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わたしを離さないで



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【この小説が収録されている参考書籍】
わたしを離さないで
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないでの評価: 4.11/5点 レビュー 714件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.11pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全550件 441~460 23/28ページ
No.110:
(5pt)

今でも本棚においてある本の一つ

本は読んだら大抵処分してしまう(欲しくなったらまた買えばいい)性分ですが、
初版で購入して以来、この本は手放せない魅力があります。
「リアリティが」とか「倫理感」とかいうコメントもありますが、
私たち通常人のメタファーと読む方が自然で意味を感じると思います。

著者自身のインタビューでも
「人の一生は私たちが思っているよりずっと短く、
限られた短い時間の中で愛や友情について学ばなければならない。
いつ終わるかも知れない時間の中でいかに経験するか。
このテーマは、私の小説の根幹に一貫して流れています。」
と答えていますし。

もし、10年後に、1年後に、もしくは明日人生がおしまいになるとしたら、
私は何を考え、何をするんだろう?
私にとって、これ以上のリアリティを感じセる小説は無いくらいです。

絶対おすすめ。☆5つ。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)Amazon書評・レビュー:わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.109:
(4pt)

消費される子供たちを描いて

寄宿舎のような閉ざされた空間で子供たちが成長して行く過程を、介護人という人物の追想で語られるストーリーです。
普通の子供たちのような学校生活が語られる中で、所々に挿入される不思議な出来事がやがて来る不幸な未来を暗示する伏線として張り巡らされています。
そして成人した彼らを待ちうける悪夢のような悲しい運命が実に淡々と描かれていました。
似たようなストーリーを他で読んだことがあるので、途中から何となく結末は予想できましたが、それでも最後まで緊張感を持って読み続けることができました。

個人的に印象に残ったのは幼少期、小学校低学年時代の主人公たちの日常です。
こうした話は、通常「大人の想像する」子供時代というフィルターを通して描かれることがほとんどなのですが、本書ではとても生々しく子供の目線で描かれてました。
そのせいか、読んでいて私自身の遠い子供時代の忘れ去ったはずの出来事がいくつも思い出されてちょっと気味が悪いくらいでした。
そう、すっかり忘れていました、子供は狭い世界の中とはいえ、大人と同じくらい色々なことを考えている生き物だということを。

訳も優れているという点もあるのかもしれませんが、不思議な雰囲気や味がありおもしろい小説だと思います。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)Amazon書評・レビュー:わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.108:
(5pt)

ネタバレできない

31歳の「介護人」キャシー・Hが「ヘールシャム」を回顧する形で展開する異質な小説。
「何」を語ろうとしているのか分からないまま、ヘールシャムでの生活や友人との交流が語られていき、この世界の中の現実に気がついた途端、心が凍り付く。

キャシー・Hの視点で、最後の最後まで「何か」をギリギリまで抑えた描き方にもかかわらず、その描いた物は強烈。
行間を読むというのではなく、小説後を読みたくなる希有な作品でした。

……ネタバレでは書きたくないので、是非ご一読を。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)Amazon書評・レビュー:わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.107:
(5pt)

わたしから離れない

カセットテープの表紙に魅かれて、単行本を選びました。
裏表紙の巻き終わったカセットテープは悲しくて耐え難く、
しかしにくい演出だと思いました。

トミーとキャシーと共に、マダムをたずねた際、同じ屋敷にいたエミリ先生の
「私達の保護下にある間は、あなた方を素晴らしい環境で育てること
―何もできなくても、それだけはしてきたつもりですよ。」
という言葉がまず、私の奥深いところをくすぐりました。

そして物語の終焉、キャシーと共に、
子どもの頃から失い続けてきたすべてのものの打ち上げられる場所、
ノーフォークを再び訪れた後、
私の中では様々な思いが湧き上がってきました。

読み手の個人史があぶりだされる一冊なのかもしれません。

読後、もう一度、第一部に戻ると、
物語の伏線に気づき、改めて作者の構成力に感嘆します。
疎ましいと感じていたトミーの癇癪が、実は“人間”性を端的に表現しており、
さらにいとおしくなります。

多感な10代の子ども達にも薦めたい。
読後に彼らが何を発するのか心に留めておきたい。

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)Amazon書評・レビュー:わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.106:
(5pt)

普段着のタイトル。でも内容は衝撃的

ただ、ただ、驚きです。
このような小説に巡り合ったことこそ僥倖と呼ぶべきだと思いました。
作者はカタカナの名前で書かれていますが、この作品は英語で書かれています。
その原文を訳した形となっています。
その訳者の方の才能でもあるのでしょうが、独特の文体になっていて、強くひかれました
フィクションでありながらとてもそう思えない不思議な作品でした。

