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謎のクイン氏
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謎のクイン氏の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.52pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全23件 1~20 1/2ページ
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普段は聞き役に徹し、他人の人生の傍観者となることを享受していたサタースウェイト氏。 いつもどこからともなく現れるクィン氏は、そんな彼を表舞台に立たせ、彼の人間観察に長けている能力を活かすよう導いていき、謎や事件の真相に辿り着かせる…という、12篇からなる連作短編集です。 この作品はミステリーというより幻想小説と言っていいかもしれません。 クリスティの作品はポアロやマープルをはじめ沢山読んできましたが、そのどれとも毛色が違う、かなり独特の世界観がありました。 息を呑む展開や鮮やかな謎解き、真相が暴かれた時の衝撃やカタルシスなどは一切無く、全体的に淡々としていて地味な作風です。 しかしどの話にも不思議と惹き込まれる魅力があり、とても楽しめました。 こういう作品も描けるなんて、クリスティは本当に凄い作家なのだと改めて痛感しました。 | ||||
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アガサ・クリスティといえど、出来不出来はある。 これはAランク。私は中で、クルピエの心情がピタッときた。モーパッサンからアクを取ったようなーと言うか。歴史のないアメリカ的な考え方とヨーロッパ的な?人情とが、交差する。そこが面白い。 今はアメリカ的なものの見方が主流だけれど、たまにはこんな男女も心の入れておくと、人生が豊かになる気がする。 | ||||
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神秘的、詩的な雰囲気がなんとも言えない妙味を醸し出す連作短篇集。 出版年は、1930年。 1924年から1929年にかけて発表された12の短篇で構成されています。 まず目を引かれるのは、サタースウェイト氏とハーリ・クィン氏の不思議な、風変わりな関係ですね。 事件を実際に解決へと導くのはサタースウェイト氏なんだけど、事件の鍵を彼に示唆したり、さりげなく霊感やヒントを与えたりするのはハーリ・クィン氏。どこからともなく忽然と現れて、事件が解決するや、いずこへともなく去ってゆくクィン氏。その超自然的な雰囲気は全く独特で、不思議に忘れがたいキャラクターだなあと。 それと、今回久しぶりに再読してみて驚いたのは、第三話「〈鈴と道化服〉亭奇聞」に書いてあるんだけど、話の中の時間が2025年になってるんですよね。てっきり、アガサ・クリスティーがこの話を書いた1925年辺りの舞台設定だとばかり思ってたんで、かなり意表を突かれました。それが分かる箇所を、引用させていただきます。 《ハーウェル大尉の失踪が、百年前に起きたと想像してみるのです。二〇二五年の現在から、過去をふりかえりましょう》p.114 《「百年前は、白粉(おしろい)とつけぼくろの時代でした」と、彼は言った。「一九二四年は、さしずめクロスワード・パズルと天窓強盗の時代とでもいいましょうか?」》p.115 12の短篇のなかでは、第五話「クルピエの真情」と第六話「海から来た男」が気に入りました。時を超えたロマンスの香りに魅せられました。 | ||||
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ハヤカワクリスティー文庫の短篇集としては、11月からやや間が空いたが、やはり短篇集をKindleで読むと、余計に腹立たしい。 相変わらず、どの作品のどこを「メモとハイライト」や「栞」で残そうが、表示されるのは「目次」だ。添付した画像の赤丸で囲んだ箇所で、本来なら上二つが「〈鈴と道化服〉亭奇聞」、下二つが「空のしるし」と示されるべきである。【注1】 本文には換算ページも表示されないし、青空文庫ならともかくそろそろパブリック・ドメインになっても不思議でない時代の本に高い価格をつけて売ってるのだから、せめて設定くらいまともにしてほしいものだ。