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あなたが消えた夜に



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【この小説が収録されている参考書籍】
あなたが消えた夜に
あなたが消えた夜に (毎日文庫)

あなたが消えた夜にの評価: 3.46/5点 レビュー 50件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点3.46pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全29件 21~29 2/2ページ
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No.9:
(5pt)

「神はありや。よそ見をしているのか。」

ミステリー小説でも警察小説でもない。日本のドストエフスキーたらんとし、その可能性が十分にある作家が書いた思想的な作品である。
中村作品はドストエフスキーの『罪と罰』から最後の『カラマーゾフの兄弟』まで、五長編小説を土台に刻み込んでいる。
本作品は、特に『罪と罰』が底流に音を立てて流れている。
また、本書に採り入れられているが、旧約聖書「エゼキエル書」(十六)も参考になる。

構成は一、二、三部、エピローグとなっている。登場人物が多く、いわゆる「多声部小説(ポリフォニー)」であり、人物関係が多層的に
表現されている。作者自身の複雑な心理が各登場人物に分配されている。
「エゼキエル書」の「姦淫の女」三人を中心に物語が進展していく。
夫の暴力から身を持ち崩していく横川佐和子、精神科医から洗脳され多くの男と関係を持つ椎名めぐみ、愛に生きたいが押し通せない
科原さゆり。それぞれ不幸な出自がありもがき苦しんでいる女たちを取り巻く巷の男たち。
そして、殺人、傷害事件が数件発生する。
 警視庁のバツイチ刑事、中島(本人も出自に不幸をしょっている)とエリート女刑事、小橋が、警察組織に翻弄されながら事件解決に
奔走する。複雑な人間関係や事件の全貌は熟読しないと理解できない。
しかし、これらの事件は物語のさわりにすぎない。
 中島が過去に取り調べた男(野川)から、「人間の堕落の不思議は語れない」「真実はいつも表層に隠れる」と嫌味を言われる。
すなわち、罪を犯した人間の深層心理まで解明されようとしないで「真実」はわかりやすさの中で語られていく。
 小説の後半は「堕落の女」と男たちの関係が明らかにされ、「真実」(各登場人物の深層心理、犯罪の動機、手段等)が解明されていく。
「真実」の解明のなかで、「神の存在」について吉高亮介と椎名めぐみに語らせる。『罪と罰』のラスコーリニコフとソーニャの
ように。「だが、それで神はきみに何をしてくれた」「だって、わたし神さまの御意(みこころ)を知ることはできませんもの・・・・」
そして、予審判事のポルフィーリーがラスコーリニコフに「自殺するつもりなら告白文を数行残しておけ」と云った如く、
吉高亮介は、「あなたが消えた夜に」すなわち「あなたに見捨てられた夜」に、燃やして「天」から「神」に届くようにと「手記」
を二通残して自殺をする。「あなた」の意味は「神」であり「めぐみ」でもある。
「神はすべてを見ながら、なぜ世界は悲劇にまみれているのか」「神はよそ見をしている」と吉高に言わせる。

 神はありやなしや。人間の幸福は、小さな幸福を分かち合うことなのか、不幸をともに分かち合って生きることなのか。
一人では生きていけない。「もう一度、誰かのやしさに触れたい。生きていきたい。」と科原さゆりは中島刑事の携帯電話に
出ようとしている。
 全編を通して「愛」について、「神」について考えさせる感動的な小説である。
中村文則は『銃』からますます進化している。中島と小橋両刑事の「愛」はどうなるのだろう。
あなたが消えた夜にAmazon書評・レビュー:あなたが消えた夜により
4620108170
No.8:
(4pt)

中村ワールドの到達点

ジョン・ル・カレのスパイ小説がそうであるように、優れたエンターテイメント小説には文学の薫りが漂っている。 作者初の刑事ものである本作は、ほどよい緊張感と舞台転換が合わさって、良い出来に仕上がっている。 多分、単体としての評価は満点でも良い。 しかし、中村ワールドに親しんだ読者にとっては、大きな不満が残る。 文体に変化がないのだ。 この間の作品には、文体上の斬新さがない。 あえて文体という迷路を避けているのだろうか。
あなたが消えた夜にAmazon書評・レビュー:あなたが消えた夜により
4620108170
No.7:
(4pt)

