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高い城の男
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高い城の男の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点3.85pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全92件 81~92 5/5ページ
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第二次世界大戦でドイツと日本が勝利したアナザーワールドが舞台のサイエンスフィクション。 暴力の気配に満ちた不安な世界を描くストーリーも抜群に面白いが、なんといっても最大のポイントは、 この世界で、ドイツと日本が負けた世界を舞台にした小説がベストセラーになっている、という、 一種の入れ子構造を作り出したこと。 主人公の女性は小説の作者に出会うためにドイツと日本に分割統治されたアメリカを旅する。 終盤に作者に出会い、小説の真意を確かめるべく、易経で卦を立てる。 そこで明らかになる驚くべき真実とは。。 ここで読者は、まるでフィクション中の人物がこちらの現実世界に浸透してくるような、驚くべき 感覚を感じることであろう。これまで積み重ねられてきたストーリーがすべてこの感覚に集約される。 一種の文学的特異点と読んで差支えない。 この不思議な感触、活字ならではのものであろうし、本を愛するすべての人に味わってほしい。 なお本書は易経を使って書かれた、と、まことしやかな説明がつく。とはいえこれほど高い完成度の小説が、 偶然の積み重ねで出来上がるとは思えない。作者P・K・ディックの韜晦であろう。 だが、現実と小説世界、さらに小説の中の小説の世界、という三重の世界を繋ぐ普遍的真実として、 易経はなくてはならないアイテムであることがよくわかる。そしてその真実は我々の現実世界の 存在すら危うく感じさせてしまうほどの、恐るべき問いを投げかけてくる。 このような構造を考えだした作者の才能にただ慄然とする。 P・K・ディックの小説はどれも文学性が高いが、本書は手法とテーマが見事な融合を見せ、 とりわけ完成度の高いものだと感じる。サイエンスフィクションの範疇でくくってしまうのは あまりにもったいない、小説史上に残る傑作だと思う。 | ||||
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新しいカバーの版が出ていたので、改めて買いました。昔はオチがよく理解できなかったのですが、我々の生きる現実の世界に、自己認識と世界(世間)とのずれを感じるようになって来て、この小説の言わんとするところが(恐ろしいことに)解かってきたように思います。フィリップ.K.ディックは常にそうした不安感を抱えて生きていたのでしょうか?精神病的なのは自分自身なのか世界なのか...まるでディックの描く悪夢のような現世界に私も不安で一杯ですが、"高い城の男"が言うように"それ"(ネタバレ秘匿)はあり得ることなのでしょう。ミリタリーテイストのカバーが示すように日独の対立構造が基本の"この世界"なのですが、その手のマニア諸氏の感性をくすぐるような小道具(メッサーシュミットE9ロケット船、航空母艦翔鶴、エルアラメインの戦い)なども出てきて読むにつれて"この世界"に引き込まれて行きます。「流れよわが涙・・・」や、「電気羊・・・」も同傾向の作品ですが、この作品が一番の大仕掛けで読み応えがあると思います。「逆回りの世界」も改版/カバー替え(できれば新訳/改訳)して再販して欲しいですね☆ | ||||
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今我々が生きている世界とは別の世界を、「易」によってつなげる。そしてその別世界(第二次大戦で枢軸側が勝ったという設定の世界)から、我々の世界(連合国が勝った世界)をうかがい知る。 今ではこういうパラレルワールドの物語は珍しくもなかったけど、それはこういう先鞭をつけた作家たちがいたからこその話です。本作はその意味で歴史的にも重要でしょう。 SFというには、科学的なネタが少なく、SFらしからぬ作品とも言えます。そもそも「易」を使うというのが、いかにもベトナム戦争のアメリカで蔓延した東洋趣味の先駆といった感じです。 ともかく、設定の斬新さは良い。しかしあともう少し「押し」が足りないと感じます。本当に凄い作品は、力がみなぎっているものです。何か、純文学的な詩性も足りないし、プロットの綿密さも足りないような。 もっとも、本作は既に発表されてから40年以上経っています。ある程度の風化もやむをえないかも知れません。それに日本人にとっては海外の作品だし。 科学ネタが少ない分、文系人間でも容易に読み通せるのはいいところです。 ただ、歴史を見る視点が偏っていないかというと、怪しいところがあります。ドイツのことを悪魔的に扱いすぎなんじゃないか。そのわりに日本は贔屓目で見られているから。 | ||||
