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わたしを離さないで
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わたしを離さないでの評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.10pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全544件 441~460 23/28ページ
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カズオ・イシグロの小説は、「日の名残」とこれしか読んだことはありません。どちらも主人公の独白スタイルで、かつ非常に感情の抑制のきいた表現が独自の世界を作り上げています。このお話は、他のレビューにもあるように、パラレルワールドというか、ちょっとSF的なのですが、むしろどこにでもある青春期の心理劇なのかなという感じもあり、どちらにしても、キャシーとルースとトミーの微妙な関係がもどかしいような懐かしいような。でも、読み進むうちに、3人ともが、いや登場人物の多くが、生まれついての「使命」に支配され、成長するにつれ「使命」が日々の生活に決定的な影を落としていくことがわかります。しかし、私が一番印象的に感じた、というか絶望的に感じたのは、「使命」に翻弄されているはずの彼らの節度を保った生き方と、外の世界(=私たちにとっての日常の世界なんですが)の人々の果てしなく膨れ上がってしまった欲望とが、あまりに対照的であることです。読み終えて、まずは登場人物に感情移入して涙してしまいましたが、その後で、どちらが人生の本当の意味を知っているんだろう、と思い、考え込んでしまいました。作者がどこまで考えて書いたかわかりませんが、読めば読むほど深い世界が広がる小説です。 | ||||
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「何とも説明のできない本」。この作品について、そんなふうに紹介しているラジオ番組を聞き、興味を持って読み始めた。 で、読了後の結論としては「設定やあらすじは簡単に説明できるが、内容についてきちんと話をするのは難しい」というもの。 全体の雰囲気は、SFのようでもあり、あるいはミステリーの風合いもある。 内容について、ある人は臓器移植がテーマだと思うかもしれないし、別の人は誰もが抱えているエゴについて描いたものだと感じるかもしれない。 そして読み終わったあと、「だから、何?」と思う人もいるだろうし、哀しみの涙にくれる人もたくさんいる。 そういう意味では、いったい何がよかったのかといわれると非常に説明しにくい本ではあるのだが、それでも自分は、この本を誰かにすすめたい。 すべての人間は、いずれ死を迎える。 それがわかっているのに、なぜ、平静を保って生きていけるのだろう。 すべては無にかえることを知っているのに、なぜ、がんばらなくてはいけないのだろう。 この作品は、読んだ後もずっと頭の片隅に残り、自分にそんな問いかけをし続ける。 | ||||
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重い読後感だった。 私はもう40歳代だけど、あと10年後、20年後に読んだら何を思うだろう。 前半部分は語られない「謎」。淡々と語られる学園(?)生活だけど、妙なずれ、違和感がある。 果たしてこの子ども達は何者で、ヘールシャムとは一体何なのか。 これはまさに、人生の初期に私が体験したことそのものだった。 大人に守られ、コントロールされて始まった歩み。何が起きているかわからないままに 草木がすくすく伸びるように、身体も心も勝手に成長していく。 自分は何者か。何を目指してここにいるのか。 やみくもに毎日、目の前の友達、学校、勉強、親と格闘しているうちに ある日ふと高みに登って、自分の周りを見渡す瞬間が訪れる。 本書では中盤にそのことが運命、”使命”として、「保護官」から明かされる。 後半では、その宿命づけられた事実とどう向き合って生きていくか、 結論は読者それぞれに任せて、淡々と登場人物の視点で日々の暮らしが描写される。 読みながら私自身も自分の人生を再度生き直していた様な、鮮烈な読書体験だった。 読後、自分の来し方を更に上空から俯瞰しているような感覚に陥った。 たとえば、エミリー先生とルーシー先生の対立などは、日常教育育児の現場で 議論されることそのものではないか。 そして、避けられない事実を知ったときに私達は現実とどう対峙するか。 キャシーも、トミーも、ルースも、必死に足掻いた。 