶色く染められたシックな表情。透明のビニールカバーが掛けられているのもなんとなくうれしい。 表題作は、この本を手にしてから連夜読み返している。そして読み終えるたびに、なんだか目頭が熱くなる。 主人公は私自身にも、高校生の息子にも重なる。 汚れ痛んだ老虎は、小学生の頃、母がつくってくれたシャツをおろしたその日に破いて帰った記憶をよみがえらせた。 私の母親は、小説の母親とは異なり、華やかな人であったが、脳梗塞で倒れてからの現状を含め、彼女の人生が思い描いていたものとは違う、という意識を孤独に持ち続けているであろうことを再認識した気持ちである。 主人公には読めない、漢字で書かれた母からの手紙を他人に読んで貰い、大切な文字をなぞるシーンが切なくも暖かい。 全ての息子たちに | ||||
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面白かった! SFのジャンルを軽く飛び越えた名作。読まないともったいないわーっ! 表題の「紙の動物園」を始め、日本に馴染みのあるアイテムや地名が出てきます。なので「海外物は苦手」という方にとってもハードル低くなるんじゃないかと思います。 そして翻訳が素晴らしい。日本を含む東洋の匂いを感じる作品が多く、言葉選びが絶妙。とくに好きなのは「紙の動物園」「もののあわれ」「太平洋横断海底トンネル小史」「文字占い師」「良い狩りを」。「文字占い師」「良い狩りを」は涙がこぼれました。 | ||||
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