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本小説は、日本・ドイツ・イタリアの枢軸同盟が勝利した仮想世界を描く。その作中において重要な役割を果たす『イナゴ身重く横たわる』は「もし英米が勝利したら〜」という仮定に基づいて書かれた小説である。 幾つかの流れが、この小説を彩っている。政権交代に伴うドイツ国内の政治的混乱が高まる中、どうにか政治的破局を回避しようとする良識的ドイツ人、新しいアメリカ的価値を作り出そうとするユダヤ人、その価値を広める重要性に気づくアメリカ人男性、『イナゴ身重く横たわる』の作者に危険を知らせようとするアメリカ人女性、そして人間として大きく成長しようとする日本人。 作者ディックは作中、『イナゴ身重く横たわる』には「真理」が含まれていると、登場人物に語らせる。その「真理」に触れた登場人物たちは、自らの信念に基づいて自分の信じる道を歩んでいく。破滅的な世界の中(ディックの描くナチス支配下のアフリカやソヴィエト・ロシア)で、ディックは(ナチズムを信じる人々以外の)人間の良識を信じようとする。 SF作品は数多くあるけれども、反実仮想をその小説の現実として描き、現実に起こった出来事を「仮想世界」としてその小説の中で描いた書籍を、私は初めて読んだ。そういう意味で私はそのコンセプト自体がユニークだと考えている。 | ||||
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もし第2次世界大戦で枢軸国側が勝っていたらという設定のパラレル・ワールドを舞台にしたP.K.ディックの代表作。設定はどうであれ、作者の関心は常に社会のあり方、その中での人間模様、表面的な欺瞞の裏に隠された真実にあり、本作ではそれらが遺憾なく描かれている。作中で、「もし連合国側が勝っていたら」という設定(史実に近いが微妙に異なる)の小説が登場し、「高い城」はその小説家が立て篭もっている場所を指す。レビュー・タイトルはその小説の名前である(聖書からの引用)。 作中作で描かれる世界もかなり醜いもので、戦争にどちらが勝とうが、作者が物質中心の世界に希望を見い出せないでいる事が分かる。その代わり精神性を重視している点が目立つ。戦勝国のドイツと日本の描写を比較すると、ドイツの政治家が醜悪に描かれるのに対し、日本人の精神性の高さが評価されている。面映い程である。特に領事の田上の武士道的精神性は殊更強調されており、作者をして「私の願いは田上氏がいつまでも記憶に残ることだ」と言わしめている。作者が、易経、禅、伊万里焼など日本、中国の研究を良くしているのにも驚かされる。そして、ユダヤ人が作ったオリジナルの装飾品に新しい世界の創造の光を見る辺り印象的である。それにしても、作中に出て来る次の短歌は英語でどうやって表現したのだろうか ? 「ホトトギス鳴きつる方を眺むればただ有明の月ぞ残れる」 もう"SF"という冠がいらない程の、物質社会への批判と精神性・創造性の重要さを説いた傑作。 | ||||
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SFから見た第二次世界大戦後の物語。 ちまたに溢れるお馬鹿なシュミレーション物とは訳が違う。 こういう設定を考え、ここまで書き込めるのはさすがにF・K・ディックだと思う。 「If」という事からSFが発想するとすれば、ここまでの作品ができるというお手本。 途中で何度もこれはSF、これは虚構と言い聞かせなければ、 どんどんディックの世界にはまり込みそうになる自分が怖くなった。 そんな事に興味はないという人は結構です。 勝手にお馬鹿で低レベルな「If戦記もの」を読んで憂さ晴らしして下さい。 | ||||
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第2次世界大戦で枢軸国側が勝利した世界。世界は日本とドイツによって二分され、アメリカ合衆国も両国に分割支配された。太平洋沿岸諸州は日本に、東岸諸州はドイツに。 日本が支配する太平洋沿岸諸州では、アメリカ人は日本人に媚びへつらい、尊敬の念すら感じており、日本人は古き良きアメリカの文化に感傷的な憧憬を抱き、その生活様式を模倣していた。 かつての尊厳と誇りを失ったかに思えたアメリカ人だったが、彼らの間で或る小説がはやっていた。その名は『蝗(いなご)身重く横たわる』。『高い城』と呼ばれる要塞のような邸宅に住むといわれるアベンゼンという作家が書いた作品で、第2次世界大戦で日本とドイツが敗れ、アメリカとイギリスが世界を二分するというその小説は、ドイツ側で発禁本とされ、日本側で大ベストセラーとなっていた。 そして、世界情勢は、再び悪化しつつあった。かつての同盟国である日本とドイツが、対立を深めつつあったのだ。平和な世界の水面下で進行していく陰謀・・・・・・ この作品では、ディックのよく用いる「本物/贋物」のテーマが頻繁に現れる。アメリカ美術工芸品のイミテーション、人種・経歴を偽る登場人物たち、偽の歴史を書く『蝗』、そして枢軸側が勝つ虚構の世界・・・・・・ そして不確実な現実を象徴する易経。ディック作品全てに言えることだが、作品の裏に隠されたメタファーを読み解くと、より興味深く読めるだろう。 眩暈にも似た強烈な現実崩壊の感覚を堪能できる傑作。1963年、ヒューゴー最優秀長篇賞受賞。ディックの作品の中では比較的読みやすく、入門としては最適だと思う。 | ||||