さて、折り合うか。戦うか。乗り越えるのか。ただただ流れに任せるか。 おそらく、どの在り方も肯定されてしかるべき、という著者の視線を感じた。 たぶん、その現実は本書のような事象ではないにしろ誰しも多かれ少なかれ持っている筈のもの。 私は本書を読んで、少し死が怖くなくなった気がする。この三人のように、静かにしていればいいのだ。 本書の優れている点は、このような人生の描写と、「謎」の中心である社会問題が 二重になって折り重なり奏でられるところだろう。 私は、本書のメインテーマはあくまで前者であり、これを鮮明に打ち出すために この「謎」を背景に用いたのではないかと思う。 使い古されたテーマでは、既にステレオタイプな感想しか抱きにくくなってしまうから。 今読んでも素晴らしい本だけれど、10年前に読んでいたらどれだけ衝撃を受けていただろうか。 まあ、当時はまだ出版されていない訳だけれど… | ||||
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非凡な運命にあるヘールシャムの子達の人生を緩やかな語り口で主人公が回想しながら語っていく。彼らを待ち受ける運命は序盤でじわじわと明らかにされ、読者もうすうす感じていた予想と重なる。この作品は彼らの運命の是非を問うものではなく、それを静かに受け入れて生きていく主人公達の普通と変わらない牧歌的な青春期の生活を描写し、彼らの感情を丁寧緻密に描き出す。話全体が緩やかで自らの運命に抗う事無く進んで全うしてゆく彼らと同様、一本の川のように静かに流れじわりと心に波紋を与える作品。 | ||||
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ラストはぐんぐん読めたが、読後感がすっきりしない。「生まれてきた場所」というのに対して、イギリスに住んでいるからこいういう発想になるのかな、と思った。 | ||||
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あえて抑揚を廃した文体は、かえって登場人物たちの過酷な運命を浮き彫りにしています。 登場人物たちは、生半可なメロドラマを演じているようですが、この苛烈な不条理をフレームにすると、とたんに物語に緊張感が走ります。 この小説は、臓器提供やクローン人間といった「大きな」問題に対して、仰々しく倫理的な問題提起を行うものではありません。むしろ、恋愛や自分の運命に対する関心といった「小さな」問題に焦点を当てることで、「大きな」問題を自分のものとして考える契機を与えるものです。ミリ秒単位の繊細な感情の揺らぎが、精緻な文体で描かれている―「大きな」対岸に渡るための想像力という架け橋としては、驚嘆すべきものだと思います。少なくとも、日本の現代作家で、ここまでの描写ができるものはいないのではないでしょうか。 そういう意味で、この本は一読の価値があると思います。 | ||||
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本書は主人公であるキャシー・Hの淡々とした独白形式で進行する。 前半は主に「ヘールシャム」という施設が舞台となる。 毎週のように行われる健康診断、交換会、販売会という行事から、明らかに通常の学校とは異質である。 また、冒頭から「提供者」「介護人」「保護官」など、本書のキーワードとなる単語が、何の説明も無しに用いられるが、読み進めるうちにそれらの意味は次第に明らかになる。 それも、主人公達が自分たちの残酷な運命を解き明かすという形をとる。 彼らは恋愛もセックスもするが、そこに輝かしい未来が無いことを悟っている。 そんな主人公達を象徴する、最も切なく印象的な台詞はトミーが放つ。 「必死でしがみついてるんだけど、結局、流れが強すぎて、かなわん。最後は手を離して、別々に流される」 倫理とか正義とか、そんなものは抜きにして、トミーが言う強い流れに身を任せるしか無い主人公達の言葉に、じっと耳を澄まして読んではいかがだろうか。 最後に、この物語が虚構であると誰もが願いたいだろうが、虚構であるという保証は、どこにも無い。 少なくとも、私はそれを知らない。 | ||||
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高校時代、寮暮らしをしていた。この作品を読むと、そのころのことを思い出す。 平凡な始まりだが、読み進めるごとにどんどん話に引き込まれていく。 国籍を感じさせない不思議な空気感が好きだ。 ちなみに、この作品にかぎらず、カズオ・イシグロの作品は原文で読むことをお勧めする。 彼が描く世界や人物は、和訳で読むと何故か印象が全く変わってしまう。 | ||||
