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万延元年のフットボール



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万延元年のフットボールの評価: 4.16/5点 レビュー 63件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.16pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全63件 41~60 3/4ページ
No.23:
(5pt)

これがベストセラーだった時代があった

過剰な修飾、あふれ出る語彙、圧倒的な小説である。 現在の流行作家にも、饒舌体めいた文体を使う人はいる。 だが、本書は描かれたがっている内実が、次から次へと言葉を求めているかのようだ。 言葉の奔流が、無駄ではなくぜいたくと感じられる。  戦後からの脱却、地域社会の自立、地域文化の再発見と再評価、障害児という個人的な困難、学生運動のベクトルの矛先 … 時代と個人の問題が渾然一体となり、読者を巻き込んでゆく。  大江文学の最高到達点の一つだと、今回再読して確認した。  ただ、文学と世界の関わり方が、現在はこの地点から遠く変容しているのだ。
万延元年のフットボールAmazon書評・レビュー:万延元年のフットボールより
4061121820
No.22:
(5pt)

わが青春のメモリアル

今から四半世紀以上前、講談社文庫(文芸文庫ではない)で読んだ。粟津潔の真っ赤なカバー画の本である。初めて読む大江健三郎の小説だった。冬の風の強いある日、西新宿の高層ビルの谷間にある喫茶店で黙々と読みふけったことを今もよく覚えている。「夜明けまえの暗闇に眼ざめながら、」という冒頭の一文を読んだだけで、たまげてしまった。いまだかつて読んだことのない難解な文体だったからだ。それ以後、小説を読むと、その文体をとても意識するようになった。この小説でもっとも気に入っているのが第2章「一族再会」だ。空港ホテルの一室で、アメリカから帰国する鷹四を家族や友人が酒を飲みながら待つ場面である。そこで、とりわけ印象的なのが菜採子で、その言動には確かな実在感があり、女性としての魅力を大いに感じさせたものだった。おそらくゆかり夫人がモデルだろう。また、フランスの作家クロード・シモンが来日し、大江と対談した時、第3章「森の力」において、蜜三郎が森の中で湧き水を飲む場面で、透明な水の下に灰色や朱色の石が見えるという描写に感銘したと言っていた。この小説には、他にも多くの魅力があり、それをすべてここに書くわけにはいかないが、とにかく日本の土着の力をまざまざと実感させる傑作であり、ラテン・アメリカの諸作にも全くひけをとらないと断言できる。「すくなくともそこで草の家をたてることは容易だ。」という最後の文を読み終わった時の感動といったら筆舌に尽くしがたい。
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4061121820
No.21:
(5pt)

傑作

17歳ごろに読んで、小説を書きたいという「淡い欲望」が吹き飛ばされました。
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4061121820
No.20:
(5pt)

とにかく凄い!

何十年も前にこんな凄い小説が書かれていたことに驚きですね。 全編にわたって張りつめた緊張感。 大江健三郎のなかではこれと『叫び声』が断トツに好き。
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4061121820
No.19:
(5pt)

戦後文学の一つの到達点

読む人間を選ぶ作品である. もちろん漢字が読めれば読破は誰でも出来る. しかしこの作品を理解するのはなかなか困難である. まぁ,まず読んでみてください. 内容についてのレビューは皆様が徹底的に書いているので 差し控えさせていただくとして, (少なくとも戦後の)日本文学で世界に問う事ができる 数少ない作品の一つである事は確かです. ただ,書かれた時代のせいか,非黄色人種コンプレックスというか, その点が読んでて引っかかった感じはしました.
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4061121820
No.18:
(5pt)