察するに、著者の親族などがしっかししたパテント管理会社を作っているのかも……。 加えれば、Kindleではそうそう表紙を見返すことはないが(白黒だし)、Amazonの商品ページのもの(紙の本の表紙画でもある)と違って、なぜかクリスティーの肖像写真である。(添付画像) 整理すると以下の通り。 〇電子書籍版発行……2012年6月25日 「メモとハイライト」機能……×(本文のどこにハイライトを入れても、「目次」と表記) 表紙……×(なぜか著者の肖像写真) ページ表記……×(位置No.のみ) さて、気を取り直して感想を。 本書を読んで驚愕したのは、麻耶雄嵩の『神様ゲーム』の遥か以前の推理小説黄金期の作品だというのに、事件についてなんでも知っている全能の存在が登場して、視点人物が彼と会話することで真相に気づくという構成の作品がすでに存在していたこと……。 まぁ本書の存在は、霜月蒼の『アガサ・クリスティー完全攻略 [決定版]』で知ったわけだがw ただし同書では、総論としての結論に「クリスティーは演劇だ!」があるので、それに沿うような流れ、重みづけで解説されているが、クリスティーの発想の順番は逆だと思う。 ハーリ・クィン氏が普通の人間でないことは読むほどにわかってくるが、サタースウェイト氏が彼をみて最初に感じた印象で、「クィン氏の到来は、けっして偶然ではなく、出番が来た役者が舞台に上がったようなものだった」(No.202)、や「彼がこの芝居を演出し、役者たちに出番の合図を出しているのだ」(No.206)と感じているから、まず芝居的に表現したそのあとで、高次の存在としての匂わせがあるわけだ。 自伝は読んでいないし、著者が芝居を好むようになった時期は知らないが、彼女が芝居に興味を持っていたのは間違いないところだから、かなり若い時期からであっても不思議ではない。 その著者の発想として、芝居の演出家というのは神様みたいなものだわねというのがまずあって、そこに幻想小説風の装いをさせることで、この一風変わったシリーズが生まれたと考えるのがきわめて自然だろう。 著者の長い作家人生の中では、比較的初期の作品だというのに、こんな異色作がよく書けたなと一読して驚いたのだが、このように考えると、発想自体は不思議ではないように思う。 もちろん発想の原点はともかく、作品として昇華させるお手並みはまったく別の話で、幻想味がよい方向に作用したよい短篇集だと思うが、――いつも霜月蒼を引き合いに出して恐縮だが――、彼曰く、この1930年刊行の第三短篇集が、先行の二短篇集『ポアロ登場』『おしどり探偵』と比べて、(良い意味で)まるで別人のようだと評していることには、若干の異論がある。 先行のその二冊はアマチュア気分の抜けない習作で、本書に至って出来栄えが一段進化したといった印象を読んでいて受けたが、クィン氏の初登場作品、その名も「クィン氏登場」の雑誌掲載は1924年3月号だから、『おしどり探偵』の諸作品と同時期、どころか多くの作品よりも執筆は早いだろうからである。 呼び方は探偵小説でも推理小説でも構わないが、やはり核となる「解明されるべき謎」は重要である。それが論理的に説明され切ったところにカタルシスが生じるわけだが、さすがに箇条書きで示されると味気ない。核は重要だが、作家としては、そこに何を/どのように/どれくらい装飾して提示するかというところが腕の見せ所なわけだ。 それが本書では幻想小説風の装いであり、『おしどり探偵』では他作家の探偵のパロディだということ。 霜月蒼は、推理小説好きが肯定的に使う「稚気」も、あまりに狎れあいが進めば、「幼稚」に堕すると厳しいが、そこに本質的な高低はない。 当然個別の出来不出来はあろうが、読み手の好みが大きく影響するだろう。 また著者の教養への信頼もありそうだ。 例えば、麻耶雄嵩の『翼ある闇』はトンデモな展開で、それこそバカにする読者も多いように思うが、その後の作品も鑑みて、著者の推理小説/ミステリへ傾注する努力を感じるようになれば、遡って、『翼ある闇』の感想も変わるだろう。 もっと解りやすい(かどーかw)例を挙げれば、山田風太郎の忍法小説はそれこそトンデモ設定の連続だが、著者の歴史に対する造詣の深さも伝わってくるので、好き嫌いはあれど、頭から幼稚と言われることはないだろう。 それらを援用して、霜月蒼が幼稚と書き、わたしも今ひとつ物足りなかった『ポアロ登場』や『火曜クラブ』は、若書きや頁数の問題で、「稚気」に感じられるだけの周辺武装が足りなかったのかもしれない。 なんて書いてみたが、わたしは中高生の頃に『秘密機関』や『おしどり探偵』を読んで、トミー&タペンスに親しんだので、想い出補正されているかも。