5分の4までは、最高

魅力的。実に魅力的な謎が、次々と、これでもかと、これでもかと、襲ってくる。お決まりの人物のトラウマ、悲劇的な過去のエピソードあり。キリスト教の狂気的な雰囲気あり。主人公たちのあり得ないほどに面白い会話あり。5分の4までは、何百冊に及ぶミステリ読書歴の中でも、トップ級の面白さ。登場人物が複雑になってきたところで、初めて登場人物一覧が出るという、気配りもただただ感心! それだけに、ラスト5分の1の、脱力系解決編は、驚異的といえるほど。登場人物が次々と、なんでこんなことするんだろう? と独白するんじゃ、そりゃ、謎になるわ。犯人の心理も、作者が頑張りすぎちゃって、理解不能。感情移入不能。新聞の連載小説と知って、なるほどと。毎回、毎回、楽しませなくちゃいけないものね。でも、5分の4まで、最高に幸せな読書時間をいただけたので、星4つ。幸せな時間をありがとうございました。
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4620108170
No.6:
(5pt)

生への希求

この小説は、一つ前に出された小説「教団X」の後半とほぼ同時期に書かれており、その為いくらか互いに影響しあっているように感じる。
「教団X」の方は作者にとって最も長い長編小説となっており、大きな試みをしているためか、少々無理があるように感じたが、
この「あなたが消えた夜に」はとてもスムーズに読め、こちらの関心を捉えて放さないような強い吸引力がある。
ミステリーとしての魅力を十分に備えていながら、人の暗部や生きることへの強い希求など、人間というものの存在意義を問いかけるような強い
テーマ性を有している。

主人公といえる刑事の中島にある暗く重い罪の十字架、共に事件の捜査にあたる小橋の人生を大きく変えたつらい過去の記憶、そして事件に関わった人間たちが与えられた神の悪戯のような運命、それらのエピソードの重々しさと痛みは、私たち読者の傷の痛みを撫でていく。
最後の最後、救いようのない現実にやるせなさを感じ息苦しさを覚えたとき、最後の一行によっておそらくあなたは救われるだろう。

中村文則氏の小説には、常にほの暗い翳がつきまとう。
それは光が存在するとき、必ず存在する影のようだ。
その影が暗ければ暗いほど、光の美しさは際立つ。
人間の暗部を描けば描くほど、彼らが求める光、生への渇望が際立っていく。

私は過去、いつも「死にたい、死にたい」と考えていた。
しかし、この小説を読んで、それは逆に「生きたい、生きたい」と願っていたのかもしれないと気づかされた。
中村氏はいつも、小説のテーマに悪や孤独を置いていると感じていたが、なぜそれを執拗に描くのか考えていたのだが、
この小説を読んでいると、それは生への希求なのだと思わされた。

私は一度、氏の「何もかも憂鬱な夜に」で、この生きづらさから救われたのだが、
今回もまた、この「あなたが消えた夜に」で救われたような気がする。
氏はいつも、あとがきの最後に、「共に生きましょう」と書いてくれる。
私はいつもそれをお守りのように大切にしている。
夜に、人は朝を望む。
明けない夜はないはずだ。
私もまた、朝に向かって共に生きてみよう。
これからも、中村文則氏が書き続ける小説を読み続けよう。
あなたが消えた夜にAmazon書評・レビュー:あなたが消えた夜により
4620108170
No.5:
(4pt)

純文学とミステリの融合にして、現時点の最高峰だと思う。

読んだ。読み終えてしまった。
濃厚・濃密な時間が終わってしまった。
この作品の空気とか雰囲気に飲み込まれる時間が終わってしまった。
帯のコトバを借りる、「圧倒的人間ドラマ」でした。
これはすごい作品に出会ってしまった。
ただの人間関係を描いたものではない。
それらの背景にある登場人物の内情を精緻に絡ませたまさに「圧倒的人間ドラマ」。
今の小説の最高峰ではないか。
オンリーワン。他にこんな作家はいない。
あなたが消えた夜にAmazon書評・レビュー:あなたが消えた夜により
4620108170
No.4:
(5pt)