得がたい作品

主人公が閉ざされた場所へ行き物語が語られ、主人公がそこから出て行くところで物語りは終わる。その形は「芽むしり仔撃ち」と共通しているものがあるが「芽むしり仔撃ち」が救いようの無い悲劇の形で終わるのに対して、この作品はある種の「希望」が描かれて終わる。
9年の時を経て大江氏の中で何が変化したのであろうか。大江氏は自らの「個人的な体験」を通して、人間存在の奥底に希望の種も見出したのだと私は信じたい。主人公は最終的に、残酷で不誠実で矮小な自分自身と向き合うことになるが、それでもその中でなんとか明日への一歩を踏み出していく。人はどうしようもない状況に陥った時、この作品の結末のような「希望」を信じることで、ぎりぎりのところで救われるかもしれない。そんな読後感に浸れる得がたい作品であると思う。
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4061121820
No.17:
(5pt)

読み応えのある傑作

「個人的な体験」を読んだ後で、続けて本書を読んだ。
本書は、頭に異常がある障害児が生まれてからの話としてスタートするため、
「個人的な体験」の続編であるかの様な印象を受けるが、
登場人物の名前や家族構成等の設定は微妙に違っている。
しかし、主人公に大江氏自身を投影している事に違いはない。
物語の舞台は主人公の故郷である四国の山村へ飛び、百年前の一揆をなぞる様に、
弟の鷹四を中心に村人達の暴動が起こり、その過程で封印されていた先祖たちの真実や、
鷹四と死んだ妹の衝撃的なエピソードなどが明らかになっていく。
本書はプロットが緻密で、読み応えのある傑作である事は間違いない。
だが、暴動に直接関わることなく批判的に傍観している主人公の姿は、
当時の過激化する学生運動とは距離を置いて見ていた大江氏自身と重なるとは思うのだが
「個人的な体験」と比べると、ちょっと作り話っぽくなり過ぎて、
主人公に大江氏自身を投影する事に無理が生じているようにも感じた。
でも、独特な読みにくい文体にも大分慣れたので、他の作品も読んでみたいと思う。
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4061121820
No.16:
(5pt)

言霊

読み始めた瞬間、この本の中に引き入れられてしまった。独特の文章で書かれた不思議な光景は頭の中に焼き付けられるほどの印象の強さを持っており、難解な文体もさほど苦にならず読み進んでいける、まさに日本文学屈指の名作だと思う。発生した暴動と万延元年の一揆が重ね合わされ、時系列が次第に曖昧になっていく様に感じられるのだが、そんな手法も驚くべき物だと言えるのではないかと思う。とにかくものすごいインパクトである。
 心のどこかに暗い影の差している登場人物達の“新生活”を描く作品。弟の一揆の首謀者への憧憬から起こる暴動や、折に触れては語られる生涯を持って生まれた息子の存在など鮮烈な描写には事欠かない。それらも単にイメージをごった煮にしてしまうのではなく、それぞれ関連性を持たせて構成しているようで、本から受ける印象の割にはよく空中分解せずにすんだものだとそちらの方に感心してしまったりした。鮮烈、インパクト、という言葉を先ほどから多用しているが、印象しかのこらない作品ではなく、人物の人間性の描き方もえぐみや重みがあって凄く良かった。
 値段に関して言えば、確かに文庫本には割に合わない値段だろうと思うが、単行本を買うつもりで購入すれば別に損にならない内容だと思う。ぜひ読んでもらいたい一冊。
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4061121820
No.15:
(5pt)

新生活への勇気

人は程度の差こそあれ、人には言えないような痛みや苦しみ、悩みを抱えながら生きているのだと思います。そして、時々それらは当事者を危機的状況に追い込みます。一旦このような危機的状況に陥るとなかなか抜け出せません。なぜなら、そこから抜け出すには自分を変えなければならないからです。この場合、自分を変えるとはそのような痛みや苦しみ、悩みに対して正面から向き合って、それを乗り越えるということです。この小説は非常に簡単化すれば、人はどのようにして危機に陥り、どのようにしてそれを乗り越えるかを描いた作品だと思います。そして、読者も乗り越える苦労を追体験させられます。結構キツイです。個人的には、蜜の視点で読んでいたため、鷹と菜採に対する嫉妬という名の危機を乗り越えることができたかどうかは疑問です。ただそんな時、菜採の次の言葉を思い出します。「昨夜ずっと考えているうちに、私たちがその勇気さえもてば、ともかくやり始めることはできると思えてきたのよ、蜜」
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4061121820
No.14:
(3pt)