今読めば霜月蒼の意見にぐぐっと傾くかもしれない……。 実際、『ポアロ登場』や『火曜クラブ』は本書よりも落ちる気がするしw つらつら考えるに――著者の作品ではないが――、『不可能犯罪捜査課』の感想で、「犯人の皆さんは「実行が不可能とは言えないので成功することもあるだろう」といったレベルで作為をする人が多過ぎる」と書いたことを思い出した。 ここを「幼稚」だと指摘することも可能なのだが、特筆すべきは、本シリーズにおいて、その指摘には次のように反論できる。 いや、因果律を調整できるのだから、そこに無理はないよw 雰囲気に対する好み以外にも、こういった理屈もあげられるかもw ところで、サタースウェスト氏は貴族ではない様だが、かなりの資産家である。 毎年冬の間はリヴィエラ【注2】で過ごし、ロンドンでの移動は運転手付きのリムジン。シーズン中は、週二日オペラハウスのボックス席をキープしている。 観察好き、世話好きとは言え、物静かでつつまし気な紳士で、彼と話すと、誰もがついいろいろ話してしまう好人物である。62歳だというから職を辞していても不思議ではないのだが、とにかく仕事をしている気配は一切ない。 彼の裕福な生活を支えているのが、植民地からのあがりである可能性はかなり高いのではww 【注1】本書が電子化された2012年当時、Kindleの機能のほうが追いついていなかったという可能性はあるかもしれない。――が、電子書籍だからこそ、パッチでアップデートできる筈。 【注2】フランスからイタリアに渡る地中海北岸の一帯。ほぼ真ん中にモナコ公国がある。 | ||||
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ミステリというかホラーというか、短編は明るくハツラツとした話が多い気がするクリスティには珍しい、ある意味らしくない、静かで落ち着いた暗いトーンの連作短編です。 しかしとても味わい深い。 | ||||
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新年をむかえた真夜中に初めて訪れるのが黒い髪の男だったら幸運が訪れる・・・。第一話はこう始まります。不思議なクイン氏が登場してさりげない質問をなげかけるだけで、過去の事件の謎がほどけていきます。第2話のミステリーが一番好きで、もの悲しい話も(特にラストの話)混じりますが、19世紀英国のムードがあるように思います。ちなみに私の好きなクリスティーは「そして誰もいなくなった」「火曜クラブ」「杉の棺」「死は容易だ」「0時間へ」「うぐいす荘」「死が最後に訪れる」「ゴルフ場殺人事件」などです。 | ||||
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この短編集は全編主人公とクィン氏が出てきますが、回を重ねるごとにクィン氏の謎が深まります。 ちょっと死の猟犬の要素も含んでいます。ゾクッとするシーンアリです。 | ||||
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初アガサでした。面白い‼️デビュー作ちょっと入りづらかったのでこっち先にしました。 | ||||
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事件が起こると突然ふっと現れ、またいつの間にか忽然と消えてしまう謎めいた存在。それがクリスティが創造した中でももっともユニークなキャラクター、ハーリ・クィンです。この人間なのか人ならざる者なのかもわからない神秘さを持つクィンと、人間観察が趣味で、芸術のパトロンを務め、社交界の著名人で、上流階級との交流が大好きという、金持ちでスノッブな老人サタースウェイトがパートナーとなって、さまざまな人間ドラマに絡んでいくのがハーリ・クィンシリーズです。 全部で14作の短編から成りますが、そのうち12作が本書に収録されています。残る2作は『愛の探偵たち』収録の「愛の探偵たち」と『マン島の黄金』収録の「クィン氏のティー・セット」。なお、サタースウェイト単身ではポアロ物の長編『三幕の殺人』と中編「死人の鏡」にも登場しています。 ミステリ作家としてのクリスティを代表する短編集は、『火曜クラブ』と『ヘラクレスの冒険』が双璧といえるでしょうが、クリスティはミステリだけではなく、純粋な恋愛小説や『死の猟犬』に代表される怪奇幻想物なども手がけています。