狂気をともなった究極の愛の姿

読み終わって表紙をながめて慄然とした。タイトルの「あなた」とは誰を指すのか。自分と同じような疎外された境遇に育ち、心を通わせられるこの世で唯一の人。わが身以上に大切に思える「あなた」に出会って、ふたりだけの愛をはぐくんできた。その「あなた」が突然この世から姿を消したときに、「私」の世界は音を立てて崩れていく。「私」は苦しみの底で狂気を帯びて彷徨うのである。

地方都市で殺人事件が起きた。コートを着た男が目撃されている。それを追うのは所轄警察署の中年バツイチ刑事と警視庁の特捜部から来た若い女刑事のペア。2人はちぐはぐなやりとりを交わしながら犯人に迫っていく。しかし、犯人を捕えたと思ったら、さらに大きな謎が立ちふさがった。コートの男は各地に現れ、模倣犯が捜査を混乱させる。自殺した医師が犯人しか知るはずのない情報を知っていた。めまぐるしい展開に読者は翻弄され、必死に追いかけるしかない。

後半に、傍流にいた意外な人物の突然の独白が始まる。この語りが本作品のクライマックスであろう。社会から疎外されて堕ちた底で結び付いた二人が、お互いを傷つけ合いながら歪んだ愛を生きようとする。家族に捨てられ、人に裏切られ、愛する人を失い、神を見失った彼らが、狂気に捉われて殺意を抱いたとしても誰が彼らを責めることができようか。人間には自分で自分をコントロールできない無意識の行動がある。人間存在の深みを描く、切なくて、哀しい物語である。

中村文則氏は「読者を異世界へ連れていく際に、警察ミステリーは有効な方法だと思います。人間の内面描写と謎解きを一体として書きました」と語っている。つまり、人間ドラマの手段としてミステリーを利用した作者は言っているのだが、この作品はミステリーとしても高い完成度を示している。前半に多数の登場人物と説明のつかない事実を次々に並べて読者を混乱させる。後半に犯人の独白で原因から結果を解明し、無関係と思われたばらばらの人物と事実が一本の線でつなげる。見事な手腕である。

作品は、現代社会の影に生きる薄幸の人々の崩れていく様を描いて究極の愛の姿を提示する。死も殺人も超越する狂おしい愛の結末を読者の眼前に突きつける。その愛を求める気持ちは、犯人を追う刑事の内面にもいつしか芽生えているのだった。ラストの携帯電話の震えの意味するところは重大である。読者はタイトルの「あなた」とは誰であるかを考え、自分にとっての「あなた」に思いをめぐらすだろう。
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4620108170
No.3:
(4pt)

みにょ

― ある町で突如発生した連続通り魔殺人事件。所轄の刑事・中島と捜査一課の女刑事・小橋は“コートの男”を追う。
しかし事件は、さらなる悲劇の序章に過ぎなかった。
“コートの男”とは何者か、誰が、何のために人を殺すのか。
翻弄される男女の運命。神にも愛にも見捨てられた人間を、人間は救うことができるのか。 ―
帯裏解説文より

心に闇を抱えた30代半ばの冴えない刑事中島と、独特の雰囲気を持つ若手女性刑事小橋を主人公に据えた著者初の警察小説。

ストーリーは小さな町に突然起こった連続通り魔事件とその犯人である“コートの男”の謎を主軸として進んでいきますが、徐々に事件が解決に近付くにつれて、隠されていたもう一つの悲話が浮かびあがる・・・とまあ、かなり大雑把にいうとそんな感じです。
ネタばれしてしまっては面白くないのでこの辺でやめておきますが、ここで特筆しておきたいのが主人公の相方として登場する女性刑事小橋さんについてです!

凄惨で悲壮感の漂う展開のなか、絶妙な間で繰り広げられる中島と小橋さんの漫才のようなやりとりには失笑必死(!?)

上昇する二匹のウナギ・・・
奇跡のようなせんべい・・・
ソバと炭酸飲料・・・
世界平和パフェ・・・
そして、「みにょ」・・・

「教団X」でもその片鱗がちらっと見えていましたが、本作ではなにかがふっ切れたように著者独特のユーモアセンスが弾け飛んでいます。
まさか中村作品でここまで笑わせられる日が来るとは、嬉しい誤算です。

これまでの作品では見られなかった展開だったのでファンにとっては賛否が分かれそうですが、個人的には大歓迎なのでぜひとも次回作以降の小橋さんの再登場を望みます!