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高校時代、寮暮らしをしていた。この作品を読むと、そのころのことを思い出す。 平凡な始まりだが、読み進めるごとにどんどん話に引き込まれていく。 国籍を感じさせない不思議な空気感が好きだ。 ちなみに、この作品にかぎらず、カズオ・イシグロの作品は原文で読むことをお勧めする。 彼が描く世界や人物は、和訳で読むと何故か印象が全く変わってしまう。 | ||||
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衝撃的な作品ではある。主人公であるKathが、子供時代をすごした寄宿学校(?)のHailshamを回想する形で物語が進む。Hailshamがどんなところであるのか、彼女と友達の関係など、非常に緻密に描写されているんだけれど、「なんだか変」なことが、少しずつ少しずつわかってくる。この「不思議感」がなんとも言えない感じ。carereやdonorという言葉はしょっぱなから出てくるから、なんとなく背景が読めてくるんだけど、それが本当にいろいろなエピソードを通して、じわじわとなぞ解けてくる・・・という感じで、そのtold, but not toldという感じが、Hailshamのstudentsと同じ心理状態にされられているような既知感を覚えさせるような感じで・・・この辺り、著者の文章力なんだろうなぁと思わせられる。 物語は前半はゆっくりとした、むしろじれったい感じですすみ、後半に従ってペースがあがってきて、終盤では衝撃的な事実が待ち受けている。 暗い話で、テーマも重く、いつかこんなことがまかり通る世の中にならないともいえないってとこが、空恐ろしいかも・・・。 英語自体はそれほど難しくなく、美しいイギリス英語で、理解はし易かった。 | ||||
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世界設定が廃屋のクモの巣を払うみたいに、少しずつあきらかになっていく。腕にからんだり、なかなか払われなくてもどかしいが、先が気になる。その世界観に合わせるように、主人公は周囲の人間の気持ちを察知したり、自分の気持ちを検討したり、人間らしいまどろっこしさを持っていて、それが文章に詳細に表現されている。後半にあきらかになる事実と人間らしさがなんともいえない気持ちにさせる。 | ||||
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Heilshamという外界から閉ざされた学校で、他の生徒たちとともに注意深く育てられたKathy、Tommy、Ruth。 彼ら三人の、友情と愛情にまつわる物語です。 衝撃的で、奇妙で、静かで、繊細な物語です。 彼らは根本的な部分で我々とは違う感覚を持っているという設定ですが、作者の細やかな描写は、ちょっとしたしぐさや動作で彼らの心の動きを丁寧に伝えてくれます。 前半は主人公Kathyが回想する、穏やかな学校での日々。 どこにでもありそうな青春物語のようで、そこに含まれる普通でない雰囲気。 やがて彼らが学校を終え、社会に出る段になって、我々は彼らを待ち受ける衝撃的な事実を知らされます。 しかし語り手である主人公Kathyはじめ、彼らは他人が決めた運命に対し、非常に冷静です。 この点が、読んでいて常に不思議な感じです。 ネタばれになるのでこれ以上は書きませんが、読み終わって、命の価値について考えざるを得ない感じです。 カズオ・イシグロの他作品に比べ、英語は非常に読みやすいです。 しかし、平易な英語で、心の動きを丹念に描写する手法はすごいの一言に尽きます。 読める人はぜひ原書でどうぞ。 | ||||
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どんな本?何の話? 前知識なく挑んだら、びっくりした。 ヘールシャムの子供達と同じように、 物語を読み出した時から、薄々と気付いていた。 彼らがもつ「使命」のこと、なんとなく予感はしていた。 その予感を少しずつ認識していく、既視感。 いきなり事実をつきつけられるのではなく、 薄い色から少しずつ重ねていくように、 気がつけば1枚の現実ができあがっている感じ。 生まれた時から「使命」が決定している人たち。 どんなふうに、受け入れていったんだろう。 小さな頃から、その意味も理解できない頃から、 生活の至るところから染みこんでいった、 自分たちが生まれてきた理由。 来るべき「提供」の日を、待つだけの人生なのかな? でも、そんなふうには思えなかった。 運命に抵抗することはなくても、生きている証を探して、 もがいているように思えた。 残酷な運命を題材にしても、その静かで平坦な語り口が この物語の独特の雰囲気を印象づけていると思う。 凄味になっていると思う。 こうも人の心をかきみだすとは。 | ||||