それらを踏まえ、作家としてのクリスティを代表する短編集を挙げるとなれば、間違いなくこの『クィン氏登場』が首位の座を占めます。 ミステリ、ロマンス、怪奇幻想それぞれの要素が巧みに解けあった密度の濃いストーリー。本書の原版が発行されたのは1930年4月ですが、雑誌で発表されたのは1924~1929年にかけて。この時期は、クリスティにとってまさに人生の転機でした。 1920年に商業作家としてデビューし、1926年には『アクロイド殺し』で名声を得たものの、本格ミステリとスパイ・スリラーのどちらに軸足を置くのか答えを出せず、嫌気がさして書きたくなかったポアロ物は出版社の要請でやめることができず、さらに私生活では夫の浮気のショックで失踪事件を起こし、ついには離婚へと至ります。本書に収録されている作品は、このような時期に発表されています。 クィン物は一般に恋愛に絡んだ事件を扱うと言われますが、読めばわかるとおり、それはやや一面的な表現です。正しくは恋愛を中心とした人間の人生に関わる、というべきでしょう。謎解き要素が含まれることもありますが、それがほとんどない、単なるメロドラマのような話も含まれます。また、人生が明るい面だけではないないように、ぞっとするほど恐ろしい暗い面を覗かせるエピソードもあります。 人間の身に起こりうることで、死は最大の不幸でしょうか?――「翼の折れた鳥」より ここまでの問いを投げかけてくるクィンの前では、誰が殺したのか、どうやって殺したのか、といった問題など、遙かに卑小になってしまいます。人生とはなんなのか、幸福とは、そして人を愛することとは……。そうした普遍的なテーマをエンターテインメントに昇華させて綴っているのがハーリ・クィンの物語なのです。 以下、収録作品のレビューを初出順で記します。本書を読まれるに際しては、初読時は目次順に読まれるのがいいでしょう。ただ、再読の機会があれば、是非初出順に読まれることをお勧めします。というのは、この順番で読んでいくと、サタースウェイトが人生の傍観者から主役へと転じていく過程や、クィンがちょっと不思議な人間から神秘的で人ならざる存在へと変わっていく姿を追うことができるからです。 クィン氏登場 シリーズの進行役を担うサタースウェイトが初めてクィンと出会う話です。事件当時居合わせた人々の回想によって真相に迫ろうとするクィンのアプローチは『五匹の子豚』をはじめ、中期以後のクリスティが好んで用いたスタイルであり、疑惑がどれだけ人の心を蝕むか、というクリスティが好んで取り上げたテーマも入っています。まさにクリスティらしさが凝縮した開幕です。 窓ガラスに映る影 クリスティ作品の定番である上流階級のホームパーティに幽霊譚を組み合わせた作品。本書では少数派に属する殺人事件を扱った話で、ストーリーも一般的なミステリに近い構造です。その意味では、本書の中では異色作でしょう。クィンもまだそこまで神秘性が強くなく、自ら推理も見せます。一方、サタースウェイトはより積極性を持ち、傍観者から物語の進行役へと昇格しています。 空のしるし クィン物に関しては、本書解説にもあるように「クィンは、推理ということをしない」「彼が行なう唯一のこと、それは“示唆”です」とよくいわれますが、そのスタイルがもっとも綺麗な形で出来上がっている作品です。殺人の嫌疑をかけられた青年を救うため、サタースウェイトが奮闘します。彼が積極的な行動を見せるのはこれが初めてで、海を越え、遠くカナダまで遠征したりします。 <鈴と道化服>亭奇聞 車のトラブルで立ち往生したサタースウェイトが偶然寄った宿屋でクィンと再会。やがて2人の間で迷宮入りしてしまった不可思議な失踪事件に関する考察が始まります。巧緻なプロットを有し、クリスティならではの意外性も味わえる好編。クリスティも気に入ったのか、後の作品や『三幕の殺人』などで、この件に触れる記述が見られます。シリーズを代表する一編といえるでしょう。 クルピエの真情 冬の寒さを避けてモンテ・カルロへとやってきたサタースウェイトはカジノでクィンと出会い、ある趣向の夕食会に誘われます。その席に集まってきたのは……愛する者たちを救うという、クィンシリーズのテーマを印象的かつ美しく描いた屈指の名編。なお、ハヤカワ・ミステリ文庫版のタイトルは「ルーレット係の魂」となっていましたが、このほうがより内容に相応しいといえます。 世界の果て これもまた、実に深みのあるエピソードです。舞台は冬のコルシカ島。雪が舞う断崖絶壁の上で、些細なことから人生を狂わされた人物の救済が行われるのですが、あり得ないような偶然を運命へと変える存在としてクィンがまさに超常的な役割を果たします。