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)Amazon書評・レビュー:わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.105:
(4pt)

じっくりと 読んでほしい

一見すると恋愛小説のようなタイトルだが、恋愛小説というわけではない。
社会派の問題提起作というわけでもないし、若者たちの切ない青春ストーリーでもない。
あるひとつの社会的な事象をテーマとしているけれど、かならずしもそのテーマに縛られない、もっとずっと広がりをもった作品だと思う。

物語は初めから終わりまで、一貫して主人公キャシーの生真面目な語り口で進んでいく。 
進むというより、明かされていくといった方がいいかもしれない。
ひとつひとつの場面は、その手触りが感じられるほど細やかに描かれている。
最後には主人公キャシーの柔らかく、少しくぐもったような声が本当に耳元で聞こえるような気さえする。
主人公たちが育ったヘールシャムの記憶や、最後の場面で登場する湿地の風景が
いつのまにか自分の中にもあることに気がついて、読み終わった後には、心が波立つような感覚を覚えた。
これは何もパラレルワールドの話ではなくて、現実に起こっていることなのかもしれない。
何かを犠牲にすることで、何かを成り立たせていく、そうした世界のあり方についていえば事実なのかもしれない。

人を愛すること、望む生き方を夢見ること、教育を受けること、自分が他者に人として認められること、
自分が他者を人として受け入れること、そんな当たり前のことができない状況にいる人たち。

私はマダムのようにそれを「かわいそう」と言って、泣くしかないのだろうか。
手を尽くしたけれど・・・・と。
この本には答えは書かれていない。
だからこそ、私は考えずにいられなかった。
キャシーやルーシー、トミーに対する共感が、そうさせたのだと思う。 

他人と自分とは違う。けれど、自分以外の人にも、自分と同じように人生があって
その価値を誰かが決めてしまうことなどできない。
キャシーやルーシーの人生も、自分のと全く同じ重さを持っている。

社会的なシステムや戦争や災害で、キャシーたちのように人生が奪われてしまう人もいる。
それは自分に及ばなければ、文字通り他人事だけど、そこに自分と全く同じような人生があったということに気がつけば、痛みを感じる。

私はそういう場面で、たとえばテレビで苦しむ人を見たとき、今まで見ないふりをしてきた。
知らなくても、私自身は生きていけることだから。自分がこうして平和に生きていられるのは、
どこかで誰かが苦しんでいるからだと、うすうす気づいていたのかもしれない。 

劇的な展開もないし、誇張された表現もない。 けれどどちらかといえば冷静すぎるほど、
淡々とした話の中で、私の心は確実にとらえられていった。

キャシーやトミーの強さは心を打つ。

エンターテイメント性はないけれど、ぜひひとつひとつの場面を想像しながら、じっくりと読んでほしい作品。


わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)Amazon書評・レビュー:わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.104:
(5pt)

内側と外側の世界の対比

カズオ・イシグロの小説は、「日の名残」とこれしか読んだことはありません。どちらも主人公の独白スタイルで、かつ非常に感情の抑制のきいた表現が独自の世界を作り上げています。このお話は、他のレビューにもあるように、パラレルワールドというか、ちょっとSF的なのですが、むしろどこにでもある青春期の心理劇なのかなという感じもあり、どちらにしても、キャシーとルースとトミーの微妙な関係がもどかしいような懐かしいような。でも、読み進むうちに、3人ともが、いや登場人物の多くが、生まれついての「使命」に支配され、成長するにつれ「使命」が日々の生活に決定的な影を落としていくことがわかります。しかし、私が一番印象的に感じた、というか絶望的に感じたのは、「使命」に翻弄されているはずの彼らの節度を保った生き方と、外の世界(=私たちにとっての日常の世界なんですが)の人々の果てしなく膨れ上がってしまった欲望とが、あまりに対照的であることです。読み終えて、まずは登場人物に感情移入して涙してしまいましたが、その後で、どちらが人生の本当の意味を知っているんだろう、と思い、考え込んでしまいました。作者がどこまで考えて書いたかわかりませんが、読めば読むほど深い世界が広がる小説です。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)Amazon書評・レビュー:わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.103:
(5pt)