「生き延び」ないといけないにしても。

読んでいると不愉快が雪の奥でも進行する腐敗さながらに押しよせてくる。そしてその不愉快は細部から喚起されている。つまり、うまいぐあいに読者は小説世界にのみこまれてゆく・・・。してやられるのである。読んでいる期間に私はこの村のリアルな夢を見たほどだ。

いつもながらの大江の大道具小道具が出てきて、しかもそれらは重層的構造的に相互作用する。太い枠組みのうちにみっしりと詰め込まれた古い文書、新しい文書――まるで蔵の奥から取り出してきて眺めるみたいな――を読んでいく感覚である。

「救済」がテーマのひとつになっている。それはとても気に入らない。蜜にはやはり出口が用意されており、彼は、いちばんさいしょ入っていた「穴ぼこ」、それからさいごに入っていた「穴ぼこ」からも、出ていくことをする。私は用心に用心してその救済や希望を拒否するつもりでいたのに、大江の強い引き縄のせいで解決や希望や期待や救済や和解の方面へずるずると引っ張っていかれた。これこそすばらしい大江の手腕というわけなんだろう。だがそれでも読み終えて私は憮然とする。蜜や菜採子が子どもたちを育てる決心をし、谷間から出てゆき、鷹への無理解を理解し、鷹の骨はS兄の骨とともに墓に入り、鷹は御霊となり・・・などなどに私は満足できない。結局は出ていって「生き延び」ないといけないにしても、だ。甘い、ちいさい、ということをどうしても思う。
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4061121820
No.13:
(5pt)

本当の事をいおうか

いやーー、すごい本を読みました。

様々な時間におけるたくさんの事件が、続々と、続々と出てきて、フォローするのが大変でしたが、それらが終末において、ものすごい勢いで解きほぐされていきます。というより絡み合っていく。その、緻密さがすごいです。

出てくる事件とは、思いつくままあげると、万延元年の一揆、60年安保、戦後すぐの兄の殺害、妹の自殺、障害を持った子供の誕生、妻のアル中化、友人の縊死、、、等等。

とってもスケールの大きい推理小説としても、非常に楽しめる感じです。

しかも、内容においても、人間の根幹に迫る(?)ようなものでもあるのです。

たとえば、鷹四(主人公の弟)は、「本当の事」を考えているんですが、本当の事とは、「ひとりの人間が、それをいってしまうと、他人に殺されるか、自殺するか、気が狂って見るに耐えない反・人間的な怪物になってしまうか、そのいずれかを選ぶしかない、絶対的に本当の事(P258)」なんだそうで。「そういう本当の事を他人に話す勇気が、なまみの人間によって持たれうる」かどうか、と問うわけです。兄の蜜三郎に。

で、鷹四の言う「本当の事」とは一体何の事なのか?小説の中の、どの事件に関連してくるのか?鷹四自身のどんな行動、identityに結びつくのか?と、ね。いやーすごい。すごいんですわ。

巻末の「著者から読者へ」で大江自身が「この小説は僕にとってまことに切実な意味で、乗越え点をきざむもの」と書いているように、著者にもこの作品に相当な思い入れがあるようです。ね。

が、読むにあたって、僕の方が「乗越え」ないといけなかったこともありました。

まず、血や肉の生々しい描写があって、時々しんどくなりました。それと、大江らしい難解な文体は、なれるまでずっとしんどかったです。主語と述語がやたら離れてるとか。

ともかく、読み応えありましたー。
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4061121820
No.12:
(2pt)

そもそも「出口」は存在するのか?