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ネタバレ必須!読んでない人は読まないで! この小説内の「提供者」というのは、健常者に臓器を提供するためだけに生まれてきたクローン人間たちのことである。つまり、我々「本当」の人間のために臓器提供を目的として生まれてきたクローンの人々の物語。この小説が恐ろしいのは、設定はSF的内容であるにもかかわらず、今我々が生きる現実は、それ自体を凌駕しようとしていることである。カズオ・イシグロは、ディテイルを書き込まず、淡々とした文体を駆使し、読者の想像力にある程度任せることで、その恐怖を増幅させる。たとえば セックスしても子供を妊娠しないという「提供者」の設定のように所々に覗く、「提供者」の不可解さが怖い。「本当」の人間が「提供者」を操作しているんじゃないか?と…。 「提供者」たちの置かれる状況は、言ってみれば映画「ブレードランナー」のレプリカントたちと同じ状況なのだけど、こちらの「提供者」たちは、「反乱」を起こそうとはしない。むしろ、その境遇を受け入れている。にもかかわらず生きる証を探そうともがく「提供者」たちは、我々となにも変わらない心を持っている。ゆえに切ない。 中身はまったく違うけど、村上龍の「半島を出よ」と同じ、今、読まなければいけない小説。現在読むことによってその衝撃を味わうことが出来ると思う。土屋政雄氏の翻訳は、非常にこなれていて翻訳調の文体と言う感じがない。とにかく考えさせられる小説。この小説が突きつける問題は非常に重い。必読。 | ||||
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悲しいお話だった。 イギリスの施設ヘールシャムで育ったキャシーが主人公。 現在キャシーは31歳で「介護人」として働いている。 物語はヘールシャムでの日々と、同じ施設で育った仲間トミーとルースを中心に語られる。 特殊な世界なのだけど、その特殊さがこの本のポイントかというとそうではない。 特殊な世界を描きながら、心を動かされるのはキャシーたちが過酷な運命に抗うことなく、嘆くことなく、ただ淡々と受け入れていくその姿勢だ。 キャシーの静かで抑制の効いた語りは、決して感情的になることなく進められる。 ああっその特殊な世界がどんなふうに特殊なのか書きたい! 書きたいけどこれから読む人に申し訳ないから書かないっ。 強いられた運命をただあるがままに受け入れるしかない彼らの悲しさ。 運命は動かしがたいのだけれど、夢を見ずにはいられない、探さずにはいられない。 そこには喜びや怒り、悲しみがたしかにあって、静かに進められるお話の中で、淡々と語られるからこそ、それがとてもとても悲しいのだ。 号泣するようなタイプの本ではないけれど、とても悲しいお話。 でも、きれいに心に残るものがある。 読み終わってしばらくはボーっとして、お話が胸にしみ込んでくるのを感じていた。 とても悲しいお話、でもぜひぜひ一読を。 | ||||
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カズオ・イシグロ著の「私を離さないで」は、物語の根底に「生命」を取り巻く問題を据えている。ところが、後半に入るまで、そのテーマに気づかされずに読まされてしまう。 主人公が子ども(生徒)であり、子どもの視点で語られる思い出話のため、懐かしさや郷愁を感じているうちに、すっかり騙されてしまうのだろう。 主人公のキャシーは、「ヘールシャム」という場所にある施設にいる生徒。 友人たちのこと、先生のこと、施設でのルールなどなどを語っていく。 「何か特別なことが隠されている」ということは滲ませるが、「謎」は、なかなか明らかにされない。正直なところ、私自身は「少し前置きが長いな」とさえ感じてしまった。 しかし、ある章が始まると、意外なほどあっさりと「謎」が明らかにされる。 目の前に掛かっていたベールが上がり、登場人物たちの世界がはっきりするのだが、そこが結末ではない。登場人物たちも知らないもう1つの「謎」が、最後の最後まで隠されているからだ。 すべてが明らかにされたとき、読者は、改めて、「生命とは?」「生きることとは?」「運命とは?」など、重いテーマと向き合わなくてはならない。 読者自身が、人生の過程で少しは考えたことがあるかもしれない哲学的なテーマだ。 物語は終わっても、主人公のキャシーの「その後」を想像させ、読者に考えさせる。 その余韻の残し方は、かなり渋い。 | ||||