頭の片隅から、絶えず「生」を問いかけてくる秀作

「何とも説明のできない本」。この作品について、そんなふうに紹介しているラジオ番組を聞き、興味を持って読み始めた。

で、読了後の結論としては「設定やあらすじは簡単に説明できるが、内容についてきちんと話をするのは難しい」というもの。

全体の雰囲気は、SFのようでもあり、あるいはミステリーの風合いもある。
内容について、ある人は臓器移植がテーマだと思うかもしれないし、別の人は誰もが抱えているエゴについて描いたものだと感じるかもしれない。
そして読み終わったあと、「だから、何?」と思う人もいるだろうし、哀しみの涙にくれる人もたくさんいる。

そういう意味では、いったい何がよかったのかといわれると非常に説明しにくい本ではあるのだが、それでも自分は、この本を誰かにすすめたい。

すべての人間は、いずれ死を迎える。
それがわかっているのに、なぜ、平静を保って生きていけるのだろう。
すべては無にかえることを知っているのに、なぜ、がんばらなくてはいけないのだろう。

この作品は、読んだ後もずっと頭の片隅に残り、自分にそんな問いかけをし続ける。
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4151200517
No.102:
(5pt)

ヘールシャム

重い読後感だった。
私はもう40歳代だけど、あと10年後、20年後に読んだら何を思うだろう。

前半部分は語られない「謎」。淡々と語られる学園(?)生活だけど、妙なずれ、違和感がある。
果たしてこの子ども達は何者で、ヘールシャムとは一体何なのか。

これはまさに、人生の初期に私が体験したことそのものだった。
大人に守られ、コントロールされて始まった歩み。何が起きているかわからないままに
草木がすくすく伸びるように、身体も心も勝手に成長していく。
自分は何者か。何を目指してここにいるのか。
やみくもに毎日、目の前の友達、学校、勉強、親と格闘しているうちに
ある日ふと高みに登って、自分の周りを見渡す瞬間が訪れる。
本書では中盤にそのことが運命、”使命”として、「保護官」から明かされる。

後半では、その宿命づけられた事実とどう向き合って生きていくか、
結論は読者それぞれに任せて、淡々と登場人物の視点で日々の暮らしが描写される。
読みながら私自身も自分の人生を再度生き直していた様な、鮮烈な読書体験だった。
読後、自分の来し方を更に上空から俯瞰しているような感覚に陥った。
たとえば、エミリー先生とルーシー先生の対立などは、日常教育育児の現場で
議論されることそのものではないか。
そして、避けられない事実を知ったときに私達は現実とどう対峙するか。
キャシーも、トミーも、ルースも、必死に足掻いた。
さて、折り合うか。戦うか。乗り越えるのか。ただただ流れに任せるか。
おそらく、どの在り方も肯定されてしかるべき、という著者の視線を感じた。

たぶん、その現実は本書のような事象ではないにしろ誰しも多かれ少なかれ持っている筈のもの。
私は本書を読んで、少し死が怖くなくなった気がする。この三人のように、静かにしていればいいのだ。

本書の優れている点は、このような人生の描写と、「謎」の中心である社会問題が
二重になって折り重なり奏でられるところだろう。
私は、本書のメインテーマはあくまで前者であり、これを鮮明に打ち出すために
この「謎」を背景に用いたのではないかと思う。
使い古されたテーマでは、既にステレオタイプな感想しか抱きにくくなってしまうから。

今読んでも素晴らしい本だけれど、10年前に読んでいたらどれだけ衝撃を受けていただろうか。
まあ、当時はまだ出版されていない訳だけれど…

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)Amazon書評・レビュー:わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.101:
(4pt)

静かに流れ、染み渡る小説

非凡な運命にあるヘールシャムの子達の人生を緩やかな語り口で主人公が回想しながら語っていく。彼らを待ち受ける運命は序盤でじわじわと明らかにされ、読者もうすうす感じていた予想と重なる。この作品は彼らの運命の是非を問うものではなく、それを静かに受け入れて生きていく主人公達の普通と変わらない牧歌的な青春期の生活を描写し、彼らの感情を丁寧緻密に描き出す。話全体が緩やかで自らの運命に抗う事無く進んで全うしてゆく彼らと同様、一本の川のように静かに流れじわりと心に波紋を与える作品。
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4151200517
No.100:
(4pt)

おもしろかった

ラストはぐんぐん読めたが、読後感がすっきりしない。「生まれてきた場所」というのに対して、イギリスに住んでいるからこいういう発想になるのかな、と思った。
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4151200517
No.99:
(5pt)