物心ついた頃より、ここ(東京)は田舎者の溜まり場で、常に気っ風と威勢
だけを気にかけていた祖父達は、その大元締めだと思っていた。 

だから日本は何処へ行っても同じ、それが嫌なら外国へ行くしか無い、と。

高校・大学を通して安部(公房)と大江に傾倒し、前者は大き過ぎてひれ伏
したが、後者の作品は脳内的に身近で、楽に自身を投影出来た。

本書や「日常生活の冒険」などでこの国に「真の田舎」がある(らしい)事
を知ったが、当時それは大した問題ではなく、それよりも「こんな(登場人
物)風に思う奴はザラにいる(当然自身も勘定済み)けれども、実際にこん
な風に喋り、動く事の出来る奴は、俺の知る限り一人も居ないね」。

で、結局「私達の“根”を探るべき本書が(本来相容れる事の無い)リベラ
リズムと土着の血で固めた“お伽話”だったじゃシャレにもならん・・」に。

あれから数十年が過ぎ、6年前初めて東京を離れた際に「真の登場人物」に
出くわす事を密かに期待したが、どの「地方」も(最早?元来?)その痕跡
すら見出せなかった。

今も私は、リベラリズムこそが私達日本人に残された唯一の道である、と信
じているが、自身で仕掛けられた罠の中で、曖昧な微笑みを浮かべ佇んでお
られる大江氏の姿を見るに付け、改めて、一度たりともそんなもんがこの国
に存在したためしが無い事を思い知らされる。

そもそも、私たちには安部公房がお似合いで、「飢餓同盟」の世界から永遠
に抜け出せないって事か?
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4061121820
No.11:
(3pt)

どうなんでしょ? タイムスリップ小説で錯乱しているとこがいいのか?

なんか、村上春樹の世界の終わりとハードボイルドワンダーランドのモチーフになっているような気もする。 つまりは新鮮ではある。 彼らしくない長編だし。 だが、猟奇的な性差別表現的な変態性は大江文学の真骨頂なので慣れないと、ちょっと考えられない精神・本納欲求の表現の正確理解は難しいかも? ちょっと長すぎるが、読むのは文学好きのステータス、のひとつ、名作として避けては通れない。 必読。
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4061121820
No.10:
(5pt)

物凄い本でした。

初めて読んだのですが、ぼくは物凄い本だなと思いました。世間的に名作と呼ばれている、であるとか、著者がノーベル賞をとった、とか、基本的にそういうことにはほとんど興味がないので、ぼくはこういった場で確定的な物言いができる立場にないのだろうと思うのですが、少なくとも、ぼく自身の体験にかぶさってくる物語であったことは確かだし、物語が流れていくその流れ方もとても自然に思えました。何かを暴こうとする者、何かをなぞろうとする者、そんなつもりもないのに何かを暴いてしまう者、結果的に何かをなぞってしまう者、そういった人びとの織り成す悲劇とも喜劇ともつかない、でも確実に劇的な物語。

 時代的なものか、それこそがいわゆる日本文学の日本文学たる「格調」というものなのか、決して読みやすい本でないことは確かですが、頑張って読み解く価値の十分にある本だと、ぼくは思います。
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4061121820
No.9:
(4pt)

難解な場面もある本

ある新聞紙上で町田康氏と大江氏との対談があり、大江氏は町田氏の「告白」を2回読んだとあった。 あの本に感銘を持ったという大江氏の書物として本書を初めて読んでみた。 しかしこちらに読書力がないからだろうか?! 読み進めるには進めるのだが何度も『?』というマークが頭に浮かぶ。 難解な表現というかテンポでなかなか中身を味わえない感じだった。 だから一般的な読書人には「やや難」と感じる気がする。 感銘の手前に再度の「把握」のため、2回読むしかない一冊と言える。
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4061121820
No.8:
(5pt)

傑作とはこういうもの

おそらく大江作品の中で最も知名度の高いタイトルというのがこれだろう。 実際、すばらしい作品だと思うし歴史的に意味のある作品だ。 だからこそもっと若い世代の人たちにも読んでもらいたいし、読まれるべき意味のある作品であると思う。 そうした名作が、たかだか500ページの文庫本がこの値段、お世辞にも「割にあった」とは言いがたい値段であることは悲しいし、純粋になぜだろうと思うし、この値段のせいで購入を思いとどまってしまう文学好きの高校生とか結構いるんだろうなと思う(ま、図書館で借りればいいんだけど)。 そこだけが残念だ。
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4061121820
No.7:
(4pt)