と、なんだか小橋さん推しのレビューになってしまいましたが、作品全体としてのテーマとしては「人が人を殺すとはどういうことなのか」、あるいは「罪と罰」、「神の存在」といったこれまでの著者の作品のなかで繰り返し語られてきたことが違った角度から照らし直されており、胸の底に残る重厚さがありました。謎が明らかになっていく過程など非常に引き込まれるものがあり(ミステリーに関しては詳しくないので他の作家と比べてどうなのかよくわかりませんが)、それなりの分量も全く気にならず作品世界に没頭できました。

事件の真相に触れた手記の部分では読んでいて少々つらい箇所もあり、万人に勧められる内容ではないかと思い☆は4つにしましたが、改めて中村文則の小説のファンでいてよかったと、感じることのできる作品でした。
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4620108170
No.2:
(5pt)

ミステリーと純文学の見事な融合

デビュー作からの大ファン。
簡素ながら練りに練られた短文が完璧なまでに整然と並ぶ。
言葉の選び方、心理描写、ひとつひとつに感嘆しつつ
しかし突然、その中のあるフレーズが本の頁からふわっと浮き上がって、
心の奥の深く深くにすっと入り込み、言葉にできない感動が広がる。
そんな体験を味わいたくて、彼の作品を読み続けている。

だから、純文学からミステリーに路線が移っても気にしなかった。
彼が書くものなら、ファンタジーだろうが構わない。
ただ、近年の作品に関していうと、純粋にミステリーとして読むには、
そこまで面白くなく、彼の真骨頂である”簡素な短文の味わい”もキレがいまひとつ、
どっちつかずで中途半端なイメージが先行してしまっていた。
新たな高みを目指して、ものすごい試行錯誤を繰り返しているようにも感じられた。

そういう観点から言うと、この作品はひとつの到達点に着いたと言えるのではないだろうか。
ミステリーと純文学がバランスよく見事に融合している。
第二部の最後など、続きが読みたくてたまらなくなるミステリーの痛快さあり、
中村作品独特の(太宰っぽい)ユーモアも満載であり、
力強くブレのない筆致で描かれる登場人物の心理描写には、
(私が彼の作品を読み続けている理由でもある)心の奥深くにすっと入ってきて、
じわじわと大きく広がっていく感動と共に何度も涙ぐんだ。
”共に生きましょう”という彼の言葉がすごく好き。

最後にひとつだけ、気になることを・・・。
どの作品からかあまり記憶にないのだけれど、
”圧倒的”という修飾語をよくお使いになられます。
最初はすごくピッタリの表現だなと感じましたが、
あまりに多用されるので、感動が薄らいでしまいました。
この作品では、前半に全くその言葉が使われていなかったので、
ちょっと期待したんですけど、後半、結構連発してましたね(笑)
次回作で新たな表現に期待します!
あなたが消えた夜にAmazon書評・レビュー:あなたが消えた夜により
4620108170
No.1:
(5pt)

中村文則氏の世界。乾いていてでも湿り気を含んでいて。どっぷりはまって読み終わった。

中村文則氏の世界にどっぷりとはまった。。
どこからか、霧か、靄が湧いてきて取り囲まれてしまったような。

連続殺人事件に取り組む中年バツイチ刑事中島と、優秀な若い女性刑事小橋。
アウトローの立ち位置で、事件に取り組み始める。
犯人の特定に至る過程で、描き出される中島、小橋が大変魅力的。

人間の持っている闇であったり、弱さであったり、逃れようのない環境に適応できずにいる人々の心中が、気持ち悪くなるほど、丁重に描き出される。
作家というものは、とんでもない人種だ。

文中の太字になっている部分が、他の部分となぜ分けてあるのか、ちょっと気になった。
どこかで、作者が発言しているか、探してみたいと思っている。
あなたが消えた夜にAmazon書評・レビュー:あなたが消えた夜により
4620108170

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