苛烈な不条理は「提供者」だけのものか

あえて抑揚を廃した文体は、かえって登場人物たちの過酷な運命を浮き彫りにしています。
登場人物たちは、生半可なメロドラマを演じているようですが、この苛烈な不条理をフレームにすると、とたんに物語に緊張感が走ります。
この小説は、臓器提供やクローン人間といった「大きな」問題に対して、仰々しく倫理的な問題提起を行うものではありません。むしろ、恋愛や自分の運命に対する関心といった「小さな」問題に焦点を当てることで、「大きな」問題を自分のものとして考える契機を与えるものです。ミリ秒単位の繊細な感情の揺らぎが、精緻な文体で描かれている―「大きな」対岸に渡るための想像力という架け橋としては、驚嘆すべきものだと思います。少なくとも、日本の現代作家で、ここまでの描写ができるものはいないのではないでしょうか。
そういう意味で、この本は一読の価値があると思います。

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4151200517
No.98:
(5pt)

倫理とか正義とか抜きにして

本書は主人公であるキャシー・Hの淡々とした独白形式で進行する。
前半は主に「ヘールシャム」という施設が舞台となる。
毎週のように行われる健康診断、交換会、販売会という行事から、明らかに通常の学校とは異質である。
また、冒頭から「提供者」「介護人」「保護官」など、本書のキーワードとなる単語が、何の説明も無しに用いられるが、読み進めるうちにそれらの意味は次第に明らかになる。
それも、主人公達が自分たちの残酷な運命を解き明かすという形をとる。

彼らは恋愛もセックスもするが、そこに輝かしい未来が無いことを悟っている。
そんな主人公達を象徴する、最も切なく印象的な台詞はトミーが放つ。
「必死でしがみついてるんだけど、結局、流れが強すぎて、かなわん。最後は手を離して、別々に流される」
倫理とか正義とか、そんなものは抜きにして、トミーが言う強い流れに身を任せるしか無い主人公達の言葉に、じっと耳を澄まして読んではいかがだろうか。

最後に、この物語が虚構であると誰もが願いたいだろうが、虚構であるという保証は、どこにも無い。
少なくとも、私はそれを知らない。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)Amazon書評・レビュー:わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.97:
(4pt)

寮暮らしを思い出す

高校時代、寮暮らしをしていた。この作品を読むと、そのころのことを思い出す。
平凡な始まりだが、読み進めるごとにどんどん話に引き込まれていく。
国籍を感じさせない不思議な空気感が好きだ。

ちなみに、この作品にかぎらず、カズオ・イシグロの作品は原文で読むことをお勧めする。
彼が描く世界や人物は、和訳で読むと何故か印象が全く変わってしまう。
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4151200517
No.96:
(4pt)

寮暮らしを思い出す

高校時代、寮暮らしをしていた。この作品を読むと、そのころのことを思い出す。
平凡な始まりだが、読み進めるごとにどんどん話に引き込まれていく。
国籍を感じさせない不思議な空気感が好きだ。

ちなみに、この作品にかぎらず、カズオ・イシグロの作品は原文で読むことをお勧めする。
彼が描く世界や人物は、和訳で読むと何故か印象が全く変わってしまう。
わたしを離さないでAmazon書評・レビュー:わたしを離さないでより
4152087196
No.95:
(4pt)

不思議な雰囲気が流れる奥の深い作品

衝撃的な作品ではある。主人公であるKathが、子供時代をすごした寄宿学校(?)のHailshamを回想する形で物語が進む。Hailshamがどんなところであるのか、彼女と友達の関係など、非常に緻密に描写されているんだけれど、「なんだか変」なことが、少しずつ少しずつわかってくる。この「不思議感」がなんとも言えない感じ。carereやdonorという言葉はしょっぱなから出てくるから、なんとなく背景が読めてくるんだけど、それが本当にいろいろなエピソードを通して、じわじわとなぞ解けてくる・・・という感じで、そのtold, but not toldという感じが、Hailshamのstudentsと同じ心理状態にされられているような既知感を覚えさせるような感じで・・・この辺り、著者の文章力なんだろうなぁと思わせられる。
物語は前半はゆっくりとした、むしろじれったい感じですすみ、後半に従ってペースがあがってきて、終盤では衝撃的な事実が待ち受けている。
暗い話で、テーマも重く、いつかこんなことがまかり通る世の中にならないともいえないってとこが、空恐ろしいかも・・・。
英語自体はそれほど難しくなく、美しいイギリス英語で、理解はし易かった。

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)Amazon書評・レビュー:わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.94:
(4pt)