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淡々と、ただひたすらに淡々とエピソードが積み重ねられていく。実際、ただそれだけの構成といってもいい。にもかかわらず、これほどまでに読み手の感情を揺さぶる物語は、ちょっと他に思いつかない。ここまで書き手の抑制が感じられる文章も珍しい。だけど、たぶん本当に凄い文章って、こんなふうだとも思う。読み終わった時、しばらく言葉もなかった。それほどまでの静かな衝撃!!! 文句なしに星5つです!!! | ||||
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この本の前に日本のかなり有名なベストセラー作家のものを読んでました。が、<わたしを離さないで>を読み始めたトタン(トタンですよ)あまりの違いにグラグラしてしまった。圧倒的な創造、構成、描写。 ヘールシャムそして施設を取り巻く風景が<よみがえった>感を抱いてしまった。 SFちっくな設定はまったく気にならないどころか何故か当たり前のように頭にはいってくるから不思議だ。 読み始めてから閉じることができず終盤を前に致し方なく倒れるように寝てしまい翌日通勤の電車で読み終えた。落涙しそうになったが懸命にこらえた。胸の中央に集まってくる感情、感動。 素晴らしい翻訳をされた翻訳者に感謝。 久しぶりに文学の喜びを享受した。 | ||||
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通常小説とはフィクションとは言うものの、その一つ一つの部分はリアルに基づいて構成される。 登場人物の職業(ステータス)もその一つだ。たとえば作家やフリーター、学生など現実に存在する職種、かつ作者自らの経験や 取材に基づいているため、そこにはかなりのリアリティがあり、読者は場面を思い浮かべ、登場人物に感情移入しやすくなる。 しかしこのフィクションはそのような類の読者の共感を拒んでいる。 というのも、「介護人」という職業は現実には存在しないからだ。 では「介護人」とは何か? この物語は言ってみれば簡単だ。 臓器提供のために作られたクローン人間が、自分たちなりに己の運命を考え、 それを受け入れながら我々と変わらない青春を謳歌していた。という話。 そして介護人とは、どうやら自分より先に提供者になった者の世話をするという仕事のようだ。 もちろん存在しない介護人経験者に取材するわけにもいかず、このような完全なるフィクションが 一人の人間の頭の中で生まれたということは、まさに奇跡としか言いようがないだろう。 いきなり「クローン人間」など出てきて、しかも出版社も早川書房だから一体どこのSFだ? と驚かれたかもしれないが、英国きっての作家だけあってテーマは非常に「文学的」になっている。 この小説のキーワードは「運命」と「奉仕」だと思う。 どうせ抗っても抗いきれずどうしようもない運命なのだから、受け入れた上で他人のために生きようじゃないか、 という現代の都会人に欠けたものをこのようなカタチで提示しているようでもある。 そういう意味で、共感しにくいはずの登場人物のはずがごく自然に共感でき、繰り広げられるリアリティに圧倒される。 カズオ・イシグロ独特の静かで抑制の効いた文体でどこかミステリアスな雰囲気をかもしながら、 物語は現代から過去の出来事を想起し、自然に現代に戻りまた昔を思い出すという、これも作者が得意とする構成により進んでいく。 文庫版には訳者あとがきも付いており、いかに丁寧に訳し上げられたかが分かる。 こころの表面的な共感や感動ではなくて、たましいの奥深いところを掴まれて震わされる傑作です。 | ||||
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奇抜な単語はほとんど使われておらず、誰もが知っている語彙の組み合わせで、これほど特殊な、しかも心を打つ世界が作り出されていることにびっくりします。 よく理解できない状態から読み始めることになると思います。謎が気になって終盤までほぼ一気に読み進み、最後は私自身、この小説の世界をすべて受け入れる気持ちになりました。基本的には、切ない内容です。人を泣かせようとするような大げさな表現は一つも使われていないのに、最後は涙が止まりませんでした。 読書からこういった感情や、生きることに対するある種の思いを得られたことは、素晴らしかったと思います。多分この本を手放すことはなく、ずっと手元に置く一冊になりそうです。 | ||||
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