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まず物語の構成がすばらしい。 舞台は日本とドイツが勝利した第二次大戦後の世界。その世界では骨董品が流行っているが“偽物”も出回っていて。。。更に連合国が勝った“偽の”歴史を書いている『高い城の男』がいて。。。主人公達は取るに足らない一般市民達。みなそれぞれに悩みを抱えて生きている。彼らが別々の場所でちょっと勇気を出して他人の為に行動する事でバタン!バタン!と世界が良い方向へ。。。そして最後にはナチスの水爆の使用中止を予感させるところまで。。。読み終わって現実に戻っても物語の続きのような気がして前向きな気持ちにさせてくれます。 ディックの作品は“SF”という形をとってはいるがどれも普遍性を備えたものであり、これこそが他のSF作家と一線を画すところだと思う。本書では我々の“認識(精神)”と“物質”のどちらに本質があるのか?がテーマになっている。例えば同一成分のライターでもチャーチルが使ったものとそうでないものに価値の違いを見出す人間の精神って何なんだ?という疑問。 | ||||
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この作品を平行世界ものとする解説を見ることがあるが、 それにはあまり賛成できない。 この作品のテーマは「この歴史は本当か?」である。 ディックが描くのは真実か虚構かであり、ここかあそこかではない。 この歴史が偽物だとしたら、この世界はいったいなんなのか。 そんなめまいこそが、この作品の楽しみ方であろう。 | ||||
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「ナチが第二次大戦に勝利した世界」というのはSFとしては格好のテーマで、何冊も類似本は 出ていますが、ナチを理解した上で作った虚構の世界としては、この作品はかなり高級なレベル。 ナチが勝利して占領された合衆国で、ある作家が書いた小説は、現実社会で起きた第2次大戦の 顛末そのもので……。っていう悪夢に現実を入れ子にした構造も、妙な味わいです。 ネタばれになるのであまり書けませんが、“ナチが勝ったらそうなるだろうな…”というディテールの 悪夢っぷりが、さすがディックです。易が象徴する、東洋的なものを加えている辺りもおもしろい。 “悪魔のような奴が、真理を見抜く力や美を理解する心を持つ” “悪を倒すために、別の悪と手を組まざるをえないジレンマ” 『電気羊』や『流れよ我が涙~』などで出てきたディック的なテーマも健在。 物語の破綻も少なく、読みやすいので、意外とファンには評価が低いのかが、疑問なんですけど…。 | ||||
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予め書いておくと、私はディックによって SF に興味をもち、よってディックは大好きだ。 しかし。本書を「ディックの作品」として読む必要はないように思う。プロットとしては、第二次大戦で枢軸国側が勝利したならば、という内容の本。ディックらしい「かおり」はあちこちに埋め込まれはいるけれど、全体のプロットが大きすぎて、ディックの「かおり」を純粋に楽しむことができない。 ディックの作品の中では、比較的「読まなくても良いかな」という作品であるように思う。事実、何年か前に読んだのをすっかり忘れていての再読となった。 | ||||
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もし第二次大戦が枢軸国側の勝利に終っていたら?という歴史改変型SF。しかし、そこはそれ、ディックだけにそれだけでは終らない。この作品の世界では中国の古い占いの書『易経』が人々の行動の指針として広く普及している。主人公たちは人生に迷うたびに『易経』の卦によって将来に対する指針を決定するのだ。しかし、これにはさらに驚くべき裏話が隠されている。なんと、作者のディックは登場人物が作品中で占いを立てるたびに、実際にコインを投げ、そこで得られた卦をそのまま小説に書いていったという。小説のプロット自体が『易経』に支配されているのだ。いや、ディックらしいというか……。ディックにとって現実と幻想は同じものだったに違いない。 | ||||
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