バイプレイヤーながら強い存在感を見せる伯爵夫人も出色。彼女については「クィン氏のティー・セット」で言及があります。 闇の声 冒頭は陽光まばゆいカンヌ。そこから幽霊が現れる英国の屋敷へと舞台が移るにつれ、人間の業と狂気が物語に滲み出、ついには悲劇的なクライマックスへと収束していきます。全編中、怪奇色がもっとも強く出ている作品。シリーズも中盤にさしかかり、クィンは現れるだけで示唆すら与えません。サタースウェイトは完全な探偵役となり、ほぼ独力で事件の真相へとたどり着きます。 ヘレンの顔 クリスティは、類い希な美人ながら頭は空っぽ、という女性キャラクターをしばしば登場させますが、ここでのジリアンもその一人。トロイア戦争の原因になったヘレンに喩えられるほどの絶世の美女ながら、それが及ぼす影響に無知であったために事件が起こります。芸術の擁護者としてのサタースウェイトの一面が描かれると同時に、クリスティのオペラ好きも現れている作品です。 道化師の小径 この一編については、できるだけ先入観なしで読んで戴きたいため、内容には触れません。ただし、初読の際は、絶対に最後に読んでください。以降もクィン物は書かれますが、クリスティは明らかにこの作品をフィナーレと位置づけているためです。そしてここで示された結末を受け止めた後、それに対する続編として書かれた「クィン氏のティー・セット」を読まれることをお勧めします。 死んだ道化役者 芸術の守護者をもって任じるサタースウェイトがなじみの画廊を訪ねて一枚の絵を購入。その著者や友人を招いて夕食会を開いたところ、絵を譲ってほしいという者が二人も名乗り出てきます。いわくのある場所を描いた絵に隠された秘密を、当時を知る関係者の証言で解き明かしていく作品。サタースウェイトが夕食会を開く際、わざと空席を作ってクィンを待つという趣向もしゃれています。 海から来た男 「クルピエの真情」「世界の果て」に続く非ミステリタイプの人情劇で、クリスティが通俗小説から脱し、文学の域にまで入り込むことに成功した傑作。クィンシリーズが到達した、「道化師の小径」とは別の意味でのフィナーレともいえるでしょう。この作品についても詳細は伏せますので、是非ともお読みになって、深い余韻を残すラストシーンの感動を味わってみてください。 翼の折れた鳥 雑誌掲載がなく、本書用に書き下ろされた一編。クィンがなんとウィジャボードを通して事件を予告、それを受けたサタースウェイトは急遽指定された屋敷へと向かいます。そこでもまた美しい女性の存在が周囲の人々の間に不協和音を奏でており、サタースウェイトがそれを鎮めるよりも早く、殺人事件へが起きてしまいます。ラストでクィンが見せる解釈に美の残酷さが象徴されます。 ―コアなクリスティ・ファン向けの書誌情報― 【初出について】 クリスティが「どんな定期刊行物からの連載申し入れもすべてお断りしていた。(中略)わたしが書きたいと思った時だけに書きたいのである」(自伝の本書解説掲載部分より抜粋)というほど強い思い入れを抱いていただけあって、クィンシリーズの発表は規則的ではありませんでした。以下にまとめておきます。 クィンが初めて登場したのは1924年、月刊誌The Grand Magazineでした。 01_クィン氏登場__“The Grand Magazine”1924年3月号 02_窓ガラスに映る影__“The Grand Magazine”1924年10月号 03_空のしるし__“The Grand Magazine”1925年7月号 04_<鈴と道化服>亭奇聞__“The Grand Magazine”1925年11月号 不定期の掲載で、4作に1年半以上がかかっています。まさにクリスティの言う通り、書きたいときに書いていたのがわかるでしょう。続いて第5作は、海を越えて米国での発表となりました。 05_愛の探偵たち(『愛の探偵たち』収録)__米国“Flynn's Weekly”1926年10月。掲載題"At the Crossroads” この作品は、英国ではタイトルを“The Love Detectives"に変え、“The Story-Teller magazine”1926年12月号に掲載されます。以後、この雑誌がクィンの第2の活躍の場となります。 6.クルピエの真情:“The Story-Teller magazine”1927年1月号 7.世界の果て:“The Story-Teller magazine”1927年2月号 8.闇の声:“The Story-Teller magazine”1927年3月号 9.