傑作だとは思うけれど・・・

昔、日本文学が好きなポーランド人に薦められて読みました。 確かに、傑作だと思ひます。 印象的だったのは、「スーパーマーケットの天皇」とか、「森の隠遁者ギー」と言った脇役の名前で、これらの脇役が登場すると、ドキドキして続きを読んだ事を覚えて居ます。 しかし、今思ひ出すと、余り印象に残っては居ない。 ・・・同じ大江健三郎の作品でも、「個人的な体験」は、私にとって、今も忘れる事の出来無い、感動深い作品なのですが、これは、何故なのだろう、と思ひます。 (西岡昌紀・内科医)
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No.6:
(5pt)

凄まじい作品

凄まじい作品だ。
 作品では「これは小説である」とのメディア性が固定されるのみで、それ以外のあらゆる事象が休まることなく胎動する。そこでの流動性とは歴史さえもが逃れることはできない。
 現実と過去との奇妙な一致は、一見、歴史の側からの一方的な到来の様でありながら、実は、現実側の過去への強姦であることが判明する。
 そうして現実と過去は同一の相に並べられる。
 しかし、果たして、その受胎によってひきおこされた胎動が、結果として好ましい成長へとつながるとはとは限らない。そこには奇形した世界への道程が開けることもある。
 恐ろしいのは、各主体ごとの善悪の判断が全く停止されていて、自らが生み出された世界が全くの統御不能の状態にある点である。
 一個人、対、自らが創り出したその世界、との熾烈な戦いの間では、二極の間の圧倒的な力の不均衡さに、個人は逃げ出すより他はない。現実逃避という放棄の後に現れるであろう自立の精神は、極めて微小にほのめかされるにとどめられ、そこには超然として有るべき著者でさえも判断を保留せざるを得ない。
 
 しかし、まさに、現実の世界とはそのような挫折の精神史として、展開してゆく。そのような辛い現実をわれわれが生きているからこそ、この小説がこれほどまでに大きな衝撃を与えるのだ。
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4061121820
No.5:
(5pt)

戦慄の名作

この作品の本当の凄さを感じたのは、最後の章を読んだ時だった。
それまでは、重いし暗いし、特に結末よりちょっと前あたりの惨憺たる挫折と悲しい出来事に私は胸を塞がれていたのだけれど、
意外な真実が明らかになったラストは、ものすごい勢いで、再生に向かって強く打ち出されている。
そのすごさに、本当に、感銘を受けた。
日本の、なかなか語れることはない、しかし本当は庶民にとってもっとも切実に大切な、地方の伝承・周縁の物語が、見事に語りなおされ現代に再生されている。
この小説を読んで、自分の住んでる場所の歴史や伝承、一揆の歴史をもっと調べたいと思った。
庶民の抵抗の歴史は、一見挫折したり転向したり、惨憺たるものに見えるかもしれないけれど、「identityの光」、本当は一貫した崇高な志だったということが、歴史を超えて我々に注いで、無気力と惰性に蝕まれた生命を蘇らせることがあるし、後世の人々に生きてくることがある。
この小説は、それを実に深く切なく描ききった。
この小説のエネルギーは、たしかに、他の小説ではめったに味わえないものと思った。
日本の民主主義の、西欧から輸入しただけではない、たしかな土俗的な、根が、この小説にはある。
その問題性も、さまざまに描きながらも。
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4061121820
No.4:
(5pt)

渾身の力作

深い山間の村で、自分の立場を決めかねる主人公。 それを叱責する妻。 それらが複雑な人間関係の中で重層的に描かれた力作。 ねじれ、よじれ、絡まりあい混沌した世界。 テーマ性の強い文章が、これでもかとばかりに詠われ、 好き嫌いは分かれるタイプだとおもうが、 この作品のパワーと完成度は世界レベルで戦える。 著者の長編の中で「個人的な体験」「洪水は我が魂・・」に匹敵。
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4061121820

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