廃屋のクモの巣を振り払っていくような本

世界設定が廃屋のクモの巣を払うみたいに、少しずつあきらかになっていく。腕にからんだり、なかなか払われなくてもどかしいが、先が気になる。その世界観に合わせるように、主人公は周囲の人間の気持ちを察知したり、自分の気持ちを検討したり、人間らしいまどろっこしさを持っていて、それが文章に詳細に表現されている。後半にあきらかになる事実と人間らしさがなんともいえない気持ちにさせる。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)Amazon書評・レビュー:わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.93:
(5pt)

衝撃的で繊細

Heilshamという外界から閉ざされた学校で、他の生徒たちとともに注意深く育てられたKathy、Tommy、Ruth。
彼ら三人の、友情と愛情にまつわる物語です。

衝撃的で、奇妙で、静かで、繊細な物語です。
彼らは根本的な部分で我々とは違う感覚を持っているという設定ですが、作者の細やかな描写は、ちょっとしたしぐさや動作で彼らの心の動きを丁寧に伝えてくれます。

前半は主人公Kathyが回想する、穏やかな学校での日々。
どこにでもありそうな青春物語のようで、そこに含まれる普通でない雰囲気。
やがて彼らが学校を終え、社会に出る段になって、我々は彼らを待ち受ける衝撃的な事実を知らされます。

しかし語り手である主人公Kathyはじめ、彼らは他人が決めた運命に対し、非常に冷静です。
この点が、読んでいて常に不思議な感じです。

ネタばれになるのでこれ以上は書きませんが、読み終わって、命の価値について考えざるを得ない感じです。

カズオ・イシグロの他作品に比べ、英語は非常に読みやすいです。
しかし、平易な英語で、心の動きを丹念に描写する手法はすごいの一言に尽きます。
読める人はぜひ原書でどうぞ。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)Amazon書評・レビュー:わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.92:
(4pt)

与えられた使命

どんな本?何の話?
前知識なく挑んだら、びっくりした。

ヘールシャムの子供達と同じように、
物語を読み出した時から、薄々と気付いていた。
彼らがもつ「使命」のこと、なんとなく予感はしていた。
その予感を少しずつ認識していく、既視感。

いきなり事実をつきつけられるのではなく、
薄い色から少しずつ重ねていくように、
気がつけば1枚の現実ができあがっている感じ。

生まれた時から「使命」が決定している人たち。
どんなふうに、受け入れていったんだろう。
小さな頃から、その意味も理解できない頃から、
生活の至るところから染みこんでいった、
自分たちが生まれてきた理由。

来るべき「提供」の日を、待つだけの人生なのかな?
でも、そんなふうには思えなかった。
運命に抵抗することはなくても、生きている証を探して、
もがいているように思えた。

残酷な運命を題材にしても、その静かで平坦な語り口が
この物語の独特の雰囲気を印象づけていると思う。
凄味になっていると思う。
こうも人の心をかきみだすとは。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)Amazon書評・レビュー:わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.91:
(5pt)

生命倫理

ネタバレ必須!読んでない人は読まないで!


この小説内の「提供者」というのは、健常者に臓器を提供するためだけに生まれてきたクローン人間たちのことである。つまり、我々「本当」の人間のために臓器提供を目的として生まれてきたクローンの人々の物語。この小説が恐ろしいのは、設定はSF的内容であるにもかかわらず、今我々が生きる現実は、それ自体を凌駕しようとしていることである。カズオ・イシグロは、ディテイルを書き込まず、淡々とした文体を駆使し、読者の想像力にある程度任せることで、その恐怖を増幅させる。たとえば セックスしても子供を妊娠しないという「提供者」の設定のように所々に覗く、「提供者」の不可解さが怖い。「本当」の人間が「提供者」を操作しているんじゃないか?と…。

「提供者」たちの置かれる状況は、言ってみれば映画「ブレードランナー」のレプリカントたちと同じ状況なのだけど、こちらの「提供者」たちは、「反乱」を起こそうとはしない。むしろ、その境遇を受け入れている。にもかかわらず生きる証を探そうともがく「提供者」たちは、我々となにも変わらない心を持っている。ゆえに切ない。

中身はまったく違うけど、村上龍の「半島を出よ」と同じ、今、読まなければいけない小説。現在読むことによってその衝撃を味わうことが出来ると思う。土屋政雄氏の翻訳は、非常にこなれていて翻訳調の文体と言う感じがない。とにかく考えさせられる小説。この小説が突きつける問題は非常に重い。必読。

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)Amazon書評・レビュー:わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517

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