ヘレンの顔:“The Story-Teller magazine”1927年4月号 10.道化師の小径:“The Story-Teller magazine”1927年5月号 「愛の探偵たち」を含めて、6作が6号連続で連載。最初の4作と比べるとずいぶんペースが速いですが、これはこの6作で短編集を刊行する案があったためと思われます。しかし、この企画は結局実現しませんでした。 11.死んだ道化役者:“The Grand Magazine”1929年3月号 12.海から来た男:“Britannia and Eve magazine”1929年10月号 13.翼の折れた鳥:雑誌での掲載はなく、単行本“The Mysterious Mr Quin”が初出。単行本の初版発行は1930年4月14日 14.クィン氏のティー・セット(『マン島の黄金』収録):“Winter's Crimes”第3号。1971年刊行 「道化師の小径」で完結したシリーズはその後も続きます。古巣のThe Grand Magazineに戻り、次いで20~30代の女性をターゲットにしたBritannia and Eve magazine、さらに単行本での初掲載作を経て、最終14作は約40年後、1年に1号ずつ発行されていたアンソロジー、Winter's Crimesに掲載されます。このとき、クリスティは81歳になっており、生前最後に発表された短編となりました。 | ||||
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面白かったです! 事件と共に神出鬼没するクィン氏と、人生の傍観者を自称するサタースウェイト氏は、馴れ合わないけれどお互いを尊い合う、探偵コンビとしてはなかなか新鮮な関係性で、良かったです。 トリックも意表を突くものが多く、クリスティらしい大胆な構成と合間って、読んでいて飽きません。 更に今作品は、男女の愛が共通モチーフということもあり、事件解決のスッキリ感と、それだけでは割り切れない切ない余韻が、見事に一体化しています。 個人的には、「翼の折れた鳥」と「世界の果て」が印象に残りました。 特に「世界の果て」は、現題の「The world's end」にピッタリのロケーション、キャラクターの独特さ、思いも寄らないストーリー運び、ハッピーエンドなのになぜか切ないラストという作品の世界観に、どっぷりハマりました。 クリスティの中でも、かなりユニークかつハイクオリティな作品集だと思います! | ||||
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アガサ・クリスティといったら、ポワロとマープルとパインとトミーとタベンスだと思ってた。 クィンって何者よ?職業も経歴もよくわからないが踊りがうまい。 恋愛がらみの事件が起こる場所に現れ、サタースウェイトにヒントをあたえ、解決させる。 ポワロやマープル読み慣れてると驚くよ。 | ||||
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サタースウェイトの行くところにクインが現れ、クインのいるところにサタースウェイトが現れる。詳しくは諸兄の秀逸なレビューに譲るとして、私が思い浮かんだ言葉は「触媒効果」。風のように現れ消えていくクインだけでは物語は成り立たず、人生の観察者サタースウェイトだけでも成り立たない。どちらが触媒になるのかわからないが、この2人が揃った途端に事件は解決に向かう。2人でワンセットの触媒効果が、クリスティの作品群の中で独特の味わいを引き出していると思う。 | ||||
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何度も読んでいるのですが、10年ぶりにまた読みたくなり購入満足です | ||||
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アガサクリスティーの作品なのでミステリーにカテゴライズされていますが、 一種独特な雰囲気を持つ神秘的な作品です。 探偵小説として読むと、スッキリしない靄にかかったようなところもあるので、 なんだかちょっと違うかも、という感想をもたれる方もいるかもしれません。 私はこのクィンという実在するのかしないのよくかわからない 影のようなキャラクターに強く惹かれて何度も読み返しました。 何度も読んでいるうちに、その対極として登場するサタスウェイトという俗物も、 これはこれで愛すべきキャラクターだな、と思うようになりました。 派手なところや際立った推理はないのですが、 人間界と霊界をミックスしたような不思議な雰囲気がとても好きです。 | ||||
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アガサ・クリスティは長編だけでなく短編集にもすぐれたものが多いですが、 「謎のクィン氏」はその中でも個人的にはベストだと思います。 ミステリというより、恋愛をテーマにした、ロマンティックで幻想的な、純文学色の濃い作品が収められています。 「海から来た男」「ヘレンの顔」「世界の果て」「道化師の小径」が特に気に入っています。 クリスティの円熟が感じられます。 | ||||
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異色の登場人物です。 決して推理をひけらかしはしません。 しかしその指摘は、 とてつもなく的を射ているのですから。 さらに異色なのは どこからともなく、現れ、 そしてスーッと消えてしまうこと。 まさにさすらいの探偵なのです。 内容としては短編のため 表現に若干の不足が見られますが それでも、この異色の探偵の雰囲気が なんともマッチしていて読み手を不思議な世界へと 連れて行ってくれます。 数少ない、クリスティーの作品では 読めるほうの短編集です。 | ||||
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サタースウェイトとクィンが登場する短編集。12作品。 サタースウェイトは、物語の主人公である。 話によっては69歳となっている。 引退して余生を送っているので、探偵というわけではない。 クィン氏は、突然現れて消えてゆく謎の人である。 サタースウェイト氏が、事件を解決するのを誘導する質問をする。 「事実をありのままに見る」 と、見えてこなかったことが見えてくるという。 出しゃ張りのポアロに対して、 真逆の性格のようだが、 事実に対する接近方法は、似ているかもしれない。 人が思っていることの中に、回答があるという。 | ||||
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メアリ・ウェストマコット名義で書かれた一連の「愛の小説」シリーズなど、 クリスティー作品には、推理小説以外にも、味わい深い作品が多いのですが、 まちがいなく、この作品もそうだと思います。 「道化師」の名前を持ち、どこからともなく現われ、どこからともなく去っていく 不思議な人物、ハーリ・クィン氏。 ただ、あえて彼の行動に法則を求めるとするなら、 彼の現れる所、男女の愛憎ありといった所でしょうか。 私は「クィン氏登場」・「窓ガラスに映る影」・「<鈴と道化服>亭奇聞」・「クルピエの真情」・「海から来た男」・「闇の声」・「死んだ道化役者」・「翼の折れた鳥」・「道化師の小径」が気に入っています。 大人の男女の機微を描いた「クルピエの真情」、ミステリアスな女性メイベルの醸し出す雰囲気が、 ストーリー全体に独特の印象を与えたまま、衝撃の真相へと展開していく、「翼の折れた鳥」、 静かな感動を呼ぶ「海から来た男」、 衝撃的かつ、深い余韻を残す「道化師の小径」が特に印象的でした。 | ||||
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ハーリ・クィン。いつも黒い服を着ているが、カラフルな衣裳を着て仮面をかぶっているように見える男。恋愛がからんだ事件が起きると現れ、示唆をして去っていく。 彼の示唆を受けて実際に事件を解決するのがサタースウェイト。人間ドラマの観察者。芸術のパトロン。 本格ミステリとはいえないかもしれないが、不思議な魅力を持った短編集。クリスティー、と聞いたらポアロやマープルを思い浮かべる人に読んで欲しい。 | ||||
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作品全体に謎めいた雰囲気が漂うという点では「ミステリー」なのでしょうが,ポワロやマープルのような探偵や推理小説的なものを期待して読むとちょっと(私のように)がっかりするかもしれません。むしろ同じクリスティー女史の「パーカーパイン」に近い,人生とか愛情とかを扱った(と一言で片付けたくはないのですが)短編集です。 | ||||
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